この素晴らしい世界に祝福を!アナザー・ユニバース・アイアンマン   作:Tony.Stank

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今回ちょっと長いです。切りどころがわからなくてな……。


第12話 爆ぜろ焔のつむじ風

【システム再起動中……】

【損傷個所確認……損傷率21%……エネルギー供給回路、および武装に異常なし……外部装甲に損傷を確認】

【バイタルチェック完了……診断結果……軽度の脳震盪と軽度の打撲】

【システム再起動完了……F.R.I.D.A.Y.オンライン】

 

『ボス、ボス! 起きてくださいボス!』

 

 ……? なんだ……? 

 

「スターク先生! 起きてください! 大丈夫ですか!? スターク先生!」

「めぐみん、なんてことするのよ! 先生を吹き飛ばすなんて!!」

「まさか先生が空を飛んでいるとは思わないではないですか!」

「ねぇ、スタークおじちゃん生きてる? 大丈夫?」

 

 叫び声がスーツ越しにビリビリと響いてくる。

 

「こ、これどうしたらいいんだろう!? 鎧越しだから、心音も聞き取れないし……」

「お、落ち着くのですゆんゆん……まずは兜を開けるのです!」

「いやあんたこそ落ち着きなさいよ!? その手に持ってるでかい石は何よ!? あんたまさかそれで……」

「そのまさかです! これでぶっ叩いてこじ開けましょう!」

「でっけぇ貝を食べるときみたいだね」

 

 うるさいな……。一体誰だ? 

 ゆっくりと目を開けると、視界にHUDが映し出す様々な警告が目に飛び込んで来る。

 ……Wow、衝撃で全身があちこち歪んでいる……。ったく、一体何を食らったってんだ? 

 というか……。

 

「……君何してるんだ?」

「せ、先生!!」

 

 僕の声に気が付いた三人娘の顔がぱぁっと明るくなる。

 ……いや、違う。そうじゃない。

 

 めぐみんがゆんゆんに肩を貸してもらいながらも手に握りしめるソレに、僕の目は釘付けになっていた。

 

「めぐみん、君手に何持ってるんだ? 目覚めのキスの用意には見えないんだが」

「見ての通り、石です。これで兜を破壊しようと思いました」

「……それから?」

「……ゆんゆんが人工呼吸をする予定でした」

「ええっ!? 私にさせる気だったの!?」

「ゆんゆんのファーストキスは鎧のおじちゃん?」

「やめてこめっこちゃん! 変なこと言わないで!」

 

 別にこんな小さな子供にキスされても全くうれしくないが、こうも嫌そうな反応をされるとそれはそれで腹が立つ。

 が、彼女らのコントに乗ってる暇はない。

 とりあえず確認しておかなくてはいけないことがある。

 あの大爆発の正体だ。

 

 僕はマスクを開けてめぐみんに問いかける。

 

 もし僕の予想が正しければ……。

 

「なぁ、めぐみん……さっきの大爆発なんだが……」

 

 僕の言葉に、めぐみんとゆんゆんがびくりと震える。

 

「……あれ、君がやったのか?」

 

 めぐみんはそのまま、小さくこくりとうなずいた。

 やっぱりか……。

 

 体を起こし、ふとめぐみんを見ると、彼女はひどく表情を沈ませていた。

 

 ……なんだよ。念願の魔法を手に入れたってのに。

 

「あの……ごめんなさい、スターク先生……巻き込んでしまって……」

「Huh? 別に謝る必要なんてないさ、大したことなかったしな。あ、それと魔法取得おめでとう。これで君も卒業だな。ピザでも取ってお祝いパーティーなんてどうだ? 王都に美味い店があるんだ。僕なら世界一早くピザのお届けが出来るぞ?」

 

 ペラペラと軽口をまくし立てる僕に対して、めぐみんはクスリと笑って。

 

「……先生は優しいですね。そんなボロボロになっているのに軽口を叩くなんて……」

「いや、実際大したことなかったから言ってるんだよ。僕が作ったミサイルの方が強い」

 

 僕が鼻で笑ってそういうと、今度はめぐみんの眉がキリキリと吊り上がり……。

 

「ほうほうほう! 言ってくれますね!! 鎧がこんなになって地面でしばらく伸びてたクセに!!」

「これはすることがなくなったから横になってただけさ。スーツだって少し煤が付いた程度だよ」

 

 僕はめぐみんの前に腕を突き出し、アームミサイルやペタワットレーザーの射出機構を展開したりと、パーツをガチャガチャと動かしてみせる。

 すると吊り上がってた眉が戻っていき……。

 

「………………」

「……いや、見とれてどうするんだ」

 

 僕のツッコミにめぐみんがハッとした表情を浮かべて。

 

「そ、そうです! スターク先生! 急いでここから離れないといけません!」

「なんでだ?」

「先ほどの爆裂魔法で、里の大人たちが集まってきています。この状況が見られるのはあまりよくありません。というか、誤魔化すのがめんどくさいです」

「めんどくさいってあんた……」

 

 肩を貸してもらいながら気だるげにそう言うめぐみんにゆんゆんが呆れたような視線を向ける。

 

「なるほどな……爆裂魔法使いってまだみんなにはバレたくないわけか。頭がどうかしてると思われるもんな?」

「うぐっ……そういうことです…………いずれ覆してみせますがね!」

「ゆんゆんは知って……いや、詳しい話はあとで聞く。とりあえず僕に掴まれ」

「すいません……こめっことこの子もお願いします」

「うなーう」

 

 くたびれた様子のめぐみんの目線を追うと、そこには空を飛ぶのは初めてなのか、目を輝かせるこめっこと、こめっこに抱かれてる謎の黒猫がいた。

 

 ……翼とか生えてるんだが、本当に猫なんだよな? 

 

「とりあえずそれぞれの家まで送り届けてやる。手の力を緩めるなよ!」

 

 全員がつかまったことを確認してから、それぞれの体に電流を流して手が開かないようにし、めぐみんの家へと飛び立った。

 

「あの、なんかすごい手がビリビリするんですけど!」

「我慢しろ、落とされたいのか!?」

 

 

 ▽

 

 

 ──それから数日。

 あの時、里の人たちが来る前に飛び去ったのと、めぐみんが引き起こした大爆発は僕の試作武器の実験結果だと誤魔化したおかげで、あまり大ごとにはならなかった。

 

 いや、試作武器って言葉に反応した紅魔族達にあれこれ聞かれたが…………。

 まぁ、 結果オーライだ。

 

 翌日僕と担任教師のぷっちんでこってり絞ってやったが。

 

 それと、一連の騒動で学校は休講となったが、魔法を覚えたというめぐみんとゆんゆんは学校に呼び出されていた。

 

 めぐみんはまだしもゆんゆんまで魔法を覚えているとは意外だ。

 しかも、冒険者カードによると習得したのは上級魔法ではなく中級魔法。

 

 この里ではみんな上級魔法を使えて当たり前。

 

 なんでも、めぐみんが邪神の下僕と対峙するこめっことペットの黒猫を守るために、爆裂魔法の夢を捨てて上級魔法を取ろうとしたところをゆんゆんがかばい、自分が中級魔法を取って邪神の下僕と応戦したとか。

 

 この秘密は、現場に居合わせた者達を除き、僕と担任教師であるぷっちん以外は誰も知らない。

 

 ……ったく、群れの動向を観察するよりも攻撃されている人間がいないか探すことを優先すべきだったな……。

 

 優秀な魔法使いだらけの紅魔の里だからと、油断した自分に少し嫌気がさす。

 

 そして、大爆破を引き起こした張本人はと言えば……。

 

 

「スターク先生……爆裂魔法が撃ちたいです……」

「……本気で言ってるのか?」

 

 里の小さな公園のベンチでサンドイッチを食べる僕の横に座り、うなだれながらそんな物騒なことをつぶやいていた。

 

「超本気ですよ! ただひたすら追い続けてきた念願の爆裂魔法を手に入れたんですよ!? 我慢しろって方がおかしいじゃないですか!!」

「だとしても、僕の試作武器の実験で通し続けるのだって限界がある」

「じゃぁ限界が来るまで撃たせてください。限界が来たら次の策を考えましょう」

「なめるな」

「そこを何とか! ほら、私がどれだけ爆裂魔法を愛しているか、再び聞かせてあげますから! まず、先日撃った爆裂魔法の……」

 

 膝の上に乗せた黒猫を撫でくりまわしながら、めぐみんが爆裂トークをかます。熱意が伴っている分、世界安全保障委員会の役員共の小言よりやかましい……。

 

 教師になった手前、自分の好きなことに突き進もうとする生徒の背中は押してやるべきだとは思うが、毎日人里で破壊兵器の実験をしてるアホ扱いを受けるリスクなんて背負いたくな……。

 

 ……ん? 背負う……? 

 

「……そして、やがては世界を爆焔の渦の中に……スターク先生? どうしたんですか? 私の話を聞いていましたか?」

「……僕にいいアイディアがある、ちょっとそこで待ってろ。僕のサンドイッチ食べるなよ」

 

 余ったサンドイッチを布に包んでその場に置き、ベンチの横に待機させたスーツに身を包み、王都へと向かった。

 

 

 ──数分後。

 

 店まで飛んで必要なものを王都で買いそろえた僕は、再び公園のベンチ近くに着陸してスーツを脱ぎ、袋の中から買ってきたものを取り出して見せてやる。

 

「さーて、喜べめぐみん。現状をこいつで改善でき…………」

 

 ……口元にパンのカスを付け、頬を膨らませためぐみんに。

 

「……おい、僕のサンドイッチ食べたのか?」

「ふぃいえ。ちょむすけが食べました」

「んのーう」

「……首振ってるぞ」

 

 頬の中のものを飲み込んだめぐみんが、ちょむすけと呼んだ黒猫の反応をみて、ワザとらしく驚いたような挙動をする。

 

「人の言葉を解するとは! さすがは我が使い魔! 素晴らしいです!」

「人であるその主人は僕の言葉を理解できてないみたいだけどな?」

「まぁ、過ぎたことはいいじゃないですか。それより、いい考えとは何ですか?」

「ハァ……ったく……ほら、このおんぶ紐を腰に回せ」

 

 そう言って、王都で買ってきた丈夫な革のベルトをめぐみんに渡す。

 めぐみんは不思議そうな顔をしながら受け取り。

 

「ベルト……? これでどうするんですか?」

「ようは爆裂魔法を撃っても里の中で騒ぎにならなきゃいいんだろ? だったら簡単だ、里の外で撃てばいい」

「それってまさか……」

 

 僕の意図に気が付いためぐみんが、期待した目で僕を見て、ゴクリと喉を鳴らす。

 

 僕はスーツを再び装着し。

 

「さて……どこに撃ちに行きたい?」

 

 ニヒルに笑って、マスクを閉じてみせた。

 

 

 ▽

 

 

「はぁー……ヒマっすね、サヴィエ隊長」

「気を抜くんじゃねぇ、ヴィドル。戦場では何が起きるかわかんねぇんだぞ」

 

 ここは王都攻撃の為の主要拠点。

 駐屯してる兵士たちは激戦区の王都へ喜んで攻め込む血の気の多い連中ばかりだ。

 

 現在我が魔王軍は優勢で、王都へ攻め入ることはあっても、向こうからこの拠点に攻め入ってくることはほとんど無い。

 

 なので、こういう拠点防衛の方はハズレ扱いされ、こうして部下も退屈そうにしている。

 

 だが兵士たるものそうじゃいかんと、俺は欠伸をしている部下のヴィドルを叱る。

 

「すいやせん、サヴィエ隊長。ところで、ここ数日の所で、王都に妙な動きがあるそうですよ」

「あぁ、連中が防衛線に何が作ってるって話か。どうせアーチャーや魔法使い用のトーチカってオチだろ」

「それが、偵察部隊の話だと、なんだか複雑な部品で作られててトーチカには見えないとかなんとか……」

「ハッ……まっ、あそこまで追い詰めてんだ。いまさら何ができんだって話よ。勝利は目前だぜ」

 

 なんて、世間話をしている時だった。

 隣で眠そうにしていたヴィドルの目が、カッと見開かれた。

 

 こいつは狙撃手のアーチャー並みに目が良い、信用できる。何かを見つけたに違いない。

 

「おいヴィドルどうした?」

「ロ……ロリっ子が飛んでる……」

「バカにしてんのか」

 

 やっぱこいつの目は信用ならねぇ。

 

「いや、マジですって隊長!! なんか空飛ぶ変なゴーレムに乗った幼女が、おぞましい表情でこっちを見てるんっすよ!」

「マジでおちつけ」

 

 俺から見ても、正直空にはポツンとした点しか見えない。

 どうせ鳥型のモンスターなんじゃないのか? 

 

 そしてこのかわいそうな部下の頭には後でポーションをかけてやろう。

 女にモテなさ過ぎて気がおかしくなってしまったに違いない。

 

「あっ! サヴィエ隊長!! 幼女がまたがっているゴーレムからナニか出てきました! 棒状の……」

「テメェいい加減にしろよ! 今すぐ頭をぶっ叩いて正気に……」

 

 部下の頭めがけて拳を振り下ろそうとした瞬間。頭上を何かが通り過ぎ……。

 

「「ぎゃぁぁあああっっ!!」」

 

 俺たちの背後にある拠点の門が盛大に爆発した。

 重さ一トンはあろう鉄の扉が宙を舞い、地面をえぐりながら倒れる。

 

「な、なな……なんだ一体!?」

「あの空飛ぶゴーレムがやったんすよこれ! あのゴーレムが出した棒状の何かが飛んで来たかと思えば……」

 

 まさかこのアホの部下が言ってることがマジだとでもいうのか? 

 とりあえず、襲撃を受けてることは間違いない。

 

「なんだなんだ!」

「敵襲か!?」

 

 吹っ飛ばされた門の中なら武装した精鋭部隊の味方がゾロゾロと、完璧な隊列で出てくる。

 

 ……しかし、それが狙いだったのだろう。

 部隊が狭い門に集中し、固まったところを狙う気だったのだろう。

 

 魔法職である部隊の一人が、すさまじく青ざめた顔で、うわごとのようにつぶやいた。

 

「な……なんだ……この膨大な魔力は……こんな魔力の流れ……どんな大魔ほ……」

 

 ……俺も歴戦の戦士だ、魔法職のように魔力を感知できるわけじゃないが、これだけは分かる。

 俺は……いや、ここら一体にいる俺たちは……今ここで死ぬんだろう。

 

 となりにいる部下のヴィドルも察したのか、覚悟を決めた顔で俺の方を見る。

 

 ……最後はマヌケなことばかりほざいていたが、今まで俺の部下として良く頑張ってくれた奴だ、死ぬ前に、ねぎらいの言葉位かけてやりたい。

 

「ヴィドル、今まで俺と戦ってくれてて感謝……」

「サヴィエ隊長、あなたのことが好きでした」

「えっ」

「『エクスプロージョン』ッッ!!!」

 

 詠唱の声が聞こえた刹那、まるで幾千万の雷が同時に目の前に叩きつけられたかのような音と衝撃に襲われ、周囲一帯の大地がめくれ上がり……。

 

 最期に見えたのは、粉みじんになって吹き飛ぶ仲間たちや、建物が砕けた破片が嵐の中の紙のように宙で引っ掻き回されてる光景だった。

 

 ああ、これは数多の兵を殺してきた俺達への神による罰とでも──……。

 

 

 ▽

 

 

「くっくっく……ははは……あーはっはっはっはっは!!!!」

 

 めぐみんは、僕の背中でロキでもしなさそうな高笑いを上げながら頭を振り回して大喜びしている。

 

「楽しんでいるようで何より」

「それはもう!! 今のでレベルが四も上がりました!!! 人生で一番スカッとしています!!」

 

 なんだかんだで僕もスカッとした。

 

 しかし爆裂魔法……すさまじい威力だ。

 この一撃があれば、ウルトロンを倒すのだってはるかに楽になっただろう。

 

 この世のあらゆる破壊兵器を見て、作って来た僕が思うんだから間違いない。

 機動力さえあれば、彼女は本当に世界最強の戦術破壊兵器になりうるだろう。

 

「そりゃよかった。それじゃ、また明日だな」

「ええ! 今から明日が待ちきれません!!」

 

 

 ──こうして、僕とめぐみんの爆裂空中散歩が始まった。

 

「さぁ、今日も絶好の爆裂日和ですね!」

「もちろんだ。準備はいいか?」

 

 僕はめぐみんを背負い、昨日襲撃した所と同じところへ向かう。

 

 そして…………。

 

「『エクスプロージョン』ッッッ!!!」

「うわあああああ!!! またゴーレムと幼女だ!」

「あぁっ! スターク先生!! だいぶ撃ち漏らしてしまいました!」

「僕に任せろ」

「ぐあああああ!!! また大爆発が起きた! 誰か助け…………ぐはっ!」

 

 時にはめぐみんが爆裂魔法をぶち込み、時には僕がミサイルとリパルサーの雨を降らせ。

 

 

 ──敵は次第に。

 

「来たぞ来たぞ! 総員準備!」

「よくも俺たちの仲間を吹き飛ばしてくれたな! 『ライトニング』!!」

「『カースド・ライトニング』!!!」

「HAHAHAHAHA!! 回避行動を取るまでもないな!」

「あ、あいつらなんであんな遠くから攻撃出来るんだ! これじゃ魔法も矢も射程距離外だ! 当てられない!」

「爆裂魔法の射程を理解せず勝負を挑んでくるとは、なんと無謀な……食らうがいい! 『エクスプロージョン』ッッ!!」

 

 

 ──反撃することをやめ。

 

「う、うわあああ!! また来やがった!! 例のイカれゴーレムとイカれ幼女だ!!」

「建物に退避しろぉぉおおっ!!」

「めぐみん、僕がバンカーバスターで建物の屋根を吹き飛ばす。君は空いた穴からあの哀れな連中に爆裂魔法を叩き込んでやれ」

『ボス。バンカーバスター、いつでも使えます』

「発射!!」

「ぎゃぁぁあああっっ!! 俺たちの要塞がぁぁああっ!!」

「『エクスプロージョン』──ー!!!」

「HAHAHAHA!! まるで藁の家に隠れる子豚だな!!」

 

 

 ──逃げ惑い。

 

「今日も仲間が死ぬ……どうあがいても止められない……」

「ああっ! 来る! 死ぬ!! みんな死ぬーっ!」

「そういえばこの前、グパヤマに会ったぞ。シポムニギでな。君によろしくと言っていた」

「オレのそばに近寄るなああ──―ッ」

「『エクスプロージョン』──―ッッッ!!!」

 

 

 ──頭も狂い始め。

 

「今日も元気にしてましたか? 爆裂魔法のお時間ですよ!! ふわはははははは!!」

「エリスによろしく伝えておいてくれ。おっと、胸に違和感を感じても何も言ってやるなよ?」

「ひぃぃいいいっ!!」

「わかった! 俺達が悪かった!! もう王都に攻め入ったりしないし、人間も襲わない! 約束する!」

「森の中で暮らしていきま」

「『エクスプロージョン』!!!」

 

 

 ──ついには。

 

「……? おい、めぐみん。敵の様子がおかしい。大勢がわざわざ平原まで出て、正座をしてるぞ」

「……ほう? なんのつもりかちょっと聞いてみようじゃないですか」

「「「「僕達、全面降伏します!!!」」」」

「『エクスプロージョン』──ッッッ!!!!」

 

 ほんの僅かな間に、めぐみんは大幅なレベルアップを終え、敵の基地は更地になった。

 

 

「──ねりまき君。彼女に冷えたジュースを」

「はーい」

「むう……私もお酒を飲んでみたいのですが……」

 

 僕とめぐみんは、敵の基地を更地にした記念でちょっとしたお祝いをしていた。

 

「あ、スターク先生。お酒仕入れに行ったお父さんが言ってたんだけど、王都がなんだか騒ぎになってるんだって」

「へぇ。どんな?」

「なんでも、王都に攻めてくる敵の規模が急に小さくなったらしくて、攻撃のチャンスだと敵拠点に攻めに行ったら基地ががれきの山になってたんだとか。誰がやったのか全く分かってなくて困惑してるみたいだよ」

「そりゃ凄いな。きっと恐ろしい何かがあったに違いない」

 

 そういって、めぐみんの方をちらっと見て鼻で笑うと、めぐみんも得意げに鼻で笑い返して見せる。

 

「はい、スターク先生にはクリムゾンビアー、めぐみんにはノンアルコールのカクテルね」

「それじゃ、めぐみんの大戦果を記念して、乾杯」

 

 乾杯の合図と共に、めぐみんが持つコップと僕のビールジョッキをぶつけ合わせる。

 

「へぇー、めぐみん魔法覚えてすぐ戦果をあげたんだ! 凄いね! さすがは成績一位!」

「ふっふっふ……当然です……!」

「僕のクリムゾンビアーから目を放してから言えよ。……ったく。そんなに飲みたいのか?」

 

 お酒が気になってしょうがない様子のめぐみんに、ジョッキを差し出してやる。

 

「えっ……良いんですか……?」

「一口だけな。……なんだよ、飲んでみたいんじゃなかったのか?」

「た、確かにそうですが……教師がこうもあっさりと許可を出すとは……」

「別に味見するくらいなんだってないだろ。子供が酒飲んじゃいけないって法律もないしな」

「あーあ、スターク先生いけないんだー」

「口止め料やるよ、世渡り上手君」

「そうこなくっちゃ」

 

 茶化すねりまきに、皿の上にあったおつまみのナッツという名の口止め料を指で弾き、ねりまきがそれを口で軽くキャッチしてみせる。

 

 そして、年相応の子供らしいワクワクとした顔で、めぐみんがクリムゾンビアーの入ったジョッキに恐る恐る口をつけ……。

 

「うげっ!!」

「マズイだろ?」

「に、苦いです……」

「友達にもそう言ってやれ」

 

 そう言ってめぐみんのジョッキをとり、おつまみを口を放り込んで咀嚼してから一気にクリムゾンビアーを流し込む。

 

 しばらくお酒を楽しんでいると。

 

「そうだ、めぐみん。バイトは上手く行っているの? なんだかあちこちで面接を受けては落ちてるって聞くけど」

「あっ、その話は……!!」

「なんだ? 君はバイトしてたのか?」

「正確には……バイト探し中ですが……」

 

 さっきまで上機嫌だっためぐみんが、急に渋い顔をし始めた。

 

 面接を受けては落ちてる……どうやら何かありそうだ。

 

「なんだってバイトを? 家計を支える為か?」

「いえ、違いますよ。どうせ稼いだお金を家に入れても、父が全て使えないガラクタのような魔道具開発につぎ込んでしまうでしょうし」

「僕の親父もロクでもなかったが、君の親父も別ベクトルでロクでもないな」

 

 めぐみんはため息を一つ吐き。

 

「……私は、アクセルへ向かいたいんです。そのためには、まずアルカンレティアへテレポートするためのお金が必要で……」

「だったら僕がスーツで……」

「いえ、それでは駄目なのです」

 

 僕が最後まで言う前に、めぐみんがそれを遮って話を始めた。

 

「私は、あの人に自力で会わないといけないのです。だから、自分でバイトを見つけてお金を貯めたいのですよ」

 

 その話を聞いて、ねりまきはうんうんと腕を組んで相槌をうっている。

 めぐみんの言う、あの人ってのはおそらく知らないんだろうが、きっと紅魔族流のお約束だと思っているのだろう。

 

「……なるほどな。で、面接落ちてる理由は?」

「えっと……それは……わ、我の膨大な魔力を前に、えっと、その…………」

 

 …………僕なりの推理だが、爆裂魔法という全身全霊の魔力を込めて撃つ魔法しか使えない彼女は、魔力を込める作業というものが出来ないのではないだろうか。

 

 まともな調整が利かない彼女の膨大な魔力を流し込まれたら、どんな魔道具でも耐えられそうにない。

 

 そして彼女は一発屋。ポーションの素材集めにモンスターを狩ることも出来ない。

 狩ったとしても動けなくなる上に、狩った獲物は失敗したハンバーグみたいな有様になってるだろう。

 

 素材なんて跡形も残らない。

 

 …………かわいそうに。本当に茨の道だな。

 

「何察した顔してるんですか!! 変なところで高い知力を発揮しないでくださいよ!!」

「そうだな。君の魔力が強すぎて魔道具が爆発したりするんだもんな? 君は悪くないさ」

「や、やめろぉ! 哀れんだ目で背中を叩くのはやめろぉ!! いっつも皮肉か嫌味しか言わないくせに!」

「まぁ、そうカッカするなよ。おっと、僕の会社のカードを落としてしまった 」

 

 わざとらしい演技をしながら、わざとらしくカードを落とす。

 

「え、えっと…………スターク先生……これってなんですか?」

「そのカードがあれば、僕の会社のあらゆる部屋にアクセス出来る。()()()()()()()()()()()()

「そ、それってまさか…………!」

「そういうこと。来るか? 幸いアシスタントを募集中でね」

「え、えっと……」

「ギャラは君の言い値で良い。自分の価値をこの紙にそのまま書いてアピールしてみろ」

「行きます」

 

 言い値という言葉に素早く反応しためぐみんが、僕が渡した小切手をぺこりと綺麗にお辞儀して受け取った。

 

 そう来なくちゃ。

 

「……スターク先生、ここにも一人、めぐみんほどではないけど、優秀な生徒がいるよ」

「君は発足したてのちっぽけな僕の企業なんかにつくより、紅魔族随一の女将の夢を叶えろよ」

「なんてひどい皮肉…………」

 

 お互いもちろん冗談で言ってるが、里で職探しをしてる子がいたら誘ってみるのもいいかもしれないな。

 

「それじゃ、明日にでも来てくれ、めぐみん。仕事の説明をしよう」

「えっ……面接は……」

「今終わった」

 

 なんてカッコつけて席を立ち、二階の宿に移動しようとして。

 

「スターク先生、お会計がまだなんだけど……」

「…………そうだったな」

 

 

 ▽

 

 

 ──第二ラボ。

 

 銀髪の義賊捕縛騒動が起きたあとで、僕は紅魔の里にある巨大なコンクリート施設、紅魔族たちに謎施設と呼ばれている場所に足を運んでいた。

 

 中にあったのは、ほとんどが現代技術に匹敵する設備だった。

 エアシャワー、ベルトコンベア、etc…………。

 

 作られてから数百年ほど経過しているにも関わらず動いてる点や、若干僕の世界の設備とは作りが違っていたが、これに目を付けた僕は、その謎施設をベースに、僕の第二ラボへと改造中だった。

 

 この里の方がアクセルより王都に近いため、王都の防衛設備などの運搬が楽になるのだ。

 

 ちなみに族長にこの話を持ちかけた時、食い気味にOKと即答された。

 

 そして僕はそんな改装したての……まぁ、まだ一部しか改装は終わってないのだが…………。

 

 清潔感溢れる第二ラボの一角で、アクセルからスーツで運んだ部品の点検をしながら、めぐみんを待っていた。

 

 なのだが…………。

 

「……フライデー、約束の時間からどれくらい経過してる?」

『2時間と36分です』

 

 あまりにも遅い、遅すぎる。

 初日から遅刻とはやってくれるじゃないか。

 

 僕はラボから出て、そのまま徒歩でめぐみんの家へと向かった。

 

 

 ▽

 

 

 数分歩いたところで、小さなめぐみんの家が段々見えてきた。

 

 これで寝過ごしてたとかだったらクビか空中爆裂散歩一週間無しのどっちがいいか迫ってやろう。

 

 …………? めぐみんの家の前に誰かが立っている。

 

 家の前には、腕を組み、まるでクラブの用心棒のように威圧感を放ちながら立っている男がいた。

 

 そのまま歩いてその男の前に立つと、男は旅人に生死をかけた質問を投げかけるスフィンクスがごとく僕の目を見据えて。

 

「…………来たか、流星の鎧を身をまといし者、トニー・スタークよ」

「あー……初めまして、少女の家の前で仁王立ちする者、名も知らぬ男よ」

 

 物騒な気配を隠そうともしないその男に対し、ジョークを放ってみるも眉一つ動かさない。

 

「……話は聞いている、スターク。教師をやっていて、我が娘であるめぐみんをよくしてくれているそうだな」

「我が娘……?」

「名乗りがまだだったな……」

 

 男は肩に羽織っているマントをバサリと翻し、紅魔族特有の名乗りを上げる。

 

「我が名はひょいざぶろー!! 紅魔族随一の零細魔道具職人にして、一家の大黒柱を務めるもの!」

「……言ってて悲しくならないのか?」

 

 ボロボロのプレハブ小屋みたいな家をバックにそう名乗りを上げたひょいざぶろーからは、すでに威圧感ではなく哀愁が醸し出ていた。

 

「全くですよ……恥ずかしいのでやめてください」

 

 そんなひょいざぶろーをジト目でみながら、めぐみんが扉の隙間から顔を出す。

 めぐみんは申し訳なさそうに僕を見ながら。

 

「その、すいません、スターク先生……うちの父が……」

「めぐみん! 出て来るなと言っただろう!」

「なにか問題があったみたいだな?」

「問題? 問題だと!? キサマが教師という立場を利用して娘をたぶらかしているのだろうが!」

「……は?」

「ハァ……」

 

 ひょいざぶろーの気が狂ったような発言を前に、思わず素で聞き返す。

 めぐみんも呆れてため息をついているみたいだ。

 

 僕もつきたい。

 

「君の言っていることがよく理解できないんだが……めぐみん、君は自分の父親に僕をどう伝えているんだ?」

「図書室で私に新たな扉を開き、夜の王都にも連れてってくれ、酒場で大人の話をして、『ウチに来ないか?』と誘われてたって話しました」

「冗談じゃないぞ」

 

 このガキなんてことしてくれるんだ。

 誤解を受けて当然だ。

 

「なぁ、よく聞いてくれ。あんたは多分誤解している。僕とめぐみんはただの教師と生徒の関係だ。そして僕は、卒業した彼女を僕自身の会社に誘っただけ。なにもやましいことはしていない」

「新たな道を開いたってのはなんだ!」

「それは彼女が爆裂……」

「あーっと、そのことですか!! それはですね、私と先生の間だけの秘密なので聞かないで貰いたい!」

「なにいいいい!!!」

「おい、これ以上ややこしくしないでくれ!」

 

 どうやら爆裂魔法のことは親にもまだ明かしていないらしい。

 言い切る前に彼女は大声で叫んで僕の言葉をかき消した。

 

 というか、ひょいざぶろーの顔がすごいことになっている。もう今にでもムキムキの緑の巨人になりそうだ。

 

「スターク!! キサマ! 一体娘に何をしたんだ!! 正直に答えろぉ!!」

「めぐみん、頼むから誤解を解いてくれ!!」

「お、お父さん落ち着いてください!! 私はただ、鋼鉄になったスターク先生の上にまたがって一緒にトんだだけで……」

「キエエエエエエエエッ!!!」

「あんたは僕を破滅させたいのか!?」

 

 いよいよチタウリが裸足で逃げ出し、ハルクがなだめに行きそうなレベルの形相になったひょいざぶろーは、バッと戦闘態勢をとり、手を僕へ向けて…………。

 

 クソッ、マズい!! 

 

「『カースド・ライトニング』ッッッ!!!」

「スーツ!!」

 

 ひょいざぶろーの手から闇色の稲妻が放たれ、僕の元へとまっすぐ向かってくる。

 僕の元へと届く寸前、念のためこちらまで飛ばしていたスーツが間一髪で僕の目の前に飛来し、ひょいざぶろーの魔法を受け止める。

 

「いっそ娘さんを僕に下さいって言ってやれば良いのか?」

『計算中……99.9999%の確率で激しい戦闘になります』

 

 一人軽口を聞こえないように叩きながらスーツの背部を展開させ、一気に乗り込む。

 

 フライデー、君は本当に冷静で助かるよ。クソッ。

 

「お父さん何してるんですか!? 気は確かですか!?」

「僕に言わせれば気が確かじゃないのはあんたの方だ!!」

「スターク!!! ワシの娘の気が確かじゃないだとぉおおおお!?」

「ああ、ったく! あんたの聞く耳も確かじゃないかもな!!」

 

 火蓋は切って落とされた。

 

 僕とひょいざぶろーは互いに掌を向けあい、いつどんな攻撃が来ても対応できるようにしてある。

 

「くらえ! 『インフェルノ』──!!」

 

 仕掛けてきたのはひょいざぶろーの方だ。

 

 目の前に突如として巨大な獄炎の壁が現れる。

 さて……。

 

【炎の温度、測定完了。温度:1080度】

 

 ……殺す気か? 

 少なくともこんなもの食らったらケバブどころの話じゃない。

 

 まぁ、あくまで生身の話だが。

 

 僕は迫りくる炎の壁に真正面から突っ込み、突破を試みる。

 

 この魔法の弱点は以前めぐみんとゆんゆんが教えてくれた。

 それは術者の視界がふさがる事。

 

 この炎に紛れ、高速で奴にタックルして無力化……。

 

「『トルネード』ッッ!!」

「ッ!?」

 

 魔法の詠唱と同時に突風が吹き荒れ、空中の制御が効かなくなり、獄炎魔法と風の上級魔法が合わさってできた炎の竜巻の中で振り回される。

 

「ぐ……」

 

 クソッ、相手の姿が見えなくなるのはこっちも同じ。

 ひょいざぶろーの狙いは僕の視界をふさぎ、魔力に物言わせた上級広範囲攻撃魔法で叩くことだったか! 

 

 千度程度じゃこのスーツは何ともないが、このまま洗濯物気分を味わうわけにもいかない。

 

「フライデー、エネルギーをスラスターに回せ!」

『回しました』

 

 一気にスーツの推進力を上げ、炎の竜巻から猛スピードで抜けだす。

 

「ッ! 『アンクルスネ……ぐほっ!?」

 

 ひょいざぶろーが行動阻害魔法を放つ前に一気に懐まで駆け寄り、そのままタックルをかます。

 

 数メートル程吹っ飛ぶも、即座に軽い身のこなしで着地し、車が出すようなブレーキ音を立てて飛ばされた勢いを両足で踏ん張って止めた。

 

 ひょいざぶろーはなおも手をこちらに向け、魔法の詠唱の準備を……。

 

「話し合いをする気はゼロか? お茶でも飲みながら……」

 

「『ライトニング──」

 

 しょうがない、もういっそ大声でめぐみんが爆裂魔法を習得したんだと言ってやりたいが、どうしても秘密にしたいというならそうしてやろうじゃないか。

 

 そして、秘密にしながらひょいざぶろーと話をつけたいなら、怒りが静まって冷静になるまで相手をしてやるしかなさそうだ。

 

 魔法を躱し、相殺して、魔力切れを狙う。

 

「──ストライク』ッッ!!」

 

 僕は冷静に、目の前に迫りくる雷の上級魔法を相殺しようと掌を……、

 

「『カースド・クリスタルプリズン』」

 

 向けた瞬間。

 突如僕とひょいざぶろーの間に巨大な氷の壁が出現した。

 

「もう十分でしょう、あなた。なにか誤解があるみたいですし、ここまでにしましょう」

 

 割って入って来たのは、どこかめぐみんやこめっこと似た雰囲気を持つ、つややかな黒髪の美人。

 

 見た目と言動からしてめぐみんの母だろう。

 

「『ライト・オブ・セイバー』ッ!」

 

 氷の壁の向こうからそんな詠唱の声が聞こえたかと思うと、壁に丸型の光の線が走り、一拍遅れて壁が丸くくり抜かれた。

 

「母さん……これはワシとあの男の問題……男には引いては行けない時が……」

「また首から下を氷漬けにして泣くまで森に放置しますよ?」

「ひっ…………」

 

 さっきまで鬼の形相をしてたひょいざぶろーの顔が、一瞬で恐怖に染る。

 

 中々恐ろしいことする奥さんだな。

 生きたまま僕の心臓(アークリアクター)を抜き取った僕の恋人といい勝負だ。

 

「さて、スターク先生……本当の話をお聞かせもらえますか?」

「えっと……その……お母さん……あんまり聞くのも……」

 

 本当の話というワードに反応しためぐみんが、たじろぎながら止めに入るが、母親の威圧感に圧されているようで、はっきりと言えない。

 

「……めぐみん、もう包み隠さず話したらどうだ?」

「で、ですが……」

「本気で愛してるんだろ? だったら、親にくらい胸張って言ってやれよ」

「えっ……!?」

『どうしてボスがそこでややこしくなるようなことを言うのですか?』

 

 ここにきて奥さんが虚をつかれたような声を上げ、フライデーが珍しくツッコミを入れる。

 

 僕が言いたいのは爆裂魔法の話だ。

 

「…………そうですね。お父さん、お母さん、話があります」

 

 

 ▽

 

 

「爆裂魔法を……そ、それは本当なんですか? 先生」

 

 嘘でしょと言いたげに聞き返してくる、ゆいゆいと名乗った奥さん。

 

「あぁその通り。どうかしてるって? だよな。僕もそう思う」

「あれっ!?」

 

 僕の突然の裏切りにめぐみんが素っ頓狂な声を上げて驚いた。

 

「だが……なんたって爆裂魔法を……」

「それは……初めて爆裂魔法を見た時に、あの破壊力に一目ぼれしたんです。そしていつか、爆裂魔法を見せてくれたあの人に私の爆裂魔法を見せたいんです」

「「…………」」

 

 めぐみんの語った夢を前に、両親はひたすら押し黙る。

 

 まぁ、無理もない。人生スーパーハードだ。どう考えても応援できる道じゃない。

 

「……それで、生きていける保証はあるの?」

「正直、難しいです……」

 

 重く、絞り出すように言うめぐみん。

 本人が一番わかっているのだろう。

 

「ですが……これを見てください」

 

 そう言って、めぐみんが差し出したのは自分の冒険者カード。

 

 めぐみんの両親は、それを手に取り……、

 

「「レ、レベル27……!?」」

 

 これ以上無いくらい目を見開いた。

 

「一体どうしてこんなに……まだめぐみんが卒業して二週間程度ですよ…………?」

「ここ連日、僕がめぐみんを魔王軍の拠点まで運んで爆裂魔法を撃たせ続けた。爆裂魔法の射程に匹敵する魔法は存在しない。上空から一方的に爆撃するだけの簡単な作業だったよ。あ、ちなみに魔王軍の拠点は更地にした」

「つまり、やりようによっては私は砦ひとつ落とせる戦術破壊兵器になれるということです」

 

 かつて僕が言った言葉を借りて、めぐみんがそう付け足す。

 

「…………爆裂魔法の有用性は理解したわ。でもそれは、空を飛べるスターク先生がいてこそでしょう? この先めぐみんが旅に出たとして、いつまでも先生が横にいるわけじゃないのよ?」

「うぐっ…………そ、それはそうですが…………そこは私が良い仲間を見つけてみせます…………!」

 

 彼女の爆裂愛を理解し、仲間になってくれる人か…………。

 

 いればいいが…………。

 

「ご両親方、不安なら僕が彼女にある程度アシストできるようなサポートアイテムを渡すから安心して欲しい」

「スターク先生…………? それってまさか…………」

「悪いがスーツは渡せない。君に渡すには危険すぎる代物だ、子供のおもちゃじゃないんだぞ」

「むぅ…………」

 

 明確に子供扱いされることに不満なのか、はたまたスーツが貰えなくてガッカリしてるのか、めぐみんが不満げに口をへの字に曲げる。

 

 そんな顔したってダメだ。

 

「いいか娘っ子。僕が作るサポートアイテムだぞ、間違いなく君のことを守ってくれるし、役立つこと間違いなしだ」

「そ、そうですか……あの、ありがとうこざいます。本当に、なにからなにまで貰ってばかりで……」

 

 そう言うとめぐみんは、数秒前とは打って変わって、嬉しさと申し訳なさが混じったような、微妙な顔をしながらはにかんだ。

 

 そんな様子をただ黙って見ていたひょいざぶろーは。

 

「スターク、ひとつ聞いておきたいことがある……」

「?」

 

 真剣な面持ちで、ゆっくりと口を開いた。

 

 どうやらとても真面目な話のようだ。

 

「なぜキサマは……そこまで娘に施す? 背に乗せて王都まで飛び、自分の会社に雇い入れようとし、サポートアイテムまで作ろうとしている。普通の教師じゃそこまでやらん。なぜそこまでする?」

「別に? 教師の仕事を託されたんだ、プロのビジネスマンとして、依頼された仕事を全うしているだけさ」

「……それだけか?」

「…………」

 

 ……あまり本人の前では言いたくないんだけどな。

 

 僕は、少しだけ真面目な姿勢を取って。

 

「…………爆裂魔法を覚えたいと言っためぐみんの背中を押したのは僕だ。ネタ魔法なんて覚えるのをやめろとも、先に親に話せとも僕は言わなかった。僕にはその責任がある。それに……」

 

 僕は今からクサいセリフを言う自分を自嘲するかのように鼻で笑って、話を続ける。

 

「……辛い道だとわかってても、信念を持って茨の道を進もうとするこの子を、僕なりに応援しようと思っただけさ」

 

 ……僕は父に応援してもらえなかったしな。そういう流れを断ち切るためにも、せめて生徒位は応援してやりたい。

 

「ス、スターク先生……」

 

 めぐみんが感極まった顔をして僕を見てくる。

 

 ガラにもない事言ったので、正直居づらい。

 誰か何か他に言ってくれ。

 

 そんな願いを叶えるように、ひょいざぶろーが重苦しく口を開く。

 

「……スターク()()……今の言葉、決して忘れないでくれ。教師として、ウチの娘を守り、導いてやってくれるか」

「……ああ」

「そしてめぐみん」

「……はい」

 

 ひょうざぶろーは、一家の父親らしい厳格な表情のまま、めぐみんに向き直る。

 

「己のロマンの為に人生を捧げるその姿、まさに紅魔族の鑑だ。父として非常に誇らしく思う。頑張ってくれ」

「……はいっ!」

 

 いいね。感動的な雰囲気だ。

 

「…………」

 

 そんな中、奥さんのゆいゆいだけが黙り込んでいて。

 

「か、母さんは反対なのか……?」

「お、おかあさん……?」

「ふぅ……」

 

 不安げにみる娘と父に対して、ゆいゆいはゆっくりと目を開けて、一つため息をつき……。

 

 

「スターク先生の年齢があと30歳ほどお若ければ……」

「「「!?」」」

 

 この奥さんなんてこと言うんだ。

 

 

 ▽

 

 

 その日の夜。

 

 私は壮大に誤解を招くような事を言いまくり、そのおかげで戦闘が勃発したとスターク先生に怒られ、今日の空中爆裂散歩は無しにされてしまった。

 

 あまりにもあんまりだと思う。

 

 しょうがないので私は……、

 

「こめっこ。魔法を撃ったら、私は倒れます。なので、こめっこはこのソリに私を乗せて引いてください」

「わかった!」

 

 こめっこと一緒に近くの森まで爆裂魔法を撃ちに来ていた。

 今日は明るい満月。明かりのない森の中でもある程度は見渡せる。

 

 ここまで来れば大丈夫だろう。

 

 ……にしても、スターク先生は私が思っていたよりも遥かに生徒のことを考えていたみたいだ。

 

 いつか、恩返しをしなくては。

 

 そんな事を考えつつ、私は手頃な岩を見つけ、それに手で照準を合わせる。

 

 はやく威力を上昇させる杖が欲しいものだ。

 そうすれば、空中爆裂散歩ももっと楽しくなるだろう。

 

 今日の分の爆裂魔法を撃つために、詠唱を始めようとしたその時だった。

 

「みつけた」

 

 それは、大人びた女性の声。

 なんでこんな所に人がとか考える前に、その声には違和感があった。

 

 ……いや、正確には、声が聞こえた方角。

 

 その声は、私の頭上から聞こえていた。

 

 恐る恐る視線を頭上に動かすと…………、

 

 そこには、満月をバックに、コウモリを思わせる羽を広げて宙に浮かぶ、角が生えた女性の姿があった。

 

 その姿はまさに…………。

 

「あ、悪魔…………?」

「姉ちゃん! 巨乳だ! あの女巨乳だよ! 敵だ!」

「ええっ!?」

 

 突然の敵呼ばわりに、宙に浮いてた女悪魔が驚いた声を上げる。

 

「いきなり失礼じゃないか、そこのガキンチョ」

 

 ガキンチョ呼ばわりに、こめっこが顔をむっとさせた。

 

 しかし……この状況はヤバい。

 

 人型で、しかも言葉を話せるとなれば、間違いなく上級悪魔だ。それも、感じる魔力からしてかなりのレベルだろう。

 

 間違いなく強い。ここは穏便に……。

 

「ウチの妹が申し訳ありません……あの、あなたの目的は何でしょうか?」

 

 物腰柔らかに聞く私に、女悪魔は猫化を思わせる黄色い瞳を細めながら。

 

「ウォルバク様さ」

「……誰です?」

「お前が育てていたあの漆黒の魔獣のことだよ。あたしが引き取りに来た」

 

 漆黒の魔獣……? 

 それってまさか……。

 

「……ちょむすけのことですか?」

「ちょむ……えっ?」

「私が付けた名前です。あの子は、ウォルバクなんて名前ではありませんよ」

「はぁ……あのお方に変な名前を付けたどころか、どれだけ凄い存在かもわかっていないようだね」

 

 女悪魔は地上にふわりと着地して、ゆっくりと私の方まで歩いてくる。

 

 歩きながら、女悪魔は語りだした。

 

「あの魔獣はね、邪神の半身なの。ウォルバク様は今、その半身である魔獣と離れ離れになっているせいで、弱体化してしまっているのさ」

 

 女悪魔は、私の目の前に立って。

 

「さぁ、事情の説明は終わり。我が主、ウォルバク様を家からあたしの元へと連れてこい」

「嫌だと言ったらどうなりますか?」

「その気になるまでお前をいたぶる」

 

 そう言って、邪悪な笑みを浮かべる女悪魔。

 

 やばい。ここはいったん従っておいて、家に行って両親を連れてこよう。

 この女悪魔が直接私の家まで来てちょむすけを奪っていかない理由は、おそらく高レベルのアークウィザードである私の両親を相手にしたくないからだろう。

 

 だから、こうして娘の私に持ってこさせようとしているのだろう。

 

「……わかりました。あの子を持ってくるので待っていてください。ほらこめっこ、行きま……」

 

 そう言って、踵を返した瞬間。女悪魔が冷たく言い放つ。

 

「何言ってるんだい? その子はここに置いてってもらうよ」

 

 心臓が跳ね上がる。

 い、妹を……人質に……。

 

「バカだね。このまま行かせたら、里の連中に応援を呼ばれるに決まっているじゃないか。この子は保険だよ。もし他の人間を一人でも連れてきたら、その子の首の骨をへし折る」

「……こ、こんな小さい子の命を取るつもりですか……? 上位悪魔にしては、品がありませんよ?」

「なんとでもいいな。あたしたちは必死なんだよ。真のウォルバク様を復活させるためにね。さ、そこの小さなお嬢ちゃん。いい子にしてもら……ッ!?」

 

 顔を邪悪に歪めながらこめっこに近づく女悪魔に、私は石を投げつける。

 これでも連日の空中爆裂でレベルも27だ。ステータスも上がっている。

 

 そんな私の投石は……。

 

「何のつもりだ……今すぐ引き裂かれたいのか……?」

 

 女悪魔をブチ切れさせるには十分だった。

 

「姉ちゃん……?」

 

 不安げに私の方を見るこめっこ。

 私は、こめっこを自分の後ろにやって、その背中を押す。

 

「こめっこ、家の方に走りなさい。ここはお姉ちゃんが引き受けます」

「……姉ちゃん、大丈夫なの?」

「大丈夫です。お姉ちゃんは強いのです」

「うん、姉ちゃんが凄いのは知ってる!……だから、すぐに戻ってきてね?」

 

 そう言って、こめっこはポケットから何かを取り出して、あの女悪魔に見えないように、何かを私に握らせ、家の方角へと走りだした。

 

 どんどん小さくなっていくこめっこの背中を見送り、私は振り返る。

 

「待ってくれるとは優しいですね。逃がしておいてなんですが、よかったのですか?」

「お前を八つ裂きにするのに数秒もかからないからね……。そのあとで、あの小娘を人質にとって、お前の家のウォルバク様をいただくとするさ」

「そんなに私の両親が怖いですか。悪魔にも怖いものはあるのですね」

 

 誰かの皮肉が移ったのか、自分の恐怖心を和らげるために自然とそんな言葉が出てくる。

 

「さぁ、数秒で私を八つ裂きにするんですよね? やってみると……あぐっ!?」

 

 気が付けば、私の体は地面から離れ、数メートル転がっていた。

 全身に電気が走ったような衝撃が走り、呼吸ができなくなる。

 

「ゲホッ! ゲホッゲホッ……うぅ……」

「なに? ちょっと押しただけよ? ほら、早く立ちな」

 

 殴られるのがこんなに痛いとは。

 今度からゆんゆんをひっぱたくのはやめてあげよう。

 

「うぐ……」

 

 今の一撃で体力も気力もごっそり持ってかれた。

 正直今すぐ見逃してくれと土下座して命乞いでもしたい。

 

 でも、それじゃ駄目だ。

 

 妹を守るのは、姉の務めだ。

 スターク先生のような世界を救うヒーローにはなれないかもしれないが、せめて妹のヒーローくらいにはなりたい。

 

 地面に手をつき、力を込めて自分の体を押し上げる。

 ゆっくりと立ち上がり、拳を握ってファイティングポーズをとる。

 

「……まだやれますよ」

「ハハハハ!! いたぶりがいのありそうなガキだねぇ!!」

 

 もちろん、無策でがむしゃらに殴り掛かりはしない。

 

 私は立ち上がる時にこっそりポケットの中にある、こめっこに渡された武器を手に握ってあった。

 これに賭けるしかない。

 

「それじゃ、今度はさっきよりもっと遠くまで飛ばしてあげる。そのままあの逃げる小娘のところに肉塊になるまで蹴り転がしてやっても面白いかもね」

 

 ゆっくりと、楽しそうな笑みを浮かべながら私の元へと歩いてくる女悪魔。

 

「そろそろ私の本気の力を見せる時でしょうね……私は紅魔族一の天才。魔法だってもう使えますよ?」

「知ってるさ。でも、お前が使えるのは爆裂魔法だけだろ?」

 

 その言葉に、私は大きく目を見開く。

 

「ここ最近、お前を観察していた。変なゴーレムもどきの男と一緒に楽しそうに暴れまわってたろう? でも、詠唱に長い時間がかかる爆裂魔法じゃ、あたしは倒せないよ。残念だったね、お前はここで魔法も使えず、いたぶられて死ぬのさ」

「…………」

「どうした? 恐ろしくて声も出せなくなった? 惨めな一発屋の爆裂娘ちゃん?」

「いいですね。それ、いずれ私の名を轟かせた後に出す自伝のタイトルにしますよ」

「減らず口ばっかり……まずはその口生きたまま縫い付けてあげようかしら!」

 

 歩いていた女悪魔が、一気にスピードを上げて私の元へと突っ込んでくる。

 私は強く目をつぶり、素早く手に握っていたソレを……。

 

 こめっこがスターク先生からもらったスタングレネードのボタンを力いっぱい押して、作動させる。

 

 瞼を閉じていてもまぶしく感じるほどの強力な光が、真っ暗の森の中でさく裂した。

 

 これで目がくらんでいるうちに、走って逃げ……。

 

「何かと思えば……そんな玩具で逃げ切るつもりでいたの?」

 

 そこには、目のくらんだ様子など見せず、あざ笑うような顔で立つ女悪魔の姿が。

 

 そ、そんな……。

 

「悪魔はね、目で物を見てるわけじゃないの。だから、そんな閃光なんて何の意味もないのさ」

 

 冷酷に伝えてくる女悪魔を前に、私はただ黙ってうつむく。

 

「……終わりね。目をつぶって黙ったままでいるなら、魔法で楽に殺してあげるわよ?」

 

 私は、爆裂魔法が無ければ、何もできないのだろうか? 

 私から爆裂魔法を取ったら、何も残らないのだろうか? 

 

 スターク先生は違う。

 あの凄い鎧が無くても、高い知力を活かしてあらゆるものを作り、あの手この手で戦ってみせる。

 

 ……私もああなりたい。

 

 爆裂魔法が無くても、大事な人を守れるようになりたい。

 

 その方法を考える時間が、もっとあったらなぁ。

 

 私は拳を構え、二度目のファイティングポーズをとる。

 もうなにも手には握っていない。正真正銘最後の悪あがきだ。

 

「まだやるきなの?しかも魔法職が素手で……? そのまま黙ってうつむいていれば、まだ楽に死ねたものを!」

 

 今度こそ殺す気で、女悪魔が突っ込んでくる。

 

 レベルが上がったと言えど、素手で戦える訳がない。それは分かっている。

 でも、惨めに逃げ惑って死ぬなんて死に方、紅魔族として絶対お断りだ。

 

 せめてもの抵抗にと、私は殴りかかろうと……、

 

 

 

 

 

 

 した瞬間。私のすぐ横を一条の光が通り過ぎた。

 

「グハァッ!?」

 

 その光は女悪魔の体に突き刺さり、森の木々を何本もなぎ倒しながら、私が爆裂魔法の目標にしようとしていた大岩に叩きつけた。

 

「ずいぶん物騒な友達を連れてるじゃないか。夜遊び仲間はもっと慎重に選べよ」

 

 見慣れた光の線と、聞きなれた軽口。

 私は、バッと後ろを振り向いた。

 

 そこにいたのは───

 

 

 ▽

 

 

 王都のジャンクフード店にでも行こうかと、スーツで空に昇ったら森の方で光が見えたので、何かと思ってきてみれば……。

 

 とんだ大惨事になってたもんだ。

 

 ……ったく、この娘っ子は何をやってるんだ? 

 

「君こんなところでなにやって……」

「おい」

 

 とりあえずめぐみんに事情をきこうとするも、岩に叩きつけてやったグラマラスな女に遮られる。

 けだるげに女の方に顔を向けると。

 

「十秒やるからその鎧を脱いであたしに土下座しろ。そしたら一撃で楽に」

「五秒やるからそのプリプリのケツ引っ提げて帰るんだな」

 

 女は黄色い瞳を血走らせて。

 

「ああそうかい……じゃぁ、今すぐ殺してやるよぉぉおおおっ!! 『ライトニング』ッッ!!」

 

 手から放たれた電撃の中級魔法が、僕に直撃する。

 バチバチと音を立てて、HUDの画面がまぶしく光った。

 

「スターク先生!!」

 

 めぐみんの悲痛な声が森にこだまする。

 まぁ、見てろよ。

 

『140%充電完了です』

「なんだ、そんな程度か」

 

 ソーの電撃に比べたら静電気もいいところだ。

 僕はそのまま受けた電気をリパルサーエネルギーに変換し、掌から照射する。

 

「ッ!?」

 

 女は飛んできたリパルサー光線をとっさに回避し、その後ろの大岩にきれいな穴が開く。

 その様子をみて、女が額に汗を浮かべ。

 

「お前……いったい何者なんだ……?」

「僕? 僕が誰かって? ──―」

 

 聞かれたら名乗らないとな。

 

 僕は掌を相手に向け、名乗りを上げる。

 

 

 

 

「──I AM IRON MAN(僕はアイアンマンだ)

 

 

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