この素晴らしい世界に祝福を!アナザー・ユニバース・アイアンマン   作:Tony.Stank

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第9話 鉄男式課外授業

 敵指揮官をデリバリーした後、真っ先に城へと向かい、今は夜空の元でホバリングし、バルコニーに呆然と立つクレアを見ている。

 

「スターク殿……なのか?」

 

 僕はマスクを開けて。

 

「ええ。俳優のスコット・バイオではありません」

「スコット……? えっと……」

「なんでもないのでお気になさらず。着地したいので、部屋に戻って貰っても?」

「あ、あぁ。了解した」

 

 クレアは頷くと、そのままバルコニーの扉から応接室の中へと戻って言った。

 

 ゆっくりとバルコニーにホバリングして近づく。

 

「その鎧も……貴方の技術で作られたものなのか……? どこからどう見ても神器……」

 

 ありえないものを見るかのようなクレアの視線を浴びながら、月夜をバックに手を広げて自慢げに笑う。

 

 カッコつける事に意味があるのかというと、当然ある。

 

 カッコよく見えるという事は、好感を得られるということ。

 好感を得られるということは、交渉の成功率が高くなるということだ。

 

 証明完了。

 

「これも私が作った装備のひとつ……この最高傑作は渡せませんが……先程映像で見せた防衛システムならいくらでも提供いたしましょう」

 

 言いながら、バルコニーの床の上まで移動する。次は着地をキメる。

 

 スタッと華麗に。

 

「パワーオフ」

 

 僕の声に反応して、スーツの飛行電源が落ち、そのままバルコニーに着地する。

 

 バキャッと足元から変な音がして、急に背が縮んだかのように視線が瞬時に下に落ちていく。前を向いたままにも関わらず。

 

 ‥‥……そう。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

「ス、スターク殿おおぉぉぉおお!?!?」

 

 本日二度目のクレアの悲鳴を聞きながら、地面に急降下していく。

 

 落ちる途中、下層の何かの屋根やらバルコニーの床やらを何枚も突き破り、時には分厚い屋根に弾かれ、全身に感じる衝撃が二十を超えたあたりでようやく止まった。

 

 最後に、上から降ってきた瓦礫が顔の真正面に直撃して砕け散る。

 

 早めにマスクを閉じておいて良かった。

 

『ボス、大丈夫ですか?』

「………………」

 

 次はスーツをもっと軽量にしよう。そしてこの程度で壊れるバルコニーも大改造してやる。

 

 確かな決意を胸に秘め、仰向けに転がっている自分の体を起こす。

 

 辺りを見回すと、ついさっきもあった門番と目が合った。

 どうやら地上まで落ちてしまったらしい。

 

 今回も門番は時が止まったかのように固まっている。

 まるで先程のまま止まり続けているかのようだ。

 

 とりあえず気さくに手を振っておいて、またクレアの元へと飛び立った。

 

 一体いくら請求されるやら。

 参ったな。今は元の世界にいた頃の財は無いんだが……。

 

 むしろクエストで稼いだ分しか無い分、僕は今その辺の一般人以下の貯蓄しかないというわけだ。

 

 …………この天下の大金持ちであるトニー・スタークが、借金の心配をすることになるとは…………。

 

 

 ▽

 

 

 その翌日の事。

 

 交渉中突如起こったプレゼンのチャンスをモノにし、高評価を得て見事借金を背負った僕は、まだ日も出て間もない早朝のアクセルでクリスを待っていた。

 

 この僕が……借金…………。

 

 借金はどうしようも出来ないが、屋根やバルコニーを破壊した件が交渉に影響することは無いとはクレアに言ってもらえたが…………。

 

『幸運の女神に感謝すべきかな?』とか思ってた自分が馬鹿馬鹿しい。

 

「おはようトニー」

 

 なんて、異世界で借金を抱えるハメになった自分の運命に苦笑いしていると、クリスの声が横からかかってきた。

 

「おはよう、来たかクリス。よくもやってくれたな」

「えぇっ! あたしなんかした!?」

「昨日王都に行って、いい事あったと思ったら借金を背負わされてね」

「あの、なんであたしが謝らなきゃいけないのか分からないけどごめんね……」

 

 納得いかなそうな顔で謝ってくるクリス。

 僕も納得いかないと思う。

 

「冗談だ、本気にするな。トニー・スタークだって八つ当たりしたくなる時はあるのさ。ほら、里に行くぞ、僕に掴まれ」

「うぅ……やっぱりそれかぁ……ふぅ、ちょっと心の準……って、あああああああああ!!! 心の準備をさせてってばああああああああ!!!」

 

 なにかごちゃごちゃ言っていたクリスをわきに抱え、そのまま雲一つない空へと飛び立った。

 

 

 

 マッハで飛ぶとクリスが空中分解してしまうので、ゆったりと飛ぶこと一時間。

 だんだん慣れてきたのか、クリスは綺麗な銀髪をたなびかせて遊覧飛行を楽しんでいた。

 

「慣れると楽しいね、これ」

「気持ちいいだろ?」

「うん……あの、ところでさ、トニー」

「……なんだ?」

 

 …………が、楽しそうだったクリスの声のトーンは急に真面目な感じになり。

 

「銀髪の義賊は……捕らえてどうするつもりなの?」

 

 彼女はあまり乗り気ではないみたいだ。

 実際、直接口に出してはいないものの、ギルドで聞きまわった時は義賊を支持するような声が多かった。

 僕もすごい奴だとは思っている。

 

「同じ職に同じ髪色で情でも湧いたのか? そうだな……警察に身柄を引き渡すつもりだが……」

「まっ、やっぱりそうだよね……」

「……だが、その後のことは僕は知らない。捕まえるとき少しお話して、良い奴だと分かったなら……もしかすると、手が滑って脱走のお手伝いをしてしまうかもな?」

「どんな手の滑り方さ、それ。ふふっ」

 

 クリスはそうやってクスッと笑った。

 

「里が見えてきたぞ。当機はまもなく着陸致しまーす」

 

 ジョークを言いつつ、学校の職員玄関の前にゆっくりと着陸する。

 クリスを降ろし、スーツを脱いで玄関のドアを開けて。

 

「君が臨時講師になる事は僕が族長に昨日伝えておいた。ほら、入れよ」

 

 そう言ってクリスを手招きする。

 

 

 

 職員室でクリスを軽く紹介し、教室に向かう途中の廊下。

 

「ス、スターク先生……そちらのイケメンな人は……」

 

 自分の教室に向かう途中だったのだろうか。背中にリュックを背負ったまま、僕らを……いや、正確にはクリスの方を見る生徒二人組の姿が。

 その視線には、好奇のソレが混じっている。

 

 僕は二人を見た後人差し指を額に当てて。

 

「あー……ふにくらと……どろんこ」

「ふにふらですけど!?」

「どどんこですけど!? 先生! まだ日にちが浅いのは分かりますが生徒の名前くらいは覚えてください!」

「そうですよ! キャラの薄いどどんこはまだしも何であたしまで!?」

「……えっ?」

 

 突然コントを始めた二人に思わず笑いがこみ上げる。

 

「HAHAッ! いいコントだったよ、ブラボー。おかげで覚えられた、ふにふら、どどんこ君。だがもう始業のチャイムが鳴る。なるまでに席についてないと減点だぞ。ほら早く!」

 

 そう言って手をパンパン叩くと二人とも慌てた様子でバタバタと教室の方へ走り始めた。

 

「スターク先生! コントじゃないですから! それと、ふにふら! 後で話あるからね!」

「ス、スターク先生! 後でカッコイイポーズについて特別訓練を……あ、それと……」

 

 ふにふらとどどんこは、途中でピタッと止まって僕らの方を見て。

 

「「そのイケメンの人のこと、良かったら教えてくださいねー!」」

 

 それだけ言って、二人は教室の方へ走っていった。

 

「イケメンだとさ。よかったな?」

「何が!? 何もよくないよ!? あの、キミ達! あたしは女だからね!?」

 

 クリスは叫ぶが、もう遠くまで走ってて曲がり角まで曲がってしまった彼女達には届いてそうにない。

 

「まぁ、後で自己紹介をする機会はある。その時言えよ」

「そんなに……男っぽいかなぁ……」

 

 自信なさそうに、自分の胸のあたりをペタペタと触りだしたクリス。

 彼女はいつもの盗賊としての衣装を着ていて、露出は多めながらも胸はしっかり隠しているのだが…………。

 

 胸が小さいことは決して悪い事じゃない。

 僕は慰めるようにクリスの肩に手をそっと置いて優しく揺する。

 

「僕の恋人だって胸はつつましい方だ。元気出せよ」

「まだ何も言ってないんだけど?」

 

 

 ▽

 

 

「それじゃ出席を取る。あるえ、かいかい、さきべりー」

 

 名簿を片手に次々とみょうちくりんな名前の生徒を呼んでいく。

 それは、学校じゃよく見る光景。出席の確認だ。

 

 僕に名前を呼ばれ、一人ずつ挙手して返事をしていく生徒。

 一人だけ次のページに書いてあるせいでうっかり呼び忘れそうになったゆんゆんもしっかり呼んで。

 

「これから授業を始めるぞ。昨日夜届いた紙はちゃんと見たかな?」

「スターク先生、昨日届いた紙には課外授業があるので弁当と水筒を持参としか書かれていませんでしたが……どこかへ行くんですか?」

「その通りだあるえ。僕らは今日、丸一日使って遠出する。何を隠そう、君達にはちょっとしたサプライズをしたくてね」

 

 僕のサプライズという言葉にそわそわし始める生徒達。ティーンらしくて何よりだ。

 

「これから冒険者を目指そうとしてるやつはいるか?」

 

 僕のその質問に、ぽつりぽつりと手が上がる。

 ……思ったより少ないな。

 

 たしか、族長から聞いた話によると……。

 

「まぁ、確かに君たちは危険なクエストに行かなくても、魔道具職人なんかになって稼ぐことが出来るだろう。だが……」

 

 そこまで言って腕時計からホログラムで映像を出す。

 それは、資料用に撮っておいたクエストの一部始終で、僕とクリスとダクネスがモンスターと戦ってる様子が映し出されている。

 

 ちなみに撮影したのはドローンだ。

 

「……だが、こんな風にモンスターを仲間と協力して倒し……酒場でその日あったことを話しながらパーッと宴会……」

 

 僕の説明に合わせて映像は切り替わり、次に出てきたのは酒場でクリス達と宴会してる場面だ。

 資料用ではなく思い出用。

 ノスタルジーに浸る趣味は持ち合わせていないのだが、将来元の世界に戻った時に、この世界にいた証があってもいいかと一応撮っておいたものだ。

 

 なんだか隣でクリスがニヤニヤしてる。

 なんだよ。

 

 それを見た生徒たちは、どこかおとぎ話に憧れる子供のような目になって…………実際子供だが。

 

「冒険者として過ごすのも……なかなか楽しそうだろ?」

 

 生徒たちは目を輝かせたまま、コクコクと頷いて。

 

「知らない土地とかを旅したり……イケメン冒険者の仲間と恋に落ちたりかぁ……なんだか、夢が広がるね」

「う、うん……家の魔道具店を継ぐつもりだったけど、その前に世界を見るとか言って冒険者やってみるのも悪くないかも……」

 

 どどんことふにふらの、そんな他愛のない会話が、さらに周囲の冒険者に対する憧れの気持ちを強くする。

 

 ここまで冒険者人生賛美に持っていくつもりはなかったが、ナイスアシストだ二人とも。

 

 僕は数年暖めたプロジェクトを、胸を張って発表する時のような顔と声色で。

 

「それでは諸君、よく聞いてくれ…………今から……諸君らには…………」

 

 大仰そうな身振り手振りと溜めに生徒たちが息を呑む。

 

 

「僕のクエストの見学兼お手伝いをしてもらう」

「「「「ぃやったあああああああ!!!」」」」

 

 教室内が一気にヒートアップする。

 

「先生! どんなクエストに行くんですか!?」

「先生! どうやってギルドに行くんですか!?」

「先生! 戦ってる時でも後ろについてメモとってていいですか!?」

「先生! お弁当を作る余裕がありませんでした!」

 

 生徒たちが前のめりになり、次々と質問をしてくる。

 特にあるえなんかは今にも教卓の目の前までメモ片手に飛びついてきそうだ。

 最後のアホは放置する。

 

「おい、落ち着け。一つずつ説明するから」

 

 説明のために黒板に色々書こうとチョークに伸ばした僕の肘から先を、窓から飛んできた自動キャッチ型スーツ、Mk.43の一部が機械音を立てて包んだ。

 

 タイミングばっちり。

 

 それを見た生徒たちがさらに興奮し始める。

 

「「「「先生! それについて詳しく!!!」」」」

「ねぇトニー!? なんでさらに話が進まなくなりそうなことするの!? ワザとやってるの!?」

 

 それまで黙っていたクリスが急にツッコミを入れてきた。

 朝日が射す教室にも関わらず、僕は夕日の如き紅い光に照らされている。

 

「ちょっと実験してみただけさ。授業しながらスーツを見せたりしたら楽しんで授業を受けてくれるんじゃないかとね。実験は失敗だ、まるで授業になりそうにない」

 

 

 

 ──大興奮した生徒達をなんとか鎮め、授業に戻る。

 

「銀髪の義賊!? 銀髪の義賊と言いました!?」

 

 クエストの内容を聞いた生徒の1人のふにふらが興奮した様子で立ち上がった。

 

 他の生徒たちの様子を見るに、何人かは知ってるみたいだ。

 

「あの、銀髪の義賊って言うのはなんですか?」

 

 そんな中、おずおずと手を挙げて聞いてきためぐみん。

 ふにふらはめぐみんに実にイヤらしい笑みを浮かべながら。

 

「なーにー? めぐみんったらあの有名な銀髪の義賊を知らないのー? 勉強はできても、王都の流行を掴めてないと……ああっ! 痛い痛い! 文房具投げるなんて反則よ! ちょっ……やめっ……わかった! あたしが悪かったから! もう投げないでよ!!!」

「何が流行ですか! 里の外にも出たことないくせに! 大方王都に魔道具を売りに行った親から聞いたとかそんな所でしょう! ゆんゆん! 次の弾をください!」

「ねぇ、めぐみん!? それ私の文房具なんだけど!? なんで勝手に投げてるの!?」

 

 バカにしてきたふにふら目掛けて、ゆんゆんの机の上からペンやら消しゴムやらをぶんどっては投げつけるめぐみん。

 話が進まない……。

 

 スーツを装着した右手から咳払い代わりにリパルサー・エンジンの音を出して静かにする。

 

「……その通りだ、ふにふら。王都で暗躍し、誰もが捕まえられないでいる大盗賊……。そんな大物を、僕らの手でつかまえる。面白い課外授業になると思わないか?」

 

 生徒たちは目を輝かせ、コクコクと頷く。

 

「良い返事だ。いいか? クエストは、ボードから依頼書を引っペがした時からもう始まっている。クエストを受けたら最初に何をする?」

「はい、先生」

「よし、どどんこ。答えてみろ」

「報酬がどれだけ高いか確認することです」

「帰っていいぞ」

「!?」

 

 どどんこが一瞬で涙目になり、僕は次の回答者を探す。

 

「次、誰か答えるヤツは?」

 

 スっと、生徒たちの中から手が上がる。

 

「いいね。それじゃ、成績一位君、君の答えは?」

「火力の用意です! 圧倒的な火力を用意し、蹂躙の備えをするのです! さぁ! 何点ですか!?」

 

 そりゃあもちろん。

 

「マイナス九十点だ。君はどこの帝国軍だ?」

「!?!?」

 

 僕は眉を八の字にしながら生徒たちの方を見る。

 

「おい、大喜利やってるんじゃないんだぞ? ったく、それじゃ、先輩冒険者に答えを聞こうじゃないか。クリス?」

「おっ、やっと来たね」

 

 空気になりつつあるクリスに答えを振る。

 待ってましたと言わんばかりだ。

 

「紹介するよ、僕のパーティーメンバーのクリスだ。彼女は盗賊職で…………」

「か、彼女……?」

「いや、でもあの声は…………」

 

 生徒たちから聞こえてくるヒソヒソ話にクリスが少し涙目になる。

 

「答えは作戦会議だよ……自分のパーティーの構成や武器からどう戦うか、それぞれどんな役割かで立ち回るか等をみんなで考えるんだ。そ、それと、あたしは女だからね……?」

「どうも、クリス先生。生徒諸君、先生はいじめちゃダメだぞ。それはさておき、最適解が出たな。その通り、作戦会議だ。最初にも言ったが、君たちにはクエストに参加してもらうことになっている。つまり、君たちは臨時のパーティーメンバーって訳だ」

 

 僕は、教卓の上にエヴルー家の見取り図をバサッと広げて。

 

「賢い紅魔族である君たちの知恵、貸してもらうぞ」

 

 

 

 ──二時間後。

 

「この防衛タレットはこの曲がり角に設置しましょう。いい奇襲になると思います」

「それなら攻撃ドローンの配置はこうした方がいいんじゃないかな? これなら死角は存在しなくなる」

「偵察用ドローンと監視カメラをバレないように設置して、油断したところを攻撃ドローンで囲むのは? 効率いいと思うんだけど」

 

 彼女達は広げた見取り図の上に展開させたホログラムを器用に使いこなし、ドローンやターレットの性質すら理解して、悪徳貴族の屋敷をヒドラも顔負けの要塞へと作り替えていた。

 流石知能の高い紅魔族だ。みんなまとめてスタークインダストリーズに欲しい。

 

「フライデーさん、この装置はどういう装置なんですか?」

 

 ホログラムに表示された防衛システムの装備リストから1つを指さし、ねりまきがフライデーに質問する。

 

『それはレーザー探知式地雷です。デバイスから照射される肉眼では不可視のレーザーに触れた瞬間にデバイスが爆発し、ターゲットを即座に無力化します』

「いいですね! これを大量に設置しましょう! 窓という窓に設置したら侵入できなくなるんじゃないですかね!」

「ちょっとやり過ぎじゃないかな!?」

「お目が高いな、ねりまき。だがクリスの言う通り、やりすぎだ。見落としてる点があるぞ」

「んんん……見落としてる点……なんだろ……」

 

 ねりまきは顎に手を当てて悩み、クリスは何故かどんどん怯えたような表情を浮かべていく。

 何かあったんだろうか。

 

「それじゃ、プロの盗賊職に聞こうか。クリス、君だったらどうこの罠を回避する?」

「う、うーん……」

 

 クリスは頬をポリポリと掻きながら、ホログラムで立体になった屋敷の見取り図を見る。

 見取り図に無数に設置された赤い点を見て、どこか穴がないかよーく観察しているようだ。

 

 先程から、生徒たちが防衛設備の配置などを提案しては、盗賊職のクリスが穴を見つけて改善案を出している。

 

 生徒たちは実に目を紅く光らせてイキイキとしている。クリスは何故か顔を蒼くしているが。

 

「おい、大丈夫か?」

「大丈夫……あたしは大丈夫……」

 

 大丈夫じゃ無さそうだ。

 

 少し深呼吸した後に、クリスは答えた。

 

「えっと……盗賊職には罠を検知するスキルと解除するスキルがあるんだ。だから、あまり無闇矢鱈に罠を設置するのは逆効果……だろうね。うん」

「そうですか……だったら、ヘタな罠よりも潜伏無効の生体反応探知式タレットを多数配置して、入れなくしてしまえば……」

「えっ」

「ねりまき、目的は捕縛です。近づけないと悟って屋敷に来なくなってしまっては本末転倒です。良い感じに罠を設置して敵の進入路を絞って誘い込み、そこで盗賊を捕まえるのです」

「えっ」

「完璧な回答だ、めぐみん」

「なるほど! さすが成績一位!」

 

 

 ──それからさらに一時間後。

 

 

「ライトニング・タレット二十門、地雷とワイヤートラップが三十個、ドローン四十機に……監視カメラ、赤外線センサーなどを含めた探知デバイス百二十個、防衛設備の配置はこれで良いな?」

「「「「異議なし!」」」」

「ひぃっ……」

 

 さらに作戦会議を続け、ついに死角なしの無敵要塞が出来上がった。どう考えても過剰だ。みんな楽しんで貰えたようなので別によかったが。

 

「さて、そろそろいい時間だし、全員外に出る準備だ。そこそこ歩くから、体ほぐしておけよ」

「あたしは大丈夫、あたしなら出来る……」

 

 三時間、授業三コマ丸々使って、今は四コマ目の目前まで迫った辺り。四コマ目が終われば昼休みだ。

 それにしてもクリスは本当にどうしてしまったのだろうか。

 幸い、彼女の出番はここまでなので、あとは家に帰ってゆっくりしていてもらいたい。

 

「先生、外に出るって、どこに向かうんですか? まさか歩いて王都に行くとか……」

「まさか。その辺はちゃんと考えてある。まぁ、きっとビックリするはずさ」

「ほう、言っておきますが、私とゆんゆんは、昨日先生に鎧の変形という変形を全て見せてもらいましたからね。おぶって空を飛ぶとかくらいでは感動しませんよ?」

「言うね、千エリス賭けよう」

「ほほう? 実はつい最近教室で千エリス札を見つけまして。いざと言う時の虎の子として取っておく予定でしたが……良いでしょう。その賭け乗りました」

「えっ……ねぇ、どどんこ。あんたちょっと前に千エリス落としたとか言ってずっと探し回ってなかった……?」

「う、うん……どこ探しても見当たらなくって、泣く泣く諦めたんだけど……ねぇ、めぐみん……ひょっとしてそれ……」

「いいんだな? もう取り消しは効かないぞ?」

「先生? その……えっと……」

「望むところです」

「いや待って!? ほんとうに待って!?」

 

 

 ▽

 

 

 四コマ目。

 スターク先生に言われるがまま、外に出て後ろについていたのだが……。

 

「ス、スターク先生…………何故……山登りなんか……ふぅ、ふぅ……」

 

 山を登り始めて三十分。お腹が減る時間なのも相まって、私はかなりグロッキーになっていた。

 今までずっと体育の授業をサボっていたのがアダとなったか。

 

「良い景色を見て良いランチを摂ろうじゃないか」

 

 なんて、ニヒルに笑いながら言う先生。

 何を考えているのかよく分からない。

 安易にかけに乗るべきではなかったもしれない。

 

 少し後悔していると。ゆんゆんが勝ち誇った顔をしながら私に。

 

「情けないわねめぐみん! こんな程度で音を上げるなんて!」

 

 ……………………。

 

「では、余裕のあるゆんゆんにおぶって貰いましょうか。友達というのは、友ごと友の苦しみも背負ってなんぼです」

「と、友達を……背負う…………」

 

 友達という言葉を聞いたゆんゆんは指と指を合わせてモジモジしながら。

 

「し、しょうがないわね……ライバルだから、本当はこんなことしたくないけど……」

 

 こっちに向かってきておんぶの用意をするゆんゆん。

 自分で言っておいてなんだが……。

 

「君の友人…………チョロすぎやしないか? 良いのか?」

「や、やめてください…………ちょっと罪悪感が湧いてきたんですから……」

 

 ゆんゆんに聞こえないように、スターク先生がジト目で責めてきた。

 私を背負いながら、ゆんゆんがスターク先生に。

 

「よいしょっと……あの、スターク先生、ここはただの展望台ですよ? いい天気ですし、見晴らしもいいですけど……何か演出とか考えているんですか?」

「それを言ったら面白くないだろ? それに、君だって青空の下、見晴らしの良い展望台でクラスメイトとランチなんて素敵だと思わないか?」

「は、はいっ! それは素敵ですね!」

 

 クラスメイトとランチという言葉であっさり誤魔化されてしまったゆんゆん。

 …………なんてチョロい。

 

 スターク先生も、さっき私の事をジト目で責めてきたのはなんだったのか。

 

 

 その後、落とした千エリスについてどどんこがあれこれ言ってくるのをのらりくらり回避したり。

 

 スターク先生があるえに『目が見えるのに片目を隠して生活すると視力が落ちる』と注意し、それでも眼帯を外そうとしないあるえに業を煮やして、片手間に眼帯越しでも視界が見えるように改造したり。

 

 木漏れ日に当てられながら、そんなやり取りを続けることさらに三十分程。

 

「はぁ……はぁ……や、やっと着いた…………」

「さすがにつかれた…………」

「お腹ペコペコ……」

 

 クラスのみんなが、口々に弱音を吐きながら頂上の草原にへたり込んでいた。

 並ぶ山脈と、小さく見える魔王城は中々に圧巻の光景だ。

 

「ふ……全員情けないですね……やはり最後に立つのは我……」

「あんた何偉そうに言ってるのよ! ずっと私がおぶってたじゃない! おかげでヘトヘトよ!!」

「途中何度か降ろしてたでは無いですか。流石にスターク先生に代わってもらおうかと思いましたが、身の危険を感じたのでやめましたし」

「おい、それどういう意味だ?」

「しょうがないでしょ! いくら発育が悪くて軽いめぐみんでも、人一人分の重り背負って山登るなんてキツいわよ!」

「ぶっ殺」

「痛っ! や、やめてめぐみん! 叩かないで! 私今疲れてるんだから! ズルい……痛たた!! お弁当分けてあげるから勘弁してぇ!」

 

 気にしているところを突かれ、怒りに任せに放った連撃にゆんゆんが悲鳴を上げる。

 そのままゆんゆんをびしびし叩いていると、後ろから両手を掴まれ、そのまま後ろに引っ張られた。

 私は為す術もなく引きずられる。

 

「な、なにをするのですかスターク先生! 事案ですか!? 事案発生ですか!? 出るとこでても良いんですよ!?」

「何が事案発生だ。落ち着け爆裂レディ。生徒の暴行を止めるのも先生の仕事だ。君の出るとこでてないボディの話は置いといて…………Oh!! おい! 髭を摘んで引っ張るな! ガキっぽい奴だな! 図書館での恩を忘れたのか!?」

 

 それはそれ、これはこれだ。私は今守らねばならない確かなものの為に戦う。

 私は手を振り払い、スターク先生の髭を攻撃する。

 

 …………が。

 

「僕はスーツだけじゃないぞ?」

「あああああああああ!!!!」

 

 疲れ果てたゆんゆんには勝てても、流石に大の大人には敵わない。適当にあしらわれ、そのまま草原にポイっと転がされてしまった。

 

 転がったまま、うつ伏せになって草原に顔を埋める。悔しいわけじゃない。

 

「…………」

「……そんな強く投げ飛ばして無いだろ? おい、大丈夫か?」

 

 ちゃんと考えて投げたのか、私にはかすり傷ひとつ無い。

 

 ……私は首だけちょっと動かし、そのままチラリと恨めしげな目をスターク先生に向ける。

 

「あー……そういう事か。『私は不当な暴力を受けたことに対する慰謝料を請求する』って言いたいんだな? ったく、僕のツナサンド二切れやるから起き上がっ……速いな……」

 

 文字通り、転んでもタダでは起きない。とりあえずゆんゆんからは降伏の証として。スターク先生からは、私を投げ飛ばしたお詫びとして持っていたツナサンドを半分ずつ貰った。

 

 

 草原に座り、視界に並ぶ山脈を眺め、のどかな風を受けながらの素敵なランチも終わり。そろそろ午後の授業に突入するかというところ。

 

 隣に座ってたスターク先生が皮肉っぽく言ってきた。

 

「中々世渡りが上手いじゃないか。今回は君が子供だから見逃してやったが、次こんな手を使ってきたら、僕は本気でやり返すぞ。女に起訴されるのだって一度や二度じゃないんだ」

「なんの自慢をしてるんですか!?」

 

 嫌味で皮肉っぽい、若干問題のある先生かと思っていたが、女癖も悪いとなるといよいよもって教師としてどうなんだというレベルになってくる。

 

 まぁ、鎧のカッコ良さと頭の良さ、それに、授業が楽しいことは認めるが……。

 

 私が先生にツッコミを入れていると、横からあるえがやって来て。

 

「スターク先生、クリス先生はどうしたんですか?」

「あぁ、彼女なら午後に用事があるらしいから帰らせた」

「……どうやって帰らせたんですか? お金を渡してテレポート屋に?」

「いいや? 僕のスーツを装着させた。自動キャッチ型スーツって言ってね。さっき見せたやつなんだが、パーツごとに分離して……これは別に関係ないか。まぁ、体格があってなくても上手く装着させることができるスーツがあるんだよ。正確には、装着できる部分だけ装着させて飛ばしたってのが正しいが……」

 

 あのスーツを……。

 

 ちょっと……いや、かなり彼女が羨ましい。

 ん? 待てよ……もしかして先生が考えているのは……。

 

「わかりました! わかりましたよスターク先生!」

 

 そう言って立ち上がった私を、スターク先生は草原に足を投げ出して座ったまま見上げてきて。

 

「どうしたんだ急に。体を大きくする方法なら既に知ってるぞ」

「違いますよ! 分かったのは、先生のサプライズの……あ、あの……あるんですか? 体を大きくする方法……」

「ああ。牛乳飲め」

 

 今すぐ髭をむしり取りたい衝動に駆られるが、とりあえず抑える。

 勝てない戦いをするものでは無い。

 

「…………はいはい、面白いですよ…………まったく……」

「一番現実的で、一番有効な方法だろ? で、サプライズが何か解ったって?」

「ええ。正解は……先程言っていた自動キャッチ型スーツで、生徒を王都に」

「全然違う」

「んなっ!?」

 

 即答だ。

 

「そろそろ、答え合わせと行くか?」

 

 そう言って、スターク先生は崖の方へと歩き出した。

 …………? 

 

「あの、スターク先生……そっちは崖ですよ……?」

 

 何も答えず、そのまま崖近くまで向かうスターク先生。

 何をするつもりなのだろうか。

 

 そして、崖の手前で止まると、手首に巻いている装置を弄り始め…………。

 

「全員注目。これから王都に向かう。昼飯は食べ終えたよな?」

 

 スターク先生の言葉を聞いて、崖の近くまで私を含めた生徒たちが集まり始める。

 

「どうやって行くんだろ…………」

「あの鎧で運んでくれるのかな?」

「めぐみんそう言ったけどハズレだったみたいだよ?」

「それじゃどうやって……」

 

 と、集まった生徒たちが移動手段について話してた時だった。

 

「…………ねぇ、何か聞こえない?」

 

 最初に気付いたのは誰だったか。

 その言葉に、全員静まり返って耳をこらす。

 

 ………………。

 

 それは、スターク先生が空を飛ぶ時に聞こえて来るのとはまた違った音。でも、どこか似ている。

 

 詳しく言うなら、何かを超高速で射出し、それで推進力を得ている音。

 

 そのまま耳をこらしていると、崖の下からゆっくりと、登る朝日のようにソレは現れた。

 

 その姿を見たねりまきが慌てた様子で叫ぶ。

 

「ス、スス……スターク先生!? なにソレ!? は、羽の付いたデストロイヤー…………?」

 

 崖下から現れたソレは、なんというか…………。

 足をとっぱらった代わりに羽を付けて、平たくしたデストロイヤーみたいな見た目を…………。

 

 ………………!? 

 

 スターク先生は手首に巻いた装置に手をかざしたまま。

 

「フライデー、生徒たちの後方に着陸させろ。後、飛行型モンスターに狙われたくないからステルスモードにしろよ」

 

 スターク先生が『すてるすもーど』と言った瞬間に、私たちの頭上を機体が通り過ぎながら、どんどん透明に…………。

 

 ………………!?!?!? 

 

 最終的には、ほとんど見えなくなってしまった。目を凝らせば空間が歪んでるのがわかる程度だ。

 

 紅魔族随一の頭脳を持つ私を持ってしても、なんなのかさっぱり正体が掴めない。

 

 ズンっと、大型モンスターが降りて来たような音と衝撃がした。

 透明でよく見えないが、おそらく着地したのだろう。

 

 なんだこれは。本当になんなのだろうか。

 

「これぞ、君たちの送迎用スクールバス、通称クインジェットだ。乗り心地はあまり良くないけどな」

 

 私は、ポケットの中に手を突っ込み、千エリスをくしゃっと握った。

 




このすば映画見てきました。映画館で聞く爆裂魔法の音は格別ですね。
特典小説の為にしばらく通うことになりそうです。
ひょっとしたらエンドゲームより足を運ぶことになるかもしれない。
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