この素晴らしい世界に祝福を!アナザー・ユニバース・アイアンマン   作:Tony.Stank

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第17話ㅤ集まりし悪意

……最悪だ。

 

 ここアルカンレティアに来てロクな目に合ってないが、今日は特に最悪だ。

 警察に職務質問されたり、トイレの紙の強奪を手伝わされたり、警察署に連行されたり。

 

「めぐみんさん、お願いします!! ほら、優しそうな巨乳の女の子二人に、渋くて素敵なおじ様! あの人達ならきっとめぐみんさんを見捨てることはないと思います! さぁ! お願いします!!」

 

 その元凶であるアクシズ教最高司祭ゼスタが、私の目の前で手を合わせて拝んできていた。

 

 私は路地裏に隠れたまま、これが最後ですとだけ伝え、飛び出す準備をする。

 

 このいたいけな美少女が転んでいる様を見れば、きっと人は手を差し伸べてくれるはず。

 そしてお礼だと言って喫茶店に誘い、ゼスタさんとすり替われば私はもうお役御免だ。

 

 あとは勝手にアクシズ教に勧誘でも好きにしてくれればいいと思う。私は宿に帰って休みたい。

 

「めぐみんさん、今です!」

 

 ゼスタのその声を合図に私は路地裏から飛び出し。

 

「ぐあああああ!! ひ、膝を擦りむいてしまいましたあ!! な、なんということでしょう!!」

 

 できる限り自然な感じですっ転んだ──! 

 

 

 ▽

 

 

「そういえば、スターク先生って敵はいないんですか?」

 

 串焼きを堪能しつつ、勧誘してくるアクシズ教徒に四苦八苦しながら街中を歩き続けること数分。

 

 あるえがおもむろにそんなことを聞いてきた。

 

「……いきなりなんだ?」

「スターク先生は、里にあった元謎施設を改造して王都に戦いを有利に進める魔道具を作ってるじゃないですか」

「魔道具じゃない、科学技術の産物だ。魔道具よりもっと確かで、魔力も要らなくてさらに便利だ。一緒にするな」

 

 あんな不完全な失敗作と僕の発明品を一緒にされるのは僕のプライドが許さない。

 

 僕がまくし立てると、あるえは若干戸惑ったような表情を見せ……。

 

「なぜそんなに魔道具を目の敵に…………」

「ほ、ほら……スターク先生は魔力値があまりにも低すぎてロクに魔道具を使うことが出来ないから…………」

「あぁ…………」

 

 ゆんゆんの小声になってない無意味な耳打ちにあるえが納得する。

 

 この世界の文明力は火を起こす時に火打石を使ってるレベルだ。

 ライターのような誰でも簡単に火を起こせる魔道具が何十万なんて値段で売られている。

 

 バカバカしいことこの上ない。そのうちライターも普及させてやろう。

 とりあえずは防衛設備を優先させるが。

 

 ………………いや。

 

「違う、そうじゃない。なんでいきなりそんなことを聞いてきたんだ? 君も軍事産業を始めたいのか? やめとけ、暗い洞窟に閉じ込められて無理やり武器作らされるのがオチだぞ。ヘタすりゃ胸に穴が空くかもな」

「なりたいのは小説家です…………その、革新的なアイディアで次々と防衛設備を提供するのはいい事だと思うのですが、それまで王都に武器を売ってた方々が仕事を奪われ、それで怒りを買ったりしていないかと少し思ったんですよ」

「わ、私も聞いたことある…………。昔の話なんだけど、私たちのご先祖さまが魔道具作りを始めた時も、紅魔族の作る質の高い魔道具を妬んで嫌がらせを受けたとか…………」

「それくらいで済んだらいいのだけれどね…………」

「…………心当たりが無いわけじゃない」

 

 王都でクレアから聞いた話だ。この先護衛をつけた方がいいかもしれない、と。

 その時は装着していたアイアンマンスーツを見せびらかすようにコンコン叩いておどけて見せたが…………。

 

 実際、王都に居ると時々ピリピリとした視線を感じるのだ。まぁ、同業者の妬み、恨みなんてのは親の愛情よりも注がれて来たから別に慣れっこなのだが。

 

 …………言うほど親に愛情なんて注がれてないけどな。特に親父からは。

 

 あぁハッピー、元気にしてるだろうか。ボディーガードの枠なら今空いてるぞ。

 

「心当たりがあるとなると、少しスターク先生が心配になるね」

「う、うん…………王都との取引クラスってなると、競争に勝つために相手の企業の重鎮に暗殺者を送ったり呪いをかけたりなんて話も聞くし…………」

 

 さすがは倫理観が中世レベルの異世界。

 自分が上り詰めるためなら邪魔者を殺す事さえ厭わないのか。

 

「心配してくれるのはありがたいが、僕は無敵のアイアンマン(INVINCIBLE IRON MAN)だぞ? そんじょそこらの暗殺者如きが僕にかなうと思うのか?」

 

 そう自慢げにふっと笑うと、ゆんゆんもあるえも安心したかのように静かに笑った。

 

「で、ですよね……スターク先生が負けるとこは想像できませんし…………少なくとも、その鎧を着てない時に狙われでもしない限りは大丈夫ですよね!」

「ちょっと待った。それって僕がスーツがなきゃ戦えないって意味か?」

「そ、そういう意味じゃぁ…………」

「冗談だよ。そこまで突っかかるほど僕も性格悪くない」

 

 からかわれたゆんゆんは、どこが? とでも言いたげな微妙な表情で顔を引きつらせていた。

 彼女から見た僕はそこまで性格が悪そうに見えるのだろうか。

 

「ところで、今こうして街をブラブラしてるわけだけど、どこに向かう? ゆんゆんは目的地でもあるのかい?」

「私はとりあえずレベルを上げたくて……」

「それと、めぐみんが心配だった……とかかな?」

「べべ、べつにそんなわけじゃ……」

「隠さなくたっていいだろ。僕だってめぐみんがどうなってるかは気になってる」

「せ、先生……そこまで生徒のことを……!」

 

 そのへんで野垂れ死んでないかだがな。

 

「それに、対アンデッド用の装備なんかを参考程度に見たい。ちなみにあるえは変人奇人が見たいだけだ」

「ええ。我が邪眼によると、勧誘に来た者たちは平均的な個体……もっとすさまじいのがまだいると出ています。そういう人たちが居そうな大聖堂とかへ行きたいですね。いやぁ、楽しみですよ」

「そうか。楽しんでこいよ」

 

 僕のさりげない同行拒否にゆんゆんが顔をしかめた。

 

「そこまでアクシズ教徒が嫌なんですか……?」

「すいません、普段から飄々としてるスターク先生が変人奇人を前に色々面白いことになっているのを見るのも目的の一つなので、一緒に行動していただけると助かります」

「なるほど。超断る」

 

 あるえは都市部の観察なんかを含めて二泊はしたいとか言ってたが、彼女のロケ中はなんか適当にお菓子とコーヒーでも買ってどっかの建物の屋上とかでくつろいでいよう。そうしよう。

 

「ま、まぁ、そう言わずに……ほら、めぐみんがアクシズ教徒に入信してたら面白くないですか?」

「そんなことしてたら里に連れ帰って家族会議させてやる」

「でも、好き勝手生きようとするめぐみんにはだいぶ合ってそうで…………」

 

 それがフラグだったのか。

 僕らの目の前に、突如何かが路地裏から飛び出してきた。

 

 あぁ、また勧誘──

 

 

 

 

「ぐあああああ!! ひ、膝を擦りむいてしまいましたあ!! な、なんということでしょう!!」

 

 凄まじく見覚えのある奴が路地裏から飛び出し、地面でのたうち回り出した。

 

「あぁ! このままでは傷口からバイ菌が入り破傷風に…………!」

 

 後ろのゆんゆんとあるえも絶句している。

 

 そりゃそうだ。学年の元首席がこんな道端で奇声を上げながら死にかけのハエみたいなブレイクダンスを披露してたら誰だって絶句する。

 

「うっ……あまりの痛さに涙まで…………!!」

 

 痛がってる演技のつもりなのか、ギュッと目を瞑ったままでまだ僕らに気づいてない。

 

 …………このまま眺めてやろう。

 何やってるのか知らないが、このヘタな演技がどこまで続くのか気になる。

 

「あうぅ…………えっと…………これは骨もヤバいかもしれません…………痛た…………」

 

 で、次は? 

 

「あいたた…………お、おい! 痛がる乙女を眺めるだけなんて良い度胸…………」

 

 ムクっと起き上がった大根役者ことめぐみんは、僕らの姿を見るやいなや石になったかのように固まった。

 

 パチパチパチと、僕は目の前の石像と化しためぐみんにわざとらしい拍手を送り。

 

「Wow! 見事な演技だった! ブラボー!! みんな拍手!!」

「ねぇ、めぐみん……こんなところでなにしてるのよぉぉおおおお!!!」

「あ、ちょっ! 膝を擦りむいてるのは本当なので揺すらないでください!!」

「これはまた…………実に面白くなりそうだね」

 

 ゆんゆんが叫び、僕は拍手し、あるえはメモをとる。

 

 ここに来てよかった。来てなかったら生徒の頭がおかしくなってたことに気がつけなかったからな。

 

 

 ▽

 

 

「美少女だ…………美少女がいる…………」

「見てあの髭の形…………素敵だわ…………」

「ようこそ我らの大聖堂へ。いやぁ、美少女三人にセクシーなオジ様と出会えるとは…………」

 

 僕らが今いるのはアルカンレティアの大聖堂。

 めぐみんのあの奇行はアクシズ教徒に手伝わされてのことだったそうだ。

 

 このカルト教団どもめ、なんのつもりなんだ。

 

「で? ウチの元生徒があんたらみたいなカルト教団に変な儀式をやらされてた理由は?」

「まぁ、そうカリカリせず…………確かに我々は変わり者かもしれません…………ですが、普通の人間が入信したって面白く無いではないですか! 変わり者だらけでこそアクシズ教なのです!! これで真人間だらけだったらアクア様に示しがつかない!」

 

 仰々しく手を広げながら叫ぶ、このカルト教団のトップであるゼスタ。

 あるえは楽しそうにメモを取っている。

 

「信仰する女神が酒好き宴会好きの遊び人なだけはあるな」

「ほう……まるで知っているような口ぶりですな」

「あぁ、知ってる。僕の前で酔って騒いで上司に怒られて泣いてたのを見たんだ」

(ス、スターク先生……!)

 

 聖職者をからかうなと、ゆんゆんが横から小声で注意しながら小突いてくる。

 これ本当の事なんだけどな。

 

 そのゼスタはうつむいてプルプルと震えている。怒らせてしまっただろうか。

 やがてガバッとその顔を上げて唐突に叫び始めた。

 

「素晴らしい!! 信徒でもないというのに女神アクア様をよーく理解してらっしゃる!!」

 

 恍惚とした表情で天を仰いだかと思いきや、グリンッと聞こえてきそうな勢いで僕の方へと首を回して再び叫ぶ。

 

「そう! その通りです!! 自由奔放で好きに騒ぎ、好きに笑い、そして何かやらかして泣き喚く!!! 我々はそんなアクア様を心から愛で、敬い、そして崇拝するのです!!」

「カルト教団じゃなくてただのイカれたファンクラブだったか」

「スターク先生!! この人を刺激しちゃだめですよ!! 紅魔族の勘がこれは煽ってはいけない人種だと告げています!」

「はっはっは。気にしないでくださいめぐみんさん。我々はアクア様を信仰する教徒。その心だって海のごとく広く、水のごとく透き通っているのです。なので……」

 

 ゼスタは僕の顔面に鼻息がかかりそうな程距離を詰めてメンチを切りながら。

 

「めぐみんさんに頼んでいた宗教勧誘のお手伝いをしていただきます……めぐみんさんはあなたの元教え子だそうじゃないですか。だったら、あなたも手伝ってくれますよね゛ぇ゛ぇ゛え゛?」

 

 めちゃくちゃ根に持ってるじゃないか。

 

「僕にテロの片棒を担げっていうのか? 断る……と、言いたいところだが…………一つ条件を飲むならやってやってもいい。これでも僕は世界随一の頭脳と特別な知識を持つ男なんでね。信者の数を確実に増やすと約束してやる。あと顔が近いから離れてくれ、気持ち悪い」

「至近距離で合法的にセクシーオジ様の顔を拝見する絶好の機会だったのですが……仕方ありませんね。では……聞きましょう。その条件とは?」

 

 口を開けばとち狂ったことしか言わないゼスタ。

 飲んでもらえるか、飲んだとして守ってもらえるか不安になるが…………。

 

「これが終わったら今後この子たちに一切勧誘をするな、もちろん僕にもだ。簡単だろ?」

「ふぅむ…………いいでしょう、わかりました。三人の美少女の入信を諦めるに値する程信者を増やしてくれるのであれば、その条件を飲みましょう」

「交渉成立。喜べー、みんな。もうこんなアホどもと関わらなくて済むぞ。早く終わらせてバーで飲もう。ノンアルコールカクテルまでなら許す」

「私たちを信者に加えるつもりだったのですか……」

「勘弁して欲しいですね……」

「見る分にはいいのだけれどね……」

 

 

 ▽

 

 

 大聖堂の大広間にて、新たな宗教戦術のための会議が始まった。

 僕は用意された黒板の前に立って話を進めていく。

 

「それじゃまず先に、あんたらの得意分野を教えてくれ」

「はい! 他人のポッケというポッケに一瞬で入信書を溢れるほどねじ込むことです!! 女性だったら次いでにどさくさに紛れてセクハラもできます!!」

「はい! 美人のブラのホックを服の上からすれ違いざまに外せることです!」

「はい! 俺の得意なことは、エリス教会の入り口にばれないようにうんこをすることです!」

「会議はこれにて終了だ。今からあんたらをまとめて刑務所にぶち込む」

 

 僕がクイッと首で指すと、僕の横で待機してたスーツがその動きに反応して犯罪者たちに掌を向けた。

 

「ああああああ!! スターク先生待ってください!! 気持ちは痛いほどわかりますが、だからって手を出したら余計大変なことになりますよ!?」

 

 スーツの方ではなく本体()の方を羽交い締めするめぐみん。

 

 全くもって無意味な上に背が足りないせいでそもそも押さえられてない。

 

「かわいいわ…………あの背丈の足りない羽交い締め…………まるで抱きつく駄々っ子みたい…………セシリーお姉ちゃんにもやって?」

「私にもお願いします! ゼスタおじちゃん……いや、パパって言いながらやってください!! 胸を押し付けながら!」

「…………ッ」

「あっ! めぐみんが爆裂魔法の詠唱をしてる!! だ、誰か取り押さえてぇ!!」

「スーツ! めぐみんを捕まえろ!」

 

 おかしい。生徒をカルト教団から守る為に会議をしてたはずなのに、なぜか生徒を取り押さえていた。

 

 頭がどうにかなりそうだ。

 

 

 

「──で、だ。あんたらに得意分野を聞くべきじゃなかった、反省すべきだな。それじゃ、あんたらが共通で好きな物はなんだ? どうせなら面白おかしくやろう」

「「「「アクア様!」」」」

「それは聞かなくてもわかる。他には?」

 

 ちょっと荒れた聖堂の広場で会議を仕切り直した僕は、再び教徒たちに質問をする。

 

 全員しばらく悩んだ素振りを見せた後、ゼスタがみんなを代表するかのように言った。

 

「ほぼ全員にあてはまることと言うと、我々は皆騒ぐのが好きで」

「それだ」

 

 最後まで言い切る前に、僕は指を鳴らしてゼスタを指さす。

 僕の脳裏には天界でアクア達とやった宴会が浮かんでいた。

 

「君たちで何か宴会をするんだ。どこかの建物を貸し切って、祭りじみたド派手な奴を。もちろんアクシズ教の主催だとは言わずにな」

 

 黒板にでかでかと書かれた宴会作戦の字に、アクシズ教徒達が色めきたつ。

 

 食いついたな。

 

「スタークさん、我々が宴会するだけで信者を集められると言うのですか!?」

「あぁ、誰か芸とか出来るやついるか? 飾り付けが得意なやつも欲しい」

「いますともいますとも!! 何を隠そう、アクシズ教徒は入ると芸達者になる事で有名なのです!」

「そりゃ結構、作戦はこうだ。あんたらで芸をしながら飲み食いできる催し物を開催しろ、参加費も取ってな。それで人が集まったらこいつを渡す」

 

 そう言って僕がピラっと取り出したのは、一枚の…………いや、正確には密着して一枚になってる特殊な二枚の紙だ。

 出された紙に書かれてる文字に、アクシズ教徒達が注視する。

 

「満足度向上アンケート……?」

「見た目はな。アンケートを書いてくれた人に抽選で豪華なプレゼントがあると言って渡せ。それだけでみんな書き始める。そして、ここからが本番だ」

 

 アンケートに書かれている項目は上から順番に《氏名》、《性別》、《住所》。そして楽しかったか、また次も参加したいかと言った質問にYESかNOで答える簡単なチェック項目。

 

 それを全員に確認させた後に、紙の隙間に指を入れてペリペリと剥がすと…………。

 

「おおっ!!」

 

 現れたのはアクシズ教入信書。

 

 そう、僕の世界では当たり前となっている複写紙だ。

 アンケートの項目を埋めると、そのまま下に仕込まれた入信書の項目も埋まる仕組みになっている。

 

「素晴らしい! 素晴らしいですよスタークさん!! 我々は宴会で楽しく、尚且つ入信者が増え、オマケに儲けることもできるとは!! 流石人類随一の知能の持ち主ですね!! チューしてもいいですか!?」

「半径五メートル以内に近づいたら灰にするぞ」

 

 浮かれまくるアクシズ教徒達。僕は注意するように一つ咳払いして。

 

「心配なのはあんたら自身だ。ちゃんとやれるのか?」

「ふっふっふ……スタークさん、安心してください……我々の本気を見せてあげましょう!」

「だからそれが心配だって言ってるんだ」

 

 

 ▽

 

 

「クソったれ! 誰も買おうとしやがらねぇ!!」

 

 瓶の中の酒を一気に煽り、床に叩きつける。

 ガラスが砕けて散らばる音が部屋中に響き渡った。

 

 イラつきを隠そうともせず、壁に切って貼って置いた新聞の一部に視線を移す。

 俺はもう何度見たか分からない、壁に切り貼りされた新聞の一面に大きく書かれた文字を眺めた。

 

 その視線に強い嫉妬と怒りを込めて。

 

 

 

 

 ──【騎士団、及び冒険者の戦死率が著しく低下。導入された新型兵器の成果か】

 

 ──【王都の戦いを変えた謎の技術者、トニー・スターク氏に迫る】

 

 ──【我々記者は、トニー・スターク氏に独占取材を行うことに成功した。そのインタビュー内容を下記に記す。

 

 

 記者 : インタビューに答えて頂きありがとうございます。執拗に取材を断っていることから、マスコミ嫌いなのでは? との噂が立っていましたが……。

 

 スターク氏 : 記者の君が美人だったんでね。

 

 記者 : は、はぁ……。

 

 スターク氏 : まぁ、それは半分冗談だ。で、聞きたいことは? 

 

 記者 : あなたは他国の生まれだそうですが、我が国の支援を行っている理由は? 

 

 スターク氏 : それって既にこの国の歴史の教科書に載ってないか? あ、載ってない? それもそうか。この国に来てまだ(重要性が低いため割愛)

 

 記者 : あ、あの……。

 

 スターク氏 : あぁ、失礼。理由は簡単だ。平和が好きなだけさ。僕が防衛設備を整え、そして死亡率が減った。つまりは平和の民営化だ。僕が作った発明品によって世界が少しずつ平和になっていく。その始まりとしてこの一番戦いが激しい国に僕の発明品を提供してるって訳だ。

 

 記者 : なるほど、お答え頂きありがとうございます。ですが、それにより元々王都にいた武器商人達が次々と職を失っているという事実についてはどう思いますか? 

 

 スターク氏 : 申し訳ないとは思うが、僕が提供している品の方がより兵士たちの命を守ってるのもまた事実だ。これが指す意味を、同じビジネスマンなら理解していただ】

 

 

 そこから先は俺が怒りに任せて引き裂いたので読めない。

 

「スタークの野郎……いきなり現れて全てを奪いやがって…………」

 

 安物の煙草に火をつけ、机の上に置いてあるナイフを手に取り…………。

 

「おかげで俺はこんなドン底生活だ!」

 

 新聞から切り抜いたスタークの顔写真にナイフを投げつけ、また一つ鋭い穴を開けた。

 

 不味い煙を肺から吐き出し、ボロボロのソファに寝転がろうとしたその時。

 

 

 

「おーおー、こりゃまた……いい悪感情を放ってんなぁ」

 

 突如我が家の中で聞こえた自分以外の声に、バッと声がした方に振り向くと…………。

 

「…………ッ!?」

「よぉ、俺様の姿が禍々しくて最高なのは分かるが、声は出すんじゃねぇぞ」

 

 ……悪魔。

 大剣をまごのて代わりにしてしまいそうな堅牢さすら感じる、光沢を放つ漆黒の巨躯。

 コウモリのような巨大な二枚の翼。

 そして、邪悪の象徴とも言える禍々しくて巨大な角。

 

 ただの悪魔じゃない、大悪魔だ。

 

 …………だが。

 

「…………悪魔なんかが、俺に何の用だ?」

「冷静で助かるぜ…………いや、生に未練が無いだけか」

 

 職も失い、財産も無くなくなり、全てを諦めかけている俺からすれば、大悪魔様が目の前に現れた所で驚きはしても、慌てふためいて逃げ出す気分になんてなりゃしなかった。

 

 その悪魔は背中の羽根を広げて、挨拶を…………。

 

 ただでさえでかい体が更に大きく見えやがる。

 

「俺様の名前はホースト。アルカンレティアにちょいと用があったんだが、大悪魔である俺様でも、さすがに聖職者の総本山には近づきたくねぇ。どうしたもんかと辺りをグルグルしてたら、とびっきり極上な悪感情を感じてな。能天気だらけのアルカンレティアじゃ味わえねぇ代物だ、ご馳走様」

「クソが。ここは飯屋じゃねぇ」

「じゃぁなんなんだ?」

「武器屋だ……あってないようなもんだけどな」

「何か訳がありそうだな。上質な悪感情を貰ったお礼だ、話してみろよ。カウンセリングは得意じゃないが、悪魔は人の愚痴聞くの上手いんだぜ?」

 

 そう言ってクツクツと笑う悪魔……ホースト。

 

「…………いいぜ、俺がこんな狂信者だらけの街の郊外でネズミみたいに暮らしてる理由を教えてやるよ」

 

 特に話す奴もいない。俺は自分がこうなった原因の愚痴を吐き出した。肺を通したたばこの煙なんかよりもはるかに重く、そして毒々しく。

 

 

 

「──はぁ、トニー・スタークねぇ……こいつぁ何か縁があるかもしれねぇなぁ」

「あ? なんだってんだ?」

「そいつは俺が狙ってる奴でもある。正確には、奴の連れのガキだがな。聞いて驚くなよ? あいつは今アルカンレティアにいるんだぜ?」

「……ハッ、なんだよ、ここに何しに来たんだ? まさかここにまで仕事を奪いに来たのか?」

「さぁな…………まぁ、本題はこっからだ……」

 

 ひとしきり俺の愚痴を聞き終えたホーストは、俺の方に近寄って膝を曲げ、ただでさえ凶悪な顔をニタリと歪ませた。

 

「取引をしねぇか? 俺がトニー・スタークを殺してやる、同僚の仇討ちだ」

「…………見返りは?」

「爆裂魔法しか使えない紅魔族のガキがいる。そいつが連れている黒い魔獣をさらってこい。簡単だろ? 魔獣と言っても、今は弱体化されて猫くらいの大きさになっているそうだ」

「ケッ…………なにやらされるかと思えば……ペット泥棒かよ」

「さて、乗るか? 降りるか? 悪魔はな、契約には絶対従うんだ。裏切ったりなんてしないぜ」

 

 …………答えは出ている。

 スタークには死んで欲しい。あいつさえ居なければ、俺はまた王都で稼げるんだ。

 

「いいぜ、泥棒でも何でもやってやるよ。俺の部下や同じく恨みを持ってるやつらにも掛け合ってみる。だが、本当に出来んのか? あいつ、強さもそんじょそこらの冒険者とは比べ物にならないってもっぱらの噂だ。そこもまたムカつく所だけどな」

「強かった俺の同僚も倒したんだ、そりゃぁ強えだろうよ。でもな……」

 

 ホーストは牙をギラつかせ、

 

「──無敵の鎧男だって、弱点はあんのさ」

 

 大悪魔にふさわしい悪辣な笑みを浮かべた。

 

 

 ▽

 

 

 アクシズ教信者獲得作戦の発案から二日後。

 

「ふははははは! わはははははは!! こりゃ笑いが止まりませんなぁ!!! 見てください、この大量の入信書を!」

「おほほほほほ!! ゼスタ様、ゼスタ様! こちらも見てください!! 大量のエリス金貨ですよ!!!」

「「イエエェェェエエイ!!!」」

 

 僕らの目の前では、作戦を大成功させたアクシズ教徒達が狂喜乱舞してた。

 

 そしてとなりではゆんゆんが僕に非難するような目を向けている。

 あるえにいたっては満足気だ。

 

「スターク先生…………自分が何をしたのか分かっているんですか…………?」

「…………僕は知恵を貸しただけだ。あとはあいつらが勝手にやったんだ」

「犯罪者の言い訳ですよそれ…………」

「おかげで色々面白い経験が出来ましたがね」

 

 アクシズ教徒の行動力は尋常じゃなかった。

 

 まさか作戦会議が終了した瞬間に行動を開始し、たった一日半で準備を終えて宴会を実行してしまうとは…………。

 

 しかもその質も凄まじく、謎の宴会芸で人の注目を集め、大勢の参加者を呼び込んでいた。

 

 さてどうしたものか。

 

「スタークさんには感謝しかありませんよ!! いつもは月に二、三人勧誘出来れば良い方なのですが、今回だけで二百人は集まりました!! ほら、みんなでスタークさんに感謝をしましょう!!」

「「「「スターク! スターク! スターク! スターク!」」」」

 

 …………本当に、どうしたものか。

 

「おめでとうございます。晴れて救世主ですね」

「めぐみん、いくら僕が素晴らしい教師だからって、皮肉まで学ばなくてもよかったんだぞ?」

「どうするんですか? これ……この街の善良な市民や冒険者達が…………」

「……あくまでも書類上で入信しただけだ。あとは気に入ればそのまま続け、気に入らなければ勝手にやめてけばいいだけだろ。それに、重要なのはこれであいつらとの関係も終わりってことだ」

 

 本番で散々宴会して騒いでいたにも関わらず、聖堂の中で二次会を続けるアクシズ教徒達。

 

 半裸で女性信者に近寄りビンタされてるゼスタに近寄り、呼びかける。

 

「ゼスタ。約束は覚えているだろ?」

「えぇ、もちろんです。金輪際あなたとあの子たちに勧誘はしませんとも。ですが、もしあなた方から入信したくなった時はいつでもここの門を」

「それはないから期待するな。それじゃ、僕らは失礼するよ」

「あ、最後に一つ……」

 

 …………なんだろうか。

 はっきり言って今やったのは警察に捕まりかねないことなので、詐欺の疑いでしょっぴかれる前にここから離れたい。

 

 僕はあるえ、ゆんゆん、めぐみんの肩を押して去るようにしながら顔だけゼスタに向けて。

 

「……まだ何か」

「『ブレッシング』!」

 

 ゼスタが僕の方に手を向けてそう唱えると、柔らかい光が僕を包んだ。

 続けて三人娘達にも、さっきと同じ魔法を唱えていく。

 

 今のは…………。

 

「あなた方の幸運値を上げる神聖魔法ですよ。いやはや、本当にお世話になりました。これは私からのささやかなお礼ですよ」

 

 そう言って、ゼスタは優しげに微笑みながら僕らにグッとサムズアップした。

 

 ……頭はおかしいが、悪い奴では無いみたいだな。

 

 僕は素直にお礼を言おうとゼスタに向き直るが、さっきの優しげな笑みはどこへやら、剣呑ささえ感じる真剣な面持ちでこっちを見ていた。

 

「スタークさん。最後になりますが、帰りはどうかお気をつけを。なにやらここ二日で急激にこの街の空気が張り詰めてきました。それに、何か醜悪な臭いがします。十分に警戒して行ってください。おすすめの安全地帯は私の部屋のベッドの中ですよ」

「真面目ぶるのかふざけるのかどっちかにしろよ…………だがまぁ、気をつけるよ。じゃぁな、祝福をありがとう」

 

 別れの挨拶をし、再びゼスタに背を向けて聖堂の外へと歩き始めた。

 

 張り詰めた空気…………それは僕も何となく感じていた。どうも胸騒ぎがする。

 王都で感じていたあの嫌な視線が、アルカンレティアでもしたのだ。考えすぎかと思ってたが…………。

 

 …………もし仮に僕を狙ってる連中がいるとして、そいつらが僕とめぐみん達の関係を知っていたら? 

 小賢しいやつなら間違いなく人質に使おうとするだろう。

 

 二泊三日で紅魔の里に帰る予定だったが予定変更だ。

 

 少なくともアルカンレティアに残るであろうめぐみんとゆんゆんの護衛をすべきだ。

 僕の授業は休みにしてくれって学校に頼んでおかないとな。

 

 問題はこれを伝えるかどうかだが…………。

 

「スターク先生、なんだか難しい顔してますね。どうかしたんですか?」

「…………いいや、なんでもないさ。もう夕方近いし、飯でも行くか? いままで大変だったからな。奢ってやるよ、どこがいい?」

 

 胸騒ぎの原因に確信がある訳じゃない。なのに敵が狙ってるかもしれないと言って無駄に心配させることも無いだろう。

 

 とりあえず、意外にも鋭い指摘をしてきたゆんゆんに飯の提案をして軽くはぐらかすす。

 

「せ、先生に奢らせるなんて悪いですよ……」

「大人がこういった時は素直に甘えとけ。他のみんなはどうだ?」

「それではお言葉に甘えて…………そうですね、カクテルが頼めるバーがいいです」

「ませてるな…………で、めぐみんは?」

 

 いつもなら奢りと聞くや否や真っ先に飛びついてくるはずのめぐみんから声がしない。

 

 お腹でも痛いのかと振り返ると、めぐみんはボーっとして下を向いていた。

 心ここにあらずといった様子だ。

 

「……めぐみん? 聞こえてるか? おい」

「あっ……はい、地獄ネロイドが何ですって?」

「そんな単語一言も出ていない。……大丈夫か?」

「……ええ、問題ないですよ」

 

 はにかみながらそう返すめぐみん。

 

 ……どう考えたって何かある。複雑怪奇な女心を読み解く多少の自信はあるが、思春期まで絡んでくるとさすがの僕も分からない。

 

 

 ▽

 

 

「ドライマティーニを」

「はい、かしこまりま」

「まだ終わっていません。ジン三にウォッカ一、キナリレ二分の一、シェイクしてレモンピールのスライスを」

「は、はい……ただいま……」

 

 今度はOO7か。

 劇中に登場するカクテルを頼んだあるえはカウンターの上で満足そうにふんぞり返ってる。

 

「お待たせしました。ご注文のカクテルになります。……あの……もしご迷惑でなければ、このカクテルをこの店のメニューに加えてもよろしいでしょうか? マスターが大変感服したようでして……このカクテルに名前はございますか?」

「冠された名はヴェスパー……悲哀の女性からとった名のカクテルです」

「ヴェスパー……ありがとうございます!! お礼の証として、そのカクテルのお代は結構ですので……」

 

 そう言って立ち去るウェイターをウィンクして見送ったあるえは、流れるような動作でグラスをスッと僕の方へと滑らせた。

 

 …………。

 

「なぁ君……まさかとは思うが……」

「……これがやりたかっただけです。そのカクテルはどうぞ、私はお酒飲みませんので」

「バカにしてるのか」

 

 出された以上は飲むしかない。

 僕はヴェスパーを味わいながら他の料理や飲み物を注文する。

 

 めぐみんはすでに山盛りのタレ付きチキンを口元も手もタレまみれにしながら頬張っていた。

 なにやら悩んでいたみたいだが食欲には勝てなかったらしい。

 

「もー、めぐみん…………女の子なんだからもうちょっと色々気を使いなさいよ…………」

「うぐむむ…………そんなに気を使わなくても…………でも、ゆんゆんはいいお嫁さんになるかもしれませんね」

「あっ! 指舐めちゃダメよ、はしたない!」

 

 こうしてみると仲の良い姉妹のようだ。

 あるえもそんなふうに思ってるのか、二人を眺めてうんうん唸ってる。

 

「めぐみんとゆんゆんをモチーフにしたキャラクターを小説に出す気でいたんだけど、やっぱり二人はカップルって設定にした方が良さげだね?」

「「カップルじゃない(から)です!!」」

「僕ら邪魔かも?」

「かもしれませんね?」

 

 

 

 

 

 

「あぁ、実際おまえは邪魔なやつだよ」

 

 ────! 

 

 聞こえてきたその背後の声に反応して即座に振り返ると。

 

「高級バーで呑気に酒か。いいご身分だな」

「アイツの言ってた通りだ、ガキを侍らせてやがる」

「何もかも気に食わねぇやつだ」

 

 そこには、数人ほどの武装した男が立っていた。

 持ってる武器はダガー、メイス、ククリナイフ、小型の杖。

 

 クソ、勘違いじゃなかったか。

 

「ス、スターク先生…………」

 

 剣呑な雰囲気に押され、隣に座ってたゆんゆんが僕の裾を掴む。

 

「…………用があるのは僕だろ? 外で話そうか」

「今回の狙いはお前じゃなかったんだが…………まぁいい、最終的な目的はお前だ、しかもあの鎧も装着してないときた。悪魔の力だかは必要ないかもな」

「悪魔は契約にうるさいんだ。果たさないと厄介なことになるかもしれねぇぞ。おい、一番背の低いガキだったか? そうだ、そこの……口がソースまみれのやつ」

 

 指を指されためぐみんが、その男を睨む。

 

「…………なんでしょう? 私になにか御用ですか?」

「お前が連れてるという漆黒の魔獣が欲しい。そいつを探してるやつがいるんだよ。どこだ?」

「…………お断りです。ちょむすけは私の使い魔なのです、渡すなんて考えられません」

「ちょむ…………なんでもいい、出さねぇって言うなら……」

 

 ギシッと、武器を握る手に力が籠る音がした。

 これはまずい。

 

「まぁ、待てめぐみん、穏便に済ませようじゃないか。今僕らは何の武器も持っていない、逆らうのは得策じゃないぞ?」

「な、なにを…………」

「いいから聞け。猫一匹渡すだけで見逃してもらえるんだ。()()()()()()()()良い提案だと思わないか?」

 

 そう言って、めぐみんだけじゃなくあるえとゆんゆんにも目配せする。

 

「「「………………!」」」

 

 どうやら気がついたようだ。さすが、頭が良くて助かる。

 

「ハッハッハッ!! 鎧がなければそんなもんなのか!!」

「ケッ、ガキを殺す予定はねぇよ。ただし、トニー・スターク、てめぇだけは絶対に許さねぇ」

「お前のせいであらゆるものを失ったんだ、富に名声……返してもら」

「続きは職業案内所でやってくれ」

 

 そう言うと同時に手首に装着していたデバイスを展開、指ぬきグローブのような形に姿を変えて僕の手を覆った。

 

 すかさず手のひらを男どもに向け…………。

 

 

 

 室内が白く染まるほどの強烈な閃光を炸裂させた!




本編突入詐欺してすいません………。
書いてたらなんか少し伸びてしまいました。

次々回で本編突入になります。

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