この素晴らしい世界に祝福を!アナザー・ユニバース・アイアンマン   作:Tony.Stank

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トニースタークこと、ロバート・ダウニーjr、誕生日おめでとう!
I LOVE YOU 3000(遅い)

ララティーナ、誕生日おめでとう!(遅い)

一度最新話を削除してしまいました。
申し訳ありません。


第23話 スティール盗賊団

 カズマたちとの初クエストから数日。

 僕は客人とラボのラウンジにて。

 

「……ねぇ、トニーが食べてるそれって……」

 

 僕と机を挟んでランチを食べているその客人、クリスは僕が手に持っているジャンクフードに興味を示して尋ねてくる。

 それは、ふかふかのパンに挟まれた肉厚なハンバーグ、溶けだしたトロトロのチーズ、新鮮な野菜類……。

 

 ……そう。

 

「……ハンバーガーっていう、僕の国の食べ物だ」

「はんばーがー……あれだよね、トニーの故郷で人気の食べ物だよね?」

「その通り。最寄りのパン屋に頼んで作ってもらった試作品だ。中でもこのチーズバーガーは傑作。僕の発明品に匹敵するくらい。いや、言い過ぎだな。でも美味い」

 

 自慢しながらチーズバーガーを頬張っていると、クリスが物欲しそうな目で見つめてくる。

 

「……ねぇトニー、それもう一個余ってたりしない?」

「一個しかない。僕のだ」

「Booo……」

「そのうち市販されるだろうから、それまで待ってろ。そんなことより……」

 

 僕は手に持ってるハンバーガーを平らげ、包み紙をくしゃくしゃにしてゴミ箱に放り投げて。

 

「僕とランチしにここまで来たわけじゃないんだろ? 早く情報を教えてくれよ」

「まぁまぁ。悪徳貴族は逃げないよ」

「貴族がふんぞり返れるこの世界じゃ逃げる必要がないからな」

 

 カズマがここに初めて来たとき、クリスからの緊急無線で面倒なことになったことがあったが……。

 その内容とは、余裕があれば神器回収を手伝ってほしいというものだった。

 

 そろそろ来るだろうなとは思ってた。

 

「にしてもトニーが乗ってくれるとは思わなかったよ。てっきり忙しいって断られるのかと」

「現時点で里の教師、王都の防衛設備の開発、それらの輸出、カズマパーティーのお手伝いと多忙なのは事実だ」

 

 まぁ、開発については里の族長が大喜びで協力を申し出てくれたため、紅魔族が何人かラボについてくれたからいいのだが。

 ……僕が作ったものに変な名前を付けようとしたり、造形を勝手に変えようとしたりするところに目をつぶれば極めて優秀だ。

 

「お、大忙しだね……でもとても助かるよ。トニーがいたら百人力だろうし」

「気にするな。なんなら僕から声をかけるつもりだったしな」

「……えっ!?」

 

 クリスがギョッと目を見開いて聞き返してくる。

 僕はそんなに非協力的な人間に見えるんだろうか。

 

「ど、どうして?」

「大した理由じゃないさ。僕はただ……」

 

 本当は、何でもないかのように言いたかった。

 だが、どうやら顔に出てしまったようだ。

 

 そんな僕の顔を見たクリスが、心配するかのような声色で。

 

「……ね、ねぇ、トニーどうしたの? 顔が怖いよ……?」

 

 

 

 …………。

 そのまま表情は崩さず、ただ前を見据えて。

 

「僕はただ……世界を守る為に作られた道具を、武器を……私欲のために悪用する連中にむかっ腹が立った。それだけだ」

 

 そう言って、僕は机の上にあった紙袋からもう一つハンバーガーを取って食べ始めた。

 クリスがさっきとは違った表情で目を見開いている。

 

「……う、うん。そうだね。トニーの気持ち、よくわかるよ」

 

 僕のハンバーガーを見て少し複雑そうな顔をしたクリスだったが、やがて優し気な笑みを浮かべて。

 

「あらためて、この世界の為に尽くしてくれてありがとうございます」

 

 クリス……いや、エリスとしての穏やかな顔で、僕に頭を下げた。

 

 

 ▽

 

 

「というわけで、君にも力になってほしい」

「お断りします」

 

 一枚のタブレットを渡してきたトニーに、俺は真顔で首を横に振る。

 

「そう来てくれると思ったよ。君は期待を裏切らないな」

「皮肉を言っても俺の態度は変わらないぞ」

 

 用事があると例のパワードスーツで飛んできたので、なんだと思ってついてきてみれば……。

 

「まぁ、そう言うな」

「言うよ! 俺言ったじゃん!! 聞かなかったことにするって! 引きずり込んで来るなよ!!」

「いいか、この世界の貴族は軒並み腐ってるんだ。まともなのもい……いるが、そういう連中相手になら、多少の犯罪行為はやったって問題ない。というか、貴族が自分の有利に法をつくる世界だ、こっちも法の外で動くしかない」

 

 トニーは俺の目を見て諭すように話したかと思えば、クリスに顔を向けて笑い掛け、

 

「大義名分があるんだ、神も許してくださる。だろ?」

「なんであたしを見て言うのかな!?」

 

 クリスが声を荒げてツッコんだ。

 何でもいいが、俺を厄介ごとに巻き込むのはやめてほしい。

 

「そういう問題じゃないんだよ。俺は危ない橋を渡りたくないの!! トニー達のやってることは立派だと思うけど、俺は巻き込まれたくない!」

「……ねぇ、やっぱ二人でやらない? 無理やりひきこむのもかわいそうだよ?」

「いいこと言った! クリスがいいこと言った!!」

 

 はやし立てる俺の姿を見て、トニーの表情が若干曇る。

 

 今までひきこもりだったというのに、いきなり大犯罪をやるなんて芸当できるはずがない。

 それに、俺にはやらなくちゃいけないことがある。

 

「それじゃ、今回も俺は何も聞かなかったことにする。もう行って良いか? クエスト受けてお金稼がないといけないんだよ」

 

 そう、キャベツの資金も確定していることだし、拠点を手に入れる為にまとまった資金が必要なのだ。

 いつまでも馬小屋暮らしじゃ、冬が来た時に確実に凍えて死ぬ。

 

 ……あと、色々な意味でプライベートな空間が欲しい。

 

 

 もう帰ろうと踵を返した俺の背に、トニーから聞き捨てならない言葉が飛んできた。

 

 

 

「それじゃ、僕から君へクエストを依頼する。報酬額は五百万エリスだ」

 

 思わず足が止まる。

 ドアノブにかけた手を放し、ゆっくりと首だけ後ろに回して。

 

 

「……詳しく……聞かせろください」

 

 その言葉に、トニーは『そうこなくっちゃ』と、口角を上げてニヤリと笑った。

 

 

 

「──椅子の男?」

 

 俺はついオウム返しに尋ねる。

 

「ああ、僕らは実行部隊。屋敷に侵入して直接目当てのものをいただく。そして君は椅子の男」

「いやだから椅子の男ってなんだよ」

「君にはここのモニター席に座って僕らをサポートしてもらう。具体的には、スキャンで判明した敵の数や位置を、モニター越しに報告し、僕らを上手く誘導することだ。ミッション・インポッシブル見たことあるか?」

「一応全シリーズ」

「ならわかるだろ? 外のバンの中でパソコン弄ってる彼の役だ。君は現場に立たなくて良い、安全さ」

 

 

 ……なるほど、ルーサーの事をいってるのか。要するに遠隔のセコンドってわけだ。

 

 だが、一つ疑問が残る。

 

「そういうのって、フライデーに任せればいいんじゃないのか? 優秀な人工知能の方がいいだろ?」

「フライデーは衛星軌道の演算、周囲のスキャン、それらのデータ化とモニターへの映像化に集中するからそこまで余裕がない」

「……ねぇ、今衛星って言った?」

「言ってない」

「言ったよね? ……後で話を聞かせてもらうよ」

 

 俺は顔に手を当てて考え込む。

 

 自ら危険に飛び込むわけでもなく、たった一日で五百万エリス……。

 これはちょっと……いや、ちょっとどころじゃない。かなり魅力的だ。

 

「ずいぶん悩んでるね」

「映画のたとえは逆効果だったかもな。あれを知ってるとモチベーションに大きくつながると思ったんだが」

「……そんな面白いの?」

「見るか?」

「……うん」

 

 ……落ち着け佐藤和真。

 時代背景が中世の中での科学無双だ。俺の足はつかないだろう。でも……でも、だ。

 

 分かっているのか? 俺がやろうとしているのは犯罪行為だぞ? 

 いままでやってきた犯罪なんて、せいぜい信号無視と立ちション程度。

 

 そんな俺が、貴族の屋敷に盗みに入るその手伝いをする? 

 

 

 

 ……いいや冗談じゃない。厄介ごとは御免だ! 

 

 

「……トニー」

 

 ──と、一蹴するには。

 

 

 

「引き受けます」

 

 金額が少々多すぎた。

 

 

 ▽

 

 

 暗闇と静寂が包む森の中を、クリスと二人で進んでいく。

 時刻はもう夜中近くといったあたりだろうか。

 

 僕はインカムを通してカズマに確認を取る。

 

「カズマ、眠たくなってないか?」

『いいや、むしろこの時間あたりからが俺の本領発揮だ。日本にいたころは昼夜逆転でずっとゲームしてて、『インしたらいつもいるカズマさん』なんて呼ばれてたりしたもんだ。オーバー』

「それを誇らしげに言ってて君は何も感じないのか?」

『正月とかに親族が集まった時、その全員がニートの俺に軽蔑の視線を向けてきても耐えて飯を食える俺の胆力ナメんなよ。オーバー』

「……ちょっと皮肉で張り合おうかと思ったが、そんな気持ちも失せた……あと、オーバーは言わなくていいぞ」

 

 カズマの能力や性格といったものはある程度理解したつもりでいたが、彼自身についてはよく知っているわけではない。

 ひょっとしたら、重いものを背負ったりしているかもしれない。そっとしといてやろう。

 

 うしろを振り向くと、そこにはさっきから興奮した様子で周囲をキョロキョロ見回すクリスの姿が。

 光源は雲の切れ間から差す薄い月明かりだけなので、闇の中の彼女の今の挙動は、はっきり言って不審者そのものだ。

 

「すごい……真っ暗でもここまで視界が確保できるなんて……」

 

 そんな、暗視ゴーグルをつけた彼女の姿を、僕も同じく暗視ゴーグル越しに確認する。

 その昔秘密作戦用にS.H.I.E.L.D.に提供してた小型の暗視ゴーグルの余りがあったので、クリスに渡したのだが……。

 

 どうやら気に入ってもらえたようだ。

 

「いつまで感動してるんだ。開発者冥利に尽きるが、早く移動するぞ」

「ああ、うん。ごめん……ところでさ、これって……」

「もちろんプレゼント」

「やった!」

 

 そのまま移動することしばらく。

 ようやくターゲットの屋敷に着いた。

 

 僕らは裏庭近くの茂みに隠れ、侵入の準備をする。

 

「カズマ、敵の情報は?」

『ええっと……ん……? ちょっと変だな……』

「変ってなにがだ?」

『熱源スキャンによると二十くらいなんだけど……一つだけやけに大きい』

 

 衛星からのスキャン映像を見たであろうカズマが、そんなことを言い出した。

 ひとつだけ大きい? 

 

「……確かに、それは変だな。クリス、何かわかるか?」

「まぁ……普通に考えてモンスターだろうね。示威や自己満足の為に違法モンスターを飼う貴族は少なくないよ。しっかりと首輪をつけておけば、番犬代わりにすることもできる」

「その首輪ってのは……比喩的な意味で? それとも首輪そのもの?」

「そりゃあ比喩的な意味さ。主に呪いの魔道具で支配してるのがほとんどだね。飼い主に敵意を向けたら体に痛みが走るとかそんな感じ」

『うわぁ……俺の国じゃ大炎上だろうな』

 

 なんともまぁ、ベタな悪党だ。

 だが重要なのは、対人間だけを考えて突入すると痛い目に遭うってことだろう。

 

「だったら、大型モンスターと渡り合える装備を用意する必要があるな」

『思ったんだけどさ……あのパワードスーツはどうしたんだよ。あれ使えば大体何でも解決するだろ』

「スーツを着てるだけで自己紹介してるようなものだ。人気者のつらいところだな」

 

 僕は持ってきたバッグの中からいくつかのアイテムを取り出した。

 暗視ゴーグルを気に入っていたクリスが、おもちゃ屋にきた少年のようにウキウキで手に取って見始めた。

 

「トニー、これはなに?」

 

 クリスが手にとったのは、拳銃とバーコードリーダーを混ぜたような見た目のガジェット。

 僕も同じものを手に取って説明を始める。

 

「これは僕のスーツの装備であるペタワットレーザーを元に作ったガラスカッターだ。この大きな葉がガラスだとする」

 

 すぐそこに生えていたフキのような葉の表面にガジェットを向け、円を描くように動かしながらトリガーを押すと……。

 

「グェェエエ……」

 

 先端の熱可塑性レンズから赤色のレーザーが照射され、小さな断末魔と共に葉の表面に円形の穴を開けた。

 

「……なんで葉っぱが断末魔を上げたのかはともかく、このようにレーザーで音もなくガラスに穴を開けられる。この吸盤が付いた取っ手と併用しろ。くり抜いたガラスが落ちて警備が飛んで来るなんてマヌケな事態を防げる」

「す、すごい……」

『すごいけど少しは世界観を考えろよ』

「だったら世界観を変えるまでだ。現代っ子君な君はネットとスマホが恋しいだろ? そのうちクエストなうってつぶやけるようにしてやるよ」

『や、やめろよ! 本当にやめろ!! これ以上俺のファンタジー観を壊すなよ!』

 

 無線越しにカズマの悲鳴が響くが、正直半分以上本気だ。少なくともこの国の技術力を第二次産業革命レベルまでは進めてやりたい。

 

 そんな、クリスの前で平然と異世界転生ジョークをしてるわけだが、クリスは異世界についてある程度理解があるとカズマに適当な説明をしてあるので、特に問題はない。

 

「装備は大体こんな感じだ。使い方の把握はしたか?」

「だ、大体大丈夫……」

 

 そのほか閃光で目をくらませるスタングレネードや、煙幕を張るスモークグレネード。

 エージェント・ロマノフ用の装備から拝借したスタンガンなど一式をクリスに渡した。

 

 最初は喜んで身に着けていたが、武装が増えるたびにクリスの顔から笑みは薄れ、『これって強盗用の装備なんじゃ……』と愚痴っていた。

 そうはいっても、特殊部隊の一式装備以下の軽装なのだが。

 

 武装を終えた僕たちは、屋敷をぐるりと囲う外壁の前に立ち。

 

「カズマ、この壁の向こうはどうなってる?」

『ちょっと待ってくれ……うん、大丈夫だ。見張りがちょうど通り過ぎたところだ、行くなら今だな』

「ね、ねぇ。この壁どうやって上るの? さすがのあたしもこんなツルツルの外壁は登れないよ?」

「そこで君に渡したグローブだ。まずは電源をつけろ」

 

 言われるがままに僕が指さした電源ボタンを押すクリス。

 僕は壁に掌をベタッとくっつけて見せる。

 

「こうして手のひら全体が均等になるように接触させると、強い吸着力が発生する。剥がすときは手首側から転がすようにしてゆっくりと剥がせ。あとはヤモリみたいに登っていくだけだ」

「手の甲の辺りで光ってる青い光は何を示してるの?」

「グローブが正常かどうかを示している。こう覚えろ、ブルー()グルー(くっつく)

「……レッド()は?」

デッド(お陀仏)

 

 暗視ゴーグル越しなので顔色がよくわからないのだが、心なしか彼女が少し青ざめた気がした。

 

「ここまで来たらやるしかない、僕を信用しろよ。死んだら女神エリスにでも愚痴るんだな」

「だからそういうジョークはやめろよぉ……」

 

 手本を示すようにして僕から壁をよじ登っていく。

 僕もこれを使うのは初めてなのだが、自分で作ったものなので信用できる。

 

 後ろでぶつくさ言ってたクリスもやがて僕の後をついてくる。

 十メートルほどの高さの壁を越え、カズマに周辺を確認してもらってから窓ガラスに穴を空けて屋敷へと侵入した。

 

 

 

「楽勝だったな」

「やっぱり頼もしいねぇ。さすがだよ」

「君の実力も早く見たいところだが」

「すぐ見せたげるよ」

 

 くり抜いた窓ガラスを、音を立てないようにゆっくりと地面に置くと、二手に分かれた道が見えた。

 左手側は絵やら壺やらを飾っておくためだけの袋小路となっている。右から向かうんだろう。

 

「カズマ、宝物庫までナビゲートしてくれ」

『了解、まずは正面から見て左手側に進んでくれ』

「……左だって?」

 

 言われたとおりに左側を見るが、そこにはさっきも見た袋小路しかない。

 

「……行き止まりだね。というか、あたしの宝感知も右の道を指してるんだけど」

 

 ……待てよ。

 僕は紅魔の里で見たダンジョントラップについて書かれた文献を思い出す。

 

 確か、ダンジョンには偽の壁を映し出して行き止まりだと思わせるトラップがあったはずだ。

 壁があるように見せかけるだけなので、盗賊職の罠感知にも引っ掛かりにくいという厄介なトラップなのだが……。

 

「……建物のスキャンの結果は?」

『左手側には何も表示されていない。壁があるのか?』

「なるほど……見せかけの壁ってことなのか──」

 

 クリスが口角を上げ、スキップしながら袋小路の壁へと突っ込み……、

 

「──なヴぁっ!?」

 

 ……盛大に激突した。

 飾ってあった絵や壺が割れて大きな音が鳴る。

 

「なんだなんだ!?」

「泥棒か!?」

 

 遠くからバタバタと駆け寄ってくる音がする。

 クリスは今も地面でもんどりうってる途中だ。

 

「……おい」

『……あっ、タブレット逆さまに持ってたわ……』

「次からはスクリーンロックを解除しておけ……」

 

 しくじりカズマは後でお説教として、僕は試作していたあるアイテムを取り出す。

 それを右手に握りしめつつ、クリスを抱え起こして走らせる。

 

「立てヒーロー! いったん撤退するぞ!!」

「い、いたた……頭がクラクラする……」

 

 袋小路から何とか出ると、そこには腰に剣を差した騎士が四人もいた。

 ギラリと光を放ちながら、腰に下げた剣が鞘から抜かれる。

 

 切っ先は全て僕らに向けられた。

 

「投降しろ! さもなくば切り捨てる!」

 

 僕は右手に握った装置を起動して。

 

「新しい鎧をボスにねだるんだな」

 

 それを騎士たちの真後ろに投げつけた。

 装置は放物線を描き、一瞬だけ輝くと……。

 

「「「ぎゃぁぁああ!!」」」

 

 騎士が次々と装置に吸い寄せられ、団子のように一塊に固まった。

 

 ──マグネティック・グレネード。

 その名の通り、磁石で敵を引っ付ける。

 

 金属製の鎧や武器を装備した人間が多いこの世界じゃ効果てきめんだ。作っといてよかった。

 

 意識が回復してきたクリスと共に、真っ暗な廊下を一気に駆け抜け、窓ガラスから──!! 

 

 

 ▽

 

 

 やばい……。

 

『聞こえているか!! ちょっとまずい状況になった!! 脱出経路を探してくれ!! 外壁はもう登れないうえに、門は閉鎖された!』

 

 やばいやばいやばい!!! 

 

『おい!! 聞いているのか!? ……ったく!』

 

 俺のせいだ。タブレットを逆さに持っていたなんてクソマヌケなミスのせいで、二人が危険な目に……! 

 こんな時どうすればいいんだ!? 

 

 慌ててタブレットに映されたマップを隅々まで見るが、脱出できそうな個所は無い。

 壁なんて登ろうものなら魔法や矢で格好の的にされる。

 

 なにもまともな策が浮かばない。

 二人を助けられる特殊な力も、才能もない。

 

 こういう全体を把握して穴をつくのは得意だったろ!! 

 昔からゲームでさんざんやって来ただろ! 

 

 トニーとクリスに助言してやることもできず、何かないかとタブレットをただひたすら弄っていたその時。

 

 タブレットにあるものが映った。

 

 それは、このラボの監視カメラが映し出した映像の一つ。

 

 トニーは言っていた。衛星軌道の演算、スキャンをフライデーに任せていると。

 つまり、衛星の操作をフライデーがこなしているということだ。

 

 ならアレは? 

 

 俺はマイク越しに叫ぶ。

 

「フライデー! 衛星軌道の演算、周辺のスキャンをいったんやめろ!! そして俺を案内してくれ!」

 

 俺はタブレットを抱えたまま、ある部屋へと駆け出す。

 

『Huh!? 何勝手なこと言ってるんだ!! どこ行くつもりだ!』

「トニー! クリス! 重ねて勝手言うけど、屋敷の中に引き返して、屋上に向かってくれ!!」 

『えええ!? 屋上!? 逃げ場ないよ!?』

『本当に勝手な奴だ……君を信じるからな!』

『『ファイヤーボール』ッ!』

『トニー! 伏せ──』

 

 その言葉を最後に、無線からの通信が途絶してしまった。

 クソッ! こんなタイミングで!! 

 

 そして、要請に応えたフライデーが衛星とのリンクを切断して。

 

『カズマ様。どこの部屋へ向かうおつもりですか?』

 

 フライデーに向けて声を荒げながら。

 

「それは──」

 

 

 ▽

 

 

 次々と襲い来る騎士を様々な装備を駆使して退けながら、階段を駆け上る。

 インカムが敵の魔法の余波で壊れてしまった為、カズマの最後の無線を信じて屋上に向かうしかない。

 

 嫌なことってのはたいてい重なるもんだが……これは流石にマズい。

 

「待ちやがれ!!」

「『バインド』ッ!!」

「げっ!?」

 

 階段を登ってきた騎士たちの先頭にクリスが拘束魔法を仕掛ける。

 突然縛り上げられた騎士がバランスを失い、ドミノ倒しに階段から騎士たちが転げ落ちていった。

 

「オマケだ!!」

「ぎゃぁぁあああ!! 何なんだその武器ィぃいいい!!」

 

 僕の投げたマグネティック・グレネードで、階段下で倒れた騎士たちが団子状に固まる。

 

「今ので切れた!」

「『ワイヤートラップ』! あたしのワイヤーも!!」

 

 クリスが詠唱しながら投げた複数のワイヤーは、壁に触れると同時にピンと張り、蜘蛛の巣のような形状を取った。

 これでしばらくは足止めできるだろう。

 

 屋上……というよりは、最上階のだだっ広い祝宴用と思わしきバルコニーに出た僕達。

 

 残された武器は麻酔銃だけだ。

 ただカズマを信じ、空を見上げていると、背後から声が聞こえてきた。

 

「おやおや……あなたが噂の銀髪の義賊か……」

 

 今迄の奴らとは違う、豪奢な服を身に纏った男が下卑た笑みを月明かりに浮かべて歩き出てきた。

 男は右手に持っていたサーベルを見せびらかすかのように弄ぶ。

 

「狙っていたのはこれかな? これはね、所持者が死んだ後に私が大金はたいて買った大切な神器でね……実にいい切れ味をしているんだよ……死んでも誰も気にしないような身寄りのない老いぼれなんかを切って遊ぶにはもってこいさ。取られるのは困るなぁ?」

「……その剣は、あなたがもっていていい物じゃないよ」

「その通りだ。カミソリで自分の頬でも切ってろ」

 

 なんとも腐った野郎だ。

 僕らの怒りの言葉にも目の前の男はどこ吹く風といった様子で。

 

「なんとでも言え。あなた達はここで死ぬんだ。あなた達が狙っていたこの神器で、あなたたちの首を切り落としてあげよう。私は優しいだろ? ……取り押さえろ」

 

 その命令を聞いた騎士たちが、僕らを取り囲むようにしてじりじりと寄ってくる。

 さらにはその後ろから……。

 

「グルル……」

「初心者殺し……!!」

 

 首輪をつけた漆黒の獣が、ゆったりと騎士たちの背後から歩き出てきた。

 

 こいつがデカい熱源とやらの正体か。

 

「さぁ……武器を捨てて首を差し出しなさい。でなければこの獣に生きたまま食い殺させる。私はこの剣の切れ味を楽しむ、あなたたちは楽に死ねる。良い取引だとは思わないかい?」

 

 僕は軽装な騎士を狙って麻酔銃を撃ち込む。

 お断りだという意思を弾に込めて。

 

「はぅっ!?」

 

 首に麻酔弾を撃ち込まれた男が膝から崩れ落ちた。

 その様子をみた騎士たちがどよめいて後ろにザッと一歩引く。

 

「こ、こいつ! まだおかしな道具を持ってやがるぞ!! 警戒しろ!」

「落ち着け。あんな一撃で無力化する武器を持っているなら、とっくに連射して俺達を無力化しているだろう。それをしないということは、連射が効かないか、使える数か標的に制限があるということだ」

 

 敵も馬鹿ではないらしい。

 こうなったら……‥。

 

「……スーツを呼ぶ」

「だ、駄目だよそんなことしたら!! 正体がバレちゃうでしょ!?」

「ここでくたばるよりはマシだ」

「ま、まって!! 他に策がないか今……」

 

 クリスがバルコニーから身を乗り出して下を見るが……。

 

 剣や槍、斧といった様々な武器の鋭利な先端が僕らにじりじりと迫る。

 いよいよ最終手段かと覚悟したその時。

 

 

 

 

 

 

 クリスの手が僕の肩をつかみ、一気にバルコニーの下へと引き倒した。

 

 …………!?!?!?!?!? 

 

 突然の出来事に目を剥くが、本来自分を襲うハズであっただろう落下の感覚がない。

 そこで自分が地面に背中をつけていることに気が付き、自分が今背を預けている場所を確認する。

 

 …………なるほど、カズマの奴やってくれるじゃないか。

 

 僕は立ち上がり、地面を軽く二回ノックした。

 それを合図に、僕とクリスの視線はみるみる上がっていき……。

 

「自殺か……なんともつまらない……死体を回収しときなさい。焼却炉で燃やして何もなかったこと……に……」

 

 そこまで言って、貴族の男は黙りこむ。

 

「焼却炉でなんだって? 先を言えよ」

 

 ……月をバックに、まるで何もない空間に立っているかのように夜空に浮かぶ僕とクリスの姿をみて。

 

「あ、さっき自分で言ってたけど、わざわざ神器を持ってきてくれるなんて、キミって本当に優しいんだね! 『スティール』ッ!」

 

 窃盗の魔法で貴族の手から剣が消え、クリスの手に剣が握られる。

 神器が取られたことに気付いているのかいないのやら。貴族の男は、ずっと目を剥いて僕らの姿を見ていた。

 

 

 

 

 

 ……透明な姿になった、クインジェットの上に乗る僕らの姿を。

 

 

 ▽

 

 

「ナイスワーク!!」

 

 ラボに帰るや否や、クリスがカズマの肩を叩く。

 

「ハッハッハ!! カズマさんと呼べー!!」

「そもそも君がドジらなければこんなことにはならなかったんだけどな?」

「うっ……それは、本当にすいませんでした……」

「ま、まぁ気にしない気にしない! 終わりよければすべてよしだよ!!」

 

 浮かれていた顔から一転。しょんぼりした顔でカズマが謝ってくる。

 

「クリスの言うことにも一理ある……よく駆けつけてくれた。助かったよ、思ってたよりも君はガッツがあるな」

「ヒーローにそう言ってもらえると光栄だよ」

「本当にそう思ってるのか?」

「……半分」

「かわいげのないガキだよ、ったく」

 

 そう言って僕も笑ってカズマの肩を叩く。

 カズマもヘッとシニカルな笑みを浮かべてみせた。

 

「ちょっと仲良くなったみたいでよかったね?」

「ハグでもするか?」

「加齢臭がしそうだし遠慮しとくわ」

「おい滅多なこと言うな。……しないよな?」

 

 危険には関わりたがらない性格だったであろうカズマが、機転を利かせて自ら救援に駆けつけてきてくるとは。

 

 しかも、クインジェットを操作して。

 おそらくフライデーにアシストを頼んだのだろうが……なにもかも任せられるわけじゃない。

 

 ある程度は自分で操作する必要があるのだが……。

 

「気になってたんだが、どうしてクインジェットを操作できたんだ? 元居た世界で操縦経験があったのか?」

「ゲーセンのフライトシューティングで学んだのさ」

「聞いた僕が馬鹿だった」

「なんだよ、軍隊がフライトシミュレーターのゲームを訓練に採用してるの知らないのか?」

 

 それはそうだが、ゲーセンで磨いた腕でパイロットをやったと言われても、なんとも締まらないもんだ。

 

「ところで、チーム名なんかは決まってるか?」

「ああ、今考えた」

「えっ」

 

 僕の言葉にクリスが素っ頓狂な声を上げた。

 クリスはクリスで既に決めていたのかもしれない。

 

「スティール盗賊団……なんてどうだ?」

「……意味が二重になってないか?」

「まぁ、聞け。英語で盗むは?」

「……steal?」

 

 そこまで言ってカズマも気が付いたのか。眉根をひそめて僕を見てくる。

 

「そして、鋼鉄はsteel。面白いだろ?」

「親父ギャグかよ……」

「駄目だよ!! もう銀髪の義賊で名前は通ってるし、あたしがリーダーなんだから、銀髪盗賊団で決定だよ!!」

 

 カズマは呆れたようにため息をつき、クリスは眉尻を吊り上げて抗議してくる。

 

 ……いい名前だと思ったんだが。

 

 

 ▽

 

 

 誰にも称賛されることのない義賊活動を三人でささやかにねぎらった後。

 全員が解散して広くなったラボで、僕は寝ることなくある作業を続けていた。

 

『ボス、そろそろ睡眠をとられたほうがよろしいかと』

「……ちょうどキリがよく終わったところだ。ちゃんと寝るさ」

 

 そう言ってデータのバックアップを取って席から立ち上がる。

 寝床へと向かう前に、僕はもう一度振り返ってモニターの画面を見る。

 

 

 

 

 

【Mk.46 構築中……】

 

 そのモニターの横でせわしなく動くアームによって組み立てられていく新型スーツを確認し、僕は部屋の明かりを落とした。

 




この話を書いてる途中で藤原さんの訃報を聞きました。
辛すぎる……一度療養してからの復活で、鉄の意志でアイアンマンの吹き替えをやり遂げてくれた藤原さんに心から感謝しています……。

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