「賢者」レス
「鉄壁」グライグド・リ・ドルトリア
「不死者」ファウンリー・クラウリー
「獄炎龍」フィロフス
「裏切者」セイドリック・オズゲート
過去の文献を漁ると必ず出てくるこの6人を良く覚えておけと、奴はそう言った。
依頼を聞き悩みに悩んで待った凡そ半月、漸くこの時が訪れた。国王の宣言が始まった事をフェルに被せたヘルメットと同期されたPDAで確認し、彼女に気取られぬ様そっと部屋から出て行き予め借りておいた部屋へと向かう。部屋には既に用意しておいたVC32狙撃銃が机に置かれている。
(いよいよだな。チャンスは一度きりだ、外すなよ)
椅子に座り得物の最終確認を行っているとしゃがれかけた老人の声、何時もと違いどこか気持ちが高ぶっている様な印象を受けた。この暗殺には何かしら個人的な宿怨でもあるのだろうか。しかしながら、こうして武器の調整を行っている時が一番落ち着く。この精神状態のまま狙撃を行えれば失敗する可能性も低いだろう。
爺の言う通り、チャンスは一度しかない為弾丸を1発だけ銃に込め窓際へとテーブルを動かし上に座り込む。窓やベッドの高さが半端な為これが一番良いかと判断しての事だが果たして。窓からは近過ぎず遠過ぎず、窓から銃身が出ない様に、かつ狙える位置。立てた両膝の上に肘を置いて構え、スコープを覗き込み目標を捉える。距離は凡そ100から200メートル程度、長距離狙撃が出来ないのであれば当てられる距離でという結論に至っての事だ。王の後ろにはこの国の物と思しき国旗、お蔭で風の状態も把握し易い。障害となるものは一切ない。マスクを着けてから引金に指を掛け絶好のタイミングを待つ。
「殺す前に聞かせろ。何故この様な依頼をした」
スコープを覗きながら今回の件について問い質す。奴が言うにはあの男は聖人、神同然の男が殺せと言うにはあまりにもおかしい。疑問を残したままにするのはあまり好きではない。
(……奴は亜人排斥派の人間至上主義者だ。人間にとっては正に聖人と言える人物だが、それ以外の種族には情というものが存在しない。情けを掛ける理由も生かしておく価値も無い)
聞くところによると亜人というのは人間以外の種族、例えばフェルの様なエルフ等を表す人間側の言葉らしい。成程殺されるには十分理由がある事は理解出来た、だがしかしどこか腑に落ちない。もっと別の何かがある様な気がしてならないが所詮勘でしかない為今は頭の片隅に入れておく事にする。不得手な狙撃に集中しなければならない事もあるが。
(此方も1つ聞いておきたい。いくら殺されても仕方が無い様な輩とは言え、何の遺恨も無く、民からは必要とされている一国の王を殺害する事に躊躇はないか?)
「無い」
間髪を容れずに否定の言葉を告げる。たかが小国の王1人この世から消すだけ、そこに躊躇する理由など微塵も存在しない。むしろ所謂亜人であるフェルの現状や今後の事を考えれば始末しておいた方が彼女らの為になるというものである。そう考えると逆に生かしておく理由がない。その回答に満足したのか爺はそれ以上言葉を口にする事は無かった。
話も佳境に入ったのか王の言葉に熱が帯び始め、そして一際大きく言葉を発すると同時に民衆の歓声が沸いた。
「視覚、聴覚遮断」
声で指示を出しPDA経由でヘルメットから視覚と聴覚を奪うと息を止め引金を絞る。射撃の反動を体全体で感じるとほぼ同時に、今度は遠い場所で起こった爆発の音と振動を感じた。引金を絞ると仕掛けておいたC4爆弾のスイッチが0.8秒遅れで起動する様にセットしてある為だ。反動や揺れで少し遅れて再び目標を捉え直すが場が混乱しており結果が分からない為爺に結果を求めた。
(良くやった)
唯一言、だがそれで十分だ。直ぐにマスクを外して銃をしまい部屋へと戻る。中で混乱しているフェルを落ち着かせ、ヘルメットを受け取り荷物を集め宿から飛び出す。フェルの手を引いて走っていたが、人の多さとかかる時間を考え彼女を肩に担ぎ城門へと向かった。走る最中駄目押しにともう1つ仕掛けておいたC4を起動させると人々の悲鳴や絶叫は更に増した。これだけパニックになれば兵士共もそうそう場を収める事も城門を閉鎖する事も出来まい。フードの下でほくそ笑みながら城門へと急いだ。
誰にも、フェルにすら私が国王を殺害した事を知られる事無くこの街を無事に出る。最初は良い案が浮かばず何日も悩み続けたが、気付けば何という事は無かった。別に殺害をどれだけの人間に知られようが構わなかった、ただ私の犯行だと知られなければ良いだけの話だ。寧ろなるだけ大勢の民の前で殺害しパニックを起した方が良いくらいだった。この祭りは非常に盛大に行われる。当然街の外から来訪する人間も多い。街の人間なら家にでも逃げ込めば良いが来訪者はそうもいかない。となれば逃げる先も限られてくる。後は街に居ると危険だと感じさせる様な何かが有れば、たとえ遠くとも街の外へと出る為に1つしかない城門へと逃げる者も出てくる。それに紛れて街から出ればそれで終いだ。その為にC4爆弾を何箇所かに仕掛けて回った。殺害は狙撃のみで十分だが、パニックを起こすにはどうしても刺激が弱い。
一番の懸念はフェルだった。彼女はある程度銃に関して知識を得ている。発砲音、銃創、弾痕、etc。彼女も馬鹿ではない、何かしらの情報を与えてしまえばそこから感付かれる可能性がある。ならば見せなければ良い、聞かせなければ良い。あのヘルメットならば視覚と聴覚のどちらも遮断は出来る。その間に事を済ませれば後は混乱する彼女を連れて行くだけで済む。そして全てが上手くいった。嬉しい事に民衆の歓声のお陰で銃声もある程度掻き消されている。仮に疑念を抱いたところで私の犯行と断定出来る証拠など何一つあるまい。
街から無事に脱出し、遠く離れた位置から煙の上がる街を見る。爆破したのは北西、北東側の城壁。良い具合に兵士がそちらに割かれたお蔭で脱出は容易だった。しかし今回の事を鑑みると私には狙撃は合わないと改めて実感した。やはり私は敵に突撃し鉛玉を浴びせる方が肌に合っている。敵の目前へと迫り互いに死を感じ、殺し合う。時に喉を掻っ切り、首を圧し折りその手で殺しを実感する、やはり殺しとはそういうものでなくてはならない。そんな一般人からすれば物騒極まりない思考を展開する私にフェルがそっと腕に抱き着き不安そうに此方を見上げた。私に付き添って大分経つが、流石に大規模な爆発に耐えられる心はまだ持ち合わせていない様だ。
私達の周囲には同じく街を出て逃げてきた人々。呆然と立ち竦む者や抱き合いお互いの無事を喜び合う老齢の夫婦。私の所業による結果だが是と言って何も感じるものは無い。あるとするならばあの場に居合わせた自分を呪うが良い、そんな程度だ。それに亜人嫌いの王の許で暮らす奴等だ、そういった輩だろう。どうなろうと私の関知するところではない。
フェルの頭を撫でた後荷物を抱え東へと歩き始める。目的地はここより凡そ400キロメートルに位置する場所に存在すると思われるフェルの故郷。縮尺が不確かな地図から導き出された距離である為正しいかどうかも不明ではあるが、向かう必要がある以上行くしかあるまい。
街からそれなりに離れ周囲に誰も居ない事を確認し本来の装備を身に着ける。戦闘服に腕を通し、アーマーや他の装備を身に着けていく。その様を眺めるフェルは少し嬉しそうに見えた。彼女としてもこの格好の方が好ましいのだろうか。最後にヘルメットとマスクを装備し起動させ視界を確保する。
「よし……フェル、行くぞ」
荷物を背負い再び歩き始める。時に厄介事に見舞われる事であろうが、その全てを薙ぎ倒しながら歩き続けよう。長い長い距離を2人で、共に。
~Fin~
嘘ですごめんなさい。
知識に乏しい故唯でさえ短い狙撃描写で変な所があるかもしれません。変な所はどんどん指摘して私に知識を与えてくださいお願いします。
加えて色々調べてみるとヘルメットとかの場合だとHUDというよりもHMD(ヘッドマウントディスプレイ)というのでしょうか。とりあえず何話かのHUDをHMDへと変更。
詳しい方お知恵をお貸しくださいお願いします何でもしますから。
○VC32 スナイパーライフル
ヴィサリコープ社製狙撃銃。スコープ倍率は×2、×8。金貨1枚。
この倍率で見るとどんな感じなのだろうとライフルのスコープだけ買ってみました。
倍率は3-9ですけどね。
中々面白いけど外で使うと不審者扱いされかねない。ウゴゴ。
長くなりましたが最後に。
まだ分かりませんが年内の更新がこれで最後になるかもしれません。
頑張って書く予定ですがどうなりますやら。