この素晴らしい世界に祝福を!アナザー・ユニバース・アイアンマン   作:Tony.Stank

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KONOSUB“A”SSEMBLE
第20話 ありえないほど《平凡》ありえないほど《陽気》


 大地を炎が波打ち、立ち上る煙は天にまで届いていた。

 ナパーム弾の集中爆撃でも受けたかのような有様になった紅魔の里を、無数の飛行物体が低空で飛び回り、次々と目につくものを破壊している。

 

 蝗害すら彷彿とさせるその光景──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──チタウリの軍勢が、紅魔の里を火の海へと変えていた。

 

 その群れへとめがけ、紅魔族の生徒たちが放った多数の魔法が撃ちこまれる。

 

 

「『ライトニング・ストライク』!」

「『インフェルノ』ッ!」

「『カースド・ライトニング』」

 

 紅魔族の魔力から放たれる、強力な対空砲火が展開するも、イナゴの群れにマシンガンを撃つかのように、まるで意味をなさない。

 

 焼け石に水だ。

 

 チタウリの軍勢が一斉に方向を変え、意思を持った雲のごとく動き、生徒たちに相対する。

 

「や、やば……!」

 

 飛行物体に乗ったチタウリたちが、生徒たちに武器を次々と向け……。

 

 致命的な威力の青い砲撃が、雨となって降り注──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──授業の終わりを知らせる鐘が教室に鳴り響く。

 

 周囲の風景が崩れていくブロックのように消えていき、その後ろから無機質な白い壁が顔をのぞかせる。

 

 悔し気な顔を浮かべる生徒たちに対して僕は腕を組みながら。

 

「なぁ、君たち今回の課題を理解しているのか? ねりまき、言ってみろ」

「……『絶対的に不利な状況で、どう被害を抑えて撤退できるか』……だった」

「そう、『だった』だ。君たちは撤退を余儀なくされる状況下で、周囲の仲間や市民を無視して正面から戦おうとして叩き潰されたんだぞ。こういう場合は、敵の注意を引くチームと、逃げ遅れた人を救出するチームに分かれて、全員逃がしてから自分たちも撤退するんだ」

「で、でも先生!! 紅魔族的には、もっと絶望的な状況になって初めて助けに行った方がカッコが……いえ、何でもないです。ごめんなさい……」

 

 ふにふらが手をそびえたたせて何か喚いていたが、僕が軽く睨むとすぐに引っ込めて謝罪した。

 

「各自反省して次回で巻き返せ。だが、VR授業は少し空いて、次の授業はビジネス学になる。職人として生きていく場合にどうやって自分の商品を高く売れるようにプレゼンするか、その方法をレクチャーしてやる。それじゃ解散」

「「「「はーい」」」」

 

 授業が終わってすぐ談笑を始める生徒たちを背に、僕は訓練用仮想現実教室から出て廊下を歩く。

 その会話の中には今回の授業の楽しさを振り返る声が多かった。

 

 最先端のVRシステムを授業に導入してみたのだが、評判も良くて何より。

 イケメンとの結婚生活を送る体験もできるのかなんて声も聞こえるが、聞かなかったことにしよう。

 

 僕は校門まで向かいながら今までのことを振り返る。

 

 あれからしばらくたった。

 僕は里で教師を。めぐみんはアクセルで冒険者を続けている。

 

 衛星を通じてたまに連絡を取っているが……彼女の()()はアクセル中に響き渡っているそうだ。

 あの町じゃもうダクネス以外、組んでくれる冒険者はあっという間にいなくなってしまったらしい。

 

 有用性を理解してもらえるよう、プレゼンのやり方でも教えてやるべきかもな。

 

「おっ、『光の橋を架ける起動騎士』スタークか。新しく取り入れたという授業の成果はどうだ? なんなら俺にも体験……あっ! 俺のコーヒーを返せ!!」

「ご馳走様ぷっちん。……こんな安物じゃなくて、もっといいものを飲めよ」

 

 すれ違いざまにぷっちんが持っているコーヒーをひったくり、一口すする。

 真っ白なコーヒーカップのふちを見て口をつけてないのは確認済みだ。

 

「ったく、お前ってやつは……破天荒にもほどがある! 紅魔族的に悪くはないが、迷惑ってもんを……」

 

 後ろから飛んでくる同僚の罵声を頭の中で消し去り、再び思慮にふけった。

 ラボにある新しいおもちゃについてだ。

 

 

 

「はっけよーい、のこったのこった!!」

 

 ぬるくなりつつあるコーヒーをすすりながらラボへと向かっていると、暇を持て余した里の住民たちが魔法で作ったゴーレムでジャパニーズ賭けSUMOU大会を平原でやっているのが見えた。

 

 参加したい衝動に駆られるものの、残念ながら僕は出場禁止にされてしまったので眺めるか賭けに参加するしかできない。

 ハルクバスターを修理したての頃、その肩慣らしに参加させて一方的にゴーレム達をぶちのめして賞金を総取りしたのが良くなかったようだ。

 

 賢すぎて友人ができないことと言い、どんな世界においても強すぎると孤独になる。

 実に世知辛いもんだ。

 

 賭けにでも参加したかったが、今はもっと大事な用事がある。

 

 

 

 ラボに着いた僕は空のコーヒーカップを捨てて、研究室に入る。

 

「あっ、主任」

「僕を主任って呼ぶな。何度言ったらわかるんだ」

「いや、ここ工場だし……なんというか、一番しっくりする気がしてね」

 

 僕を主任呼ばわりしてくるこの男……ぶっころりーは、つい最近までニート生活を謳歌していたのだが、とうとうブチ切れた親に家を叩き出され、食い扶持に困ったということでここに来た。

 

 ここは職業訓練学校じゃないと門前払いしたのだが、ドアの前で十二時間ほど土下座されて渋々雇うことに。

 

 時々さぼろうとするが、腐っても紅魔族なのでなんだかんだ役には立っている。

 

「ハァ……」

「どうしたんだい、主任。なんかあったの? あの……主任……目が……怖いんだけど……」

「いいや? ここで得た経験をもとに、ニートを更生させる財団でも立ち上げようかと思っただけさ」

「くっ……俺はニートじゃなく来るべき時に備えて力を蓄えてるだけなんだ……」

 

 タワーにいたアベンジャーズの面々のほとんどがニートって言いたいのだろうか。ウケる。

 

 ぶつぶつと言い訳を始めたぶっころりーを無視して作業台に置かれたとある武器の前に立つ。

 

 それは、()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()

 気になったので店主から僕が貰い、解体して中の組成を徹底的に調べていた。

 

 家に代々伝わる由緒正しい物干しざおとかなんとか言ってたが、僕が三十分で作ったLEDライトとかいろいろねじ込んだやたら変形してやたら光る棒を差し出したら泣いて喜んで交換してくれた。

 

 あんな廃棄物のオブジェみたいなものと交換してもよかったのかと今更になって思うが、まぁ別に良いだろう。

 

「その……えーっと、その物干し竿がそんなにすごいものなのか?」

 

 ぶっころりーが後ろから質問してくるが、僕は振り返らず、目の前の装置のスキャン結果と睨めっこしながら軽く答える。

 

「まさに宝の山だ。こいつで僕の悩みの種が吹っ飛ばせるかもしれない」

「おお……それはワクワクするね」

「初めておもちゃ屋に来た少年になった気分さ」

 

 僕がこの大型ライフルのどこに興味をそそられるか。

 それは、ライフル自体のエネルギー循環路の仕組みだ。

 

 調べて分かったことだったが、このライフルは弾丸ではなく魔力を圧縮して撃つ。

 魔力についてはよく知らないものの、その発射までのメカニズムはリパルサーに似通った点がいくつかあった。

 似通ってはいるものの、僕のスーツに比べればかなりお粗末なもので、ライフル自体が複数回の発射に耐えられないほどだ。

 はっきり言ってスペースシャトルとペットボトルロケット程違う。

 

 だが、重要なのはそこじゃない。

 スーツに搭載されたものと似たエネルギー循環路、そして材質は全てこの世界のもの。

 

 つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()になるってことだ。

 

 ワクワクするなって方がむずかしいね。

 

 ……なんて、心を躍らせている時。

 

『ボス、壁の修繕の予定が迫っていますが……』

 

 …………。

 

「……フライデー、君には空気を読む機能も付けておいたはずなんだが」

『申し訳ありません。ですが、これを予定したのはボスですよ』

 

 ……そうだったな。

 だが、とりあえず僕は研究を続けたいので。

 

「君が適当にラボの中に案内して勝手にやらせておけよ」

『工事するにはその建築物の所有者が建物内にいなければならないと定められています。研究を続けたい気持ちは分かりますが、とりあえずアクセルのラボに移るべきです』

「ハァ……。ったくしょうがないな。フライデー、ライフルの研究結果をアクセルのラボに送れ。パーツは元に戻して僕が運ぶ。ぶっころりー、聞いてたか? 僕はアクセルに向かうから、君はこっちで引き続き自分の仕事を続けとけ」

「了解主任」

「主任はやめろ」

 

 バラバラにしていたライフルのパーツを手早く組みなおし、Mk.45の背に括り付けてアクセルへと飛んだ。

 

 

 ▽

 

 

 今日は以前ダクネスが好奇心から起爆させた爆弾で空いた壁の穴を塞ぐため、この街の土方達が来る予定となっていた。

 ライフルに気を取られていてすっかり頭から抜けていた。

 

「……来たか」

 

 里のラボから送ったデータを見ながらコーヒーを飲んでいると、チャイムの音が鳴った。

 

 遠隔操作で地上部分の物置小屋を開けてやり、土方の人たちを地下のラボへと案内する。

 依頼者であるダクネスが事前にどういう場所かの説明を土方達にしてあるため、特にパニックは起こしていないはずだ。

 

『修繕を頼む部屋はこちらです。本日はよろしくお願いいたします』

 

 ドアが開き、フライデーに案内を受けた土方達がぞろぞろと入ってきた。

 若干戸惑ってはいたものの、穴が開いた壁の辺りに集まり、次々とセメントのようなものやレンガやらの補修材料を搬入していく。

 

 汗臭そうな連中だ。

 後は適当に任せておき、向こうの部屋でコーヒー片手に研究の続きといこう。

 むさくるしい男と工事の音に邪魔されたくはない。

 

 マグカップを片手に僕は遠くの研究室へと早歩きで急ぐ。

 

「おい、落ち着け新入り! そんなに興奮してどうした!!」

「離して! あそこの男に用があるのよ!! トニー! トニーってば!! 話が……」

「今回はあのダスティネス家の依頼だぞ!! もし無礼があったら俺たちまとめて首が飛びかねねぇんだ!! 頼むからおとなしく仕事してくれ!!」

「聞いたか今の! おい、お前ただでさえ問題児なんだから、今日くらい黙って仕事しろよ!! 後でから揚げと酒をおごってやるから!!」

「カズマまで何よ!! トニーが今抱えてる問題を解決するカギになるってのは前に話したでしょ!? あぁもう! 行っちゃったじゃない!!」

 

 後ろがひどく騒がしい。

 なんだかどこかで聞いたことがあるような声がした気がするが、今はとりあえず研究の続きがしたい。

 この世界の資材でも問題なく作れる新スーツを開発するチャンスなんだ、没頭させてほしい。

 

 

 

 ──それからどれくらいたっただろうか。

 

 飯を食うのも、何かを飲むのも忘れてあのライフルの研究を続けていた僕は、何かを叩く音でふと我に返った。

 ここは地下なので外が暗いかどうかで時間の判断ができないが、少なくとも数時間以上は没頭してたようだ。

 

 工事が終わったことを伝えに来たのだろうか。

 終わったら勝手に帰すようフライデーに頼んでおいたはずだったのだが……。

 

 それにしても異様な叩き方だ。

 呼び出すというよりは、トイレが近い奴が個室のドアを叩くような、そんな焦りが込められている叩き方。

 

 うるさいな。一体何だというのか。

 

 すっかり冷めきって不味くなったコーヒーを温めなおそうとしたついでに、音がするドアの方へと寄り……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トニぃー……」

 

 ガラスのドアにへばりついて泣きじゃくっている、とても見覚えのある青髪の女性の……

 

「…………アクア?」

 

 アクアの姿を見て、思わず手に持っていたマグカップを床に落とした。

 

 

 ▽

 

 

「ほら、コーヒーでも飲んでリラックスしろよ」

「……お酒が良い」

「さすがにわきまえろ」

「お前……用意してもらって何言ってるんだよ。あの、バカがすいません、俺は佐藤和真って言います」

 

 コーヒーを用意してきたおじさんに対してふざけた要求をしだしたアクアをしかりつけ、自己紹介をする。

 しかし一体、このおじさんは何者なんだろうか。

 

 分かっているのは、アクア曰く『真に選ばれた人間であり、私たちの力になってくれる……かもしれない』ということだけ。

 

 何より凄いのは、この建物だ。

 エレベーターで地下に潜ったかと思えば、ファンタジー皆無の現代世界が広がっていた。

 

 いや、現代どころか近未来だ。ホログラムだってあるんだもの。訳が分からない。

 

 しかしこのおじさん……実際見てみると……なんだろう、特別強そうには見えない。

 DJの格好をしたブルース・リーのTシャツという感性を疑う服を着ているが……顔がイケメンなのでなんとなく似合っている。

 

 イケメンは嫌いだが同年代ではないので、俺のイケメン敵対スイッチは辛うじて入らなかった。

 

「サトウカズマ……日本人チックな名前だな……ひょっとして転生者か?」

「! ……その通り……です。あの、知ってるんですか? えっと……トニー・スターク……さん?」

「できればMr.スタークと呼んでほしいが……まぁ、トニーでいい。空の上の神々が日本人で移民計画をしていることも、それが上手く行かなくって僕に泣きついてきたことも知ってるさ」

 

 どこか小馬鹿にしたような口調で、アクアにニヤッと笑ってコーヒーを啜るトニー。

 それを聞いたアクアはムッとした表情で。

 

「ねぇトニー、女神の神聖で絶対的なイメージを破壊するようなこと言うのはやめてよね。従者の私への信仰心が下がったらどうしてくれるのよ」

「従者って俺の事? お前何言ってんの? お前への神聖なイメージや信仰心なんてミジンコの目玉ほどもねーよ!!」

「はぁー? あんたねぇ、この世の最も美しい一個体である女神様を地上に堕ろしておいて何言ってんのよ!」

「その最も美しい一個体の女神様とやらが今まで何か一つでも役に立ったか? 毎日土方して、酒飲んで、馬小屋でイビキかいてるだけじゃねーか! いいか? 確かにお前を連れてきたのは俺だけどな、俺は生活が困らなくなる強い神器や能力の代わりにお前を連れてきたんだ!! その分の働きをお前はなにか一つでもやったのかよ!? おうコラ、言ってみろよ駄女神がぁ!!」

「わああああーっ!! そこまで言わなくてもいいでしょ!! なによ! ヒキニートの癖に!!」

 

 俺に言い負かされて机に突っ伏して泣き喚くアクア。

 うっぷんが晴れて少しスッキリとする。

 

 俺が勝ち誇った笑みを浮かべていると、正面から冷たい視線を感じてふと我に返った。

 

「楽しそうだな」

「あっ……」

「とりあえず、何でアクアがここにいるのか説明してくれ。そして君が何なのかもな」

 

 軽く呆れたような顔をしながら、また一口コーヒーを啜ってテーブルにマグカップを置く。

 

 俺はアクアの機嫌が直るまで、細かい事情の説明を始めた──

 

 

 

 

 

「──HAHAHAHA!!! 馬鹿にされてムカついたから女神を特典にして連れてきた? いやぁ、ウケたよ。実にぶっ飛んでるな」

 

 くっ……いざこうやって笑われると、俺はなんてことをやってしまったのだろうかと軽く自己嫌悪になる。

 

「……で、この世界に来た最初の日に、アクアにここまで連れてきてもらったんですけど……」

「いくらチャイム押しても出てこないし、私にはアクセス権限がないから中のエレベーターも使えなかったし……おかげでここ二週間くらいずっと土方の仕事をして日銭を稼いでいたのよ!? トニーってばどこ行ってたの? そもそもこの世界に送る前に約束した、このラボを用意したら楽をさせてやるって話はどこ行っちゃったの? 結構待ったんですけど……もうあのお酒も飲んじゃったわよ?」

「それについては悪いと思っている。実は紅魔の里でバカンスし……て……? なぁ、ちょっと待った。あんた今なんていった? 飲んだのか? あんな風にイイ感じに約束しといて?」

 

 今迄自分がどうしていたか説明しようとしていたトニーが動きを止めた。

 アクアはというと、片目をつぶってペロリと舌を出し、頭を片手でコツンと叩いて。

 

「ごめーんね!」

「……ハァ」

 

 さっきから呆れた顔ばかり見せてたトニーが、ここにきて一番の呆れ顔を見せた。

 約束のお酒とかよく解らないが、なんとなくアクアに非があるんだなとわかるくらい清々しい呆れ顔だった。

 

「……まぁ、君が大馬鹿だってのはあった時からわかってたからな、もういい。僕が天才でなくても予想できた答えの一つだったよ。ところでそこの……サトー君。君の目的は魔王討伐で元の世界に帰る事だったな?」

 

 すいません、異世界ライフに飽きたら日本に帰って金持ちになって美女に囲まれながらゲーム三昧なんてのもありかなぁなんて思ってます。

 

 俺がここに来た本来の目的は、ゲームの中のようなファンタジー世界を楽しみながら面白おかしく生きていくこと。

 正直いって、まともに魔王討伐なんて視野に入れていない。

 

 討伐できるチャンスがあったら討伐して、日本で退廃的な生活をしたいなぁって感じだ。

 

「……? カズマ? どうしたの? そんな思い悩んだ顔をして」

 

 アクアは魔王討伐に乗り気。トニーとパーティーを組もうとするだろう。

 そして俺は、この駄女神からは地雷臭しか感じてないし、トニーと組んだら楽になるとしても、魔王軍と真っ向からやりあいたくはない。

 だったら……。

 

「──!」

 

 その時、俺の頭で天才的な策が浮かぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──そうだ、アクアにはここで別れてもらい、トニーと一緒に行動してもらおう。

 

 アクアは天界に帰るために魔王を倒さなくてはならない。

 他の転生者と魔王を倒しても、きっとアクアは帰してもらえるだろう。

 

 なんだかんだ言いつつも俺だってアクアは心配だし、俺が特典として選んでこうなってしまったことへの負い目もないわけじゃない。

 

 だが、俺の元にいてもきっと帰れることはないだろう。ならいっそ、選ばれたとかいう強者のトニーのところに預けてしまえば……。

 

 うん。誰の心も痛まない、みんな幸せになれる!! 

 

 完璧だ、完璧な策だ。

 アクアはステータスだけは最上級クラスらしい。

 そこを上手く……。

 

 俺はそんな気持ちを気取られないように慎重に受け答えをする。

 

「俺のことはカズマで良いですよ。その名字の方は俺の国で一番多いので、そのうちどれがどれだか混乱するかもしれないっすから」

「そうか。それじゃカズマ、君達の話からするに、僕とパーティーを組んで一緒に魔王を倒したいってことでいいんだな?」

「そう……言いたいんですけど……」

 

 俺は申し訳なさそうにしながら。

 

「何よカズマ。さっきから様子が変よ? 拾い食いは駄目だってあんなに言ったじゃない」

「ちげーよアホ!! お前は上級職のアークプリーストだけど、俺は最弱職の冒険者だから肩身が狭いの!!」

 

 それを聞いたトニーは鼻で笑いながら。

 

「それを言うなら僕だって冒険者だけどな」

「「は!?」」

 

 意外過ぎる展開に俺はおろかアクアまで驚きの声をあげた。

 

「僕にクラスは関係ないんでね。それで?」

 

 突っ込みたい事、気になることがたくさんあるがとりあえず話を続ける。

 

「あ、えっと……アクアは上級職で俺は最弱職なので、パーティー組むんだとしたら俺は辞退しようかなって思ってて……」

 

 その言葉を聞いたアクアが血相を変えて俺に縋り付いてくる。

 

「あんた何言ってんのよ!? 私を地上に堕ろしておいて、今ここで捨てるっていうの!?」

「誤解を招くような言い方してんじゃねぇ!! これがお互いの為だって話だ!」

「酷いわよそんなの!! カズマがいなくなったら……あれ? カズマさんがいなくなったら、私はどう困るのかしら?」

 

 この女! 

 ほっぺを引っ張ってやりたい衝動に駆られるが、ぐっとこらえる。さっきからこらえてばかりだ。

 

 もう面倒なのでトニーにアクアの冒険者カードでも見せて納得させようと、アクアから冒険者カードを取り上げようとしていると。

 

「諸君、コントやるならどこか他所でやってくれないか? コインが欲しいならやるから……」

「「路上パフォーマンスじゃない!!」」

 

 呆れを通り越して疲れ気味になってきたトニー。

 洋画や海外ドラマで見たような動きで、顔を片手で覆ってため息をつく。

 

「……今日はもう遅いから帰れ。ああ、それと二人とも」

「は、はい……なんでしょう?」

「もしパーティーを探しているんだったら、明日アクセルのギルドに行って紅い瞳をした魔法使いの娘っ子と、金髪碧眼の女騎士、銀髪の盗賊娘を探してみろ、僕のパーティーメンバーだ。と言っても、ちょくちょく臨時で組むだけだが。僕の名前を言ったら力になってくれるはずだ。名前は……あー……、めぐみんとダクネス、そしてクリスだ」

「……めぐみん?」

「名前については気にするな。そういう種族なんだ、名前を馬鹿にするなよ? 噛みつかれるぞ」

 

 確かにパーティーメンバーを探そうとは思っていたけど……良いんだろうか。

 トニーのパーティーメンバーだっていうならきっと強いんだろうな。しかも臨時なら気も楽でいい。

 

 話からするにみんな女性かぁ……美人だったら嬉し……いや、童貞の元ひきこもりには心臓がきついな。

 

「カズマさーん、鼻の下が伸びてますよー?」

「さ、かえって早く寝ようかアクア。明日から冒険にでるぞ!!」

 

 武器を買って、美人で強いパーティーメンバーでチュートリアルをこなす。

 

 やばい、ゲームっぽくてなんかすごく燃えてきた。

 なんで異世界まで来て肉体労働なんてやってるんだろうと思ってたが、ここにきてようやく冒険っぽいことが……。

 

 あれ……? なんか本来の目的がどこかへ行ってしまっているような……。

 まぁ、いいか。とにかく明日が楽しみだ。

 

 アクアがものすごく不満げな顔で俺を睨みつけてくる。

 

「ねぇ、カズマ。あとで話をしましょう? 私の魅力についてたっぷりと教えてあげるから」

「はいはい」

「ほ、本当に私を捨てる気じゃないでしょうね!?」

「…………そんなことないよ」

「!?」

 

 とりあえずアクアとトニーの件は後回しにするとして、俺は心を躍らせながら帰路へと着いた。

 

 

 ▽

 

 

 ラボにすさまじい怒号が轟く。

 

「おらあああああああ!! トニー!! 何処だこの野郎!! テメーだましやがったな!?」

 

 ヌチャヌチャと粘着質な足音を立てながら、僕がいる部屋までその怒号の主が近づいてきていた。

 ドアを開け、僕を視認するや否やその怒りをさらに苛烈にさせて歩きよってくる。

 

「見つけたぞ……昨日はよくもやってくれたなあああ!!」

 

 何かの粘液で体をテカらせているカズマが、今にも掴みかからん勢いで怒鳴り散らす。

 

 うるさいしめんどくさい。

 ここはこの手でいこう。

 

 僕はカズマの正面に向き合いながら。

 

「えー……こちらはトニー・スタークの身代わりアンドロイド。メッセージをどう……ぅぐっ」

「ふざけんのも大概にしろボケ! こちとら死にかけてたんだぞ!!」

「おい、やめろつかみかかるな。その汚らしい粘液が付くだろ」

「誰のせいでこうなったと思ってるんだよ!!」

 

 どうやらこの小僧は怒りで前が見えなくなっているようだ。

 まぁ、こうなっていることに多少の見当はついているのだが。

 

 その僕の推測を裏付けるかのように、同じくヌチャヌチャになって泣き叫ぶアクア、めぐみんを背負い、頬を上気させたダクネスが続いて入ってきた。

 

「お久しぶりです……トニー。あの……シャワー室借りてもいいですか?」

 

 ダクネスに背負われためぐみんが、粘液がでろでろと垂れてくる帽子のツバの奥から顔をのぞかせてそう言った。

 

 汚い。

 

「とりあえず全員まとめてシャワー浴びて来い。おいダミー、床掃除しとけよ。なんのためにお前を海から引っ張り上げて修理してやったと思ってるんだ」

 

 僕の言葉に反応したダミーがキュイキュイと音を立てながら、モップをアームで挟んでぎこちなく床を磨き始める。

 

「話は終わってないからな……」

「話をする前にシャワー浴びて落ち着けよ。ほらあっちだ、フライデー、案内してやれ」

『了解、ボス。カズマ様、向かって右側の扉を……』

 

 恨めし気に睨みながら、カズマがシャワー室へと向かっていった。

 

 パーティーメンバーができないめぐみん達に良いチャンスだと思ったのだが……あまりうまくはいかなかったようだ。

 

 

 

 

「──お前のパーティーメンバーは一体何なんだよ? まずこのロリっ子、めぐみん。魔法の戦闘民族だっていうから期待してみりゃ、バカげた威力の魔法を一日一発しか撃てないポンコツと来た!! 次にダクネス! こいつも上級職だって聞いてみれば、剣は当たらないしオマケに丸飲みにされたいとか興奮しながら話し出すド変態!! なんのつもりでこんな奴ら紹介したんだよ!!」

 

 清潔感のあるラボの中で、頭を掻きむしりながら右往左往して僕に唾を飛ばして怒鳴るカズマ。

 シャワー程度じゃ落ち着かなかったか。

 

「黙って聞いていればなんですか!! 我が必殺魔法のどこがそんなに気に食わないんですか!! ターゲットは全て一撃で倒したでしょう!!!」

「その一撃で周囲のカエルを複数呼び寄せたんじゃねぇか!! 地面で寝てたやつまで起こしやがって!!」

「私だって、剣が当たらないなりに敵を引き付けてたのだが……」

「ああ! ひきつけただけだな!! 関係ないのまで巻き込んで!! おかげで大惨事だよ!!」

 

 よくもまぁこんなに怒りと喉が持つもんだ。

 二人のコントから四人コントに増えて一層にぎやかになったラボで、僕はあくびをしながら寸劇を楽しむ。

 

「アクアだって真っ先にカエルの胃袋に飛び込むし!! お前らが役に立ったことと言えば、カエルに食われて動きを封じただけじゃねぇかよ!!」

「飛び込んだ訳じゃないわよ!! ただ、パンチが効かなかっただけで……あれは女神を倒すために作られた魔王軍の兵器ね」

「ハァ……」

 

 そこまで怒鳴って疲れたのか、カズマはがっくりとうなだれた。

 

「クリスってやつはギルドにいなかったけど……この分だとどうせソイツも何かがおかしんだろ……?」

 

 いないところで勝手におかしい奴扱いされるクリス。

 幸運の女神であるはずの彼女はどうも不幸体質だ。

 

 カズマはうなだれた状態で、ぼそぼそとしゃべり始める。

 

「なぁ、トニー……マジでどうしてこいつらと俺を組ませたんだよ……」

 

 理由ならちゃんとある。

 

「君のアクアに対する様子を見て、人を制御してうまく扱う才能があると思ったからだ。だからあの二人と組ませた。相性いいんじゃないかと思ってな」

 

 その言葉に、カズマは顔を上げて、僕の方を見据えながら。

 

「お前、この惨状を見て相性いいとかマジで言ってんのか……?」

「ああ、マジで言ってる。というか、もうマトモに彼女たちと組める奴がいない。よろしく頼む」

「なめてんのか」

 

 睨みつけてくるカズマから視線を外し、めぐみんにウィンクで目配せしてから顎でカズマを指す。

 今ので僕の意図が伝わればいいのだが。

 

「……ですがカズマ、指揮は完璧でしたよ。私の魔法がどんな威力なのかキチンと耳を傾け、効果を最大限発揮できるように位置取りを考えていたではないですか」

 

 流石はめぐみんだ。僕の意図を一瞬で察してくれた。

 めぐみんのその言葉でダクネスも察したのか。

 

「ああ、めぐみんがカエルの群れを一網打尽にできたのは私を上手く前衛として扱ってくれたからだろうな。逃げる際も手際よく指揮をしてくれたおかげで、ギルドまで逃げ切れたではないか」

 

 それを聞いたカズマは、ちょっと満更でもなさそうに顔を上げて、ムニムニと口元を動かしている。

 流れ的に、自然とアクアの方へとみんなの視線が集まり……。

 

「……まぁ、私の支援魔法あってこそのものもがっ」

「おい、上手く行きそうなのにどうして君は余計なことを言うんだ。すこし静かにしてろ」

 

 アクアの口をふさぎカズマの方へ向き直る。

 

「なんとなく君も察しているかもしれないが、彼女たちはみんな何か一つのことにすさまじく尖っている。扱い次第では強烈なパーティーになりうるだろう。それになにより、普通じゃないパーティーで名を上げる方が面白みがあると思わないか?」

「俺は別に面白みなんて……」

「そういうな。せっかく君が手腕を発揮して可能性を見出したんだ。僕も協力してやるから、ひとまず彼女達でパーティーを組んでみるってのはどうだ? なぁ? 君達もカズマが良いだろ?」

 

 僕がそう聞くと、三人娘はフッと笑って。

 

「ええ、爆裂魔法で作戦を立ててくれたのはカズマが初めてです。きっとうまくやっていけると思いますよ!」

「初めてパーティーを組んであそこまで正確に指示を飛ばせたのだ、異論はない。カズマはこのパーティーに最も適してると言えるだろう」

「ふふん、安心なさいなカズマ! この私がいるからにはなんだって上手く行くわよ!!」

 

 次々とサムズアップしてカズマをおだて……褒めたたえる彼女達。

 カズマはというと、少し照れくさそうに頭の後ろをポリポリと掻きながら。

 

「……し、しょうがねぇなぁ……まぁ、色々俺も作戦は多少考えてるし……その、パーティー組むとすっか」

 

 アクアもめぐみんもダクネスも。

 その言葉にお互いに笑顔を見合わせて、拳を握った。

 

 これにてめぐみんのパーティー問題も解決。

 いきなり地上に堕りたアクア(飲み仲間君)の生活先の問題もクリア。

 

 僕も新スーツ製造に着手したかったのでこれで丸く収まったといえるだろう。

 

「それじゃ、ここは僕のおごりで飲みにでも行くか? 新パーティー結成を祝うとしよう」

「賛成―!」

 

 アクアが両腕を上に勢いよくあげ、上機嫌にギルドの酒場へと向かおうとしたその時。

 電話を知らせる電子音が、ラボに響いた。

 

『もしもーし、トニー聞こえる? ちょっと話があって……』

 

 ……クリスの声だ。

 突然の電話に、宴ムードだったみんなが固まる。

 

「どうかしたのか?」

 

 きっと、電話越しだから僕しかいないと踏んでいたのだろう。

 クリスはサラッと、爆弾を投下してきた。

 

『あのね、今度また貴族の屋敷に潜入しようと思ってるんだけど……』

 

 そこまで言ったところで、僕は端末を取り出して急いで通話を切った。

 ……遅かったか……。

 

 後ろを振り向くと、気まずそうにしてるものが二名。

 そして、とんでもないものを聞いてしまったと目を見開いてるのが二名。

 

 

 

 ……さて、どう説明しようか。




このタイトルだけはなぜか半年くらい前から考えていました。
実現できてよかった……。

これもひとえに今まで感想、お気に入り登録、評価、誤字修正と様々な形で応援してくださった皆様のおかげです。
これからもよろしくお願いします。
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