エルフとヘルガスト兵   作:Casea

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わからないことだらけ

 猪の魔物との戦いから1週間が経った。あの日彼はあれから更に23匹の魔物を片付けた。1日にそれだけの数をこなす冒険者は今まで居なかったらしく、グレイス氏も大層驚いていた。魔物から奪い取って来た大量の部位が入った袋をカウンターに乗せた時のグレイス氏の引き攣った顔が印象に残っている。何故か私が申し訳ない気持ちでいっぱいになった。斯く言う私もその日は青ざめた顔をしていたと思う。お金を得るには魔物を殺してから特定の部位を切り取る必要があり、そして当然生き物なので切ると血が出る。そして彼は私に手伝いを求める。彼が魔物を仕留めれば仕留める程私の手伝う量が増える。それ故にあの日は疲れと血の匂い等で随分と気が滅入っていたと思う。そして翌日からも同じく狩りに出て魔物を殺し売れる部位を切り取るの繰り返しで、良し悪しは別として数日もすれば血に対して耐性が出来てしまった。彼は彼で中々にお金が稼げている事にご満悦のようで、稼いだ金を数えて満足気に頷いていた。マスクで表情が見えないし外していてもあまり表情が出ていないので分かり難くはあるが、この1週間程で何となく理解出来てきた。グレイス氏も稼いでいる彼に目を付けたらしく、「そのうちデカい依頼を回すよ」などと言っていたので近々何か依頼が来るかもしれない。

 

 初めて狩りに出たあの日以来ずっと彼が何をしたのかを考え続けていた。まずあの黒い金属で出来た長くて大きな筒。故郷の祭事に使われるケルトに似ているのでそう呼ぶ事にしたが、ケルトを攻撃に使用したという事は間違いない。爆発音と同時にケルトの向く先に穴が開き、彼の足下には金属製の小さな筒が複数転がっている。原理等は全く分からないがこの2つが何かしら関係あると思われる。そしてそれらが町の人々の間で噂になっているようだった。

 

『森の方から「パパパ」って音が聞こえてきてよ、気になって見に行ったらこれが落ちてたんだよ! こんな綺麗な形の筒は初めて見たぞ!?』

 

 最近あの小さな筒が市場に出回って装飾品等に用いられたりしているらしい。確かに、あれほど綺麗な形の筒というのはそうそう見られるものではない。どのような製造の仕方をすればあんな小さくて綺麗な円柱がたくさん出来上がるのか非常に興味深い。あまりに綺麗だったので私も1つ拾って持っている。驚いたのは最初かなり熱かったことだ。火傷しそうな程熱かったので、やはりあれが爆発の媒体となっているのだろうと思われる。そんな筒が奇怪な音が聞こえたらその場所に落ちている、しかも良い値で売れるとなれば人々が喜ぶのも無理はない。しかしそれと同時に不吉だと怯える人々も居る。

 

『はぁ? そんな音じゃねぇ、俺が聞いたのはもっとでかい「ガガガ」って音だったぞ。恐る恐る見に行けば辺りは血だらけ、おまけに地面や木に穴が開いていやがった。ありゃ何か良くねぇ事の前触れに違ぇねぇ。俺は近寄るのもごめんだね。態々寝ているドラゴンの尾を踏みに行くような馬鹿な真似はしたくもねぇってんだ』

 

 音が聞こえた場所付近が血塗れなら誰でも警戒する。最近は出現する魔物の変化等、特におかしな事が続いているので恐ろしい事が起きる前触れだと怯える人も多いという。その気持ちは分からないでもない。人は自分が理解出来ないモノに対峙した際に多種多様な感情を抱く。その多くは負の感情、恐怖心もその内の1つだそうだ。今回の事も人々の理解の範疇を超えている出来事であるが故に恐怖を感じる人間が多いのだろうと思う。

 その謎の現象を起こしている人物は今現在、私の後ろで鼻歌交じりに頭を洗ってくれていたりする。しかもこの1週間ずっとである。初めてお風呂場に入った時はいよいよかと怯えていたが、特に如何わしい事をされるわけでもなくただ頭を洗ってくれただけだった。その後は初日と同じく体は自分で洗って共に湯船に浸かる。その間も特に不快な視線を向けてくるでもなく、彼はただ湯に浸かって疲れを癒しているご様子。そんな彼に対して寧ろ私が視線を向けていたりする。私だって年頃の娘なので裸の男性が近くに居れば少しは気になって色々な所に視線を向けてしまう事もある。何かされるのかと怖がるわりに好奇心は働いているのか彼の筋肉質な身体に目が行ってしまった。その体付きからして戦士だろうと思えるのだが彼の攻撃は魔法のようにも思えた。どちらも使える、所謂魔法戦士と呼ばれる部類の戦闘形態だろうか。そんな彼の身体を横目でこそこそと見ていたらつい出来心で下の方に視線が行ってしまったが眼鏡を掛けていないせいで見えない。安心したような少し残念なような、複雑な気持ちでお風呂から上がった。

 

 

「あら、やっぱり今日も大丈夫だったみたいだねぇ」

 

 宿屋の女将さんであるミルスおばさんがお風呂上がりの私達を見てそう言った。おばさんには共にお風呂に入った初日に随分と心配された。確かにエルフの女と人間の男が共にお呂に入ればそのような事にもなる。心配されるような事は何1つなかったが。

 

「……やっぱり男色家か?」

 

 おばさんの旦那さんであるドールさんの言葉の理由はとても単純だ。大の男が少女の奴隷を買って手を出さない理由はなんだろうか、そうだきっと男好きに違いない、という理由らしい。そう言われて納得しかけている私ではある。しかしそうなると尚更私を買った理由が分からなくなる。ただのお人好しで高額な金額を支払うような酔狂な人間には見えない、少なくとも外見は。やはり何かしら裏があって私を買ったと考えた方が良いのだろうか。

 今のところ優しく接してくれているが信じられる人間かどうかはまだ分からない。言葉が通じない分余計に。言葉の壁というのはとても高く分厚い。しかし言葉が分からないからこそ、その行動から優しさが伝わってくるような気もする。

 

 翌日も朝食を終えると何時ものように装備を整え、おばさんに革で出来た水袋を渡し水を入れてもらう。その時に一緒に昼食にとサンドイッチも2人分くれる。おばさんも私がエルフと知って尚優しく接してくれる。優しい人なんだと信じたいが人間には既に何度か裏切られている為そう易々と信じる事が出来ない。おばさんも彼も優しい人だと良いのに、そういう考えは希望的観測に過ぎない事は分かってはいる。それでもやはり信じたい。たとえそれで何度裏切られる事になったとしても、私に優しくしてくれた人達なのだから。

 

 

「よぉ、今日も魔物狩りかい? 忙しそうだねぇ」

 

 近頃街を歩けばよく街の人々に声を掛けられるようになってきた。私達2人はとても目立つ、私は耳が見えないよう常にフードを被っているし彼については言わずもがな。それ故に街の人に顔を覚えられるのも早い。おまけに顔が広いおばさんが色々と紹介してくれた事もあってか、街の住民で私達を知らない人間はほとんど居ない。それはそれでちょっと嬉しい反面、人間に恐怖心がある私には少しきつい。私がエルフだと知らないが故の気さくな笑顔、事実を知った時あの笑顔は残っているだろうか。それを考えると少し切ない。

 

 冒険者ギルドに赴くとカウンターに多くの人々が集まっていた。皆この街ではかなり屈強な戦士として顔の知れている人達ばかりだった。

 

「おっ、ようやくお出ましか。待ってたぜ旦那」

 

 グレイス氏が私達を手招きするとその場に居た人々の視線が集まった。彼の許へと向かうとカウンターの上に何やら書かれている羊皮紙が置いてあった。そこに描かれていたのは単眼の魔物の絵。

 

「国からの討伐依頼書だ。相手はサイクロプスで面子はあんたら含めて20人の共同討伐になる。成功すりゃ金貨50枚山分けだ。やらねぇか?」

 




「おかいもの!そのに!」までを加筆修正を加えておきました。内容が良くなったか悪くなったかはさて置き、暇があれば一度見てみてちょんまげ。

ぎりぎり6月中に出せてほっとしております。
次はしばらく間が空きますが許して下さいまし。ゆっくりお待ちくださいな。

○ケルト
エルフ族の祭事に使われる燭台。その期間以外は倉庫の肥やし。

○寝ているドラゴンの尾を踏む
いくら危険なドラゴンといえど寝ているならばそこまで害はない。なのに態々尾を踏んで起こすのは危険極まりない行動である。回避可能な危険にわざと突っ込んで行く人物などに使われる。
例 :あいつは寝ているドラゴンの尾を踏むような輩だ。
  →あいつはドMだ。

○魔物と硬貨
魔物の核は硬貨である。その核を取り出すと魔物の亡骸は消滅してしまう。原因は魔力を供給している硬貨が無くなる事でその供給がストップし、体が保てなくなってしまうからである。では何故切り取った部位は消えないのか。硬貨がある状態で部位を切除するとそこに魔力が封じ込められるからである。しかし完全に封じ込める事が出来ていないので、魔道具に加工した場合定期的に魔力を供給しないとただの道具と化してしまう。
硬貨を取り出すと死ぬという事から、生きたままの魔物から素手で硬貨を抉り出して殺すというスプラッターな戦士もいるとかいないとか。どこの戦場カメラマンかと。
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