この素晴らしい世界に祝福を!アナザー・ユニバース・アイアンマン   作:Tony.Stank

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もしトニーではなく、キャプテンがこのすば世界に転生してたら……?
このすばでの時系列は六巻です。

※本編とは一切関係ありません。


番外編1 キャプテン・ベルゼルグ

 ──ガツーンッ

 ──ガツーンッ

 

 鈍い音が周囲に響く。

 木の杭を、鋼鉄のハンマーで地面に叩きつける音。

 

 王城の庭に新たに設置される見張り台の支柱を、僕は打ち込んでいた。

 

「いやぁ、すいませんね。こんな土木仕事なんて、あなたみたいな人にさせることじゃないのに…………」

 

 振り下ろすハンマーの手を一旦止めて、資材を運んでいた工事の親方の方を向く。

 

「いや、別にいいんだ。僕が好きでやってる事だから」

「本当に、感謝しますよ」

 

 改めて礼をする親方に笑って返し、再びハンマーを振るう。

 木の杭を打ちながら、少し昔の記憶に思いを馳せた。

 

 レッドスカルとの死闘、迫り来る氷の平原、冷たい感覚…………。

 

 今でもたまに、夢に見る。

 僕の死を察しながらも、絶対に行こうとダンスの約束をしてくれた、ペギーの声を。

 

 全ては過去の話だ。

 僕は今生きてるが、もう彼女には会えない。

 

 正確に言うと……一度死に、別の世界へと飛ばされてしまった。

 

 …………だが、悪いことばかりじゃない。

 

 何故なら──

 

 

『魔王軍襲撃警報、魔王軍襲撃警報! 騎士団はすぐさま出撃。高レベル冒険者の皆様は協力をお願いします!』

 

「……おっと、呼び出しだ。いかないと」

 

 そう言って地面にハンマーを置いて、戦場へと向かおうとすると、

 

「ほら、用意しといたぜ、ぶちかましてきてくれ、キャプテン!! …………これ、案外軽いんだな」

 

 ニカッとわらった親方が、僕のシールドを手渡してくれた。

 

「あぁ、ありがとう。行ってくるよ」

 

 

 ──何故なら、この世界にも僕の力を必要とし、喜んでくれる人々がいるからだ。

 

 

 シールドを背負って駆け出し、着ていたシャツの胸元を破くようにして開けると、その下から()()の白い星が姿を現し、陽の光を反射して鈍く輝いた。

 

 

 ▽

 

 

 僕が前線へと駆けつけると、そこには台の上で金色の髪を振り回して指示を飛ばす女性の姿があった。

 

 集まった冒険者や騎士団の後ろの方から彼女に手を振る。

 

「騎士団総員、隊列を崩さぬよう…………おお! ロジャース殿! 来て頂けましたか!」

 

 こちらに気付くや否や、明るい顔を向けてきてくれた彼女の名はクレア。

 基本的に王女の側近兼、騎士団の指揮官を担っている。

 

 僕に気がついた冒険者や騎士団達が、クレアの方へと道を開けてくれた。

 

「クレア、状況は?」

 

 台にあがり、僕がそう尋ねると、明るかった顔も一変。

 途端に重々しい表情を浮かべて、敵が来る平原の向こう側を睨みながら答えた。

 

「今回は多いぞ、指揮官も優秀な奴だ」

「敵の種類は分かってるか?」

「偵察隊によると、トロール、オーガといった前衛に、魔法が使える悪魔族で構成されているそうだ」

 

 同じく平原の向こうをしばらくみやってから、冒険者たちの方へと顔を向け、台に設置された拡声の魔道具を手に取って指示を飛ばす。

 

「いいか、火力で戦おうとすると押し負ける。 前衛職で攻撃をいなしつつ、掘り進めた塹壕を使って盗賊職と魔法職で裏をとり、敵を十字砲火で奇襲する。それを悟られないように、残った後衛職で前衛職の裏からありったけ敵に魔法を叩き込め。温存は考えるな、陽動が勘づかれる」

 

 その言葉に冒険者たちは強く頷いた。

 作戦に不満はないようだ。

 

「前衛は任せてくれ、我が騎士団の得意とするところだ」

「あぁ、僕は冒険者たちと一緒に戦ってくる」

 

 台から降り、後ろに冒険者を率いて平原を進んだ。

 僕が離れる前に、クレアが行く前に一つ、と僕を呼び止める。

 

「なぁ、本当に昇格や貴族との縁談に興味は無いのか? あなた程の男であれば、もっと高い地位に付けるぞ?」

「すまない、そういったものに興味は無いんだ。それじゃ、行ってくるよ」

 

 残念だ、と。答えは分かってたかのように笑って肩を竦めた。

 

 敵部隊を迎え撃つために前線の一番前へと向かうと、僕の横に並んで立つ男が一人。

 

 ネイビーカラーの鎧を身に纏い、装飾が施された魔剣と呼ばれる神器を腰に帯びている、茶髪の好青年。

 

「キャプテン、一緒に戦えて幸運ですよ」

「君も来ていたのか、ミツルギ」

「ええ、頼りにしてますよ」

 

 そんなやり取りを終えて、敵を待っていると。

 

『──どっちが受けだったらいい?』

『──そりゃもちろん、ミツルギじゃない?』

『──えぇー? 実はキャプテンがプライベートでは従順な……って方が…………』

『『キャーッ!』』

 

 後ろから、そんな声が聞こえてきた。

 日本語だろうか。僕には意味がわからない。

 わからないが、隣のミツルギが苦い顔をしているのを見る限り、ロクな意味では無さそうだ。

 

 そして……。

 

「来たぞーッ!!」

 

 アーチャー職の男が千里眼で敵の軍勢が来たことを知らせ、全員が臨戦態勢に入る。

 

「ミツルギ、僕は敵に突っ込む。一緒に来てくれ」

「分かりました」

 

「突撃ーッ!」

 

 騎士団の号令と共に、前衛たちが一斉に敵へと走り出した。

 

「迎え撃てーッ!!」

 

 敵の軍勢も負けじと声を張り上げ、真っ向から向かってくる。

 

 血清の力がある僕と、魔剣の恩恵を受けたミツルギだけが、並んで走る人類側の軍勢から抜きん出て敵へと突撃する。

 

「『ルーン・オブ』──」

 

 ミツルギの魔剣が光り輝き、そのまま振りかぶる。

 僕も盾を手に取り、腰から腕へと力を加えて敵へと投げつけた! 

 

「『セイバー』ッッッ!!!」

「「「ぎぃやぁぁあああああっ!!」」」

 

 薙ぎ払った輝く魔剣によって敵は切れ飛び、僕の投げた盾がブーメランのような軌道で飛び、敵の鎧を砕いて吹き飛ばしていく。

 

 敵を突き飛ばしていく盾は、やがて僕の方へと戻っていき……。

 

「今だ! 盾を持ってない今攻撃しろ!」

「頭ねじ切ってオモチャにしてやるぜー!」

「キャプテン、僕に任せてください!」

 

 戻ってきた盾めがけてミツルギが魔剣の腹を構え、フルスイングでかっ飛ばした。

 

「「ぐっはぁぁぁああっ!?」」

 

 盾がさっきとは逆の軌道を描いて僕の手元に戻ってくる。

 

「ナイスだ! 君野球できるのか?」

「球技は大体得意でした!」

 

 きっと人気者だったに違いない。

 

 話をしながらでも、ミツルギはパフォーマンスを落とすことなく次々と敵を倒していく。

 

「キャプテンと魔剣の勇者に続けー!」

 

 敵陣に切り込んだ僕らの姿を見た前衛職の冒険者や騎士団が突撃し、現場は大混戦と化した。

 

「全員、互いの背中を守り合え! 後衛職の射線と被らないように気をつけろ!!」

「「「了解!」」」

 

 僕の声を聴いた全員が陣形を取って上手く敵の攻撃を切り抜け、後衛職とタイミングを計り……。

 

「『ファイアーボール』!」

「『ライトニング・ストライク』!」

「『フリーズ・ガスト』!」

 

 様々な種類の魔法が敵の群れへと叩き込まれ、たまらず引いて陣形をとりなそうとする。

 

 当然、そんな隙を与えてやるつもりはない。

 

「裏どり部隊! 今だ!」

 

 合図を出すと同時に、魔法職の透明化の魔法と、盗賊職の潜伏スキルの組み合わせで隠れていた奇襲部隊が姿を現し、一斉に魔法を撃ちこみだした。

 

 当初の計画通りの十字砲火が決まり、敵は次々と倒れていく。

 

「撤退だ撤退! クソ! 覚えてやがれ!! 特にそこのクソダサい装備の盾男! いつか絶対殺してやっからな!」

 

 敵の指揮官が捨てセリフを吐いて逃げだした。

 

 ……そんなにダサいのだろうか。

 

「おい! あいつよりにもよってキャプテンを馬鹿にしやがったぞ!!」

「これだから汚い捨てセリフ吐いて逃げるあの野郎は嫌いなんだ!!」

「キャップの装備はちょっとダサいのが良いんだよ! 待ちやがれ!!」

 

 フォローなのかどうか分からない怒りの言葉を上げて、鬼の形相で敵指揮官を追いかける。

 

「よせ、深追いすると敵に囲まれるぞ!」

 

 そんな僕の制止も聞かず、敵を深追いしすぎてコボルトに取り囲まれている一人の冒険者がいた。

 

「どわーっ! マズイマズイ! 誰か助けてくれー!!」

「今助ける!」

 

 今にもコボルトの群れに袋叩きにされそうな少年の方へと駆け出し、盾を投げて群れを蹴散らす。

 

「平気か? 手を貸すよ」

「あ、ありがとうございます。助かった……」

 

 尻もちをついていた少年に手を差し伸べて立ち上がらせる。

 

 見たところ、ミツルギと同じような日本人のようだ。

 彼も転生者なのだろうか。だが、それにしては……。

 

「見たところ君はまだ……ここに立つにはレベルが足りてないように思えるんだが」

「いや、これにはちょっと色々事情があって……」

「そうか。でも、今度からは仲間と離れず行動するように心がけるんだ、何かあってからじゃ遅いからな。君仲間はどこに」

「『エクスプロージョン』ッッッ!!!」

 

 最後まで言う前に、猛烈な爆音と立っていられないほどの熱波を伴った暴風が吹き荒れ、とっさに少年と共に盾の裏に隠れる。

 

「あの馬鹿野郎がぁぁぁあ!!」

「ぐっ……!? な、何だ!?」

 

 周囲にいた冒険者たちもなすすべなく地面を転がっていく。

 

 しばらくして揺れが収まり、盾から頭を出すと…………。

 

「驚いたな……ハワードの新兵器みたいだ……」

 

 さっきまで撤退中の部隊のいた地点には深さ数メートルはあろうクレーターが出来ており、爆心地の地面は赤く煮えたぎっていた。

 

 一体誰があんな大魔法を……。と、振り返ってみると、とんがり帽子に紅い服、黒いマントという、いかにも魔法使いといった雰囲気の少女が地面に倒れ、大勢に介抱されていた。

 

 そんな彼女に視線を向ける僕を見た少年が。

 

「うちの仲間がすいません…………ほんっとすいません……」

「……いい仲間なんじゃないか?」

「あの、謝っておいてなんだけど、ちょっと何言ってるか分からないですね…………」

 

 敵指揮官は爆死。

 混乱状態に陥る残党もじきに掃討されるだろう。

 

 僕らの勝利だ。

 

「いや、こういう大規模戦闘において、あのような破壊力は有用だ。敵指揮官も仕留められたし、良かったよ」

「そっすか……そう言った人間は初めてかもしれないな……はぁ……」

 

 目の前の少年は、助かったにも関わらず、どこか辛そうにため息を吐いていた。

 

「何か心配事があるのか? もしかして、仲間が倒れたとかか……?」

「いや、そんなんじゃないんですけど……俺、この戦いで戦果上げないと、王都から追い出されちまうんですよ。せっかく王女の遊び相手に就任したっていうのに……」

 

 

 アイリスの事か。

 そういえば最近……()()()()()の時に、なにか楽しそうに語っていたな。

 

 確か名前は……。

 

「あぁ。俺の名前はカズマ。サトウカズマって言います」

 

 アイリス曰く、最弱職にして数多の魔王軍幹部を倒したという男。

 

 さっきまでコボルトの群れに殺されそうになっていた目の前の少年は、確かにその名を名乗った。

 

 

 ▽

 

 

「あっちに逃げ……ぐあああ!!」

 

 絶好調。

 

「ここから先は……」

「『バインド』!」

「しまっ……ああああああああーっ!?」

 

 絶好調、絶好調! 

 

「な、なんだあいつ!? 触れたそばから次々と兵士を気絶させてっているぞ!?」

「お、おい! とまれ! 止まらないなら……」

「『ウィンド・ブレス』!」

「ぎゃぁああ! 目が……」

 

 初級魔法の組み合わせで身動きの取れなくなった兵士の手を取り、ドレインタッチで即座に無力化する。

 一瞬で体力を吸われ、叫ぶ間もなく倒れ伏す兵士の姿を見て、他の兵士たちが驚きの声を上げながら一歩後ずさる。

 

「フハハハハハ! 絶好調! 絶好調!! 今宵の俺は何でもできそうだ!! かかってくるがいいわ! フハハハハハハハ!!!」

 

 月明かりが差し込む廊下で、高笑いを上げながら倒れた兵士をまたいで歩き向かうその姿は、きっと敵からは魔王かなにかのように見えているであろう。

 

「助手君!? どうしちゃったのさ助手君!」

 

 俺はこの一週間程度で俺にとてもなついてくれたアイリスの事を思い浮かべながら、彼女の首にかかっている入れ替わりの効果を持った危険なネックレスを奪う為、王城の最上階、アイリスの寝室めがけてひた走る。

 

「お頭、このまま王女の部屋まで突撃し、ネックレスを奪って脱出しますよ!」

「わ、わかったけど……なんだか変だよ助手君!」

「オラァ! 銀髪盗賊団が通るぞ! どけどけ! 蹴散らされてぇか!!」

「助手君! セリフが三下のソレだよ!! というか、大々的に名前を叫ばないでよ! 銀髪ってだけで目をつけられたらどうすんのさ!!」

 

 向かって来た敵をバインドで縛り上げ、ドレインタッチでエネルギーを吸い尽くす。

 どうやら盗賊系スキルは騎士や兵士は盗賊職と相性が悪いようだ。

 これは好都合。

 

 魔力がなくなれば吸い、ロープがなくなればカーテンを引きちぎって紐替わりに。

 あの手この手で次々と兵士を無力化していく。

 

 とはいえここは王城の中。倒しても倒しても敵兵士が次々とやってくる。

 流石にすべてを相手はしてられない。

 

 逃げながら道を水と氷の初級魔法のコンボで凍結させて時間を稼いだり、クリスの《ワイヤートラップ》という、道を鋼線で封鎖するスキルで敵を通せんぼしたりしながら、なるべく敵との交戦は避ける形で王女の部屋へと進んでいく。

 

 

「チクショウ! なんで増援が来ないんだ!! これだけの手練れ、三人だけで倒せるわけが……ぎゃぁぁあああっ!!」

 

 めっちゃ足止めしてるからです。

 

 うろたえる騎士を縛り上げ、ドレインタッチで気絶させる。

 

「さて……次は誰だ?」

「くっ……!」

 

 おびえたように後ずさる二人の兵士。

 

 もうこんなのは敵ではない。

 素早く目つぶしコンボを食らわせ、魔力を奪って地面に転がしておく。

 

 さて、あと少し進めば……もうアイリスの部屋だ。

 待ってろよ。今お兄ちゃんが今助けに……。

 

 ──バツンッ。

 

「……は?」

「……へ?」

 

 後ろからしたありえない音に、思わず振り返る俺とクリス。

 聞こえてきたのは、張り詰めた鋼鉄の弦が爆ぜる音。

 

 それも、ワイヤーカッターみたいなもので丁寧に切った音ではなく、何か強力な力で強引に突破したかのような、引きちぎられた音のようだった。

 

「あれって……」

「お頭の張ったワイヤートラップが破られたようです……って、なんか変な音しませんか?」

 

 それは、空気を裂いて何かがこちらに迫る音。

 何処か聞き覚えのある音だなと思ったのも束の間。

 

「ッ! 助手君伏せて!」

「うおおおおッ!?」

 

 闇が帳を下ろす廊下の奥から、まさに暗黒を切り裂く流れ星がごとく、鈍く瞬く星が光の尾を引いてこちらに向かってくるのが見えた。

 クリスに押し倒されるようにして地べたに伏せることによって、何とかそれを躱す。

 

 仰向けに倒れたその直前に、俺の鼻先を馬鹿でかいフリスビーが過ぎ去っていった。

 

「な、なんだぁ!?」

 

 それが飛び去った先で大きな金属音がしたかと思うと、その物体は速度を変えずに来た道を戻る。

 糸で引かれたかのようにまっすぐ廊下の闇へ吸い込まれていったその先から……ゆっくりとした足音と共に、一人の男が現れた。

 

「一度しか言わないぞ、投降しろ」

 

 赤と青と白。

 俺が生前いた世界にあった何処かの国旗を思わせるその衣装を身に纏った男は、A()の文字が描かれたヘルメットを窓から差す月明かりに浮かび上がらせながら、絶対的な意志を感じさせる瞳で俺達を睨みつけ、そう言い放った。

 

 というか、この盾男は……あの時の……! 

 

「じょ……助手君……か、彼とだけはちょっと戦いたくないな……」

「何日和ったこと言ってるんですかお頭。こいつさえ倒せば、後はもう目標のものを取るだけですよ? ほら、こんなダサイ服着た奴なんてさっさと……あ、あの……なんでそんな目で見てくるんですか? なんで怒ってるんですか?」

 

 ダサイと言った途端にクリスの目がスッと細くなり、咎めるような視線を向けてくる。

 そんなクリスの目に困惑していると。

 

「ロジャース殿!」

「キャプテン、助けに来ました!」

 

 キャプテンと呼ばれた男の後ろから、ミツルギにクレア、レインが険しい顔で駆けつけてきた。

 ……が、それを男は手のひらを出して制する。

 

「ここは僕が相手をする。君達は王女の元へと向かって、彼女の守りを固めておいてくれ」

「りょ、了解!」

 

 そう答えつつも、どこか心苦しそうな顔をしながら、アイリスの部屋へと続く迂回路に走る三人。

 俺達が今いる最短ルートより時間はかかるが、このキャプテンだかいう奴に粘られ、目標部屋の守りをあの三人に固められると正直きつい。

 

 となれば答えはただ一つ。

 俺は、走るミツルギの足元に指を向けて。

 

 

「『フリーズ』」

「ぶべっ!?」

「み、ミツルギ殿ー!?」

 

 靴裏を凍らせて盛大に転ばせてやった。

 ミツルギを狙ったのに特に理由はない。ミツルギよりクレアの方が狙いやすかったが、それでも特に理由は無い。

 

 廊下に響くマヌケな悲鳴に、キャプテンは驚いた様子で振り向く。

 

 その一瞬のスキを作れれば満足だ! 

 俺はキャプテンへと手を向ける。俺の必殺技、いつものあの手だ。

 

「ッ!」

 

 だが、そこはここを一人で任されるだけの実力者なことはあるのか。

 

「助手君! 避けて!」

 

 すぐさま俺へと視線を戻し、阻止しようと盾を投げる動作を見せ……。

 

「……!?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、腕と盾の持ち手の接着部に驚愕して一瞬固まる。

 

「喰らえっ! 『スティール』ッッ!!」

 

 確かな重みが俺の腕に伝わる。

 幸運値が高い上に現在絶好調な俺のスティールは、狙いを外すことなく盾を奪っていた。

 

 このままキャプテンを瞬殺できれば、アイリスの部屋に先回りされることもない! 

 これでもうこっちのものだ! 

 

「よしっ! これであいつももう何も……」

「駄目だよ助手君!! キャップは盾を取られたって……」

 

 クリスが最後まで言う前に、キャプテンは猛牛のごとき勢いで俺へと駆け出して跳ぶ。

 宙に浮いたキャプテンは、空中で脚を折り曲げて体を縮め、跳んだ勢いはそのままに、その足を俺に向けて……。

 

 こ、これって……、

 ドロップ──

 

「──キックぁあああっっ!?」

 

 盾越しに思いっきり蹴り飛ばされた俺は、情けない声を上げながら地面を転がっていく。

 盾を持っていなかったら、肋骨は全て折れて内臓もやられてたかもしれない。

 

 まるでダンプカーの正面衝突。

 

 まぁ、そんなものに衝突されたこともないし、ここに来た死因は衝突されたと思ってショック死しただけなんですけど、そんなイメージが脳裏をよぎった。

 

「助手君──!」

 

 俺を蹴り飛ばしたあげく、次いでにちゃっかり盾を奪い返していたキャプテンは、再び盾を腕に装着して構えた。

 

 半身に構えたボクサーのような姿勢。

 盾越しに、不屈の意志が宿った瞳が俺達を射抜く。

 

 

 

 

 

 

まだやれるぞ(I CAN DO THIS ALL DAY)

 

 そのたたずまいから、俺はまるで決して登れない山が目の前にそびえたっているかのような錯覚を覚えた。

 

 ……えっ、なにこいつ倒せんの? 

 そんな強くなさそうに見えるのに勝てる気がしないんだけど。

 

「あと少しってところで!! くそったれー!!」

「口が悪いぞ!」

「ひぇっ!」

 

 叩きつけるようにして地面に盾を投げつけるキャプテン。

 怒ってものに当たったわけではないのだろう。

 

 直線的に盾飛ばしてきてた先程とは打って変わり、廊下の床、天井、左右の壁と、縦横無尽に反射する盾が網目上の軌跡を描いて俺達へと迫る。

 

 なにこれ超怖い! 

 

「お、お頭ーっ!」

「も、もう! こんな時だけあたしを頼るなようっ! ワ、『ワイヤートラップ』!」

 

 廊下にワイヤーを張り巡らせ、からめとるかのようにして盾の動きを……。

 

「お頭! まるで動きが止まってません!! ブチブチちぎられてます!!」

「鋼線だよ!? 本当にどうなってるのかな!? 『ワイヤートラップ』! 『ワイヤートラップ』!! 『ワイヤートラップ』!! うぉりゃぁああああああッ!!!!」

 

 クリスが魔力を大量に使って、もはや蜘蛛の巣かのように鋼線を張ることによって、ようやく盾の動きが止まった。

 

「も、もう限界……! これ以上は魔力が……!」

 

 額に大粒の汗を浮かべたクリスが、肩で息をして膝に手をついて息を整える。

 

 キャプテンはというと、特別驚いたような顔も見せず、黙ってワイヤーの中にある盾をワイヤーから引っ張り出し、窓から飛び出した。

 

「ええっ!?」

 

 窓から飛び出したキャプテンは窓下の外壁に盾を突き刺して、逆上がりの要領で飛び上がり、再び窓ガラスを蹴り壊して俺達の背後へと躍り出た。

 

 最上階近いんだぞ、張り巡らされたワイヤーを窓の外から迂回するなんて正気かこいつ!? 

 

 というか…………。

 

「さて、これで退路も絶たれたな……」

 

 背後に回られたことにより、俺たちはキャプテンとワイヤーの壁の挟み撃ちにされてしまった。

 

 やべぇ! 万事休すだ! 

 

「チートだろあんなん! どうしろって言うんだよ! ち、ちくしょおおお!! アイリスー!! ふがいないお兄ちゃんを許してくれー!」

 

 もはやこれまでと思ったその時、クリスが俺とキャプテンの間に割って入った。

 

「ちょっ!! お頭!? 何やってんですか!? 危ないですよ!」

「ごめん、助手君。ちょっと静かにしてて」

 

 一体何を思ったのか。

 

 クリスはキャプテンと向き合うと、口元に巻いていたスカーフを取って素顔を晒した。

 

 …………!? 

 

「キャプテン……いえ、スティーブ・ロジャースさん……私を覚えていますか? あなたをこの世界に送った、女神エリスです」

 

 ……えっ。

 

 

 ▽

 

 

 最近ではあるが、遠い昔にも思える出来事を振り返り、僕はカズマに顔を向ける。

 

「──なんてのが、君との出会いだったか」

「いきなりどうしたんだよ?」

「いいや、君という人間を再認識しておきたかったんだ」

「……?」

 

 僕の言っている言葉が理解できず、首をかしげるカズマ。

 そんな彼から視線を再び前へと戻す。

 

 視界に映るのは、自分の領民の金を巻き上げて作られた、傲慢さがそのまま形になったかのような、巨大で醜い屋敷。

 

 事の発端は、銀髪の義賊として暗躍していたクリスが、自らの正体をエリスだと名乗ったことからだった。

 

 アイリス……王女が首に付けている神器は、装着者と他者を入れ替えることができるという能力を持ったもの。

 この神器の真の恐ろしさは、入れ替わってる途中で片方が死ぬと、もう元には戻らない性質にある。

 

 理論上永遠の命を得ることも可能。そんなものが王子の元へと送られ、そして、王女へと渡っていた。

 僕はクリスから事情を聞いたうえで、彼女に協力することを決意。

 

 その後、出どころを追い続けた先に浮かび上がったのは、今目の前に佇む屋敷の持ち主にして、この街……アクセルの領主である、アレクセイ・バーネス・アルダープの影だった。

 

 だが、彼を調べて分かったのは、いつボロが出てもおかしくない程に好き勝手を繰り返しているにもかかわらず、決して証拠が見つからないことにあった。

 

「にしても、都合よく真実を捻じ曲げられる悪魔ねぇ……しかも、バニルと同じ最上級の公爵級悪魔とは……でもアクアの言ったことだぞ? 信じていいのか?」

「アクアは良くも悪くも素直だ。普段はともかく、自分が直感で感じ取ったことに対しての発言には信憑性がある」

 

 そう、アルダープの手掛かりが全くつかめない中、カズマの仲間にして対悪魔のエキスパートであるアクアという女性が、同じくカズマの仲間の一人である、ダクネスと呼ばれるクルセイダーの父親、ダスティネス・フォード・イグニスに、高位の悪魔による強力な呪いが掛けられていたことを看破、解呪した。

 

 ダクネスの父が死んで喜ぶ人間はただ一人。

 点と点がつながり、線となった。

 

 僕とクリスは、アルダープが悪魔の力を使って犯罪の証拠をもみ消していると推定。

 エリスとしての知識、存在するあらゆる文献から照らし合わせた結果……。

 

 辿り着いた答えは……証拠をもみ消すどころか、真実を捻じ曲げて都合よく辻褄を合わせる……そんな恐ろしい芸当が可能な大悪魔……地獄の公爵、辻褄合わせのマクスウェルだった。

 

 今夜はその答え合わせのために、こうしてアルダープの屋敷まで来たのだが……これは、下手をすれば公爵級の悪魔と戦うことになるかもしれない危険な潜入作戦。

 

 そして、聞き及んだアルダープの性格上、僕らが奴を追い詰めてしまえば、ヤケを起こしてなりふり構わず人質にしようと悪魔や刺客をダスティネス邸へと向かわせるかもしれない。

 

 そのため、カズマ以外のパーティーメンバーと、敵感知スキルを持つクリスはダクネスの父の護衛にあたらせた。

 

 あとは、乗り込むだけだ。

 

 僕が屋敷へと踏み出すと、後ろから小さな声が聞こえてきた。

 

「……キャップ。一つ思ったんだけどさ……」

 

 歯切れが悪そうに、僕と目は合わせずに言葉を続ける。

 

「もうダクネスの親父さんも治ったことだし……このまま引き返して、みんなでどこかに逃げないか? 無理して恐ろしい奴と戦う必要なんてないんじゃないのか?」

「奴が執着してるダクネスがいなくなったとなれば、どんな行動に出るか分からない。それこそ、もっと恐ろしいことになるかもしれない。止められるのは、僕達だけだ」

「はあぁぁぁあ…………これだから正義ガチ勢は……」

 

 頭を抱えてその場にしゃがみ込むカズマ。

 彼もまだ子供だ。死ぬかもしれない危険の中に飛び込めだなんていうのは、あまりにも酷だろう。

 

「よくわかんねぇよ、ヒーローが考える事って。自分大事じゃないの? 俺は嫌だよ、死ぬのなんてまっぴらごめんだ。キャップは怖くないのか?」

 

 屋敷へと向かう一歩を踏み出せないでいるカズマの肩に、僕は軽く手を置いて。

 

「逃げて隠れたらそれで敵の勝ちだ。生き延びてやるって心の中で叫んで、戦い続けろ。危ない時は、僕が盾になってやる」

「ハッ……その言葉、俺がこう言った時の為に練習してただろ?」

「……ああ、盾の裏に台本のメモが張ってある」

「お前も冗談言えるんだな」

 

 カズマの表情が少し和らいだ。

 もう大丈夫だろう。

 

 僕は盾を構えると、今度はカズマと共に屋敷へと踏み出した。

 ポケットに入っている、ペギーの顔写真が入ったコンパスを、願掛けのように一度握りしめてから。

 

 

 ▽

 

 

「えーっ、なんだかうそくさーい。公爵級の悪魔なんて本当にいたの?」

 

 ベンチに座る僕の隣で一連の話を聞いた子供が、疑わしそうな眼を向けてきた。

 

「はは……まぁ、今から七十年も前の話だ。それに、文献にも残ってない戦いだからね」

「おじちゃんは勇者だったの?」

「いいや……兵士だったよ」

「……武器が盾だったって本当なの? 勇者はみんな伝説の剣とかでたたかうって聞いたのに」

 

 どうやら子供は派手な方が好きらしい。

 

「盾だって、立派な武器さ。仲間を守れる」

「ふーん。あっ、お母さんが呼んでるからもう行かなきゃ。またね、おじちゃん!」

「ああ」

 

 走り去る子供の背中を見守っていると、僕の隣に誰かが座ってきた。

 腰を優に超えるほどの長い銀髪、そしてアメジスト色の瞳。

 

 僕をこの世界に導いた、女神エリスがそこにいた。

 

「やぁ、エリス。元気そうだな」

「……ええ」

 

 その顔には、どこか陰りが感じられた。

 なにか、どうしようもない何かを嘆くかのような……。

 

「スティーブ・ロジャースさん。貴方がこの世界に来て七十年……これまでの長い間、この世界を守っていただきありがとうございました。この世界を管理する者の一人として、感謝を申し上げます」

「僕にやれることをやり続けたまでさ」

「……ここから先は、ちょっと複雑なので、場所を変えましょうか」

 

 そう言ってエリスが指を弾くと、目の前の景色が歪んで……。

 

「これはまた……懐かしい場所だな」

 

 僕が初めてエリスとあった場所に来ていた。

 一つ違うのは、エリスの後ろに、背中に白鳥のような羽をはやした女性や、エリスと似たような羽衣を纏った女性が複数人並んでいるということ。

 

「スティーブ・ロジャースさん、率直に言います。もうすぐあなたの寿命は尽きてしまいます」

「……そうか」

 

 自分の手に、一度目を落とす。

 しわだらけで、古傷だらけだ。

 

 この世界を守ってほしいと頼まれてから七十年。

 

 とても長く、そして濃かった。

 カズマ達も、もうアクア以外はみんな天寿全うして先立ってしまっている。

 

 この世界に未練はない。

 寿命が来ていると言われても、特に動揺はしなかった。

 

「そしてもう一つ、重大なお知らせと……貴方に謝らなくてはならないことがあります」

「軽く言って貰っても構わないよ。もう、何にも驚くことは無いさ」

 

 それを聞いたエリスは困ったように頬をポリポリと掻いて、そして……。

 

「……実は、あなたがこの世界に来たのは、我々の手違いによるものでした」

「ゴホッ!!」

「ス、スティーブさん!!」

 

 ……入れ歯を必要としない健康な歯でよかった。

 もししていたら、エリスの方まで吹っ飛んでいたかもしれない。

 

 何処からか出現させた水を持ってエリスが駆けつけるが、大丈夫だと手を突き出してそれを止めた。

 

 エリスは安心したように一度息を吐くと、再び話を続けた。

 

「あなたは生前、自国を守る為に自分ごと爆撃機を北極へと墜落させました。そこであなたは全身が凍結したものの、超人血清の力で一時的な仮死状態となっていたのです。ですが、そこを私たち神々が死んだものと誤認し、こちらの世界へと転生させてしまいました」

 

 申し訳なさそうにエリスが頭を下げてきた。

 だが僕からすれば、驚きこそすれど謝られるような事ではなかった。

 

 僕はその旨を彼女に伝えようとする。

 

「エリス。僕は、この世界にこれてよかったと思っている。楽しい世界だったよ」

 

 野菜が空を飛び、サンマが畑から採れるのを知ったときは自分の正気を疑ったりしたものだったが、それも今となってはいい思い出だ。

 そんな言葉を聞いたエリスは微笑んで、

 

「……ありがとうございます、キャプテン。そう言っていただけると救われます」

 

 クリスのときと同じように、改めて僕のもう一つの名を口にした。

 

 それから……と、エリスが話を続けると、羽をはやした女性が僕の元へと資料を渡しにきた。

 その書類を手に取って、中身を確認する。

 

 内容は、S.H.I.E.L.D.による僕の蘇生計画について記されたものだった。

 ただし、その計画の実行日には……2011年と書かれていた。

 

「御覧の通りです、キャプテン。あなたの肉体は氷の中で発見され、今は現代の地球で治療を受けています」

 

 これは予想していなかった。

 資料に載っている僕の写真は、1945年の時の若い時そのままだ。

 

 ただちょっと……顔色が悪くて冷たそうなだけだ。

 資料から目を放して顔を上げると、エリスは真剣な表情で。

 

「本題はここからです、キャプテン。現在、あなたの魂はこちらにあるので、元居た世界のあなたの肉体は目覚めることはありません」

「……僕は元の世界に戻れるということか?」

 

 コクリと、エリスが小さくうなずいた。

 

 一度、上を見上げる。

 無機質な、古代ローマ時代の神殿のような天井をしばらく眺めた。

 

 ……元居た世界の七十年後の未来。

 きっと、僕が見知った人間は存在していないだろう。

 

 またもう一度、すべてをやり直すのか。

 

 一つだけ気になったことを、僕はエリスに聞いてみる。

 

「……未来の世界でも、僕の力を必要としている人がいるのか?」

「はい、あなたが元いた世界で、邪悪な何かが水面下で悪事を企てているようで……」

 

 

 

「わかった」

 

 最後まで聞く前に、僕は椅子を立ち上がる。

 

「僕を元居た世界へと送ってくれ、エリス」

 

 その言葉を聞いたエリスは、一度寂しげに微笑んで、僕と同じように立ち上がった。

 

「本当は、永く戦い続けたあなたには休んで頂きたいという気持ちもありました。ですが、あなたは行くのですね」

「……ああ」

 

 立ち上がったエリスが横にどけると、僕と彼女が座っていた椅子は光の粒子となってきて、その少し後ろに扉が出現した。

 

「キャプテン。何か欲しいものがあれば言ってください。この世界を守っていただいたそのお礼に、どんなものでも我々神々から元居た世界のあなたへと送ります」

「……欲しい物……そうだな……」

 

 僕は過去の思い出を振り返った後に、エリスに告げた。

 

 

 

 

 

 

 

「この世界にいたという証が……何か一つ欲しい」

 

 エリスはわかりましたと笑って指をはじくと、先程出現した扉が開いて。中から光があふれた。

 そのまぶしさに一度手を目の前にかざして目を細める。

 

 やがて光が弱まり、顔の前にかざした手を下げると、そこにはエリスをはじめとした女性たちが、扉への道を作るかのよう左右に分かれ、胸に手を置いてお辞儀をしていた。

 

「そんな大仰にしなくてもいいのに……」

「いえ、こうさせてください。世界を三度救わんとする英雄へ、我々から敬礼を送らせてください」

 

 ……。

 これで終わりだ。

 

 一歩一歩を踏みしめるようにして、光の門へと向かっていく。

 彼女達一人一人の前を通り過ぎるたびに、感謝の言葉をかけられた。

 

 振り返ることは無く、僕は最後に手を振りながら、門の中へと入っていった。

 

 

 ▽

 

 

 古びたボクシングジムに、サンドバッグを殴りつける音が響く。

 規則的な音がしばらく続き……やがて鎖のちぎれる音と共に、サンドバッグがはじけて床に転がった。

 

 額の汗をぬぐって、替えのサンドバッグをぶら下げると、再びそれを叩き始める。

 

 トレーニングを続けていると、僕の後ろから厳格そうな男の声が聞こえた。

 

「元気そうで何よりだ」

 

 黒いジャケットを羽織った眼帯の男、ニック・フューリーが、そう言って僕の近くに立つ。

 

「ああ、腹も減っている」

「それなら、近くのバーガーショップにでも行かないか? 昔の店より美味いぞ。ちょうど話もある」

「任務か?」

「そんなところだ」

 

 手に巻いていたバンテージをとって、服を着替えた。

 フューリーが、こっちへこいと顎で指してくる。

 

「表に車を用意してある。話はそこでしよう」

「ああ」

 

 財布をポケットに入れて出口へと向かうと、フューリーは少しだけ不思議そうに尋ねてきた。

 

「七十年眠り、何もかも変わった世界を目の当たりした割には、穏やかな顔をしているな。なにかあったのか?」

「そうだな……」

 

 僕は財布から一枚の写真を取り出す。

 

 カズマ、アクア、めぐみん、ダクネス、そしてクリス。

 王都で出会い、やがて行動を共にして魔王を倒した、大切な仲間たち。

 

 そんな彼らと撮った一枚の写真を眺めて、懐かしむように笑って答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──この素晴らしい夢を、見ていたからかな」

 

 

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