この素晴らしい世界に祝福を!アナザー・ユニバース・アイアンマン   作:Tony.Stank

19 / 52
お待たせしました。
引っ越しをすることになったので、少し投稿頻度が下がりそうです。
申し訳ありませぬ……。


第18話 MEGUMIN RIGING

 バーに絶叫が轟く。

 

「「「「ぎゃぁぁああああ!!」」」」

 

「クソっ! 目が…………!」

「何も見えねぇ…………!」

 

 武装してた男たちが目を抑えてのたうち回った。

 

「あああああ!! 何をするのですかお客様ぁぁぁああ!!」

 

 ……そしてバーテンダーも。

 

「迷惑料も置いてくからな!!」

 

 カウンターに多めのチップを起き、子供達の手を引いてバーの外へと飛び出して街道を走る。

 

 それにしても…………。

 

「あるえ! めぐみん! なんで君らまで食らってるんだ!! 作戦を理解したんじゃなかったのか!?」

「えぇ、理解しましたとも……ですが…………」

 

 めぐみんとあるえは互いに薄く目を開いてサムズアップしながら。

 

「「あんなかっこいい変形を見逃すワケにはいかなくて……」」

「君たちふざけないと死ぬのか!?」

「もも、申し訳ありません…………族長の娘として謝罪します……」

 

 そろそろ目が回復してきたのか、僕に引っ張られなくても走れるようになってきためぐみんとあるえ。

 

 だが、二人の視力が回復したということは…………。

 

「逃げんじゃねぇぇええ!!」

「絶対に殺してやる!!」

 

 流石にあれくらいじゃ撒くには足りないか。

 

「ったく、まだ夕方前だってのにこの街の警察はどうなってるんだ?」

「…………ひょっとしたら、知らないうちに自分がアクシズ教徒になっていて驚いた人達が警察署とかに殺到してるのかもしれませんね」

「…………悪いことはするもんじゃないな」

「スターク先生…………」

 

 遠くを見る僕をジトっとした顔でみるゆんゆん。

 そんな顔するな。

 

「スターク先生、反撃しないんですか? なにか魔法の詠唱をしていますが…………」

 

 あるえのその声に後ろを見ると、こちらに杖を向けて詠唱してる男の姿が。

 

 そういや杖持ってる奴もいたな。

 

「『ライトニング』ッッ!」

 

 背後から放たれた電撃の中級魔法。

 

 射程、威力、速度、どれも優秀。真っ直ぐ飛ぶから狙いやすい。

 直線に逃げる敵を追撃するにはまさにもってこいの人気な魔法だ。

 

「スターク先生!!」

「後ろを見ずに走れ!」

 

 こいつらの狙いは僕だ。魔法は僕の背中に真っ直ぐ飛んでくる。

 狙いがわかってるなら直線にしか来ない魔法なんて対処は容易い。

 

 僕は素早く振り向いて迫り来る電撃に掌をかざして防ぐ。

 

「ぐっ…………!」

 

 バギンっと金属が弾ける音がして、手を覆っていたデバイスが壊れてしまった。

 これは試作品な上にあくまで簡単な自衛用。

 閃光や音波攻撃は出せるのだが、流石にリパルサー・レイまでは出せない。

 

 本当ならナイフや弾丸の一撃くらいは楽に受けれる強度なのだが、さすがに電撃魔法はだめだったようだ。

 

「スターク先生、大丈夫ですか!?」

「ちょっと手が痺れただけだ。だがちょっとまずいな。次は防げない」

 

 少しでも距離を稼ぐために足を止めずに走り続ける。

 

「せ、先生! あのいつもの鎧は!?」

「ちょっと別行動していてね。今は動かせないんだ」

「どうしてこんな肝心な時に!!」

 

 めぐみんが横で喚くが、どうしても必要なことだ。

 

「よし、その路地裏に入るぞ」

「はい!! …………って、袋小路じゃないですか!」

「あるえ」

「ラジャー! 『 ライト・オブ・セイバー』ッ!! 『カースド・クリスタルプリズン』!」

 

 角を曲がった先に現れた袋小路の壁をあるえが光の魔法で丸くくり抜き、僕らが通り抜けると同時に穴を氷の上級魔法でふさいだ。

 

「いいんですか!? これいいんですか!?」

「僕には金の力がある」

「お金の問題じゃないと思います!」

「それが意外と何とかなるものなんだよ。ところであるえ」

「……無理です」

 

 僕の質問を理解してるのか、遮って首を横に振るあるえ。

 

「……上級魔法ではいくら手加減しても殺してしまいます。ましてや一般人相手でしたら……ゆんゆんの中級魔法でも致命傷になりえるでしょう。さっき魔法を撃ってきた人は大丈夫だとは思いますが……巻き込まれた人は確実に死にます」

「そんな……」

「『ファイアーボール』ッ! 『ファイアーボール』ッ!」

 

 あるえが作った氷の壁の向こうから、炎の魔法を何度も叩きつける音が聞こえる。

 

「……あの氷の壁も長くは持ちませんよ?」

「逃げても追ってくるだけだ。つまり……ここは敵をビビらせて撤退させる。敵の戦意を喪失させるのは簡単だ。力の違いを見せてやれば良い」

 

 そういいながら、背中に背負っていたバッグを下ろして中に入っているものを取り出す。

 

「スターク先生……それは?」

 

 僕は取り出したとあるデバイスを手の上でクルクルともてあそびながら。

 

「君たち用のおもちゃだ。使うなら今だと思わないか?」

 

 このアルカンレティアで別れるときに渡そうと思ってたサポートアイテム。

 まずはゆんゆんに渡す。

 

「ほら、これを装着しろ」

「これって……コンタクトレンズと……アームカバー……?」

 

 渡したのは一対のコンタクトレンズと、肩周りがつながっているアームカバー。

 

「こいつの名前はBadass Overwatch Tactical Target Insight(獲物を逃がさないイカした観測手)

「な、なんかカッコイイ……」

「略してB.O.T.T.I.(ぼっち)だ」

「略称他になかったんですか!?」

 

 複雑そうな顔をしながらコンタクトレンズとアームカバーを装着するゆんゆん。

 

「スターク先生、私のは……」

「焦るなよティーン。受け取れ」

 

 あるえ用に作ったデバイスは少し大きめの金属製リストバンド。

 SFチックな模様の装飾が掘られているが、あるえにはそれがなにかすぐ分かったようだ。

 

「これは…………!」

 

 模様を見て目を輝かせるあるえ。

 

「装着したらボタンを押せ。使う魔法は分かっているな?」

「もちろんですとも」

「待ってください」

 

 それまで一切喋ってなかっためぐみんが、唐突に口を開いた。

 私の分はないのかとでも言いたいのだろうか。

 

「……その眼帯と服だけじゃ不満か?」

「違いますよ! さっきまであるえが作った氷の壁の向こうが騒がしかったのに、急に静かになってませんか?」

「…………たしかにそうだね。諦めたのかな?」

「…………」

 

 かけていたサングラスの縁に指を置いて透視モードに切り替える。

 氷の向こうの熱源、生体反応を探るが…………反応はない。

 

 …………回り込むくらいなら魔法で突破する方が早いはず。

 

 敵の考えを読もうと頭を回転させている時。

 急にめぐみんが何かに気がついたかのように素早く空を見上げ。

 それと同時にフライデーから警報が入る。

 

『ボス! 周囲の建物の上に何者かがいます!』

「周囲の建物の屋根です! なにか来てます!」

「「!」」

 

 僕はフライデーの警報から、あるえとゆんゆんはめぐみんの声に反応し、一斉に上を見た。

 

 屋根の上に立っていたのは、全身真っ黒の謎の人物。

 体格からしておそらく男だろうが…………黒装束、顔の見えない深めのフード…………なんてわかりやすい。

 

 僕はその男にバカにしたような笑顔を向け、手で気さくにあいさつしながら。

 

「……君殺し屋だろ? あー……名乗らなくてもいい。そんな絵に書いたような見た目してたら嫌でもわかる」

 

 おそらく僕に恨みを持つやつが雇った奴だろう。

 邪魔になるから壁の向こうにいた連中は全員追い払ったって所か。

 

 実際あいつらはアホだった。普通の殺し屋なら有無も言わず背後から刺し殺すなりする。

 武器の構えも素人。殺し屋を差し向けた奴の仲間がとりあえず集まって叩きにでも来たんだろうな。

 

 と、自分なりの推理を頭に並べていると。

 

「スターク先生! 殺し屋だって分かるなら煽らないでくださいよ! あ、ほら!! ナイフ構えてますよ!」

「いや、彼は分かっていますよ! そうです! 殺し屋といえば黒ずくめ…………そして武器はダガーにナイフ……分かってますよ、彼はわかってますよ!」

 

 フードの男がピクリと震えた気がした。

 ……気のせいか? 

 

「あっ! 見るんだみんな!! 指と指の間に投げナイフを挟んで投擲のフォームを見せている!! 凄い! 本物を見たのは初めてだ!! メモを取らなくては…………」

 

 気のせいじゃないな、おちょくられてると思って怒ってるのか、フードの男がプルプルと震え出した。

 

 敵の冷静さを欠くために煽るのは数ある戦術の常套手段。この手で行くか。

 

「武器まで典型的な例だな…………ひょっとして紅魔族を喜ばせるために演出してるのか? ……でも残念だったな。紅魔族を一番喜ばせたのは過去にも未来にも僕ひと」

「うるせぇボケどもがァァァァァァ!!!」

 

 いよいよ我慢の限界だったのか、フードの男は指の間に挟んでいた小型のナイフを僕ら目掛けて一斉に投げてきた! 

 

「めぐみんとあるえはともかく先生までおかしくなっちゃったんですか!? もう! 『ファイアーボール』ッッ!!」

 

 ゆんゆんの放った火球を飛ばす中級魔法は、複数のナイフのど真ん中に命中し、爆風で全てのナイフをはじき飛ばした。

 もし今放った魔法の形状が糸ほど細かったとしても、高速で飛ぶナイフの切っ先に寸分違わず直撃させてたであろう精度で。

 

「ほう……さすが学年二位、素晴らしい精度で魔法を飛ばすね。流石の私もそこまで綺麗に飛ばすことは出来ないかな」

「う、うん…………ありがとう…………でも今……何だか手が勝手に動いたかのような…………視界にもなにか映ったし…………」

 

 自分の手のひらを開いたり閉じたりしながら、確かめるように様子を見るゆんゆん。

 

 僕はしたり顔を浮かべながらゆんゆんに向けて。

 

「君に渡したアイテムの効果だ。B.O.T.T.I.は高速で動く飛来物、または敵をそのコンタクトレンズが捕捉し、そのアームカバーを模した人工筋肉が狙いを調節する。超便利アイテムに聞こえるかもしれないが、もともと狙いの良い君だからこそ使えるアイテムだ。大事にしてくれよ?」

「私専用の……アイテム…………!」

 

 なんか解釈を間違えているような気もするが、別にいいか。

 さて、これで奴の飛び道具は完封…………うん? 

 

 殺し屋が懐から、なにか一枚の紙切れを取り出した。

 

 あれは…………! 

 

「マジックスクロールです!! 攻撃魔法が飛んできますよ! 散らばりましょう!」

「いや! 全員目を閉じろ!」

「へっ?」

「『 フラッシュ』」

「「「!?」」」

 

 敵の閃光魔法によって、路地裏が光に包まれた。

 

 遅かったか…………。

 

「敵が使っていた策をまんまお返しするというのは気持ちが良いな…………」

 

 クツクツと笑う黒装束の殺し屋。

 ムカつく野郎だ。

 

 とりあえず生徒を守らなくては。まずは隙を作る。

 

「うぐぐ……わ、我が邪眼が……こ、この経験も小説に活かせそうだ……」

「君結構余裕そうだな。ゆんゆん、これ借りるぞ」

「ひゃぁ! スターク先生! どこ触ってるんですか!?」

「変な声出すな! 君のダガーだ!!」

 

 ゆんゆんの腰に差してあるダガーを抜き取り、屋根上から未だ動かない殺し屋目掛けて投げつける。

 

 後で拾ってやるから泣かないで欲しい。

 

 ヤケクソ気味に投げたダガーは、意外にも敵の真ん中へと飛んでいくが…………。

 

「素人にしてはいい筋してるが…………刃物が得物のプロにするべき攻撃じゃないな」

 

 鼻で笑いながらダガーを弾く殺し屋。

 

 クソ、バートンかロマノフならもっと上手くやるんだろうな。

 だがダガーで倒そうとなんて考えちゃいない。

 

 やつが弾いた隙に三人娘を次々と僕の前に寄せ、殺し屋から見て僕の背で隠れるように集める。

 これで生徒達にナイフが当たることはないだろう。

 

「ほら、走る…………」

 

 さっきの素人同然の一般人共ならともかく、生徒を守りながら手練の殺し屋の相手なんてスーツもない今はしてられない。

 

 そのまま空いてる路地から逃げようとするものの…………。

 殺し屋が一瞬で僕らの前に回り込んできた。

 

「ッ!? 随分速いな……! 毎日マラソンでもしてるのか?」

 

 足音もしていないし、ピエトロ・マキシモフ並に速くないとこんな一瞬のうちに屋根上からここまで来るのは無理だ。

 一体どうやって……。

 

 

 …………いや、剣と魔法の異世界と来て深く考えすぎているようだ。これはもっとチープな、三流マジシャンレベルのトリックだ。

 

 

 

 ──単に複数人いる。ただそれだけ。

 

 やぼったい黒装束に身を包んでいるのも、顔でそれが悟られないようにする為だったか。

 

 その証拠に、目の前に黒装束の殺し屋がいるにも関わらず、背後から投げられたナイフが僕の背中にぶっ刺さってる。

 

「ッ……!」

「スターク先生!? 大丈夫ですか!?」

「大丈夫だから暴れないでもっと縮こまって全員寄り添え。僕からはみ出たらダーツの的にされるぞ」

 

 僕らの正面にいる黒装束の殺し屋その二もナイフを構え始めた。

 

 ……来るなら今が絶好のタイミングだぞ。

 

 

「背後から心臓まで貫くつもりでナイフを放ったんだがな……スターク、服になにか何か仕込んでるな?」

 

 めぐみんほどの代物じゃないが、防弾防刃仕様のジャケットを羽織っている。それでも少し刺さったが。

 

 さて、敵は民間人でもないし、ゆんゆんかあるえが魔法で応戦できればいいのだが……閃光魔法をモロに食らって目が焼かれている為それもできない。

 

 さらに背後から追い打ちと言わんばかりの邪悪な声が響き渡る。

 

「服に何を仕込んでようが関係ない……頭を狙うとしよう」

 

 幸いにも、隣には空き家の窓がある。

 レベルが上がって身体能力も上がった僕なら、三人抱えて窓に飛び込むこともできるはずだ。

 

「死にたくなければ、守ってるそのガキどもを盾にすれば生き延びられるぞ」

 

 そんな悪辣なセリフを言いながら、目の前でナイフを投げる姿勢を見せる殺し屋。

 背後からもナイフを取り出す音がする。

 

「スターク先生……?」

「問題ない。これくらいのピンチは何度も乗り越えてきたしな」

 

 一か八か……僕は三人を抱えて窓に飛び込もうと──

 

 

 

 ──した瞬間。

 あるえが作った氷の壁が、粉みじんに吹き飛んだ。

 

「「「「!?」」」」

 

 全員音がした方に振り返るが、氷が放つ冷気と散った空中の氷が光を反射し、見えるのは影だけ。

 

 その影に、ナイフの弾幕が叩き込まれる。

 

 ……が、ナイフはすべて甲高い金属音を奏でて弾かれ、次々と床に散らばった。

 

「…………誰だ?」

 

 ローブの下から、怪訝そうな声を漏らす殺し屋。

 その影はキャプテンを思わせる堂々とした足取りで、散らばった氷を踏み砕いて冷気の陰から身をさらす。

 

 降り注ぐ陽の光が、彼女の金色の髪を煌々と輝かせた。

 

 

 

 

 

 

「私はダクネス、守ることを生業としている者だ」

「ダクネス先生……?」

 

 視力が回復してきたのか、ゆんゆんが薄く目を開けて吹き飛んだ氷の壁の方を見る。

 

「どうやら危ないところだったようだな。間に合ってよかった」

 

 そう言って僕らに微笑むダクネスはどこに出しても恥ずかしくないクルセイダーにしてヒーローの鏡だった。

 

 というか、剣を背負ってないところを見るとパンチで氷の壁を砕いてきたのか? 

 変な意味じゃなくて服を脱いでみせてほしい。ソー並みにムキムキかもしれない。

 

「クソッ!」

 

 ダクネスを脅威と認識したのか、さっさと片付けようと屋根上と正面にいる殺し屋が僕にナイフを構える。

 

「フッ!」

 

 しかし、その手からナイフが放たれるよりも早くダクネスが跳び、脚力にものを言わせてものの数歩で僕らの前へと躍り出た。

 

 ダクネスは放たれたナイフを、まるで蚊を払うかのような動作で弾く。

 

「す、すごい……!」

 

 めぐみんも思わず唸った。

 

 攻撃は全く当たらないし、おまけにドMで制御が利かないという致命的な弱点はあるものの…………、

 

「どうした……そんな程度か? 一日中でもやってられるぞ…………!」

 

 こと護る事に関しては、キャプテンにだって引けを取らない。

 

 そして…………それに関しては僕だって多少の自信はある。

 

「ああ、そうだ。トニー、スーツを返す」

 

 僕のすぐ背後にMk.45がガンッと音を立てて着地し、僕の身を包んだ。

 

「クソ! 例の鎧だ! 退避するぞ!」

「おい、見てかないのか? みんな大好き装着ショーだぞ?」

 

 スーツが全身を覆い、マスク越しに周囲の状況がHUDに映し出される頃には、殺し屋たちは消えていた。

 

「…………逃げたようだね」

「なんという期待はずれ…………下衆な殺し屋だったらもっと根性見せて私を攫い、人質にして牢屋に閉じ込め、ねっとりとした視線を鉄格子越しに……」

「そこまでだ」

 

 少し強めにダクネスの後頭部をアーマー越しに殴る。

 

「痛っ! いきなり何をする!! もう一回やってくれ」

「せっかくカッコイイ登場をしたんだ、少しくらいそれを保てないのか?」

「あの……どうしてダクネス先生がここに?」

 

 ダクネスの妄言は聞こえてなかったのか、ゆんゆんがおずおずと聞いた。

 

「アクセルにいきなりトニーの鎧が飛んで来たんだ。何事かと思えば、フライデーに生徒を守るのに人手がいると応援要請を受けてな」

「そういうことだ、ここにいる間はダクネスが君たちを守る」

「ダクネス先生が……って、スターク先生はどうするんですか?」

 

 僕の言い方に疑問を持っためぐみんが、不安げにそう聞いてきた。

 ダクネスじゃ不安なんだろうか。

 

 ……いや、確かに不安になるだろうが……護衛役ならまず大丈夫だろう。

 

 僕はめぐみんの質問にマスクを開けて答える。

 

「奴らの狙いは僕と君だ、だから僕が片付けてくる。出るときに金を渡すから、君達はいい宿でもとって休んでろ」

「えっ……」

 

 その言葉に、めぐみんが固まり。

 そして少しづつ、不満そうな、納得のいかないといった表情に変わった。

 

 ……? 

 

 彼女の表情が変化した理由が理解できない僕は、めぐみんに率直に聞く。

 

「なんだ? 高級な宿で休むのが嫌なのか? 君の実家のクラッカーみたいな布団より寝心地はいいと思うが」

「……あの、私をその戦いに連れて行くというのはどうでしょうか? 最強の戦術破壊兵器がお手伝いしますよ?」

 

 そう言って胸を張った。いつもよりも控えめに、虚勢を張っているかのように。

 

 めぐみんの様子がなにかおかしい。何考えているのかまったく読めないが……。

 

「悪いが、君は待機だ。安心しろ、ちゃんとアクシズ教徒管理じゃない宿を取ってやる」

 

 やんわりと断ったつもりだが、めぐみんはその顔にますます不満の色をにじませていく。

 

「……スターク先生、さっきバーで襲ってきた男たちの会話を覚えていますか?」

「悪魔がどうたらってやつか?」

「そうです。どうやら私を……ちょむすけを狙っているようでした……あの時の女悪魔、アーネスと同じです。偶然とは思えません。もしアーネスと同じ目的で、人間を使って襲わせるように手引きしたのだとしたら、敵は同じく強力な上級悪魔である可能性が高いです。なら、以前奴を倒した時のように組むなんてのはどうで」

「なおさら駄目だ」

 

 めぐみんの言葉を冷たく遮り。

 そのまま彼女を説き伏せるかのように僕はまくし立てる。

 

「以前のようにって言ってるが、君はその時どうなってた? 殺される寸前だっただろ。いいか? これは授業じゃない。敵の狙いが君だというなら、君のすべきことはただ一つ。狙われないように隠れてる事だ」

 

 それを聞いためぐみんは、持っている杖を強く握り締め、絞り出すようにつぶやいた。

 

「…………私はずっと、生徒扱いなのですか? 子供扱いなのですか?」

 

 そこまで言われ、ようやく僕はめぐみんの意図を理解した。

 ……彼女は認めて欲しいのだろう。

 

 僕はめぐみんを『君は最強の戦術破壊兵器だ』と背中を押し、里から見送った。

 

 …………もしかしたらこの街の冒険者他達に爆裂魔法を認めてもらえなかったのかもしれない。めぐみんに再会してから彼女に感じてた違和感の正体は、彼女が自信を喪失しかけている事によるものだったようだ。

 

 大人として、ここはなにかケアをしてやるべきかもしれないが…………。

 

「……大人の言うことは素直に聞いとけ」

「ッ!」

 

 ……だからといって、流石に教え子を自分が招いた戦いに巻き込むわけにはいかない。

 僕はめぐみんに背を向け、空へと飛ぶ。

 

 背中には、ずっと視線が刺さっている気がした。

 

 

 

 ▽

 

 

 

「ぬああああ!! 私は冒険者になったのですよ! 子どもでは無いのです!! なんですかあのおっさんは! いつまで保護者気取りなんですか!?」

 

 私はスターク先生の子供扱いにとうとう嫌気がさし、招待された部屋で家具に当り散らしていた。

 

 クッションを壁にたたきつけ、ソファに回し蹴りをお見舞し、ベッドに踵落としぶっぱなす。

 

 その暴れっぷりたるや二代目デストロイヤーとして後世に名を残さんばかりであった。

 

「めぐみーん……いい加減ベッドの上で地団駄踏むの止めたら…………? 下の階の人に迷惑だよ?」

「地団駄ではなくて踵落としです!! あなたにも食らわせてあげましょうか!?」

「落ち着くんだ、めぐみん。実際我々は子供だ。彼から見たら尚更……な」

「そうだぞ、めぐみん。自分の教師をそう悪く言うな。そもそも、何がそんなに不安なのだ?」

 

 ……駄目だ、ものに当り散らしているだけじゃ本当に子どもみたいだ。一度冷静にならないと…………。

 

 私は一度深く深呼吸し、三人に向き合い。

 

「…………私は、自分が爆裂魔法使いであることに誇りと自信を持っています……少し揺らいでますが…………」

 

 自分が立っていたベッドの上に腰を掛け、ゆっくりと話を続けた。

 

「この街に来てからというものの……私が爆裂魔法使いだとわかるや否や次々とパーティーを追い出されましてね……これが現実なのでしょうが……」

 

 眼帯越しの視界に映る様々な情報や光の模様にちらりと視線を向けて。

 

「……スターク先生には貰ってばかりです。何かお返ししたくても……知力が私より高い先生相手じゃ仕事はサポートしてるだけです。だからこそ、私の一番の取り柄である爆裂魔法で役に立ちたかったのですよ」

「めぐみん……」

 

 ゆんゆんが横に腰かけ、優しく私の肩に手を置いた。

 

「焦りすぎなのよ。少なくとも、今じゃなくてもいいんじゃない? 必要になったら、きっとスターク先生から声をかけに来るわよ」

「…………そうですね」

 

 嘘だ。納得なんてしていない。

 

 兵器は使ってこそ兵器なのだ。倉庫に大事にしまわれている兵器なんてただの置物である。

 

 そして、今まではクエストで爆裂魔法を撃てたが、スターク先生と合流してからというものの今日で二日我慢している。

 

 爆裂欲とかムシャクシャ具合とかもう色々限界だ。スカッとしてこよう。

 

「…………少し一人にさせてください」

「あまり遠くへは行くな。狙われたら守れなくなる」

「…………ええ」

『……めぐみん様。今あなたがとろうとしてる行動は推奨できません』

 

 私にしか聞こえない声(眼帯のお兄さん)が忠告してくるが、分かっている。善意につけ込むようで申し訳ないが…………。

 

 ちょっと撃って戻ってくるなら大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

「──あら、めぐみんさんじゃない! どうしたの? 入信したくなった? それともセシリーお姉ちゃんの胸元に飛び込みたくなった!?」

 

 そんなこんなでやってきたのは、アクシズ教の大聖堂。出迎えたのはセシリーだ。

 もう来ないだろうと思っていたが、まさかその日のうちに再訪することになるとは……。

 

「いえ……どちらでもありません。お姉さんに一つお願いしたい事があるのですが」

「なんでも言ってちょうだい!!」

 

 ……ただ爆裂魔法を撃ちたいから、撃った後に背負ってほしいとだけ頼むつもりだったが……。

 

「…………」

「……? どうかしたの? もしかして悩み事? 大丈夫よ、今はみんなで払ってるから」

 

 大聖堂には他に誰もいないようなので、私は思い切ってお姉さんに悩みを打ち明けることにした。

 

「まずはこの話からしないといけませんね……実は私は……」

 

 自分が爆裂魔法使いで、それしか撃てないことを。そして、爆裂魔法に持っていた自信を少し失いかけていることを。

 

 

 ▽

 

 

「……ふーん、なるほどね……自信が……」

 

 私の話をずっと聞いてくれていたセシリーは、話が終わるとそう空を見上げてつぶやいた。

 その横顔は、いつもの能天気な感じは身を潜め、彼女を初めて見る人なら聖女だと思ってしまいそうな、そんな柔らかな表情をしていた。

 

「いい? めぐみんさん。自信は失いかけていても、その魔法に対する愛を失ってはいないのでしょう?」

「は、はい……」

 

 なんだろう、今目の前にいる女性は誰なのだろう。

 失礼だが、本当にそう感じてしまうほど今のお姉さんは聖職者っぽい。

 

「あのね、アクシズ教にはこんな教えがあるの。『汝、何かのことで悩むなら、今を楽しく生きなさい。楽な方へと流されなさい。自分を抑えず、本能の赴くままに進みなさい』……。つまりね……」

 

 お姉さんは私を見ていつもの調子でニッコリ笑い。

 

「とりあえず撃ってから確かめましょう!!」

 

 そう言って、バチーンと聞こえそうなほどの綺麗なウィンクをした。

 

 …………ちょっとだけ。

 アクシズ教に入ってもいいかなと思ってしまった。

 

 

 

 

 

 ──アルカンレティアの郊外へと進んでしばらく。

 

 陽は傾き、そろそろ夕方近い。

 雲の切れ間から赤みがかった陽が射し、平原を歩く私たちの影の身長を少しずつ伸ばしていた。

 

 セシリーの先を歩き、爆裂魔法を撃つのに適した場所を探していると。

 突然後ろからお姉さんの声がした。

 

「ところでめぐみんさん。爆裂魔法を撃った後は動けなくなるって本当なの?」

「ええ、なので危険なのですよ。お姉さん、お願いしますね?」

「ふぅーん……へぇーえ……それってどこ触っても無抵抗って事よね……」

 

 後ろでセシリーがとんでもないことを言っている。

 どうしよう。取り返しのつかないことをしてしまったかもしれない。

 

「あ、あの……お姉さん?」

「…………」

 

 女性相手にすさまじい身の危険を感じる。変なことをされないように釘を刺しておこう。

 

「お姉さん、本当にやめてくださいね?」

 

 振り返ってそうセシリーに告げるが、その顔つきは何処か神妙なものになっていた。

 

「…………どうしたのですか?」

「お姉さんの勘違いだといいんだけど…………なんだかどこか……醜悪な悪魔臭が…………」

 

 …………まさか。

 

「眼帯のお兄さん!」

『周囲を衛星カメラより確認中…………めぐみん様、高速の飛翔体が接近中です。雲の多さで確認が』

 

 遅れた。

 そう言おうとしたのだろう。

 

 その言葉は、大きな風切り音でかき消された。

 私たちの頭上を何かが通り過ぎ、ほんの一瞬私とセシリーの影を巨大な影が塗りつぶす。

 一拍遅れて追いかけた視線の先に、地面に広がるコウモリ型の影があった。

 

「ハハァ……罠だと思ってたんだけどなぁ…………お前、マジでなんでこんな所でプラプラしてやがんだ?」

 

 そう嘲笑いながら降りてきたのは、邪悪をそのまま姿にしたかのような二足の巨大生物。

 光沢を放つ漆黒の肌、素手でオーガーをねじ伏せそうな体躯、禍々しい角。

 

 巨大なダンジョンの最下層に君臨してそうな恐ろしい見た目の化け物がそこにいた。

 

 バサッと音を立てて広げた羽はまるで月も星もない夜空のようだ。

 

「……上位悪魔……」

 

 顔が青ざめ、息をのむ。

 黒幕はアーネスと同じ上位悪魔だろうと予想を付けてはいたが……こんな恐ろしい化け物だとは思わなかった。

 

 や、やばい…………。

 恐怖で膝がガクガクと揺れる。うしろではお姉さんもプルプルと震えていた。

 

 だが、さらにどん底に突き落とすかのように、悪魔の背中から聞き覚えのある声がした。

 

「さて……ほかの紅魔族やスタークを連れずにここに来たのには理由があるんだろう? 交渉か? 仲間を守るためか? まぁ、どちらにせよ……」

「お前が間抜けに変わりはない」

 

 さっきの路地裏で退けた殺し屋二人が、悪魔の背から飛び降りた。

 そしてもう一人……。

 

「……お前がスタークの連れだかいう紅魔族のガキか」

 

 目の下にクマがあり、頭部の両側面の頭髪を刈り上げている、若干威圧感のある風貌の男。

 初めて見る顔だ。あのバーにもいなかった。もしかすると今回の騒動の主犯の一人だろうか。

 

「そう警戒すんな、お前に危害を加えるつもりはない。ただ、スタークが死ぬのにお前が必要なだ」

「あああああああああー!!!」

 

 何か重要なことを言いかけたが、私の後ろから飛んできた絶叫でかき消えてしまった。

 叫びをあげたのはもしかしなくても……。

 

「こんっの汚らしい悪魔めが!! ここがどこだかわかってんでしょうねぇ!!」

「うわ、あの修道女よくみたらアクシズ教徒だぞ!!」

「クソッ、対大型モンスター用の猛毒のナイフならあるが……」

 

 かなり興奮した様子のセシリーが目の前の悪魔相手に猛り狂い、そしてその姿を見た殺し屋の二人がざわめきだした。

 

「オラッ!! この街に来たことを後悔させてやるわよ!! 悪魔殺すべし! 魔王しばくべし!!」

「オイ、背筋がゾワゾワするから、その女をこっちに近づけるなよ……?」

 

 なんならこのまま素手で突撃しそうだったので、とりあえず羽交い締めにしてなんとか阻止する。

 

「落ち着いてくださいお姉さん!! あなたじゃ殺されますよ!? ここはもうほぼ街の外です!! 騒いだって応援は来ないのですから静かにしててください!」

「フーッ! フーッ!! GRRRRRR!!!」

 

 いまだに興奮状態にあるセシリーをなんとか抑え、話を戻そうとする。

 

「……それで、どうして私を狙うことが彼の死につながるというのです?」

 

 その質問に男は特に表情を変えることなく。

 

「話によると、お前はスタークとよく一緒にいたそうじゃないか。瞳の色からして親子ではない、里子か? 友人か? まさか恋仲なんてことはないよな?」

「は? 言っていい冗談と悪い冗談がありますよ?」

「そ、そうか……悪かった」

 

 すさまじい剣呑さを出した私に、さっきまで威圧的な雰囲気を出していた謎の男も少し気圧された様子だ。

 

 しかしそうか、この男たちは……。

 

「スターク先生を倒す為に、そこの悪魔と取引したんですね? ……対価は私の使い魔を連れてくることですか? まぁ、私が悪魔の立場ならアルカンレティアになんて近づきたくはありませんからね……妥当な取引でしょう」

「ひどいわめぐみんさん!! あんなにアクシズ教に尽くしてくれたのに!!」

「お姉さん! お願いですから話をややこしくしないでください!!」

「だいたい、悪魔なんかと組んでこのかわいい幼女に好き勝手しようったってそうはいかな……きゃぁ!!」

 

 おかしなことをまくしたてるセシリーだったが、殺し屋の男が放ったナイフが足元に深々と刺さり、顔を青ざめさせて後ろに下がる。

 

 ……それを見て私はようやく気が付いた。

 

 

 ──私は、セシリーを巻き込んだのだ。

 自分が狙われていることを知りながら、自分のわがままのために安全な宿を飛び出し、無関係の彼女をここに巻き込んでしまった。

 

 私は本当に何をやっているのだろう。自分のあまりもの軽卒な行動に嫌気がさす。

 

「頭がいいと話が早くて助かるぜ。お前にはスタークに手を出させないための人質になってもらう」

「私を人質にしたからといって、彼が必ずしも要求に応えるとは……」

「応えるさ。あいつはヒーローだからな」

 

 男はそう言って、悪辣に笑ってみせた。

 

「世界を平和にしたいと、善人を取り繕っているあの男に目の前で助けを求める人を見捨てることはできないさ」

「……彼は善人ではないと?」

 

 男は『何を言ってるんだ?』とでも言いたげな顔をして。

 

「あたりまえだろ。武器商人だぞ? 殺戮兵器を売って金儲けする職業だ、俺と何も変わらん。メディアの前で善人を気取っているだけだ」

 

 ……なるほど、この男も武器商人なのか。

 スターク先生を狙う理由が気になっていたが、これで聞く手間が省けた。

 

 ……ただの嫉妬だ。

 

 

「……あなたとは、違うと思いますよ?」

「あ?」

 

 男の表情に苛立ちが混じる。

 

「あなたは、何のために兵器を売っているのですか?」

「…………ハッ! 何かと思えば……くだらないことを聞くな。そんなもん、金のために決まっているだろ。商売とはより利潤を求めるもんだ。時にはあえて控えめのものを渡し、より強い兵器を求める声が大きくなってきところで自信作をだす。魔物との戦いが終われば次は人間同士の殺し合いだ。人間にも通用する武器も造る。こうして金が生まれる。武器を作れば作るほど、次を求めて死体と金の山ができる……最高にバカらしくて最高に笑える光景さ」

「……悪魔の俺が言うのもなんだが、お前ら人間はすこし慎みを持ったらどうだ? まぁ、欲深いからこそ俺たち悪魔の存在意義もあるってもんなんだが」

 

 茶々を入れられたことが気に食わないのか、男は忌々しげに悪魔を睨みつけてから舌打ちをし、やがて視線を私に戻した。

 

「殺戮兵器を売って金を儲ける……スタークだってやってる事だろ? あいつは俺から仕事を奪ってチヤホヤされてるが、やってることに変わりはない。俺と何が違うって」

「原動力ですよ」

 

 私のその言葉が理解できないのか、男は真顔で固まる。

 

「確かに、人に自慢できる職業ではないかもしれません。ですが、あなたは作った兵器が生み出す光景を、積まれる死体とお金を……嘲笑って見ていたのでしょう?」

 

 目に熱を感じる。今の私の瞳は紅く光っていることだろう。

 こんな思想の男とスターク先生が一緒にされるのは、むかっ腹が立つ。

 

「スターク先生は、いかに殺せていかに儲けられるかではなく、いかに人を守れていかに助けられるかで兵器を作っていましたよ……?」

 

 語気を強めながら、話を続ける。

 

「敵に有効打を与えつつ味方を巻き込まないように調整し、知識のない人でも扱えるように操作を簡略化しながら、悪用されないように工夫していました」

 

 私は男の目を見据え──

 

 

 

「同じ道でも、卑しく嘲笑って進むか平和を信じて進むかでは…………外道か王道かでは、天と地ほどの差があるのですよ!」

 

 ──地に深く根差した大木のごとく立って言い放った。

 

「ガキが……言わせておけば……!」

 

 男は顔を強くゆがませ、怒りを露わに低く唸る。

 

「ギャーハッハッハッハ!! 言われちまったな!! 俺を使役するだとか言ってたあのガキに似てるってのもあるが、お前さん中々気に入ったぜ!」

 

 大悪魔が愉快そうにげたげたと高笑いした。

 正直おっかないのでやめてほしい。

 

「……おいッ」

 

 男がそう言って首をクイッと曲げると、ローブを被った殺し屋がナイフを構える。

 

「お姉さん、私の後ろに」

「めぐみんさん…………?」

 

 セシリーを背に回し、一歩踏み出て杖を構える。

 巻き込んでしまったものは仕方が無いと開き直るつもりは無いが、ウジウジしてる場合でも無い。

 

『……やはり、トニー様の選択は間違っていなかったようですね』

 

 今できる最善を考えろ。

 

 スターク先生(ヒーロー)ならきっとそうする。

 

 そしてそれが実行出来る。

 

 私は大きく息を吸い、それを全て吐き出さん勢いで叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「私とあなたの…………ダンス対決ですッッッ!!!」

『……めぐみん様?』

 

 

 ──私の洗練されたダンスが炸裂する。

 

 右ステップ、左ステップ、杖をバトンのように振り回しながら一回転。

 そしてここからが見せどころだ。

 

「これぞ……ムーンウォーク!!!」

 

 スターク先生直伝の超必殺奥義。

 魔力もスキルポイントも使わず前に歩きながら後ろに進むという究極の宴会芸スキルだ。

 

 少し進んだところでつま先立ちで一瞬制止。

 

 またステップやターンをおりまぜながら元の位置へと戻っていく。

 

「セシリーさん、あなたもどうですか?」

「めぐみんさん…………? どうしたの…………気でも狂っちゃったの…………?」

 

 こういう時に限ってこの人は! 

 

 一番言われたくない人にそのセリフを言われ、心が折れかける。

 この場で最も乗りやすそうな人を選んだのにあっさりと拒否されてしまった。

 

「お前……何してるんだよ……?」

「紅魔族の考えることはわからん……」

 

 悪魔も殺し屋も武器商人の男もおかしな奴を見るような目で見てくる。

 

 だが退いてはいけない。

 気付かれてはいけない。

 

 私はさらに踊りながら、杖を振り回す。

 

「だから、その踊りは、なんなんだ!!」

「ただの時間稼ぎですよ? ほんとに何かの効果があるとでも思ったんですか?」

 

 ダンスをピタリとやめて、間抜け面してる三人と悪魔一匹に指をさす。

 ここからが本番! 

 

 もう一度肺に息を取り込み、さっき以上の大声で。

 

 

 

「スターク先生!! 今です!! 全部まとめて吹き飛ばしてください!!!」

「「「「!?」」」」

 

 腹の底から叫んだ。

 

 

「チィィイッッ!! このための時間稼ぎか!!」

 

 悪魔が舌打ちをして上空へと逃げ、三人の男もその場から脱兎の如く逃げだす。

 

 …………これを、待っていた。

 

 私は空に逃げた悪魔に杖を向ける。

 

 

 

 ──魔力が強く圧縮された光が宿る、その杖先を。

 

「……ッ!? テ、テメェ!! 今のはブラフか!!」

 

 そう。踊りは魔法の詠唱のための時間稼ぎと、それによる魔力の奔流を誤魔化すため。

 そして、今のブラフは悪魔を離れた位置に誘導するため。

 その位置なら悪魔に直接爆裂魔法を叩き込んでも、他の人間たちは吹き飛ばされて気絶するだけで済む。

 

 自分の位置が吹き飛ばされると宣言を食らったら、各々散らばって逃げるだろうと思っていた!! 

 

「あ、あのガキを止めろォーッ!!!」

 

 悪魔がそう叫ぶと、殺し屋二人が私の動きを止めて杖を叩き落さんとナイフを放つ。

 二本のナイフが私の腕目掛けて飛んできた。

 

 ……が。

 

「はっ……!? 弾かれただと!?」

 

 刃が食い込んだ刹那、ローブが硬質化し殺し屋の放ったナイフをはじき返す。

………ここまで防御力が高いとは。

 

「なんだあいつ!? アークウィザードじゃなくてクルセイダーなのか!?」

「んなわけあるか!! 服に何か仕込んでるだけだ!! 次は露出してる太ももを狙うぞ!!」

 

 

 

「ふははははは! もう遅い! 全員まとめて食らうがいい!! 我が必殺の一撃!! 『エクスプロージョン』ッッ!!!」

「くそったれーッ!!!」

 

 空を業火の大輪が包み、一切合切を爆裂させんと破壊が吹き荒れる。

 

「きゃぁぁあああああああ!!」

 

 その威力に、私から少し離れていたセシリーでさえも爆風に耐えきれず吹き飛んでいく。

 

 ……もちろん私も。

 

 大気の震えが収まり、衝撃と爆風で吹き飛んだ草花が静寂とともに降ってくる。

 

 私は倒れ伏した自分の体に何とか力を入れ、辛うじて首だけ動かして戦果を確認した。

 

 殺し屋も、武器商人の男も、みんな地面に倒れている。

 わずかに胸や背中が動いているところを見ると、死んではいないようだ。

 

 爆心地にいた悪魔は間違いなく消え去っただろう。同じ上位悪魔であるアーネスも消し去った魔法だ。

 おまけに杖で遥かに強化されている。ひとたまりもないに……。

 

 

 

 

「ハァ……ハァ……よくも……やってくれたなァ……!!」

 

 

 ……そんな。

 

「馬鹿な……!」

「……実際、クソあぶなかったぜ……!」

 

 そこにいたのは、全身ヒビとすすだらけにした悪魔だった。

 悪魔は汚れを払うかのようにボロボロの羽をはばたかせる。

 

「だが……これで詰みだな、もう動けはしねぇだろ。あきらめてスタークを殺すための人質になってもらうぜ。だが本当に油断ならねぇガキだ……不測の事態に備えて脚でも折ってやろうか。ボロボロにされた礼も込めて……な!」

 

 悪魔がこぶしを握り、ゆっくりと私の方へと足を進めた、

 

 

 

 

 

 

 

 その時だった。

 

 ガンッと金属を地面に叩きつけたような音が鳴り響き、私の目の前に何かが着地した。

 

 地面に膝と拳を突き立てて。

 

 

 

「不測の事態、ヒーロー参上だ」

 

 スターク先生が、私の目の前に現れた。

 

「……ったく、ツイてねぇぜ!!」

 

 悪魔が叫んで飛びのく。

 私はスターク先生の方へと首だけ向けながら、懺悔のように重々しく言葉を絞り出した。

 

「スターク先生……申し訳ありませんでした……敵を倒そうと思ったのに……仕留めきれませんでした……一発だけ撃って、もうただの置物です……せっかくあなたが背中を押してくれたのに、期待に応えることが……」

「十分応えたさ」

「……?」

 

 スターク先生は私に背を向け、敵に視線を向けたまま話を続ける。

 

「僕は何も、一人で全てを救うスーパーヒーローになれだなんて言ってない。僕は君になんて言った? 最強の戦術破壊兵器になれといったんだ。そして君はあの化け物に存分にその力を発揮し、見事ここまで追いつめた」

 

 そしてマスクを開けて振り返り、私の目をしっかりと見据えて。

 

 

「──君はよくやった。僕は君を……あー……まぁ、誇りに思うよ」

「こんな時くらい……恥ずかしがらずに言ってくださいよ……」

 

私はこんなにもチョロい女だったろうか。自分の行動が報われた事が、スターク先生のその一言が、思ったよりも心に来てしまった。

 

「ダクネス君、めぐみんの顔を拭ってやってくれ。ひどいありさまだ」

「……ん。任された。ほら、よく一人で頑張ったな。本当にすごいぞ」

 

 いつの間にか後ろから来ていたダクネス先生が、爆風で煤と泥だらけになった私の顔をハンカチで拭ってくれる。

 拭う力が強すぎてかなり痛い。

 

 最高のタイミングによる最強の増援に安堵していたが………。

 

「あとは僕に任せておけ、めぐみん」

 

直後、私は視界に拡がった光景に大きく目を見開くこととなる。

 

 スターク先生がニヤリと笑うと同時に、様々な鉄の塊が次々とスターク先生の周囲に降り注ぎ、その姿を変えていったからだ。

 

 

 ▽

 

 

 めぐみんが追い詰めた悪魔が、目の前で起きていることが理解できないといった感じで僕に聞いてくる。

 

「お、お前……なんだよソレ……それもお前の鎧なのか……!?」

「ああ、これか? これはな、()()()()()()()()()()()()()()とタイマン張るために作ったスーツさ」

 

 降り注いだ鉄塊が姿を変え、僕の体をスーツの上から覆っていく。

 

「クソッ! させるかよォ!!!」

 

 悪魔が羽を広げ、猛スピードで僕の方へ突っ込んで拳を握り振りかざした。

 

 

 

 ガキンッと強い金属音が周囲に鳴り響く。

 

 それは、僕が殴り飛ばされた音……などではなく──

 

「ッ……! マ、マジで……ッ!」

 

 

 

 ──僕の身の丈以上の巨大な鋼鉄の腕が、悪魔の拳を受け止めた音だった。

 

「マジでなんなんだよソレはぁあああ!!!」

 

 広がったHUDに文字が浮かび上がる。

 

 

 

【Mk.44 ハルクバスターアーマー(ベロニカ) 装着完了】

 




キャラ紹介 No.6

▽〘 あるえ 〙

▽性格 〘 冷静沈着 〙〘 “超”マイペース 〙

▽めぐみんやゆんゆんの同期にして、学年三位の実力者。

紅 魔 族 随 一 の 発 育 。

極めて優秀な成績で魔力も高いのだが、将来は小説家希望で常に小説のネタを探して奔走している。
常に冷静で何が起きても基本取り乱すことは無いが、わが子同然の小説に関してはその限りではない。
小説を馬鹿にされるとキレるし、破り捨てられたりするとその場で膝を着いて嘆き悲しむなど、自分の書いた作品に関しては割と感情的になる。
小説にかける情熱はあるものの、その情熱故に周りに迷惑をかけることもしばしば。

でもそんな所もまたかわいい。



キャラクター紹介 No.7

▽〘 ゆんゆん 〙

▽ 性格 〘勇敢〙 〘逆境に強い〙 〘寂しがり屋〙

▽ めぐみんの数少ない友人。学年二位の実力者にして族長の娘。
紅魔族の中でも厨二病を患っていないという稀有な存在。
一族が行う口上や名乗り、ポーズも恥ずかしがってしまう為、それが当たり前となっている里では浮いてしまっている。
しかし紅魔族のローブのカッコ良さが分かったりと、なんやかんやでロマンに理解はある模様。
とは言ってもやはり紅魔族のしきたり等はおかしいと感じているので、それが原因で友達が出来ずにいる。

ぼっちで涙目になってるところは可愛いですよね?

おまけに引っ込み思案な所もあって中々自分から友達を作りに行くことが出来ない上に、それを拗らせて非常に重たくなってしまっている。(クラスメイトからもらった髪留めを使わずに二重三重の鍵がかかった箱にしまう等)

普段の彼女を見ると臆病に感じるだろうが、実は逆境に強く、試練が訪れるとそれを乗り越えんと奮起する精神力があり、自分の大切な人を守るためなら喜んで一番前へと出られるような人間。

“友達”という言葉で簡単に釣られてしまうチョロい一面がある。
アニメに出てきたゆんゆんの悲しき黒歴史は必見。

ちなみに誕生日は四年に一度しか訪れない閏年の二月末日である。

かわいそう。


〜元ネタ解説〜

>ダンス対決

ご存知の方も多いであろう、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーの名シーン。
時間を稼ぐ為にスターロードことクイルがロナン(ヴィラン)を前にダンスを披露する。
ちなみにムーンウォークはしていない。

>不測の事態

ONE PUNCH MANより、ガロウのセリフ。
ガロウは悪役だが、弱者の立場で戦い続けるナイスなタフガイ。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。