この素晴らしい世界に祝福を!アナザー・ユニバース・アイアンマン   作:Tony.Stank

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第15話 “個”の力

「めぐみんが冒険者になるなんてねー」

「悪いことは言わないからやめといたら? 爆裂魔法しか使えないのに出たらすぐにモンスターの餌になっちゃうよ?」

「そのままスターク先生の所に本格的に就職した方が安泰じゃない?」

 

 そんな失礼なことを言ってくるのは、ふにふらとどどんこ。

 でも、そんな言葉も目の前に広がる光景のおかげで今は気にならない。

 

 私の極貧生活では一生お目にかかれなかったであろうご馳走の数々と、息を吐くことすら忘れる程の食欲を誘う香りの前には、スターク先生の嫌味の足元にも及ばない二人の茶々など、まるで耳に入らなかった。

 

「そうですか。凄いですね」

「あんた全く話聞いてないでしょ!」

「当たり前ではないですか。大量の串焼きやサラダ、コカトリスの幼鳥の丸焼きに果ては霜降り赤ガニ、オマケにケーキまであるんですよ? ふぁなたも口は食へぇる為につかふべきでふよ」

「君も食うか喋るかどっちかにしろよ」

 

 ならば食べる方を。

 

 黙々と食べ始めた私を見て、スターク先生を含めた三人は呆れた様子で食事を始めた。

 

「それにしてもすごい料理だね。本当にゆんゆん一人で作ったのかい?」

「ううん、親にも協力してもらったよ。お別れ会するからって言ったら、『お、お前にもとうとうお別れ会するほどの友達が…………!』両親とも泣きながら協力してくれて…………」

「ふ、ふむ…………それは感動的だったね…………」

 

 突然の精神攻撃に、あのあるえも思わずたじろいだ。

 ナチュラルに悲しくなる話をする彼女の癖は治らないのだろうか。

 

 心なしか部屋の全体にかかる重力が増したように感じていると。

 

「ね、ねぇめぐみん……どうかな? 美味しい?」

 

 ゆんゆんが少し恥ずかしげに聞いてきた。

 

「普通に美味しいですよ。ありがとうございます」

「よかった……!」

「見せつけてくれちゃってー」

「ほんと百合百合しいよねー」

 

 私の率直な意見にゆんゆんがニコッと笑って喜び、いつものコンビが茶々を入れてくる。

 

 そろそろ反撃のひとつでも入れてやろう。

 

 肉を食べるのに使ってたフォークを一旦テーブルに置いて襲いかかる準備をする。

 

 が、そこでスターク先生が自分のヒゲを撫でながら口を開き始めた。

 

「ちなみに調理場提供と調理器具の用意は僕担当。あとはまぁ…………重いもの運んだり……」

「なんですか? 歯切れの悪い……言い難いことなんですか?」

「スターク先生もご飯作るのに協力してくれたんだけど、あまりにも料理が下手で…………」

 

 ゆんゆんが他のみんなに聞こえないよう、こっそり私に耳打ちしてきた。

 

 …………例え天才でも、その才能をどんな事にでも活かせるわけじゃないのだろう。

 

「なに憐れんだ目で見てるんだ、人には得手不得手があるだろ。確かに僕は家事が苦手だ。だが、代わりに料理がより美味しくなる良い調理器具を調達してきたんだ。これで十分だろ?」

「まだ何も言ってませんよ」

 

 勝手に言い訳を始めたスターク先生。

 まぁ、おいしいものが食べれたら特に文句はない。

 

「それに、今日の僕の役目は飯炊きなんかじゃなく──」

 

 そう言ってスターク先生が指パッチンをすると、聞きなれた特徴的な電子音と共に周囲にホログラムが展開された。

 

「わぁ、綺麗…………」

「あんたいっつもこんな所で働いてたの? いいなぁ……」

 

 それは、まるで空間に浮かぶ光るクラゲ。

 空間そのものを使った幻想的なイルミネーションが部屋を彩っていた。

 

 ふにふらとどどんこも、思わずと言った様子で感嘆の声を漏らす。

 

 ……まぁ、ホログラムはここで働いている間に毎日使っていて見飽きているので、とりあえず食べることに集中する。

 

 

「──演出さ。……いつまで貪ってるんだ」

「食べれるときに食べ、休めるときに休むのが冒険者の基本ですから」

「フリでもいいからちょっとぐらい別れを惜しむ仕草を見せたらどうなの……?」

 

 ゆんゆんが床をうろちょろしてたちょむすけを抱き上げながら、あきれた様子で言ってきた──

 

 

 スターク先生に案内された先には、ゆんゆんが呼んだクラスメイトが集まっていた。

 

 どうやら、私と交流があった者達だけを集めたみたいだ。

 部屋にいたのはゆんゆん、あるえ、ふにふらとどどんこ。

 

「ね、そろそろ渡す?」

「そうだね。このままだとただの食事会で終わっちゃうよ」

 

 いつものコンビが何やらブツブツ言いながら、テーブルの下から一本の杖を取りだした。

 

 どうやらテーブルクロスで上手く隠してたようだ。

 

「はいっ、これ私たちからの餞別」

 

 私は差し出された杖を受け取り、手に持って具合を確かめる。

 

「これは……手に持った感じ、かなり魔力が伝わりやすいです。高かったのでは?」

「ふふ、ふにふらのお父さんは魔道具職人だからね。あたし達で森の中まで行って、魔力に溢れた木を剪定してきたって訳さ。もちろんプライスレスだよん」

「お礼がしたいなら、旅で見つけた良い男でも……」

「僕とあるえが付いてなかったらモンスターに食われてた所だったけどな」

「ああっ! スターク先生はいつもカッコつけてるんですから、たまにはあたし達にもカッコつけさせてくださいよ!」

「ま、まぁまぁ落ち着いてください……。杖ありがとうございます。大切にしますね」

 

 私が杖を握って微笑むと、二人は少し照れくさそうに口をムニムニさせ。

 

「ほら、ゆんゆんも早く出しなよ!」

「そうそう、せっかく用意したんでしょ?」

 

 恥ずかしさを誤魔化すように、ちょっと早口でゆんゆんにまくし立てた。

 二人に言われたゆんゆんが、机の下から一つの紙袋を出して私に差し出す。

 

「…………大事にしてね?」

 

 受け取ったちょっと大きめの紙袋は、見た目に反してとても軽かった。

 

「開けてみてもいいですか?」

「もちろんよ。餞別なんだもの」

 

 その言葉を聞いて袋を開けると、そこにはローブとマントと帽子が入っていた。

 

 これはありがたい。服を持っていない私は学校の制服を私服代わりにしていたので、だいぶボロボロになっていたのだ。

 

「ちなみにそれ、僕がほんの少し手を加えておいたぞ」

 

 ゆんゆんにお礼の言葉を言おうと顔を上げると、スターク先生が串焼きを頬張りながら横からそんなことを……。

 

「……えっ、一体何を……?」

 

 スターク先生はゆんゆんと目を合わせると。

 

「服を買ったのはゆんゆんだが、改造したのは僕だ。どうしたか聞きたいか? 裏地の間にセラミック基複合材と炭化ケイ素、ケブラーを重ね合わせ、ある特殊な液体を染み込ませている。家庭科の授業で生徒達に実用的なアイテムの作り方を教えてる途中にちょっと閃いてね」

「あっ、戦闘訓練やドローン等の制作じゃなくて、防具関連の作り方教え始めたのもそういうことだったんですね」

「ドローンの作り方を教えたところで、僕の会社で働く時くらいにしか役に立たないからな。君たちが卒業後も使える技術を教えることにしたんだ」

 

 スターク先生の説明に、ふにふらが納得したように手のひらを軽くポンと打つ。

 

「ほう、私たちが卒業した後でそんな面白そうな授業をしていたのですか」

「賢さゆえに早めに卒業してしまうのも……考え物だね」

 

 私やゆんゆんと同じく、成績優秀ですぐに卒業したあるえが達観したような顔をしながら、フッと笑ってそう言った。

 

 紙袋から服を取り出し、少し揉んでみる。

 強く握りしめると、途端に力を込めた部分だけ硬度が上がった。

 

 …………なるほど。

 

「…………ダイラタンシーですか」

「正解。さすがだな」

 

 以前スターク先生が面白半分に教えてくれたちょっとした知識だ。

 

 ざっくりだが、とある特殊な液体に衝撃や力が加わると中の粒子の隙間が狭まり、液体から個体へと状態が変化するという現象。

 

 それを利用して普段は柔らかく、攻撃を受けた瞬間に硬化して身を守るローブを作ったのだろう。

 

「え、ダイラタンシーってスターク先生が授業でやってたやつですか?」

「いきなり水溶き片栗粉握りつぶし始めた時は頭がおかしくなったのかと思いましたよ」

 

 どうやら授業でもやっていたみたいだ。

 

「君なら見ただけで何が起きてるのかある程度理解できると思ってたんだが……」

「やめてください、そのガッカリしたような顔!! 頭がおかしくなったとか言ってすいませんでした!」

 

 シニカルに笑ったスターク先生に対して、ふにふらが全力で謝罪する。

 

「言っておくが、ローブとマントの中に入ってるのは片栗粉じゃないぞ? 魔法にも物理にも強いアダマンタイトの粒子を溶かした特殊な液体が染み込んでいる。重量は本来のローブとほとんど変わらないまま、上級魔法の直撃だろうが、重機関銃の連射だろうがはじき返す防御力を実現させた。戦場でこれを着たら君は突っ立ってるだけで防壁がわりになれるぞ」

「過剰にもほどがありますよ……魔王城にカチコミかける勇者の最終装備だってそんなのないですよ……」

 

 凄いが正直ドン引きだ。

 他のみんなもポカンとしている。

 

 だがそんな中、自慢げな顔をしているのが一人。

 

「ちなみに発案は私だよ。なにか特別で実用性があってカッコイイものを作ろうってゆんゆんやスターク先生と相談しあってね。とあるスパイ映画からヒントを得て……」

「要するにパク……」

「オマージュ、リスペクトです……!」

 

 キャベツと格闘しながら茶々を入れてきたスターク先生に、すかさずあるえがツッコんだ。

 

 というか、スターク先生は未だにキャベツをまともに食べることができないのか……。

 

 騒がしくなってきた室内だが、とりあえず私は感謝の意を伝える為。

 

「ゆんゆん、あるえ、スターク先生。ありがとうございます。これは大事に着ますね」

「大事にしなくても破れたりしないから大丈夫さ」

 

 この男は……。

 

「どうしてこう、いい感じで締めくくれないのですか?」

「スターク先生にはハートが無いんですか…………?」

「ゆんゆん……君たまに毒吐くな」

 

 その後、食事を続けたり、スターク先生にキャベツの簡単な仕留め方をレクチャーしてあげたり。

 

 故郷での最後の一日は賑やかに、そして楽しく過ぎていった。

 

 

 ▽

 

 

『お疲れ様でした、ボス。ミサイルの補充は完了しております』

「ああ」

 

 めぐみんのお別れ会を終えて作業室に戻った僕は、魔王軍秘密拠点爆撃の準備をしていた。

 

 淹れたてのコーヒーを啜り、一息つく。

 

 さて……まいったな。

 

「フライデー、ギフトの完成は?」

『まだ十時間程かかります』

「ハァ……」

 

 ローブの他にもめぐみんに渡す予定の物があったのだが、お別れ会に間に合わせることができなかった。

 幸い、もらった餞別の品の整理などであと一日だけ里に滞在することにしたみたいだが……。

 

 まぁ、明日旅立つ時にでも渡せばいいか。

 むしろ旅立つ直前に渡す方が感動的かもな。

 

 いや、完成次第、玄関の先にサプライズとしておくのも良い。

 

 そんな自己満足の演出について頭を巡らせていた時だった。

 

 持っている端末から着信を知らせる電子音が鳴った。

 

 現段階で僕と連絡が取れるのは……。

 

『ボス、クレア様です』

「クレア? 繋げ」

 

 彼女とは渡した魔王軍用兵器の成果報告や、送ってほしい武器の要望などで度々こうしてやり取りしているのだが……。

 今は報告の時期でもないし、欲しい武器でもあるのだろうか。

 

 繋がったかと思えば、やけに息が荒く、かなり焦った様子のクレアの声が端末から飛んできた。

 

『ス、スターク殿か!? 大変なんだ!! 今とにかく大変な事態で……』

「あー……ひとまず冷静に。何があった?」

 

 ビジネスのやり取りを続けるうちに、彼女ともだいぶ打ち解けた。

 大貴族だというが……気楽に話せるようになったもんだ。

 

 僕は彼女に冷静になるよう呼びかけ、コーヒーを一口啜る。

 

『魔王軍が王都に襲撃してきたのだが……』

「お言葉だが、それなら備え付けのタレットで勝手に倒れていくんじゃないのか?」

 

 この二か月のうちに、すでに王都の防衛システムは完成していた。

 敷設されたタレットや迫撃砲、攻撃ドローンなどは『騎士団が揃って失業しかねない』とクレアに言わしめるほどの効果を発揮してくれていたはずなのだが。

 

『……襲撃してきたのは、ただの魔王軍ではない、魔王軍幹部が率いる強襲部隊だ!』

 

 その言葉に、コーヒーを飲んでいた僕の手がピタリと止まる。

 

「へぇ……魔王軍幹部……」

『襲ってきた幹部の名は、比類なき剣の達人にしてチート殺しと呼ばれるベルディア……種族はデュラハンという、強力なアンデッドモンスターだ……」

「ついに来たか……」

 

 いつの日か紅魔の里で読んだ文献の中に、こう書かれてあったのだ。

 

 ──【魔王城の覆う結界の維持のほとんどは、幹部たちが行っている。魔王城へ侵入したいならば、幹部を倒し、結界を弱めて破るしかない】

 

 幹部を消せばその分結界も弱まる。

 

 魔王城の結界を破る攻撃手段を持っていない今、最も手っ取り早く魔王城に攻撃を仕掛ける方法は、幹部を消し去る事だ。

 

『スターク殿、本題はここからだ。貴方に連絡をした理由なのだが……そのベルディアがこれらの兵器を作った人間を呼べ、来なければ即刻攻撃を仕掛けると言い出したのだ……幹部が率いる部隊相手となると我々も相当な犠牲を覚悟しなくてはならなくなる。ここは穏便に済ませたい。スターク殿、戦闘になったら離脱しても構わないので、どうか来てはいただけないだろうか? 奴は今、平原で貴方を待っている』

 

 願ってもいないチャンスだ。どう探すか迷っていたところでまさか向こうから、しかも僕を呼んでいるとは。

 

「喜んでそちらに向かおう。もちろん、いつものローファーシューズとシルクシャツではなく、もっと硬いスーツで」

『おお! 感謝いたします、スターク殿!』

「それじゃ」

 

 通信を切り、ラボの出口へと歩き出す。

 

 幹部の実力とやら、見せてもらおうじゃないか。

 

 

 ▽

 

 

 スーツを装着し、王都の平原まで飛ぶ。

 そこまで飛んで目に入ってきた光景は、一触即発状態でにらみ合う人類と魔王軍の両軍だった。

 

 間に数十メートルほど距離を開け、ひたすら剣呑な雰囲気を出したまま両軍が並び立って対峙しているその様は、まるでロード・オブ・ザ・リングのワンシーンだ。

 

 僕は人類側の先頭に立つようにゆっくりと着地した。

 

「……お望み通り来てやったぞ。僕を探してたってのはどいつだ? 十秒以内に出てきたら、僕が直接サイン書いてやるよ」

 

 よく聞こえるように大声でそう言うと、魔王軍の兵士たちが統率の取れた動きでザッと左右に別れた。

 

 別れて出来たその道を、ズチャリ、ズチャリと鎧越しの足音を響かせ、悠然と歩き出てきたのは一人の()()()()()()()大柄な騎士。

 

 ソーに勝るとも劣らない体格。背丈は二メートル近くはありそうだ。

 

 脇に抱えている頭部は自分のものだろうか。

 

 騎士は兜を被った頭部を手に乗せると、差し出すように僕の方へと向けて。

 

「貴様がこの極悪兵器を製造してる技術者か……。どんな奴かと思ってみれば…………随分ふざけた男ではないか……」

「喋る生首にそう言って貰えると光栄だな」

「その空飛ぶ鎧と言い、貴様ノイズ国の生き残りなどではあるまいな?」

 

 軽口を言うが、まるで意に介さず話を続ける首無し騎士。

 

 ノイズ国……文献で見た名だ。

 

「生まれはアメリカだ。そんなことより早く本題に入ってくれないか? これから君の仲間のお家を吹き飛ばしに行く予定があるんだ。わざわざ霧で覆ったくらいで隠れた気になってる秘密基地とかな」

 

 僕のその挑発的な言葉に騎士はカタカタと震えだし、兜の奥の目が見開かれ。

 

「ク、クハハ…………クハハハハハハハ!! そうか、やはり貴様か! 貴様が」

「なにあの変な笑い声…………」

「グハァ!」

 

 僕の後ろの方にいた女冒険者の何気ない一言に首無し騎士がダメージを負う。

 

「首がないだけで強烈なキャラしてるんだ、それ以上キャラ付けしようとしなくてもいいんじゃないか?」

「これはキャラ付けでは無いわ! 一々茶々を入れおって! そんなことはどうでもいい!」

 

 首を手に乗せながら器用にボディランゲージで怒りを表す首無し騎士。

 だが、すぐに冷静さを取り戻し。

 

「ここ最近立て続けに起こる魔王軍基地の爆撃事件、その犯人は貴様で間違いあるまい?」

「……だとしたら?」

「フンッ……数多の軍勢を退ける破壊兵器を開発する知力、空から一方的に爆撃出来る神器の所有…………」

 

 首無し騎士は、兜の奥に輝く赤い瞳を少し伏せる。

 

 そして……。

 

 

 

「俺の名はベルディア。貴様に選択肢をやろう。今この場で俺に殺されるか、魔王軍に付くか……選べ」

 

 自分の首をわきに抱え、空いているもう片方の手を僕に差し出してきた。

 その行動に、後ろの冒険者たちがどよめきだす。

 

 なるほど、戦争は優れた武器商人を引き込んだほうが勝つ。

 今迄散々僕の破壊兵器で苦渋を飲ませてきたんだ。殺すより引き込みたがるのも無理はない。

 

 しばらくの沈黙の後、僕もベルディアに向けて手を差し出し──

 

「…………ほう。てっきり断られるつもりでいたのだがな…………後悔はさせん。貴様が望む報酬を用──グホァッ!?」

 

 ──差し出した手を相手に向け、リパルサー光線を体のど真ん中に叩き込んだ。

 

「僕の選択肢はこうだ。ここであんたをぶちのめして世界を少し平和にする」

 

 数メートル吹っ飛んだベルディアは、空中で素早く姿勢を立て直し、身の丈ほどもある大剣を地面に突き立ててブレーキをかける。

 

 地面に一筋の鋭いブレーキ痕を残して剣を引き抜くと、ベルディアは小さく震え出し…………。

 

「ククク……クハハハハ!!! いやはや、実に残念だ!! これでもなお…………」

 

 最後まで言い切る前に、僕はベルディアの周囲にこっそり回らせておいたドローンのステルス状態を解除し、機銃やミサイルポッドの照準を全てベルディアに向ける。

 

 僕らの背後にあったリパルサー・タレットの全砲門も、威圧的な機械音を立ててドローン同様ベルディアへと向く。

 

 ベルディアの周囲360度が、重火器で囲まれた。

 

「……人の話は最後まで聞くものだ……いいだろう。我々に着くメリットが何か──」

 

 瞬間。ベルディアが自身の頭部を空高く放り投げ、剣を両手に持つ。

 

「──貴様に教えてやる!」

「撃て!」

 

 僕の合図によって、ベルディアを囲む全ての砲門が火を吹いた。

 空に浮かぶ頭部もクレー射撃の的のごとく砕かんと。

 

 …………が。

 

「ハァァアアアアアアッッ!!!」

 

 放たれた砲火は、どれ一つベルディアに届くことはなかった。

 

 ただの、一振の、剣が。

 迫る幾千万の弾丸を、ミサイルを、プラズマの光線を。

 目にも留まらぬ……なんて言葉では生ぬるい程の斬撃によって、露でも払うかのように全て弾かれていた。

 

「馬鹿な…………」

 

 思わず口に出てしまう。

 

 それだけじゃない。頭上に放り投げられた頭部への攻撃も、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 目の前で起こっていることが信じられない。

 

 数多の軍隊相手だって完封してみせるであろう僕の武器たちが、発明品達が、圧倒的なまでの()の力の前に何も出来ずにいた。

 

 ガシンッと、ドローンが全ての弾丸を吐き出たことを知らせる音が響き、それとほぼ同時に頭部がベルディアの手へと落ちた。

 

「ふむ……まぁ、こんなものか。魔力もこもらぬ直線的な攻撃など取るに足らぬ。ザコ相手が関の」

 

 ベルディアが言い切る前に、まだエネルギー残量の残っていたリパルサー・タレットからベルディアへと、一筋の光が突き抜ける。

 

「フンッ!」

「グッ!?」

 

 ……その不意打ちの一撃すらベルディアは防ぎ、あまつさえ僕の方へとはじき返してきた。

 

 向かって来たリパルサー光線を、かろうじて拳で空へと逸らす。

 

「我々に着くメリット……今ので理解できただろう? 貴様には幹部の席を用意する準備だってこちらにはある。とはいえ、俺も元はまっとうな騎士。我ら側に着くとしても、裏切り者は好かん。考えるそぶりも見せず、すかさず攻撃してきた貴様には好感が持てるぞ。しかし、これも魔王様より下された命……もう少し強引な手段を取らせてもらおう」

 

 そう言って、ベルディアは僕に向けて人差し指を突き出し……。

 

「汝に、死の宣告を──」

 

 ベルディアがそう口にした途端、背骨が丸々氷柱になったかのような、すさまじい寒気に襲われる。

 

 長年戦ってきて培われたカンが大音量で僕に警告する。『避けろ』と。

 ……だが、それはできない。僕の背後には大勢の人間がいる。敵がしようとしてる事の正体がわからないが、避けたら確実に悪いことが起きるだろう。

 

「──お前は一か月後に──」

 

 刹那、ダクネスの顔が脳裏によぎる。

 ……なんで命の危険が迫ってるときにあんな変態の顔が浮かぶんだ。

 

 そんなふざけたことが浮かぶ頭とは裏腹に、僕の体は無意識に動いていた。

 

 ベルディアより少し手前の地面に、僕は掌を向け……。

 

「──死……ッ!?」

 

 ベルディアの手首に、地面を撃って反射させたリパルサーを当てることによって、その僕に向けられた指先を上空に逸らした。

 

 ……自分にリパルサーがぶち当たるように、カエルの腹で弾かれる光線の入射角と反射角の計算を瞬時に行っていたダクネスの高度な変態プレイを見てたのが、意外なところで役に立った。

 

 彼女には感謝……いや、やっぱやめておこう。

 

 ベルディアはというと、弾かれた自分の手を脇に抱えた自分の首の前までもっていっている。

 首なし騎士なりの手の調子の確かめ方だろうか。

 

「ククク……クハハハ! そう来なくてはな! やはりこんなもので脅しをかけるのは邪道が過ぎるというものよ!! よかろう、今回はこれをもって挨拶代わりとしようではないか。貴様とはまた会うことになりそうだ、返事はその時に聞くとしよう。貴様におんぶにだっこのこの国に愛想が尽きたならば、いつでも魔王城に来るがよい……まぁ、それは俺の望む結末ではないがな」

 

 そう言って、ベルディアは愉快そうに踵を返し。

 

「では、近々な」

「『テレポート』ッ!!」

 

 側近と思わしき黒いローブをかぶった魔法使い職が転移魔法を唱え、その姿をかき消した。

 

 それに合わせるかのように、ベルディアの背後にいた部隊も次々と魔法職がテレポートを唱えて消えていく。

 

「…………」

 

 戦場には、沈黙だけが残った。

 

 

 …………早急に対策を練らなくっちゃな。

 

 ▽

 

 

 ベルディアとの小競り合いが終わった僕は、報告の為王城へと上がっていた。

 商談の為に何度も王城へ足を運んでるうちに許可を経て作った僕専用の着陸用バルコニーに降り、スーツから出て室内へと入る。

 

 もちろん、バルコニーの床は補強済みだ。

 

 いつもビジネストークに使う王城のとある一室に入ると、クレアがねぎらいの言葉をかけに来た。

 

「スターク殿、おかげで我々の部隊が被害を受けずに済んだ。皆に代わって礼を言う。まさかあのベルディアを退けるとは……」

「退ける? とんでもない、奴は余裕だった。あのまま戦っても、五体満足で勝てたかは……怪しいところだ。というか、あいつが僕に指を向けた途端、すさまじいまでの悪寒がした。あれは一体なんだ?」

「何!? 死の宣告を食らったのか!?」

 

 ベルディアが僕に指を突き出して来た時の話をした途端、クレアが血相を変える。

 

「喰らってない。途中で腕を弾いて向きを変えた。そんなにヤバいスキルだったのか?」

「死の宣告。対象を問答無用で死に至らしめる最悪のスキルだ。食らえば最後、呪いをかけたものが定めた期間を経たのちに確実に死ぬ。解呪できた試しはない」

「……さもあっけらかんと言ってくれるが、それ最初の時点で僕に教えてくれたってよかったんじゃないか?」

「もも、申し訳なかった!! 王都の冒険者の間では広く恐れられていた技だったのでつい……」

「僕はキャベツが飛ぶことさえ知らなかったんだぞ?」

「えっ? それは……」

「ったく……まぁいいさ。教えてもらえなくても防げたんだしな?」

「そ、その……本当に申し訳ないと思っているので、あまりネチネチとしないで貰いたい……」

 

 貴族の威厳はどこへやら、縮こまって申し訳なさそうに胸の前で両手の人差し指をツンツン突き合わせている。

 

 僕の作った兵器が完封された苛立ちをつい彼女にぶつけてしまった。

 

「冗談だよ。あのくらいなんともないさ」

「いや、こちらこそ本当にすまなかった……」

 

 そう言って、テーブルの上に置いてあったお茶を呷るクレア。

 

 ああ、まだ報告しなきゃいけないことがあったな。

 

「そういえば、魔王軍にスカウトされたぞ」

「ブーッ!!」

 

 クレアが口に含んだお茶を盛大にまき散らした。

 

 君貴族なんだよな? 

 僕にはかからなかったが、とりあえず部屋の隅の方にいた使用人に向かって手を叩き。

 

「あー、彼女に何か拭くものを」

「はい、ただいま」

「す、すまない……取り乱した……その、受けたわけではないのだろう?」

「受けてたらもうここは消えてなくなってるさ……冗談だよ。死の宣告を受けそうになって冷や汗かいた気分をちょっと味わってもらおうと思っただけさ」

「貴方の冗談は……本当に笑えない時がある……」

 

 クレアはむせかえって赤くなった顔を瞬時に青ざめさせた。

 

「当然、連中に付くつもりはない。例えこの先この国が僕におんぶにだっこになったとしてもな。だから安心してくれ」

「はは……そう言ってもらえるとありがたい……」

 

 ほんのちょっとの話し合いで随分と疲れた様子だ。

 きっと貴族のいざこざで疲れているのだろう。今日はゆっくりと休めればいいが。

 

「いずれベルディアとは決着をつける時が来るだろう。そのための対策を立てなきゃならないが……その前に行くところがある」

「行くところ?」

「ああ、ちょっとアルカンレティアにな……」

「水の都のアルカンレティアか……強力な対アンデッド用の聖水の調達か?」

 

 聞いてきた彼女の質問に、僕は軽い感じで答えた。

 そんな場合かと怒られなければいいが。

 

 

「いいや。生徒と観光さ」

 

 




トニーとめぐみんの仲を深めるエピソードにおいて、アーネスと戦う案と他に実はもう一つありました。

それは、トニーとめぐみんが魔王軍の拠点ではなく、魔王城に毎日爆裂魔法を撃つことによって、怒った魔王軍がベルディアを二人に差し向け、なんやかんやあってめぐみんが死の宣告を受けてしまい、しかもベルディアは魔王城に引きこもることによって打つ手がなくなってしまうというものでした。

しかし、それをトニーが死に物狂いで科学の力を結集させ、さらに里のみんなとめぐみん自身の協力もあって死の宣告を食い止め続けるデバイスを開発、アークリアクターのような装置(イメージはMk.50のナノ粒子のハウジングユニット)が、めぐみんの胸に付く……。というエピソードにする予定でした。

暗い上に、めぐみんが爆裂魔法で敵を倒すというシーンを作りたかったので没にしましたが、もったいなかったのでここでちょっと裏話として紹介しました。

もしかしたら番外編で「WHAT IF...?」みたいなタイトルで見せるかもしれません
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