エルフとヘルガスト兵   作:Casea

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(滅多に見れないジャックさんの安らかな寝顔……!)

「フェル……フェル!」

「姉さん、少し静かにお願いします」

「え? あ、うん、ごめん……」

あんな冷たい目の妹は初めてだったと後にファリクシアスは語った。


なにがあったの!?

 

 最悪だ。

 

「うっ……ぐぅ……っつぅ……」

 

 まさか全身に感じる激痛に呻きながらの目覚めとなるとは思っていなかった。

 

「ごほっ……あ゙ぁ……糞っ……」

 

 激痛に耐え何とか体を起こし辺りを見渡す。少し大きめであまり物の置いていない部屋、あるのは今まで寝ていたベッドとその横に机と椅子程度。机の上には水と思しき液体の入った水差しとコップ。自身を見ると上半身裸で至る所に包帯が巻かれていた。

 

「……?」

 

 包帯――それ程の傷を負ったつもりはなかったが随分と手当されている箇所が多い。疲労もあってかフェルの知り合いと思われるエルフの少女達を助ける前後からの記憶が若干曖昧になっており、救出の際や森へと向かう途中、向かった先で怪我をしたのかもしれない。記憶の限りでは武器を持った大量のエルフ達に取り囲まれところまでは覚えている。しかしそこから先の記憶が無い事を考えるとその辺りで疲労のピークを迎えたのだろう。加えて漸く辿り着けたフェルの故郷だ、気が抜けて気絶したのかもしれない。

 

「気が抜け……か……。異常……ごほっ……状況……下とは言……兵……してど……なのかと言う話……はっ」

 

 喉の渇きからか声が出し辛いが今現在の自身の軟弱さ加減を声に出し自嘲する。守らねばならない存在を抱えた状態で敵か味方かも分からん連中に囲まれながらおねんねするとは。病み上がりだなどは言い訳でしかない。果たしてこんな状態でヘルガーンに戻ったところで兵士として役立つのか甚だ疑問だ。帰るにしてももう一度自身を鍛え直し感覚を研ぎ澄まさねばならない。どちらにせよこれからは1人だ、いくらでも鍛錬し直す事は出来よう。

 まずは詳しい状況の確認だと意気込んだところでPDAや装備が無い事に気付いた。辺りには置いておらず机の上にも無い。安全だと思うが未知の場所で武器無しはやはり少し心許無い。加えてPDAが無いと詳しい状況も分からない上に、ドローンも使えず体の状態を把握するのも儘ならぬ。体――そう、体の状態だ。明らかに負傷した覚えのない場所まで痛む。気を失った際に強く打ち付けたのだろうか。それならば体中包帯だらけというのも頷ける。

 

 あれこれ考えるのは良いがまずは喉の渇きを潤したいと考え水差しを取ろうと手を伸ばすと、起きた時に感じた以上の激痛が全身を襲った。その拍子に水差しに手が当たり落ちて大きな音と共に割れてしまった。激痛に呻きつつ水差しの数を増やしてしまったなどと考えていると、音に気付いたのか何人かが慌てて走って来る足音が聞こえた。扉を開けて顔を出したのは1人の女エルフと、おそらく人間と思しき少女だった。エルフ達の森と爺から聞いていたので少し意外に思っていると、エルフの女は直ぐに走って出て行った。

 この場に残った少女は私の体を気遣いながら何か心配そうに話しかけてきた。当然何を言っているかは分からんが。彼女は私を気遣いつつ割れた水差しに手を向け呟くと、破片が空中で集まり形を成した。更にそれに手をかざすと一瞬で水差しが透明な水で満たされた。その光景に目を奪われているとコップへとその水を移した後に私の手を軽く握った。今の私の握力ではコップを持つのは不可能と判断したのかそっと口元に差出し少しずつ口に含ませてくれた。幾度か咽つつも喉を潤し水はもう良いと手で制した。

 

 しばらく人間の少女に体を気遣われていると、随分と慌てた様子の人物が近付いて来るのが分かった。そして現れたのはエルフの民族衣装と思われる少し薄い布地の服を纏ったフェルだった。走って来たのか肩で息をしており薄らと汗をかいている。私の顔を見ると目に涙を溜め勢い良く私に抱き着いた。その勢いと強く抱き締められた事によりまた痛みが走り呻き声を上げてしまった。フェルは慌てて離れると涙目で何か口走りながら慌てふためいていた。言葉さえ通じれば落ち着けと言ってやりたい。

 慌てるフェルを呆れた様子で見つめながら新たに入って来たのは、この森に来た時に見たエルフの戦士達のリーダー格と思しき女だ。何処となくフェルに似ている事を考えると彼女の親類だろうか。そしてその後から何人か入って来たが、その内の数人はどいつもエルフではなかった。どこか気まずそうな様子の人間の男女3人、というには女の方には違和感を覚えた。良く見ると頭に人間にもエルフにも無いものが生えていた。獣の耳の様なモノが生えており偶に動いていた。以前爺が言っていた獣人というやつだろう。この森にこれだけのエルフ以外の種族が居た事に随分と驚いたが、更に驚いた事にその3人はフェル似の女に何かを促されると途端に声を荒げ私に向かって頭を下げた。謝罪されているのは間違いないが、見覚えが無い者達から頭を下げられても正直何が何やらである。若干感じる頭痛と共に無視してフェルに身振りで私の装備の場所を尋ねると、少し申し訳なさそうに悩んだ末に部屋から出て行った。

 

 

「なっ……!?」

 

 戻ってきた彼女が持って来た物体を見て愕然とした。戦闘服もアーマーもズタボロになっており、ヘルメットに関しては起動すらせずその機能を完全に失っていた。アサルトライフルに至ってはくの字に折れ曲がっており完全に使い物にならない。何がどうなればこの様な状態になるというのか。そも私はここまで装備が破損する程の戦闘なぞした覚えがない。

 

「覚えが――……覚え……?」 

 

 何か違和感を感じ先程の3人を見る。獣人の小柄な女、筋骨隆々の大柄な男、そして右頬に刀傷のある優男。どいつも皆若い、フェルより少し年上程度にしか見えない連中だ。だが見ていると何故か酷く頭が痛む。こいつらに関して何か重大な事を忘れているのであろうか。

 

「がぁ……っ!」

 

 思い出そうとすると頭が割れる様な激痛が走る。心配そうに身を寄せるフェルに水を貰い違和感の正体を探すべくPDAを確認した。幸いにも破損しておらず通常通り起動したが、日時を確認すると我が目を疑った。この森に入った日から5日も経過していたのだ。PDAの映像記録を見れば何があったか分かるはず、そう考えHMDの機能が途絶える少し前の映像を確認するとそこに映っていたのは――目の前の餓鬼共との戦闘だった。その途端一際大きな頭痛に襲われ断片的にではあるが何があったか思い出した。

 

『……貴様等ぁ……もう糞爺の考えなんざどうでも良い……!』

 

『殺す……! 貴様等だけは……今ここで……!!』

 

『お前……は……たしが……かな……ら……』

 

「っ!!」

 

 目の前の餓鬼共が敵だと思い出した瞬間にマチェットを鞘から引き抜き、一番近くに居た刀傷の小僧に斬りかかる。確実に仕留める為に首を狙ったが上手く避けられ間を取られた。奴は両手を前に出し必死に何か叫んでいた。恐らく宥める為の言葉だろうがそれがまた腹立たしい。すぐに私達の間にその場の数人が割って入りフェルも必死に私を落ち着かせようとしていた。

 

「ぐっ……」

 

 急に動いたせいか全身に激痛が走り一瞬意識が飛びかけた。倒れそうになったところをフェルと彼女似のエルフに支えられベッドへと座らせられた。マチェットはその際にフェルに掠め取られ今は鞘に収まり彼女に隠されてしまった。

 場の様子を見るに餓鬼共に敵意を向けているのは私だけらしく、当の本人等は警戒こそしつつも私に対して敵意は向けていない様だった。どうやら熱くなっているのは私1人らしい。

 

「フェル……」

 

 フェルに水差しを寄越してもらい頭から水を被る。周囲の連中は驚いている様子だったがこれで多少は頭が冷えた。冷えたのは良いがここがベッドの上だという事を思い出したがもう遅い。おまけに少しフェルに水が掛かったしまった事もあり、涙目の彼女にさも恨めしそうに睨まれてしまった。言葉は通じないが一応謝罪しておく。

 

(やっと頭が冷えたか、大馬鹿者め)

 

「喧しい……さっさと出てきて状況説明すれば多少は穏便にすんだものを……」

 

(あー、そこわしのせいにする? しちゃう? 言ってもどうせ聞かないくせに)

 

「いいからさっさと状況を話せ糞爺……!」

 

(はいはい分かった分かった。じゃあ共に思い出すとするか。この森に来た日からな)

 

 そうして少しずつ、空白の5日間何があったかを思い出す事にした。




およそ4ヵ月……うん、もう何も言わないで……。
話に詰まって全然作れなかったのに、それまで書いていたのと全く違う場面で進めて行ったらおよそ2日で完成した。悩んだら新しく書き直すのも大事ですね……。

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