エルフとヘルガスト兵   作:Casea

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単眼の巨人

 緑の生い茂る森の中を様々な装備や道具を所持した20人もの人々が歩いている。彼らは国からの依頼であるサイクロプスの討伐に向かっているのだが、とてもその様な雰囲気とは思えない。ある者は気怠そうに欠伸をし、またある者は知り合いとの会話を弾ませており周囲を警戒しながら歩いているのは数名程度しかいない。これでこの街の強者達というのだからお里が知れるというものである。強者の余裕というものも存在はするが、少なくとも彼らにそれに見合う実力があるかは疑わしい。

 その討伐へと向かう隊列の後方では苛立ちを隠そうともせず歩く大柄な男が1人。異世界から幸か不幸か連れてこられたヘルガスト兵、ジャックと名乗る男である。ヴィサリ宮殿の警備部隊に所属する程度には優秀な男ではあるが、今は何やらかなり機嫌が悪い様である。そんな虫の居所の悪い男よりも更に大きな体躯の男が彼に難癖をつけていた。次の瞬間には腕を後方に捻り上げられ地に伏していたが。その光景を少し後ろからフードを目深く被った少女が心配そうに見つめ、その横に居た2人の男が少女に小声で話しかけていた。

 

「フェルちゃん、フェルちゃん。今日ジャックの旦那かなりご機嫌斜め?」

 

「何かあったのか?」

 

「いえ、私にもさっぱりです……」

 

 フェルに話しかけたのはジェイドとゼルノアという名の、この街「ドグレイズ」で活動している傭兵コンビである。少し前からジャックとフェル、といってもほとんどフェルとだが交流している。彼らはフェルが顔を見せない様に常にフードをしている姿を見ても特に気にしていない為、彼女があまり怖がらずに接する事が出来る数少ない人間である。

 

「今朝はいつも通りだったんですけど……」

 

 今朝宿屋を出る時はいつもの通り感情の読み取れないマスク姿に落ち着いた雰囲気を醸し出していたジャックだったが、ギルドで依頼を受けてからは今の様な近寄り難い状態になっている。普段は感情をあまり表には出さない男、という印象を抱いていたフェルは怒りを露わにする今のジャックに対し怖いと思う反面少し安心していた。怒りの感情とはいえ、少なくとも他の物事に対し何の感情も抱かない氷の様な心を持つ男ではなかったのだ。彼女はそう考えていた。しかし彼女の考えとは裏腹にジャックは黒く冷たい感情を腹に納めていた。

 

(忌々しい……何故この様な連中と組まねばならんのだ……)

 

 ジャックは難癖をつけてきた男を地に叩き伏せると何事も無かったかのように歩き出し、再び苛立ちながら前へと進む。何事かと様子を窺う連中は彼のマスクの赤い目に睨まれ慌てて目を背けた。

 今現在マスク越しでも分かる位彼を苛立たせているのはこの人数と士気の低さに因るものである。ただでさえ言葉が通じず、自らの持つ武器の性質も知らない輩が味方としているなぞ彼にとっては邪魔者以外の何物でもない。しかも大量に居るだけでも腹立たしい事この上ないのに、挙句彼らの無警戒さ。敵地へと赴いているのというのにこの有様、ジャックからしてみれば常軌を逸していた。そんなジャック自身は怒りつつも周囲の警戒を怠らない程度には感情を抑えているつもりだった。「常に冷静に」を信条としていたジャックではあったがこの世界に来てからというもの湧き上がる感情を抑えられていなかった。それだけ未曾有の事態が多いのだろうがそれでも抑えが効いていない。

 

(まぁ良い……囮程度になら役立つだろう)

 

 共に依頼を受けた味方をただの捨て駒としてしか見ず、邪魔ならば纏めて撃ち殺せば良いと考えているあたり冷酷さはしっかりと持っている様子。多少の優しさは持ち合わせていても根幹はヘルガストという事である。

 

 

「おーこわ、いつものテンションで接すると痛い目見そうだなありゃ。まぁでも旦那と一緒ならサイクロプスも楽して倒せそうだな。そんで1人頭金貨2枚半は美味しいねぇ」

 

「旨い仕事なのは分かるが油断してると足下掬われるぞ、ジェイド?」

 

「へいへいっと」

 

 普段からおちゃらけた態度を崩さないジェイドと真面目で堅実なゼルノア。攻めと守り。お互いの足りない部分を上手く補い合っている2人は稼ぎも良く経験も十分な上に1度ジャックの戦い方も見ている為、ジャックからの評価もこの討伐隊の中では最上位に区分されている。

 爆発音と共に遠距離に風穴を開けるという未知の攻撃を行うジャックに興味を持つ2人だが、彼からしてもこの2人の魔法を織り交ぜた攻めと守りは興味深く、警戒はしつつもそこまで邪険には扱わず交流していた。特にフェルについてあまり詮索していないせいか彼女自身もあまり怯えていない様なので今回も当てにはしていた。多少の魔法こそ使えるものの、やはり戦う事が怖い様で魔物を見ると足が竦む事も多い。それ故にジャックは彼らが居ればフェルに気を回しながらも戦えるだろうと考えていた。

 

 

 サイクロプスの目撃情報が多い地点へと近付くと、漸く警戒を始めた討伐隊の面子。背負っていた盾を手に持つ者、戦闘に使う魔道具の確認を行う者、武器の刃を確認する者。ここだけ見れば一端の冒険者という感じである。

 警戒しながら森の中を進むと魔物のモノと思われる耳を劈く様な大きな叫び声と、それに怯え一斉に飛び立つ鳥達。サイクロプスとの戦闘を間近に皆気を引き締め更に歩みを進める。心臓の鼓動は少しずつ強くなり喉は渇く。

 

「はっ、サイクロプス如きに何震えてやがる臆病者共め! どけ!」 

 

 身体が震える者を差し置いて先程ジャックに喧嘩を吹っ掛けた馬鹿者が前へ歩み出て進んで行き、開けた場所に出た。その正面には大きな魔物が佇みこちらを睨みつけていた。

 

「たかがサイクロプス如きに20人なんざ、城の連中は何考えて――」

 

 

 精鋭10人で勝率5割と言われるサイクロプスであるが実際そこまで強い魔物ではない。確かに他の魔物を圧倒する程の怪力を持ち合わせているが動きは愚鈍で攻撃も大振り、知能もそこまで高くない上に身体が大きいが故に攻撃も当たり易く、弱点の目を潰してやれば敵は何も出来ずに討伐も楽に終わる、その程度の魔物。それを知る冒険者は楽な仕事と今回の様な余裕を見せていたのだった。そう、簡単に大金が手に入る楽な仕事と、討伐対象を見るまではそう考えていた。だが――。

 

 そこに居たのは確かに単眼の巨人ではあった。

 

「――は?」

 

 本来、サイクロプスは薄黒い緑色の肌を持つ魔物だったが今目の前に居るのはどす黒い赤色、まるで渇いた血の様な色だった。頭には目を保護する目的の鉄の兜、身体には鎧の様な物を纏い、両の手足には鎖を巻き付けていた。

 

「ふ、ふふふ、ふざ……ふざけんなぁ!! な……何で――何でクリムゾンオーガが居んだよ!?」

 

 そう叫ぶと同時に紅い巨人も威圧する様に大きな叫び声をあげた。その声は大気を震わせ、聞く者の足を竦ませた。

 

「っ!? やべぇ、伏せろ!!」

 

 ジェイドが叫ぶが先かジャックはフェルを抱え地面に伏し、次に何が起こるか理解出来た者、声にすぐさま反応出来た者は咄嗟に地面に伏せた。次の瞬間には頭の上、先程まで自分達の体があった辺りを大きな鎖が通り過ぎ、その通り道にあった全てを薙ぎ倒していった。その暴威が通り過ぎ去った後は惨憺たるものだった。声に反応出来た者は幸いにも命を拾うに至ったが、反応出来なかった者、怯えて動けなかった者はその鎖により上半身を消し飛ばされ、下半身はその勢いで遠くまで転がっていった。先陣を切って行ったあの男も含め6人の姿が消えていた。

 

「くそっ……生きてるか!? 生きてんならさっさと動け、ぼさっとしてっとあぁなっちまうぞ!!」

 

 そんな惨状に怯えて動けなくなる者や、血や内臓が降りかかってきた事により気が狂いそうになる者も居たが、ジェイドの一声で我に返りすぐに行動を開始した。しかし誰も彼も、魔物の討伐など端から目的になかった。あるのはただ1つ。

 

「こんなとこで死んでたまるかっつーの!」

 

 なんとしてもここから生きて帰る。ただそれだけだった。

 




ものすごく遅くなった上に内容があれで申し訳ないです。誰か時間と健康をください。
活動報告にも書きましたがしばらくこちらをメインに更新する予定です。
でも今回みたいに間が空いたら意味ないネ。ごめんネ。

それにしても今回は「者」が多いなぁ。


○冒険者と傭兵
冒険者は魔物を討伐し金を稼ぐ事を主としているのに対し傭兵は戦う事そのものを仕事としている為、人種だろうが魔物だろうが依頼されれば何でも相手にする人々。討伐護衛暗殺なんでもござれ。しかし人も平然と殺す者や盗賊紛いの事をする者も多く、冒険者より良いイメージを持たれていない。

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