この素晴らしい世界に祝福を!アナザー・ユニバース・アイアンマン 作:Tony.Stank
第1話 駆け出しゴーレム
川のせせらぎと、石畳の上を車輪が転がる音が聞こえてくる。
目の前を覆っていた白い光がだんだんと晴れると、僕の視界に広がったのは。
「Wow……どうやら……本当に異世界のようだ……」
一見すれば元の世界の観光地にもありそうな田舎町だが、違うのは行きかう人々。
エルフ耳の女性や、獣耳が生えてる一家など、まさに映画や漫画でしか見たことが無いようなファンタジー世界の住人達がいた。
これは驚いた。 ソーが胡散臭いコスプレ男に見えてくる。
科学者のはしくれとして、あの知的生命体に興味が沸く。人間とは寿命がどれだけ違うのだろうか、実際に弓矢の扱いに長けているのだろうか……。
しばらく好奇心から辺りを見渡して街中を観察するが、すぐに自分の目的を思い出す。
こんなことしてる場合じゃない。魔王討伐のために動かなくては。
何か情報を知ってそうな人を探していると、それぞれ大剣や槍、戦斧を背負った三人組の後ろ姿が見えた。
ちょうどいい、彼らから話を聞こう。
そうと決めた僕は、後ろから近づいて彼らに声をかける。気さくに行こうか。
「やぁ、そこの君たちにちょっと聞きた」
「う、うわあああああああああああああ!?!? あ、新手のゴーレムか!? おい、テリー! ソフィ! 戦闘態勢だ! 武器を抜けぇえ!」
「はぁぁあああっ!? 何で街中にゴーレムが!? 門番はどうしたのよ!?」
「知るかそんなの! ていうか見ろ、こいつめちゃくちゃヤバそうだぞ! 魔王軍の新兵器でも攻めてきたってのか!?」
僕の姿を見るや否や絶叫し、武器を構える三人組。
どうしてこうなった。異世界に来て一分くらいで武装した人間に囲まれるなんてさすがの僕でも予想できるわけがない。
いや……そうだ。僕を知ってる人間なんていないこの世界の人間が、スーツを着てマスクまで閉めた僕を見たらそりゃ怪物に見えるよな。
とりあえず殺気立ってる三人組を落ち着けるため、僕はマスク開けて顔を見せる。
「落ち着け、僕は人間だ。ただちょっと……鎧マニアでね」
適当な嘘をジョーク交じりにつく。これで信じてもらえればいいが。
駄目ならスーツを脱いで歌でも歌おうか。
そんなふざけたことを考えていると、三人はしばらくお互いの顔を見つめあった後、若干の警戒をにじませながらも武器を下ろした。
「な、なんだよ……鎧かよ……びっくりさせやがって……でも、いきなり剣を向けて悪かったな。俺はレックス、横にいるのがテリーとソフィだ、よろしくな。というかあんた今、手を使わずに兜を開かなかったか……?」
「鎧マニアでね」
「ていうか、それ本当に鎧なの……? 胸が光ってる鎧なんて見たこともないんだけど……」
「……鎧マニアでね」
「そ、そうか……」
だめだ、いい誤魔化し方が浮かばない。もっと頑張れ僕の天才的頭脳。皮肉と世界を変える発明品しか浮かばないのか?
鼻に大きな傷のあるレックスと名乗った男は、僕の圧のあるごり押しに微妙そうな顔をしていたが、追究はしてこなかった。
「で、あんたは俺たちに何の用なんだ?」
レックスのその言葉を皮切りに、他二人も話を聞く姿勢に入る。警戒の空気は消えたが、代わりに僕は三人から奇妙な奴を見る視線を向けられていた。
もっとまともなごまかしを考えておくんだったと後悔するが、もうこの男たちと話すことはないし、別にいいだろう。
──
なので、特に深く考えずにレックスに質問をする。
「魔王城の位置を教えてくれないか?」
「ま、魔王城!? そのすごそうな鎧と言い、腕利き冒険者だったのか!? ……の、割には魔王城を知らないなんて変だな」
「一体何する気なんだ?」
「まぁ……ちょっと行ってみて来るだけさ」
ますます僕を見る目が奇妙なものになっていくが、いちいち気にしてはいられない。
そんなことよりも早く魔王城の位置を教えてほしい。
「……魔王城なら、ここから北西にあるバカでかくて禍々しい城だ。地図に記されているだけで、実際に見たわけじゃないけどな……。でもあんた、一人で行くのか? パーティーは? 武器は?」
テリーと呼ばれていた男が魔王城がある方角に顔を向け指をさし、また僕の方に顔を戻してあれこれ質問してくる。
情報はもう聞いた。僕はテリーが指した方向を向き、質問に答えて会話を切り上げようとする。
「パーティ? パーティならこれから起こるさ。武器もある。一時間もしないうちにまたアクアとエリスの元に戻れそうだな」
そう言って、僕は開いていたマスクを閉じる。
「あ、あんた……やっぱりその兜……」
マスクを閉めた僕を見て目を見開く三人。だがもう会うことの無い連中に対して誤魔化す必要も無い。
スーツのエネルギーを飛行スラスターに回す。
「情報提供感謝するよ。じゃあな」
一言礼を言い、飛行リパルサーを照射して空へと上昇していく。
「「「えっ」」」
そのまま高度を上げ、魔王城がある方角へ飛行した。
「鎧が……」
「飛んだ‥‥?」
「帰って寝ようか。きっと疲れてるんだよ」
空に上がる際、レックス達が最後に何か言った気がしたが、リパルサーの照射音に掻き消されてよく聞こえなかった。
▽
巡航速度マッハ3で飛ぶこと十数分。城のようなものをスーツのズーム機能で確認した。
巨大で、漆黒で、禍々しい。なるほど、まさに“魔王城”って感じだ。
リパルサーのエンジン出力を上げ、さらに速度を上昇させる。
「さて、魔王になんてなろうとするやつはきっと頂上にいるに違いない」
このまま突っ込んで一気に片を付けてやる。アクアが我慢できずに酒を飲んでいなければいいが。
大丈夫、楽に終わるさ。スーツが搭載する全ての武装をオンラインにして城の頂上へ突撃の準備を終える。
さぁ、パーティーの時間だ。
「ピザのお届けになりま」
誰にも聞こえないジョークを言って、自分の心にわずかにあった緊張を消そうとした時だった。
脳の中まで響き渡る、銅鑼のど真ん中にスレッジハンマーをフルスイングで叩きつけたかのような、凄まじい轟音。
それと同時に全身を骨の芯まで震えるような衝撃が襲い、視界が大きくブレる。
「ぐぁああああああああああ!?」
何度もきりもみ回転し、視界が青空に向いたところで、ようやく自分が吹っ飛ばされていることに気が付いた!
な、なんだ!? 何が起きた!?
衝撃によって空中制御の姿勢が崩れ、重力に従って地面に落ちる。
意識を手放しそうになるが何とか耐え、姿勢を保とうとするが、衝撃でマヒした体じゃ手足をばたつかせることくらいしかできず、なすすべなく地面にたたきつけられた。
……墜落してから数十秒か、数分か……。
朦朧とした意識を何とか覚醒させ、僕が墜落してできた地面のクレーターから這い出て、フラフラと立ち上がる。
「ぐ……バリアが張ってあるのか?」
スーツ越しに頭を押さえながら、魔王城を見る。飛んでいる時には気が付かなかったが、こうしてみるとうっすらと膜のようなものがドーム状になって城を覆っているのがわかる。
油断した……。魔法のあるファンタジー世界とはいえ、テクノロジーの差で一方的に勝てるだろうと思っていた少し前の自分が嫌になる。
よし、動力源を破壊しよう。
もし城の中にあったら不可能だが、地中などにあったらなんとでもなる。
ヒドラの基地に張られてたバリアを解除した時も、地中にあった動力源を破壊して中に侵入した。
バリア周辺をスキャンし、動力源を探る。
──が。
【動力源 無し】
【未知のエネルギーを検知。供給元は不明】
「どうなってる……」
ヘルメットのHUDに表示される情報に思わず顔をしかめた。
一番理解できないのは表示されたバリアが何からできているかだ。
ちらっと見ただけでも生体電気やら脳波に非常に似た反応がある。それも複数。
これの何が理解できないって、この反応は
つまりこのバリアは生物由来ってこと。つまり頭がおかしくなりそう。
バリアを解除する方法は見つからない。だったら、突破するしかない。
僕はオンラインにした全武装を展開し、推進リパルサーを攻撃用に切り替え、出力も上げて狙いを定める。
やり方は簡単。一点集中で人が通れるくらいの穴を開け、ビーズカーテンをくぐるように中にスマートに侵入する。
「knock knock」
せいぜい禍々しい玉座か何かにでもふんぞり返ってろ。
すぐに電気椅子に変えてやる。
僕はバリアに弾かれて地面に叩きつけられた怒りをまだあってもいない魔王に向け。
バリアを打ち破らんとありったけの火力を──!
▽
「あの……お水です……」
「ああ……」
「あの……メニュー表、ここに置いときますね……」
「ああ……」
僕は、再び最初に送られた街に戻り、ギルドに来ていた。これもまたファンタジー世界では定番の場所だ。残念ながらワクワクはしないが。
またゴーレムと勘違いされないようにマスクを開け、酒場はないかと人に聞きまわっていただけだったのだが、このスーツを着ているせいか、『ギルドは向こうだよ、ベテラン冒険者さん』と、ここを案内された。
……気を紛らわすために何か飲もうと思ったのだが、この世界の金を持っていない僕は、こうしてギルドの酒場の端の席でうなだれながら水をすすってる。異世界くんだりまで来て。
クレジットカードくらい使えるようにしとけ。
それにしても、一つの街を十年動かせるくらいのエネルギーを火力にして叩き込んだのに、バリアに傷一つ付ける事すら叶わなかった。ありえないだろ。
攻撃が効かなかったというよりも、
あれを破るには、おそらく物理的なものだけでは足りない。僕も知らない未知のエネルギーが必要になるだろう。
‥‥‥情報が足りなさすぎる。まずは書物などから情報収集しなくては。
そう考えていた時だった。
ゴトンッとテーブルの上に何かが置かれた。
…………?
うなだれて下げてた視線をテーブルの上まで上げると、そこにはジョッキが。
ビールか何かだろうか。飲み口まで泡があふれ、金属製のジョッキ全体に水滴がびっしりついていることから、キンキンに冷えていることがわかる。美味そうだ。
いや違う、そうじゃない。一体誰が……。視線をさらに上げ、テーブルの横に立っている人物を見る。
「やぁ、そこのキミ! そんなにしょぼくれた顔してどうしたんだい? これ奢ったげるから元気出しなよ!」
そう言って笑いかけてきたのは、頬に小さな刀傷があり、革の鎧を装備しつつも露出度の高い恰好をした銀髪で明るい印象の少女。
そして、その隣には長い金髪を後ろでまとめ、ポニーテールにしているゴツイ鎧に大剣を腰に下げた重装備の少女が。
どちらも十代半ばくらいだろうか。
金髪の方の少女は、僕のことを……いや、僕のスーツを見てなにやらソワソワしている様子だ。
それは置いておいて、とりあえず彼女たちが僕に何の用か尋ねる。
「あー……そういうサービスは頼んでないんだが」
「一体何と勘違いしているのかな!? あたしたちはそんなんじゃないよ!!」
わっと声を荒げて怒る銀髪娘。十代半ばの少女に言うジョークじゃなかったな。今度はちゃんと尋ねよう。
「悪かったよ。今ちょっと心が荒れててね。で、君たちは僕に何の用なんだ?」
「まったくもう……。とりあえず自己紹介させてね。あたしはクリス。それで、こっちの不愛想なのがダクネスだよ。よろしくね!」
「……ん。よろしく頼む」
「で、キミに話しかけた理由なんだけど、キミは街中でギルドがどこにあるか聞きまわってたでしょ? だから、ひょっとして冒険者になりに来たのかなって思ったんだ。そこで、あたしとダクネスで駆け出し冒険者のキミに、いろいろ教えてあげようかなって思ってね」
……本当はただ酒場を探してただけだったのだが……。
だが、これはいいチャンスかもしれない。この世界の常識と言ったものは全く知らないので、教えてくれると言うならありがたく教えてもらおうか。
その前に自分の自己紹介をしようとした時、ダクネスと呼ばれた彼女が唐突に口を開いた。
「クリス、私にはこの男が駆け出し冒険者には全く見えないのだが。まず鎧が完全に駆け出し冒険者のそれではないだろう。これは相当な業物だぞ」
「ふふふ、私にはわかっちゃうんだよ、ダクネス。さっきの街での会話のやり取りとかからね」
そういってダクネスにウィンクするクリス。観察眼ってやつが優れているのだろうか。
実際その通りだ。街の人々は僕の姿を見てベテラン冒険者と呼んでいたが、はっきり言って冒険者が何なのかもよくわかっていない。
とりあえず自己紹介を終わらせ、この世界での常識などをある程度教えてもらおう。あとは僕一人で書物などを読み漁って知識を蓄えればいい。
「僕の名前はトニー・スタークだ。まぁ、トニーで良い。これ、ありがたくもらうよ」
軽く自己紹介をし、クリスが奢ってくれた飲み物を一気に呷る。
冷えた炭酸の液体が喉を伝わり‥‥。
……なんだこれ。炭酸がはいっているのかと思ったが、少し違うみたいだ。シュワシュワするというよりは、シャワシャワする。酒にはうるさい僕からすると、少し安酒チックな味が気になるが、まぁ悪くない。こういうビールみたいなのも好きだ。ジャンクフードが欲しくなるな。
空にしたジョッキを机の上に勢いよく置き、口元をぬぐう。
「で……ダクネス……だったか? クリスの言う通り、僕はここに来たばかりで、冒険者とやらが何なのかもよく知らない人間だよ」
「何……そんな鎧で……これは驚いたな。では、その鎧は何なのだ?」
「そうだな……僕は……遠い国のメカニッ……いや、職人でね。自分で作った装備を自分で試そうとしてるだけさ」
「ほお……」
ダクネスがとても興味深そうな顔をして僕を見てくる。
クリスがコホンと咳払いをした。
「さ、話を本題に戻すよ。それじゃまず、冒険者とは何かってところから説明するね」
冒険者とは、基本的には頼まれた薬草などの物品を危険なところから採取してきたり、人間に害を及ぼすモンスターなどの討伐を請け負おう者たちの総称。基本的には何でも屋らしい。
冒険者には職業があり、それぞれ何かしらに特化している。クリスは隠密と偵察に長けた《盗賊》ダクネスは防御力に長けた《クルセイダー》と言った感じに。
モンスターを倒すことによって経験値がもらえ、それでレベルアップすることができる。そして、レベルアップによってもらえたポイントによって新たなスキルなどを得て強くなることができる。
そしてここはギルド。ここで冒険者として登録することによって、仕事をここで貰ったり、支援を受けたりできるらしい。
──以上が、クリスの説明で分かった冒険者についての情報。
完全にゲームの世界だ。ゲームは若いころにいくらかやってたが、まさにその世界だ。
だが、この世界で魔王討伐に動くなら、冒険者になるのが一番良さそうだ。
ひとまずは冒険者になるとしよう。
「それじゃ、冒険者登録、いってみよう!」
▽
クリスに言われるがままに、僕は冒険者ギルドの受付カウンターに立っていた。
目の前にいるのは、ウェーブのかかった髪をした、おっとりとした感じでかなりきわどい恰好をした美人の受付嬢。
僕の会社の受付嬢として雇いたい。
彼女は、いくつかの書類を取り出し、営業スマイルで受付テーブルの上に並べ始めた。
「ではまず先に、登録手数料の千エリスが必要になります」
‥‥登録手数料か‥‥。
もちろん、そんなものは持っていない。でなけりゃ端の席で水なんてすすってない。
「はぁ……アクアとエリスは気が利かないな……。悪いが、ちょっと待っててくれないか? このスーツのパーツなり何なり一つ売るなりして金を……」
「あ、あははは……ここは私が出してあげるから! ほら、登録手数料!」
何か焦った様子のクリスがたたきつけるようにテーブルに金を置いた。
‥‥?
「は、はい……では、冒険者について軽くご説明を……」
「説明ならさっきこの子から聞いたから大丈夫だ。助かったよ、クリス」
僕の言葉に、若干まだ焦りの表情を浮かべながらもサムズアップするクリス。
「そうでしたか。では、こちらの書類に身体的特徴の記入をお願いします」
「お安い御用だ」
出された紙に自分の身長や体重、年齢などをサッと書いて渡す。
「はい、結構です。では、このカードに触れていただけますか? これであなたの現在のステータスがわかります」
カードに触れるだけで自分のデータが出てくるとは、いったいどういう仕組みなんだろうか。
DNAから読み取っているのか……?
得体のしれないカードに触るのは気が進まないが、そうも言ってられないので触ろうと……して、自分がいまスーツを着ている為、素手で触れないことに気が付き、スーツを脱ぐ。
アイアンマンを知らない世界で、人の目がある中で、ガシャガシャと変形させて。
「「「!?」」」
ギルド内がざわめきだした。
酒場の方にいた冒険者達がこちらを見てはなにかヒソヒソと話をしている。
目立つのは嫌いじゃないが、その目が奇妙なものを見る目なら話は別だ。
これなら手の部分だけ解除して取り外せばよかったと思うももう遅い。
「ト、トニー!? 一体どうなっているのだその鎧!? 本当に……一体……」
「後で見せてやるからはしゃがないでくれ」
さっきまで黙ってみてたダクネスが興奮した様子で食いついてくる。
物静かな印象の女性だったが、鎧の類に目がないのかもしれない。
「す、凄い鎧ですね……。本当に初めて冒険者になられる方なのですか……?」
「あぁ、右も左も分からない駆け出し冒険者だよ」
そう軽口を言ってカードに触れる。
「はい、ありがとうございます。あら……魔力がほぼゼロですね‥‥‥」
「ド、ドンマイ!」
「……うむ。その鎧を見るに、魔法職になるつもりはないのだろう? 前衛職でも魔力は多少必要になってくるが、それでも大丈夫だろう。気にするな」
「おい、別に気にしてないからその同情する顔はよせ。かえって惨めになってく‥‥‥だからよせ!」
クリスとダクネスがうるさい。
僕はこのスーツで戦う。だから魔法が使えるかどうかは関係ない。
「あ、あはは……魔力が無くても冒険者にはなれますから……あっ、ですが、筋力、生命力、敏捷性、器用度は平均よりも高めですね。特に器用度はかなりのものですよ! あとは……知りょ……」
そこまで言ったところで、受付嬢が一瞬止まる。
……やがてカタカタと震えだし、カッと目を開いて。
「こ……ここっ……これはっ……! な、なんですかこの異常な知力!? こんな数値、今までに見たことないですよ!? ひょっとしたら人類史上最高クラスかも知れません……っ!」
興奮した様子の受付嬢だったが、顔をキリッと整え、カードをテーブルに置き。
「あの、王都で魔道学の研究員になることをオススメします。あなたならすぐにこの国……いえ、歴史史上最高の大賢者になれるでしょう」
「まさか冒険者登録に来て冒険者人生を否定されるとは思ってなかった」
「ち、違うんです! 魔王軍と戦う手段は冒険者になって魔物を駆逐するだけではないと言うことを言いたくてですね……!」
僕の不機嫌そうな声を聴いて必死に弁明を始める。
とりあえずは選択肢として頭に留めておき、冒険者になる前提で話を進めていく。
「‥‥で、冒険者になるんだとしたら、どんな職が向いてるんだ?」
「そ、そうですね……魔力が無いので、選択肢としては前衛職がほとんどです。ステータスの値は悪くないので、レベルを上げれば上級職になることもできますよ?」
リストを見てみれば、かなりの数の候補があった。戦士、ナイト、ランサー、ソードマン……。
正直どれもなろうとは思わない。自分のスーツで戦うし、選ぶメリットを何も感じない。だが、職業は決めないと冒険者として活動はできないみたいだ。
どうしたものかと考えていると。リストの中から一つの職業が目に留まる。
──冒険者。本職には及ばないものの、すべての魔法やスキルが取得できる職業。
全ての魔法‥‥これはもしかするとあのバリアやこの世界の未知の力の研究に使えるかもしれない。
他に欲しいものもない。とりあえずこれにしておくか。
「……決めた。冒険者にする」
「そうですか。研究員ではなく冒険者に‥‥それで、どの職にするんですか?」
「おい、コントじゃないぞ。職業を冒険者にするって言ったんだ」
すっとぼける受付嬢にちゃんと《冒険者》になりたいと伝える。
頭の上にクエスチョンマークを浮かべる受付嬢だったが、ハッとして慌てふためく。
「ほ、本気ですか!? その……冒険者は……」
「僕にとって職は重要じゃない。とりあえずはこれにさせてくれないか?」
「わ……分かりました……では、冒険者……っと……。あの、職業はいつでも変更できますからね?」
「覚えておくよ。それじゃ、カード貰っていくぞ」
カードを手に取り受付カウンターに背を向けて、いつの間にかギルドの入り口辺りで何かの紙を掲げているクリスたちの元へ向かう。
何をしてるんだ、彼女は。
「え……えっと……ギルド一同、あなたの活躍を期待しています!」
後ろから聞こえた受付嬢の声に、背を向けたまま手をひらひら振って答えた。
どうやら、クリスが持っている紙は依頼書のようだ。
なるほどな。最初は依頼を受けて世界の仕組みを知れってことか。
クリスたちの元に合流し、一人そう納得していると。
「‥‥ん。トニー、鎧を置き忘れてるぞ」
「関係ないさ」
「……? 鎧無しにクエストを受ける気か? もしかして、トニーもそういう趣味……を……」
何かよくわからないことをしゃべっていたダクネスが、途中で急に黙る。
……僕の背後から普通に歩いて追いついてくるスーツを見て。
「??‥‥‥‥‥!?!?!?!?!?」
今まで凛としていた顔はどこへやら、打ち上げられた魚みたいに口をパクパクさせている。反応面白いな。
後ろから追いついてきたスーツは、そのまま背後から文字通りスーツを羽織るかのように僕の体を包み込む。
ギルドがまたざわめきだすが、もう慣れてもらうしかない。そのうちおさまるだろう。
その中でただ一人、僕のすぐ目の前で依頼書を持ったままのクリスは、ちょっと困ったような顔こそ浮かべているものの、驚いた表情は特に見せていなかった。
「君はこの顔芸大会に参加しないのか?」
僕はそう言って、今だ口をパクパクさせているダクネスや、酒場で僕のことを見ている冒険者達を手でさす。
「へ? あっ……まぁ……なんというか……初見じゃないと言うか‥‥すでに同じようなものを見たことがあると言うか……あはは……職業的に、いろんなものを見てきたから‥‥」
そう言って、頬の刀傷の辺りをポリポリと……。
‥‥‥‥‥。
「奇遇だな。僕も君と同じことを考えていたよ」
「へ?」
確信があったわけじゃない。だが今のしぐさとセリフでなんとなくそう感じたから。
僕は、マスクを閉め──
──クリスを顔認証システムにかけた。
「ね、ねぇ……どうしたの……急にそんな見つめてきて……な、なんだかすごく嫌な予感が……」
さて結果は。
【顔認証完了 出会った人物の中から最も一致度の高い人物を検索中……】
【検索完了】
【エリスとの一致度99.9999998%】
「‥‥‥」
冷や汗をかいているクリスに……いや、エリスに僕は一言。
「なんでそんな恰好してこんなところにいるんだ? エリ」
「あああああああああああああ!!!! うわあああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
僕の声をかき消すように、クリスが絶叫しながら掴みかかってきた!
アクア、エリス、ダクネスの紹介文はまた次回になります。