エルフとヘルガスト兵   作:Casea

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「……お、おおお俺の……俺の! 妻となってください!!」

(何だこの馬鹿は……)



ばか!

 フェルの故郷へと向かう道すがら、ある村の宿屋の一室。上半身裸の私の胡座の上に一糸纏わぬ姿の彼女を乗せ、後ろから腹に手を回す形で抱き締めている。といっても別に性的な行いをしているわけではない。傍から見ればどう思われるかは言わずもがなであるが。

 ベルーダを出てから3週は経っただろうか。順調に旅を続け、目的地まで凡そ50キロメートルを切った辺りで豪雨に襲われた。普段であれば空の様子を見て判断しそれなりに備えているが、今回はその時間も無く盛大に降られてしまった。濡れ鼠になりながら2人で雨宿りできる所を探して走っている最中ふと思ったのだが、雨除けを行ったり、服に防水効果の膜を張る等魔法でどうにか出来ないものなのだろうか。魔法は私が考えている程何でも便利に出来るわけではないのかもしれない。

 少しの間雨除けに良い場所を求め走っていて何とかこの村に辿り着いた。村自体はそれ程規模の大きなものではなかったが旅人の休憩地となっているのか宿は何件か存在しており、何処も満室の様で最後の一軒で漸く1人部屋を借りる事が出来た。

 そして現在、部屋の小さな暖炉で服を乾かしつつ、ほんのりと湿り冷えた肌を寄せ合い互いに温め合う形をとっている。フェルは若干恥ずかしいのか顔を真っ赤にしているが、目的地を目前にして風邪を引かれてこの村に数日留まる、何て事は御免なので大人しく抱かれていてもらう。しかし長旅で疲れたのか一刻程もすれば私の手に自身の手を重ねたまま寝息を立て始めてしまった。

 

 

「それで? 以前言っていた6人を覚えておく必要性は何だ」

 

 身体も温まっただろうと1つしかないベッドにフェルを移し爺に以前に聞いた者達について尋ねる事にした。「騎士王」、「賢者」、「鉄壁」、「不死者」、「獄炎龍」、「裏切者」だっただろうか。

 

(そうだな……簡単にだがそれらの者について話しておこう)

 

 まずはこの6人は数百年以上前の人間と魔族との間で起こった戦争に参加していた者達の名前らしい。

 「騎士王」アレイク・ヴェルドルス。人間側で参加した大国の1つの王子であり、自ら前線に出て戦う騎士である事から付いた通称だそうな。戦士としての実力も高く多くの魔族を葬ったとされる。

 「賢者」レス。様々な属性の魔法を使用し、治癒魔法を生み出したとされる男。その功績故に魔族から最も嫌われている人物。

 「鉄壁」グライグド・リ・ドルトリア。アレイクとは別の国の貴族の大男で、超硬石と呼ばれる非常に重く硬い金属で作られた全身鎧で身を覆いながらも常人以上の動きをしていたとされる豪傑。

 「不死者」ファウンリー・クラウリー。不老不死とされる男でどの様な傷を負っても瞬く間に再生を始めるという体質を持った「人間」。数百年経った現在も存命だという。

 「獄炎龍」フィロフス。龍族の若き族長で、その通称通り獄炎と呼ばれる火を吐く雌火龍。普段はエネルギーの消費を抑える為人の姿で生活していたらしい。

 

(5人はこんなところだ。人間側では彼らを中心とした連合国軍で魔族と戦っていた)

 

「残り1人は? どちらかというとそいつの方が興味深いが」

 

 暖炉に新たな薪を足しながら先を促すと爺は唸り始めた。何と伝えるべきかと悩んでいるらしいが、そこまで複雑な人物なのだろうか。

 

(いや……何と言うべきか……セイドリック・オズゲートを一言で表すのであれば……そうだなぁ……馬鹿だ)

 

「……は?」

 

 セイドリック・オズゲートは元々アレイクとグライグド相手に素手で互角に渡り合った末に、実力を認められ連合国軍に拾われた男らしい。実力も然ることながら竹を割った様な性格を気に入られアレイクの右腕として戦争に出ていたという。

 

「話を聞いている限りではとても裏切者と呼ばれる様な男とは思えんが」

 

(そこまでは……な。連合国と魔族は幾度となく戦闘を繰り返していた。そんな中、敵の拠点の1つに中々攻め落とす事の出来ない敵城があった。そこを攻め落とす為に少数精鋭の部隊を編成し、本隊で敵の注意を引いている間にその部隊で敵の裏から一気に攻め体制を崩すという作戦がとられた。アレイク、グライグド、セイドリックを含めた精鋭100人で迂回して敵城を目指していたが、敵の将軍はそれに気付き5人の部下を連れ自ら現れた。そしてたった6人に精鋭部隊は壊滅間近の打撃を受けた。セイドリックはその時敵の将軍に惚れ込み連合国を抜け魔族側に付いた。当時はセイドリックも死亡していたものとされたから裏切者扱いはしばらく後だがな)

 

「裏切者の由来は分かったが何故馬鹿と形容する必要があった?」

 

 裏切りを馬鹿な行いというのであればその通りであるが。

 

(いや私が馬鹿だと言ったのはな……寝返った理由だ)

 

 敵側の将軍に惚れ込み寝返ったと言っていたが、惚れ込んだというのはその強さか、カリスマ性か。

 

(いや……美貌だ)

 

「……あぁ……成程理解出来た」

 

 その将軍は女の魔族でその強さも然ることながらとても美しい容姿をしていたらしく、今まで戦い一筋だったセイドリックにとっては正に一目惚れだったわけだ。女の色香に惑わされて仲間を裏切る、馬鹿以外の何物でもない。

 

(そしてセイドリックは人類初の「魔人」となって魔族側に下り実力で魔族側の将軍にまで上り詰め、最終的に大魔王の下に位置する4人の魔王の1人にまでなる。それらも全て1人の女に惚れた事が始まりだ。ちなみにセイドリックはその恋を実らせその女将軍を娶っていたりする)

 

 正直最後の情報は不要だと思わなくもないが大体は理解出来た。しかしそれら6人を覚えておく必要性がいまいち理解出来ん。

 

(そうだな……お前が殺したヴォール国国王センナ・ド・ガル・ヴォール2世。奴がレスの末裔、そう言えばある程度は理解出来るか?)

 

「……その6人の末裔、若しくは存命している本人を殺して回るのがお前の言う依頼か?」

 

(正確に言えば少し違うがその様なものだ)

 

 ある程度は理解出来たがまだ不明な点があった。まず殺す理由が分からない。恨みと言えばそれなりに理解出来るが、この爺は神と同義のモノではないのか。一体何を恨む必要があるのか。仮に恨みによるものだとしよう。ヴォール国の国王のみを殺させた理由が分からない。記憶が確かであればあの王には息子が2人、それに加え親族も存在した筈だ。レスの末裔の死を望んでいるのに何故一族郎党全て殺させなかったのか。それらを纏めてぶつけてみたものの――。

 

(……今日はこのくらいにしておこう。そら、お前ももう寝た寝た。セルメイアまでもうすぐなのだろう)

 

 今はまだ語る気は無いらしく適当にあしらわれてしまった。しかし爺の言う通り目的地までもう間も無くだ。3日もあれば辿り着ける位置まで来ている。気になる事は依然として多いが今はフェルを無事送り届ける事だけを考えた方が良い。来週にはもう1人旅となっているのだからそこでゆっくりと考えるとしよう。

 彼女の寝るベッドの横に腰を下ろし自身もさっさと睡眠を取る事にする。明日は朝食を終え次第直ぐに出立しよう、そう考えて眠りについたのだが――。

 

「……油断した……」

 

 フェルが風邪を引かない様にと配慮していたら自身が風邪を引くとは思ってもみなかった。長旅で疲れていたのはフェルだけじゃなかった様だ。自分では疲れていないと思っていても疲労は体に蓄積している様で、上手く体が動かせない程の熱が出てしまいフェルにベッドに寝かしつけられた。少しの間この村に留まる事になりそうで溜息が出る。

 

「こちらに来てから溜息癖が出来てしまったな……」

 

 豪雨の続く窓の外を眺めながらあまり人の事を馬鹿呼ばわりは出来ないなと更に溜息を吐いた。




年内に次話が出来申した。でもどちらかというと説明回といった感じ。風呂敷を広げただけですね、はい。

○魔法の属性
火や氷、土や風等色々あるが、使用できる属性は人それぞれである。
使える属性が多いほど優秀とされている。

○龍族
龍族には2種類存在する。人の姿をとれる者とそうでない者。基本的に人になれる者の方が位が高い。
ちなみに雄に比べ雌の方が強い。雄は巣を作って雌を迎えそうな設定ですね。

○大魔王と魔王
魔族の国の東西南北の地はそれぞれ異なる4人の魔王が治めており、その中心に大魔王の治める魔族の国の首都が存在する。
ちなみに魔族の領地だからといって荒れ放題というわけでもなく、他国と変わらない緑豊かな土地である。魔族だって緑に囲まれていた方が気分が良い。
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