エルフとヘルガスト兵   作:Casea

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「賢者レス……まずは貴様のところからだ……」



うだうだ!

 ヴォール国王都ベルーダ。人口、面積共に不明。しかしドグレイズの倍はあろうその広大な街並みを見れば人口もそれなりである事は想像出来る。街のあちらこちらに露店が並び活気に溢れ、右を見ても左を見ても人、人、人。フェルが私に縋る様にくっつくのも無理はないが歩きにくくて敵わない。極力目立たない様にマスク等の装備は身に着けずに歩いているのに、これでは別の意味で目立ちそうである。

 街への入口は南にある門一箇所のみでそこから最北に位置する場所に王宮が存在し、そこに私が殺すべき相手であるこの国の王が居ると思われる。街に来てから1週間程が経過しており、その間街を歩き回り自分なりに情報を集めて回ったがいくつかの問題が浮上した。1つ、「殺害方法」。王は相当この街と民の為に仕事をしているらしく、この街に居る間は王宮内でほぼ1日中机に向かっているらしい。偶に街を見て回っているそうだが、変装しお忍びで回っていると爺から聞いた。稀に国外にも出るそうだが何時かも分からないものを待つ気はない。であれば殺そうと思ったら王宮内で殺す必要があるか。しかし魔法という未知数のものが存在するこの世界で果たして王に接近して殺害など可能であろうか。遠距離からの狙撃という手もあるが、如何せん私に狙撃の才はない。挙句相手は部屋に籠り切り、そこに窓が無ければ狙えもしない。仮に狙撃が可能だとしても問題がある、それが2つ目の問題である「街からの脱出」である。

 フェルの事がある為可能な限り早い内に街から出たいが、王が殺されたとなれば犯人を逃がすまいと街を封鎖する可能性が出てくる。たった1つの入口が無くなると街からの脱出が困難を極める。そして仮に狙撃をするにしても私では狙撃銃でも400メートル程の距離が限界。王宮を狙える位置から狙撃してそこから反対側の城門まで辿り着くまでに封鎖されれば終わりだ。城壁を爆破して街から出るという手もあるが、街の人間だけでなくフェルに対しても秘密裏に事を為したい。そしてそのフェルこそが3つ目の問題とも言える。彼女には知られずに完遂したいが常に共に居る故にそれも難しくなってくる。かと言ってあまり長い時間彼女を1人にはしておけない。前の街以上に人間の多いここでは、下手をすれば依存が更に強まってしまう可能性もある。

 私が知り得ていないだけでまだ問題はあるのかもしれないが、今のままでも十分八方塞がりの状態である。うだうだと悩んでいても仕方の無い事ではあるが、へまをしてこれ以上面倒事が増えるのは御免だ。

 

 夕食を終え宿の部屋に戻ってから、フェルは椅子に腰かけデグ夫人に貰った羊皮紙を見て何やら呟いている。時たま手が光っているところを見ると魔法の練習か何かだろうか。一方の私といえば対面で机に肘を付き頭を悩ませていた。私1人なら色々やり様があるが連れが1人居るだけでこれ程面倒だとは正直思わなかった。だからと言って彼女を見捨てるつもりもないが、この問題を解決しなければ私の帰還も叶わない。

 

(悩んどる悩んどる。お前さんがそこまで唸っているのを見ると逆に面白いな)

 

 いっその事願いなど叶えなくて良いから存在そのものが消滅して欲しい程に鬱陶しい。

 

(そこまで邪険にしなくても……。まぁ良い……そんなお前さんに朗報をくれてやろうと言うのだ。1週間後に「生誕祭」が催される)

 

 少し苛立ちながらも話を聞くと近い内に王の生誕祭が催されるらしい。開催期間は5日間でその間王も護衛を引き連れ街を出歩くという、勿論自身の姿でだ。そして祭りの終始には民の前で国の成り立ち等の話をするのが恒例なのだという。狙う機会は多いだろうが、いくつもの条件を満たした上での達成となると十二分に計画を練る必要がある。期限は1週間。それまでに最適解を導き出さねばならない。決意を新たに計画を練り直し始めた私を余所に、魔法で作り出した氷片が背中に入ったらしいフェルが変な悲鳴を上げていた。

 

 

 祭りの情報を得てから既に5日が経過したが未だに良い案が浮かばずにいた。祭りの最中であれば露出も増え狙うには打って付けではあるが、秘密裏に事を為す事は不可能だ。かといってこの機会を逃せば次は何時になるかも分からない。部屋の椅子に腰かけ溜息をつき眉間を揉む。気付くと外は赤く色付いており、もう1日が終わってしまったらしい。結局今日も何も浮かぶ事は無く過ぎ去り焦りが募っていく。再び大きく溜息をついたところで部屋に何かしらの違和感を感じた。少しの間考えてから漸くフェルが居ない事に気が付いた。一体何時から居なかったのか、今何処に居るのか、一瞬取り乱しかけたが彼女の持ち物に発信器を付けていた事を思い出しPDAで確認を行うと此方に近付いて来ていた。数分後、戻ってきたフェルを見てやっと落ち着きを取り戻すと同時に彼女が何か包みを抱えているのが目に入った。それを私に目の前に差し出し包みを広げると中からパンが出てきた。それを受け取ると出来立てなのかまだ温かく、ほんのり甘い香りが鼻孔をくすぐった。心配そうに私を見つめる彼女を見るに私を心配して態々買いに行ったらしい。1人で出歩く不用心さに少々憤りを覚えると同時に、心配をかけた事に対して申し訳なく感じた。しかし危険を冒してまで私を元気付けようとしてくれたのは素直に嬉しかった。フェルの頭を撫でてやりパンを半分千切り彼女に渡し共に頬張った。

 

 しかし、よく1人で出歩けたものだと寝息を立てるフェルを見て感じた。ドグレイズ以上に人が多いこの街はそれこそ彼女にとっては恐怖しかないであろうに。人が多すぎるという環境は逆に恐怖心を薄れさせたのだろうか。確かに、刺激の頻度が多ければ感覚は段々と鈍くなり、逆に滅多に無い事であれば感情の起伏も大きくなるだろうが。今回の暗殺の件でも言える事だ、生きていて見る機会があるかも分からない白昼堂々の暗殺。それも自国の王が殺されたとなれば住人は恐慌状態に陥るのは間違いない。それでは益々脱出が困難に――。

 

「違う……そうか、逆だ」

 

 頭に掛かった霧が消えていくように色々と案が浮かび始めた。また一段と腑抜けたのか、こんな簡単な事も思い浮かばずに今まで何をやっていたというのだ。だがそれに気付けたのはフェルのお陰とも言える。

 案が決まれば直ぐに実行に移す。正直時間が足りるか分からないが可能な限り準備を進めねばならない。工作を行うならばフェルが寝ている今しかないと、必要な物をかき集め宿から飛び出した。

 

 

 生誕祭当日、何とか下準備を終えて今日を迎えれた事に安堵しながら窓から外を眺めた。まだ朝も早いというのに既に多くの者達が通りで慌ただしく動いていた。商売人達が店の準備をしているのであろう。今のままでも随分と人が多く感じるがもう一時もすれば城門も開き余所から来た者達や住民で埋め尽くされる事だろう。

 少しするとフェルも目を覚ました様で眠そうに目を擦っていた。共に食事をしている間、どことなくそわついている様子が窺えた。最初は大量の人間が集まって来る事による不安かとも考えたが、多分これは祭りが楽しみなだけだと思われる。エルフは長い年月を生きる為身体の成長も個個人で異なり容姿で年齢は判断出来ないと聞いたが、こういったところを見るに彼女は見た目通りの子供なのだろうか。斯く言う私も多少気持ちの高揚はあるが。「その時」が近い事もあるが、ヘルガーンにこの様な祭事は無かった故にこの祭り自体も非常に興味深い。決行は最終日の為祭り自体は最後まで見て回る事が出来る。祭りを堪能させて貰った礼として命を奪う事となるが――運が無かったと諦めて貰う他あるまい。私自身恨みなんぞ何一つ無いが、果たさねば私の願いが叶わぬ。

 

 私はヘルガーンに戻る為であれば何だってやろう、誰だって殺そう。何人でも、如何なる偉人でも、善人でもだ。

 




に、二か月空いてしまった……御免なさい……。
次はもっと早く投稿出来る様努力します。

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