この素晴らしい世界に祝福を!アナザー・ユニバース・アイアンマン   作:Tony.Stank

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明けましておめでとうございます。
今年のマーベル作品はとても楽しみですね。

激動の2020年となりそうです。


第16話 狂信者とマッドサイエンティストの二重奏

 ベルディアとの顔合わせから一日が経って。

 

 僕はというと、里のラボで早朝からモニターと睨めっこを続けることかれこれ三時間経過していた。

 

【最終調整中…………残り99%…………99%…………】

「遅い…………! フライデー、もっと早くならないのか?」

『急かしても意味はありません。もうあと十数分ほどお待ちください』

「……クソッ」

 

 そろそろめぐみんが出発する時刻だと言うのに、未だギフトが完成していなかった。

 

 ふと、隣に目を見やる。

 透明なケースの中で、蜘蛛の足程細いアームが忙しなく動き、手のひらサイズの小さなデバイスの細部を弄っている。

 

 そして腕時計をちらりと見た。

 

 こりゃダメだな。

 

「よし、このまま持っていく」

『ギフトはまだ実用段階ではありません』

「色は塗ってなくてもいいからな」

 

 僕はそう言うと、ケースの中からギフトを取り出して、そのままこの里の転送屋へと向かった。

 

 

 ▽

 

 

 転送屋の扉を開けると、そこにはふにふらにどどんこ、その奥の方にはめぐみんの姿があった。

 

「おや、先生まで来てくれてたのですか…………って、目の下のクマが酷いですよ? 徹夜でもしたのですか?」

「まぁ、そんなところだ。生徒の見送りだって教師の仕事のうちだろ?」

「先生は教師じゃなくて特別講師ではありませんでしたっけ……」

「ただの特別講師は生徒のためにこんなの作らないさ」

「……?」

 

 眉をひそめるめぐみんに、僕は小さな小箱をスローパスする。

 

「わっ……と…………あの、これは…………?」

 

 キャッチした小箱を手に取り、重さを確認したりしながら尋ねてくるめぐみん。

 

 僕は何も言わず、ただ黙って首をクイッと曲げて開けるよう促した。

 

「…………開けたら爆発したりしませんよね?」

「君じゃないんだ。勝手に爆発したりなんてしないし、そもそも爆発物じゃない。いいから開けろよ」

 

 若干訝しげな顔をしていたが、最後くらい素直に喜んで受け取ろうと思ったのか、ため息を一つつき、箱をゆっくりと開けた。

 

 めぐみんが、小箱の中に入っていたものを手に取り、まじまじと眺める。

 

 

 

「これは…………眼帯……ですか?」

 

 そう、僕からの贈り物。紅魔族がよく好んで装着している眼帯だ。

 当然、ただの眼帯な訳が無いが。

 

「あぁ、見ての通り。これでサプライズも最後だ」

「……その眼帯、あるえと同じだね。…………なんというか、縁の色が薄いけど」

 

 めぐみんの手に持ってるソレに気がついたどどんこ。

 

 色のことには突っ込まないで欲しい。

 

「あるえと全く同じじゃつまらないだろ? 中身こそ全く違うが、外見も多少は異なってないとな」

「へぇー、中身も…………それってあるえの眼帯と違って見えるだけじゃないって事ですか?」

「ほんのちょっぴり豪華にしてある。君たち二人にも卒業する時にはなんか作ってやるよ」

「「やたー!!」」

 

 ふにふらとどどんこは、僕のその言葉に年相応の少女らしい眩しい笑顔を見せた。

 

「あ、スターク先生。あるえとゆんゆんは見てないですか? 私たちですら来たのに、あの二人ったらぶっちしたんですよ?」

 

 頬をふくらませてぶーたれるふにふらだが、 ゆんゆんはともかく、あるえの事情は知っているので、彼女らに変わって弁明することにする。

 

「あるえは大切な用事があるんだ。ゆんゆんは知らないが…………まぁ、彼女がこういう友達同士のイベントに来ないとは思えない。 きっと彼女なりの用事があるんだろう」

「もしくはめぐみんがフラれたか!」

「あはははは! ウケるー!」

「HAHAHA!! 笑える」

「ちっとも笑えませんよ!! 三人まとめてぶっちめられたいですか!?」

「あのー、そろそろアルカンレティア行きのテレポートが発動しますが…………」

 

 そのテレポート屋の女性の声を聞いためぐみんは、そちらの方をちらりと見ると、再び僕らの方へ視線を戻して深いため息をついた。

 

 そして小箱から眼帯を取り出して。

 

「まぁ、この方があなた達らしいと言えばそうなのでしょうか…………もう何も言いません。スターク先生、これ早速付けていきますね。ありがとうござ…………」

 

 そう言いながら眼帯をつけためぐみんが、装着した瞬間その場で時が止まったかのように静止する。

 

 やがて、口をムニムニとさせながら。

 

「スターク先生…………一体何を作ったんですか?」

「眼帯だが?」

「私の知ってる眼帯はつけた瞬間に衛星とリンクして世界中の情報を視界に映したりはしません」

 

 めぐみんは半ば呆れたような、でもなにかおかしそうな、そんな複雑な笑顔を浮かべて、テレポート用の魔法陣の上まで歩き始めた。

 

「間もなく、アルカンレティア行きのテレポートが発動します。 力を抜いて、魔法に抵抗しないようお願いします」

 

 テレポート屋の女性の声が、別れを告げる汽笛に聞こえる。

 

「それではスターク先生、それとふにふらとどどんこも。見送ってくれてありがとうございました。特にスターク先生、本当にお世話になりました」

 

 魔法陣の上に立っためぐみんは、一度ペコりと丁寧なお辞儀をし、顔を上げた。

 

 その顔の表情は、ほんの少し寂しげで。

 

「スターク先生…………その、色々頂いた恩は必ず返します。もしどこかでお会いすることがあって、もしあなたが困っていたら…………その時は最強の戦術破壊兵器が手を貸しますよ?」

 

 最後にそう言って、彼女はやさしげに微笑んだ。

 

「嬉しい申し出だな。ひょっとしたら一週間以内に会うかもしれないが、その時困ってたら頼むよ」

「…………えっ、一週間以内? どうして一週か」

「『テレポート』!!」

 

 最後まで言う前に、めぐみんは転移魔法でアルカンレティアへと飛ばされた。

 

 ……締まらない最後だ。

 

 

 ▽

 

 

「……ん以内に…………」

 

 目の前がぐにゃりと曲がり、質素なテレポート屋から美しい街並みへと視界が切り替わった。

 

「…………なんとも締まらない最後ですね……」

 

 そもそも一週間以内とはどういうことなのだろうか。

 聞けずじまいだったが…………。

 

 ……また近いうちに会えると言うなら、その時に聞けばいいか。

 

 私は改めて目の前に広がる街並みを見る。

 

「おぉ……」

 

 思わず声が出た。

 

 青を基調とした、美しい街だ。今日が門出日和な快晴である事もあって、街全体が輝いているように見える。

 

 初めての旅で、目の前に広がるこの光景。ワクワクしないはずがない。

 

「ふぅー……」

 

 深呼吸して、私の旅の第一歩を…………。

 

 

 

 

『初めまして、めぐみん様。何か私にお手伝いできる事はありますか?』

「ぬあああああー!?」

 

 突然耳元で名前を呼ばれ、思わずその場で変な声を上げてしまった。

 周囲からジロジロと変な視線を向けられ、気まずさから帽子を目深に被る。

 

 今のは一体…………。

 

 バレないように、声の主は誰かと周りをキョロキョロ見渡していると、再びさっきと同じ声が聞こえてきた。

 

 落ち着きのある、貴族や王族の執事、高級料理店のウェイターなどを思わせ……いや、行ったことも見たことも縁もないが、どこかそんな印象を覚える若い男性の声だ。

 

『驚かせて申し訳ありません。私は貴方をサポートするため、トニー様に作られた人工知能です。以後お見知り置きを』

 

 …………まさかフライデーの様な人工知能まで備わってるとは……。

 いよいよもって眼帯とは呼べないナニかになっている。というかどう考えても人一人に渡していい物じゃない。

 

 とりあえず私は人工知能に話しかける。

 

「えっと……では、眼帯のお兄さん。ギルドの位置は分かりますか?」

『目的地、アルカンレティアのギルド。衛星リンク開始……あらかじめマッピングされたデータと、衛星より確認できる通行状況から最適なルートを検索しました』

 

 ピピッと電子音が鳴り、私の視界上で道路の上に光の線が引かれる。

 

 ……旅というのは、見知らぬ土地で自分で道を聞くなり地図を見るなりして、迷いつつも愚直に向かっていくものだと思っていたが、私の知っている旅はスターク先生によって死んでしまったようだ。

 

 光の線に沿って、私はギルドへと向かう。

 この機能を使うのはこれで最初で最後にしよう。

 

 いざ、友から貰った杖を、服を、帽子を……そして、恩師から貰った神器を身にまとい、何者にも負けぬ想いでギルドへと向かった。

 

 さぁ、ここからだ。

 ここから最強の戦術兵器にして、最強の魔法使いであるめぐみんの名が轟くことになるのだ──

 

 

 ▽

 

 

 ──そう思ってた時期がありました。

 

 

「──俺たちのところでは手に余るな……その、悪いが他にあたってくれないだろうか……?」

 

 そう言って、私から離れていくパーティ。

 アルカンレティアに来て早速クエストを受注することになったのだが、私が初めて同行したパーティの人たちはそこそこ弱い敵を倒し、そこそこの生活ができればそれでいいというパーティだったので、彼らにとって私は不要だったらしい。

 

 私はギルドの酒場で一人、パーティーメンバーが去って広くなった机でぽつねんとジュースを啜りながら、一人でぼやく。

 

「ま、まぁいいでしょう……私がとがった存在なのは理解できています。大物狙いのパーティーを狙らうとしましょう」

『その意気です』

 

 次に見つけるパーティーは、きっと私の価値を分かってくれるだろう。

 

 

 

 ──そう思ってた時期がありました。

 

 

「──ほかの魔法を覚える気がないなら、ウチのパーティには置いとけないな……」

「ほ、本当に良いのですか!? 私なら、強敵相手に切り札になれますよ!?」

「切り札にしては威力が強すぎかなぁ……動けなくなるのもデメリットすぎるからちょっと……」

 

 新しく見つけたパーティーもまた、私の火力では過剰だと追い出されてしまった。

 

 今日もまたギルドの酒場で一人、広い机の上でジュースを啜り、骨付きチキンをかじる。

 

「……まだあきらめるには早いですよね。この街に来て三日しかたってません」

『めぐみん様ならきっといつかパーティーを組めます。世界最高の人工知能である私が保証…………したいです』

「おい」

 

 

 

 ──そして今日も。

 

 

「──い、いやー……その、ほら……私たちのパーティは、見ての通り上級職がいないでしょ? アークウィザードの君がいても、おんぶにだっこになってしまうし、それは申し訳ないから……」

「そんな事気にしませんとも! 何なら報酬の取り分少なめでもいいですよ!? ほら、戦術破壊兵器がお手頃価格で……」

「すいません! 勘弁してください!!」

 

 逃げるように走り去っていく、新しいパーティー。

 オマケに爆裂魔法使いである私の噂が広まりつつあったのか、声をかけようとするとその時点でやんわりと断られる始末。

 

 いくらなんでも噂が広がるのが早すぎる。悪事千里を走るとはこの事か。

 …………悪事を働いた覚えはないが。

 

 こうして五日連続、私はパーティーが去ったどころか寄り付かなくなり始めた広い机で一人食事をとる。

 

「ふふっ、大人数用の広い机を一人で占領して食べるご飯は美味しいですね……贅沢してる気分ですよ…………」

『皮肉を検知』

 

 ひょっとして私はいらない子なのだろうか? 

 

 そんな思いが浮かんでは頭を振り、そんなことはないと自分に言い聞かせる。

 眼帯のお兄さんも、毎日私を励ましてくれていた。

 

「うなーん」

「おお、ちょむすけ。お前はこの街ではかわいがられているようですね」

 

 そして口の周りに食べカスを付けたちょむすけも。

 

 ……そのうち、眼帯のお兄さんにも名前を付けてあげないと。

 

『……私はこのままでもいいと思っておりますが』

「人の考えを読むのはやめてください!! そして私のネーミングセンスに文句があるなら聞こうじゃないか!」

 

 

 

 ──なんて、あれこれやっているうちにアルカンレティアに来てもう六日目だ。

 

 私は朝日が差し込む宿の一室で、ベッドの掛け布団から頭だけだし、ボーッとした頭でそんなことを考えながら天井を眺める。

 

 クエストを受けなければ、アクセルへ向かう馬車代を稼ぐことができない。

 

 ……私はベッドから降りて、スターク先生から貰った()()()()()()()()()()()を手に取り、外へと出る用意をしながら中身を確認する。

 

 中に入っている額は、ざっと百七十万エリス。

 

 給料日の時、スターク先生は給料にほんの少し色を付けておいたと言っていたが、実際に渡された額はほんの少し色を付けたとかってレベルではなかった。

 

 スターク先生に給料は望みの額で良いと言われ、私が実際に紙に書いた給料はこの街への転送代である三十万エリス丁度。

 

 だが入っていたのは、なんと二百万エリスだった。

 

 そう、二百万エリスである。あの人は少しという言葉を一度辞書で引いてから自分の鎧に彫ればいいと思う。

 

 これではスターク先生に飛んで送ってもらうのとほとんど変わらない。

 

 なので、このお金は基本的に使わないようにし、アクセルまでの馬車代は自分で稼ごうと思ったのだ。

 

 …………が、結果はこのザマ。

 

 次々とパーティーをクビにされ続け、手切れ金だと言わんばかりに山分けしてもらった報酬金も、爆裂魔法で出してしまった被害の修繕費やらで差っ引かれ、明日食べる分すら残ってない。

 

 この街でもバイトを始めるしか無いかもしれない。

 

 紅魔族随一の天才少女の未来を憂いながら、宿を出て近くのベンチに座り、深いため息をついた。

 

「ハァー……」

『めぐみん様、どうか気を落とさず。あなたの事はトニー様も認めて下さっています。きっと誰かが…………』

「本当にそうでしょうか?」

 

 励ます眼帯のお兄さんの言葉を、私は遮って。

 

「神器級の防具、過剰なまでの機能を搭載した眼帯……これらはつまり、認めてないことの裏返しではないでしょうか?」

『保護者目線で見られているからこそ、あれこれ施されているのではないか…………とお考えなのですね?』

「……そうです」

 

 これだって、きっと彼から見れば子供っぽい悩みなのかもしれない。

 だが、私は子供では無い。一人で冒険だって出来…………。

 

 そこまで考え、今までのアルカンレティアでの自分の有様を思い出す。

 

 …………。

 

「ハァ…………」

 

 また一つ深いため息が出てしまった。

 と、そんな時。

 

「そこのあなた、何やら悩んでいるようね!! セクシーなプリーストであるこの私がどんな悩みでも聞いてあげるわよ」

「…………?」

 

 頭の悪そうなその言葉に俯いた顔を上げると、そこには青を基調とした修道服に身を包んだ、金髪のきれいなお姉さんがいた。

 

 上げた私の顔を見るやいなや、お姉さんは顔を上気させ、ハァハァと息を荒くさせる。

 

 …………えっ。

 

「な、なんて可愛い女の子なの!? こんな可愛い女の子がベンチでため息ついてるなんて見過ごせないわ!!」

 

 な、なんだろうこの人は…………かなりアブナイ予感がする。

 関わっちゃいけないオーラがプンプン出ている。

 

『ミサイルを要請しますか?』

 

 眼帯のお兄さんが恐ろしく物騒な提案をしてくるし、なんでそんなものまであるのか知らないし知りたくもないが……ひとまずここは穏便に済ませよう。

 

「あの、私は特に悩みがあったりする訳でもないので…………」

 

 そう言ってベンチから立ち上がるが、聖職者を名乗るお姉さんは私の肩をガシッと掴み…………。

 

「悩める子羊よ! 私が来たからにはもう安心してちょうだい! 私はセシリー! 次からはセシリーお姉ちゃんって呼んで! ハァハァ…………」

 

 お姉さんの凄まじい圧に負け、私は引きずられるかのようにして連行された。

 

『ミサイルを要請しますか?』

「…………考えておきます」

 

 

 ▽

 

 

 コトリ。と、空になったカップを置く音がサキュバスランジェリーのカウンターに響く。

 

「これでスターク先生もいなくなるのかぁ……寂しくなるなー?」

 

 作ったような悲しい顔をしてそう言うのは、そのサキュバスランジェリーの看板娘であるねりまき。

 

 僕は空にしたコーヒーのカップをカウンター裏のシンクまで持って行ってやり。

 

「まさか。ちょっとアルカンレティアに観光に行くだけさ。このバーにはまた定期的に金を落としてやぶわっ」

 

 ……カップを軽く水ですすいでやろうかと思ったのだが、水の勢いが強すぎて上半身にいくらかかかってしまった。

 

「スターク先生ほんとに家事上達しないね……」

「あぁ、必要ないからな」

「へそ曲げちゃダメだよ?」

「ご忠告どうも」

 

 ズボンで手を拭ってカウンターまで出ると、ねりまきが寂しげに。

 

「スターク先生がずっとここに泊まってくれてたおかげで、ウチは少し豊かになったなぁ…………」

「礼はいいぞ。豊かになるのはいい事だ」

 

 彼女なりの別れの挨拶なのだろう。

 …………別に学校でこの先も会うのだが。

 

 美味い酒の礼に、彼女の茶番に付き合ってあげるとしよう。

 

「ほら、ずっとお酒飲みながら話してたから私達通じあってると思わない?」

「そうかもな。それじゃ、僕の考えてることもわかるだろ? また次回までに美味しいお酒を用意しとけよ」

 

 その言葉を最後にバーから去ろうとするが、まだ彼女からの視線を背中に感じる。

 

「…………わかったよ、このバーで交わした君との会話は楽しかった。この里に来た時は必ずここに泊まるからな」

「…………なのにここから出ていっちゃうの? お父さんみたいに?」

「えっ」

 

 カウンターの奥からねりまきの父の素っ頓狂な声が聞こえてくるが、僕らは無視して茶番を続ける。

 

「あぁ、そうだ。…………情に訴えてるのか?」

 

 普段人が泊まらないこのバー兼宿の部屋を、僕が里に滞在してる間寝床としてずっと貸し切ってたおかげで、ねりまき家は少し裕福になったらしい。

 

 上客にまた自分の宿を使ってもらおうと、冗談半分、仕事半分で情に訴えてくるねりまき。

 

「ひもじぃなぁ…………」

「あぁ、気持ちはわかるよ。なんでだと思う? それはな…………」

 

 僕は実に憎らしい顔をしながら。

 

「…………通じあってるからぁ……」

 

 その言葉を最後に二人で鼻で笑い合うと、僕はドアに手をかけてバーを後にする。

 

 

『……最後に遊んでもらえてよかったな』

『…………うん』

 

 背とドアの向こうで聞こえたその親子の声は、さっきの演技臭さはどこへやら、本当に寂しそうな声色だった。

 

 …………そんなずっと戻ってこない訳でもないのだが。

 

 僕はそのまま、近くに停めてあったクインジェットまで向かい、後部ハッチを開けて操縦席に座る。

 

「ねりまきとはなにか話しましたか?」

 

 予め副座席に座っていたあるえが、そんな質問をしてきた。

 

「ちょっと茶番をね」

 

 そう軽く答え、操縦版を弄って離陸準備を始める。

 

 隣のあるえは顔こそいつものポーカーフェイスだったが、ウキウキしてる様子が体に出ていた。

 

 膝の上に置いた手をムニムニさせたり、小刻みに体を横に揺らしたり。

 

 僕はそんな彼女に笑いかけながら、発進のレバーに手をかけた。

 

「さーて、準備は出来たか? マスター・あるえ?」

「マスター・あるえはもう居ない……そう、ここにいるのは…………ダース・あるえだ……」

 

 どこまでも帝国軍と暗黒面が好きなあるえ。

 

 僕は発進レバーをグイッと引くと、あるえが目を輝かせて叫んだ。

 

「ハイパードライブ!」

「そんな機能は付いてない。……そのうちつける予定だが」

 

 以前あるえの小説にコーヒーを吹きこぼして駄目にした事への贖罪と、そんな事ほとんど忘れて呑気にメモとペンを手に持ってロケを楽しみにしているその本人の為に。

 

 クインジェットはアルカンレティアへと飛び立った。

 

 …………さて、あの娘っ子は元気にやってるだろうか。

 

 

 ▽

 

 

 ──なんて、呑気に考えてたのもつかの間。ものの一時間とかからず、僕はアルカンレティアに来たことを後悔していた。

 

「素敵なお髭ですね! アクシズ教に入信してその髭をより素敵にしませんか!?」

「さぁ、入信しま…………どうして目を合わせようとしないのですか!? こっちを、私を見てください!! 熱く語ってみせますから!! ほら、目線はコッチです!!!」

「あなたの為に、今からアクシズ教団歌を歌います。お聞きください」

「頼むから近付かないでくれ…………」

 

 僕とあるえは、アルカンレティアに到着するや否や狂信者の群れに囲まれていた。

 

 断ってもしつこく迫る狂信者。道を変えても狂信者。追い払っても別の狂信者。

 

 狂信者狂信者狂信者。

 

 そのうち空から降ってくるんじゃなかろうか。

 

 チタウリと戦ってた方が遥かにマシだ。

 

 ウンザリしてる僕の横では、あるえが輝いた目でメモを取りまくっていた。

 

「君は楽しそうだな」

「えぇ、それはもう最高ですよ。噂には聞いてましたが、まさかここまでぶっ飛んでる人達だとは思いませんでした」

「なるほど。帰っていいか?」

 

 僕がここに来た目的は小説を台無しにしたあるえへの埋め合わせと、めぐみんがしっかりしてるかこっそり見る事。

 ついでにベルディアのようなアンデッドに効くという聖水だとかの装備を見ることだ。

 

 対ベルディア用……もとい、()()()()()()()()()()()()()()のプロットは頭の中で出来ているので、アンデッド用のアイテムを見るのは参考程度で良いだろう。

 

「……確かに勧誘の頻度が多すぎて前に進めないのは確かですね」

 

 人をネタにしまくってるあるえだが、さすがにメモの邪魔をされるのはごめんのようだ。

 さっきから首元や制服のポッケなんかに入信書がねじ込まれ、手元が揺れる度にわずかに顔をしかめている。

 

「かわいそうに。それどうするんだ? 暖炉にでもくべるのか?」

「そのへんのゴミ箱にでも適当に捨てておきます。スターク先生は……さすがですね。スキマがありません」

「賢いだろ?」

「私が思うに、どこに行っても勧誘を受けるのはその目立つ鎧のせいなのでは?」

 

 僕はというと、街中で思いっきりアイアンマンスーツを装着してアクシズ教の入信書ねじこみを防いでいた。

 紙を持って僕の周辺をうろつく狂信者共の姿と言ったら実に見物だった。

 

「君みたいに入信書を体中にねじ込まれるよりましさ」

「あの、スターク先生が鎧のなかに籠ったせいで私にそのしわ寄せがきてるのですが……」

「ぶっとんだ彼らが見たいんだろ? よかったじゃないか」

「ぐぅ……めぐみんが時々スターク先生の減らず口を愚痴っていたのがわかる気がするよ……」

 

 そうは言うものの、その分僕は囲まれて散々洗脳じみた勧誘をされる上に、あるえの恨めし気な目線が若干痛い。

 

「そう怒るな。君の好きなものをおごってやるよ。さすがに連中も店の中でまで勧誘はしてこないだろ」

「うぅむ……先生はなんでも物で解決しようとするのはやめた方がいいですよ?」

「一理あるな。それじゃ……とっておきの話をしてやるよ。本当はあまり話したくなかったんだが、僕は昔ウルトロンっていう世界を守る為の人工知能を作ったんだが……」

 

 新しくできた黒歴史なウルトロン計画の話をあるえにしようとして、ある見慣れた人物の姿が目に入った。

 

 リボンで束ねられた黒い髪、その種族の名前の由来となった紅い瞳、そして腰に差した短剣。

 

「……おや、ゆんゆんじゃないか。どうしてここにいるんだい?」

 

 あるえの言葉にビクリと体を震わせ、こちらに顔を向けたのはゆんゆん。

 串焼きの屋台の近くで何やらうろちょろしてたみたいだが……。

 

「あ、あるえにスターク先生……奇遇ですね。一体どうしてここに……」

「それは僕のセリフだ。めぐみんのお別れ会に君が来ないからどうしたのかと思えば……」

「い、いえ、違うんですよ!! ほ、ほら……私って中級魔法しか使えないじゃないですか……なので、早く上級魔法を覚えてめぐみんを超える魔法使いになるため旅を始めまして……べ、べつにめぐみんが心配でついてきたとかじゃないですよ?」

 

 恥ずかしそうにしながら勝手に自爆していくゆんゆん。

 

 ゆんゆんは、めぐみんが爆裂魔法を初めて使った時に色々あって中級魔法を習得していたのは知ってたが、旅に出ているとは知らなかった。

 

 そんな彼女は僕とあるえを交互に見ると、さらに顔を赤くさせてガタガタと震えながら。

 

「えっ……もしかして……観光地でもあるこの場所に二人で来るってことは……まさか……」

「おい、どんだけ妄想がたくましいんだ君は。思春期真っ盛りの少年だってもっと健全な頭してるぞ」

「頭がピンク色の優等生……なんだかネタになりそうだね」

「ままま待って!! ピンク色じゃないから!! お願いだから冷静にメモ取らないでええええええ!!!」

 

 めぐみんが彼女をいじめて楽しそうにしてる理由が少しわかった気がする。

 

「通行人の気を引くからあんまり大声で喚くなよ」

「そんな鎧身にまとってる先生にだけは言われたくないですよ!?」

「……で、これからあるえはネタ探し。僕は付き添い兼、対アンデッド装備の見学と爆裂娘っ子が四苦八苦してる様子をチラみしていく。君もどうだ? 一人旅が好きなら止めないが」

「えっ……良いんですか!? 私なんかが付いて行ってもいいんですか!?」

 

 僕らの目的を聞いているのかいないのか。ゆんゆんは心底嬉しそうな顔をして僕らを見ていた。

 なんだか彼女の背後に壊れたメトロノームみたいに振られる犬の尻尾を幻視する始末だ。

 

(先生、そんな憐れむ顔したらいけませんよ、失礼です。彼女だって好きでああなったわけではないのでしょうから)

(……だな、反省するよ)

 

 ゆんゆんに聞こえないようにあるえがそう耳打ちしてきた。

 とりあえず、ゆんゆんが串焼き屋に並んでいたので、買ってやることにする。

 

 観光地を串焼き頬張りながら歩くのもオツなもんだろう。

 

「あー……ゆんゆん、そこの串焼きを食べようとしてたのか?」

「はい、大勢のカップルや友人同士やパーティーとかが並んでいたので、私一人で行っても気まずくならないように二時間くらい店の前で空くまで待ってたんですよ」

「HA……HAHAッ……」

 

 いきなり超重量級の話をぶち込んできたゆんゆん。

 思わず僕も乾きまくった笑いがでる。

 

「おいあるえ、そんな憐れむ顔をするなよ。失礼だろ?」

「いや、その……ちょっと……今のは……」

 

 こうして、僕らは心に重い何かを感じたまま、串焼き片手にアルカンレティアを回る旅に出た。

 

 

 ▽

 

 

 薄暗い洞窟の中で、俺はずっと前からただひたすらボーッとしていた。

 

 紅魔の里から出てもうしばらく経つ。ウォルバク様の封印はおそらく解けているのだろうが、肝心のその半身がどこを探しても見つかりやしねぇ。

 あてもなく探したって見つかるハズもない。地獄から自分の下僕を呼び、あらゆる場所へと放ってはいるが……収穫はゼロだ。

 

「あー……天下のホースト様が、こんな洞窟でひきこもり生活とはなぁ……これじゃウォルバク様に顔向けできねぇぜ……」

 

 と、一人愚痴をこぼしている時だった。

 

「グァーッ! グァーッ!」

 

 洞窟の中に、一羽の鳥獣が飛び込んできた。

 

 ……俺が放った下僕の一匹じゃねぇか。まさか、収穫があったとでも言うのか? 

 

 死肉を食らう地獄の鳥獣は、整ったボロボロの羽を小刻みに羽ばたかせて俺の近くに停まると、その目で見てきたのであろうことを伝えてくる。

 もちろん人語はしゃべれねぇから、その魂そのものから声を聴く。

 

「ふむふむ……あぁ? 相当弱体化して弱ってるだと……? クソッ……どうなってやがんだ」

 

 報告はまだ終わっていない。その内容は、俺を驚かせなお余りあるものだった。

 

「……ハァ!? アーネスがやられた!? 一体どこの誰に……紅魔族のガキに……空飛ぶ真っ赤な鎧を見にまとった男……? 名前は……? なるほど。今どこにいやがる? ……アルカンレティア!? クソッタレ! よりにもよってあんなところかよ!!」

 

 俺は自分の角の辺りをガリガリと掻きむしる。

 アルカンレティア……悪魔やアンデッドが苦手とする聖職者がこれでもかといる腐ったミカンの巣窟だ。

 

 ……おまけにあの悪名高いアクシズ教の総本山。

 考えるだけでも頭痛がするが、ウォルバク様のためだ、一肌脱ぐしかねぇ。

 

 気合を入れるかのように、俺は洞窟の外まで威圧的に歩き出て、自慢の羽をバサリと広げた。

 

「グァーッ! グァーッ!」

 

 俺の出す威圧感と高い魔力に、報告に来た俺の下僕と周囲のモンスターたちが一斉に逃げ、周囲の生物の気配が消滅する。

 

「ハァ……やってやるぜ。さて、ウォルバク様を返してもらおうじゃねぇか、めぐみん……そして、トニー・スターク!!」

 

 このホースト、悪魔生最大の全力を出すとしましょう、ウォルバク様。

 

「ゴルゥァァアアアアアアアッッ!!!」

 

 覚悟の雄たけびを上げ、俺はアルカンレティアへと全速力で向かった。

 

 

 

 




めぐみんに人工知能のアシスタントができました。
男性の声ですが、イメージはスターウォーズ、ローグ・ワンのK2soとタイタンフォール2のBT、ノーランバットマンのアルフレッドからきています。
印象深い人工知能にしてあげたいなぁ、なんて考えております。
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