この素晴らしい世界に祝福を!アナザー・ユニバース・アイアンマン 作:Tony.Stank
アイスボーンが面白くて……。
ついついMRが100になるまでやってしまいました。
──クインジェット。
出撃するアベンジャーズをいつも乗せていた輸送機だ。クリスたちとのクエストの合間、ラボに残っている数少ない資材をかき集めて作った。
大まかなパーツを作り、わざわざラボの外まで運んで組み立てるのは中々面倒だったが……。
この先技術提供の試供品などを運ぶ際に役立ってくれるだろう。
……まさか最初の役目がスクールバスの代わりとは思いもしなかったが。
「ほら、全員乗ってくれ」
僕がそう言うと、生徒たちの中から声が上がる。
「乗れと言われても、まず透明で見えないんですが……」
もっともな意見だ。
ぱちんと指を鳴らすと、クインジェットの後部ハッチが開き、内部が見えるようになる。
その様は、さながら何も無い空間に突然扉が開いたかのようだ。
「言っておくが、これは魔法でもなんでもないぞ。君たちの知力だったら、教えれば直ぐにコイツの修理なんかもできるようになるだろう」
そう言いながら、空いたハッチの横に立ち、どうぞと手招きする。
みんなで顔を見合わせた後、目を赤く輝かせ、乗り込んで行く生徒達。ちびっ子らしくて実に結構だ。
今、僕のラボには働く人がいない。機械に任せるのも限界がある。
…………外を見せる授業をしたが、行くあてのない子がいたらスタークインダストリーズに後々誘ってみるのもいいかもしれないな。
なんて考え事をしてると、僕の胸に軽い衝撃とクシャッと言う音がした。
「今回の賭けは……あなたの勝利です。次は負けませんからね。逆に私があなたを驚かせてみせましょう」
…………めぐみんが千エリス札と悔しさを僕の胸に叩きつけたようだ。貰っておこう。
生徒が全員乗ったのを確認し、貰った千エリスをバレないようにこっそりどどんこのポケットにねじ込んだ。
▽
一度アクセルまで戻り、ラボを見たがる生徒たちを何とか押しとどめ、ドローンやらタレットのパーツを積む。
それに十一人の生徒も入り、クインジェットの中はギチギチでまさにイワシの缶詰状態だ。
それと…………。
「…………クリスから聞いてはいたが、まさか本当に教師をやっているとはな…………」
クインジェットの助手席に座っているダクネスが、生徒たちをチラリと見たあと、運転席に座る僕に視線を戻してそう言ってくる。
「意外か? あ、君はどのボタンにも触るんじゃないぞ」
「触るか! ……ゴホン、意外といえば意外だが…………生徒たちの顔を見るに、良い教師としてやっているみたいだな」
と、彼女はにこりと笑う。
銀髪の義賊捕縛に当たって、ダクネスにも応援要請を出した。
攻撃の当たらない彼女が役に立つかは怪しいが、僕が作った装備がどこまで機能してるか、また、彼女がどこまで使いこなせているかを見極めるのに良い機会だろう。
……クリスには応援を頼んだのに、彼女だけ除け者ってのもあまりいい気がしないしな。
「しかし、クリスに一体何をしたのだ? トニーが私を迎えに来る直前、ギルドにふらっとクリスが来たのだが、それはもう真っ青な顔をしていたぞ。一体どんな羨ましい目に……い、いや……どんな酷い目に…………あぁっ! その汚らわしいものを見るような目……っ! んんっ! 悪くない!」
やっぱり連れてこなけりゃ良かったかもしれない。
この猥褻物は教育において悪影響しかなさそうだ。
「今……私のことを猥褻物とか考えただろ……?」
「なんで分かるんだ…………いや、言わなくていい。理解できないだろうし、したくもない…………」
顔に手を当ててため息をついていると、遠巻きに見ていた生徒たちがざわめき出した。
「あのスターク先生が見たことも無い顔をしてる……一体何者…………」
生徒たちはダクネスの事をなにやら凄い人物だと考えているようだ。
そのまま勘違いしていてもらおう。
僕は自分とダクネスの席を回転させて生徒たちの方を向き、ダクネスの紹介を始める。
「さて、新しい臨時講師の紹介をしよう。この金髪の美人さんの名前はダクネス。クリスと同じく、僕のパーティメンバーで、職業は上級職のクルセイダー。どんな攻撃も効かない二足歩行の要塞だ」
「「「「二足歩行の要塞…………!」」」」
「ト、トニー!?」
ガラにも無い僕のベタ褒めに、ダクネスが戸惑い、生徒たちは目を輝かせる。
「トニー、一体どういう風の吹き回しだ? いつも私に呆れるか、皮肉を言ってるお前が何故急に私を褒めるのだ? なにかの嫌がらせか?」
僕の方に顔を寄せ、生徒たちに聞こえないように小声でそう言ってくるダクネスに、僕は同じく小声で返す。
「君の救いようのない性癖は子供達の教育上悪影響しかない。だから、君にはみんなに引かれるダクネスではなく、みんなに惹かれるダクネスになれ。なぁに、ほんのちょっと発情を抑えればいいだけだ。簡単だろ?」
「私をなんだと思っているのだ! 人前で恥ずかしい振る舞いなどしないよう、普段からちゃんと心掛けている!」
「ジョークにしてはセンスがないぞ」
なんて、ダクネスと軽く言い合っていると。
「ダクネス先生、質問いいですか?」
後ろの方で生徒たちから手が上がった。
先生として質問されるとは思っていなかったのか、元々無愛想気味な彼女は少しうろたえて。
「えっ……わ、私にか? えっと……貴方の名前は……」
「彼女はめぐみんだ」
先生と呼ばれるのに悪い気はしないのか、うろたえながらも満更でもなさそうな顔をするダクネスに助け舟を出す。
「ありがとうトニー。それで、私に質問とはなんだ? めぐみん」
「はい。スターク先生が言っていた、スターク先生の鎧を見ると何かを期待してハァハァと性的に興奮しだす変態のパーティーメンバーとは、あなたのことですか?」
「!?!?!?」
それを聞いた途端、さっきまでダクネスに向いていた尊敬の眼差しが、一気に変態を見るソレに変わる。
ダクネスの顔が一瞬で真っ赤に染まり、涙を浮かべて僕の方を見てきた。
……そういえば、めぐみんにそんな話をしたっけな。
僕はダクネスに。
「あー……名前までは言ってないが、実はめぐみんに君のことを」
「ぬああああああああ!!」
最後まで言う前に、ダクネスが僕に掴みかかってきた!
▽
「いやはや、お待ちしておりました。あなたがシンフォニア卿の仰っていた異国の神器使いですか。今日はよろしくお願いしますよ!」
今いるのは、今日義賊が入るとされている悪徳貴族のエヴルー家。
「こちらこそ、Mr.エヴルー。今日は貴方の身の丈にあってない、この無駄に金をかけた屋敷と、貴方が悪徳の限りを尽くして貯めた後ろ暗い財産を精一杯守らせてもらうよ」
「!?!?!?」
僕の皮肉を受けて目の前で固まってるのはその邸主であるエヴルー本人だ。
「スターク先生……皮肉がエグすぎますよ……」
後ろでドン引きするゆんゆんに振り返り、肩を竦めていると、固まってた悪徳貴族はハッと我に戻って。
「ま、待ってくださいな……。別に、私は特に悪いことはしてないんですよ? なぜ狙われるのかすら私には見当も…………」
「言っとくが、今まで君がやってきた人身売買と賄賂、脅迫といった数々の犯行はクレアが証拠を押さえてるからな。君捕まるぞ」
「えっ」
「サイッテー」
「クズ」
「詳しくは署で聞こうか…………このセリフ、一度言ってみたかったんだ」
「…………えっ」
後ろで青い顔をする悪徳貴族を尻目に、毒を吐きながら次々と機材を運んでいく僕と生徒たち。
ダクネスは、どういう訳か貴族の屋敷に向かう直前になって急に屋敷に入りたくないと言い始めたので、クインジェットで待機させている。
夜になったら義賊捕縛のために出向くとは言っていたが……。
フライデーと僕の指示の元、次々と罠をプラン通りに設置していく。
良いペースだ。これなら夜までに終わるだろう。
「スターク先生ー! タレットが起動しません!」
「あっ、そ、そこは配線が違うよ、ふにふらさん。この順に繋げば……」
「あ! そっか! ありがと、ゆんゆん!」
「ど、どういたしまして……えへへ……」
友達がいなくて色々こじらせてるらしいゆんゆんも仲良くやってるようで安心だ。
そんな微笑ましい様子を見ていると、ねりまきが何かを大量に抱え、小走りでこっちへと駆けて来た。
「スターク先生、見てコレ! こんなに色々良いモノが……! スターク先生の言った通りだったよ!」
中身が澄んだ琥珀色の液体に満たされている、ブリリアントカットされたダイヤのような形のガラス瓶。
他にも、三日月を象ったものや、シンプルな丸い形ながらも、気品を感じる装飾が施されたもの……。
世界は違えど、僕にはわかる。
これは全て、お宝クラスの高級酒だ。
「でかした、ねりまき二等兵。wow……これはどれも一級品だな」
「サーイエッサー! ところでこの返事って一体何なの?」
「僕の国の軍隊が使う言葉だ。意味は
「なるほど! 状況にあってるね!」
『ボス……子供に嘘を教えるのはどうかと思いますが…………』
「大体あってるだろ」
なんて、軽口を叩いていると、邸主のエヴルーが慌てた様子で。
「あの……それ、私の秘蔵のお酒なのですが……」
「どうせ明日には全て差し押さえられ、君は冷たい牢獄の中だ。今のうちに飲んでおけよ」
近くの棚に飾ってあった二つのグラスを拝借して酒を注ぎ、片方をエヴルーに渡す。
「あ、あははは! それもそうですね! 明日滅ぶんだったら今日は好きに生きましょうか! イーッヒッヒッヒ!」
「いい心掛けだ。素敵な家、素敵な酒、そして少しの後暗い財産。悪徳人生最後の日に乾杯」
と、グラスを口につけようとした時。
「させるかたわけ!! 犯罪者とはいえ、酒をせびろうとするんじゃない!!」
後ろから怒号がし、振り返ってみるとそこには……。
「……なんで来たんだダクネス。ジェットで待機してろと言っただろ。機内上映の内容がお気に召さなかったのか?」
「私だって好きで来た訳では無い! だが、お前の会話が聞こえて来たから、居ても立ってもいられなくなったのだ!」
……………………。
「フライデー?」
『ボス、ジェットとボスの無線が繋がったままでした。設定したままお忘れだったようですね』
「……クソッ」
「口が悪いぞ! そんなことより、授業中なのだろう!? 酒を飲もうとするな! それでも教師か!」
「あの、持ってきた私が言うのもなんだけど……流石に授業中に飲むのはどうかと思うな…………というか、『酒屋の娘として、高級な酒に興味はないか? ここならあるだろうし、今のうちに見るといいぞ』って提案持ちかけてきたのスターク先生だし……まさか飲もうとするとは思わなかった……」
ねりまき、君もか。
そのままどう弁明しようかとか考えながらダクネスと睨み合いを続けていると。
「ダ……ダダ…………ダスティネス卿!?」
ダクネスが現れてからというものの、となりでプルプルと震えていたエヴルーが突然叫び出した。
……ダスティネス卿?
エヴルーの視線の先を追い、ダクネスの方に視線を戻すと、彼女は顔に手を当ててため息をつき始めた。
「はぁ……これだから来たくなかったのだ…………」
まさか…………。
「君は…………」
「……あぁ、その通り、私は貴族だ。…………それも、そこそこ大きめのな…………」
ダクネスは、物凄く申し訳そうな顔でそう言ってきた。
ねりまき以外は、作業に集中していて聞こえていないようだ。
少しの間、沈黙が流れる。
そして…………。
「全員聞こえるかー? 衝撃の事実だ! ダクネス先生は実はこの国の大貴族だったんだとさ!」
「ちょっ!?」
僕の出した大声に生徒たちが手を止め、一斉に僕達の方を見る。
ダクネスは驚愕の表情を浮かべて。
「べ、別に言いふらす必要はなかっただろう!」
「それで、本名はなんて言うんだ? ダスティネス? ダスティネスの後になんて続くんだ?」
ダクネスの言葉を無視して質問をする。
「い、言わない…………」
「Mr.エヴルー。彼女の本名は……」
「わ、分かった! 言う! 言うから……勘弁してくれ……ラ、ララティーナだ……私の本当の名前は、ダスティネス・フォード・ララティーナ…………」
ララティーナは顔を真っ赤にして、モジモジしながら自分の本名を告げた。
ララティーナ……。
僕はにやりと笑いながら。
「ララティーナ! 随分可愛らしい名前じゃないかララティーナ!! みんな聞いたか? 今度から彼女の事はララティーナ先生と呼ぶことにしよう!」
「はーい! ララティーナ先生! 改めて、今日はよろしくお願いします!」
ふにふらが、勢いよく手を挙げ、屈託ない笑顔でダクネスをララティーナ呼ばわりする。
「ち、ちょっと待ってくれ! 頼むから私のことはダクネスと……」
「ララティーナ先生! 貴族だったんですね! 道理で綺麗な訳です!」
「ララティーナ先生! フォアグラにキャビア乗せたり、寿司の上に寿司乗せて食べたりしてるんですか!?」
「するかそんなこと!! ダスティネス家ではエリス教にならい、貧こそ品と…………」
「ララティーナ先生! 貴族には変態が多いって聞いたんですが、さっきのめぐみんの話はやっぱり本当……」
「ぬあああああああ!!!!」
恥ずかしさの限界に達したのか、ダクネスはその場で頭を抱えてうずくまった。
やがてなにかブツブツと…………。
「おかしい……貴族だって分かってからの方がからかわれるとは、どういう事なのだ…………」
忌々しげに言うものの、その声色はどこか嬉しそうだった。
僕は彼女の肩を叩き。
「言っとくが、僕の国じゃ政治家だの国の上層部連中なんてのは普通に文句言われまくってたぞ? なんなら僕自身、呼び出されても逆にからかって投げキッスしながら帰ったくらいだ。貴族だって明かしたくらいで君がちやほやされると思ったら大間違いだぞ?」
「紅魔族だって、権威だのなんだのには屈しない種族ですよ? 王族にだってタメ口ですし」
僕の言葉に、隣に居たねりまきが笑ってそう付け加える。
「別にちやほやされたかった訳では無い……私はただ……」
「まぁ、これで君の何かが変わるわけでは無いから安心しろよ。今まで通り、君はド変態クルセイダーのダクネスだ。君の名前をからかったのは、こっそりラボのグレネードを拝借して自爆して遊んだり、工業用のアームに突っ込んで、フライデーに自分の鎧を剥ぎ取れと命令したりした君に対するちょっとした仕返しさ」
それを聞くと、ダクネスはどこか安心したような顔を浮かべて。
「言いたいことはいろいろあるが……はは、そう言って貰えるのはとても嬉しい。ありがとう」
そう言って、優しげに微笑んだ。
……ダクネスの変態プレイの内容を聞き、となりでドン引きしているねりまきには気がついてないみたいだが。
貴族は嫌いだが、ダクネスからは嫌な感じがしない。
僕が若い頃、亡くした両親から引き継いだ莫大な財産を狙って、色んなやつが僕に近づいてきたもんだ。
おかげでゲスな奴は何となく分かるようになってしまった。
そんな僕が何も感じないのだから、問題ない。
…………他が問題だらけだが。
──それからしばらくして。
午後の授業もフルに使い、ようやくタレットやトラップ等の防衛設備の配置が終わった。
日も落ちかけ、時刻は夕方辺りと言ったところか。
僕の前に生徒たちが整列し、その中から代表するようにめぐみんが前に出て。
「スターク先生。こんな感じでどうですか?」
「あぁ。フライデー、システムチェックだ」
『了解しました、ボス』
僕の手にある端末に映し出されたデバイスのチェック項目に、緑色の光が次々と灯っていく。
オールグリーン。
「みんなよくやった。完璧だ」
僕のその言葉に、生徒たちが目を輝かせ各々ガッツポーズしたり、満足げにため息をつき始めた。
「これだけ準備しておいてこないって可能性もあるんだから、喜ぶのはクエストが終わってからにしておけ」
歓迎の準備は整った。生徒たちも頑張ったんだ、これで来ないなんて肩透かしは止めてくれよ。
▽
クインジェットに戻って待つこと数時間。
空には月がのぼり、窓から射す月明かりでコックピッドが幻想的に彩られている。
もうそろそろ夜中だ。生徒たちも眠そうにしている。
というか、ほとんどの生徒は機材を降ろして広くなった床で雑魚寝して、寝息を立てている。
僕らはエヴルー家の上空でクインジェットをホバリングさせ、義賊の侵入をまだかまだかと待っていた。
しかし…………。
「クリスのカンもハズレたか……? ダクネス、君も寝てていいんだぞ。来たら起こす」
助手席に座っているダクネスに声をかけるが、彼女は腕組みしたまま首だけをこちらに回して。
「体力には自信がある。この程度問題ない」
「そりゃ……頼もしいね」
僕は自分の座っている席をリクライニングし、星満天の夜空を見上げる。
「トニーこそ、椅子を倒して寝そうじゃないか。私が見張っといてやるぞ?」
「星空を見てるだけさ。というか、君警告ランプと電源ランプの区別つくのか?」
「…………? よく分からんが……光れば危険って事でいいのか?」
……この女には絶対に何も触らせないようにしよう。
「盗賊が来たら、フライデーが知らせてくれる。コーヒー飲むか?」
「後ろの生徒に飲ませてやったらどうだ? 特にあの……さっきからトニーが『えいが』と言ってた映像作品を見てる子に…………」
ダクネスが心配そうな顔をしながら後ろを見る。
その視線の先には、タブレットに映し出された映画を見ながら、血走った目でひたすらメモにペンを走らせるあるえの姿があった。
…………まだ見てたのか。
僕はコーヒーの入ったマグカップを片手に、床に転がって寝てる生徒たちをまたぎながらあるえの元に向かう。
「君も寝たらどうだ、あるえ。もう君たちの出番はほとんど終わったんだぞ? 重い機材運んだりして疲れてないのか? それとも、そんなにスターウォーズが面白いのか?」
そう言ってマグカップを渡すと、あるえはそれを手に取って。
「ありがとうございます。ええ、面白いですよ。ダース・ベイダーはとてもカッコイイですね。言動、戦い方、威圧感、生い立ち、そして何より見た目…………全てが紅魔族の琴線にビリビリと来ます。インスピレーション受けまくりですよ。私の小説にさらなる閃を……」
「パクリにならないようにな?」
「い、いや……オマージュ、リスペクトですから……どんな偉大な作家だって、必ず何かの影響を受けているのです。つまりはそういうことです」
珍しく焦ったような表情をし、口早にまくしたてるあるえ。
ちなみに、映画の中のキャラクターのセリフは、自動翻訳機能を使って下に字幕を表示させている。
この異世界の言語も研究の為に真っ先に翻訳機能に登録した。
と、あるえとスターウォーズについて語り合おうとでも思った時だった。
『ボス! 屋敷に侵入者です! センサーに反応がありました!』
フライデーの言葉に、寝てた生徒たちが次々と跳ね起きる。
「わっ! き、来たの!? 銀髪の義賊が!?」
「見たい見たい!」
「ふっふっふっ……見ものだね…………我々が張ったこの地獄の蜘蛛の巣から逃げることは出来るかな…………?」
「技術で築いた恐怖を過信してはいけない……」
生徒たちが次々と屋敷内の映像が映されているコックピッドに殺到する。
早速ダース・ベイダーに影響されてる子がいるが、将来暗黒面に落ちないか心配だ。
群がる生徒たちをかき分け、運転席に座る。
「さて諸君。僕らが築いた要塞の力を見るとしようじゃないか」
「待っていたぞ。銀髪の義賊よ。ついに再会したな。宿命の環が閉じる…………」
この子はいつまでダース・ベイダーに影響されてるんだろうか。
そもそも会ったことすら無いだろうに。
あるえのそのセリフを聞いて、めぐみんが興味深そうにあるえを見て。
「おや、そのセリフかっこいいですね、あるえ。あなたのオリジナルですか?」
「………………そうだよ」
「おい」
僕の視線に、あるえが気まずそうに僕から目をそらす。
ったく、バカやってる場合じゃない。
「フライデー、状況は?」
『現在の東側の廊下を進行中。ですが……』
「なんだ?」
『監視カメラ、小型ドローン、いずれも全て瞬時に破壊されています。正確な姿を捉えられません』
フライデーの言葉に、映し出されている映像に目を向けるとそこには……。
「すごい……まるでカメラの位置が最初から分かってるみたい……」
「なんて無駄の無い軽い動き……」
姿が見えると同時にカメラに向かってダガーを振り下ろし、瞬時に破壊する小柄な影。
映ったのは本当に一瞬だ。月明かりに反射したダガーの一閃しか見えない。
その姿に生徒たちは…………。
「「「「カッコイイ…………!」」」」
…………面白くないな。
「フライデー、攻撃ドローンを出せ。武装をオンラインにして出撃させろ。僕が指揮を執る」
『了解しました 、ボス』
その場で立ち上がり、両手をガバッと広げる。
僕の動きに合わせて操作盤のホログラムが展開し 、月明かりをかき消すほどの光が、イルミネーションショーの如くコックピッドを彩った!
「ゲーム再開だ」
オーケストラの指揮者もかくやと手を振り、次々とドローンを動かす。
「カッコイイです! 今の先生はめちゃくちゃカッコイイですよ!」
後ろから黄色い声援が飛んでくる。
僕は首だけ後ろに回して。
「だろ? 僕の方があんなチビよりカッコイイって事を証明してやるよ」
「せ、先生案外子供っぽいのですね…………」
「何言ってるのよめぐみん、渋いオジサマ系のイケメンが、少し子供っぽいところを出す魅力が分からないの?」
「あなたが何を言ってるのですか!? どどんこ、あなたは今相当ヤバいことを口走っていますよ!?」
『Ms.ポッツにこの事は黙っておきますね』
後ろがやかましい。
僕は目の前の映像に集中する。
ドローンを操作し、センサーが反応を示した場所に向かわせる。長い廊下のど真ん中に立っているようだ。
流石に大量のドローンを一気に潰すことは出来ないのか、今度はその姿をハッキリとカメラの前に表した。
口元をスカーフで隠し、名前の由来であるその白銀の髪は窓から射す月光を反射し、キラキラとオーラのように淡く光っている。
「さて…………どこまでやれるか見せてもらおう」
三機を同時に突撃させ、捕縛用ネットランチャーの射程圏内まで距離を詰める。
十メートル、八メートル、六メートル……。
「今だ!」
射程圏内に入ると同時に、ランチャーの砲門を義賊に向ける。
この狭い廊下なら避けられないだろう。
これで…………。
『『スティール』ッ!』
ドローンに内蔵されたマイク越しに聞こえる魔法の詠唱。
気が付けば、義賊の手にはドローンの一部が握られていた。
パーツを奪われたドローンが下に落ち、その機能を完全に停止させる。
…………いきなり出てきたな。
僕がこの世界で一番警戒している魔法。
それは、雷の上級魔法でも、炎の上級魔法でも、爆裂魔法でもなく。
盗賊が使うあの魔法…………スティールだ。
効果は単純明快。相手の持ち物を一つ奪う。ただそれだけだ。
モンスターなんかに使っても、武器でも持ってなければ大して意味の無い魔法だが…………。
一部の敵には、致命的なまでの効力を発揮する。
……そう、複雑なパーツで出来たゴーレム系統の敵に対してだ。
この特殊な効果に目をつけた僕は、クリス達とパーティを組んでた時に、クリスに頼んである実験をした。
もし僕のスーツが
結果は予想通りだった、僕のスーツのパーツが一瞬にして持ってかれた。
石ころを持つなど対策法はあると言えど、僕にとっては天敵ともいえる魔法だ。
それにしても……。
「ピンポイントで主要パーツを持っていくとはな……」
「そ、そっか…………あれもゴーレムのような扱いになっちゃうのか……」
「ったく、つくづく嫌な魔法だよ……!」
悪態をつきつつも、攻撃の手は緩めない。
ネットランチャーを装備したドローンを再び前に出す。今度は五機。手数で勝負だ。
そして後方の攻撃ドローンに機銃掃射させる。もちろん当てるつもりはない、けん制の弾幕だ。
マズルフラッシュの閃光が薄暗い廊下を断続的に照らし、放たれた弾丸が窓ガラスを粉砕し、石畳の床を削る。
大抵の奴はこれにビビってまともに動けず、ランチャーで楽々捕縛って流れだ。
……が。
何を思ったのか、義賊はまっすぐ走り、手を前にかざしてすかさず叫んだ!
『『スティール』ッ!!』
義賊の放ったスティールによって、前衛ドローンが一機撃墜され、無残なガラクタと化して義賊の足元に転がる。
そしてそのまま破壊したドローンを手に持ち……。
『うぉぉおおおりゃぁぁあああああッッ!!!!』
ドローンを盾に、弾幕の中に突っ込んだ!
「「「「はっ、はぁぁあああッ!?」」」」
「ッ!?」
生徒達が叫び、僕も思わず手が止まる。
その現状を知ってか知らずか、チャンスとばかりに義賊は畳みかけてくる。
「回避……ッ!」
いや! この狭い廊下ではそれはできない! 作戦を逆手に取られた!!
隊列を組み、弾幕を張っていたドローンの編隊にガラクタを交えたタックルが突き刺さり、四方八方へとドローンが散る。
「ス、ストライク……」
生徒の誰かが、そんな言葉をボソッとつぶやいたが、ジョークを返してやる暇もない。
見事な一手だが、タックル程度で壊れるほど僕のドローンはヤワじゃない。
散ったドローンも、すぐに体勢を整え、今度こそ捕縛……。
そう考え、ドローンに攻撃命令を出そうとした瞬間。
義賊が懐からワイヤーを取り出し、円盤投げのようなフォームを見せた。
月明かりに反射し、手に持つワイヤーの元から先端へキラリと光が走る。
あれは……鋼鉄製のワイヤーだ。
義賊は体制を崩したドローンの群れめがけ、鋼鉄のワイヤーを水切り石を投げるかのように水平に投げた。
そして……。
『『バインド』ッ!』
義賊が詠唱をすると、投げつけた紐が意思を持ったかのように動き、ドローンを次々とからめとっていく。
散らばっていたドローンが鋼鉄の紐によって、一塊へとまとめられた。
「これは……!」
間髪入れずに義賊は一枚の丸まった紙のようなものを取り出す。
「せ、先生! マズイです! 義賊の狙いは‥‥!」
めぐみんが叫ぶが、最後まで言い切る前にその丸まった紙を開き、まとまったドローンへ向けて叫んだ!
『『ライトニング・ストライク』ッッ!』
「ぐっ……!」
思わず目をつぶってしまう。
バヂッとはじけるような音とまばゆい閃光が発生し、ドローンからの映像がまとめて途絶えた。
「バカな……今のは……」
今のは雷の上級魔法…………。盗賊職のはずの義賊がなぜ‥‥!
「スクロールです……銀髪の義賊は、上級魔法が封じ込められたスクロールを使ったんです……」
口を開いたのは、ゆんゆんだ。
彼女はそのまま話を続ける。
「伝導性のある鋼鉄のワイヤーで巻き取り、電撃の魔法でドローンを全てショートさせたんだと思います……」
「なるほどな……」
手を下ろし、手動の操作を終了する。展開していたホログラムの光も消えた。
「あ、あの……操作……もう止めちゃうんですか?」
生徒の一人が不安げに聞いてくる。
「そうだぞトニー……どうするつもりなのだ? このままでは……」
続くように、隣で黙って見ていたダクネスも。
「スターク先生、まだ何か策があるのですか?」
そして、めぐみんも。
僕はただ黙って椅子に座り直し、クルリと向きを百八十度回す。
「このままドローンをぶつけても、全て無力化されるだろう……タレットも同様だ……」
重々しく語る僕の言葉に、生徒たちの顔がどんどん暗くなっていく。
そんな顔をするなよ。話はまだ終わっていない、依頼もだ。
言いながら、椅子のひじ掛けに付いているボタンを押す。
刹那、椅子の一部が変形、展開して僕の体にスーツを纏わせていく。
「「「「!?!?」」」」
見事だ、義賊君。第一ラウンドは君のポイントとしよう。
だが……。
「だが……策ならある──」
立ち上がり、クインジェットの後部ハッチを開く。
カンッと、第二ラウンドのゴング代わりにマスクが閉じる音を響かせ。
「──戦う」
ダクネスを連れ、月明かりと紅い眼光を背に、義賊の元へと急降下した!
▽
……上手く行ったけど、生きた心地がしない。
特に、あの弾幕に突っ込んだときはさすがに死ぬかと思った。
トニー……まさか屋敷をここまで要塞化させて来るとは思ってもいなかったな……。
作戦会議に参加していなかったらまず突破は無理だったろう。
でも、まだ気は抜けない。
私は足元の床や壁に張り巡らされた罠を慎重に解除して進んでいく。
それにしてもえげつない罠だ。
一つの罠を解除しようとしたら作動する罠や、作動してしまったら衝撃波で瞬時に意識を奪ってくるような強力な罠が蜘蛛の巣のように張り巡らされている。
……本当にえげつない。
なんにせよ、ドローンはほとんど破壊したし、タレットもドローンも敵感知スキルで居場所を特定してからスティールで安全に処理できる。
「フフフ……この世界の先輩としての面子を……何とか保てたって」
感じかな。
そう独り言をつぶやこうとした時だった。
「──!」
はるか上空に敵感知に反応が。
……上空!? こ、これは……。
速い! ドローンの速度なんかじゃない!
しかも二つ……!
敵感知に反応があってからほんの数瞬。
ドゴンッと凄まじい衝撃と破壊音がし、とっさに腕で顔をガードする。
一瞬で廊下が砂ぼこりに覆われた。
て、天井を突き破ってきた……!
「な……何!?」
粉砕され、穴が開いた天井から月の明かりがスポットライトのごとく穴の真下に降り注ぐ。
その光は、静まってきた砂ぼこりの中に二つの影を浮かび上がらせた。
「そ、そりゃそうか……これだけやったんだったら……直接出向いてくるに決まってるよね……」
砂ぼこりの中に、三つの光が見える。
それはまるで、暗闇に光る魔物の目のようで、されどどこまでも無機質な光で。
「やぁ、銀髪の義賊君。初めましてかな? 君……ヒーローなんだって? サイン貰えるかな?」
「神妙にしろ、侵入者。国を守るのがこのダスティネス一族に課された使命。ここから先には一歩たりとも進めぬと思え」
どうしよう。本当にヤバいかもしれない。