この素晴らしい世界に祝福を!アナザー・ユニバース・アイアンマン   作:Tony.Stank

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あらすじに挿絵と言いますか、タイトルロゴのようなものを追加致しました。
極めてシンプルなものですが、ちょっとでも彩になればなと思っています。


第25話 まだまだ上を目指せ

「ぐあああぁぁぁ……ク、クソ……図に乗るなぁッ!!」

 

 リパルサーで吹き飛ばしたと思ったのもつかの間。

 ベルディアは剣でリパルサーを、大海を渡るモーゼのように引き裂いて強引に僕へと向かってくる。

 

「魔王様の加護を授かりしこの堅牢なる鎧と魔剣、疲れを知らぬ不死の肉体!! この程度で倒せるなどと思うなよ!!」

 

 ベルディアの横なぎに振りかざした切っ先が掻き消える。

 もはや人間の目で追える速さではない。

 

 キャップを思い出せ。

 あいつは自分より素早い攻撃に対しては、相手の目や足の動きで予測して防いでいた。

 

 迫りくる剣を盾で防ぎ、剣を縦に大振りに振り下ろす。

 

「ハハハッ!! そんな見え見えの攻撃が当たるとでも!?」

 

 ベルディアはそう笑って、剣の腹を僕に向けて防御の姿勢を取る。

 

「そら、どんな太刀筋か見てやろう!! クハハハハ!!」

 

 振り下ろされるその瞬間。

 剣が装着された右腕部の複数のブースターが一斉に点火する。

 

「ハハ……は?」

 

 そして、ブースターで加速された剣が、先ほどのベルディア以上の速度で、砕かんばかりの勢いで剣の腹へと迫る。

 

「チィィイイッ!!」

「気づくのが遅い。剣が堅くても脳まで固いんじゃ宝の持ち腐れだな」

 

 何とか後ろに飛んで回避するも、ベルディアの剣には大きな刀傷をつけてやった。

 もう盾のように使うことはできないだろう。

 

 ベルディアは自分の首を剣の前に持ってくる。

 デュラハンなりの目の落とし方だろうか。

 

「思った以上に……やるじゃないか」

「君は思ってたより大したこと無いな。他の幹部もこんなもんなのか? 幹部を倒して結界を解除した暁には、真っ先に魔王城にミサイルを叩き込んでやるよ。……行軍中の君にやったようにな」

 

 その言葉を聞いたベルディアの剣を握る力が、ギリッと音を立てて強まる。

 そして、怒りに身を任せた強烈な斬撃を放ってきた。

 

 剣と盾がぶつかり、今迄で一番大きな金属音があたりに響く。

 

「あの時のことは忘れもしないぞ!! 鳥は歌い、花は咲き誇っていたあの麗らかな一日!! 日光を苦手とするアンデッドの俺達でさえ、上機嫌になるあの行軍の中!! 突如した風を切る音!!」

 

 ベルディアの剣に、さらに力が籠められる。

 柄はギリギリと音を立て、受け止め続ける僕の足元の地面に亀裂が入り始めた。

 

「何かと思って空を見上げた次の瞬間!! 気が付いたら辺り一面の大地ごと吹き飛ばされていた!! 転がってった首を日が暮れるまで探し続けた辛さが貴様にわかるか!?」

 

 少々かわいそうに思えてきた。

 ……流石に真正面から戦ってやるべきだろう。

 

 盾の裏から推進リパルサーを照射し、シールドバッシュでベルディアの剣を弾く。

 僕は後ろにたたらを踏むベルディアに剣の先を向け。

 

「君の首でゴルフやって悪かったな。お詫びに君の土俵で戦ってやるよ。ナメてるんじゃない、本気で言ってる」

「……これ以上、この俺を怒らせてくれるなよ……!」

 

 己が剣の達人であることに誇りを持っているのか、軽々しく剣での戦いを申し出た僕を睨みつけ、兜の奥から唸るように声を出す。

 

 しかし、それもつかの間。

 一度鼻でため息をついて気を落ち着かせると、真剣な眼差しで僕を見据えて。

 

「……だが、そう来るのであれば是非も無し。俺も小細工無しで、真っ向から叩き伏せて見せよう。……そういえば、貴様の名前をまだ聞いていなかったな。名はなんという?」

 

 そう言って、再び強く剣を握り直し、ベルディアは腰を落として構えを取った。

 

「トニー……いや──」

 

 構えたベルディアに応えるように、正面に盾と剣を突き出し、ファランクスのような構えを取って名を名乗る。

 

 

 

 

 

I AM IRON MAN(僕はアイアンマンだ)

 

 ベルディアはふむと唸って。

 

「あいあむ……少々長いな……アイアンマン……と呼ばせてもらおうか……」

 

 ベルディアの重心が前へと傾く。

 もう今にでも切りかかってるだろう。

 

 西部劇の決闘シーンのような、ピリピリと張り詰めた静かな風が僕とベルディアの間に流れる。

 

 丸まった枯草が転がってくれば完璧なんだがな。

 

 

 そして……。

 

 

「では行くぞ! アイアンマン!!!」

 

 地面を踏み砕かん勢いでベルディアが一歩踏み出し……。

 

 

 

 

 

 

 

「『セイクリッド・ターンアンデッド』!!」

「あひぃぃいいいい!?」

 

 そのまま、光の柱に包まれて悲鳴を上げた。

 

 ……。

 …………。

 

「お前なにしてんの?」

 

 静まり返った空気の中。

 後ろの方でカズマの呆れかえったような声が聞こえて来る。

 

 僕が振り向くと、アクアはただただ不思議そうな顔をしていて。

 

「……な、なに? どうしてみんな私を見てるの!?」

「いいところを持っていきたいという考えは紅魔族的にもわかりますが……いまのはちょっと……」

「魔に身をやつしたとはいえ、騎士の戦いに水を差すのはどうかと思うぞ……」

 

 めぐみんやダクネスだけでなく、他の冒険者からも一様にして冷めた視線を向けられ、アクアの目にぶわっと涙がたまる。

 

「ど、どうしてそんな目を向けてくるの!? 隙があったから攻撃しただけなのに!!」

「いや……いい、君はよくやったよアクア。協力感謝する」

「ト、トニ゛ぃー……」

 

 目的はこのベルディアを倒すこと。

 例え見せ場を奪われたとしても、空気が読めてないとしても……アクアは何も間違ったことはしていないのだ。

 

 アクアが唯一の味方となった僕にすがるような視線を向けてくるのと同時。

 

 倒れて悶絶してたベルディアが、体の節々から黒い煙を上げながらゆらりと立ち上がった。

 人間でいう首をかしげるにあたるのか、手に持っていた首を傾ける。

 

「な、なんだここは……駆け出しの街じゃなかったのか……?」

「ねぇ、おかしいわ! あいつ私の浄化魔法が効かない!」

 

 凄く効いてそうに見えるのだが。

 とりあえずアクアが戦力になるのは分かった。

 

 こうなったら全員で叩いてしまおう。

 

「めぐみん! カズマ! アクア! ダクネス! 戦闘準備をしろ! 囲んで倒すぞ!!」

「き、貴様さっきと言ってることが……」

「一対一で戦うなんて僕言ったっけ? なぁ、カズマ。聞いたか?」

「いーや? そんなことを聞いた記憶はございませんね」

「だよな」

 

 僕の呼びかけに応じて駆け付けたカズマが、横で茶番に乗ってくれる。

 

「貴様ら……そっちがその気なら、俺にだって考えがあるぞ!」

 

 が、ベルディアは剣を地面に突き立て、それによって空いた右手で僕らを指さして。

 

「我がアンデッドナイトたちよ!! 奴らを迎え撃て!!」

 

 どこに隠れていたのやら。

 その言葉に周囲を見やると、平原の奥の方から無数の何かがこちらに向かってきていた。

 

「あれは……」

 

 HUD映像を拡大して確認すると、鎧を着こんだ軍勢がこちらへと駆けてきていた。

 よく見ると鎧の隙間からは、しばらく飯が食えなくなるような、気持ちの悪い腐った肉体が見え隠れしている。

 

 これが終わったらチーズバーガーでも食おうかと思っていたのに台無しだ! 

 

 あんなのはまとめて吹き飛ばしてしまいたい。

 僕はめぐみんに向かって確認する。

 

「めぐみん! 何が来てるか確認したか!?」

「ええ! ズームでバッチリ見てしまいましたとも!! これが終わったら美味しい肉でも食べようかと思っていたのに台無しです!」

「それじゃ、やることは分かってるな?」

 

 僕がそう聞くと、めぐみんは悔しそうに杖を握り。

 

「そ、それが……ああも散らばってこられると……」

 

 平原からこちらに向かってくるアンデッドの群れは一か所に固まらず、散らばってこちらに向かってきていた。

 僕はカズマに顔を向け。

 

「……カズマ、君あれ……」

「何とかしろってか!! 無茶言うな!」

「何か策は無いか?」

「お前こそ、こういう時のためにラボに引き籠ってたんじゃないのか?」

 

 追い詰められている割には余裕がありそうなカズマ。

 

「その成果であいつと戦ってる。あいつは僕が片付けるから、君はそっちで何とかしてくれ。頼んだぞ」

「片付ける? 片付けるだと? 今まで葬ってきた勇者候補は、もっと敬意を払ったぞ!」

 

 切り掛かってくるベルディアの剣を盾で止め、またシールドバッシュではねのける。

 

 もうアンデッドの軍勢がこちらに到達してしまう。

 ここはひとつ、大人として子供たちの背を押してやらないと。

 

「カズマ、やらなきゃ大勢の人間が死ぬ。敵を倒すカードを君は持っているだろ! 君なら……いや、君達ならできる!」

「だぁぁぁ……俺は……俺はつい最近までひきこもりだったんだぞ……それが、いきなりこんな幹部とか……あぁっ、クソッ!」

 

 しばらく髪をかきむしって弱音を吐くカズマだったが、やがて意を決した顔で頭をあげ、アクアたちの方を見て叫ぶ。

 

「めぐみん! お前の爆裂魔法と、アクアの浄化能力で倒す! ダクネス! 範囲攻撃しやすいようにあいつらまとめられるか!?」

 

 ベルディアと切り合うその背後で、カズマの迷いがない指示を飛ばす声がする。

 

 これなら大丈夫だろう。

 

 

「無論だ! さぁ、腐臭をまき散らすアンデッドどもよ! この私にたかるがいい!! 『デコイ』ッ! …………あ、あれっ!?」

「い、いやああああーっ! なんで!? なんで私の方に来るの!? 毎日清く正しく生きてる女神なのに! カズマさーん! カズマさん助けてぇぇえええっ!!」

「ああああああ!! このバカッ! こっちくんな!! ほ、他の冒険者のみなさーん!! 助けて! 助けてーっ!!」

 

 あぁ…………振り返って見なくてもわかる。

 きっとダクネスのデコイが意味を成さず、アクアにアンデッドがたかり、アクアが喚いてカズマの元へ……。

 

 …………。

 大丈夫だと思いたい。

 いや、そう信じて目を背けないとどうしようもない。

 

 僕と相対するベルディアは、僕の背後で何が起こっているのかを確認できているにも関わらず、何が起きているか理解できないといった様子で。

 

「こらっ! なぜプリースト一人にそんな構うのだ! 俺の戦いに邪魔が入らないように、他の冒険者連中を血祭にあげんか!」

「君の忠実なしもべとやらは、酒飲み娘のおっかけにジョブチェンジしたようだな」

「や、やかましいっ!」

 

 軽口を叩きながら、ベルディアと剣を交える。

 ギチギチと剣と剣の間から音が響く。今にも火花が飛び散りそうだ。

 

「この俺の膂力に対し一歩も譲らんとは! 楽しませてくれるな! そら、もっと力を見せてみろ!」

「いいか、僕から一つアドバイスしてやる。勝敗ってのはな、腕力じゃなく発想力で決まるんだ」

 

 僕はMk.46に新しく追加された機能を起動する。

 

 

 

 

「──攻撃パターン分析」

『スキャン中……!』

 

 

 

 ▽

 

 

「どわーっ!! 誰か、教会に行って聖水をありったけ持ってこい!!」

「プリースト! プリースト何とかしてくれー!」

 

 押し寄せたアンデッドナイトの群れに、あわてふためく冒険者たち。

 ボロボロではあるが、鎧をしっかりと着込んで武装したそいつらは、この駆け出ししかいないこの街の冒険者たちにとって十分脅威となる。

 

 だが、その大半はというと……。

 

「あああああーっ!! カズマさーん!! カズマさん何とかしてー!!」

「だから何でお前はこっちくるんだよ!! ご自慢の浄化魔法で何とかしろよ!!」

「こいつらなぜか消しきれないのよ!! 晩御飯のおかずゆずってあげるからなんとかしてー!!」

 

 アクアに凄い勢いで群がっていた。

 むしろ俺の晩のおかず全部あげるからこっちこないでくれ。

 

 でもこれは……なんとかできるかもしれない! 

 

「めぐみん! 詠唱して待機してろ!」

「は、はい! 了解です!! あの、撃つときは十分距離を取ってください!! レベルが三十を超えているので、かなりの広範囲が吹っ飛びます!」

「わ、私はどうすれば……」

 

 おろおろしてるダクネスに俺は走りながらトニーの方を指さして。

 

「ダクネスはトニーの援護に……」

 

 そう言ってトニーの方へと顔を向けるが……。

 そこには、生物の限界を超えてるとしか思えない速さで切り合うトニーとベルディアの姿が。

 

 なにあれ。チートかな? 

 

「き、貴様、名うての剣豪だったのか!? なぜ俺の剣の速度についてこれる!?」

「あんたの動きをスキャンした。次にあんたがどう動くか、僕には手に取るようにわかるんだよ」

 

 ダメージ自体はトニーの方が深刻だ。

 切り合うたびに剣や盾のパーツが少しずつ崩れてしまっている。

 

 だが、パーツが破損するたびに空に飛んでいる球体から次々と新しいパーツが供給され、まるで無傷のままかのように戦い続けている。

 

 とりあえず増援はいらなさそうだ。

 

「さ、作戦変更! ダクネスは危なそうな冒険者や詠唱中のめぐみんを守ってやってくれ!」

「りょ、了解!」

 

 今にもやられそうな冒険者たちの方へと駆け出すダクネス。

 あとは……。

 

「魔法使い職のみなさーん!! 凍結魔法の準備をしてくれー!!」

 

 俺が大声でそう叫ぶと、アンデッドナイトがアクアに流れたことによって余裕ができた魔法使い職が、何がしたいのかとうろたえながらも次々と詠唱を開始する。

 街に被害が及ばないよう、俺はアクアに追いかけられながら街の城壁からできるだけ離れていく。

 

 そして走りながら顔を後ろに向け……。

 

「アクアーっ!! ジャンプしろ!!」

「ええっ!? いきなり何!?」

「いいからジャンプして俺の方に飛んで来い! 全力でだ!!」

「わ、わかったわよ!! 『パワード』ッ!!」

 

 自分に支援魔法をかけたアクアが俺の方へとジャンプする。

 流石は上級職と言ったところか。一足で一気に俺の方へと飛んで、拳を突き立てて着地……。

 

「へべぇあっ!!」

 

 ……できず、見事に顔面スライディングを決めた。

 いつも楽しそうだな。

 

 俺は群がってこちらに向かってくるアンデッドナイトたちの足元めがけて、俺は魔力のほとんどをつぎ込んで詠唱し……。

 

「『クリエイト・ウォーター』ッッッ!!」

 

 盛大に、水をアンデッドナイトたちへとぶちまけた。

 当然、俺の魔力程度でアンデッドナイトの群れを押し流せるなんて思っていない。

 精々がぬれねずみにする程度だ。

 

 でも、狙いはそうじゃない。

 

「今だあああああ!!」

「「「「『フリーズ』! 『フリーズ』!」」」」

 

 察した魔法使い職たちが一斉に氷結魔法をアンデッドナイトの群れに打ち込む。

 

「「「オ゛ァ゛ァァァ……」」」

 

 アクアに向かって駆けていたアンデッドナイトの群れの動きが一気に遅くなり、やがて止まる。

 長くは止められないだろう。でも、まとめた状態で、距離を取れるだけの時間が取れれば十分だ。

 

「めぐみん! やれーっ!!」

「おおっ! なんというお膳立て!! 深く感謝しますよカズマ!!」

 

 めぐみんの持つ杖の先に破滅の光が宿り、アンデッドナイトの群れへと向けられる。

 

「めぐみん、ちょっと待て!!」

 

 声がした方向に顔を向けると、そこにはベルディアと切り合うトニーの姿が。

 

「こんなところでお預けですか!? ダクネスじゃないので勘弁してください!! ボンッとなりますよ!!」

「な、仲間からの変態扱い……」

 

 トニーの背中から白いバーナーが噴き出て、その背後に巨大な砂煙が上がる。

 その推進力とパワードスーツの力を使ってベルディアを空へと弾き飛ばし、さらに盾と剣を巧みに使ってベルディアの剣を弾く。

 

「ほ、本当に何なのだ貴様の鎧は!? なんで剣が自分の元へと飛んで来るのだ! なんで背中から火が出て飛ぶ……」

 

 ベルディアが最後まで言う前に、トニーの両腕から剣と盾がパージし、新たな武装が換装される。

 

 その武器の姿は、言うなればスタイリッシュな鉄塊。

 ぶっ壊す。と、武器が主張してくるかのような、圧倒的な存在感と威圧感。

 

 破城槌(バタリング・ラム)がトニーの両腕を覆っていた。

 

「お、おい…………そんな物騒な物で何をする気だ…………? ま、まさか……」

君 を 殴 る

 

 驚愕の声を上げるベルディア。

 トニーはその両腕の鉄塊を、剣を弾かれてガラ空きになったベルディアの腹へ、肘部からバーナーを噴射して超高速で叩き込んだ。

 

 エルボーロケットかよ。

 

「うぎゃぁぁぁあああっ!!!」

 

 体をくの字に折って、ギャグマンガみたいな挙動で飛んで行ったベルディアは、そのまま氷漬けになったアンデッドナイトの群れへと……。

 

「オマケも付けといたぞ! ぶちかませ爆裂娘!」

「流石は我が恩師!! さぁ、ベルディアよ!! その目に焼き付けるがいい! 究極の戦術破壊兵器たる、我が爆裂魔法の威力を!! 『エクスプロージョン』ッッ!!」

 

 めぐみんの杖の先から放たれた光は、一瞬だけ周囲を白く染め、猛烈な破滅の旋風をまき散らした。

 熱を纏った強烈な突風が吹き荒れ、俺もアクアも、周囲の冒険者も全てまとめて吹き飛ばしていく。

 

 地面に叩きつけられた衝撃で朦朧としながら立ち上がると、そこには爆裂魔法の破壊の爪痕が刻み込まれていた。

 

 草が生い茂っていた平原は根こそぎ焦土となり、()()()()()()()()()()()()()()、今も上からは火の粉が雪のように降ってきている。

 

 そんな光景を地面に転がって幸せそうに眺めているめぐみんに俺は近寄り。

 

「おんぶはいるか?」

「ふぁい……おねがいします……」

「にしても、やっぱとんでもない威力だな……流石は三十レベル分のポイントを全て爆裂魔法につぎ込んだけは……」

 

 これで絶対倒しただろう。

 なんて、フラグみたいなことを考えたのがいけなかったのか。

 

 未だに晴れない土煙の向こうからフラフラとした影の姿が。

 

「人間どもが……やってくれるな……!」

「あ、あれを食らってまだ生きてるだと……?」

「そんな……!」

 

 全身のあちこちをボロボロにし、剣も大きく欠けてはいるが、今だ健在のベルディアがそこに立っていた。

 

「あ、相手は手負いだ! 囲んでやっちまえ!!」

 

 それは誰が最初に叫んだか、爆裂魔法の衝撃から復活した冒険者たちが、その言葉に続いて次々と切りかかる。

 

「バカ! 行くな……」

「この俺をナメるなよ」

 

 俺が叫ぶも、もう遅かった。

 作戦も無しに突っ込んでいく冒険者を、ベルディアは欠けた剣で次々と切り伏せていく。

 

「やめろおおおお!!」

 

 倒れた冒険者たちの亡骸を見て激昂したダクネスが、横から切り掛かるも、あっさりと躱されて蹴り飛ばされる。

 

「うぐっ!」

「なんだその剣の腕は……貴様なんぞ切る価値すらない」

 

 爆煙の合間から差す陽の光も相まって、倒れ伏した冒険者たちを踏み越えてこちらに向かってくるベルディアは、まさに絶望をそのまま形にしたかのようだった。

 

「ア、アクア……! トニー……!」

 

 仲間はどこかと探していると、アクアが爆裂魔法で倒れた冒険者や切り殺された冒険者の元によって体をペタペタと触っている。

 

 あいつはこんな時に何やってるんだ! 

 女神として死者の冥福でも祈っているのだろうか? 

 

「カカ、カズマ!!」

「わかってる! トニー!! 早く来てくれー!!」

「ここにきて他人頼りですか!?」

「もう俺にやれることは全部やったんだよ!!」

 

 半泣きでそう叫ぶと、それに応えるように背後からトニーが俺たちの前へと躍り出た。

 

「そろそろ終わりにしようか、ベルディア」

 

 トニーが両手に装備していた破城槌(バタリング・ラム)がゴトリと地面に落ち、新しい剣と盾が変形しながらトニーの両腕に取り付く。

 

 トニーが来たことによって俺は安心して息を吐く。

 

 めぐみんはと言うと装備が変形した様子を見て目を光らせて。

 

「カズマ、もっと近くで……」

「それじゃ、このへんに置いときますね」

「あああああああああ!! 待ってください! 巻き込まれたら死にます!! 言ってみただけなので置いてかないでください!」

 

 心做しか、前に立つトニーがマスクの中でため息をついた気がした。

 

 

 ▽

 

 

 後ろの茶番劇を楽しむ二人にはさっさと遠くへ逃げてもらいたいものなのだが……。

 

 ここから先は一撃で決まる。

 

 巻き込まれないようにしてくれたらそれで良いが…………。

 僕はカズマ達に背を向けたまま注意を促す。

 

「カズマ、おそらく次の一撃で決まる。離れなくても大丈夫だとは思うが頭くらいは低くしていろよ」

「わ、わかった……!」

 

 めぐみんを背に乗せた状態でカズマが地面に伏せたのだろう。

 僕の背後から、なんだか恥ずかしそうな声が聞こえてきた。

 

「あの、この体勢顔が近くなるのでやめて欲しいのですが……」

「だってトニーが頭下げてろっていうし」

「でしたら私を少し離れた位置に寝かせるとか他に方法があるでしょう! 何故こんなくっついて寝そべるかのような…………あぁ! 顔が近いです!!」

 

 こいつら何やってるんだ。

 

 僕は気が緩んでセクハラまがいのことをやってるカズマに注意する。

 

 もうちょっと待ってくれベルディア。

 

「カズマ、セクハラするならバレないようにやれよ。それが無理なら相手が仕方ないと思える状況を作れ。足くじいてるとか、魔力を使い果たして動けないとかな」

「…………ごめんめぐみん。俺、足くじいてるんだわ。だからこんな感じになってても」

「この流れで言って信じると思いますか!? トニーも変なこと吹き込まないでください!!」

「…………もういいか?」

 

 呆れた様子のベルディアが僕を睨みつけながら、ボソリと呟く。

 

 もうとっくの前に準備完了だ。

 

 僕は今までベルディアとの剣戟の中で崩れて落ちていたパーツの全てにアクセスする。

 

 それらのパーツの全てが、リパルサーの噴射口をベルディアへと向けていた。

 

「な、なんだ…………星? あちこちで何かが光ってるぞ…………?」

「ま、まさか…………」

 

 後ろで驚く声が上がるが、ベルディアはというと。

 

「ハァ…………なんとつまらん……貴様には失望したぞ…………」

 

 首を手に乗せ、自分に向けられた光の点達を、ぐるりと見渡すと、そうつまらなさそうにため息をついた。

 

「一流相手に同じ技を二度も…………それも、防がれた技を使ってくるとは…………呆れを通り越して怒りが湧いてくるぞ…………!」

 

 三百六十度リパルサーの門に囲まれているにもかかわらず、ベルディアは冷静に、そして静かに怒り。

 

「時間の無駄だということをもう一度教えてやろう…………!」

 

 あの時のように、自分の首を上へと放り投げた──。

 

 

 

 

 ──僕の予想通りに。

 

「脱出!」

 

 ベルディアが首を上に投げると同時、僕はMk.46のパーツを全てパージし、元のMk.45の姿に戻る。

 

 そして…………。

 

「へっ?」

 

 呑気に宙を舞うベルディアの生首を、空中でキャッチした。

 

 

「な、なぁぁぁあああああっっっ!?!?!?」

 

 生首を小脇に抱えた僕は、そのまま更に上へ上へと高度を上げる。

 僕の脇から叫び声が響く。

 

「わ、わかった! 俺の負けだ! 降参する!! 頼む! 降ろしてくれ!! 本当に降ろしてくれ!!!」

 

 既に死んでるアンデッドの命乞いには耳を貸さず、まだまだ上を目指す。

 アクセルの街が米粒程度の大きさに映り、やがて雲を越え…………。

 

「わかった!! 望みはなんだ!? 俺がなんでも叶えてやろう!! 莫大な富もある!! 女は……用意できないが、他にも俺が奪った領土や俺が元から持ってた土地なんかを…………お、おいっ! 聞いているのか!? あぁ…………? まだ昼時なのに空が暗く…………あ、ああああああああ!!」

 

 

 

 

 ▽

 

 

 

 ──宇宙。

 

 上も下も右も左も。

 見渡す限り星の光が瞬き、その光景に思わず息が漏れる。

 

 あれはこの星を照らす太陽の役目をしている恒星だろうか。

 僕の世界の太陽系と全く変わらないように見える。

 

 それにしても、美しい場所だ。

 

「君もそう思うだろ? ベルディア」

「…………ッ…………ッッ…………」

 

 何を言ってるかさっぱり聞こえない。

 まぁ、当然だ。宇宙空間なんだしな。

 

 最後にベルディアの目を覗き込む。

 その瞳は、見えるもの全てを目に焼き付けんと、必死になっているように見えた。

 

 ボクはゆっくりと手に持っていたベルディアの生首を離す。

 

 無重力状態なので、僕の手を離れた生首はフワフワと漂い出す。

 

 マスク越しなので見えないだろうが、僕はベルディアにウィンクして。

 

「じゃぁなベルディア。ペイル・ブルー・ドットを楽しんでくれ。達者でな」

 

 ベルディアの額に、兜越しにデコピンを食らわせた。

 クルクルと、縦方向に回転して遥か彼方へと消えていく生首。

 

 この先きっと飽きることの無い楽しい旅になることだろう。

 

 ベルディアの船出を見送った僕は、真っ直ぐアクセルの街へと戻った。

 




※ペイル・ブルー・ドット

約60億キロメートルの彼方からボイジャー1号によって撮影された地球の写真の事。
その写真には、地球は米粒程度以下の大きさにしか映っていない。

宇宙の彼方へと飛んでいくベルディアの首は、そのうち元居た星が米粒より小さく見えてくるはず。
それと掛けたトニーの皮肉。
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