この素晴らしい世界に祝福を!アナザー・ユニバース・アイアンマン   作:Tony.Stank

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第19話 LEGEND OF CRIMSON

 突如私達の前に出現し、スターク先生の体を鎧ごと覆った巨大な人型ゴーレム。

 だが、ただゴーレム(泥人形)と呼ぶにはソレはあまりにもごつく、あまりにも煌びやかで、そして…………。

 

「さて、第二ラウンドだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………そして、あまりにもロマンたっぷりでカッコよかった。

 

「その見せかけの体バラバラにしてやるよ!」

 

 悪魔が叫んで拳を握り、おおきく振りかぶって再び殴り掛かる。

 

「Wow、テレフォンパンチか?」

 

 ……が、それを容易く受け止め、もう反対の手で拳を作り…………。

 

「こっちの番だ」

 

 腰から肩、肩から肘、肘から手首、手首から拳へと余すことなくパワーを伝えた流麗な一撃が、悪魔の顔にめり込んだ。

 

 まるで高レベルのモンク(武闘家)のような完璧な一撃だ……意外と殴り合いに慣れているのだろうか? 

 

「グッハアアアアア!!!」

 

 蹴られた小石の如く吹っ飛び、地面を二転三転し、平原に一筋のえぐれた道を作る。

 殴り飛ばした悪魔に向け、追撃にとスターク先生が掌を向けた。

 

「ガァッ!」

 

 追撃を避けようと素早く起き上がった悪魔目掛け、掌から光線が射出される。

 通常のソレを何本も束ねたような太さの、高出力の破壊光線が目標へと突き進んだ。

 

「やられっぱなしでいられっか!! 『クリムゾン・レーザー』ッッッ!!!」

 

 悪魔が放った赤色の熱線を放つ上級魔法が、スターク先生の放った光線へと向かい、互いの中間の位置でぶつかり合う。

 

「グッ…………ど、どうなってんだ…………!」

 

 ぶつかり合った瞬間は拮抗してたものの、やがて光線が悪魔の魔法を押し返す。

 

 …………あれ程の上級魔法を、魔力も無い単純な高出力の物理エネルギーのみで押し返すとは、アーク・リアクターとは一体何なのだろう。

 

 以前何度も聞いたが、その度『君にはまだ早い』と、その構造や製造方法などについては全く教えてくれなかった。

 

「だああああ! ク、クソがぁあああ!!」

 

 なんて考えているうちに、みるみる悪魔が追い詰められていく。

 魔法を放っている手元近くまで光線が迫り、堪らず横に飛んで回避した。

 

 今のでなんとか難を逃れた悪魔は、悔しげにこっちを見ている。

 どうやらこれ以上勝ち目のない戦いをする程馬鹿では無いようだ。

 

 羽を広げ、空へと飛び立つ。

 

「お、覚えてろよ…………!! 退くのは今回だけだ…………! 必ずまた戻ってきてやる…………!」

 

 これだけやっておいて逃げるとは…………。

 せっかくこのままで追い詰めたのに…………! 

 

 高速で上昇していく悪魔。

 

 だが、その影をもうひとつの影が追跡する。

 

「逃げられるとでも思ってたのか?」

 

 それは、全身のスラスターから推進リパルサーを噴出させてあっという間に悪魔の背中に追いついたスターク先生だった。

 

 えぇ…………。

 

「ハッ…………ハァァァア!? テメェそんなデケェ鎧でなんでそこまで素早く…………いや、なんで飛べるんだよ!?」

「脳があるならあらゆる可能性を考えておくんだな」

 

 スターク先生は背後から悪魔の肩と首根っこを掴み、そのまま組み伏せるように地面に叩きつける。

 

「ガハッ…………!!」

「とどめだ」

 

 悪魔を地面に押さえつけ、掌をその背にかざすスターク先生。

 

 完全に消し去ろうとしてるのか、強大な鎧のその掌はいつもより遥かに強い輝きを放っていた。

 だが、組み伏せられている悪魔の瞳にも怪しげな光が宿っている。

 

 ……なにかするつもりだ。

 

 

 

「こんな所で…………くたばってたまるかァァァ!!! 『インフェルノ』──ッッ!!」

「ッ!?」

 

 悪魔は組み伏せられた状態から無理やり獄炎の魔法を放ち、周囲を火の海に変えた。

 

 じ、自分ごと…………!! 

 

 己を巻き込んでの上級魔法。

 荒々しい火柱が吹き上げ、スターク先生は反射的に手を離してしまう。

 

 その隙を逃さんと、すかさずスターク先生を蹴り飛ばし、体勢を立て直した。

 

 目には未だ闘志が宿っている。

 

「アッチチチ……!! ハァ……ハァ……こうなったら──」

 

 悪魔は低く構えて前傾姿勢をとり、

 

「──とことんやってやるよ」

 

 覚悟を決めたように両拳を握りしめ、猛スピードで突っ込んだ。

 スターク先生は冷静に構え、敵を挑発する。

 

「かかってこい」

 

 それと同時に背面のあらゆるブースターが同時に展開して光を放ち、残像と砂煙を残してそこから消えうせ、悪魔に真正面からぶつかり合う。

 

 爆発とも取れるような破裂音を立て、大気と地面に広がる破壊の波。

 空間に衝撃波が広がっていくのが、地面が波打つのがハッキリと見えた。

 

「めぐみん!」

 

 私を抱きかかえるダクネス先生が素早く背を向け、私を衝撃波から守ってくれる。

 

 ダクネス先生が背を向けることにより、必然的に私の視界も後ろに回り…………。

 

 

 その拍子に私が空にあるものを見つけたのと、警告が耳に届くのは同時だった。

 

『めぐみん様、そちらに向けてなんらかの飛翔体が複数接近しています』

「あれは…………」

 

 空の向こうから向かってきているのは、十体ほどのコウモリ型のモンスター。

 いつの日か里で見かけたのと同じような姿をしていた。

 

「……やっと来やがったか!! そこの紅魔族のガキをつかまえろ!!」

「「「!!」」」

 

 悪魔の叫ぶその声と共に、こっちに飛んで来ているモンスター達が一気に加速する。

 

 ちょっ……! 

 

「醜悪な悪魔め……! めぐみん! そこを動くな! 私が引き受ける!」

 

 ダクネス先生が私の体を静かに地面に横たわらせ、飛来するモンスターに向けて構えるが、その表情は険しかった。

 

 それもそうだ、数が多すぎる。いくら防御力が高くても、多勢に無勢では守り切れない。

 

 私は寝返りをうって姿勢を変え、飛行モンスターが向かってきている方を再確認する。

 

 すると…………。

 

「おんどりゃぁぁぁあああ!! 悪魔の手先がなんぼのもんじゃーい!!」

 

 セシリーが、こっちに突っ込んできているモンスター目けて石ころを拾っては投げていた。

 

 …………!? 

 

「お姉さん!? 何をしているのですか!? こっち来てください!」

「お、おい! …………そこのアクシズ教のプリースト!! 私はクルセイダーだ、危ないから私の後ろに!!」

 

 セシリーは顔だけをこちらに向けて。

 

「…………あなたの宗派は?」

「えっ……エリス教だが…………」

「ぺっ」

「!?!?!?」

 

 地面に唾を吐いて、嫌な顔を隠そうともせずにダクネス先生の後ろへと回る。

 

「…………んっ……」

「…………ダクネス先生?」

 

 今のぞんざいな扱いが彼女のナニかに響いたようだ。

 ダクネス先生が艶やかな唇から薄く嬌声を漏らす。

 

 スターク先生からこの人の性癖について聞いていたが……これはあまりにも…………。

 

 …………ちがう、そうじゃない!! 

 

 ふとモンスターの方に視線を戻すと、矢の如き速度でもう目前まで迫っていた。

 

 ヤバイヤバイヤバイ!!! 

 このままでは私が人質にされてスターク先生が不利になってしまう!! 

 

「あああああ!! キレイでカッコいいダクネス先生!! お願いですから助けてくださああああああ」

 

 ダクネス先生があわてて我に返るも、モンスターはもう目と鼻の先。

 それも、圧倒的な数。

 

 こ、これはもう駄目かもしれな…………

 

 

 

 

 

 

 

 

「『ライト・オブ・セイバー』」

「『ライトニング』!」

 

 …………最悪の事態を覚悟したその瞬間。

 目の前の何も無い空間にゆんゆんとあるえが突如現れ、瞬く間にモンスター達を殲滅した。

 

 ゆんゆんは中級魔法でいっせいに撃ち落とし。

 あるえはなんでも切り裂く光の上級魔法で次々と細切れにする。

 

 ……なんという完璧なタイミング。

 悔しいが、二人をかっこいいと思ってしまっ……

 

「ふふ……魔法で隠れて機会を窺っていた甲斐があったね。完璧な登場だ」

「うぅ……普通に助けてあげれば良かったと思うんだけど……」

 

 あるえと共犯者のゆんゆんは後ですんごい目にあわせるとして、あるえの魔法の色がおかしい。

 本来紅魔族が好んで使うあの光の上級魔法は、白っぽい色なのだ。

 

 だが、あるえのソレは極めて攻撃的な赤色をしていた。

 しかも刀身がビリビリと僅かながらに振動しているうえに、バーナーのような威圧的な音まで出ている。

 

 爆裂魔法には及ばないものの、中々にイカしているではないか。

 あの時スターク先生に渡されていた手首に着けているデバイスがなにか関係しているのかもしれない。

 

 どんなものかあるえに聞こうと思ったのだが、今あるえは自分のそのデバイスに感動してるみたいで聞いてもらえなさそうだ。

 

 ……なんにせよ、ひとまずこれで安心だろう。

 

 

 私はスターク先生の方へと視界を戻す。

 そろそろ決着がついていてもおかしくないだろう。

 

 そう楽観しながら向けた視線の先に広がっていた光景は──

 

 

「ガァァアアアッ!! 『インフェルノ』! 『フリーズ・ガスト』ッ!! 『カースド・ライトニング』ッッ──!!」

「ッ! シールド展開!! 右腕部にタングステンの対物フレシェット弾を装填しろ!! ……食らえ!!」

「い゛!? ……ってぇぇえええ!! やりやがったなテメェ!!」

 

 悪魔が魔法を乱れ撃ち、スターク先生がそれを腕を展開させて形成した巨大な鋼鉄のシールドで防ぎ、逆の手を悪魔に向けて無数の金属槍のシャワーを浴びせる。

 

 悪魔の羽を穴だらけにして体も傷だらけにするが、灼熱魔法、氷結魔法、貫通力の高い電撃魔法と立て続けに食らったスターク先生の盾も粉々になってしまう。

 

 ……えっ、なにこれヤバい、戦いが激しすぎる。

 

 ダクネス先生も、自分のデバイスにうっとりしてたあるえも、セシリーに避難するように呼び掛けていたゆんゆんも。

 立て続けに起きる轟音に気が付き、スターク先生の方を注視した。

 

 

 全身をズタボロにされた悪魔が、激烈な憤怒を顔に宿らせる。

 拳を握り、足を少し地面に沈ませた刹那、肩から先が掻き消える。

 

 後衛職の私の目ではまるで世界から体の一部が無くなってしまったようにしか見えない。

 

「ッガアアアアッッ!!!」

 

 光沢を放つ漆黒の堅牢な体。そんな肉体から放たれる一撃。

 まるで投石器から放たれた岩が自由自在に動き回っているかのようだ。

 

 だが、そんな一撃だって、今のスターク先生には全く通用しないだろう。

 文字通り、鋼で出来た山のごとき体が動き、パンチを放つ構えを見せる。

 

 クロスカウンターをお見舞いするつもりのようだ。

 

「何度やったって……」

 

 悪魔がスターク先生の間合いに入るやいなや、鋼鉄の拳が空気の壁をやすやすと粉砕し、悪魔の顔面に突き刺さ──

 

 

 

 

 

 

 

「ッ!?」

 

 

 ──ることはなく、悪魔の頭を掠めて角を一本へし折った。

 

 角が折れても悪魔が勢いを落とすことなく、そのままスターク先生が放った拳の下を潜り抜けるかのようにして脇の下へと体を滑り込ませる。

 

 そして……。

 

「ゼァアアッ!! 『ライト・オブ・セイバー』ッッッ!!!」

「グッ……!?」

 

 

 竜の咆哮じみたすさまじい声が平原に響く。

 それは、ありったけの魔力を込めたのだろう。

 

 極太の光の剣が腕から顕現し、スターク先生の巨大鎧の右腕を肩の先から切り飛ばした。

 

 

 腕が宙を舞い、重力に従って地面にその身をめり込ませる。

 時間が引き延ばされたような気がした。

 

 地面に落ちることによって響いた金属音が、やけに重く感じた。

 

 

「トニー!!」

 

 ダクネス先生の叫びがこだまする。

 私に至っては叫ぶ余裕すらなかった。

 

 さっきまで優勢だったのに……一体何が…………。

 

 

「ハハハハハハッ! ようやく一本ってか、ええ?」

 

 悪魔は天を仰いで実に愉快そうに笑い声をあげる。

 

 ひとしきり笑うと、スターク先生へと視線を戻し。

 

「……今ので確信したぜ。テメェ、だんだん動きが遅くなっていってるだろ」

 

 ……なんだって? 

 私には全くそう感じないが…………。

 

 悪魔は勝ち誇ったような笑みを浮かべて話を続ける。

 

「その鎧、原理は知らねぇが造りは間に合わせの粗末なもんだ。大方壊れかけたモンを急いでこさえたって感じだな……活動限界があんだろ」

 

 その言葉を聞いて、私はスターク先生の切断された腕の断面を見る。

 私が目を細めると、それに反応して眼帯が目標物へとズームしてスキャンを始めてくれた。

 

『……敵の言っていることは本当です。使用されている機材、およびその素材となっているものはいずれもあの装置に適していないものが使用されています。本来の力が出せないどころか、時間経過で加速度的にあのスーツ自体の性能が落ちています』

 

 スキャンすることによって表示された巨大鎧のエネルギーが、どんどん弱くなっている。

 このままでは……。

 

 私は三人に呼び掛ける。

 

「ダクネス先生、あるえ、ゆんゆん!! スターク先生に加勢できませんか!? 戦況が悪くなってきました……!」

 

 だが、その三人は呼びかけには応じない。

 代わりに、あるえが小さく唸り。

 

「……めぐみん。残念だけど、どうやらそうもいかないようだ」

 

 ……まさか。

 顔を三人がいる方向へ向けると……。

 

 その視線の先には、先ほどの何十倍もの数のモンスターがこちらに向かって来ていた。

 優秀な紅魔族であるゆんゆんにあるえ、そして強力な前衛であるダクネス先生がいれば問題なくさばけるだろう。

 

 だが、スターク先生への援護は厳しそうだ。

 なにか……何かできることは……。

 

 爆裂魔法も撃って、動けなくなってしまった私ではもうどうすることも……。

 

 

 何かないかとあたりをキョロキョロする私の視界に、あるものが映る。

 切り飛ばされた、巨大鎧の右腕だ。

 

 …………! 

 

 私の頭に案が浮かぶ。

 

「眼帯のお兄さん!! あの切り落とされた腕にアクセスできますか!?」

『やってみます』

 

 以前スターク先生が少しだけ見せてくれた、別の装着機構の鎧。

 全身のパーツがそれぞれ独自に飛び回り、本体を覆う仕組みのあの鎧。

 

 スターク先生は自動キャッチ型スーツなんて呼んでいたか。

 あの巨大鎧も全く同じ変形方式をしていた。

 

 バラバラの部位が一つの場所に集まって形を作る。

 ということは何かで制御されていて、それらは全てつながっているのでは? 

 ならば、それにアクセスできたとしたら? 

 

 スターク先生の方でもそれはできるかもしれないが……。

 

「さぁて、さっきのお礼をたっぷりしてやろーか!!」

「これでいいハンデだ。ちょうど()()()()()やろうと思ってたところだったんでね」

「面白くねぇんだよボケ!!」

 

 ……どうやら、その余裕はなさそうだ。

 いや、余裕そうに見えるが…………あれはただのいつもの軽口だろう。

 

 私は破壊された腕部にアクセスを試みるものの……。

 

『アクセス失敗、防がれました。それと、トニー様よりメッセージが……』

 

 ……アクセスに気付かれた? 

 

 一体何を…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〘 いい子にしてたらクッキーやるよ ;) By Tony 〙

 

「…………」

 

 …………面白いじゃないか。

 紅魔族はやるなと言われたらかえって燃える種族。

 

 眼帯からホログラムが投影され、無数のコードが表示される。

 それは、あの腕一本の中を流れる制御コード。

 

 その中から特定のコードを見つけ出し、組みなおして命令と誤認させる。

 

 これが一番簡単な方法だろう。

 それでも、激流の川底に転がる小石を見つけるようなものだが……。

 

 ……ちょっと無謀な気がしてきた。

 いや、やってやろう。

 

 まず手始めに──

 

 

 ▽

 

 

 ったく、思ったより面倒なことになった。

 敵の強さを見誤ったか。

 

 こんなハルクのパチモンみたいなのがここまでやるとはな。

 

 

 

 ──ベロニカ。

 

 ハルクが暴走した時のために作った、超大型スーツ。

 以前ハルクとの戦いにおいてかなりボロボロにされてしまった。

 ラボと共にこの世界に来てからというものの、巨大モンスターに備えてちょくちょく修理はしていたのだが……。

 

 ここで問題が発生してしまった。

 それは、資源問題。

 

 この世界と僕が元居た世界では、存在する資源に違いがあったのだ。

 修理しようにも、それの元となる素材が無いのでは意味がない。

 

 既存の素材もいくらかあったのだが、ほとんどは見たこともないような素材ばかり。

 

 王都に提供してるタレット、迫撃砲、地雷、ドローンといった比較的単純な造りのものはまだ何とかなるのだが、スーツ程複雑な精密機器となると、それらの製造や修理には必要な素材も替えが利かないうえに、加工にも手間がかかる。

 

 おかげでこいつの修理はかなり難航した上に、間に合わせで呼び出したおかげで性能まで落ちてしまった。

 

「なんだ、こねぇのか……? なら、こっちからいくぜ!! 『ファイアーボール』!」

 

 ……こいつを倒すまで位は持ってくれたらいいが。

 

 こちらに向かってくる中級魔法を僕はリパルサー光線で粉砕する。

 

「シャァァッ!!!」

 

 それに紛れ、悪魔が飛び膝蹴りをお見舞いしてきた。

 砕けた火球の火の粉や煙を引き裂きながら、鋭い一撃が向かってくる。

 

 見た目によらずトリッキーな奴だ。

 

 膝蹴りを拳で殴って相殺する。

 銅鑼を殴るような音が響き、衝撃波で周辺の大地が揺れる。

 

【左腕部に損傷確認】

 

 目の前のHUDに警告文が出た。

 

『ボス、今の状態で真正面から受け止めるのは非推奨です』

 

 わかっている。

 受け止めて粉砕してやろうかと思ったが、そんなカッコつける余裕はないようだ。

 

 悪魔が受け止められた膝を素早く引き、その力を利用して後ろ回し蹴りを放つ。

 鉄塊のごとき踵が僕の側頭部を撃ち抜かんと迫る。

 

「ブルースのパンチの方が遥かに強い」

 

 蹴りをかがんでかわし、下半身を地面に据えたまま文字通り上半身だけが回転する。

 本体の僕がいるのがこのスーツの上半身部分だからできる芸当だ。

 

「なんだその動き!? わけがわから……ブフォァッ!!」

 

 回転を乗せたパンチが悪魔の胸に突き刺さる。

 地面に深い溝を残して悪魔が後ろに飛ぶ自分の体にブレーキをかけた。

 

「カッ……クソッ……なんて理不尽な存在なんだよ……テメーは……」

「こっちだってあんたのしつこさにうんざりしてきたところだ。黒くてテカテカで素早くしぶとい。ひょっとしてゴキブリの上位モンスターだったりするのか?」

「馬鹿にしてんのかテメェ! 俺の名はホースト!! 大悪魔様だ!!」

「そーかい」

 

 悪魔……もとい、ホーストとの言葉を流してちらりとめぐみんたちの方を見る。

 飛行型モンスターの群れを相手に、三人でうまく立ち回っていた。

 

 

 

 向こうの心配はいらなさそうだ。

 

「さぁ……そろそろ終わりにするか」

 

 活動限界が近づいていることだしな。

 これ以上やるとエネルギー伝導率の関係上、動きがさらに悪くなってしまいには動けなくなって──

 

 

 ──そう危惧したその時。

 突如スーツが膝を着いた。

 

「……なんだどうした、貧血か?」

 

 ………………。

 ……。

 

 

「フライデー?」

『……ボス、非常事態です』

「見りゃわかる。何が起きてる?」

「切断された腕部より、魔力エネルギーが混入。スーツ全体のエネルギー供給に不具合を起こしています」

 

 ……クソッ、魔力か……! 

 

 まだ研究が深く進んでいないエネルギー源。僕の世界の精密機器とは相性が悪く、スーツの内部に流れると時に不具合を起こしてしまう。

 Mk.45にはある程度対策を施してあるものの、間に合わせのこのスーツには施していなかった。

 

「ハハハハ!! これも邪神ウォルバク様の加護によるもの……!!」

 

 ホーストが邪悪な笑みを浮かべ、スーツの胸近くの位置……僕がいる中心部に手をかざして詠唱を始める。

 確実に仕留められるよう、ゆっくりと、力を込めて詠唱を続ける。

 

「脱出!」

『上半身の開閉機構にアクセスできません!!』

 

 HUDに損傷、および応答のない部位が次々と映し出される。

 

「どこなら動かせる!?」

『左腕部のみです!』

「ならリパルサーを……」

「リパルサーオフライン!」

 

 大分よくない状況だ。

 こうなったら、内側からユニ・ビームを放って攻撃と共に脱出する! 

 

 胸部にエネルギーを溜めて放つ準備をする。

 相手の詠唱の方が早かったらさすがに不味い。

 

 一か八か……

 

 

 

 

「言い残す言葉はあるか!! トニー・スターク!!」

 

 ホーストの手が闇色に輝き、電撃が迸る。

 

「……Uh-Oh」

 

 これはマズ──

 

 

 

 

 

 

 

「『カースド・ライトニ──ガッ!?」

 

 ──迫る大ダメージを覚悟したその時。

 ホーストの後方からベロニカの右腕が飛来し、その後頭部を強打した。

 

 ……!? 

 

 突如飛来した右腕を、僕は唯一動く左手でキャッチし──

 

「この……この期に及んで小細工を……いい加減くたばりやがれぇぇええっ!!」

 

 

 ──咆哮を上げて殴りかかってくるホーストの腕に、叩きつけるようにして嵌めた。

 

「……は?」

 

「じゃあな」

 

 次の瞬間、ホーストにはめたベロニカの右腕から推進リパルサーが照射され。

 

「な、なぁぁあああああああ!!??」

 

 その推進力によって、まるで口を縛らずに離した風船のような挙動で天高く舞い上がる。

 

 

 そして…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フライデー、Mk.44の右腕を吹き飛ばせ!」

「ク、クソったりゃぁぁあああああああ!!」

 

 

 紅く染まる平原の空に破壊の波が広がり、大轟音が大気を揺らした──!! 

 

 

 ▽

 

 

 大悪魔と戦ったその翌日。

 私たちはアルカンレティアの門の前に集まってた。

 

 アルカンレティアに訪れた大悪魔の討伐。

 また、賞金がかけられていた暗殺者と武器商人の男といった犯罪者たちの逮捕に貢献した功績として、アクシズ教団から謝礼金を、警察からは賞金を貰ったので、そのお金を目指していたアクセルへの馬車代に充てることにした。

 

 今はアクセルに向かう馬車を待っているところである。

 スターク先生が昨日予約しといたと言っていたが……。

 

 その肝心のスターク先生と言えば、馬車の席取りをしてくるといったまま帰ってこない。

 

 そんな中、セシリーがアクシズ教徒を代表して私たちのお見送りに来てくれていた。

 

「あの時のめぐみんさんはとってもカッコよかったのよ! 私より小さいのに、私を背に回して『お姉さん、私の後ろに』って!! はぁぁ……思い出しただけでもキュンキュン来るわ……!」

「へぇ……めぐみんはそんなことを……。まるでヒーローだね。かっこいいじゃないか」

「すごい……さすがめぐみん……私ももっと頑張らなきゃ……!」

「うむ、本当によく頑張ったな。騎士なら勲章ものだぞ」

 

 あるえにゆんゆん、ダクネス先生までもが尊敬のまなざしを向け、感嘆の声を漏らす。

 これはちょっと気分がいい。

 

「ふはははは!! もっと私の偉業を称え、広めてください!!! やがてはこの街にて伝説の紅魔族として語り継がれるように」

「あの時のダンスも、今にして思えばとってもめぐみんさんらしくてかわいかったわ!!」

「……? ダンス……?」

「あー!! あー!! ああああー!! お姉さん、そろそろお別れのお時間ですね!! お世話になりました! ちょっと寂しくなりますね!」

「ああん、私なんてもっともっと寂しいわ!! 最後に頬ずりさせてちょうだい!!」

 

 私の恥ずかしい汚点をごまかした代償に、私はお姉さんにされるがままになってしまう。

 今もうこの姿が汚点になりつつあるのだが……。

 

 なんて、ふざけたやり取りをしていると、遠くから何かが近づいてきた。

 

 四角いフォルム……馬車だろうか。

 ごまかすつもりで言っただけだったのだが、実にちょうどいいタイミングで……

 

「……ね、ねぇ何あれ……」

 

 最初に気が付いたゆんゆんが小さく声を上げる。

 

「あの、眼帯のお兄さん……あれは……」

『車種識別中……』

 

 砂利の上を車輪が転がる聞きなれた音は聞こえるものの、私たちの目の前に現れたそれはどこからどう見ても馬車ではなく……。

 

『……識別完了。HUMMER H2 リムジンです』

「な、なな……なんだこれは!?」

 

 スターク先生の故郷だという国では一般的に走っているらしい、()()()が私たちの目の前に止まった。

 映像でしか見たことがなかったのだが、実際見てみると迫力がすさまじい。

 というか、映像で見たものと見た目が違いすぎる。まるで車輪の付いた屋敷だ。

 

 ここにいる私を含めた全員が、その鋼鉄の車体を見て絶句していた。

 

 ガチャッと音を立ててドアが開く。中にいたのは、当然スターク先生。

 ジャケットにサングラス、片手にグラスを持って足を組んでいる。

 

 目立ちたがり屋にもほどがある。

 これきっと昨日から用意してたのだろう。

 

 スターク先生はそのままの姿勢で顔だけをこちらに向けて。

 

「やぁ諸君、中は何でもあるぞ。ジュースにお酒、高級なつまみにふかふかのソファにクッションまでな」

 

 そう言ってグラスの中身のお酒をゆるりと回して一口煽り、ほうっと落ち着いた吐息を吐き出した。

 ……様になっているのがまたなんとも……。

 

 こんな凄まじいものをわざわざ用意したスターク先生に、私はその意図を聞く。

 

 どうせなら私が思い描く旅のイメージに沿って馬車で向かいたいところだったが、これがスターク先生の厚意だったらいただいておこうと思ったからだ。

 

 ……これが終わったら、彼は紅魔の里に帰るのだろうし。

 

「……あの、一体どうしてこんなものを用意してくれたのですか? 目立つための自慢ですか? それとも……」

 

 ちょっと嫌な聞き方になってしまっただろうか。

 

 スターク先生は、私の嫌味が混じった質問を遮って。

 

「ご褒美さ。ここ数日実によく頑張った──」

 

 そして、実にいやらしい笑みを浮かべながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──僕自身への。HAHAHAHA!!!」

 

 そう言って笑うと、額に青筋を浮かべる私たちを尻目にドアを閉じてそのまま走り出した。

 

 

 …………。

 

 ………。

 

 ……。

 

 

「そういえば、日課の爆裂魔法……今日の分がまだでしたね」

「うん。ちょうどいい的があるね」

「やっちゃって、めぐみん」

「ああ。ここはひとつ派手に頼む」

「めぐみんさん、昨日くらいの良いのをお願い」

 

 みんなの想いにこたえるように、私は走る車体に杖を向けて……。

 

 

 ▽

 

 

「……この車がいくらするか知っててあんなことやろうとしてたのか? 少しはユーモアを理解しろよ」

「世の中にはやっていい冗談と悪い冗談があるのですよ。これに懲りたらもうあんなことはしないでください」

「さすがにあれは私もむかっ腹が立ったぞ。やって良い責めと悪い責めがあるのを忘れるな」

 

 めぐみんが本気で爆裂魔法を撃とうとしてるのに気が付いた僕は慌てて戻り、今はこの車の中でアクセルへの旅を楽しんでた。

 

「にしても、本当に彼女たちはよかったのか?」

「あるえとゆんゆんですか? 気にすることないですよ、自分で選んだのですから」

 

 そう。僕が里まで送ると申し出たのだが、あるえはアルカンレティアをまだもう少し見ていたいと残り、ゆんゆんは『あなたに勝つため、上級魔法を身に着ける旅に出る』と、めぐみんにライバル宣言を残して去ってしまった。

 

 あるえはともかく、ゆんゆんは素直に友達を名乗って同行すればいいものを。

 ……まぁ、僕も人のことは言えないが。

 

 ちなみに、僕が殺し屋に投げつけたゆんゆんのダガーは結局自分自身で回収したらしい。

 去り際にそのことを少し愚痴っていた。

 

「…………」

 

 アクセルまで数時間。何もせず座っているのも暇なので、なにか話そうかと思ったが、僕より先にめぐみんが口を開く。

 

「あっ、そうです、スターク先生。あの時のアシスト、実にナイスだったとは思いませんか?」

 

 あの時の、ホーストに魔法を撃たれそうになった時に防いでくれたやつか。

 

「……一つ聞きたいんだが、あれどうやったんだ? 接続が切れていたとはいえ、フライデーのセキュリティシステムが残ってたはずだが」

「……ふふん」

 

 めぐみんは自分の眼帯を指でさしながら。

 

「私に渡した眼帯の人工知能は、フライデーをもとに作りましたね? 我が眼帯と類似したコードを見つけたので、そこから読み解いてシステムに誤認識させました……割と簡単でしたよ」

「まぁ、悪くない援護だった。だが次は僕の装置に勝手にアクセスなんてさせないからな?」

 

 目も合わせずそう言いのけると、めぐみんはあきれた顔をして。

 

「たまには素直に感謝してくださいよ……」

「そうだぞトニー。悪態をつきたいというなら、私についてくれ。そして、めぐみんには素直に接してやるんだ。教師たるもの、生徒が手柄を上げたら褒めてやるものだぞ?」

 

 ダクネスはそんな真面目なのかボケているのかわからない事を口走りながら、中身の入ったワイングラスをゆっくりと回してその壁面にワインを走らせ、香りを楽しみ、一口煽る。

 酒の楽しみ方をわかっているじゃないか。

 

 僕はそんな彼女に。

 

「アドバイスどうも。それじゃ、僕からもアドバイス。普通教師は生徒の前で自分の性癖を暴走させたりしないもんだ」

「ゴフッ!!」

 

 口に含んだワインを盛大に噴き出して、ダクネスがむせ返る。

 

「おい、汚いぞ。誰が掃除すると思っているんだ」

「き、貴様がいきなり変なことを言うからだろうが!!」

「あの……申し訳ないのですが、私はダクネス先生の性癖については知っていますから、大丈夫ですよ……理解はしてませんが」

「……!?」

 

 ダクネスがショックを受けた顔をしながら、渋々自分が吹きぼしたワインをふき取りはじめる。

 羞恥の基準が全く理解できない。

 

 そこそこの付き合いをしてきたが、おそらくこの先もこいつを理解できる日はこないだろう。

 

「でもまぁ……確かにダクネスの言う通りかもな」

「……?」

 

 僕は静かに笑いながらサングラスを外し、冷蔵庫からコーラを取り出すと、空のグラスに中身を注いでめぐみんに手渡した。

 

 コーラはめぐみんの大好物だ。なんでも、口の中で爆裂する感じがたまらないのだとか。

 最初に飲んだ時は、それはもう終始笑顔で浴びるように飲んでいた。

 

 数に限りがあるし、体にいいものでもないからあまり飲まないようにと念押ししてたが……。

 

「いいんですか?」

「君とももうすぐお別れだ、今度こそ本当にな。今のうちに飲んでおけ」

「それもそうですね。では、いただきます」

 

 僕はめぐみんの横に座り、グラスにお酒のおかわりを入れて口をつける。

 

「ぷはぁ! やっぱり、これは何度飲んでもいいものですね」

「今度アクセルの僕のラボにコーラサーバーを作っといてやるよ。レシピは不明だが、僕なら解析して突き止められるさ」

 

 それを聞いためぐみんは、不思議そうな顔をしながら。

 

「おや、てっきりアクセルについた後は『ここからは別々の人生だ』なんて、接触を断つものだと思っていましたよ」

「僕はそこまでドライな奴じゃない。なんだかんだで君は優秀なアシスタントだ。そのうちアクセルでまた君にお手つだいを頼むよ」

「……必要なのは、私の知識だけですか?」

 

 すこし子供っぽく不満げな視線をジトっと向けてくる。

 最後くらいちゃんと素直に誉めてやろう。親父と一緒になるのは避けたい。

 

「……クエストでも、君が必要になったらもちろん声をかけるさ、最強の戦術破壊兵器君。君を一番買っているのは他でもない、僕なんだぞ?」

 

 その一言に彼女はにっこり笑って、残りのコーラを一気に飲み干した。

 そして空のグラスを僕に寄越して。

 

「おかわりくださいっ!」

 

 

 

 

 

 

 ──そこから数時間が立って。

 

 ダクネスを交えて学校での授業の様子やら、昔の思い出やらと談笑しているうちに。

 

『ボス、アクセルに到着しました』

 

 僕らを乗せた車は、アクセルに着いていた。

 

「……おっと、少々名残惜しいが、退場の時間だ。涙を拭うハンカチの用意は大丈夫か?」

「話していたら早いものですね。さっきはああ言ってもらいましたが、やはりいざとなると若干寂しくなりますよ。しばらくは里で教師を続けるのでしょう?」

「まぁな。ついでに里の文明レベルを少し上げておくよ、次里帰りしたときはビルが建ってるかもな」

「あの……故郷の景観を気に入っているのでやめてくださいね? お願いですよ? フリじゃないですからね?」

 

 心配そうに釘を刺してくるめぐみんを『はいはい』と軽くあしらい、ドアを開けてやる。

 

「さぁ、駆け出しの街に到着だ。ダクネスもここで降りるか?」

「ああ。あそこで唖然としてる門番には、これがデストロイヤーの亜種ではないと伝えておかないとな」

「だな。槍で突かれたりでもしたらたまったもんじゃない」

 

 ダクネスはめぐみんより先に降り、門番の方へと歩きだす。

 が、途中でその足を止めて振り返り。

 

「そうだめぐみん。私はこの町に住んでいて、冒険者をやっている。必要になったらいつでも声をかけてくれ。クリスもつれてクエストにでも行こうじゃないか。盾には自信がある」

 

 頼もしそうに、自分の胸のプレートを叩いてみせた。

 そんな聖騎士らしい姿もつかの間。まっさらな紙にコーヒーがにじむかのように、その自慢げな顔に次第と情欲の色を濃くしてきながら。

 

「ふ、不利になったら捨てて逃げても構わないし、なんなら敵を私ごと爆裂魔法で吹き飛ばしてくれてもかまわにゃい……」

 

 めぐみんは頬を引きつらせながら、丁重にお断りする。

 

「あ、ありがとうございます……その、さすがにそういうことはしませんが……パーティーを組む時は一声かけますね……」

「うむ、楽しみにしている」

 

 ダクネスは再び踵を返し、街に警報を出そうかとあたふたしている門番の方へと早歩きで向かっていった。

 

 僕はそんな彼女を呆れ果てた目で見送り。

 

「元臨時教師から最後の教えだ。あいつとは組むな」

「いや……悪い人ではないと思うのです……」

「そうやって、悪い男に捕まった女も見てきた。君も気を付けろ」

「心配いりませんよ、私はまじめで、ちゃんとした人とパーティーを組むつもりですから」

 

 そう言ってフッと鼻で笑うと、無駄にカッコつけながら車を飛び降りて。

 

「それではスターク先生、我が禁断の力を欲する時が来たならば、いついかなるときでも──」

 

 

 

「トニーでいい」

 

「……へ?」

「僕はもう君の教師じゃない。僕は君の力を借りたいときにいつでも呼ぶし、その逆も別に構わない。要するに、仲間だってことだ。先生はつけなくていい」

 

 僕のその言葉を聞いためぐみんは、すこしだけ口角を上げると……。

 

「……ではトニー、また会いましょうね」

 

 そうクールに笑い、背中を向けて歩き出した。

 

 その背を見送り、僕も車のドアを閉めて進路を紅魔の里へと設定する。

 

「フライデー、なにか曲を流してくれ」

『了解ボス。ランダムで曲を選択……』

 

 ──ガガガ、ガガガ……

 

 AC/DCのHighway to Hellが車内に響き渡る。

 実に良い選曲だ。

 

車の窓から空を見上げる。

目が痛くなるほどの快晴。旅立ち日和ってヤツだ。

 

「………いい天気だ」

 

 ……僕は彼女の今後の活躍に期待と若干の心配を抱きながら、里へと向けて車を走らせた。

 

 

 

 

 

































「あああああああああ!!なんでよー!!いやあー!!いやよー!!こんなのってあんまりよおおおお!!!」
「だから悪かったって。いいからさっさと酒場に行こうぜ。酒場こそ情報収集の基本だ」
「……酒場……?お酒……あーっ!!!」

異世界にこんなうるさい女神こと、アクアを連れて転生した俺は、情報を集めるため、RPGの基本である酒場に向かおうとしたのだが……。

そんなアクアはというと、さっきまで泣きわめいたかと思うと突然泣き止み、なにかを思い出したかのように叫んだ。

俺はそんなアクアをにらんで。

「だーっ!!うるせぇな!!なんだよ急に!!」
「いいから私についてきなさい!!私、こういう時に頼りになりそうで、この街に住んでいる人を知っているの!!」

アクアはそういうと、俺の腕を思いっきり引っ張って走り始めた。

俺の名は佐藤和真。
引きこもり生活とはおさらばし、新しい異世界ライフをエンジョイしようと――
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