この素晴らしい世界に祝福を!アナザー・ユニバース・アイアンマン 作:Tony.Stank
完璧な名乗りだ。
キマったね。
「あいあむあいあんまん……? 紅魔族のネーミングセンスはどうかしてるのは知ってるが、お前の名前は特に訳が分からないな」
「…………」
キマってなかった。
そりゃそうだ。英語……異世界語で喋ったってわからないに決まってる
「あたしの名はアーネス。邪神ウォルバクに仕える悪魔が一人。お前のことはよく見ていたから知ってるよ」
「悪魔のファンを持った覚えはないね」
「お前も口が減らないねぇ!」
アーネスと名乗った悪魔は、禍々しい羽を広げて僕の元へと突っ込んでくる。
受けてたってやるよ。
エネルギーをスラスターに回し、真正面からアーネスとかち合う。
「ゴフッ!?」
「パワーは僕の方が上のようだな!」
スクラム対決は僕が制した。
「スターク先生!」
めぐみんの僕を呼ぶ声を背に、そのままアーネスを抱えて猛スピードで森の闇の中を突き進む。
「このっ……調子に乗……モガッ!」
そしてそのまま口をふさぐようにアーネスの顔面を掌で鷲掴み……。
【リパルサー出力:100%】
「喰らってくたばれ」
顔面にゼロ距離から、最大出力のリパルサー光線を食らわせた。
「グバァァアアアッッ!?!?」
高出力のリパルサーを受けたアーネスが吹き飛び、後頭部で地面をえぐり、木々を粉砕し、地面に体をめり込ませたところでようやく止まる。
「うちの生徒が世話になったな」
言いながら近づき、装備をアームミサイルに切りかえて照準を合わせた時だった。
『ボス、強力な熱エネルギー反応です』
「なに……?」
瞬間、アーネスがめり込んでいる地面が赤く光り始め……。
「『クリムゾン・レーザー』ッッ!」
地面から射出された赤色の熱線が、僕の胸に直撃する。
「ぐっ!?」
こいつ地面にめり込んだふりして、魔法の射線が見えないようにあえて腕を地面に埋めてたのか……!
「このクソゴーレムもどきめ…………部品の欠片一つこの世に残らないと思いな…………!」
凄まじい殺気と怒りを放ちながら、修羅の顔でにじり寄るアーネス。
高出力のリパルサーを至近距離から受けた彼女の顔面は、冷えてひび割れた溶岩のようになっていた。
悪魔の肉体は人間とは構造からして違うらしい。
「『ライトニング・ストライク』ッッ!」
「おっと!」
アーネスの上級魔法を、素早く空に飛んで回避する。
「逃がすかぁぁああ!」
女性をこんなに怒らせたのは生まれて初めてかもしれない。
空に逃げる僕を追う彼女の顔は、もはや鬼気迫ると言う表現の二つ三つ上の言葉が似合うくらいの形相だった。
だが……。
「お前よりおっかない女は山ほど知ってる」
「『ファイアーボール』ッッ! 『ライトニング』ッ! お前の下らない口上はさしずめ紅魔族随一の口先男かぁ!?」
「いいね。僕は紅魔族じゃないが、名乗るときはそう名乗ろうか。で、その口先男に顔面を薄焼きピザにされた感想は?」
「ぬあああああああ!!! いちいち癇に障る奴だね!!」
次々と怒り任せに繰り出される魔法を、僕は空に上がりつつ華麗にロールして避け続ける。
「この……ちょこまかと…………」
夜空を彩る淡い月の光の元、僕とアーネスはドッグファイトを繰り広げる。
機動力は完全に僕の方が上だ。
あとは油断さえしなければ…………。
「『フリーズ・バインド』ッ!」
アーネスが放った凍結魔法によって、僕の脚部のリパルサー噴出口が塞がれる。
…………おっと。
僕の速度が落ちた一瞬を、アーネスは見逃さない。
すぐさま距離を詰め…………。
「『ライト・オブ・セイバー』ッ!」
腕に顕現させた巨大な光の剣で僕の体を袈裟斬りに切りつけた。
【装甲に中程度の損傷を確認】
「チィッ! これで破れないのか!」
盛大に舌打ちするも、アーネスは直ぐに口角を上げて。
「だが、無敵の鎧なんて代物ではないみたいだな! 見ろ! その傷が付いた鎧を! 直ぐにその中身を引きずり出して…………あの小娘の前に叩きつけてやる……!」
脚に付着した氷を全て粉砕し、アーネスより少し高い位置まで高度を上げる。
「それは実に結構だが……君は彼女の本当の強さを知らないみたいだな」
「なんだって…………? あいつの? ハハハ…………何を言い出すかと思えば……魔族や神族のような人外でもないただの弱小な人間が爆裂魔法なんて覚えたところで……ただのネタ魔法使いでしかないんだよ!! あの小娘は、お前という機動力が無ければ何もできない無力な役立たずじゃないか! お前との戦いが終わったら、次はあの小娘を八つ裂きにしてやる! あたしを見下していられるのも今が最後だ! さぁ、かかってきな!」
散々怒らせてやった甲斐があった。
この女は、最後の最後まで気が付かなかった。
「僕との戦い……? お前は戦っている相手が僕一人だと思っていたのか?」
「……は? 何言って」
「お前の言うネタ魔法のちょうどいい射程に入っているって言いたいんだが……」
僕の言葉に、アーネスがピタリと固まる。
「ま、まさか……!」
背後に振り返ったアーネスが、森の奥の方を見る。
悪魔ってのは目が良いのだろうか。
アーネスは、しっかりとその姿を目に焼き付けていた。
森の中から、適切な距離で──
『スターク先生、位置に着きましたよ。詠唱の準備をします』
──掌をアーネスに向けるめぐみんの姿を。
最初にめぐみんのそばからアーネスを吹き飛ばした後、僕はインカムをめぐみんの横にこっそり落としていた。
そしてフライデーがめぐみんにインカム越しに指示を出し、こうして絶好の攻撃位置に立てるように誘導してたのだ。
「お前が相手してたのは僕じゃない。僕達だ」
後ろに振り返っている為、アーネスの表情が見えないが、おそらく青ざめているのだろう。
アーネスはわなわなと震え始め。
「へ、へぇ……よし、わかった。今回は負けを認めよう。おとなしく引き下がるよ。ネタ魔法使いと言ったのも謝る、悪かったよ。実はあたしの主であるウォルバク様も爆裂魔法が得意でね。なんだか親近感が湧いて……」
「こびへつらったって意味はないぞ。紅魔族は戦闘に関しては容赦ない種族だ。このまま見逃してもらえると思うなよ?」
アーネスはゆっくりと、ひきつった笑みを浮かべた顔をこちらに向けて。
「『カースド・ライトニング』ッッ!!」
それは、ありったけの魔力を込めた最後にして最大の一撃だったのだろう。
まるでブラックホールを槍状にしたかのような長大な闇色の電撃が、僕の胸めがけて飛んで来る。
「お前の敗因は──」
僕は回避行動をとるでも、掌を向けて迎撃態勢を取るわけでもなく。
【ユニ・ビーム チャージ完了】
「──たった一つだ!!」
胸から放った極大な光の束が、アーネスの魔法を真正面から粉々に粉砕する。
「なにィイイッ!? ……グァァアアアアッッ!!??」
魔法を砕いてなお勢い止まることなく、僕の必殺の一閃はアーネスの体へと突き刺さり、猛スピードで飛んでいく。
地表に立つめぐみんの方へと向かって。
「お前は最後まで最強の戦術破壊兵器をコケにして、嘲笑い、痛めつけ、そしてナメた。これは逃げ出さず、諦めず、戦い続けた
『ふっ……スターク先生、あなたは本当に、本当に生徒想いですね。私は、あなたが先生でよかったと、心の底から思ってますよ。さぁ、最高の爆裂魔法を、空の最高の特等席から見ててください!』
めぐみんは、インカム越しに感謝を述べると、爆裂魔法の詠唱を歌い上げるように唱え──―
「このあたしが……こんな人間どもにィィィイッ!!!」
『我が名はめぐみん! 紅魔族随一の魔法の使い手にして、爆裂魔法を操る者!! 我が必殺の一撃、食らうがいい!! 『エクスプロージョン』ッッッ!!』
まるで僕がリパルサーを撃つときのような姿勢で、魔法を解き放ち。
月の光すら霞むほどの紅き大輪の光が里の空を照らした──―!!
▽
その翌日。
私が爆裂魔法を放った後、里は再び大騒ぎになったらしい。
スターク先生は急いで私とこめっこを家まで送り、両親に事情を説明した。
二人とも事の顛末に驚いて、私を助けたスターク先生に礼を言ったのちに、勝手に出かけて爆裂魔法を撃とうとした私を叱ろうとしたみたいだったのだが……。
アーネスから妹を守り、爆裂魔法を撃った私は疲れていたからか、家に運んだ時にはもう寝ており。
その私の幸せそうな寝顔を見て、両親も怒る気がなくなってしまったらしい。
よかったよかった。
そして今。
「ふぅ……このメモを見てると、自分が爆裂魔法使いじゃないような気分になってきますね」
私とスターク先生は里にあるちょっとした広場に住人達を集めて、とある事に対する声明発表の準備をしていた。
実はここ最近、里の中でうわさが立ち始めていたのだ。
それは、私が爆裂魔法を習得した。という噂。
うん。噂でもなく真実なのだけれど、どうも魔法を覚えて毎日魔王軍の拠点を爆撃してた頃、こめっこが里の人たちにうっかりそれっぽいことを言ってしまってたらしい。
というか、私自身も結構大声で今日も爆裂魔法を撃ちに行きましょうとスターク先生に言ったりしてたので、一概にこめっこがやらかしたとも言えない。
スターク先生はその解決案として、自分が魔王軍に対して試作武器の実験を行っていたところ、興味を持った私が付いてきたことによって様々な誤解を生んだとして、声明発表を開くことにしたという。
本当、なにからなにまでお世話になりっぱなしだ。
そんなこんなで、私とスターク先生は学校から借りてきた朝礼台の横で最後の打ち合わせをしていた。
「いいか娘っ子、そのメモ通りに読むんぞ? 勝手なことは言うな」
「娘っ子はやめて下さい。わかりました。……うぅ、これを言うのですか……」
書かれたメモの内容は、なんというか……。
「いやか?」
「だって、自分でこうも爆裂魔法を貶さなくちゃならないなんて嫌ですよ……」
「信憑性を持たせるには強く否定するしかないんだ。たかが書いてあることを口に出すだけだろ? そんなに気にするな。みんなに頭おかしい奴を見る目で見られても良いのか?」
「その時は我が爆裂魔法の力を持っていかに頭がおかしいか証明して……あの、嘘です。謝るのでガンつけてこないでください。すごく怖いです」
ほんのちょっと冗談を……いや、半分以上本気だったが、言っただけなのにこんなに睨みつけてこなくてもいいと思う。
ちなみに今回の件で両親からは結局怒られなかったが、代わりにスターク先生にはかなり怒られてしまった。
しかも、『前回のしくじりめぐみん物語は……』なんて、ものすごいバカにした皮肉や嫌味のオンパレードで。
思い出しただけでも耳をふさぎたくなってくる。
とりあえずスターク先生からもらったメモを手に持って、スターク先生と朝礼台の上へと上がる。
私たちが台の上に上がると、ざわめいていた里の人達が黙り、話を聞く姿勢に入る。
あ、これちょっと楽しいかもしれない。
カッコいいポーズをとって口上を名乗りたい衝動に駆られるが、グッとこらえる。
まずはスターク先生が台の上に立って。
「さて、昨夜里の周辺で大爆発が起こったが……あれは私の試作兵器の実験の結果だ。本来は君たちの元に騒音が届かないようなおとなしいやつを作ったつもりだったんだが……まぁ、人類随一の知能でも設計ミスはある」
そういって聴衆の笑いを取った。
相当人前であんな風にしゃべるのに慣れているみたいだ。
スターク先生は話を続ける。
「一部ではめぐみんが爆裂魔法を覚えて使ったとのうわさがあるようだが……学校一の優等生がそんなアホな真似する訳ないだろ。彼女だって、紅魔族随一のネタ人間なんて名乗りはしたくはないはずだからな」
どっと、聴衆側で大きな笑いが起きる
ぐ……言ってくれる……。
「試作兵器を魔王軍相手に使う際にめぐみんを連れて行ったが、魔王軍の拠点を吹き飛ばしたのは私の試作兵器であって、彼女が爆裂魔法を覚えて吹き飛ばしたわけではないと言っておこう。そんな話はジョークの中だけで良い。それじゃ、次は彼女本人の声明だ。こういうのは初めてみたいなので彼女はメモを見ながら話す。質問は勘弁してやってくれ」
最後にそう言い残し、スターク先生は後ろに下がった。
私はスターク先生と変わるように前に出て、メモをみながら。
「えー……なぜ里の中で私が爆裂魔法を取っているなんて噂が立っているかはわかりませんが、あんな……いえ、私は普通に上級魔法をとっています」
本当は『あんな花火を上げて倒れるだけの一発芸みたいなネタ魔法取るわけがない』と書かれてあったのだが、言いたくないので飛ばしてしまった。
後ろからスターク先生に背中をつかれるが、言いたくない物は言いたくない。
次の文を読もうとしたところで、聴衆側から手が上がる。
手を挙げたのはぶっころりーだ。
「でもめぐみん、ここ最近『ばっくれっつ! ばっくれっつ!』とか歌いながら里の中を徘徊してなかったか?」
「そういえば、学校でも『爆裂魔法を愛する者』ってよく名乗ってたわよね。それはどういうことなの?」
ぶっころりーの質問に続いて、ふにふらまでそんな質問をしてくる。
質問に対する答えはメモ帳には載っていないため、アドリブで答えることにした。
「確かにそんな事も言ったかもしれません。ですが、憶測だけで物を言うのはどうかと思います。あたかも私が爆裂魔法を操ってみせる大魔法使いみたいに……」
「そこまでは言ってないんだけど……」
「そ、そうでしたか……まぁ、なんにせよ、あまりにも荒唐無稽で……カッコよすぎます」
私が爆裂魔法使いではないという声明発表のはずなのに、突然始まった爆裂魔法賛美に聴衆側がを不思議そうな顔をし始める。
「おい、いいからメモ通りに読め」
後ろから周りに聞こえないように、小さく低く唸るような声で注意が飛んで来る。
…………。
今まで誰も爆裂魔法に理解を示さなかった中、スターク先生が肯定してくれたおかげで、私は爆裂魔法に絶対の自信を持ちつつあった。
私が周囲に馬鹿にされないよう配慮してくれているが、昨日の一件から私の中の考え方は変わった。
爆裂魔法はネタ魔法。それは、世界の人々が勝手に決めたものだ。
私はそうは思わない。
そう思わないように、スターク先生が自信をつけてくれた。
だから今から言うことには……スターク先生にも責任があるという事で、怒られても開き直ろう。
私はメモ帳から目を放し、聴衆の方をまっすぐ見る。
「真実は…………」
そしてメモ帳を置き。自分の冒険者カードを掲げて宣言した。
「私は爆裂魔法使いです」
爆焔編はまだもう少し続きます。