松原姉弟の日常はだいたいこんな感じ / 丸山の導き 作:ぼやーりん
金曜の授業が終わり塾もないこんな日は、誰しもが来たる休日に胸を膨らませることだろう。だが、そんな花の金曜日にベッドに突っ伏して延々と言葉でない言葉を吐き出す少年の様子は、彼の姉からしてもいささか異様に映ったらしい。
「ゆ、ユウくん。どうしたの……? 何か悩んでるんだったら、相談してほしいな」
「う゛ぅ……」
そんな姉の心配もよそに、彼はまったく耳を傾けようとしない。当然である。彼がこうなっている原因の一端、いや大部分は彼女にあるのだから。
この一週間、彼女は事あるごとに彼を美咲の元へけしかけようと画策していた。しかし、アドリブに弱いこの少年がそんな機会を生かせるはずもなく、むしろ変に追い風が吹いているせいでバランスを崩してしまい、結果は惨憺たるものであった。
本来であれば、余計なことをしないでほしいと彼女を詰りたいところなのだが、如何せん、そこはシャイで初心な中学三年生。姉を相手に、誰々が好きであるとかいった態度を露骨に見せたくないのだ。
怒りたいのに怒れない。そして何より、この一週間の自分を思い出して溢れた羞恥心は行き場を失い、言葉にならぬ言葉として発散されるしかないのである。
「うーん……あっ! そういえば、今日バイトのとき彩ちゃんからこんなものもらったんだ! 」
姉がカバンの中から取り出したのは、水族館の優待券だった。それに興味を惹かれ、少しだけ気が紛れたこともあり、姉に尋ねる。
「……いちおう聞くけど、どういう経緯で? 」
「なんかね、前にパスパレのお仕事で行ったときに貰ったらしいんだけど、自分は要らないから、って。『それを使って仲良くしてね』みたいなこと言ってたけど、なんだったんだろう……? 」
水族館の優待券。たしかに、クラゲが好きな姉にはぴったりのプレゼントだと思うが、なぜそれを今ここで見せるのか。
「……わかってると思うけど、一緒には行かないよ? 姉さんのお守り大変だし。クラゲのところから動こうとしないけど、かと言って置いていくわけにもいかないから……。正直言って面倒臭い」
「ふぇぇ!? ひ、ひどいよぉ……。そ、それに、これはユウくんにあげようと思って……」
「……なぜ? 」
正直、水族館のチケットとか貰っても持て余すのだが……。そんな2人きりで水族館に行くほど仲の良い友人がいるわけでもないし……。そう、2人きりで……2人きり!?
「……いらないの? 」
「………………………………いります」
はい♪ 、とニコニコ顔で手渡された2枚のチケット。そうか、これで美咲さんを……。つまり……そういうことか!
この一週間の受難がようやく報われた気がする。
「ありがとう。これがなかったら、危うく姉さんのこと水族館の魚の餌にするとこだったよ」
「ふぇぇ!? 」
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(花音ちゃん、彼氏さんと仲直りできてると良いなぁ。そうじゃないと……うん。迂闊に地雷を踏んだら、絶対怒るよね。彼氏さんもあんなに泣かされちゃうのに、そんなの私が受けたら……うぅ! 今日も花音ちゃんはいつも通り優しかったのになぁ……。なんだか知らなくても良いことを知っちゃった気がする……)
気を利かせたつもりの丸山彩。しかし、彼女の一手は本人も予想外の方向へと舵を切り始めていた。
いいぞ丸山! お手柄だ丸山! 君の優しさは少年の心を救った——!!
オマケが本編より重要な役割を果たし始める今日この頃。