エルフとヘルガスト兵   作:Casea

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「――って事があったわけよ」

(いや、不明瞭な点が多すぎる。もう少し詳しく話せ、適当が過ぎる)

「そういわれてもなー」

 老人は男と会話しながら以前の白い空間とは違う、どこかの薄暗い部屋の様な場所で机に向かい手元の羊皮紙をランプの灯りを頼りに眺めていた。机の上には複数の羊皮紙が広げられ、その内の1つには男の真名が記され血判がされていた。


ジャックという名の男

「――よし、そっと下ろせ。ゆっくりとな」

 

 ジャック達がエルフの集落へと戻ってきたのは日が昇り始めた頃、当のジャックは意識を失ったまま担ぎ込まれた。ベッドに横たえられた後服を剥がれた彼の体は所々赤黒く変色しており戦闘が苛烈なものであった事が窺えた。戦いに不慣れな若いエルフがその痛々しい姿を見て顔をしかめる程には重症な様で、直ぐに体中を包帯だらけにされてしまった。

 その場に居た事情を知らないエルフ達からすれば何故傷の治療を行わず連れ帰り、挙句そのまま寝かせておくのかが分からなかった。であれば当然尋ねる、『何故治癒魔法を使わないのか』と。それに対して『しなかったと思うか?』と溜息交じり返した守り人の1人が事の経緯を相手に話し始めた。

 

 

 森での戦闘が終了しジャックが意識を失うと、フェルは若干取り乱しつつも直ぐに彼の所持品の中から以前ドグレイズのセラから貰った薬を探した。その様子を見たファリクシアスとクロノスが彼女を落ち着かせ、治癒魔法を用いる様指示した。客観的に見ればフェルが彼の傷を見て錯乱状態に陥っている様に映る為これは当然の反応と言える。実際血を見慣れていないといざという時に取り乱し冷静に行動出来ないというはよくある話ではあるが、何事にも人に想定出来ない物事は存在するわけで。故に――。

 

「彼は治癒魔法や魔法薬が効かないんです……!」

 

 そんな事を言われても最初は誰も彼も半信半疑にもなるというもの。互いに顔を見合わせ『そんな馬鹿な』となる。実の姉である者であってもその言葉を直ぐには信じられなかった。しかしそんな中唯一人の人物だけは行動が早かった。その場に居る者の中でも最年長の人物、クロノスだけが直ぐに自身で治癒魔法を試し、結果を知るや否や周りへと指示を飛ばし始めた。一部の守り人へは即刻集落へ戻り包帯や薬草の類をかき集めておく様に命令。残った者へは集落に戻る準備を進めろと声を張り上げた。

 

「フェル、何かしら彼の治療に用いる事が出来る物があるのだろう、直ぐに準備してくれ。

ケイ! ケイルリース!! 直ぐに来い、何処だ!」

 

 フェルへは宥める様な落ち着いた声で薬の有無を確認し、ケイルリースという人物を探す為再び声を張り上げた。そこへ息を切らしながら漸く辿り着いたのは黒衣を纏う人間の少女であった。

クロノスは分かり易く手短に今来たばかりのケイへと現状を伝えると、思考が追い付かず茫然と立ち尽くしていたアーシス達を一括した。

 

「何時までそこでボーっと突っ立っているつもりだ貴様ら! 彼を運ぶ準備は出来ているのか!? 貴様らへの説教は後でくれてやる、今はやるべき事をやれ!!」

 

 こうして皆が慌ただしく動き回る中、その場で出来る最大限の治療をジャックへと施して集落へと戻って来たのであった。

 

 

 ジャックを寝かせたベッドの横でファリクシアスがクロノスへと頭を下げた。

 

「クロノスさん、ありがとうございます……。貴方の迅速な対応のお陰で妹の恩人が大事に至らずに済みました」

 

「まだ予断を許さんがな……。ケイ、何か分かりそうか?」

 

「少し時間を頂けますか? 何か他に方法がないか探してみます」

 

 そう言いながら黒衣の少女は本を捲りつつ唸り続けていた。そんなケイルリースを放置しクロノスはフェルへ向き直った。

 

「さて――改めて自己紹介するとしようか。君にマウントとった馬鹿がアーシス、筋肉達磨で変態の馬鹿がヴァース、ドジ魔術師の馬鹿がランシス、胸の貧しいケモ耳の馬鹿がスカーラ、

君の恩人を診ているのがケイルリース、ケイと呼んでやれ」

 

「ま、貧しい……」

 

「いくら何でも酷くないっすか姐さん……」

 

「そうですよ! 馬鹿はヴァースだけですよ!?」

 

「おめぇにだけは言われたくねぇよ!」

 

「喧しい、指示すら守れん馬鹿共などそれで十分だ。それから私はクロノス、この馬鹿共のリーダー兼目付け役みたいなものをしている」

 

 クロノスの鎧が光となって消えると、現れたのは短い髪を後ろで束ねた美しい女性であった。人生を戦いに費やしてきた事を現すかの様に衣服で隠れていない部位の肌には無数の傷がその証として刻まれてるのが見られた。

 

「……レイフェルティアです。この森の守り人の長、ファリクシアスの妹です。……失礼を承知で正直に申し上げます、私は其方の方があまり好きになれそうにありません」

 

 そう言ってフェルがアーシスの方を見やると、見られた本人はかなりばつが悪い様子であった。可憐な少女にその様に言われる言葉というものは予想以上に突き刺さるものだと結構へこんだ。

 

「アーシスか。まぁ君の大切な人に対してあれだけやったのだ、気持ちは分かる。しかしそれはお互い様で私も危うく連れを殺されかけた。喧嘩両成敗、とは違うがここは矛を収めてはもらえまいか。勿論、彼次第ではあるが」

 

「それは……はい、分かります……。ジャックさんはきっと私達を守ろうとしてくれた。それは貴方達も同じだと思います。言葉が通じなかったからこその行き違い、彼も事情が分かれば怒りを収めてくれると思います。ただ……ちょっと……」

 

「……? この馬鹿が他に何か失礼でも? いや、女性を組み伏せて馬乗りになった時点でぶん殴られて然るべきだが」

 

 フェルは簡単にだが自分が人間の男に受けた仕打ちを話した。

 

「――ですので、人間の男性が苦手な上に……あの様に組み伏せられてしまうとどうしても……」

 

 その一言でファリクシアスの目が据わった。

 

「アーシス、殴っても良いかいや殴らせろ今すぐだ」

 

「致し方なかったんだよ!?」

 

 

 ジャックの事はとりあえずケイルリースに任せクロノス達は広間へと戻り、机の上に置かれた彼の装備を眺めていた。銃器についてはフェルが以前に手を触れた事をジャックに強く諫められた事を伝え見るだけに止めてはいた。ナイフ1つとっても見た事の無い型であった為か、誰もあの男の出自について分からないままであった。ちなみに説教はクロノスがジャックの装備に関心を示していたためか後回しとなった様子。

 

「貴方でも見た事がありませんでしたか」

 

「あぁ、世界各国の騎士団や装備事情にはそれなりに詳しいつもりだったが……こんな装備は見た事が無い。最新式の装備――というにはあまりにも……歪だ」

 

「いびつ?」

 

 クロノスは頷くとジャックの大鉈を手に取り、その刃先にゆっくりと指を這わせると彼女の指からは血が滲み始めた。それに構う事なく今度は柄の握りを確かめ軽く素振りし物の状態を確かめた。

 

「昔と違って今は何処も魔物の部位、要は魔力を有した物を使用して武器に魔法を掛け易くしているのが殆どだ。そうして切れ味や攻撃性を高めて戦闘で優位を保つ。他にも軽くて扱い易い物を作り強度は魔法で補う、なんてのもな。勿論逆に私のメギンギースの様に重い剣を魔法で軽くして用いるというのもあるがね。だが彼の装備はどれも魔力が流れ難い、昔ながらの魔力を含まない材料のみで作られている様な感じだ。にも拘わらずこの大鉈は強度、切れ味共に非常に高い」

 

 現在の戦闘事情は魔法の存在に勝敗を委ねているいっても過言ではなく、故に装備にも魔力を通し易くする為に魔力を含んだ材料を使うのが主流となっている。魔力の含まれない材料を基に作られた装備はその殆どが実用性のない装飾用、部屋のインテリアの様なものと成り果てている。

 

「最新式と仮定して、それにも拘わらず魔力との併用には向かない装備。とすると考えられるのは――」

 

「分かりました!」

 

 息を切らして広間へ飛び込んだケイルリースを見て、クロノスは結論は後回しだと再びジャックの許へと戻った。

 

 

 ジャックに治癒魔法が効かないのは何が原因なのか、それを問おうとするフェルを制してケイルリースはベッドの横に座り込みジャックの手を握るとそっと目を閉じた。彼女の手がぼんやりと光を帯びると、ゆっくりとだがジャックの傷が癒え始めるのが見て取れた。だがその速度は通常の治癒魔法とは比べるまでもなく遅く、加えて段々とケイルリースの顔色は悪くなり、脂汗が滲み始めた。少しして漸く手を離すと、まるで長距離を走り切った走者の様に息を切らしていた。

 

「ケイ、大丈夫か?」

 

「はい……お水を頂けますか……?」

 

 ケイルリースは受け取った水を飲み干し息を整えると、ゆっくりと自身の考えを話し始めた。

 

「多分なんですけど……この人、体内に魔力が存在していないんだと思います」

 

「魔力が――無い?」




クリスマス 今年も1人で 苦しみます

殆どかゆうま状態ですがぎりぎり更新出来ました。今年もあまり投稿出来なくて申し訳ありませんでした。来年はもう少し投稿していけたらと思います。

多分今回で年内最後の投稿と思われますので一週早いですが。
皆様、良いお年をお迎え下さい。
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