エルフとヘルガスト兵   作:Casea

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目に涙を溜めながらあの男の名を叫び探し回る妹の姿を、私は直視出来なかった。



回想二 ~なんだきさまら!~

 ファリクシアスと呼ばれていたフェルの親族と思われる女に見送られてどれ程経っただろうか。しかし時間を確認すればまだ半時と経っていない。現在頭を悩ましているもののせいであろうか、時間の感覚がどうにもおかしい。月明かりに照らされた森を1人黙々と歩み続けていると不可思議な感覚に襲われたが、今までの人生において一切感じた覚えの無い感覚、それが何なのか全く分からず1人考え込んでいた。経過時間の割に移動距離が少ないのはそのせいか。

 

(何だ、フェルと別れて寂しいのか? いやぁ、極悪非道にして冷酷無比なヘルガストの兵士であるジャック・ヴォルス少尉でもその様な感情を抱くのですなぁ)

 

 声だけで糞爺がにやついているのが分かり苛々する。しかし何よりも怒りを感じるのはもっと別のところにある。

 

「こちらに居る限りその名で呼ぶな……! 考えただけでも腹立たしい!」

 

 ヴォルス。私のファミリーネームであるが私はこの名が忌々しい事この上ない。正確に言うならばヴォルス家の現当主である父が、であるが。こちらの世界に来て喜ばしかったのはあの男との関わりを持つ必要がなかった事、そしてその名を思い出す事もなかった事であるが故に思い出させられた事は非常に腹立たしい。

 大分腹に据えかねている事を察したのか爺はその話題に触れなくなったが、そうなってくるとそれ以外の部分が気になり始めた。また異な事を言い出したものだ、フェルと別れて寂しいなどその様な事私にはあり得ない。喪失感を微塵も感じていないかと言われると分からないが。だがあの娘にとっては故郷で暮らす方が幸せでいられる筈だ。エルフにとって自分達の領域から出る事がどれ程の事なのか十分理解出来た。もし仮に万が一寂しかろうが私の一存で連れて行くわけにはいかない。生と死が渦巻くあの劣悪な故郷へ帰る為にも今歩みは止める訳にはいかないのだ。

 

(まぁどうあれこちらの依頼を完遂してくれさえすれば好きにするがいいさ。さて、話しは変わるが身軽になったところで再度お前の実力を見ておきたい)

 

「実力……? 今までの戦闘結果では役不足と?」

 

(そうではない。今までは守るものありきでの戦いだった、だが現状ではどうか? それが知りたい。そして1つ、条件を設ける)

 

「……何が望みだ」

 

(奴らを殺す事無く無力化しろ)

 

 奴らとは誰の事か、尋ねるより先にセンサー上に6つの反応が急速に接近してくるの確認しアサルトライフルの安全装置を外し戦闘に備えた。接近者が何者かを少し考え、先の馬鹿共と同様だろうと当たりをつけた。しかし敵を生かして無力化するなどとは面倒な事だ。だが殺さず無力化しろと言われただけで外傷を与えるな、などとは言われていないので加減は無用と判断。

 1分も経たぬ内に目視圏内に入り、あちらも私に気付いた様で少し離れた位置で足を止めた。その連中を見てつい顔をしかめてしまった。最も目を引いたのは顔まで覆う全身鎧の人物、鎧の装飾からして位が高く集団の頭かと考えたが、問題はこの男以外の者だ。右頬に刀傷を持つ男、筋骨隆々で大斧を背負う大男、杖と思しき棒を持つ細身の男、頭に獣の様な耳を持ち弓を携えた女、黒衣のローブを纏う女、誰も彼も顔立ちが幼くフェルより少し上くらいにしか見えない連中。この様な餓鬼共までエルフ狩りとは。いっその事殺してやった方が後の為にも良いのではないかと考えたが爺に戒められた。

 

「貴様らぁ! 何が目的だ!!」

 

 仕方なく牽制代わりに声を張り上げ怒号を飛ばし銃口を向けた。当然ながら6人組は私の言葉を解する事が出来ず、困惑する者、私を見定めるように冷静に見つめる者、武器に手を掛ける者、様々であったが誰1人として退こうとする者はいない様だった。その様を見て舌打ちをしていると刀傷の小僧が何やら叫んでいた。叫ぶと言うよりは落ち着かせる為の言葉を大声で話しているといった具合か。私の事をエルフ狩りで来た者だと考え目的前の戦闘を避けたいのだろうがそうはいかん。駄目押しに銃弾を弾倉の半分程奴らの足元に向け撃ち込んでやると各々は銃撃に驚きその場より慌てて飛び退いたが、直ぐに冷静さを取り戻し仲間内で2、3言葉を交わすと各自が別の行動をとり始めた。こちらも想定内なので迎撃に移る。

 誰よりも早く動き始めたのは騎士の男で真っ直ぐにこちらへと突撃を始めた。狙いを定めて躊躇わず引金を引いたが私の想定していなかった事態が起こった。ある程度動きを封じる為に急所を外して胴から足にかけ撃ちこんだが、男はその身に銃弾を受けながらも物ともせずこちらへ肉薄せんと更に間合いを詰めに掛かったのだ。

 

「なっ……!? あぁ、くそっ!!」

 

 先の金稼ぎ傭兵共の様な安物の鎧ではないとはいえ弾丸が貫通しなかった事は流石に想定していなかった為一瞬狼狽えたが、気を取り直し手早くアサルトライフルの弾倉を交換した。恐らく魔法か想像以上の硬度を誇るか何かだろうと無理矢理納得させたが、少なくとも着弾の衝撃位はあった筈にもかかわらず構わず突き進み迫り来る騎士。その糞度胸にはある程度敬意を表する、容赦はせぬが。

 迫り来る奴が背後の剣の柄に手を掛けたのを確認したところで腰を落とし、接触手前で一歩踏み込み左逆手で鞘からマチェットを引き抜いて騎士目掛け振り抜いた。が、目の前に騎士の姿は無く斬撃は空を切る。目の前から消えたのだ。センサーの反応は左右どちらにも無い。センサー上、敵は真直ぐ私を突っ切って私の後ろへと移って行った。馬鹿な、ありえない、不可能だ、そんな思いが過ぎった。あのなりで、私を軽く飛び越えた。私も兵士として大柄な部類ではないがそれでも190センチはあるであろう私を、斬りかかった際は腰を落としていたとはいえあの男は平然と飛び越え今まさに私の後ろをとってみせた。考察は後に回し前方へと飛び後ろへと銃口を向けるもそこに奴の姿は無く、既に私が来た道へと突き進んでいた。柄に手を掛けたのは単なるはったり、最初から私の事など眼中になかったらしい。

 

「させん!」

 

 離れ行くその背中へと弾丸を撃ちこもうと左手の獲物を地に突き刺し両の手で正確に狙いを定める。

 

「シッ!」

 

 突如視界の端に人影が映ると同時に気合の一声と眼前に迫る剣。寸でのところで斬撃を避けその勢いのまま体を回転させ蹴りを放つ。蹴りは相手の脇腹へと当たり吹き飛んだ。だが次の瞬間には視界に筋肉の塊の様なモノが拳を振り上げているのが目に入る。

 

「どうりゃぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 耳をつんざく様な叫びと共に迫り来る拳に対し、上半身を後ろに反らして拳を避けその腕を掴み力の限り放り投げる。投げ飛ばした大男の体の後ろ、少し離れた位置にある大樹の枝の上に人影。その人影から放たれた物を見て急いで後ろへと飛び退き、そのついでにマチェットを引き抜いておく。先程自分が居た辺りには矢が数本突き刺さっており、判断は正しかった様だと一息吐く。だが休む暇は与えられない様で今度はこぶし大の火球が複数私の許へと飛来、飛び退いて何とか避ける。

 

「ちっ……誘い込まれたか……?」

 

 気付けば私を囲う様な敵の配置のど真ん中に佇んでいた。周りを見渡すと先程蹴り飛ばしたのは刀傷の小僧、得物の直剣は鞘に入れたままで斬りかかってきた様だ。脚は速いらしく気付けば後ろに回り込まれていた。投げ飛ばしたのは筋肉男で拳には鉄鋲の打たれた装甲グローブ。ナックルダスターやセスタスと呼ばれる類の物だろうか。樹の上から矢を放ったのは獣耳の女、そして火球は杖持ちの男。もう1人居た筈の黒衣の女が見当たらないのは身を潜めているからか、こいつらに気を取られている隙に騎士の後を追われたか、おそらく後者だろう。2人に抜かれはしたがエルフ達にも戦闘員は居た筈なのでそちらは一旦放置しておく。今はこいつらに集中しないと不味い。先程の追撃の連続を鑑みるに今までの屑共とは訳が違う。1人1人は問題無く対処出来るが全員の相手は非常に厄介だ。おまけに一合目は何とか捌き切ったがあの連携をそう何度もいなす事が出来るかと言われれば答えは否。であれば短期決戦で1人ずつ確実に戦闘不能にしていくしかない。敵の陣形は前衛2の後衛2。前衛はある程度であればいなせる、弓持ちは常に視界に入れ前衛を射線上に置いておけばそう易々と射れまい。であればまず狙うは威力、射程、特性等まるっきり不明な魔法を使う魔術師の男か。そう目星をつけ戦闘を再開した。

 

 私はこの時1つ思い違いをしていた。この世界は化け物だけでなく人間連中に対しても常に最悪を想定すべきだと、誰が何と言おうと敵は端から全力で殺しに行くべきだと認識した。それに気付いた時には既にベッドの上だったが。




目標達成ならず。むむむっ。

手甲とか脚甲とか大好きです。セスタスに出てくるエムデンのとかイイヨネ。


前話のタイトル、よくよく考えると13話目と被るのでちょっと変更しておきました。

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