〜とある部屋の雑談会〜
「そう言えば、項羽さんの方はともかく、僕のいた世界って僕が死んだ後どうなったんですか?」
「ん…あぁ、えっーとな。とりあえずお前の弟は廻り者になった」
「え」
「ついでに廻り者同士で戦争になった」
「え」
「因みにここにいるほとんどは殺し殺された仲だな!!」
「ゑ」
「猫に頭を撃ち抜かれたぜ〜」
「同じく!」「俺も!!」「私も!!」
「「ワタシらは羽にやられたー」」
「「狙撃戦カットされたけど死闘を演じた」」
「不死同士の殴り合いは楽しかった!」
「同感であります。あ、ついでに貴方の弟に看取って頂きました」
「腐らされた(大人数)」
「悪め!!!」
「そこのハゲに裏切られた」
「裏切ったら女の子に滅茶苦茶にヤられた」
「ま、取り敢えずはロクでもないことしか起きてない」
「………(絶句)」
よぉ、お前ら久しぶり。世界最強だ…。
…ダメだ。あんなことあった後だから世界最強って言いづらい。
死柄木御一行を撃退したその後、学校に拘束されて監禁された。
字面にすると酷いが嘘じゃない。
恭しくも両手足をガッチガチに完全拘束。
しかもこれ、タルタロス行きの
それに加えてよく分からんゴツゴツした目隠しを付けられたらなにも見えない。耳と口にはなにもされていないのは幸いと言ったところだが、その状態でどこに行くわけでもなく監視され続けられてる。見えないが、きっと無愛想なカメラが俺を睨んでることだろう。
なんだこれ……。
本当に敵を撃退してのけたやつの扱いか?
……三人、守れなかったけど。
その状態が体感で半日ほど。食事以外で人の気配はなく、話し相手も誰もいないもんだから、物寂しい思いをした。
しかし、そのおかげで頭の中は色々と整理ができた。
どうして今になって廻り者が現れたのは分からないが、恐らく、フィッシュに続く廻り者は必ず出てくる。
死柄木はあの時、フィッシュのことを失敗作と評した。ならば成功した個体が居ることは間違いないだろう。
それもきっと、フィッシュよりも強力な才能を手にした廻り者が。
…それらがもし…もし、凶悪な才能に呑まれてしまっていたり、どうしようも救い難い人間だったならば、俺がやるべきことは変わらない。
汚すべき時に手を汚すのが俺の役目だから。
…しかし、呑気に考えてるがこの状況は結構マズイ。
普通科の癖に授業抜け出しでヴィラン相手に大立ちまわり、そして敵一人の殺害。
どうしようもない後悔が俺を襲う。
罪を背負うとは言ったがこれじゃ背負いすぎて俺が破綻しちまう。
良くて停学、悪くて退学。考えしうる最悪は二度とアイツらと会えなくなること…。
どれにしたって勝己に殴られる。出久は口聞いてくれなくなるかも…キッツイなそれ。ダルモンは…ダメだ想像するな、泣きそうになる。親父は…指差して笑いそうだ。親父に関しては想像しただけで怒りが湧いてくる。
アイツら心配してんのかな…。連絡とってねぇし。とれないけど。
そんな事を考えていると、扉の開く音がした。この部屋のだ。そこから入ってくる揃った足並みが俺を取り囲む。
それまでに俺の優秀な五感が様々な情報を収集した。
金属と布同士が擦れるような僅かな振動。それらを掻き消すように、構えるような軽い音。そして、ほんのりと微かに香る火薬の匂い。
…予想されるのは武装した警官。向けられたのは銃口。
そして最後に偉そうな足音を立てながら一人の…男だな。が、入ってきた。
「黒籍項羽。出るぞ。事情聴取を受けてもらう」
「人を半日もこんな姿で待たしておいて、よくそんな台詞が吐けるな」
「…………」
黙りかよ、つまんねぇな。
そうして俺を拘束していた器具ごと台車で移動させられ、しばらく経つと移動が終わった。どうやら部屋に着いたらしい。一緒についてきた警官たちが、手際良く俺を台車から椅子に移動させられると大勢の足音がこの部屋を去っていった。
…色んな匂いが混ざったような匂いがする。
インクと珈琲と……動物の臭い…?
「獣臭いな、なんだここ?」
「…そう言われるのが嫌で自分の体は念入りに洗ってるんだけど…オールマイトくん、僕って臭うかな?」
「いえいえ、そんな事は!いい匂いと言うか、お日様の香りと言いますか…生き物って感じの匂いがします!」
思わず出た言葉に正面からネズミの声がした。入学式の時、長々と話していたネズミの声だ。つまりは雄英の校長。その声に哀愁が漂ってた感じがしたけど聞こえない。その横の方でオールマイトが懸命に慰めてるけどあんま上手いこと言えてないのも聞こえない。
その後、ちょっと落ち込んだネズミの声で軽く紹介が入った。この部屋は校長室らしい。
俺の前には、オールマイト…え、こいつトゥルーフォームじゃね?
脈がなんか弱々しいな。
まぁいいか、あとはA組の担任の相澤、雄英の校長ネズミ、そして塚内とか言う見知らぬ警察の人間がいるとのことだ。
根津の紹介は四人で終わった。しかし、明らかにその四人だけじゃない。部屋の壁を沿うように多くの気配を感じ取った。
恐らくはこの学校の教師だろう。
気配がピリついて警戒している。
扉の向こうにも何人か…これはきっとさっきの警察官達だな。
四人以外の全員が臨戦態勢。何人かは緊張しているのか、脈拍が早かった。俺が暴れ出したら速攻で袋叩きにするつもりだろう。分かるだけでも向かいに…犬みたいな息遣い、ハウンドドックか…それと………コイツもなんか息遣いが荒いな…体調が悪いのか?
「なぁ、体調悪いやついねぇか?なんかハウンドドックの隣辺りに息遣いが荒いやつが居るぞ」
「はい?」
その言葉に項羽以外の全員が目を向けた。
そこには、少し火照った顔でなんだかちょっとヤバイ目をしながら項羽を見つめるミッドナイトの姿があった。持っていた鞭を握りしめて、軽く悶えながら興奮するその姿は、まさしく性の捕食者そのものだった。
そして、全員から見られている事を知ると、顔を背けて下手な口笛を吹いて誤魔化していた。
のちの聴取によると、彼女は実力の高い生徒がガッチガチ(意味深)に拘束されて自分達に取り囲まれてるこの状況に興奮していたと供述していた。
どうしようもない変態であった。
「気にするな、何でもない。…だが、夜道には気を付けろよ」
「おい待て、何がいる?無視できねぇぞ」
「…というか少年、誰が居るのか分かるのかい?」
「見えねぇよ。けど音と匂いと気配で大体は分かる。俺の横あたりにプレゼントマイクいるだろう?なんか存在が煩い」
「heyhey!なんつう言い草だよ、heavy eyes boy!!」
「ほら、うるせぇ」
「…どうやら無駄に高い目隠しを装着させた意味はなかったようだな」
聞くところによると、この目隠しは万象儀対策らしい。確かに見えない分精度は落ちるが、俺が無差別に万象儀を撒き散らせば、あとは感覚で誰が誰だが分かるんだからな。
分かったらこれ外してくれ。なんかつける位置が悪いのか顳顬辺りがムズムズすんだ。
え、無理?ちくしょう。
顳顬の痒みを諦めて、元の調子に戻ったネズミが話したそうにしていたので喋らせる事にした。願わくば入学式の時のように長々と無駄な話をしないでくれると助かるんだが。
「さて、気を取り直して!黒籍項羽くん、どうしてここに呼ばれたのかわかるかい?」
「……授業を途中で抜け出してきたこと?」
「そうだね。生徒が教師の許可なく授業を途中退出。そして授業が終わっても帰ってこなかった。いくら雄英が自由な校風を売り文句にしているとは言え、これはいただけないね」
「さーせん」
「わかれば宜しい」
「…さて本題に入ろう」
ネズミが満足げに頷くのをなんとなく感じた。ありがとう。話を短く終わらせてくれて。
しかし、A組の担任が今のやりとりを無視して口を開いた。アンタといい、さっきの偉そうな警官といい、なんか言ってくれよ面白味のない。
「聞きたいことは四つ。まず一つ目…襲撃時、USJ内は敵により電波障害が発生して校内にはなんの知らせもなかった筈だ。だが、お前は授業を抜け出しUSJに乗り込んだわけだが、どうして気付いた?」
「…自分の直感ってやつをよく信じているんだ。今回もそれに従っただけだ。心配になって出久、…緑谷と爆豪に連絡してもなんの反応もなかったから、なんかあったと思って乗り込んだだけだ。あぁ、麗日と飯田にも掛けたな。与太話だと思うがこんだけだよ。単純だろう?」
「…そうだな。麗日と飯田の着信履歴にもお前の名前が残っていたと知らされた。ついでにここに居るオールマイトさんにも電話していただろう。…生憎、俺はそんなものに疎くてな。信じられないが、信じるしかあるまい」
「そりぁどうも」
「HAHAHAHA!黒籍少年から電話が来た時は何がなんだが分からず焦ってコーヒーを溢してしまったよ」
「…二つ目だが」
「え、無視すんの」
A組の担任の華麗なるスルーっぷりに思わず素でツッこんでしまう。おい、隣みろよ。俺見えねぇけど絶対しょんぼりしてるぞあのガイコツ!
あぁ、ほら見ろ。なんかオールマイトを励ます声が聞こえてくる。隣に居る刑事さんに慰めさめられてるじゃねぇか!
「お前と敵との関係性。生徒たちの証言からお前が敵たちに名前を呼ばれていたと聞いているが…お前、ヴィランと関わりがあるのか?」
「…ヴィランぽい顔をした幼馴染なら分かるが、あの連中とは初対面だ。敵との関わりも一切ない」
「なら、どうしてヤツらはお前の名前を知っていた?聞くところによればお前らは地元でヴィジランテもどきの活動をしているらしいじゃないか?そこから情報が漏れたんじゃないのか?」
「それに関してはなにも言えないな…。まぁ、確かに…ボランティアはしてるけどそんな危ないことまでは首を突っ込んでねぇぜ?」
「あはは、ボランティアか!面白い言い方をするね。警察の間じゃ有名だよ君たち。逮捕命令が出てもいいぐらいなのに何故か上が口を濁して君達を逮捕しようとしないんだよ。むしろ連れてくるなって」
「権力持ってるやつの弱みはいっ〜ぱい握ってるからな!」
「えぇ…なにその気持ちのいい笑顔…。ちょっと、おじさん怖いんだけど」
俺がそう言うとオールマイトとネズミは口を引き攣らして、刑事は愉快そうに笑い声を上げた。
A組の担任は再び呆れたように息を吐いた。
「………はぁ。まぁ、いい。三つ目だ。これは四つ目と関係するんだが…お前が個性の結界から出てきた直後に持っていたあのナイフは何だ?」
「…正直、もうお手上げ状態でね。構成物質もナゾ、どうやって作られたかもナゾ、とにかく膨大なエネルギーを持っていることだけは分かったけどそれがどうしてなのかもナゾ。今も研究職の方々が頑張ってくださっている最中さ。あのナイフを持っていた君なら何か知ってるんじゃないかとね」
顔色を伺うような刑事の声に俺は少し考えた。
話の内容から察するにコイツらは廻り者に関して、全くの無知だと言うことが分かる。じゃなきゃこんな質問はしない筈だ。
もしもここでペラペラと喋ってしまえば考えうる最悪が起こる可能性が高い。しかし、ここで知らぬ存ぜぬを通しても、後々、これから活動するにあたって支障をきたすのは目に見えている。
今はまだ廻り者による被害が少ないからこうして大人しく尋ねてくるが廻り者の手によって深刻な被害が生じれば、すぐさま廻り者狩りを開始するかもしれない。そうなれば罪のない廻り者の立場まで危うくなる。
俺やアレクサンドロス、ソロモン、ラムセスのような強力な才能を持った廻り者が現れて。もし、何万何百万と大勢の死者が出るような事件となれば、間違いなく人類側は廻り者の殲滅を実行するだろう。攻撃的な廻り者から無害な廻り者まで統べ括らず…無差別に。
それだけは勘弁願いたい。
俺はもう同胞達が死んでいく様は見たくねぇ。
「…あぁ。俺は、その枝の正体を知っている」
だから、
「枝…?ナイフではなく?」
話すことを選んだ。
「いいや、枝だ。けど、話す前に。ここにいるのはヒーロー科の教職員の殆どがいると思っていいか?」
「…何故、それを言わなくちゃならない?」
警戒しながら、訝しがるA組の担任の声と共に周囲の人間の雰囲気が変わった気がする。
「確認だ。これから俺が、話す、見せることは多数の人間が共有した方が俺としては得だから」
「…この際だから言うが、今、お前にはヴィランとの共謀した疑いがかけられている。お前の実力も加味して、こんな大掛かりな拘束だってしてる。そんなお前に、その質問を答える気は毛頭ない」
拒絶するような物言いに何人かが相澤を窘める。しかし俺は構わず、話を続けた。
「…これから俺が見せるのは、お前らが知りたい情報と、俺が辿ってきた現世と前世の全てだ。結構長いが根気強く見て貰いたい」
「何を言って…!?」
誰かが言い終わる前に項羽の体から万象儀が溢れ出る。
万象儀の奔流は瞬く間に部屋全体に広がり、あらゆる物を飲み込んでいく。あまりの浸食の速さに臨戦態勢だったプロヒーローすら対応しきれず、なす術もなく飲み込まれたものが多かった。
唯一、根津校長と塚内警部を抱えた相澤とオールマイトは天井付近に逃れることが出来た。しかし、その顔はどれも苦い面持ちだった。
相澤が項羽がいるであろう場所を個性で睨みつけるが部屋に広がる黒の濁流は消えず、歯軋りする。
オールマイトが拳を突き、拳圧で発生させた突風で万象儀を吹き飛ばすと窪みができるように吹き飛ばすも、その穴を埋めるようにすぐさま万象儀が流れ込んでいき、何事もなかったかのように元に戻る。
「オールマイトさん…あなたが黒籍項羽は安全だと言いましたがこれは許容出来ません!完全にアウトですよ!!」
刻一刻と増していく万象儀に相澤が柄にでもなく吠える。
それに対し、オールマイトは危機的状況にも関わらず、苦い顔をするわけでもなく、黙りこくったまま項羽の発言について、深く考えていた。
(『辿ってきた現世と前世の全て……』やはり彼は前世の記憶があるのか…。やはりそれならば彼の実力と行ってきたことに説明がつきやすい。…しかし、本当にそんなことがあり得るのか?自分で出した結論でも突拍子があり過ぎる。いいや待て待て。今はそんな事どうでもいい。彼はどうしてこんな事をする。逃げるため…?いいや、それならこんな追い詰めるようなことしなくても、彼なら簡単に我々を抑えて逃げれるはずだ。だとするなら……)
懐から携帯電話を取り出したオールマイトはそれを軽く操作するとすぐさま懐に戻し、相澤に顔を向けた。
「相澤くん、聞いてくれないかい!」
「なん、ですかオールマイトっ。手短にお願いしますよ!」
「私を信じて、飛び込んでくれまいか!?」
「…正気ですか、あんた?」
「正気さ!もちろん予防線は張っておく、今、外にいる警官たちに1時間以内に私からの連絡がなければ通報してくれと連絡した。心もとないと思うがここは彼を信じる私を信じてはくれないか?」
「……これで大変なことになったら絶対に赦しませんから覚悟しておいてくださいよ!」
「OK!!じゃあ行こうか!」
===============
宙を漂うような浮遊感が体を包み込んでいた。
此処ではない暗闇の向こうで二つ瞳が私を覗いている。
見られているというのにそこに嫌悪感は湧かず、逆にその瞳に吸い込まれるように私は、見入っていた。覗き込む瞳には、誰かから視たような映像が延々と流れて、その中で生きているようだった。
時折、瞳の中の彼らが視点の主の名前を呼ぶような素振りを見せるが、名の部分だけ霧がかかっているようで、薄ぼやけてしまってうまく聞こえない。
その名を知っている気がしたが目覚めた時のような微睡みが体を満たして頭がよく働こうとしなかった。
それでも瞳の中の人物たちは口早に誰かの名を呼んだ。
小僧
項羽
重瞳の
王
項羽様
項羽!
こうちゃん
項羽さん
「記憶旅行は閉幕だ。早く起きてくれ、先生方」
気がつくと、私たちは先程居た校長室へと戻っていた。
この部屋を満たしていた浮遊感漂う黒色と二つ瞳の世界は消え去り、極彩色の世界へと戻っていた。
拘束されていた筈の少年は、拘束具の一切を付けておらず、最初からそうだったかのように制服に着替え、平然とそこに座していた。
辺りを見渡せば万象儀に飲み込まれて移動したと思っていた家具類も全て元の位置に戻っていた。外に控えていた警察官たちもこんな騒ぎがあったのに突入してこないのを見る限りこの部屋の状況に気付いていないようだった。
周りにいる教員たちも皆一様に少年に見せられた光景に頭が追いつかず、混乱しているのか、声も出せず狼狽えるばかりだ。
やがて一番早く落ち着きを取り戻した根津校長が口を開いた。
「…今、見せたのは全て本当にあったことなのかい?」
「あぁ、勿論…だがこの世界のことではないだろう」
…一瞬のようでとても永い夢を見ているようだった。
現実味を帯びない世界を壊してしまうほどの四人の怪物の競いを
同胞の為に奔走するも、夢半ば折れてしまったことも
無二の友を殺めてしまった過ち
苦渋の決断
同胞の本懐を遂げさせるための戦いと託したものを
最後の少女の成就と共に迎えた彼の終わりを
彼の歩んできた生き様を見せてもらった。
少年は徐に席を立つと私の前まで歩くと私の頬を指で傷つけた。
「どうだった、俺の人生は?」
無機質なようで、何処か温もりを感じる二つ瞳の問いに私は少し考えてしまった。
目の前の少年が一介の高校生から逸脱しているのは知っていた。
けど今はそれ以上に目の前で静かに笑って見せる少年に、畏敬すら覚える。
「上手くいかなくて、もどかしかっただろ。俺も今思えば、もう少しやりようがあったと思う。だが、あの頃はあんな方法しか思い浮かばなかった」
懐かしむように目を閉じる少年の顔はどこか悲壮的に見えた。
確かに『項羽』の人生は思い通りではなかった。
仲間のために身を粉にして働きかけても、思うようにいかず、やっと扇寺西耶というきっかけと共に廻り者の団結化を図るも、何者かの手によってその目的も阻まれ、扇寺西耶と決裂してしまう。
瀕死の状況に陥っても親しい仲間たちには生きてほしいと願うものの、その仲間たちは自らの命を差し出し、自らを救ってくれた王を傷付けた者たちへ敵討ちを望んだ。
結果…彼は、仲間を抱えて自死の道を選んだ。
傍から見れば到底、納得のいくことの出来ない結末。
「……それでも、意義はあったよ。絶対に…」
「…俺もそう願ってるよ。あんがとなオールマイト」
照れ臭そうににやりと笑うと手を軽く振って自身の椅子に戻ると「よっこら世界最強とっ」と、いつも通り独特の掛け声で腰掛けた。そして我々の方に目を向け、小さく微笑んだ。
「さて、俺がガキの頃から取り組んできた慈善活動も、どうして俺がこんな記憶を見せたか、分かるだろう。根津校長」
「うん。十中八九、ボクの後ろ盾が欲しいんだろう?」
「そうだ。ネズミでありながら英雄育成機関の最高峰の学校に校長として座し、個性道徳教育の権威である、世界的な『偉人』。そんなアンタなら廻り者を保護してくれるだろう?」
「ああ、勿論いいのさ!…けれど条件がある。君の友達、『廻り者』。その中には社会に仇なす能力を秘めた者たちもいるだろう?いや衝動と言った方がいいかな?それは本人の意志に反して否が応でも増幅していく欲望。…僕はね。それに呑まれてしまった人たちは処分しようと思っている…。それでもいいかい?」
「…俺は一度、その線引きに失敗している。いいよ。お前らの基準で決めて貰って構わない。…だが我儘を聞いて欲しい。どうか…選定をする時には慎重に進めて欲しい。罪人格の廻り者は大半は過激で凶暴だ。でもその中でも、望まず才能に溺れて、苦しんでいる奴もいる。だからどうか…杜撰に選ばないでくれ、俺の仲間を、大切な同胞を、色眼鏡なんかで見ないでくれ。…それだけが唯一の願いだ。頼む…」
膝と手をつき、彼は地面に伏せて我々に背中を曝け出した。
慣れていないのだろう。姿勢からは粗さが見えていたが、真摯で誠実さが表わされていた。
この姿を見て、何も思わない者がこの部屋にいたのなら、私はその人を殴り飛ばしてやりたい。彼の行いを苦悩を軽いとは口が裂けても言えない。
根津校長も私と同じことを思ったのだろうか、ニッコリと微笑む彼に語りかける。
「君の善行を見せられて、そんなに重たい頭を下げられては私たちは何も言えないよ。分かった、見極めはしっかりやるよ。その時は君の意見も聞かして欲しいね」
「…ご厚意、感謝する」
そう言い、彼は再び、深々と頭を下げた。
その後はとんとん拍子だった。
少年は監視という名目で雄英に在籍し続けることに。
事情が事情な為、廻り者の情報は彼の記憶から抽出してデータとなり輪廻の枝と共に上に報告された。彼も素性も一部改竄して提出されることとなった。もしも、過去に世界を破壊した、破壊し尽くせるほどの能力を持っていると知られるとなると彼の将来は劇的に変わってしまうから。
たとえ世界を壊しうる力を持っていても彼が破壊的になる可能性は低く、彼を上に差し出すには心苦しい。
これはその場にいた大人たちの総意だった。
段々と終わりの雰囲気に近づいた頃、彼が突然、真剣な表情になった。
「…耳郎響香、八百万百、上鳴電気。…この三人の両親と面会することは出来ないか?」
その質問に我々は首を傾げた。
「………?出来ないことはないが何故だ?」
「あの三人はフィッシュから目を離した俺のせいで死んでしまった。俺が三人の安全を確保する前に戦いに向かってアイツらを蔑ろにしたせいでフィッシュに食われてしまった。殺したのはフィッシュだが、これは俺の責任だ。ちゃんと謝らないといけねぇ…」
悲痛な面持ちでそう口にする少年に私たちは怪訝な表情でお互いの顔を見渡した。
「それに廻り者になる前がクソ野郎だったとしても、廻り者は俺の仲間だ。…出来ないことは分かっている。けど仲間としてフィッシュの罪は俺が背負って「ちょちょちょ、ちょっと待って黒籍少年。一回待ってストップ!」
今度は少年が怪訝な顔をしてこちらに顔を向ける。
大体のことを理解した私は隣にいる塚内くんに説明してもらう為に彼の考えていることをそっと耳打ちした。
初めは何のことか分からず困惑していた彼だったがやがて頭の中で全てが合致したのか、思わずなのだろう、吹き出してしまった。
私は慌てて、口を抑えて面白そうに笑う塚内くんを窘める。
なんことかさっぱり分からない周囲の空気を痛く感じた。
やっと落ち着いたのか、目尻に浮かんだ涙を拭き取って真剣な調子を取り戻した塚内くんは口を開け、少し嬉しさを含んだような声色で話し始めた。
「いやぁ、すまない。取り乱してしまった。えぇと、耳郎響香さん、八百万百さん、そして上鳴電気くんのことだよね。いやぁホント。君は根っからの善人らしい」
「…なに、笑ってんだ刑事さん。笑い事じゃねぇんだよ。…三人、俺のせいで死なせたんだ。本当なら謝罪ぐらいじゃ足りない……」
沈痛な面持ちの黒籍少年を見て、再び、塚内くんが肩を震わせ始めた。耳打ちで「不謹慎だけど、彼、面白すぎない」と、声を震わして私に報告してくる塚内くんの小脇を肘で突いて早く話すように促した。こうやって塚内くんに代わりに事実を伝えてもらい、自分だけ責任逃れしようとしている自分を情けなく思いながらも、こんな思い悩んでいる黒籍少年にこの事実は伝えづらいと私は自身を正当化した。
またもや笑い始めた塚内くんに思うところがあったのだろう。怒気を孕んだ目で塚内くんと私を睨みつけ、彼が唸った。
「さっきから、何をわらっていやがる。笑い事じゃないと言っているだろう」
「いや、その…どこから説明したらいいものか…。もしかして君は襲撃時セントラル広場付近に出来ていた血溜まりのことを言っているのかい?」
「…あぁ、八百万百の足と上鳴電気の無線機、耳郎響香のイヤホンジャックを血溜まりの中にあったのを見た」
項羽の言葉に、質問した塚内、察していたオールマイトは「ああ、やっぱり」と言った表情をして息を吐いた。何のことかさっぱり分かってなかった教員たちの中でも事件のあらましを知っていた者たちは合点がついたのか嬉しそうに、微笑みを浮かべた。
結構重たい話をしているつもりなのに周りから生暖かい笑みを浮かべられ、項羽は怒りを通り越して、その光景に気味が悪くなってきた。
項羽が言わんとすることを遮るように気まずそうな顔をしたオールマイトが口を開いた。
「えっとだな、黒籍少年。君が懸念しているようなことは起こってない。三人の親御さんには謝らなくていいし、謝罪したいなら生きているその三人に言えばいい。そもそもその血溜まりに関して三人は全く無関係なんだから」
オールマイトの言葉の意味が分からず項羽はあられもなくキョトンとした顔になる。しかし徐々に言葉の意味を察し始めたのか震える声で質問し始めた。
「八百万の足は…?」
「それは脳無に喰われた女ヴィランの足だ。八百万くんの足は両脚ともしっかりくっついてるよ」
「耳郎のイヤホンジャック…」
「ただの千切れたジャック部分だね」
「無線機…」
「に見えた音楽再生機。因みに食べられたのは女ヴィランだけで今言った二つは全部その女ヴィランの所持品だよ」
「……………」
「八百万、上鳴、耳郎の三人は全くの無傷。君の指示通りに動いた三人は出口についてクラスメイトたちと保護されるまで一緒にいた。…まぁつまり、君の勘違いってことになるね!」
「」
その後、自分の発言の恥ずかしさに悶えに悶え苦しんだ項羽の姿が見たとか見えなかったとか。
最近、夏目友人帳見たんですが思ったより二次創作なくて軽くビビってる。
BLは絶対あると思ってたのに(((((殴