まだ陽も登り切っていない朝方の街を疲れ切った体に活を入れ走り続ける。そろそろ5週目を終えようかというところで随分と明るくなり、街の露天商もぽつぽつと現れ始めた為宿へと足を向ける。戻りながら昨日の出来事について思考を巡らす。フェルが戻ってくるなり私にしがみ付いた。それも相当怯えてだ。彼女があそこまで怯える事があるとすれば正体がばれたか、又はその可能性があるかだ。良くも悪くも彼女の顔立ちは整っている為目深くフードを被らねば非常に目立つ。私が動けない間頻繁に外に出ていた様なので世間に顔が知れ渡っているだろう事は十分に考えられる。何か別の危険な目に遭った事も考えられるが、どちらにせよ今後の事を思えば早々に街を出るに越した事は無い。その為に昨夜治療用のアンプル剤を用いて傷を治し、衰えた筋力を取り戻すべく体を動かしている。急激に動く事は良い事ではないだろうがそうも言っていられない状況である為止むを得ない。そもこのアンプル剤自体、体への負荷が大き過ぎる為緊急時以外は使うべきではないのだ。それ故に栄養剤等を摂取する以外は自然治癒に努めていた。フェル達が連れて来たセラという老人の煎じ薬等の効果もあってか予想よりも大分早く快方に向かっていた為副作用の少ないアンプル剤で済んだのは幸いではあった。これについては彼女らに感謝している。
部屋ではまだフェルが私のベッドで静かに寝息を立てていた。可哀想に、昨夜余程精神的に負荷が掛かったのだろう。普段なら既に起きている時間帯にも拘わらず未だに眠っている。フェルの頭を撫でてやり、改めて早い内にこの街を離れようと考える。その為にも単眼との戦闘で武器やアーマー等の装備が使い物にならない状態の為すぐにも新たな物を用意する必要がある。街を出る為に必要な物も揃える必要があるが何から手を付けるか。
結局フェルが起きる前に再び宿を出て必要な物を買い漁り、戻ってくる頃には辺りは随分薄暗くなり始めていた。部屋に戻るとベッドに小山が出来ており、毛布の中から恐る恐るフェルが顔を覘かせ私だと知ると即座に抱き着いてきた。1人にされたのが怖かったのか震えていた。フェルの為と思い外へ連れ出さず部屋に残して1人で行動したが彼女には逆効果だったらしい。
(何より、彼女が今一番信頼出来るのはお前だ。起きたらまだ動けない筈の男が何処にも居ない。厄介事である自分は見捨てられたのではないか? そういう事も考えように。お前はそういった思考が出来ん様のか? 所詮はその程度の男だったか)
突如聞こえた老人の声。何時もの調子とは打って変わり随分と強い口調での刺々しい言葉の数々だ。
(貴様はここの女将に誓った筈だな、『彼女に辛い思いはさせない』と。貴様は口だけの男だったという訳か?
老人の罵声は徐々に強まり言葉遣いも荒くなっていく。これがこの男の素か。
彼女に対してはすまないとは思っている。危険な目に遭わせた事も、約束を違えた事も。私への批判も重く受け止めよう。全て私の慢心が生んだ事だ。この世界を見縊っていた、己が持つ技術を過信した。それで1人の少女すら禄に守れんとは情けない話だ。そして恐らく今後も彼女を危険に晒す事になるだろう。その様な私が彼女にしてやれる事は――。
「私の邪魔となるモノは全て排除する。彼女に仇をなす者は皆殺しにする。私に出来るのはその程度で――それこそが私の最も得意とする事だ」
(……まぁ良いだろう。その言葉、忘れるなよ)
新たに誓う言葉を聞くと以後黙ったままとなった。しかし解さない事が1つ出来た。神にも等しき存在のあの男が1人の少女に何故あそこまで入れ込む必要があるのか。何かあるのは間違いないがそれを知る術は無い故に今は考えない事にする。そんな私を心配そうに見上げる少女の頭を撫でてやり、謝罪の言葉をかけ共に食事へと向かった。
食後の風呂も共に入り、いざ就寝する際には私の布団に潜り込んで来た。初めて会った頃の、私に許可を求める様な事が少なくなったのは喜ばしい事ではあるが、震える手で私の手を握る様は素直に喜ぶ事が出来ない。私はこの手をどうすべきなのだろうか。私にとって、そして彼女にとって何が最善なのか。それを自分に問いかけながら眠りについた。
翌朝、宿の夫人も交え数日中にもこの街を去る事を地図を用いて伝えた。此方が伝えんとする事が一から十まで伝わったかどうかは分からないが、ここから北東の方角にベルーダという街がある事を教えられた。その際にフェルがそこから更に東にある森を指差しておずおずと私を見た。もしかしたらそこが彼女の生まれ故郷である可能性があるので、当面はそこを目指して旅をするが良いだろう。
午前中は装備の更新に努めた。壊れた武器は修理を行ったが、防具については破損が酷いので新調する事にした。特にアーマーは破損が酷く使い物にならない為、機能拡張も兼ねマスク等も含めて戦術兵と呼ばれる索敵能力の高い兵科の装備へと変更した。そんな様子を不思議そうにフェルが眺めていた。私の隣で。引っ付き過ぎだとは思うが恐怖心故だと考えると仕方がない。仕方がないがどうにもやりにくい。当初の目標通り私に対する怯えが抜けたのは良いが打ち解け過ぎるのも考え物である。
午後からはフェルに必要な物は無いかと色々と捜し歩いた。彼女はその間ずっと私の服の袖を握り離れない様に歩いていた。道行く人間全てが自分の正体を知っているのではないか、そう考えると気が気ではないのだろう。やはりすぐにもここを発つべきか。ここを離れれば彼女がエルフだという事を知る人間は私のみとなる。それだけで彼女の心の負担も少しは減るだろう。
「fhiれd5r! べtywaq!!」
城門が閉ざされる頃、宿へと向かうその最中後ろから突如響いた怒鳴り声に、我々も含め周囲の人間がその声の方向に目を向けた。そこに居たのは男数人を引き連れた小太りの中年。何処かで見た事があったかと思い良く見れば、この街に来た初日に私にぶつかった何時ぞやのハゲである。男の視線の先に私が居る事を考えるにこの男の怒りの矛先は私なのだろう。全く厄介な時に厄介な奴が現れたものだ。
「qぉfg7m9w!」
私に叫んだ後、今度はフェルを指差し何かを叫ぶと周囲の視線が彼女へと集中し、それと同時にフェルは私の腕にしがみ付き震え始めた。これだけでハゲが何を口走ったのか分かる。あの屑は競りの場に居た、という事は彼女の正体も知っている。
「やってくれたな……。屑の分際で私に盾突く気か……」
今この場で縊り殺してやりたいところだが状況が最悪だ。このままでは人が集まってこの場を離れられなくなる。集まってきた民衆諸共鏖殺しても良いが彼女にそれを見せるのは酷だ。別の選択肢として取り出した手榴弾のピンを引き抜き空へと放り投げる。当然人々の視線はそちらへと向き――そして空中で破裂した。そして場は一気に混乱し、それに乗じてフェルを抱えその場を離れる。放り投げたスタングレネードは屋外では殆ど意味を為さないが、そんな物の存在すら知らぬ者共にはそれすら十分だった様だ。最早この街に居るのは危険と判断し、荷物を取りに急いで宿へと向かう。そして向かう最中、そっと武器の安全装置を外した。
何かきな臭い展開。誰だこんな展開にした奴は。
今回からアーマー変更。
上級突撃兵(KZ2) → 戦術兵(KZ3)
KZ3のマルチプレイヤーにて使用可能な兵科の戦術兵の恰好になってます。
分からない方は検索して頂ければどんなのか分かるかと思います。そんなのです。
○アンプル剤
ゲーム内では時間が経つと傷が回復しますが、それについて考えてみました。
①アンプル剤による急速回復。トライガンでウルフウッドが使っている薬みたいな感じ。分かり辛い例えだ。
②ナノマシンor人体改造による傷の急速修復。武装錬金の戦部かX-MENのウルヴァリン辺り?
③未来の人はみんなそうなんだよきっと。
言うまでも無く①で進めてます。
○薬屋の爺さん
実はセラって名前でした。
○お値段
戦術兵セット 金貨10枚
修理費 武器の半値
スタングレネード 銅貨50枚