この素晴らしい世界に祝福を!アナザー・ユニバース・アイアンマン   作:Tony.Stank

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第27話 ゴースト・バスターズ

 アルダープとの交渉の後、ギルドは多少重苦しい空気になったものの、その後も宴は続いていた。

 

 意気消沈してる僕らの席に配慮しているのか、壁や報酬金の話は出さないようにしていたが。

 

「なっっっっとくいかないわ!」

 

 空のジョッキを机にたたきつけるようにして置き、大きな音をたてるアクア。

 

 横にいたダクネスがまぁまぁとなだめにはいる。

 

「トニーのおかげで借金が一千万エリスも減ったのだ。それで良しとしようではないか」

「それでも三千万エリスの借金だけどな……はぁ、壁の弁償代が三億四千万……あのハゲデブの家の改築依頼の報酬が一千万……そして、ベルディアの懸賞金が三億……おかしいだろ、もっと高い懸賞金がかかってたっていいだろ……安物デュラハンめ…………」

 

 宇宙に放逐されたばかりか、安物呼ばわりされるベルディア。

 

 どうか安らかに眠れ。

 

「で、トニー。アルダープに何をするつもりなのだ?」

 

 つまみを食べながらダクネスそう尋ねてきた。

 僕はアクアの空ジョッキに酒を注いでやりながら。

 

「家の改築に合わせて、あいつの家に監視装置を取り付ける」

「ついでにトイレに入ったら便器が打ち上がるようにしようぜ」

「検討しよう」

「……それはあれか? 銀髪の義賊捕獲作戦の時に使ってた、遠隔で見れる魔道カメラのことか?」

「その通り、言っとくが、魔法の道具じゃないからな」

 

 おっさんの私生活を覗くなんてゴメンだ。と、カズマがシャワシャワを飲みながら愚痴る。

 

 全く同感だ、罰ゲームより酷い。

 

 が、途中で何かに気が付き、ハッと顔を上げ…………。

 

「なぁ、あのいやらしそうな顔したおっさんさ……」

 

 同じ男として気がついてしまった。

 よせ、やめろ。その先は言うな。

 

 僕の心の願いとは裏腹に、カズマは話を続ける。

 

「悪徳貴族らしく、美人のメイドとか侍らせてたりするの?」

 

 その言葉に、ダクネスは顔をしかめながら頬を赤らめるという器用な顔芸を披露しながら。

 

「あぁ、アルダープは無類の女好きだ。メイドをとっかえひっかえしては……孕ませて捨てるなり好きにしてる…………んっ……」

「…………興奮するなよ」

 

 ダクネスにドン引きするカズマだったが、そうかと腕を組んで唸る。

 

「……カズマ、今考えていることは口に出すなよ。僕まで同類にされたくないからな」

「な、なんだよ。監視に賛成だって言おうとしただけだし」

「なんでメイドの有無を聞いた?」

「ただの世間話ですー! すぐそういう発想に行き着くトニーの方がエロいですー!」

「まだ何も言ってないんだが…………」

 

 やっぱり監視という役につけこんでメイドの着替えなり風呂なりを見ようとしていたようだ。

 

 エロガキめ。

 …………気持ちはわからなくもないが。

 

 めぐみんも分かってしまったようだ。

 カズマをジト目で睨みながら。

 

「まぁ、証拠をもみ消すのがいかに上手いにしても、この国では未知の技術である科学技術で掴むことができるでしょう」

「科学無双とか、ほんとタブーよねー……」

 

 …………この女、僕を選んでこの世界に送った張本人なんだが。

 

「君本気で言ってるのか……?」

「トニー。こいつはな、三歩歩くか酒を飲んだら全ての記憶が無くなるんだ」

「羨ましいね」

「ねぇ、今なにか言ったー…………?」

 

 赤ら顔で気だるげにこっちを睨んでくるアクア。

 

「いいや、なんでもないさ。ほら、ジョッキ出せ、注いでやるよ」

「ふふん、気が利くじゃないのトニー。本当にアクシズ教徒に入るつもりはないのかしら?」

「ない」

 

 なんでよー。と、注がれた酒を一気に呷るアクア。

 彼女の見ていて気持ちがいい位の飲みっぷりは気に入ってるが、せめて飲み仲間程度としての付き合いでいたい。

 

 だらしない顔で口周りを泡だらけにするアクアを眺めていると、ダクネスとめぐみんが不安げな表情を浮かべながら。

 

「もしトニーがアクシズ教徒になってしまったら……」

「スピーカー付きの宣伝ドローンが街中を埋めつくし、洗脳電波が空を汚染し、アクシズ教徒達が世界のパワーバランスを塗り替える……この世の終わりですね。魔王軍に人類が敗れる方がまだマシです」

 

 

 ▽

 

 

 その後も昼から始まった宴という名の残念会は夕方まで続いた。

 ……と言っても、その内容のほとんどは領主や現状についての愚痴のオンパレードだ。

 

 途中でカズマが酔いつぶれて倒れてしまったため、ダクネスが購入したばかりの屋敷へと運んで行った。

 

 まだ大した荷ほどきも済んでいないだろうに、床にでも転がすんだろうか。

 

 気を失いかけるほど飲んだ後に寝る、冷たい床の感触の気持ちよさはきっと癖になる事だろう。

 ……十六歳で癖になってほしくはない感触だが。

 

 めぐみんは酒を飲ませてもらえず、不貞腐れながらジュースを飲んでいたが、今日の爆裂散歩がまだだったらしく、ダクネスを誘うと残して屋敷の方へと向かっていった。

 

 

「はぁ……お酒を飲んでる時間は嫌なことも全部忘れられるわ……」

「そのセリフが出始めたらそろそろヤバいぞ。僕が言うんだから間違いない」

 

 三人がいなくなり、必然的に僕とアクアだけが残ったのだが、ほとんどヤケ酒と化してきている。

 

「女神は雲の上みたいなところにいて、ハープでも弾いて果物とか齧ってるストレスフリーな生活してると思ったら大間違いなんだから!」

 

 そう言ってさらに酒を流し込むアクア。

 顔は真っ赤だし、これ以上はやめさせたほうがよさそうな気もするが、まぁ……。

 

 飲んでストレス発散することも大事だろうし、この際だから飲み仲間として付き合うことにした。

 

 

 

 

 

 ……したのだが。

 

「──そう! それを言ってるのよ!! 毎日起きてこの服に着替えるとその瞬間からもう書類の束が見えてきてしまうの!!」

「あぁ、あー……僕は神じゃないから君の気持ちはよくわからないが……」

「でもなんとなくわかるでしょ!? あなたも人をまとめ上げる立場だったんだから! 書類仕事とか大変だったでしょ!?」

「いや……そう言ったのは、ほとんど秘書にまかせっきりで……」

「うらやましいわねー! 私なんて上司にしたくない女神ランキング毎度第一位よ!? 部下がなんだか冷たいの! 逆に上司にしたい女神ランキング第一位は誰だと思う!? そう、あのエリスよ!? 私の方が先輩なのに!」

 

 数時間アクアの愚痴は止まる気配を見せない。

 もう外も真っ暗で他の客もいないし、従業員にはなんでまだいるんだ? って目で見られている。

 

 流石に疲れてきた。

 

 僕はセラピストじゃない。

 

「女神の中にも人間関係……いや、神様関係? どっちでもいいか。まぁ、そんなものがあるわけだ。僕みたいに、部下に慕われるように君も頑張れよ。……ごめん嘘ついた。僕は女性以外にはあまり慕われてなかった」

 

 そこでふと思い出した。

 丁度今二人きりなんだし、アベンジャーズに来る気はないか誘ってみよう。

 

 どうせなら素面の時に聞いておきたいが、こいつは素面の時間の方が短いし、案外酔ってる状態の方がまともに話ができるかもしれない。

 

「なぁ、アクア。ちょっと僕の話も聞いてくれないか」

「いいわよ、あなたの愚痴も聞いてあげようじゃない」

「いや、愚痴じゃないんだが……僕が魔王を倒したら、僕はその願い事とやらで元の世界に帰すよう頼むつもりなんだ」

「あら、良いじゃない。ちょっと寂しくなるかもだけど、天寿を全うしたらウチに遊びに来なさいな。その時は、おいしいお酒とジャンクフードを用意してあげるわよ?」

 

 そう言って女神の名にふさわしい優し気な笑みを浮かべてつまみをかじるアクア。

 飲んだくれてるか、やらかしてる姿ばかり見てきたので、こういう一面には少々面食らう。

 

「うれしいね……それじゃ、五十年後とかにでも」

「それならすぐね!」

「冗談はさておき、僕が元の世界に戻ったら、君をアベンジャーズのメンバーとして迎え入れたいんだ」

「ブーッ!!」

「ぐああああああ」

 

 アクアが飲んでた酒が僕の目にクリティカルヒットし、思わず目を抑える。

 

 この女いきなり何してくれてんだ。

 

 僕はウェイトレスが持ってきてくれたおしぼりで顔をぬぐいながら。

 

「……不満があるなら口で言ってくれ……いや、実際口で言ったな……なんでもない」

「ち、違うの! 単純にびっくりしただけよ!! なんで私を誘うわけ!? 私は女神だから癒す力しかないんですけど!」

「それだよ」

 

 僕はつまんだフライドポテトをアクアにピッと向けて。

 

「君のその癒しの力が必よ……違う、あーんしてるんじゃない。僕のポテトを取るな!」

 

 僕がつまんでたポテトをカラスか鳩みたいに咥えて持ってったアクアはふんふんと唸りながら。

 

「この麗しい女神の力を欲しているのはよく分かったわ……でもねトニー」

「キメ顔するなら口の端についてるケチャップを拭ったらどうだ?」

「天界は天界で忙しいのよ……世にも恐ろしい存在が星々に悪影響を及ぼさないように監視してるの……」

 

 サッと口元を拭ったアクアが、胸に手を置いて静かに語り出した。

 

「いい? 私たち神々の役目はね、外の世界から来た悪しき存在、あるいはその星の中で大きく成長しすぎた巨悪から、星に元からいる生命を守ることなの」

「中々大きく出たな」

「ちょっと! 真面目に説明してるんだから茶化さないで! ……そして、危ないと思われた星には……」

「強力な武器や能力を渡した未練の無い善人を送るって訳か……」

 

 そうよ。と頷き、喋って乾いた喉を潤すようにシャワシャワを一気に煽る。

 派遣会社みたいだな。

 

「ぷはーっ! ここに来る前はなんだったかしら……あぁ、ドルマムゥなんて名前の存在が特別監視対象になってたっけ……まぁ、そんな感じで私にも仕事があるからトニーの世界の援護は難しいわね…………」

 

 残念そうに首を振り、飲み足りないのか、自分の空になったジョッキをみやり、僕のコップをとって飲み干した。

 

「おい、それウィスキー……」

 

 止めたが遅かった。

 度数四十近い酒を一気飲みしたアクアは…………。

 

「…………ヴァ」

 

 クソ。

 

「うゔぇえええっ!」

 

 酒と飯と胃液がシェイクされた虹色のカクテルを、盛大に机に撒き散らした。

 

 …………。

 

 机に広がる虹を見たアクアは、壮大に語ったあとのこの有様で恥ずかしいのか、借金の件で落ち込んでて何か色々込み上げてきたのか。

 

「うっ……うっ……ごめんなさい……ゲロ吐く女神でごめんなさい…………」

 

 そのままさめざめと泣き始めた。

 

「……帰ろう。肩貸してやるから」

 

 口と胸元をゲロ濡れにして、涙を流すアクアの姿はとても見れたものじゃない。

 

 そのあまりにも悲しい光景に顔を手で覆って今日一番のため息を吐いた。

 

 

 ▽

 

 

 引っ越しでバタバタしてる新居にゲロにまみれた女を置くわけにもいかないので、僕のラボに運ぶことにした。

 

 床に少し垂れたのでダミーに掃除しろと命じといたら、『マジ?』と言いたげに首をかしげていたが、きっと気のせいだろう。

 

 とりあえずアクアはバスルームに叩き込んでおいた。

 あとは勝手にシャワーを浴びるなり服を洗うなりして欲しい。

 

 作業室に戻ると、そこにはモニターにゲーム機をつないで遊んでるカズマの姿が。

 

「君なんでいるんだ?」

「酔いがさめたからな。久々にゲームやりたくなってこっちに来た」

 

 レーシングゲームのランキング欄を自分の名前で埋め尽くしながら、カズマがそう笑った。

 

「引っ越したばかりだってのに、ここに入り浸りで良いのか?」

「どうせ隣同士だし、馬小屋暮らしの冒険者は荷物も少ないからな」

 

 というか。と、カズマは付け加えて。

 

「アクアが浄化するまで、悪霊がたくさん住み着いてるとかいう屋敷にいたくない」

「…………今めぐみんとダクネスは屋敷だよな?」

「ダクネスがいるし大丈夫だろ。一応クルセイダーだし、神聖魔法も使えるはずだろうしな」

「あいつが防御系スキル以外にポイント振ってると思うか?」

 

 とても静かな沈黙が流れる。

 彼も気がついたようだ。

 

「…………アクアは?」

「飲みすぎでギルドで吐いたんで、シャワー室に入れといた」

「トニーからちょっと酸っぱい匂いがするのはそういう事だったのか」

「ああ」

 

 …………。

 ………………。

 

「さて、マズいことになったな」

「スーツを装着する」

 

 作業室の壁に飾られていたMk.45が起動し、僕の体を包む。

 カンッと、マスクを閉める甲高い音が鳴り渡った。

 

「君はどうする?」

「悪霊相手に俺何ができるんだろ……」

「よし分かった。それじゃ君はここで──」

 

 待機してろ。と、言おうとしたその瞬間。

 

 部屋に轟く爆音と、体が宙に浮いたと錯覚してしまうかのような、すさまじい衝撃。

 

 轟音と共に床が爆発すように隆起し、その下から巨大な影が現れた。

 

「「!?」」

 

 すかさずカズマを抱えて距離を取り、床から現れた謎の攻撃者に掌を向ける。

 

 少しずつ薄くなる砂煙の中から浮かび上がったそれは……。

 

『目標ロスト。モクヒョウろすと。あ゛ー、全隊死亡。孤立無援。あ゛ぁぁあ』

 

 酷くノイズがかかった音声を鳴り響かせながら、ガクガクと動く──。

 

「ト、トニー……」

「どうなってる……」

 

 ──ズタボロのハルクバスターアーマー(ベロニカ)だった。

 

 ホーストとの戦いでメチャクチャになり、それから特に修理することもなく放置していたはず……。

 

『負傷ヘイ多すう。出血多量。四肢断裂。穴穴穴。け……け頸動脈……あ゛ぁあ。安楽死を推奨』

 

 ノイズを発しながら、ぐちゃぐちゃになってオイルも垂れている手足を引きずり、這いずりながらこっちへ来る。

 横でカズマの顔がサァッと青ざめた。

 

「トッ……トト、トニー!! なんかあいつむっちゃくちゃ怖い!! 身の毛がよだつ!」

「同感だ」

 

 薄気味悪い声で鳴くベロニカに掌を向け、リパルサーを叩き込むが…………。

 

「……さすがは僕が作った優秀なスーツだ、まるで効いてない」

「だてに人類随一の知力持ちを名乗ってるわけじゃないな。早く何とかしてくんない?」

 

 ギギギと鈍い音を鳴らし、こちらに掌を向けるベロニカ。

 

『援軍要請。えん……よ゛うせい。市民の殺害許可がみとメられマした』

「危ない!」

 

 再びカズマを抱えて横へと飛んだ。

 最大出力で放たれた光線がついさっきまで僕らが居たところを通過する。

 

 はるか向こうの部屋まで風通しが良くなった。

 何者か知らないが弁償してもらうぞ。

 

「さて、ズタボロとはいえあれを倒すのは骨だな……別のやり方で行こうか。フライデー」

『解析結果が出ました。未知の命令システムを確認。これは……パターンが脳波に似ています』

「……ゴーストが憑りついてるのか」

 

 とても科学者である自分の口から出た言葉とは思えない。

 だが、実際に存在するモンスターで、人形などに憑りついて人に害を為すそうだ。

 

『あ゛ぁあア゛ぁ……身元不明、の遺体を、二十、体発見……後に続イてくダさい……あ゛、あ゛、あ゛』

「クソッ! 気味が悪い! カズマ、君はここから脱出してアクアを連れて屋敷の方へ行け、あっちの方が心配だ!」

「……まてよ」

 

 カズマは手をベロニカへと向け魔法を唱えた。

 

「『スティール』!」

 

 ……なるほど、カズマは機械系の敵への対処法を既に知ってたらしい。

 カズマの突き出した手の上には、ベロニカの部品がしかと握られていた。

 

 見事と言いたいが、一つ誤算があるとすれば……。

 

「ああああああっちゃぁあああ!! 手がぁ!! 手が焼けるぅぅぅうっ!」

 

 電気が通っていた、高熱のパーツを握り締めたカズマが床に転がりのたうち回る。

 ……なんのパーツを握ってしまうかを計算していなかったようだ。

 

 というか、カズマが握りしめていたそのパーツは……。

 

「ごめんな、カズマ。君の手を焼いたソレ、スティール対策にダミーとして僕が仕込んだ高熱パーツだ。爆発物にアップグレードする前でよかったな」

「なにもよくねぇよ、このマッドサイエンティストめが」

 

 怨嗟のこもったうめき声が足元から聞こえて来る。

 

 抜き取ったのはダミーパーツのはずなのだが、動きが鈍ったうえに、大きな隙ができた。

 憑りついて動かしているから、体の一部を取られると痛みでも感じるのだろうか。

 

『処刑台、階段……未ダ……ノぼル……』

「長期休暇を与える。もう休め」

 

 ベロニカのボディに入った亀裂の隙間に手を突っ込み、高出力のリパルサーを中で炸裂させる。

 

「どわああ!」

 

 内側から爆発が起こり、ベロニカは咲いたチューチップのような有様になって床に転がった。

 

 こいつは修理が大変そうだ……。

 

「さぁ、次は屋敷の方へ行くぞ。ダクネスはともかく、めぐみんが心配だ」

「ああ、屋敷が消し飛んだらこま……」

 

 ギギギと、金属がこすれる音が鳴り、僕とカズマがゆっくり振り向く。

 

「……冗談だろ」

「あ、あれで動くってどうなってんだよ……」

 

 裂けた胴体をグラグラ揺らしながら、這いずってこちらへ向かってくるベロニカ。

 

 もっと高威力のもので完全にバラバラにするしか無さそうだ。

 だが、これ以上強力な攻撃を行うとカズマを巻き込む可能性があるし、フロアが崩落しかねない。

 

「ダメージ覚悟でスティールするか……?」

『……あ゛ァ……援軍……な゛シ……』

「や、やっぱやりたくねぇ!」

 

 異様な雰囲気を放つベロニカを前に、カズマが怖気づいて僕の後ろに隠れてしまった。

 

「しょうがない……カズマ、もっと遠くへ行ってろ。非常にやりたくないが、火力を集中させてバラバラに──」

 

 

 

 

「『ターンアンデッド』ッ!!」

『あ゛あ゛あ゛ぁぁぁあ……』

 

 覚悟を決めたところでベロニカの全身が白い光に包まれ、そのままピクリとも動かなくなった。

 

 声がした方向に顔を向けると、バスローブに身を包んだアクアが、すっきりした顔で立っていた。

 

「ふぅ……吐いてスッキリ、シャワー浴びてスッキリ、アンデッドを浄化して…………三倍スッキリね」

 

 微妙な決めゼリフだ。

 それっぽいこと言おうとしてしっかりとダサいのがアクアらしい。

 

「……なんでバスローブなの?」

「だって着てた服は全部洗濯に出しちゃったんだもの。というか、このバスローブ丈が長すぎるんですけど。体に合う服はないの? このままじゃ私のセクシーな姿に欲情したヒキニートに襲われかねないんですけど」

「ふざけんな、俺にだって選ぶ権利はあるんだぞ。でもな駄女神……良心的な意味合いで、お前を裸にひん剥くことにはなんの抵抗もないからな……」

「う、うそよね……? なんだかんだで一緒に汗を流してきた仲じゃない……これしか纏ってないから、本当に駄目よ……?」

 

 絶望の表情を浮かべて後ずさるアクア。

 今の状況を理解してない二人を、僕は咳払いして黙らせる。

 

「おい、ふざけてる場合じゃないんだぞ。今も屋敷の方でめぐみんとダクネスが悪霊に襲われてるかもしれないんだ、分かってるのか?」

 

 その言葉に、カズマはハッとした表情に戻り。

 

「そうだよ、やべぇじゃん!!」

『それについてですが……』

 

 急いで屋敷に向かおうとしたカズマを、フライデーが止める。

 

『その……大変申し上げにくいのですが……脳波の思念体、つまり、ゴーストの発生源をこちらで調べてみた結果……どうやら墓地に結界が張ってあったようです……それで行き場をなくした悪霊が大勢こちらに来てしまったようでして……』

 

 その言葉に、僕とカズマの視線がアクアに向いて……。

 

「あの……以前ウィズと会った時に……カズマさん、ウィズに代わって墓地の浄化をするようにって言ったじゃないですか……」

 

 ぼつり、ぽつりと観念したかのように独白を始めたアクア。

 

 一言一句ごとに、僕とカズマが睨みながらゆっくりとにじり寄る姿に少しずつ涙目になりながら自分の失敗を告白した。

 

 

 

「──明日、朝一で大家に謝りに行くぞ。いいな?」

「はい、すいませんでした」

 

 今回の事件は、アクアが町外れにある墓地に結界を張ったことで、行き場をなくした霊がこちらに来てしまった事が原因だった。

 

 悪霊のほとんどはなぜかラボの方へと来ていたので、めぐみんとダクネスは多少怖い思いをしただけで済んだそうだ。

 

 ……悪霊がこっちに来たことと、アクアがここにいたことが何も関係してないと良いのだが。

 

 

 ▽

 

 

 その翌朝、瓦礫をちまちま片付ける僕の前に現れたカズマは、意外にも明るい顔をしていた。

 

 どうやら持ち前の幸運が光ったらしい。

 

 なんでも、アークプリーストのいるパーティーが屋敷にいれば、いずれ悪霊の噂も無くなるだろうとのことで、住み続けて欲しいと頼まれたそうだ。

 

 なにやら、奇妙な条件を二つほど付けられたらしいが……。

 

 そして…………。

 

「Hmm……いいね、文字通りテクノロジーが服きて歩いてるのが僕だが、こういう家も嫌いじゃない」

 

 僕のラボの居住区が、先日の悪霊騒動でめちゃくちゃになってしまったので、今日からこの屋敷に住まわせてもらうことになった。

 

 工事が終わるまでは当面ここにお世話になることだろう。

 

 ある程度の荷物を床に置いた僕に、カズマが手を頭の後ろにまわしながら、得意げな顔を浮かべて近寄ってくる。

 

「まっ、借金返済でお世話になったしな。これくらいはおやすい御用だよ、ヒーロー」

「それじゃ、お言葉に甘えて」

 

 案内された部屋に荷物を置いてから、リビングのソファーにゆったりと座る。

 

「お前少しは遠慮しろよ……」

「君だって僕のラボで好き勝手ゲームしてただろ。お互い様だ」

「私も暖炉前のソファに座りたいんですけど……」

 

 聞く耳持たずにソファで端末を弄っていると、どかない僕に業を煮やしたカズマとアクアが僕の右隣に座り、譲れと言わんばかりに二人掛かりで押してくる。

 

 僕も負けじと踏ん張っていると、後ろから呆れたような声が聞こえてきた。

 

「三人とも、遊んでる場合じゃないですよ。一刻も早く借金を返さないといけないのですから、何かクエストを受けに行きましょう」

「そうだぞ。少々危険だが、強めのモンスターを倒しに行かなくてはな!」

 

 めぐみんとダクネスのその言葉に、ソファで争奪戦をやってた僕ら三人は重い腰を上げて。

 

「……ハァ、そうだったな。大きな屋敷に住んでても借金持ちか……」

「なにか楽で稼げるクエストはないかしら……」

「僕は今回ついてけないから、あんまり難しいクエストに行かないようにな?」

 

 僕がそう告げると、四人の視線が一気に僕に集まった。

 

「……何言ってんの? トニーがいないとまともにクエスト受けられないじゃん」

「それだと、私がいるとまともにクエストできないって言ってるように聞こえるんですけど」

「そう言ってるんですけど」

 

 壮絶な頬の引っ張り合いを始めた二人の横で、めぐみんはそれを視界にも入れずに僕に尋ねてくる。

 

「授業の時間ですか」

「そういうこと。僕が必要なら一日待つか、夜のクエストにしてくれ」

「なら仕方ないですね。ほら、トニー抜きでもできるクエストを探しに行きますよ」

 

 未だ頬のつねり合いをする二人の間に手を入れて引き離し、いきましょうとドアに向かうめぐみん。

 

 彼女は冷静で助かる。

 

「おいなんだよ、引っ張るなよ!!」

「もう大人なんですから、些細なことで喧嘩してはいけませんよ。あまり私に手間をかけさせないでください」

「手間かけさせるなとかどこの口が言ってるんだよ、一発撃ったら倒れるお前をクエスト中におぶってやってるのを忘れたとは言わせねーぞ! このロリっ子が!」

「ロリっ子呼ばわりとはいい度胸じゃないか! そのロリっ子に組み伏せられる気分はどうですか!?」

 

 前言撤回。

 

 冷静だと思っていためぐみんは怒りに身を任せ、レベル差にものを言わせた力技だけで、それはもう見事なリストロックをカズマにかけていた。

 

「いだだだだだだ!! レベル差考えろよ!! コノヤロウ、そっちがその気ならこっちにも考えがあるぞ!!」

「ほうほうほう! この状態からあなたに何ができああああああああああああ!?」

 

 リストロックが完璧に決まっているにも関わらず、なぜかめぐみんが悲鳴を上げて地面を転がった。

 

 たしか今のは……。

 ウィズのところに訪ねた時に覚えていた……ドレインタッチだったか。

 

「なんですかそのスキルは! 反則ですよ!! 私の魔力を返してください!」

 

 涙目で床から睨むめぐみんを、勝ち誇った顔で見下ろすカズマ。

 どう考えても事案な光景を、アクアと僕は冷めた目で、ダクネスは羨ましそうな目で見ていた。

 

 ひとしきり勝利の余韻に浸っていたカズマだったが、やがてめぐみんにもう一度ドレインタッチを使って魔力を返し、身支度を整える。

 

「俺にだって危機感位はある。アクアじゃないが、なるべく俺達にできて、効率のいいクエストをやるぞ。あ、それとトニー」

 

 突然呼ばれた名前に反応してカズマの方を見ると、何か光るものを僕へと投げつけてきた。

 手でキャッチしたそれは、きれいな装飾が施された美しい鍵。

 

「この屋敷のスペアキーだ。なくすなよ?」

 

 ……なるほど。

 僕は鍵の尻の方にあるわっかに指を入れ、クルクルと回しながら。

 

「生体認証システム付きの電子ロックに変えてあげようか?」

「ファンタジーが壊れるのでやめてください」




アンケートへの投票ありがとうございました。

キャプテンとソーのIFストーリーが僅差で、なんだかもったいないと思ったので、どっちも書くことにしました。
ちょっとずつですがもう既に書き始めているので、まずはそのうちキャプテンから先に投稿しようかと思います。
どうかお楽しみに!
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