この素晴らしい世界に祝福を!アナザー・ユニバース・アイアンマン   作:Tony.Stank

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第21話 理由と鏡

「や、屋敷に侵入……?」

 

 カズマが不安げに、どういう意味だと僕に目を向けてくる。

 

 クリスめ……やってくれたな。

 

「えっと、なんだか色々大変なようね、私はあっちでお酒でも飲んでるから。フライデー、バーの場所教えてくれない?」

『こちらです』

 

 厄介ごとを察知したのか、逃げるようにしてその場を去るアクア。

 あの女……! 

 

「あー……、誰にも言わないって約束してくれ。それと、アクアはついポロっといいそうだから、後でフォローしといてくれ」

「それはいいけどさ……あんたは一体何してるんだ? 正直俺もアクアに続いて逃げたい気持ちなんだけど」

 

 めぐみんとダクネスの方に目配せすると、二人は静かにうなずいた。

 

 パーティーメンバーなんだ、秘密はできる限り無しにした方が良いだろう。

 

「クリスって盗賊娘は、敬虔な女神の信者でね。お告げを受けてこの世の神器を集めてまわっている。君も知ってるだろ? 強力な神器や能力を持って何処からともなくやってくる強者、日本人を」

 

 めぐみんとダクネスがいるので、表現の仕方には気を使いながら説明を始める。

 カズマもわかってくれているようだ、特に聞き返してくることもなく、ただ黙って聞いている。

 

「その日本人が死ぬと、神器は消えるわけじゃなくて残るんだ。もしそれが悪い連中の手に渡ったら? 残った神器は使用者以外、効果を最大限発揮できないが、それが危険物であることに変わりはない。そして、こういう物に限って大体悪い奴が手に入れるものなんだ。漫画とかでもそうだろ? だから、悪い奴が手に入れる前に、もしくはすでに手の中にある神器を、クリスは回収してるんだ。…………たとえそれが貴族の屋敷に侵入するっていう犯罪行為になるとしてもな」

「…………」

 

 カズマは複雑そうな顔をしながら。

 

「それはすごい事だと思うけどさ……何でそんなクリスが連絡を? 秘密を知っているだけ? 言っとくけど、俺が許容できるのは見て見ぬふりをするって事だけだ。犯罪の片棒を担ぐなんて絶対ごめんだからな」

「実に正しい一般人の判断だ。僕は……いや、僕らは一度、貴族の屋敷に侵入したクリスを捕まえている。そこで彼女から事情を聞き、その気持ちを汲んで逃がした……それだけだ。彼女が連絡を入れてきた理由は知らない。途中で切ったからな」

 

 まぁ、その理由については、もうある程度予測がついているが。

 

 カズマはというと、少し悩むような仕草を見せ、ため息交じりに口を開いた。

 

「うん……その、大体わかった。トニーのパーティーのクリスって子が義賊みたいなことをやってるんだろ? それは別にいいよ、関わらなきゃいいんだからな。その子に実際に会ったとしても俺はそのことに一切触れずに接する。というか、この話自体聞かなかったことにする。それじゃ俺、ちょっとアクアの誤解を解いてくるから」

 

 そう言って、逃げるようにして部屋を出て行った。

 カズマが出ていき、自動で閉まったドアを見つめていためぐみんが、不安げなため息をついて。

 

「これでやっぱりパーティーから抜けたいって言わなければ良いのですが……あの、トニー、確かにカズマは優秀でしたが、どうしてこのパーティーに編入させようと思ったのですか?」

「トニーがあの二人に私たちを勧めたのだろう?」

 

 カズマと組むことに不満は無いようだが、その理由を聞いてくるめぐみんとダクネス。

 

「……カズマは警戒心が高く、臆病の気がある一般人気質だってのは……最初にあって話をした時点でわかってた」

 

 魔王討伐の話をした時、カズマが拒否の反応を見せたのを僕は見逃さなかった。

 気取られないように努力はしていたようだが。

 

「アクアとは面識があってね。彼女の厄介な面は僕も知っている。能天気すぎる事や、調子に乗ってやらかすところとかな。そんなトラブルメーカーな彼女を、カズマは僕に預けようとした」

 

 それと彼を選んだ事にどう関係があるのか。

 

「だが、それは別に悪い事じゃない。臆病も言い換えれば危険を回避する力でもあるってことだからだ。それに、アクアを完全に捨てようとはしてなかったからな。僕という預けても大丈夫そうな人間を見つけたから預けようとしただけだろう。紅魔の里にいて忘れかけていたが、この世界は思った以上に過酷だ。トラブルの元を抱えて生きていけるほど甘くはない。普通の人間なら、自分の害になる人間とは縁を切ろうとする。だが、カズマはそうはしなかった」

 

 臆病で、警戒心が高く、でも非情な選択はできない。

 そんな彼に見出した答え。

 

「彼には面倒見の良さがあり、かつ臆病な性格から来る生存に特化した動きができる……僕はそう推測したんだ。結果は君たちの評価通り。彼の指揮は悪くなかったんだろ?」

 

 カズマが出て行ったドアを一度見た後、肩をすくめてヘラっと笑う。

 めぐみんは訝し気な視線を僕に向けながら。

 

「……人を見る目があるようですが……それにしても、ずいぶん肩を持ちますね」

「ああ──」

 

 

 僕はドアから目線をそらさず。

 

 

「──すぐそこにいるからな」

 

 

「ッ……」

 

 ドアのすぐ向こうでカタッと小さく音が鳴る。

 

「自分がどうみられているのか探るために盗み聞きするのは結構だが……もっと足元を確認しとけ、影ができてるぞ。褒められて警戒心が緩んだのか?」

 

 その言葉に観念したかのように壁から身を出し、ドアを通って戻ってくるカズマ。

 実に嫌そうな顔をしながら、悪態をついてきた。

 

「なんとなく察してたけど、嫌味な奴だな。俺が嫌いなタイプだわ」

「おいおい、これでも本音で語ったんだぞ。君には問題児達を束ねる才能がある。影で聞いてる君が不機嫌にならないよう、多少盛り上げて話したけどな」

「今なりそうなんだけど」

「えっ……あの、さっき()って言いましたよね。それって……」

「私は含まれていないだろう? なぁトニー、こっちを向いてくれないか?」

 

 二人が口々に何かを言ってくるが、カズマとの会話に集中してる僕の耳に入ることは無かった。

 カズマはめぐみんとダクネスをちらりと見た後、腕を組み、不機嫌そうに僕を見て。

 

「……結局どういう意図なんだ? トニーの考えがよく解らない。逆にこの二人を俺に押し付けたかったって訳じゃないよな?」

「「ちょっ!」」

 

 誤魔化したってしょうがないか。

 

「違うと言えば嘘になる。正確に言えば、めぐみんとダクネスを活かすことができる奴が欲しかったんだ。こんなんだが、二人は僕の仲間でもある。……が、僕は僕でやらなきゃいけないこともあるんだ。これでも世界を平和にする為に色々奔走してるし、紅魔の里で教師もやってる」

 

 僕の軽薄な態度が気に食わないのか、カズマの眉間のしわは一向にほぐれないが、構わず話を続ける。

 

「要するに、ずっと付きっきりで僕も組んでは居られないってことだ。だから、その間二人を導ける奴が必要だったんだよ」

「……まぁ、納得した。俺もやるって引き受けちまったしな……まぁ、俺が後悔するかしないかは、今後のトニーのサポート次第ってところかな?」

「そう来なくっちゃ。あー……、君が望んでないパーティーだったかもしれないが、でも……」

「わかったわかった。でもちょっと今後について考えたいから、アクアの方に行ってきてもいいか?」

「ああ、それならご自由に」

 

 ドアの外を手で指してやり、カズマを送る。

 今度はきちんとその背を見送った後、僕はモニターに向き直って電話をかけなおす。

 

「クリス、聞こえてるか?」

『うん。さっきはどうしたの?』

「後で説明する。それより、さっき伝えたかったことはなんだ?」

 

『その……実はトニーにお願いしたいことが──』

 

 

 

 ▽

 

 

 

「トニーっていったいなんなの? どう見ても日本人じゃないし、こんなファンタジーぶち壊しの地下施設なんかに住んでるし。アクアは色々しってるんだろ? 元はどういう人間だったんだよ?」

 

 スパイ映画に出てきそうなバーで、背の高いカウンター・チェアに座りながらアクアに尋ねる。

 なんでこんなものまであるんだろうか。

 

 まさかこれが選んだ特典? 

 あれこれ考えるものの、アクアに聞いた方が手っ取り早いだろう。

 

 ……が。

 

「……アクア?」

 

 尋ねているというのに、そのアクアはというとバーカウンターで忠実な執事みたいに立っていた。

 静かに目をつむり、手に布を持っている。

 

「おい、聞いてんのか! そんなとこで銅像みたいに立ってなにやってんだよお前は!!」

「……私のことは、マスターとお呼びください。ご注文をどうぞ、お客様」

 

 こいつふざけてんのか。

 

 ……カクテルなんて詳しくないんですけど。

 俺はなんとなくテレビで見て覚えてるカクテルを適当に頼む。

 

「えー……っと、ダイキリを」

「かしこまりましたわ」

 

 フンスと力強く鼻から息を飛ばし、ウキウキと慣れた手つきで酒やらカクテルシェーカーやらを手に取って、流れるようにカクテルを作る。

 

 シャカシャカと踊るようにシェーカーを振り、カクテルグラスに注ぎ。

 最後に、グラスのフチにいつの間にか用意してた、薄くスライスしたライムをそっと添えた。

 

 こいつ無駄に器用だな。

 

「お待たせしました。ダイキリになります」

 

 テーブルの上に置かれたのは、透き通る透明なカクテル。

 

 酒の味はよくわからないが、ああも綺麗に用意されると美味しそうに見えるし、テンションも上がるってものだ。

 俺は少し気取ってそれを口に付け……。

 

「……水なんだけど」

「あらあら、失礼しましたわお客様」

 

 アクアはそう言ってペコリと頭を下げると、テーブルの上のグラスを下げ、再び注文を聞く姿勢に……。

 

「いや、いいから早くトニーについて教えてくれよ。どういうやつなんだよ」

「えー……もうちょっとマスターごっこやりたいんですけど」

「また今度な」

 

 しょうがないわねぇと肩をすくめると、アクアは、水が入っている先ほど下げたカクテルグラスを取り出して、カウンターテーブルの上にぶちまけた。

 

「……何やってんの?」

「まぁ見てなさいな」

 

 広がる水に指を突っ込み、早送りみたいな速度で水で絵を描いていく。

 

「一体何がしたいん……、ってうおっ! なにこれすげぇ!?」

 

 俺の視線はテーブルの上にくぎ付けになった。

 あっという間に、サングラスをかけて両手を広げたスーツ姿のトニーの絵をテーブルの上で描き上げたからだ。

 

「むかーしむかし、トニーは武器商人をやっていたの」

「ほーん。……えっ?」

 

 武器商人? 物騒だな。

 悪いイメージしかわかないんだが。

 

 アクアは書いた絵を手で拭って消す。

 

「天才的頭脳であらゆる画期的な発明をし、それはそれはもう、儲けたわ。五本の指に入るほど上位のお金持ちになるくらいね」

 

 再びテーブルの上の水たまりに指を入れ、ちょちょいと新しい絵を描き始めた。

 美女をすし詰めにしたスーパーカーに乗ってニヤついてるトニーの絵だ。

 

 うわ、すっげぇセレブ顔。まさに絵にかいたようなヤな金持ちだ。

 

 背景にはドル札が舞っている。

 なんでこんな細かいとこまで書くんだよ。いや凄いけどさ。

 

「そんなトニーを、突如として悲劇が襲うわ」

 

 叩き潰すようにして絵を手のひらでピシャンと潰し、振り降ろした手をゆっくりと上げると……。

 その下には、全身ズタボロになって銃を突きつけられているトニーが描かれていた。

 

 ……!?!?!? 

 

「ちょっ、お前今のどうやった!?」

「なによ、話してる途中なんだから静かにしなさいな」

 

 じゃぁいちいち謎の神業を披露するのをやめろと言いたい。

 

「……で、なんでこんなことに?」

「テロ組織に武器を横流ししてる、トニーの会社の副社長が、そのテロ組織に暗殺を依頼してたのよ」

「……ドロドロだな」

 

 でも恨みを買いそうなのは分かる。

 天才で、大金持ちで、そしてイケメンでモテモテ。俺の嫌いなものの欲張りセットだ。

 

 ちょっと納得していると、まるで紙芝居を切り替えるかのように、アクアは絵を手で拭うように消しては、新たに絵を描き始めた。

 

「こうしてトニーは、拉致されて武器を作れと脅された挙句洞窟の奥に幽閉されてしまったわ。でも……」

 

 最後に、鉄の仮面のようなものを大型鋏でつかんでいるトニーを描いたかと思うと、タオルでサッとふき取ってしまった。

 これで終わりのようだ。

 

「えっと……つまりどういうこと? 元大金持ちの武器商人で、テロリストに捕まって……? 今の絵は?」

 

 俺の質問に、アクアは真顔のまま答えた。

 

「洞窟の中でガラクタからパワードスーツを作って脱出したわ」

「……なんて?」

「パワードスーツを作って脱出したわ」

「パワードスーツって……あの? SF映画とかに出てくるような? ウィーンガシャン?」

 

 俺がカウンターチェアに座ったまま、上半身だけでロボットダンスをしてパワードスーツを表現すると、アクアは対抗するようにプロ顔負けの超完成度でロボットダンスをしながら。

 

「ええその……ウィーンガシャンよ」

「マジか……」

 

 一体どこの映画だよ。

 

「話はこれで終わりじゃないわ。実はトニーを襲ったテロリストたちはみんなトニーが作った武器を使っていたの。それを目の当たりにしたトニーは、命辛々会社に戻った後、心を入れ替えて武器の開発と製造から手を引いたわ」

 

 そして。と、アクアは付け加えて、仰々しく手を広げると。

 

「武器で人を苦しめる悪を倒すため、トニーはパワードスーツを改良し、それを身に纏って戦うヒーロー、アイアンマンになったのでした!」

「…………マ、マジかぁ……」

 

 本当に映画の世界の話だ。

 ……ん? というか、そんな凄いことがあったなら、俺だって知っているはずでは? 

 

 俺が不思議に感じていると、アクアがサラッと。

 

「その後もヒーローを続けていたんだけど、ある日とある巨悪との戦いで命を落としちゃってね。でも、あらゆる異世界の亡くなった英雄たちを、助けを必要としてる別の異世界に送るという私たち神々の計画の元、トニーは蘇ってこの世界に来たってワケ」

「ツッコミどころが多すぎる」

 

 じゃぁなにか? トニーは、俺が住んでいる世界とはまた別の世界から送られてきた、元ヒーロー? 

 

「頭が痛くなってきた……ある意味一番の問題児じゃねぇか……」

「そりゃどうも。サインが欲しいならいつで」

「うおあああああ!!」

 

 横からヌッと現れたトニーに腰を抜かし、思わず椅子から落ちそうになる。

 トニーはそんな事気にも留めず、アクアにヘラっと笑いかけて。

 

「そこのバーテン、スコッチを頼む。喉がカラカラだ。めぐみん達とお話ししててね」

「かしこま……あっ」

 

 トニーの注文を受けたアクアが、棚から酒瓶を取り出すが、その瓶はどう見ても空で。

 

「……おい、それ飲んだのか? 秘蔵の一本だぞ。年に数本しか出回らないレベルの……。なんなら異世界に来たんだから、一本しかない貴重な……」

「どーりでおいしくて止まらなかったワケね……」

 

 みるみる顔を青ざめさせていくアクアを、嘘だろといった顔でポカンと見つめるトニー。

 ここだけ見たらそんな大層な人間には見えないのだが……。

 

 俺はこの際だし、はっきりとトニーと話すことにした。

 

「トニー、アクアから聞いたよ。その、元の世界じゃ凄いヒーローだったんだってな」

「時々ね。普段は問題児さ」

 

 この野郎。さっき俺が盗み聞きしてた時は嫌味を言ってきたクセに。

 今度は自分が盗み聞きした挙句皮肉まで言うのか。

 

「……聞くまでもないと思うけど、お前友達いないだろ」

「やるなぁ、ご名答」

「そこは悔しがるなりしないと駄目だと思うぞ、人として」

 

 嫌味返しにも鼻で笑ってケロッとしてるトニー。

 

「お客様。こちら、私からのサービスです」

 

 まだマスターごっこを楽しんでいるのか、アクアがさりげなく酒が入ったグラスをテーブルの上に滑らせ、それをトニーがキャッチして一口飲み。

 

「……で? さっき言ってた今後についての考えはまとまったか?」

 

 そうだ、途中で話の腰を折られたから聞けずじまいだったな。

 

「トニー、はっきり言うけど……」

「わかってるさ。君に魔王倒すの手伝えなんて言うつもりはない。ただ、彼女達のパーティーリーダーを務めてほしいだけだ。困ったことがあったら手伝ってやる。さっき話したのはそういう約束だ」

 

 アクアがボソッと『天界に帰れないと困るんですけど』と言っていたが、聞かないふりをすることにした。

 

「……ああ、それならいいんだ。いいんだけど……一つだけ聞いていいか?」

 

 俺は興味本位からの質問をする。

 

「トニーはなんでヒーローを? 俺の世界には、ヒーローなんていなかったんだよ。単純に興味がある」

「…………」

 

 さっきまでの飄々とした雰囲気はどこへやら。

 トニーは手に持ってたお酒を一気に飲み干して、静かに語り始めた。

 

「……捕らえられた洞窟の中で一人、友人が出来た。でも、生きて出たのは僕だけ……。僕の命の恩人で、僕なんかよりよっぽど気高い人間だった。『その命を無駄にするな』と最期に遺して……僕の目の前で息絶えた」

 

 あ、あれ? 

 

「そんな彼の最期の姿で、言葉で……僕は何をすべきかを理解したんだ。それが間違っていると思ったことは一度もない」

 

 なにこれヤバい。思った以上にガチだこれ。

 てっきり、『HA! イカしてるだろ?』みたいに軽めに来ると思ったのに! 

 

「努力はしているつもりだ。朝になって、洗面台の鏡に映る自分の顔を、真正面から見つめられるようにね。最近ポカしたが」

 

 トニーはそこまで言うと、また含み笑いを浮かべて。

 

「以上、スーパーヒーロー、トニー・スタークの華麗なる人生。アクア、この水美味かったよ、また作ってくれ。じゃぁな」

 

 空になったグラスをアクアに返し、どこか別の部屋へと消えていった。

 

「お前、勝手に他人の飲み物浄化するのはもうやめろよ……」

「しょ、しょうがないでしょ!? そういう体質なんだし……」

「ハァ……」

 

 深いため息を一つ吐き、トニーが去っていった方を少し眺める。

 俺が嫌いな要素をこれでもかと詰め込んだトニーだが……どれだけ嫌な奴でも、事情や悩みを知れば多少見る目が変わるってもんだ。

 

「ヒーローかぁ……」

 

 幼いころに誰もが憧れ、現実には存在しないと大人になったら誰もが知る。

 それがヒーロー。俺だってそうだった。

 

 俺ぐらいの歳でヒーローになりたいなんて奴がいたら、指を差されて笑われるのがオチだ。

 

 だからこそ、トニーという例外に……どうも複雑な感情を抱いていた。

 

「どうしたのカズマ。真面目な顔は似合わないわよ? おいしいカクテル作ったげよっか?」

「どうせ水になるだろ。いらない」

 

 ……そういや、さっきの屋敷に侵入するって話の誤解を解かなきゃならないんだったな。

 いや……どうせアクアの事だ、頭からもう抜けてるだろう。

 

 俺は下手に誤解を解こうと危険なワードに触れ続けるよりも、こいつの頭の出来を信じてあえて放っておくことにした。

 

 と、その時。

 

 チャイムの音が建物に響いた。

 

 

 ▽

 

 

「紹介しよう、さっき話していた盗賊娘のクリスだ」

 

 ラウンジに全員集まったかと思うと、トニーが初めて見る顔を連れて紹介してきた。

 トニーの横には、サバサバしてそうな明るい雰囲気の銀髪の美少女が居た。

 

 盗賊娘と言ってたあたり、身軽そうな装備をしている。

 

「はーい、あたしはクリス。盗賊職をしてるよ。レギュラーメンバーじゃないけど、臨時でちょくちょくパーティーに入るから、これからもよろしくね!」

 

 そう言って、ニコッと笑いながら手を振ってくるクリス。

 

「俺の名はカズマって言います。どうぞよろしくおねがいしやっす」

「私はアクア! 女神アクアよ!! 困ったことがあったら言ってちょうだいな!!」

「は、はい……」

 

 俺には軽く挨拶してきたものの、なぜかアクアには緊張気味だ。

 ……いや、普通女神なんていきなり名乗ったら引くわな。

 

 俺はアクアを肘でついて。

 

「いきなりごめん、こいつはちょっと……女神を自称しているかわいそうな子なんだ。そっとしておいてあげて下さい」

「なによ! 本当の事なんだから」

「い、いいのいいの! 気にしないから!! それより、カズマくんだよね? あたしには敬語使わなくていいよ」

 

 かなりフレンドリーな子だ。

 この子が本当に義賊なんてやっているのだろうか。

 

 なんて、訝しんでいると、めぐみんが俺の袖をクイクイと引っ張ってきた。

 

「カズマカズマ、確かカズマは初期職業の冒険者でしたよね。この際ですし、スキルを教わるというのはどうです?」

「っていわれても。どうやるんだ?」

「誰かがスキルを使っているところ見て、使用方法を教えてもらうのだ。すると、カードに習得可能なスキルの項目が現れるから、そこにポイントを振って習得できる。ちなみにオススメは……」

 

 ダクネスが言い切る前に、めぐみんが身を乗り出して。

 

「もっっっちろん!!! 我が爆裂魔法です!!」

「ああっ! せっかく私のデコイや《物理耐性》を教えようと思ったのに!」

「言っとくけど、教えてもいいのは宴会芸スキルだけで、回復はこの私がいるんだから教えないからね!!」

「僕は何も持ってない」

「お前らふざけてんのか!? 教えるんじゃねーのかよ!! 欲しいものが何一つねーよ!」

 

 …………駄目だこいつら。

 トニーに至ってはどういうことだよ。

 

 そんな様子を見て、クリスは笑いながら。

 

「あっはっは! 面白いパーティになったね!!」

「ほんとにそんな事言えるか!?」

「まぁまぁ落ち着いて。それなら、盗賊スキルはどうかな?」

「盗賊スキル? どんなのがあるんだ?」

 

 よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに、クリスは口角を上げると。

 

「百聞は一見に如かずだよ! トニー! トレーニングルーム借りていい? ほら、ダクネスの鎧作った時の」

「お好きにどーぞ」

「よっし決まり! それじゃついてきて!」

 

 

 ▽

 

 

「『スティール』ッ!」

「あっ! 俺のサイフ!」

 

 だだっ広い無機質な部屋に連れてこられたかと思うと、すぐさまクリスのスキルレッスンが始まった。

 

 SF映画でしか見たこともないようなホログラム装置? で廃墟ができたかと思うと、クリスがそこに隠れて《敵感知》と《潜伏》を披露してみせ、

 

「ふふん、これが《窃盗》スキル、スティールだよ」

 

《窃盗》スキルなんてもので俺の財布が巻き上げられていた。

 クリスは手に持った俺の薄い財布を手の上でもて遊びながら。

 

「これ、あたしの一押しね。相手から握ってる武器だろうがカバンの奥のサイフだろうが、なんでも一つ奪い取る。スキルの成功確率は幸運値依存で、これさえあれば敵から武器を奪って無力化したり、宝だけ奪って逃げたり、使い勝手のいいスキルなんだ。それじゃ、サイフを返すから、今度は……」

 

 クリスは、手に持ってる財布を少し眺めると、にんまりとした笑みを浮かべた。

 

「……ねぇ、あたしと勝負しない? 早速スキルを覚えてあたしに掛けてみなよ。なに取られても怒らないからさ。この軽くて薄いサイフを見るに、あたしの持っているものの方がどれも価値があると思うよ!」

 

 いきなり勝負をしかけてくるとは、どこのポケモントレーナーだ。

 しかし、俺は幸運値が高いし、もしかすると何か価値あるものが取れるかもしれない。

 

 それに、こういうのはいかにも冒険者同士のやり取りみたいで憧れる! 

 

「よーし、乗ったぁ!」

「そうこなくっちゃ!」

 

 早速冒険者カードを取り出し、スキルを覚えようと操作する。

《窃盗》はもちろん、《潜伏》と《敵感知》も覚えようとしていると。

 

「さて、君達は誰に賭ける? カズマがクリスから捕られたサイフより高価なものを引き当てたらカズマの勝ち。それ以外はクリスの勝ちで」

 

 トニーが、楽しそうに他の連中と賭けを始める。

 悪くない、こうやって突如始まった勝負に、やじ馬が賭けを始める。異世界ファンタジーらしくて良い、盛り上がってきた! 

 

「難しいな……本職とは差があるから、普通に考えればクリスの勝ちだ。だが、カズマのサイフは薄くて価値が低い分、より高価なものを取れる確率は高いだろう」

「私はクリスに賭けます。やはりここは本職の力を見るべきでしょう。それに、ポケットに小石を詰めてるみたいですし」

 

 ……えっ。

 

「おっと、バレちゃったか。その通り、こうしてポケットに石ころを詰めとくだけで対策になるんだ。勉強になったね?」

「き、きったねぇ!」

 

 してやったりといった顔で笑うクリス。

 この弱肉強食の異世界、これがきっと普通なのだろう。

 だが、まだ勝負は決まってない。

 

「ふぅむ……私もクリスに賭ける。カズマ、これも授業料と思え」

「それじゃ、僕も。幸運の女神がほほ笑むと信じようか」

 

 そして、まだ誰に賭けるか言っていない、最後の一人のアクアに注目が集まる。

 

「そうねぇ……私もクリスに賭けたいところだけど、実はお金がピンチだし、ここは大穴狙ってカズマに全部賭けたげるわ!! カズマ、負けたらから揚げおごりなさいよ!」

「こっちはサイフ盗られてんだよ! ふざけんな!!」

 

 なんて嬉しくない賭けられ方なんだ。

 これで負けたら逆にあいつの今日の晩のおかずを奪ってやろう。

 

 俺は冒険者カードの操作を終えて、クリスと向き直る。

 

「ふふ、いい顔になったね。それじゃ、いってみよう!」

 

 やってやる、俺は昔から運だけはいいんだ!! 

 

「いくぞ! 『スティール』ッッ!!」

 

 叫ぶと同時に、手に何かしっかりと握った感触があった。

 ひとまずは成功だ。

 

 ……って。

 

「なんだこれ……」

 

 手に握ってたのは一枚の布切れ。

 それは……。

 

「YEAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAHHHH!!! 大当たりじゃぁぁあああ!!!」

「いやあああああああああああああ!!! ぱんつかえしてえええええ!!!」

 

 その後、返してほしければ俺が満足する値段で買って見せろとクリスに商談を持ち掛け、彼女と俺のサイフを受け取って。

 

 賭けに大勝ちしたアクアがギルドで豪遊した。




キャラ紹介 No.8

▽〘 カズマ 〙 本名 〘佐藤 和真〙

▽性格 〘 スケベ 〙〘 腹黒 〙〘 お人好し 〙〘 仲間想い 〙

▽女子高生に迫るトラクターをトラックと勘違いし、身代わりとなるも轢かれたと勘違いしてショック死してしまったかわいそうな男。
その後天界でアクアと会い、自身の死を馬鹿にされたことから逆上、異世界へ向かう特典にアクアを選んで共に異世界に降り立つ。
転生する前はもっぱら家に引きこもっており、アクアによく「ヒキニート」と呼ばれていた。
借金があれば血眼で働くが、まとまった金を手に入れると一気にひきこもりになる。
勝つためには手段を択ばず、卑劣で姑息な面があるが、仲間への想いは人一倍強く、決して見捨てない。

仲間がどんなトラブルを引き起こしたとしても、嫌々言いながらなんだかんだで最後には立ち上がって解決する。

本人曰く“普通の人間”
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