松原姉弟の日常はだいたいこんな感じ / 丸山の導き   作:ぼやーりん

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第4話

 チケットを手に入れたはいいものの、よくよく考えれば、これを美咲さんに渡すということはデートのお誘い以外の何物でもない。つまり、それは「あなたに好意があります」と伝えているようなものである。ということは……。

 

(これを受け取ってもらえなかったら脈なし……どころか、最悪の場合「うぇ……。私のこと、そんなふうに見てたんだ……」みたいな感じで急転落していくなんてことも……)

 

 いつもは姉に散々言う癖に、いざとなったら彼女もびっくりの意気地なしを発揮するこの弟。何だかんだ言いつつも、姉はやはり姉であり、弟もまたやはり弟なのであった。

 ともあれ、このチャンスを生かすことができなければ、これ以上の進展など永久に望めないだろう。だとすれば、いかに自然を装って誘うことができるかが、今回の肝である。

 

(ありきたりなのはやっぱり、貰ったはいいけど一緒にいく人がいないから、ってやつだけど……。そもそもうちにはクラゲ中毒な姉がいるし、第一そんな理由で美咲さんを誘ったら、「この子、友達いないのかな? 」とか思われそうだし……。いや、いないわけじゃないんだ。ただ、一緒に水族館に行くとか恋人みたいなことを野郎とはしたくないだけだ)

 

 だとすれば、どのように誘うのがいいのだろう。たとえば……、そうだ。美咲さんはいつも大変そうだし、労いの意味も込めて誘うというのは良い案じゃないだろうか。これなら美咲さんを誘う理由としてはぴったりだし、何より好印象を与えられるはず。

 そうと決まれば、善は急げである。姉が今日はバンドの練習があると言っていたし、終わる時間を聞いて、偶然を装った感じで会えれば——!

 

 

 

  ◇◇◇

 

 

 

 ……見えた! しかも、都合よく今は姉と美咲さんの2人しかいない。

 行くなら、今しかないだろう。

 

「あ、あれ? 姉さんに美咲さん、バンド練習お疲れ様! 」

 

「あ、あれ〜! ユウくんも今帰りなんだ、お疲れさま! 」

 

「……うん。お疲れさま」

 

 明らかに挙動不審な姉弟に、不審な目を向ける美咲。当然、あがり症の2人がそんな様子に気付くはずもない。

 

「……あー! そ、そういえば、私お母さんにおつかい頼まれてるんだった! ご、ごめんね2人とも! ばいばい!」

 

 そう言って突然駆け出していった花音。当然、そちらの方向にスーパーはない。グッジョブと思いつつも、後で探しに行かなければなと、少しげんなりする。

 

「あ、あはは。姉さん行っちゃいましたね。そ、それじゃあ僕たちも帰りましょうか! 」

 

「……あぁ、うん。そうだね」

 

 それから、足並み合わせて帰宅しつつも、会話の方は自分でも何をいっているのか正直全く頭に入ってこない。

 

「あ。それじゃ、あたしはこっちだから」

 

 ほとんど無意識的に足を動かしていたら、いつの間にか2人の帰路は分かれ道に差し掛かっていた。……切り出すならば、今しかない。

 

「——あ、あの! 美咲さん!! 」

 

「うわぁ!? ど、どうしたの? 」

 

 自分でも思った以上の大声に驚いた美咲が、まるで痙攣したように振り返った。

 

「あ……、す、すみません。それで、えっと……その……」

 

 ポケットの中のチケットを握りしめ、必死に頭の中で言葉を組み立てる。ああでもない、こうでもないと、沸騰しそうなほどに頭がぐるぐると回転している。対する美咲のほうは、何も言わずに静かに待ってくれている。だが、それを見てさらに焦った彼は、ままよとばかりに彼女にチケットを差し出して、大きく腰を折った。

 

「あ、あのよかったらこれ! 受け取ってください! 」

 

「えっと……これは水族館のチケット? その……なんで私に? 」

 

 問題ない。この返しは予想していたから、想定した通りに言えば大丈夫なはずだ!

 

「そ、その……知り合いから貰ったので! それで、美咲さんいつもハロハピの活動で大変そうでしたし、偶にはこれで息抜きしてくれたらと思って! 」

 

「……そっか。……ふふ、ありがと。それじゃあ、お言葉に甘えて。これ、受け取ってもいいかな? 」

 

「はい! どうぞ! 」

 

 心の中では狂喜乱舞であるが、それをおくびにも出さずに(と本人は思っている)美咲へとチケットを差し出す。そして、彼女はそれを受け取った。そう、2枚ごと。

 

 

 ——あれ?

 

 

「本当にありがとね。なんて言うか、けっこう周りのこと見てるんだなーって、ちょっと感心しちゃった。それに、わざわざあたしのこと心配してくれて、ちょっと嬉しかったかな? こういうところはやっぱり姉弟だね」

 

 なんと言うか、ぽかーんとしてしまって、彼女の言葉に頷くことしかできなかった。

 

「それじゃあまたね。これ、本当にありがとう」

 

 軽く手を振る美咲さんにならって、手を振り返す。自分はなぜ、こんなことをしてるんだったっけ。

 姉から迷子の連絡が来るまでの間、夕暮れに照らされる呆けた少年が、分かれ道の手前でぽつんと立ち竦んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

「……ねえユウくん、美咲ちゃんにチケットは渡せた? 」

 

「…………うん」

 

「それじゃあ、なんでそんなに落ち込んでるの……? 」

 

「…………聞かないで」

 

 

——————————

 

「あれは美咲ちゃん? それと……花音ちゃんの彼氏!? 」

 

 彩はあわてて、近くの物陰にそっと身を隠した。だが、もう遅い。彼女は見てしまったのだ。

 

(あの男の子が、何かのチケットみたいなものを美咲ちゃんに差し出していた。しかも2枚。これってつまり……、そういうことだよね!? )

 

 友人の彼氏の浮気現場(?)を目撃してしまった丸山彩。これから彼女は、2人と学校でどのように接すればいいのだろう。

 

 

やっぱり丸山! さすがだ丸山! 運命は君を愛している——!!

 




あがり症は姉譲り。だが、その優しさも姉譲り。姉弟そろって演技は下手くそ。

よかったね! これで美咲ちゃんの好感度がグーンとアップだ!

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