この素晴らしい世界に祝福を!アナザー・ユニバース・アイアンマン   作:Tony.Stank

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第2話 ありえないほど《堅牢》ありえないほど《幸運》

 絶叫で我に返ったダクネスを尻目に、スーツを着てるはずの僕をギルドの入り口から路地裏まで引っ張るクリスもといエリス。

 

「おい、いきなり引っ張ってどうし」

「どうしたもこうしたもないよ! なに普通にばらそうと……いや、なに普通に突き止めてるの!?」

「顔認証システムを使っただけだよ。ちなみに僕の世界にはわりとどこにでもある技術だ。ここがNYじゃなくて良かったな。というか、君こそ髪を短くしただけで変装になってると思ってたのか?」

「うぐぐ‥‥‥」

 

 エリスは悔しそうな顔をして、首に巻いているマフラーを指でいじる。

 本当は頬を掻くクセとスーツを見た事あるような言動で気がついたのだが。

 まぁ、自分で墓穴を掘ったことには変わりない。

 

「はぁ‥‥なんか様になる場面でこっちからカッコよくバラしたかったのに……」

「『真実は……私がエリスだ』。的な感じで?」

「えっ? う、うーん……まぁ、そんな感じで……」

「微妙そうな顔するなよ」

「とにかく!! 間違ってもあたしをエリスってよばないこと! 特に、ダクネスには絶対バレないようにして!」

 

 ──と、クリスがまくし立てていると。

 

「えっと‥‥‥私がどうかしたのか? その……いきなり大声上げて出ていったから心配になってついてきたのだが‥‥‥」

 

 声がした方に顔を向けると、そこには路地裏の入口あたりで、不安そうな顔をしながらこちらを見てくるダクネスの姿があった。

 

「な、なんでもないよダクネス! ちょっとトニーの鎧にゴミが挟まってて危なかったから……」

 

 下手くそな言い訳をしながら、また頬をポリポリと掻くクリス。

 それを見たダクネスは、ますます不安を顔に滲ませる。

 

「クリス、お前は困ったことがあるとそうやって頬を掻くクセがある。何か隠し事をしているんじゃないのか? 困ったことがあったら私に言え。親友だろう? 1人で抱え込むな」

「えっ……う、うん! ありがとうダクネス……!」

 

 親友の言葉に、クリスはとても嬉しそうにはにかんでいた。

 

 あれ、これ僕邪魔かな? 

 

「それじゃ、私はアクセルの門で待っているからな。用事が終わったら追いついてこい」

 

 不安そうな顔から凛とした女騎士らしい表情に変え、踵を返すダクネス。

 その後ろ姿は朝日も相まって、僕ですら思わず見惚れるほど美しく、気高さを感じさせるものだった。

 

「良い友人だな。羨ましいくらいだ」

「……うん。こんな良い親友なのに、本当の事を打ち明けられないなんて辛いね……」

「気持ちはよくわかる。まぁ、いつか様になる場面でカッコよくバラせよ」

「ふふ、そうだね」

 

 ──Darkness(暗闇)。彼女がなぜそんな名前をしているのか気になったが、とりあえずはクリスが持っていた依頼書の場所へと向かうことにし、ダクネスの背を追った。

 

 

 ▽

 

 

 ──僕らは依頼書にあったジャイアントトード討伐のため、アクセル近くの平原まで来ていた。

 スーツを着て長時間歩いたのは初めてかもしれない。

 

「で、ジャイアントトードってのはどんなモンスターなんだ?」

「ジャイアントトードを知らないのか……? 一体どんな国から来たんだ?」

「エイリアンが空に穴を開けて侵略してきたり、手足がもげても再生する体温三千度の高熱人間が束で殺しに来たり、自我を持った人工知能が人類抹殺計画を企てたり‥‥まぁ、そんな国だ」

「え、えいりあん……? じんこうちのう……? よくわからないが、そっちの国も大変なのだな……」

 

 本当に、大変な世界だよ。

 と、その時だった。

 

【付近の地中に多数の生体反応あり】

 

 僕のスーツが、近くの生命体の体温や心音を探知したのか、HUDのレーダーに赤い点で位置を示しだした。

 その方向に顔を向けると……。

 

「出てきた! あれがジャイアントトードだよ!」

 

 ぼこっと音を立て、牛より二回りほど大きな体躯を誇る巨大なカエルが地面から姿を現した。

 なるほど、名前のまんまだ。

 ジャイアントトードは僕たちの方に首を向けると、のっそりとした遅い動きでこちらに向かってくる。

 

「間抜けな顔してるな」

「油断はしないでね! あのカエルのせいで人里の子供や農家の人が毎年犠牲になってる危険なモンスターだから!」

「ヤツらは基本的に舌を伸ばしての捕食攻撃しかしてこない。だが、消化できない金属を嫌うのでトニーが食われることはないだろう。私とトニーでクリスを守るぞ」

「つまり君も食われることはないって訳か。了解だ、それじゃ……」

 

 機動力のある僕がおとりになる。そう言おうとした時だった。

 

「ダ、ダクネス!? ダクネス何してんの!? 駄目だよ! 今は抑えて!」 

 

 横にいたダクネスが、おもむろに鎧を脱いでいた。

 鎧の下に着ていた黒い全身タイツのみになり、ストレッチを始める。

 

 ‥‥‥‥???? 

 

「なぁ、なんで鎧を脱いでいるんだ?」

「?」

 

 僕の純粋な疑問に、不思議そうな顔をするダクネス。

 不思議に思ってるのはこっちだ。

 

「もう一度聞くぞ。何で、鎧を、脱いでるんだ?」

「決まっているだろう。鎧を着てたら捕食されないからだ」

 

 真顔でそんなセリフを言ってのけるダクネス。

 僕はその言葉に込められた意味を、遠心分離機より早く頭脳を回転させて必死に探し出す。

 そして一つの結論にたどり着いた。これだ。

 

「あー……。なるほど、クリスを標的から外すためか。素敵な自己犠牲の精神だな」

「いいや? 捕食されたいからだが?」

「……は?」 

 

 僕がたどり着いた完璧な結論は、イカレてるとしか思えないダクネスの爆弾発言の前に、粉みじんに爆散した。

 本当にこの女は何を言っているんだろうか。異世界だからなにか色々と違うのだろうか。

 頼むからそうであってくれ。

 

「ふ、ふふふ……私は今からあの長い舌にとらわれ、粘液でぐちょぐちょにされてしまうのだ‥‥そ、そう考えるだけで……では、行ってくる!!」

「おい、ちょっと待て! クリス! 援護するぞ!」

「うん!」

 

 ダクネスは恍惚とした表情を浮かべながら、剣を構えてカエルに突撃して行く。

 先ほど彼女に感じた美しさと高潔さが今にも崩れそうだが、モンスターにまっすぐ突っ込んでいったのでクリスと二人で援護することにする。

 

 とりあえず、あのジャイアントトードのサンプルが欲しい。あれだけ大きくなった理由が知りたい。

 リパルサーの出力を殺傷から衝撃レベルまで落とし、カエルの体のど真ん中に照準を合わせる。

 衝撃リパルサーなら、体をほとんど傷つけずに倒すことができるはずだ。上げすぎるとその場でフライになってしまう。

 さぁ、これならどうだ。

 掌から照射されたリパルサーが、ダクネスの横を通り、ジャイアントトードの腹へと突き刺さ……。

 

 ──ボヨンッ

 

「グハァッ!?」

「ダクネスーッ!?」

 

 ……突き刺さることはなく、バランスボールを蹴ったような音を立てながら弾かれ、代わりにダクネスの腹に突き刺さった。

 ダクネスの体が吹っ飛んで宙を舞い、僕らの後方に落下する。クリスの悲痛な叫びが空に響いた。

 

 マズイ……! 今のは巨大なカエルを倒す程度の出力は出ている。そんなものを人間が、ましてやなんの防具も装備していない状態で食らったら……。

 

「この……!」

 

 カエルを放置しておくのは危険と判断し、頭に照準を合わせ、殺傷レベルまで上げたリパルサーをカエルに食らわせる。

 頭の上が吹っ飛び、カエルがその場に倒れた。おそらく死んだと思うが、今はそんなのを確認してる暇もない。

 僕はマスクを開けて、クリスと一緒にダクネスの元へ容態を確認しに駆けつける。

 

「ダクネス! 大丈夫か! しっかりしろ!」

 

 あれだけの勢いで飛ばされたなら、よくて内臓破裂。悪くて即死。

 色々な不安が頭の中に浮かび、顔を青くさせてダクネスに呼びかける。

 うつぶせに倒れている為、顔を見ることができない。

 

「ダクネス! 返事して!」

 

 僕とクリスの呼びかけに気が付いたのか、ダクネスの体がピクリと動き、僕とクリスは顔を見合わせてほっとする。

 ひとまずは生きているみたいだ。とりあえず彼女を抱えて街へ向かおうとした時だった。

 

 ダクネスが急に体をうずくまらせてプルプルと震えだす。

 

「おい、動くな! 今から街に運んで……」

 

 そこまで言ったところで、ダクネスがゴロリと寝返りを打ち、体と顔をこっちに向ける。

 僕は、その彼女を……というより、彼女の表情を見て絶句した。

 

「はあ……はあ……なんだ……今のは……。まるで、内臓全体を同時に揺さぶられたかのような……こ、こんなのは初めてだ……。た、たてにゃい……」

 

 ダクネスは……なんというか、口の端からよだれをたらし、頬を真っ赤に上気させ、それはそれは幸せそうな‥‥‥。一言で言うなら発情したという感じの、恍惚とした表情をしていた。

 

 ‥‥‥。

 

 僕は理解してしまった。この女は、被虐趣味持ち(タダのドM)なのだ。

 さっき高潔で美しいと感じていた、僕の心の中での彼女の像はもはや見る影もない。

 

「んくぅっ……! あんな攻撃を食らわせておいて、そんな残念な奴を見るような目を向けられる……ふ、ふふふ……悪くないぞ……お前とクエストに来て良かった‥‥」

 

 一応バイタルを確認したが、内臓系統に損傷は見られなかった。

 おそらく、ギルドでクリスが説明してくれた職業補正や、レベルアップによるステータスの上昇とかいったやつのおかげだろう。

 特に心配する必要もなくなり、いよいよ僕は。

 

「クリス、僕もう帰っていいか?」

「ま、待って! 確かにちょっとおかしいところもあるけど、根はとても優しくていい子なんだよ! 信じて!」

「ハァ……」

 

 思わずため息が出るが、まだカエルの反応はある。

 一度引き受けたんだ、最後までやってやろう。

 

 さっき僕がカエルを吹き飛ばした音を聞いてか、周囲の土から大量のカエルがぼこぼこと出てくる。ざっとみて二十匹はいるだろうか。

 

「うっ……ダクネスが動けないから、この数はやばいかも……!」

「大丈夫だ。そこでダクネスの介抱をしてろ。僕がせん滅してきてやる」

「えっ! 大丈夫なの!?」

「僕が何を見込まれ、何のためにここに呼び出されたか分かっているのか? こんなデカいだけの両生類に遅れをとるわけがないだろ。いいからそこで見てろ」

 

 そう言って、マスクを閉じ、スーツからリパルサーエンジンの音を響かせながら、地面から湧き出してこちらへ向かってくるカエルの群れへと歩いていく。

 

 少し距離があったカエルの一匹が、僕めがけて跳躍してきた。

 数十メートルもある距離を跳んで一気に詰めてくるカエルだが、空中にいたところを僕のリパルサーで撃ち落とされ、地面に落下する。

 

 仲間が死んでも警戒することなく、正面から向かってくるカエル達。

 これなら的打ちと大して変わらないな。

 

 そう思いながら、次の標的に掌を向けると‥‥。

 

「ッ!」

「ダクネス!? 駄目だよ安静にしてなきゃ!」

 

 僕の背後からそんなやり取りが聞こえてきたので、カエルに向けていた手を下ろし、後ろに振り向く。

 ダクネスがクリスの元から飛び出し、何かを期待するよう目で、僕とカエルを見ていた。

 

「何しに来た。下がっていろって言っただろ。悪いが、君が性玩具にしようとしているカエルは、僕が今から全部倒すからな?」

「‥‥‥」

「おい、聞いてるのか?」

「‥‥‥」

 

 ダクネスは何をするでも、何を言うでもなく、ただ黙って僕とカエルを交互に見ていた。

 何がしたいんだ……? さっきの衝撃で元々おかしかった頭がさらにおかしくなってしまったのかもしれない。

 とりあえず無視しよう。

 そう決めて今度こそカエルを倒そうと、掌をカエルに向けた時だった。

 

「ッ! ここだ!」

 

 ダクネスが、素早い動きでサイドステップしたかと思えば、またすぐピタリと止まった。

 

「ね、ねぇ……ダクネスなにしてるの……? 邪魔になるからこっちに戻ろ……?」

「クリス、邪魔をしないでくれるか。今私は、かつてないほどに集中しているのだ。少し静かにしていてくれ」

「えっ……う、うん‥‥」

 

 クリスが制止しようとするも、ダクネスから発せられる気迫に圧されたのか、すぐに引き下がる。

 

「その角度だ……トニー、その角度でカエルの腹めがけて先ほどの攻撃を行ってくれ」

 

 ダクネスが、そんな意味不明な指示を……。

 

 ‥‥‥‥。まさか。

 

 嫌な予感がした僕は、向けていた掌を試しに少しだけずらす。

 そうすると、ダクネスも少しだけずれた。

 

 ……こんなこと想像もしたくないが、ダクネスのこの動きに結び付く結論はただ一つ。

 

 

 この女は、カエルの腹で弾かれるリパルサーの入射角と反射角を一瞬で正確に計算し、リパルサーが自分に飛んで来る位置に移動していたのだ。

 信じられない。その計算能力も自分の性癖への執念も。

 

 ……上等だ。

 

「君の期待には絶対に応えないからな」

「!?」

 

 僕は、カエルすべてロックオンし、肩部を展開させる。

 せりあがった肩部からマイクロミサイルが飛び出し、カエルの群れに降り注いだ! 

 

 

 

 ▽

 

 

 

「はい、ジャイアントトードの討伐、お疲れさまでした。まぁ、二十六匹も討伐されたんですか! すごいですね! おめでとうございます!」

「うぅっ……もう一度さっきの光の熱線を味わいたかったのに……なんだ、あの魔法は……あんな広範囲の敵をまとめて吹き飛ばす魔法なんて見たことが無いぞ……お前は一体何者なんだ……!」

「少なくとも、君の性処理係では無い事だけは確かだ」

 

 カエルをせん滅した僕らは、報酬を受け取るためにギルドへと戻っていた。

 冒険者カードを見せ、カエルを討伐した証を受付嬢に見せる。

 カードには僕が記入した訳でもないのに、ジャイアントトードの討伐数が記録されていた。

 本当に未知の技術だ。応用すれば殺人犯の特定などが楽になるかもしれない。

 

「それで、報酬なんですが……」

 

 そこまで言って、受付嬢が言いよどむ。

 

「どうかしたの?」

「その……カエルの移送に向かった方々から、地形が変わってしまっているとの報告を受けまして……まるで、大きな爆発が起きた後のようだったと……それで、その地形の修復の補填の為に、報酬が……その……」

 

 受付嬢が申し訳なさそうに、小さな袋をカウンターテーブルの上に置く。

 置かれたときの音から、中身がほとんど入っていないことがわかる。

 

「本当は、ジャイアントトード十匹討伐のクエスト報酬二十万と、原形が残ってたカエルの買取価格も併せて二十六万エリスの報酬だったのですが……二万エリスに……」

 

 その言葉を聞いてクリスが袋を開けると、そこには二枚の硬貨が入っていた。

 

「あ、あはは……今日の飲み代くらいにはなったね……」

「トニーがあの熱線で敵を倒していたらこんなことには……」

「そもそもはあんたが戦っている時に発情したからだろ! 僕のせいにするな!」

「バ、バカっ! 声が大きい!」

 

 発情という言葉に耳まで赤くして僕の口をふさごうとするダクネス。

 さっきはあんな姿をさらしたというのに、この女は何を恥ずかしがっているんだろうか。

 理解に苦しむ。

 

 しかし、最初に受けたクエストが報酬減額で約二百ドル程度にしかならないとは……。

 アベンジャーズが破壊した建物なんかは一部を除いて国が保障してくれてたんだがな……。

 この世界は思ったより世知辛いようだ。

 

 ▽

 

 

 報酬を受け取った後。

 腹も減って喉も乾いていた僕たちはそのままギルドで食事をとることにした。

 

「すいませーん! カエルのから揚げ盛り合わせと冷えたクリムゾンビアくださーい!」

「私にも同じものを」

「カエル‥‥カエルのから揚げ……? 美味いのか?」

「この街の名物だよ。だまされたと思って食べてごらん? おいしいよ!」

 

 笑顔のクリスに言われ、同じものを注文して運ばれてくるまで待つ。

 しばらくすると、頼んだ料理と飲み物が出てきた。

 

 深めの皿に山盛りにされたから揚げは、揚げる前に何かのタレに付け込まれていたのだろう。揚げ物独特の香ばし匂いの中に、生姜やニンニクの香りが混じっていて食欲をそそる。

 クリスが頼んだクリムゾンビアという名前の飲み物も、ジョッキの飲み口できらめきながら踊る泡、エールビール系統の芳香と、酒好きとしての僕のテンションを上げてくれる。

 

 しかし、カエルか……。ジャンクフードは好きだが、ゲテモノ料理は食べたことが無い。

 話によると鶏肉に似てるらしいが……。まぁ、クリスやダクネスがもうすでに美味しそうに頬張っているんだ。マズイってことはないだろう。

 

 恐る恐る口に一個放り込んで咀嚼する。

 ‥‥‥美味い。

 若干の固さはあるが、むしろ歯ごたえがあると言うべきか。肉汁が染み出し、肉のうまみが噛むたびに広がる。

 二、三個新たに口に放り込んで肉を楽しみ、飲み込んだ後にジョッキに注がれていた酒を一気に喉に流し込む。

 クリスが最初あったときに僕におごってくれたやつだ。

 クリーミーな泡が舌を滑り、冷たい炭酸の液体が喉を通り潤す感触、口に広がる華やかな味わいを楽しむ。

 

「おお、いい飲みっぷりだな。気に入ったか?」

「この国に来て良かったと今ちょっと思ったよ。美味いな」

 

 僕のその言葉にクリスとダクネスが笑顔になった。

 自分の住んでいる街の名物を気に入ってもらえたのがうれしいみたいだ。

 

 食事を終え、しばらくゆっくりしていると、クリスが僕に尋ねてきた。

 

「ところでさ、この後はどうするつもりなの? 寝泊まりとかさ」

「うむ。遠い国からやってきたのだろう? だったら、宿とかは取ってあるのか?」

 

 その言葉に、はっと思い出す。そうだ、この世界に来る特典として持ってきた()()があるのをすっかり忘れていた。

 というか、クリスはアクアと一緒に手伝っていたんだから知っているはずだろう。

 いや、初対面ということになっているのに、知っているようなことを言ったらそれこそおかしいか。

 まずは自分が持ってきた特典まで向かうことにする。

 

「僕の家はここにあるんだ。今から向かうところだよ」

「他国の人間なのにここに家が……?」

「まぁ、別荘みたいなもんだ。来るか?」

「確かトニーは武具の職人だったな。家には製造中の鎧とか置いてあるのか?」

「お菓子の家だよ」

 

 その言葉にダクネスは大人びた顔を子供のように輝かせて。

 

「クリス! 楽しそうだ! クリスも来ないか!?」

「ダクネスがそんなに興味を示すなんて珍しいね。あたしも行くよ」

 

 ここだけ見ると年相応の女の子らしくてかわいいものなのだが‥‥。

 僕はダクネスの残念極まりない面を思い出して少し渋い顔をする。

 その顔を見たダクネスが。

 

「ど、どうした……? 私が来るのは嫌か……?」

「僕の作った武器にさえ発情しなければ構わないさ。誘ったのは僕だしな」

「す、すす、するわけないだろう! 私をなんだと思っているのだ!」

 

 僕の嫌味に机を叩いていきり立つダクネス。

 クリスがダクネスをなだめ、僕にジト目を向けてくる。

 

「もー、ダクネスをあまりからかっちゃだめだよ? この子、強そうに見えて案外繊細なんだからね?」

「はいはい、それじゃ行くか」

 

 馬鹿なやり取りと会計を終え、ギルドの外に出た僕らは目的地へと向かう。

 

「それで、どこにあるのだ? 遠いのか?」

「確認する」

 

 僕はマスクを閉じて。

 

「『レーダー』。『特典場所』」 

「……?」

 

 ダクネスが不思議そうに見つめてくる中。

 僕の声に反応して、HUDのレーダーに特典場所が出現した。

 

『ここよ! ここよ! ここよ!』

「‥‥‥‥」

 

 アクアの、謎のボイスメッセージと共に。

 

 デフォルメされたアクアがレーダーの上で回転しながら二秒に一度座標の位置を教えてくる。鬱陶しくてかなわない。

 僕は無言でスーツのプログラムを目線で操作し、ウィルスじみたアクアのボイスメッセージと、レーダーで踊る3Dアクアを削除する。

 ゴミはゴミ箱へ。スコーンという小気味のいい音を立て、スーツを蝕んでいたアクアのプログラムがHUD上のゴミ箱に落ちた。

 ピロピロピロと昔のゲームを思わせる電子音を響かせ、百点のスコアがゴミ箱の上に表示される。

 

 すっきりした。

 

『何でよーっ!』

 

 最後にそんなメッセージを残してアクアのプログラムが消滅した。

 どうしてこんな無駄なところが凝ってるんだ。

 こんなもの作らなければ、あの時もう少し早く特典を用意して準備を終わらせることができたんじゃないのか? 

 

「ねぇ、もう日が沈みかけているし、郊外だったら行って帰ってきたら夜遅くなっちゃうよ? 明日でもいいんじゃない?」

「うーむ……それもそうだな。すまないがトニー、明日でもいいだろうか?」

 

 クリスがそんな提案をし、ダクネスがそれに同意する。

 だが、僕には策があった。

 

「いや、そうする必要はない。二人とも僕に近づけ。すぐに連れてってやる」

「……? どういうことだ? テレポートを持っているのか?」

「いいや。テレポート装置はいずれ作りたいところだけどな」

「ど、どゆこと……?」

 

 不思議な顔をしながらも、僕の肩をつかむダクネスとクリス。

 それを確認すると、僕は二人の腰に手をまわして担ぐように持ち上げる。

 

「お、おお、おい! なんのつもりだ!? いきなりこん……ああああああああああああああああああああ!!」

「ここ、こういうのはよくないと思うな! バチがあた……ああああああああああああああああああああ!!」

 

 何か喚いていたが、僕が推進リパルサーを背部と脚部から照射して空へ飛び立つと、スーツ越しでも振動が伝わって来るほどの大絶叫が僕の耳とアクセルの空に轟いた。

 

 

 ▽

 

 

「おつかれさま。空の旅はどうだった?」

「もう突っ込むのも疲れてきたが、お前の鎧は本当におかしいぞ! 自立稼働する鎧ならまだ伝説として聞いたことぐらいはある! だが! 空飛ぶ鎧なんてのは聞いたことすらないぞ!!」

「百聞は一見に如かずだ。聞く前に見れてよかったな」

「口の減らない男だな……」

 

 ダクネスが呆れ気味に僕を見てくる。

 

「だ、だが‥‥あの空で宙ぶらりんの不安定な姿勢のまま高速で飛んだのはちょっと興奮したな‥‥今にも地面に叩きつけられてしまいそうな恐怖感がまた……んんっ…」

「今君興奮するって言ったか?」

「言ってない」

「言っただろ」

「言ってない」

 

 僕は呆れ気味にダクネスを見つめる。

 

 ちなみにクリスはいまだ僕に抱えられながらぐったりしている。

 気絶してるのか、呼びかけても反応が無い。

 

「ほーら大物君。もう日が暮れ」

「ふぁっ!? ア、アクア先輩!? すいません、居眠り……あれ、ここどこ……?」

 

 ふざけたつもりだったんだが、なぜか飛び起きるクリス。これ、子守唄なんだが。

 夢と現実の区別がついていないのか、クリスはうつろな目できょろきょろして寝言を言っていた。

 変なことを口走ってダクネスに怪しまれる前に、意識を覚醒させるのを手伝ってやろうか。

 

「僕がアクアに見えるか? 何が見える?」

「変なヒゲ‥‥」

「いいぞ、その調子だ。ダクネス、こいつを頼んだ。まだ安静にさせとけよ?」

 

 抱えていたクリスをダクネスに放り投げる。

 僕は特典を探す、ダクネスはクリスを介抱する。適材適所だ。

 決してヒゲを馬鹿にされて腹が立ったとかじゃない。決して。

 

「お、おい! 渡し方が雑だぞ! 私は不器用なのだ! 受け取れなかったらどうする!」

 

 後ろから非難の声がしてくるが、無視して特典がある場所を探す。

 さて、レーダーではここを指しているのだが……。

 

 僕の目に飛び込んできたのは、巨大な屋敷と、そのとなりにぽつんと立つ小さな小屋。汚れているようには見えないが、隣の屋敷の物置小屋と言われてしまえば信じてしまいそうなたたずまいだ。

 だが、その小屋の看板には僕が最も見慣れた文字である英語でとある言葉が書かれてあった。

 

【YOU KNOW WHO I AM】

 

 ‥‥‥。

 

 僕が頼んだものは、本来なら一瞬で見つけられそうなほど巨大なものだ。それこそアクアが文句を言ってくるくらいには。

 真面目なエリスがついていたんだ、こんなサボりをするとは思えない。エリスでもあるクリスに聞きたいところだが、いまだに意識が朦朧としているようだ。

 

「トニー、そこの小屋、なんて書いてあるのだ? 私にはわからない文字なのだが。ひょっとしてトニーの故郷の言葉だったりするのか?」

「まぁな。とりあえず中に入れ。土足で結構だ」

 

 そういって僕と、クリスを抱えたダクネスは小屋に入る。

 小屋の中をぐるっと見渡すが、変なものは何も……いや、一つ変わったところがあった。

 何もない小屋の壁にただ一つだけ、張り紙のようなものが張ってある。

 近づいて見てみると。

 

【あのままだったら景観を損ねちゃうのでこうしました。でも、こっちの方が気に入ると思うわよ? 美しき水の女神の飲み仲間より】

 

 そんな文章と共に、張り紙の右下の角にはアクアと一緒に飲んだ酒のフタをかたどったボタンが設置されてあった。

 ご丁寧に矢印を引っ張って『押して』とまで書いてある。

 

 僕が書かれてるままにボタンを押すと、カチャンッと背後の扉のロックがかかる音がした。

 そして、小屋全体が揺れ始める。

 

「なな、なんだ!? 何が起きた!」

「う……うーん……あれ……ここは‥‥トニー、ついたの?」

「ああ、お待ちかねだ」

「クリス、起きたか!」

 

 クリスの意識がようやくはっきり戻ったのか、状況も理解し始めたようだ。

 

「トニー、これは一体何が起きているのだ!? 全く状況がつかめないのだが! これは……下に下がっているのか!?」

「そんなところだな。まぁ、特に危険はない。寛いでろよ」

「大丈夫だよ、ダクネス。罠感知とか敵感知には全く反応が無いもん」

 

 そんなことを言っているが、おそらくアクアと作ったから知っているのだろう。

 

 やがて、最後にひと際大きく揺れた後に部屋の振動が収まり、扉があった方とは反対側の壁の真ん中に線が入り、ゆっくりと開く。

 ‥‥‥なるほどな。

 さっきはどうして無駄に凝るんだと思ってしまったが、前言撤回だ。

 君は最高の演出家だよ、アクア。

 

 開いた壁の向こうを見て、ダクネスが絶句する。

 

「一体……なんだ……ここは……」

「ひゃー……実際見たらすごいね……」

 

 僕は空いた壁の向こう側へ一歩踏み出して入り、忠実な執事を呼ぶ。

 

「出迎えはいるか?」

 

 

 

『いつでも、ボス』

「さて諸君、紹介しよう!」

 

 なんだか懐かしい気がするフライデーの声を聴きながら。

 大げさに部屋を売るセールスマンのように、片手で部屋全体を指し。

 

 

「僕のラボだ」

 

 

 持ってきた特典を二人に見せびらかした。

 




▽アクア


▽性格 子供っぽく、能天気で泣き虫で酒好き。

▽アクシズ教のご神体にして水の女神。絶世の美女で、女神として高い力を持ち、汚れた湖を半日足らずで浄化したり、本人曰く街一つ簡単に沈められるほどの力を持っているが、その本人の知力が最低なことと、調子に乗って勝手に行動するせいで空回りして大失敗することがほとんど。
芸術や宴会など、人を楽しませることにおいては他の追随を許さない才能を持っており、その技術力たるやアクアのマジックを見たマジシャンが田舎に帰ったり、芸術家が弟子入りしようとするほど。
しかし、それらは本人が自ずとやろうと思った時にしかやりたくないらしく、お金稼ぎに使うなんてもってのほかと、妙なポリシーを持っている。
人を煽ったりするようなことをよく言うため、喧嘩沙汰なることもしょっちゅう。
酒癖も最悪で吐くまで飲んだりする。
駄女神と呼ばれるほどのそのヒロイン力のなさは作中最強と言っても過言ではない。
しかし、そこがいい。
アンデッドになりかけていた死者の魂を天に還してあげたり、神の理に反した存在で不死の王たるリッチー相手でも事情を聞いて、優しく浄化してあげたりと、女神らしい面はわずかながらにも存在はする。
見れば問題しかなさそうに見えるが、これでもギルドや街のみんなからは性格も相まってなんやかんやで愛されている。


次回はエリスの紹介か、ダクネスの紹介か。
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