松原姉弟の日常はだいたいこんな感じ / 丸山の導き 作:ぼやーりん
ちょうど昼休みの花咲川女子学園、中庭で昼食をとっていた水色の少女は、隣の彼女から聞いた話に絶句していた。
「えぇ……。じゃあそれ、2枚ともユウくんから貰ったってこと……? 」
「うん。『ハロハピで大変だろうし、これでも使って休んでください』みたいな感じで。まあ、ありがたいですけど」
案の定、弟がいつも通りのヘタレを発揮していた。かと言って、ここで自分が弟と一緒に行くように頼むことは、彼自身のためにならないだろう。いつもお節介を焼いて空回っていることが多い彼女であるが、そういう部分はしっかりとお姉ちゃんなのである。それでも、さり気なく聞いてみるくらいは良いだろう。
「えーと……、それで、美咲ちゃんは誰を誘うつもりなの? 」
「もしかして……。花音さん、行きたかったりする? クラゲ大好きだし」
「う、ううん! 私は良いよ! この前もみんなで行ったばっかりだし、それに私と行ったら美咲ちゃんのお休みにならないよ」
それを聞いて美咲は安心したのか、ホッと息を吐き出す。
「……よかった。あ、べつに花音さんと一緒に行くのが嫌とか、そういうのじゃなくて。やっぱり、これは佑介くんを誘ってあげるべきかなー、って思ってたから」
「えぇー!? ユウくんを誘うの!? 」
美咲の思わぬ返答に、自分でも驚くほど大きな声が出た花音。危うく、お弁当を落としてしまうところだった。
「あ、あたしそんな驚くようなこと言いました? 」
「う、ううん! でも、ちょっとだけびっくりしたかな。……その、どうしてユウくんを? 」
だが、花音からしてみればそれぐらい驚くことであった。弟の方からならまだしも、美咲の方から彼を誘うというのはもしかすると……。
「うーん……。だって、その……、後になってから気付いたんですけど、多分これ、もともとあたしを誘おうとしてたんじゃないかなーって」
今度は驚きすぎて、何も言わずにただ首を縦に振ることしかできなかった。
「……やっぱり。その、あたしだってそこまで鈍感ではないですし、あそこまで露骨に態度に表れているとさすがに色々気づくというか……。それに、花音さんいつも不自然なくらい私と佑介くんを一緒にしようとしますし」
「ふ、ふえぇ〜……」
ごめんなさい、ユウくん。と彼女は心の中で弟に謝る。だが、それを知っていてなお、彼女が弟を誘うということはつまり……!
「で、でも美咲ちゃんのほうから誘うっていうことはつまり——! 」
「え!? ……あー、いや。別にそういう意味ではなくて」
あっさりと、弟の恋が玉砕した瞬間であった。しかも、本人の預かり知らぬところで。
「くれぐれも言っておきますけど、佑介くんのことが嫌いとかそういうのではなくて、単純にそういう目で見れないなー、と。その……、すごく良い子だとは思いますよ? 素直だし、礼儀正しいし、口では色々言いつつもお姉ちゃん想いだし。ただ、私も家では姉なので、どうしてもそういう目で見ちゃうというか。どっちかと言うと、ちょっとかわいいなーって感じですかね」
そのうえ、これはもっと悪いパターンである。脈がどうとかそういう以前に、そもそも別の枠にカテゴライズされてしまっている。完全に、彼が目指すのとは違う方向へと事態は動き出してしまった。いろんな意味で思わぬ方向音痴を発揮するあたり、やはり血は争えないのだろうか。
「とりあえず、水族館のことは私の方から聞いてみます。せっかく誘おうとしてくれたんだし、このまま知らんぷりも悪いかなー、と」
「あ、あはは。お願いします……」
これは弟には聞かせられないな、と彼も知らない失恋をそっと胸の内にしまい込む姉なのであった。
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(あぁ……、花音ちゃんと美咲ちゃんが仲良さそうにお弁当を食べてる)
今日は午後から仕事だという千聖と一緒にお昼を食べながら、彩は中庭で昼食を食べる2人を窓からそっと眺める。
(あの笑顔の下で、女同士のドロドロとした戦いが繰り広げられているかと思うと……。私はいったい、何を信じればいいんだろう……? )
「彩ちゃん、どうしたの? ……あら、どこに行ったのかと思ったら、花音は美咲ちゃんと一緒にお昼を食べていたのね」
「あ、あはは。そうだね……」
……そうだ。千聖ならば知っているのではないか? 二股(?)についてはともかく、この前の校門での喧嘩や、花音の彼氏のことについては、彼女の親友である千聖であれば何か知っているに違いない。
「ね、ねえ千聖ちゃん。花音ちゃんの——」
「花音ったら、今日も美味しそうにお弁当を食べているわね。本当に佑介くんのことが大好きなんだから」
「佑介くん」!? もしかして、それが花音の彼氏の名前!?
「ち、千聖ちゃん、それって……」
「あら、彩ちゃん知らなかったの? 花音のお弁当はいつも佑介くんが作っているのよ? 本当に家庭的よね。ちょっと羨ましいわ」
しかもまさかの、愛妻ならぬ愛夫弁当!? それに、あの千聖がここまで言うとは……。これはもしかすると……もしかするのでは!?
止まるな丸山! 自分を信じるんだ丸山! 君の世界にはまだまだ驚きが溢れているぞ——!!
そう。美咲ちゃんはそこらの鈍感系主人公とは違うのです。しかも、そこであえてユウくんを誘ってあげようという彼女の優しさが花音の心に沁みる(弟のことを思うと辛い)。
そして、
丸山の想像力は、どこまでも羽ばたいて行く!! 彼女の手にかかれば、千聖さんであろうと昼ドラばりのドロドロ展開に仲間入りだ!