エルフとヘルガスト兵   作:Casea

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「んっ……ふぁぁ……」

 寝ぼけ眼をこすり大きな欠伸を1つ。やけに肌寒いと思い下を見ると全裸だった。暫く何故自分が全裸なのかをぼんやりと考え昨日の出来事を思い出し、顔から火が出る程恥ずかしさで一杯になった。とりあえず眼鏡をと辺りを探っていたら何かに手が当たった。目を細めて凝視してみたところ――。

「…………」

「――っっ!?」

 ジャックさんでした。


つかれた!&つかれた……

 風邪を引いて寝込んでから5日も経過すると漸くベッドから解放され歩き回れる様になった。であれば長居は無用と、宿代の清算を済ませ青空の下で大きく伸びをする。この5日間はある意味壮絶だったと言える。高熱による眩暈、吐き気、頭痛、腹痛、関節痛。ここまで重い症状を患ったのは初めてじゃないかとすら感じる。だがしかしそれはそこまで問題ではない。寒気に襲われ柄にも無く唸っているとフェルがそれを察したのかベッドに入り込み密着してきたのだ。症状が移っては不味いと追い出そうとも思ったが、如何せんそれすらも辛い。ベッドが1つしかない部屋なのも不味かった。熱のせいで上手く頭が回らなかった為か彼女の寝る場所がここしかないし仕方あるまいという思考に至ってしまい、結局風邪が治るまで共に寝る事になった。何はともあれ2人共健康な状態でこうして日光の下旅路へと戻る事が出来たのは幸いであった。

 しかしながら5日も寝たきりだと流石に体が鈍っているのが自身でも分かる。かと言って元に戻そうと病み上がりで無理をしてはまたぶり返してしまう。天気も良いので慣らしも兼ねてのんびり行くとしよう。

 

(そんな貴殿に良い知らせと悪い知らせが御座います。では悪い知らせから)

 

 知らせの良し悪しの順番は普通良い方からではないのか。そもそも選択肢も与えられて然るべきではなかろうか。いやそれよりその喋り方は何だ。色々と疑問が浮かぶがそれはこの際置いておくとして、正直な話どちらも悪い知らせにしか思えないのだが。

 

(この村に来た時宿屋がほぼ満室だったのは覚えておるか? あれな、とある目的の為にこの先に集う者達だったわけだが、その目的地は――セルメイアの森)

 

 セルメイアの森――フェルの故郷か。

 

「……まさか」

 

(半年以上前に何処かの馬鹿があの森でエルフの少女を捕獲した。それを耳にしたまた別の馬鹿が各地で呼びかけをした。「あの森にはエルフが居るらしい、ならばあそこでエルフ狩りをして一儲けしてみないか」とな)

 

 すぐさまフェルを肩に担ぎ全力で走り始める。私の突然の暴挙に素っ頓狂な声を上げおたおたしていたフェルではあったが、少しすればされるがままという様な状態で大人しく担がれてくれていた。彼女も漸く私の考えが分かる様になってきたらしい、良い事だ。

 

(いやそれ諦めてるだけだからね? 理解し難い存在から変わらないからね? それは置いといて悪い知らせをもう1つ。既にエルフの少女が捕獲された、しかも2人。加えて彼女らはフェルの友人。今のところは心身共に無事だが果たして何時まで無事やらな。普通奴隷目的の捕獲だと手を出す事は少ない、利益が減るしな。しかしエルフとなるとどうかは分からん。急がんとフェルが悲しむ結果になるぞ)

 

 そんな事は百も承知なのだから一々焦らせるなというに。しかしここからまだ数十キロもあるが間に合うか。

 

(そこで良い知らせ。お前の足と体力ならその状態でも飛ばせば十分今日中には着けるぞ、ほれ気張って走れ走れ)

 

 最後の最後で彼女の顔を曇らせたくはない。であれば多少無理をしようとも全力で問題の排除に当たらねばなるまい。たとえ再び体調を崩し倒れる運命にあったとしても。最良の結果を得る為に一心不乱に走り続けた。

 

 

「はぁっ……はぁっ……」

 

 日もどっぷりくれた頃、脚は疲労に震え息も絶え絶えの状態になりながらも何とか森の中に灯る火の明かりを見つけるまで漕ぎ着けた。フェルを下ろして肩で息をしながら明りの方へと身を屈めて少しずつ近付いて行く。軽いとはいえ、流石に人1人を担いだまま数十キロの距離を一度だけの休憩で走破するのはしんどい等という話ではない。だがこれからが本来の目的の時間故にまだ倒れる訳にはいかない。

 灯火へと近付くにつれ、その範囲の広さに気付き心底辟易した。かなり広範囲に亘り焚き火を行っている者達が居り、エルフ狩りをしようと集まった馬鹿共の多さに呆れ返った。集まったと言っても精々数十人程度だと思い込んでいたがそれを遥かに上回る人数、下手すれば三桁は居るのではなかろうか。今の私にこれだけの人数を相手にするだけの体力は残っているとは思い難い。隙を見て救出しさっさとずらかるのが正解か。

 

(そんな貴方に依頼の時間です。今回の依頼は――此処に居る全員の抹殺)

 

 今後今ほど勘弁してくれと泣き言を言いたくなる事はほぼ無いのではなかろうか。この状態であれだけの人数を相手に躍り回れと言うつもりかこの爺、最早笑えてくる。

 

(けど上手くいけばここに居る全員の金品纏めてぼろ儲けよ? お前にとっては此処に居る全員屑だろうから盗っても何の問題も無いだろうし。今後暫く金には困らんよ?)

 

「あぁもう良い、こうなりゃ自棄だ……。やってやるさ……全員地獄の底に叩き落としてくれる……!」

 

(やる気を出してくれたのは結構な事だがフェルの友人2人を忘れんようにな。勿論心身共に無傷で助け出さんと駄目よ?)

 

 自棄になりながらも冷静に行動時期を窺う。やるならばもう少し経過してからだ。それまでには失った体力も少しは戻る事であろう。

 

 

――――

 

 病み上がりの彼が私を抱えこれまでの間走って来た理由が漸く分かった。私の故郷の森の入り口に多くの人間達が屯していた。彼と共にゆっくりと近付き会話を聞いた限りだと、ここにエルフ狩りに来ている事、森に入れない事等が分かった。エルフ狩りという言葉には驚いたが、森の仕組みのお陰でまだ侵入出来ていないという事には胸を撫で下ろした。しかし最悪なのはエルフの双子なんて珍品を見付けた、という会話を耳にした事だ。私が知り得る限りこの森にはエルフの双子は1組しか存在しない。私の友人でもある、メリスとメリーネだ。彼女達は私と違い外の世界に興味津々だった事を考えると、私と似たような手口であっさり森の外に出てしまったのだろう。しかし今はそんな事を悠長に考えている場合ではない。何故彼がこれを察知したかは分からないものの、そのおかげで彼女達の現状を知る事が出来た。話の内容的にまだここに囚われている事は間違いないので何とかして助け出さなければならない。しかし私に出来る事など高が知れている為に結局は彼に頼りきりという事になってしまう。もっと何か出来れば良いのに、自身の力不足が歯痒い。

 

 それから暫くの間、彼は動かずじっと辺りを見回していた。恐らく機を見ているのだろうが、2人の事が心配で仕方が無い。それ故に時間がたっても眠気が来ないのは有り難いが。

 更に少し経過すると殆どの者が寝付いたのか随分と静かになった。起きているのは見張りに立っている数人程度になったところでジャックさんが動いた。私に端の方にある大きめの天幕を指差し背中を軽く叩いた事からそこへ向かえという事だろう。彼は彼で何時ものケルトの先端に丸い筒を取り付けると指差した方向とは別の方向へ行ってしまった。これだけ多くの人間が居る場所で1人になるのは非常に心細いが、あの2人を助け出す為には私とて頑張らなければならない。両手で頬を音が出ない程度に叩いて気合を入れ件の天幕へと向かう。

 そしてあっさりと辿り着いた。見回りが離れた隙に天幕内へと潜り込むと中には大きめの檻が在り、その中に私くらいの少女が2人身を寄せ合い顔を伏していた。

 

「メリス、メリーネ……!」

 

 外に洩れない様に声を潜めて話しかけると2人は顔を上げ、私の顔を見た途端非常に驚いた。

 

「フェル!?」

 

「しーっ! しーっ!」

 

 2人同時に大きな声で私の名を叫ぶものだから、急いで声を潜める様に彼女らを宥める。2人はお互いの口を手で塞ぎ合い、暫く経っても誰も来なかったのでそっとその手をどけ合った。

 

「フェル、今まで何処に居たの……!?」

 

「ずっと心配してたんだよ……!?」

 

「それは後で……! 兎に角今はここから逃げないと……!」

 

 檻越しに詰め寄る2人を制止して逃げる算段をする。ジャックさんが来るまでここで待つ、何てことはするべきではないだろう。であれば鍵を探して2人を助けた後安全な所に隠れておくのが良いだろう。

 

「ここの鍵って何処にあるか2人共知らない……?」

 

「探し物はこれか、お嬢ちゃん?」

 

 2人が無事だった事に安堵して完全に油断していた。後ろを見ると指で鍵を回しながらにやつく1人の男。

 

「ここでキャンプ張ってりゃ救出に何人か寄越すと思って張ってたが……まさかお嬢ちゃんみたいなガキ1人で助けに来るとはなぁ……エルフの大人達は冷たいねぇ……。それとも大人達にばれたら怒られるかもしれねぇから1人で助けに来たかぁ?」

 

 にやつきながら一歩、また一歩とこちらに近付いて来る男の様子に2人は絶望しきっていた。私自身もジャックさん無しのこの状況に絶望しかけていた。しかしここで諦めている訳にはいかない。以前彼から貰った大振りのナイフを抜き両手で相手の男に向け構えた。

 

「おいおいそんな物騒なモン持ち出して俺を殺そうってかお嬢ちゃんよぉ……大人しく捕まっといた方が身の為だぜ? こんな所に1人でのこのこ来るからこんな結果に――」

 

 天幕内に聞いた事も無い様な嫌な音が響いた。少ししてからそれが首の骨が折れる音だと気が付いた。男の首は明後日の方向を向いており、男の顔を掴んでいた手が離れるとその場に崩れ落ちた。そして男の後ろから現れた人物の外見を見て2人は怯え始めた。気持ちは分かるがあんまり怯えないであげて欲しい、多分心根は優しい人である筈だから。しかしまた暫く夜が怖くなるのは間違いなさそうである。あの嫌な音は夢に出そうで恐ろしい。

 

「フェル」

 

 ジャックさんは男の体を漁り鍵を見付けると私に向かって放り投げ、また外に向かってしまった。

 鍵を使い檻を開けると2人同時に抱き着かれた。余程怖かったのだろう、私も同じだったから分かる。

 

「助けてくれてありがとうフェル……でもそれより聞きたいんだけど……」

 

「さっきのアレ、フェルの知り合い……?」

 

 アレ扱いは酷いのではないだろうか。しかし何と言うべきだろうかと迷い考え、一番近いだろうものを2人に伝えた。

 

「えーっと……私のご主人様……?」

 

 再び2人同時に素っ頓狂な声を上げそうになり、すぐにお互いの口を塞いだ。

 




今回少し長くなりました。
そんでもってまた随分空きました。年明けから一気に忙しくなり漸く落ち着きました。

本来は看病話でも入れようと思っていたのですが、今の投稿スピードを考えるとグダグダになるかと考えて思い切って話を進めました。
という事で看病の様子を簡単に。

フ「ジャックさん体調悪いのかな……?」
フ「そうだ、こういう時はまず熱があるかの確認……」
フ「確かこういう時は……確かおでこを……」
フ「は、恥ずかしいけど……いきます!」
フ「てい!」ゴスッ
ジ「」
フ「ご、ごめんなさいぃぃ!」

体調が悪化したのはフェルのせいではない。断じて。


○メリス&メリーネ
双子のエルフ姉妹でフェルとほぼ同じ歳で幼馴染。2人とも髪は短めだがメリスの方が若干長い。
メリスが姉でメリーネが妹。
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