激痛が走り全身が悲鳴を上げる。自身の体で動く場所と言えば首から上と片腕程度しかなく、外から少し、また少しと強められていく圧力に為す術も無い。そしてまた骨の数が増えたと同時に新たな苦痛が身体に生じた。今度のは折れた骨が内臓に刺さったらしく血が込み上げてくるのを感じる。どうやらこの醜い化け物は眼球に鉛玉を貰ったのが相当お冠らしく、私を一思いに殺さず嬲り殺すと決めたらしい。両の手で私を握り締め少しずつ苦痛を与えてきている。一方で潰したつもりの眼だったがどうやら再生能力があるらしく、先程まで煙を上げていた瞼の下からは既にたった1つの眼で私を見据えている。
「がぁっ……く……くははは……既に治っているなら……そこまで怒る必要も……っ……なかろうに……」
死が目前に迫っているにも拘らず自然と笑いが込み上げてくる。化け物風情が憂さ晴らしに人間様を嬲り殺しか。これには私も嘲笑を禁じ得ない。絶望的な状況の筈なのに笑ってしまうのは諦観からか、それとも自分の馬鹿さ加減からか。
侮っているつもりはなかった。いや正直に言ってしまえば楽な仕事だと考えていた。そうでなければこんな場所に彼女を連れて来る筈が無い。言葉は通じずともある程度は何を相手にするかは分かっていただろうに。辛うじて動く首で周りを見てみろ。辺り一面死体、死体、死体の山。生きているのは数人程度しか居るまい。その死体の奥で両腕で自身の体を抱き泣きながら震える少女を見るがいい。これがお前の慢心が生んだ結果だ。
放たれた弾丸は敵の皮膚を貫通しなかった。それどころか体の内側に到達すらせず筋肉に阻まれていた。
――どんなモノが相手でも通用するとでも思っていたのか? 戦車の装甲すら貫通するまいに。
武器さえあれば1人でも達成可能だと驕っていた。
――たかが歩兵1人で何が出来る? 思い上がりも甚だしい。冒険譚の英雄のつもりか。
どうやらこの世界に来てから相当腑抜けていたらしい。未知のモノを相手に慢心するとは。教官に知られれば間違いなく処刑されそうだ。そんな事を考えるとまた笑いが込み上げてくる。絶望的な状況は変わらないが幾らか思考はマシになった。今やるべき事は1つだ。泣き顔でこちらを心配そうに見つめる彼女だけでも生かして返さねばならん。
「ジェェェェイド!! ゼルノアァァァァ!!」
力を振り絞り、大声でまだ生きているであろう顔見知りの名を叫ぶ。それに答える様に巨人には見えない位置で痛みに耐えながら力なく手を上げる。幸いな事に2人ともまだ動ける様だ。意外とタフな奴ららしい。
身体と共に掴まれる事を逃れた右腕でフェルを指差し、逃げる様伝える為腕を大きく振る。それを見た2人は頷き足を引きずりながら彼女の許へと向かった。意図が通じた事に安堵する。幸いにもこの1つ目は怒りで私の事しか見えていないらしい。
「さて……これからどうしたものかね……」
この後は握り潰されるか、引き千切られるか、将又食われるか。元居た世界ではどれも経験出来そうもない死に様を思い浮かべ溜息をつく。それはそうと内臓や喉が痛む。大声で叫びすぎたか。つい先程左腕が軋み始めた事を考えるとそろそろ終わりも近いらしい。だがこのまま終わってやるつもりも毛頭無い。
PDAとガスマスクのHMDを同期してある為此方からでもPDAと同じ事が出来る。と言っても此方を使う場合視線入力を行う必要がある。これはどうも苦手であまり使っていないがこの際仕方がない。強まる圧力に耐えつつ操作していき、右腕に1つグレネードを呼び出す。此奴1つばかしで死ぬとも思えんが。
「私から貴様に最後の贈り物だ……」
マスクの半面を外し口元だけを露出させた後、グレネードのピンを咥えいざ引き抜こうとする寸前――巨人の兜に氷の塊が直撃した。楽しみを邪魔された巨人の振り向いた先には居て良い筈の無い少女。震える手で杖を持ち、息を荒立てて弱弱しい目で巨人を睨めつけている。何故お前がここに居る。第一、そんなことをすれば――。
此方の予想した通り彼女に目を付けた後、この化け物は私を見て大きく口を開けた。恐らくさっさと私を食い殺して別の獲物の許に行きたいのだろうが、そんな事は問題では無い。此奴口を開ける前に口元を歪めていた。
――嗤いやがった。
直後何の躊躇いも無くピンを咥え直し力いっぱい引き抜く。
「貴様如き醜い化け物風情がっ……! この私を……嗤うなぁぁぁぁ!!」
残された力を使って投げられたグレネードは弧を描き巨人の口へと消えていき、そして弾けた。口から血と黒煙を吹き出しながら叫び、暴れ回り、フェルの近くに私を力いっぱい投げ付けた後力なく倒れた。投げ付けられる寸前に握り締められたせいで左腕は完全に折れ曲がり内臓はぐすぐす、加えて地面に叩き付けられた衝撃で右足も折れてしまったが、最早痛覚が麻痺して何も感じない。慌てて駆け寄って来たフェルはそんな惨状の私を見て絶句し、泣きながら両手をかざし何かを呟くと淡く手の平が光っていた。何かの魔法だろうがさっぱり分からない。そんな事をしていないでさっさと逃げて欲しいものだが。
「kf……? おwqぎ……? jodwhu……!?」
しかし当の本人は何故か自分の手や私の傷口を見て錯乱しているようだった。落ち着かせる為に頭を軽く撫でてやると申し訳なさそうに頻りと何かを呟いている。
ジェイドとゼルノアも私の許へと駆け付けると、フェルは2人の腕にしがみ付き必死に何かを訴えていた。だが今はさっさとこの場を離れた方が良さそうだと考え、太腿に着けておいたレッグポーチを漁り薬液の入った無針注射器を取り出し首へと打ち込む。戦場で負傷した際に使用するものだが、ここまで重症を負って使用した事は無い為どの程度まで回復するか見当もつかない。せめて歩ける様になれば御の字ではあるが。奴が死んだかどうか分からず、挙句此方は満身創痍。直ぐにでも此処から離れて――。
どうもそう旨くはいかないらしい。巨体が立ち上がり血走った目で此方を睨みつけ一歩、また一歩と喚きながら近付き始めた。歩みの遅さを見るにまだ再生しきっていないのだろう。再びマスクのUIで武装の項目を検索していき武装を手に入れ、それを杖代わりに立ち上がる。
「死ぬ間際まで痛めつけられ……、装備はどれも使い物にならない状態にされ……、挙句更に出費を重ねる羽目になった……。全く……今日はついていな……いや、全ては己の慢心故……か」
ふら付きながらも立ち上がった私を心配して支えてくれたフェルの頭を軽く撫で筒を掲げる。意識が朦朧とし若干目が霞むものの、ギャーギャー鬱陶しく喚き散らすので寝ようにも寝られない。
「喧しい……。とっととくたばれ……」
残る力でトリガーを引くと筒の先から金属の塊の様なものが飛出し、煙をあげて巨人の頭部へと飛んで行き――当たると同時に爆発、頭を吹き飛ばした。頭を吹き飛ばされた事により命令系統を破壊された体は崩れ落ち、そのまま動かなくなった。もう生き返ってくれるな。さすがに私も今日は疲れた。緊張の糸が切れ自身も膝から崩れ落ち、慌ててフェルに抱きかかえられる。何か言っているのは聞こえるが段々と意識が薄れてきた。
「すまんな……フェル……」
危険な目に会わせた事を彼女に謝罪すると同時に私の意識は途絶えた。
「慢心は人間の最大の敵だ」とは誰の言葉だったか。少なくとも今後心に刻んでおかなければならない言葉である事は間違いない。
皆様、明けましておめで――もうすぐ2月……だと……?
年末年始で話を書き上げて投稿する予定でしたが問題が発生して投稿が大幅に遅れてしまいました……大変申し訳ございません。
今後も忙しいだろうと思われるのでまた大きく間が開くかもしれません。
ハハッ転職でもしようかしら。
ちなみに今回使用したのはVC9ロケットランチャーです。
○M194 フラグメンテーショングレネード
一般的な破片手榴弾。銅貨50枚。
○VC9 ロケットランチャー
ヴィサリコープ製のロケットランチャー。誘導性能は無い。銀貨50枚。
発射体のみは銀貨40枚。
○クリムゾンオーガ
サイクロプスと同じ様な大きさではあるが、多くの人間を襲い、食らった事によりその血中に含まれていた魔力を蓄えた事で知能・身体能力の向上、皮膚の硬化等により比べ物にならない程強くなっており、下手に挑むと命を落とす事になる。
一般人からすれば単眼の巨人=サイクロプスというイメージしかないため、討伐依頼等が出されると度々悲劇が起こる。
○視線入力
視線でモニターの操作を行う。映画版アイアンマンのスーツにもこの機能が付いていましたね。