とある部屋の雑談会。
「む?何でしょう…急に体が浮き始めましたよ!?」
「ん。どうしたんだい?初期の頃、宮本武蔵を追い詰めるぐらい強かったのにここに来てほとんど空気と化していたフィッシュ君?」
「ムキーッ!やめなさいッ!!私これでも気にしてるんですよ!!」
「フハハハッおいおい。喚いてるうちに結構上がってきたな。おい大丈夫か、船坂よ!」
「…気持ち悪いであります……」
「飲み過ぎだな…」
「チョコ食べると良いらしいわよ〜」
「あはははっ。ふよふよ浮いてて面白いー」
「おいいッ!そんなこと言ってうちに私、飛んで行ってしまいますよ!!」
「プハーッ。…心配ないさフィッシュ」
「何がッ!?」
「輪廻は巡る。きっと君にも次の役目があるってことさ。頑張って〜」
「軽いぞ!ダヴィンチ!!」
「うだうだ言うな!お前も悪なら次も悪らしく堂々としてろ!この悪めッ!!」
「うるさいぞ酔っ払い!!だぁーもう!みんなが見えなくなってきた!」
「諦めろー。まぁ…廻り者に恥じない働きを期待しているよー」
「何で私がッーーー!!!!」
マスコミ騒動の翌日。僕たちは現在バスに揺られている最中だ。あの後、最初は僕が委員長をやる流れになっていたけれど、食堂の一件で飯田くんの方が適任だと判断され委員長の座は飯田くんになった。そんな彼は今、僕の前で少し落ち込んでいるけど大丈夫そうだから少し置いておく。
今日は救助訓練。特例で相澤先生、オールマイト、あともう一人の先生の三人の特例で授業することになった。
理由は…まぁ多分昨日のマスコミ騒動の件の余波だと思う。というか、それぐらいしかないけど…。
この前の実習で焼けたオールマイトの髪を模した耳付きのフードは今回置いてきた。まぁ今日は使うことないからいいと思うけど。このことをかっちゃんに話したら口を一文字にしてどれだけ話しかけても喋らなくなった。
「私なんでも思ったこと言っちゃうの緑谷ちゃん」
「?どうしたの蛙吹さん」
「梅雨ちゃんと呼んで」
なんてことを考えていると隣に座っていた蛙吹…梅雨ちゃんが声をかけてきた。
「梅雨ちゃん?」
「ありがとう…それでね。あなたの個性、オールマイトに似てるわ」
「ッ!!そそ、そんなことないよー!ただ単に力が強くなるだけだよ!ねっ!?かっちゃん!!」
「黙れ、デク慌てすぎだろ。シめんぞ」
梅雨ちゃんの的を吹き飛ばすぐらい、ピンポイントな質問に狼狽し腕を組んで寝ていたかっちゃんに助けを求めるがいつもより機嫌の悪そうな声で一蹴された。何故、機嫌が悪い理由に思い当たると後ろの方から麗日さんが顔を出していた。
「なんか、いつもより機嫌悪そうやね。バクゴーくん」
「…最近、こうちゃんと会ってないっていうか、避けられ気味だからね」
「あいつが、こういうことする時は必ずなんかしょうもねぇこと企んでんだよ……!」
「爆豪。眉間、眉間、シワやべぇぞ!」
「…前もそうだけだよ。ほんと、何者なんだよこうちゃんて奴は?」
「ただのバカだ!!」
ウガーー!と叫ぶ、なんの答えも言っていないかっちゃんを宥めながら切島くんの聞いてきた質問を頭の中で反芻する。
「落ち着いて…まぁ、あながち間違ってないけど。…切島くんの質問にシンプルで簡潔に答えるなら…そうだね。僕とかっちゃんが二人がかりで挑んでも勝てない相手って言えばいいかな?」
「「「「「はぁ!!?」」」」」
緑谷の発言にバスの中にどよめきが走り一気にうるさくなる。
緑谷は何故そんな驚く?と小首を傾げているが、戦闘訓練で二人の対決を観戦していた麗日と飯田以外のクラスメイトたちは二人の戦いが自分たちの強さより桁が違うことを知っているため、その二人に勝つことのできる"こうちゃん"という存在はどれほど強いんだ!とバスの中にいる全員が心の中で叫んだ。
普段、他人に興味を持たないクールボーイ轟でさえ二人の戦いは自分にとっては甚だ手厳しいものだったと記憶している。あの日から同年代にしてあそこまでの強さを手に入れた二人を密かに敵視しているが、今はなんでこんな奴らが自分より強いと思っていたことが少し疑問になっている。
「おい、お前らいい加減にしとけ。もう着くぞ」
『はい!!』
緑谷への質問攻めで一気に騒がしくなった車内でも不機嫌そうに眉をひそめ、そろそろ着くから黙れと静かに言った先生の声はしっかり聞き取り、返事をした瞬間、目的地に着くまで誰も話さなかったのは教育の賜物だろう。
=====
「皆さん。ようこそいらっしゃいました!U(ウソの)S(災害)J(事故ルーム)へ!!」
バスが着いたのはドームほどの大きさのある建物だった。中に入ってみると、見回しただけで分かるのは土砂崩れに飲み込まれたかのように崩壊した建物と、現在進行形で燃え続けている建物らしき影等、どれも災害を模してあるかの様な場所が沢山あった。
もう一人のヒーロー。僕たちを出迎えてくれたのは宇宙服を模したかの様なコスチュームを着た『スペースヒーロー13号』だ。
「わっーー!13号や!」
「USJ……なんでだろう既視感を感じる……」
「…気のせいだろ、放っとけボケ」
横にいるかっちゃんから辛辣なコメントを受けるがそんなこと知らない13号先生は話を始める。増え続ける小言にみんなは軽くげんなりした様子だ。
「知っての通り、僕の個性は"ブラックホール"あらゆるものを吸込みチリにする個性です。この個性で数多の災害救助に貢献してきました。…しかし人を簡単に殺せる個性です」
『!』
「皆さんにも"そういう"個性を持つ方がいるでしょう。この超人社会、個性の使用を厳しく規制することで一見成り立っている様に見えますが一歩間違えれば容易に人を殺せる"行き過ぎた"個性を個々が持っていることを忘れずに。相澤先生のテストで自分の持つ能力を理解したはずです。オールマイトの授業でそれを人に向ける危うさを知ったはずです。この授業ではその力を傷つけるためではなく、誰かを助けるために、どう使うことを学んでください。ご清聴ありがとうございました!」
『ハイっ!!』
13号先生が礼をすると力強くみんなが頷き所々から歓声が聞こえる。飯田くんなんか感極まって泣いてしまう始末だ。確かにカッコいいと思う。
でもそれ以上に。悍しいほどの嫌な気配と寒気が僕と、かっちゃんの背中を駆け巡った。嫌な気配がした方に振り向きみんなの前に出ると同時に相澤先生が叫んだ。
「全員、一塊になって動くな!!」
『……?』
「おい……デク…」
「………うん…」
みんなが先生の言葉にぽかんとする中、一緒に前に出てきたかっちゃんは事の重大さを僕と同じで理解していた。僕たちが目を向けている方…。広場の噴水前から現れた、こうちゃんの万象儀とは違う黒いモヤからゾロゾロと現れる人影たちを眼下にホルスターから出した銃のリロードをすると同時に相澤先生がもう一度叫んだ。
「…
「
=====
「13号にイレイザーヘッドですか……先日
「…こんなに大軍引き連れてきたのに…どこにいるんだよ、平和の象徴は………子供を殺せば来るのかな?」
目に見えてヤバそうなのは体の至る所に手を付けた痩せ細った男とその横にいる脳が剥き出しになっている大男、それに…黒いモヤモヤ。
「敵んッ!?バカだろ!!ヒーローのいる学校に乗り込んでくるなんてアホすぎるだろッ!!」
「先生、侵入用センサーは!」
「もちろんありますが…!」
「なら、それを止めたヤツがあん中にいるって事だよなァ……!!」
突然現れた敵に焦りを滲ませながら八百万さんが先生に確認を取るとそれを聞いたかっちゃんが横で今にも飛び出しそうな獰猛な顔で見解を出した。それの続きを轟くんが話し出す。
「…校舎と離れた隔離空間。そこにクラス単位の少数人数がいると知っての時間…バカだがアホじゃねぇ。これは、目的があって用意周到に画策された奇襲だ」
その言葉にみんなが息を呑む。それは、つまり僕たちは今助けのない状態で孤立しているという意味だから。モヤから現れた敵たちはゾロゾロとゆっくり、まるで逃げ場のない僕たちを追い詰めるかのように近づいてくる。
「13号。生徒たちを頼む!学校にも連絡してみろセンサーまで頭ん中入れてる奴らだ繋がらないと思うがな。上鳴、お前も個性で通信試してみろ」
「ッス!」
ゴーグルをかけて今すぐにでも敵たちに突っ込める戦闘態勢の先生は前に出ようとしている僕とかっちゃんの肩に手を乗せる。
「お前ら…前に出るなよ」
「…あんただけで、あの数いかんのか?」
「プロを舐めるな。お前らは13号に従って避難開始だ。行け!」
「…行こう、かっちゃん」
「チッ!怪我すんじゃーねーぞ!」
既に出口に向かって走り出しているみんなを追うよう走り出すと先生は階段を一気に飛び降りていった。ちょっとしたら下で何かを殴る音と叫び声が聞こえてきた時には僕たちはみんなの後ろに追いついていた。
「させませんよ」
『ッ!』
出口の前…。僕たちの行手を阻むようにヤバい三人のうちの一人、黒いモヤが現れた。何ものない場所から現れたのを見るに、万象儀の転移のようなシステム。コイツが出入り口か…。
「初めまして…我々は『敵連合』僭越ながら、この度ヒーローの巣窟。雄英高校に入らせてもらったのは…平和の象徴。オールマイトに息絶えていただきたいと思ってのことでして…」
低い声。いかにも紳士らしく、礼儀正しい口調で話される内容はオールマイトを殺す。要約するとこんなことを言った。
「本来ならば、ここにオールマイトがいらっしゃる筈。ですが、何か変更があった様子でしょうか?…まぁ、それとは関係なく私の役目は…」
そこまで言いかけた所で一人の影がみんなから飛び出した。急いで呼び止めたが間に合わず切島くんは黒モヤに攻撃をしていた。
これじゃ、ブラックホールを発動しようとしていた先生の間合いに入ってしまい先生が攻撃できない。
「危ない。危ない。いくら生徒といえど優秀な金の卵……」
「ッ!下がれッ!クソ髪!!」
「私の仕事は、貴方達を散らして…嬲り殺す!!」
前にいた切島くんの腕を掴むために前に飛び出していた僕とかっちゃんの目の前には僕たちを取り囲むために広がった黒いモヤに覆われ、後ろにいた他のみんなも包み込むように半球状に広がった。そこかしこでみんなの叫び声が聞こえ飯田くんの叫ぶ声を最後に僕の視界は真っ暗になった。
=====
次に視界が戻った時には水の中に飛び込もうとしている最中だった。察するにさっきの黒モヤの個性は万象儀のような転移する個性なんだろう。ほぼ、条件反射で
「お前に恨みはないけど、サイナラッ!!」
そう言ってギザギザの歯を僕に向けて噛みつかんと迫る敵を水と水の間を泳ぐような感覚で避けると敵さんも個性の特性なのか手についたヒレで綺麗にターンすると再びこっちに迫ってくる。
もう一回、避けるか殴ろうと眼前から迫る敵に構えると目の端にもう一つ、ついさっき話をしていた少女の姿が敵よりも早くこっちに来ていた。
梅雨ちゃんは泳いだ勢いをそのまま生かし敵の頭に蹴りを叩き込むと素早く舌を伸ばして僕の体を巻きつけると今度は敵の鼻っ柱に足を添え、足を押し蹴った。あ、鼻血出した。その力で梅雨ちゃんは加速しここから離れると水面を漂っていた小型船のデッキの上に降ろしてくれた。
ちょっとすると今度は峰田くんが雑というか叩きつけらるような感じで降ってきた。きっとまたいらない事をしてしまったのだろうか…。船上に上がってきていた梅雨ちゃんに手を貸しながらそう考えていた。
「あら、ありがとう緑谷ちゃん」
「ううん、こっちの方こそありがとう。でも、結構今ヤバい状況になっちゃったね…」
「そうね…。ヤツらオールマイトを殺すなんて無茶なこと言っていたけれど、何を根拠にそう言っているのかしら?」
梅雨ちゃんの言葉に黒モヤから出てきた人間とは思えない異質な雰囲気を放っていた敵の姿が頭をよぎる。
「たぶん…。黒いモヤから出てきた脳みそ剥き出しの奴が居たんだけどたぶんソイツが切り札なんだと思う。何というか…その…異質だった」
「何言ってんだ緑谷!そんな奴ら、オールマイトが来れば、けちょんけちょんだぜ!」
いつの間にか復活していた峰田くんがパンチする真似をしているけど多分、そんなに簡単なことじゃない。そんな僕の思いを代弁してくれるかのように梅雨ちゃんが話し始めた。
「峰田ちゃん。緑谷ちゃんの言う通りヤツらオールマイトを殺す算段が出来ているからこんな無茶してるんじゃないのかしら?そこまで出来る連中に私たち嬲り殺すって言われたのよ。オールマイトが来るまで持ち堪えられたとしても私たち無事に済むのかしら…」
「………!!みみ緑谷ァ!!!」
「…梅雨ちゃん言う通りだよ。…峰田くん。今は、ここを戦って生き残ることが先決なんだ」
とても冷静にこれからのことを分析する梅雨ちゃんの言葉に愕然とした峰田くんは僕の足を掴んできたけど、お生憎、これは梅雨ちゃんの方が正しい。そのことを伝えると更に愕然として頭を押さえて叫び始めた。
それに追い討ちをかけるかのように船の周りを囲むようにさっき鼻血を出していた敵を始め多くの敵が水面から顔を出し、更に叫び始める峰田くんを何とか落ち着かせ、作戦を練り始める。