「っ……」
目を開けると目映い光が差し込み一瞬目を背けた。光に慣れ再び空を見上げると青空が広がっており、立ち上がって周りを見渡すと緑の木々が生い茂っていた。素直に美しいと感じる。成程、確かにここはヘルガーンではないようだ。あそこではこのような光景は天と地が逆になっても見る事は出来ないだろう。マスクを外し空気を吸うととても澄んでいるように感じる。汚れていない証拠だろうが、これが空気が美味いというやつだろうか。何もかもが故郷の惑星とは異なった世界、これが違う世界か。
(ふはははは、目が覚めたようだな)
頭に直接語りかけてくるような声に一瞬警戒したが、心当たりがあったので警戒を解いた。
(順応早いのう……驚かし甲斐がなくてつまらん……)
何を言っているのだろうかこの爺は。
(頭に直接話しかけとるからお主にしか聞こえぬよ。ちなみにお主は声に出さずとも頭に浮かべるだけで意思疎通は可能だ)
それは好都合だ。1人で喋っていては他人から頭のおかしい奴と思われかねない。いや、そもそもこの星に生き物はいるのか。
(もちろんいるぞ、人間もそれ以外も色々な)
どこか引っ掛かるような言葉ではあるがとりあえず装備を確認しよう。大体死ぬ前と大差ない装備を身に着けている。戦闘服、アーマー、ヘルメットにマスク。それから武装――ナイフとピストルしか見当たらないのだが。しかもピストルに至っては装填された分と予備弾倉の分合わせて24発しかない。
(ふぁっ!? そ、そんな筈は……確か他にも武装を持たせ――あっ)
何だ今の「あっ」というのは。
(すまん……こっちに置いてある)
この糞爺。思い付く限りの言葉で罵り続けたいが、外敵と遭遇する前に送り付けてくればそれで構わない。
(えーっとだな……そちらの世界に送る前なら色々と融通してやれたのだが……送った後だと色々と制約があってな……依頼達成の報酬である「一度だけ願いを叶える事」くらいしかもう出来ん。まぁ要は……武器を送ったらもう元の世界で生き返れん)
成程な。今ある装備だけで生き残れと。ピストルとナイフ1本で。それが人に頼み事をした人間のとる行動か。
「ふざけるな!」
勘弁してほしい。ピストルですら24発しかない。武装している相手でも2、3人程度ならナイフだけでも制圧可能だがそれ以上となると苦しくなってくる。この爺は私に依頼したが、成功させるつもりがあるのか。
(ま、待て! こんな事もあろうかと準備をしてある! 腰のポケットにな!)
腰の左側のポケットに何か入っていた。これはPDAだろうか。
(特殊な小型端末でな! それを使えば弾薬を手に入れる事も出来るし、確かそれから装備を手に入れる事も出来る筈だ!)
そんな便利な物があるのなら最初からそう言えば良いものを。誰かに見つかるリスクも考えず無駄に叫んでしまった。確認してみると確かに装備や弾薬を手に入れる事は出来るようだ。使い慣れているStA-52 アサルトライフルもあるようで安心した。だがこの[銀貨×20]とは何だ。
(あー……装備や弾薬を手に入れるにはその世界の貨幣が必要でな……)
この爺が目の前に居ないのが大変悔やまれる。居たら今すぐ眉間に鉛玉ぶち込んでやれるのに。悩んでいても仕方がないので人の居る場所へ向かって街で金を稼ぐ方法を探す事にする。
爺に街の方角を聞きそちらへと向かう。話によれば夜になる前には着けるだろうという話だ。現在向かっている街は比較的大きい街で今いる国の王族が統治しているという。そこを拠点としてまずはこの世界の情報や必要物資の購入資金を稼ぐのが良いだろう。知りたい情報は膨大にある。爺に聞くという選択肢もあるが、可能な限り自分で情報を得たい。単にあの爺に頼るというのが気に食わないのと、そもそも当てにならんからでもあるが。
しばらく歩き続けると前方の草むらの中に何か潜んでいるのか揺れ動く音が聞こえた。こちらの世界の生物か。やがて姿を現したのは見た事もない生命体だった。言葉に表すならば液体の塊だろうか。
(ようやく魔物と遭遇したようだな)
魔物とは、まるで児童向け小説だ。さしずめあれはスライムだとでも言うつもりだろうか。
(まぁ大方そんなところだよ。気を付けろよ、あいつは――)
ピストルをレッグホルスターから引き抜き、スライムに1発お見舞いしてやるとはじけてばらばらに飛び散り動かなくなった。想像していたよりも脆い生物だった。今は1発でも銃弾を節約しなければならないし、そもそもナイフでも十分そうだ。
(えぇぇ……せめて最後までわしの話聞こうよ……)
あいつの呼び名はスライムで確定でも問題ないと判断し死体に目をやると、煙を上げながら消えてしまった。そこに何かが2つ落ちていた。近付き拾い上げると金属のようだが、これは銅だろうか。
(それは銅貨だな。魔物は硬貨に魔力を与えたものを核に生きているからな。魔物が死ねば硬貨が体から弾き出されるというわけだ)
魔物の次は魔力ときた。ファンタジーな世界だことで。どうやら化け物を殺しても金を稼げるらしい、覚えておく事にする。そしてあのスライムは銅貨2枚が核と。
街への道すがら爺に硬貨について話を聞かされた。まず何故魔物が硬貨を落とすのか。これは単純に人間側が魔物から手に入る金属のメダルを貨幣として使用しだしただけらしい。ではこのメダルはどこから生まれたか。メダルを生み出しているのは魔族なる存在らしく、その魔族が作り出したメダルに魔力を与え魔物の核としている。それを人間が狩り、手に入れたメダルを貨幣として利用、稼いだ金でより良い武装等を手に入れさらに稼ぐために魔物狩りへ。そこで魔物に殺された場合、持ち物は魔物が主人である魔族の許へと運ぶ。人間界側の物品は全体的に品質が良く、魔族の住む魔界でも人気で高値(メダル)で取引される。そしてその手に入れたメダルで新たな魔物を、といった具合にこの硬貨は回っているらしい。
話を聞き終える頃には街が見え、日は暮れ始めていた。なんとか街の入口の城門が閉まる前に辿り着く事が出来たので、少しほっとした。だがまだ一息つくわけにはいかない。あの後スライムと何匹か遭遇し合計で銅貨10枚ほどにはなったが宿には泊まれるのだろうか。とりあえず城門前に居る兵士にでも安い宿の場所でも聞くとする。
「この街で一番安い宿の場所を教えてくれ」
2人居た兵士の片割れに話しかけると、もう1人の兵士と顔を見合わせた。この街の兵士のくせに宿屋の場所1つ知らないのか、そう思っていたら信じがたい言葉を発した。
「ドjyfえ……?」
一瞬何が起こったか理解出来なかったがすぐさま状況が理解出来た。
(あー……お主の言わんとする事はわかる……)
まさかとは思うが一応聞いておく。これは一体どういう事だ。
(お主の頭にこの世界の言語の知識を植え付けてやるの忘れとった……)
どうやら私は見知らぬ世界で言葉もわからない状態で生き抜かねばならぬという事らしい。乾いた笑いが出た後に込み上げてくる感情のままに空に向かって叫んだ。
「ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
私は無事元の世界で生き返る事が出来るのであろうか。
無理かも分からん。
爺といちゃいちゃして終わってしまった。
○PDA
小型自販機。武器? 弾薬? 欲しけりゃ金出せ。
○スライム
基本無害。だが衣服が好物なのでよく人にまとわりつく。
女の子にくっつけば皆喜べるのに何故か男の方を率先して襲う。ロマンがない。