この素晴らしい世界に祝福を!アナザー・ユニバース・アイアンマン   作:Tony.Stank

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第28話 ありえないほど《真剣》

 僕が昔住んでたマリブの家よりも大きく、そして自己顕示の激しい無駄に豪奢な屋敷の門に立つ。

 

『この屋敷を見てからだと……ボスはとても控えめなお方に思えますね』

「僕は元々控えめだ」

 

 フライデーと軽口を叩きあってると、門が重い音をたてて開き、中から装飾の施された鎧騎士とメイドを引き連れたアルダープが現れた。

 

 別にフライデーの言葉に思い当たる節があった訳では無いが、まるで自分の力を誇示するかのように胸を張るその姿には、なんとなく過去の自分を思い浮かべてしまった。

 

 違うのはせいぜい毛髪と皮下脂肪の量くらいだろうな。

 

「ようこそ、スターク。では、早速来てもらおうか」

 

 アルダープに案内され、屋敷の中へと入り、様々な美術品が飾られている廊下を進む。

 

 おや? あれは…………。

 …………なるほど。

 

 前衛的と言うべきか、複雑怪奇な模様が描かれた絵を見て立ち止まる僕を見て、アルダープがニイッと口角を上げる。

 

「ほう。冒険者風情にも絵の価値は分かるのか。いやぁ、あの絵は高かったのだ。たが、ワシは真の美に糸目はつけん。持ちうる力の限りを尽くして手に入れた逸品だ」

「ああ、実に素晴らしい絵だ。その高い絵が逆さまに飾ってあるのが少々残念ですが」

「な、なに!?」

「……ッ」

 

 後ろの鎧騎士達から息の漏れる音がする。

 アルダープの人望は毛髪よりも薄いようだ。

 

「き、貴様ごときが美術を語るでないわ! 何を根拠に言っておるのだ!」

「あー……作者のサインが……逆さです」

 

 アルダープは怒りと恥ずかしさで顔面を茹ダコにしながらも、やがて冷静になったかのように、いつもの仏頂面を浮かべて。

 

「いや、それは貴様の勘違いだ。だろ?」

「……ああ。僕の勘違いだ…………ん?」

 

 ……なんだ? 今…………。

 ……いや、どうやら絵は僕の勘違いだ。

 

『……ボス? 急にどうしたのですか?』

 

 フライデーが不思議そうに聞いてくるが、流石に大勢の前で一人芝居を披露する訳にもいかないので黙っている。

 

「それではスターク、早速我が家の改築に取り掛かってもらおうか」

「……ええ、それじゃ早速」

 

 言われるがままに、アルダープの後に続いて屋敷の中を進んでいく。

 

 なにか……おかしな気分だ。

 思考に横やりを入れられたかのような、正常な電波にノイズが走ったかのような……。

 

 

 

 

 

 

 

「ヒュー……、ヒュー……」

「……?」

 

 ふと途切れ途切れに聞こえた、喘息のような異音に振り返る。

 だが、そこにいたのはこちらを不思議そうに見てくる騎士とメイドだけだった。

 

 

 ▽

 

 

 夕日で紅く染まった新しい我が家の門を開ける。

 

 アルダープは予想通りというかなんというか……、とにかく生活の利便性を向上させる技術を欲しがった。

 エレベーター、エアコン、コーヒーメーカー、自動ドア、リクライニングベッド……。

 

 いずれこの世界の生活水準を上げたいと思っていたので、なんやかんやでこれは良い機会だ。

 あの絵にかいたような見栄っ張りの事だ、きっとすぐにでも他の貴族連中に自慢し始めるだろう。

 

 良い広告塔になってくれそうだ。

 

「おかえり、トニー。アルダープはどうだった?」

 

 アルダープに物品のカタログを渡して、その後の段取りを決めて屋敷に帰ってきた僕をダクネスが出迎えた。

 

「色々ねだられたよ。これから忙しくなる」

「おかえりなさい、トニー。カメラはどうです?」

「しっかり確認してきた。あとは家具を用意して、設置すればオーケーだ」

「問題は、証拠を掴んだとしてもどう立証するかだな。まさか盗撮盗聴したとは言えないだろ」

 

 ソファお茶を啜りながらそうボヤくカズマの隣には、明らかに茶を飲んでくつろぐには異質な……、

 

「なぁ、カズマ。その剣はなんだ?」

 

 装飾の施された長大な剣が、ソファの横に立てかけられてあった。

 カズマはまるでなんでもないかのように茶をすすりながら。

 

「魔剣グラムとかいう神器。何でも切れるらしいぞ」

「おい待った……神器だって?」

 

 この世を救うためにアクアから贈られるという絶大な力を持った武器。

 

 何故カズマがそんなものを……。

 

「君まさか……」

「待て、違うぞ。俺にそんな度胸があるわけないじゃないか」

 

 僕がいない間にクリスと回収にでも行ったのかと思ったが、違ったようだ。

 

「じゃあ、どうしたんだ。道に落ちてたとかじゃないよな?」

「そうだな…………壮絶な死闘の末に……手に入れたんだ」

「この男……」

 

 キリッと顔を引きしめながら、貴族かなにかのような上品ぶった姿勢で茶を啜るカズマ。

 

 絶妙にイラッとくるな。

 めぐみんもうんざりとしたようなため息をついている。

 

 そんなカズマに、アクアは冷めた目を向けて。

 

「不意打ちで体勢を崩してからスティールで魔剣を奪っただけじゃない」

 

 そんな嫌味も、カズマは何処吹く風といった様子で聞き流して茶を啜っている。

 

「相手はその剣を持つに値しないような悪党だったとか?」

「ああ……間違いなく悪だった」

「そうか。なら良いんじゃないか」

「騙されないでくださいトニー! 確かにナルシストでめんどくさい人でしたが、悪党では……」

「おい、なんで急に僕の話になる?」

「あなたの事じゃないですよ! あなたもめんどくさい人ですね!!」

 

 猫みたいに歯を見せて怒るめぐみんに、冗談だといたずらっぽく笑う。

 

「で、実際その剣なんなんだ?」

「ハーレム野郎に喧嘩売られたから返り討ちにしただけだよ。互いに神器を賭けたバトルだったし、俺がとやかく言われる筋合いは無いはずだ」

「お、お前……たしかにそうだが……」

 

 事情がどうであれ、まともに犯罪なんてやる度胸は無いカズマの事だ、多少の差異はあるんだろうが…………きっと法に触れるようなことはしてないのだろう。

 

 仮に僕が問い詰めても上手く理屈をこねて言い逃れそうだったので、これ以上は何も言わないことにした。

 だが、入手経緯よりもずっと気になることがある。

 

「事情は分かった。それで、その剣はどうするつもりなんだ?」

「んー、売って借金返済の足しにしようと思ってる」

「……まぁ、それは君の勝手だ、好きにしていいが……少しだけ僕に貸してくれないか? 神器の研究をしてみたかったんだ」

「別にいいけど……なるべく早くな? 持ち主がやっぱ返せって言ってここまで来たら面倒だし」

 

 その言葉に了解だとうなずき、カズマの横にある剣を持って屋敷から出ようと……

 

「……ねぇ、ちょっと待ちなさいな」

 

 ……したところで。

 

「なんだ? 悪いが、これからお楽しみの時間なんだ。飲むのに付き合えとかだったら他をあたってくれ。ゲロ吐いて迷惑かけるんじゃないぞ?」

「私の頭にはお酒しかないとでも思ってるの? そんなことよりトニー、あんた本当にその神器調べるだけで済ませる気? 変なことしたりしないわよね? それは神々が作ったとても神聖なものなのよ?」

 

 沈黙。

 少しの間、静かな空気が流れる。

 

 ……。

 …………。

 

 

 

僕が作るものの方が神聖だ

「あっ! ちょっと! 逃げんじゃないわよ!!」

 

 剣を抱えて全力で屋敷から飛び出した僕の後ろを、アクアが全力で追いかけてくる。

 僕は屋敷のすぐ横にあるラボへのエレベーターに素早く転がり込んでドアを閉める。

 

「フライデー! アクアのアクセス権限を一時凍結しろ!」

『了解しました』

 

 僕の言葉に反応してドアがロックされた。

 

 アクアはもうラボに入れないだろう。

 

 動き始めたエレベーターの、そのドアの向こうから、ドンドンと扉を叩く音が聞こえる。

 

『ふざけんじゃないわよ、ふざけんじゃないわよ!! ねぇ、本当にやめてよ!? 人類に神器が改造されたら天界で問題になっちゃう!』

「逆に考えろ、可能性を示せば天界とやらも考え直してくれるさ。革命ってのはそうやって起こすんだ」

『覆しちゃならないものってあると思うの! ねぇ! 今ごめんなさいして出てきたら秘蔵のお酒を少しだけ飲ませてあげるから!』

「魅力的な提案だが、それはまたの機会に頼もうか」

 

『トニィ────ッ!!』

 

 エレベーターが下のラボへと向かい、僕を呼ぶアクアの声が頭上から遠ざかっていった。

 

 

 ▽

 

 

 魔剣を調べ始めて一日目。

 先日のゴースト・ベロニカ騒動の被害が少ない研究室において、僕は魔剣グラムの組成を徹底的に調べていた。

 

「フライデー、結果を表示してくれ」

 

 次々と目の前にデータが映ったホログラムが表示されていく。

 当然と言えば当然だろうが、ほとんどがこの世界の素材からできているようだ。

 

 オリハルコン、アダマンタイト、ミスリル、そのほか様々な魔法金属に……僕の世界にもある一般的な金属が少々。

 そして、成分以外に剣から検出できるエネルギー。

 

「……オーケー、また魔力か」

 

 この世界において絶対的なエネルギー源となっている魔力。

 生物の全てが有していて、なんの中継器も無しにものを動かせる万能エネルギーだ。

 

 例えば、火力発電は火による熱で水を温め、その時に出る高温高圧の蒸気でタービンを回して発電する。

 

 つまり、僕らの世界の人間が電気で物を動かすのだとしたら、燃料を燃やして火をおこし、水を熱し、蒸気でタービンを回し、それで生まれる電力で物を動かすというプロセスが必要だが……、

 

 魔力というのは人間の体に秘められたエネルギーを直接流し込むだけで大抵のものは動かせてしまう。

 

 武器に宿せば……強力な武器の完成。

 

 僕が元居た世界のありとあらゆる法則に中指を突き立てて唾を吐いてるような、そんなバカげた存在が魔力だ。

 

 

 

 ……だが、僕だって法則の一つや二つ超えてきた。

 

「フライデー、デジタルワイヤーフレームモデルを作ってくれ。操作できるモデルが欲しい」

『魔力エネルギーの可視化開始……完了。ホログラムにして表示します』

 

 透明なカプセルに覆われた検査台の中で垂直に固定されていた魔剣から、影のようなそっくりの形をしたホログラムが浮かび上がった。

 魔力だけを可視化しているにも関わず、剣の形で浮かび上がると言うことは……。

 

「剣に使われている魔法金属が血管の役割となって全体にエネルギーをいきわたらせているのか……」

 

 なら、何処かに心臓部があるはずだ。

 

「動力源はどこだ?」

『エネルギーの循環速度が極端に速くて探知できません』

 

 確かこの神器は何でも切れるとか言っていたな。

 魔力を超高速で循環させ、チェンソーみたいに切り裂いているのかもしれない。

 

 なら…………。

 

「液体窒素を使って各部分を限界まで冷やせ」

 

 カプセルの中に液体窒素が注がれ、魔剣が凍てつく。

 

 これでエネルギーの供給が遅くなれば…………。

 

「よし……見つけた。楽勝だな」

 

 これならナターシャの方が十倍見つけにくい。

 

 僕は高速で動き回っていた動力源のホログラムを、掬うように手に取って眺める。

 

「驚いたな……永久機関だ……」

 

 神々の技術というのも案外馬鹿に出来ないようだ。

 武器一つ一つにこんなものがついてるわけか……。

 

 なんて興味深いエネルギー資源なんだろうか。利用出来ればスーツを大幅に強化できる。

 

「これ取り出せれば良いんだが」

『現在ある設備では不可能です』

 

 フライデーはそういうが、僕にはどうもそんな気がしない。

 何か使える手は……。

 

 ……そうだ。

 一つ、魔力を吸収する機能を備えたガラクタがあったじゃないか。紅魔の里で物干し竿代わりにされていたライフルが。

 

 もう解体してしまったが、あの機構を再現すれば……。

 

「よし、試してみ……」

 

 と、早速行動に出ようと思って足を踏み出すものの、待ったとそこで止まる。

 

 ……そういえば、この剣はカズマが売る予定なんだよな。

 これ、このまま魔力抜き出したりして良いんだろうか。

 

『……ボス? どうなされたんですか?』

 

 抜き出すのはきっと難しくない。だが……問題は元に戻せるのかどうかだ。

 魔剣が魔剣たるその源を引っこ抜いたらきっと価値も下がるだろう。

 

『アクア様の宴会芸の真似でもなさっているのですか?』

 

 ……いや、違う。そうじゃない。

 そもそもこの剣の元の持ち主について僕は何も知らない。

 

 勝手にこんな真似していいのだろうか? 

 

 以前チームに何も言わずにロキの杖の力を研究して惨事を招いた。

 また同じ過ちをしてはいけない。

 

 僕は魔剣グラムにつないでいたあらゆる機器の電源を落とし、カプセルから剣を開放する。

 

『ボス? どうなされたのですか?』

「……エネルギー源を取り出す実験は延期にしよう。もっと別の……そのうちクリスを説得して、所有者のいない神器でも貰おうか」

『きっと、英断だと思います』

 

 そして剣を別の台座の上に乗せて……。

 

「ここからは、魔剣を科学技術で強化できるかの実験を行う」

『……えっ?』

 

 

 

 

 

 

 

 それから三日後。

 

「う、うわあああああっ!! ぼ、僕のグラムがああああああっ!!」

 

 実験が成功し、元の姿よりだいぶゴテゴテとした自分の剣の姿をみた少年が、屋敷の門の前で崩れ落ちる。

 どうやら頑張ってここまで探しに来たようだが……。

 

「だから早く売った方が楽になるって言ったのに。ラボに籠ってこんなことしてやがったのか」

「シンプルな武器だからこそ、改造の幅が広くてね。それにきっと、この状態の方が高く売れるぞ」

「その話を本人の前でしますか!?」

 

 整った髪をめちゃくちゃにしながら叫ぶ少年。

 名前はミツルギ・キョウヤと言うそうだ。

 

 彼もカズマと同じく日本で死に、アクアによってここに呼ばれた転生者の一人。

 

 どうもアクアを崇拝しているらしく、先日にアクアがカズマの作戦によって檻に入っているところを色々勘違いして争いになったそうだ。

 

 町中駆けずり回ったのだろう。ミツルギは憔悴仕切った顔で僕に聞いてきた。

 

「その、トニー・スタークさんと言いましたよね……? あの、一体僕の剣に何をしたんですか?」

 

 僕はまず柄の部分に装着したブースターを指さして。

 

「これは強力な電磁石だ。専用のグローブと併用すれば、剣が多少離れた場所にあったとしても手元に戻せる。もちろん、刀身の金属には反応しないから、切っ先が自分に向かってくることは無い」

「素直にすげぇ」

 

 横でカズマが感心したように僕を見てくる。

 ファンサービスでもしておこう。

 

「ウィンクするな気持ち悪い」

 

 不評だった。

 

 僕は唖然とした顔でこちらを見ているミツルギに笑いかけながら。

 

「それで、他に気になる点は?」

「……ハッ!? い、いえ……その、僕は魔剣を返してほしいだけなんですが……」 

「なんだ、剣を腰に差すと柄の部分がコーヒーのカップホルダーになるように改造したってのに、説明いらないのか?」

「なんて事してくれてるんですか!?」

 

 こっちも不評か……。

 

「うははははは! カ、カップホルダーって!! 魔剣の勇者さん、これでコーヒーブレイクもバッチリですね! うはははははは!!!」

 

 横で腹を抱えて爆笑するカズマを恨めしげに見るミツルギ。

 キャプテンみたいに、あまり冗談を理解できない少年のようだ……。

 

 流石にからかうのはこれくらいにしといてやろう。

 僕が指を弾くと魔剣を飾っていたあらゆるオプションパーツがボロボロと落ちた。

 

「さーて、ミツルギ君。この魔剣は、君が互いの神器をかけた戦いで負けて取られたものだろ? つまり、君が返してほしいと言ってもそれは虫のいい話ってヤツな訳だ」

「は、はい……」

「だが……ここで一つ提案だ。僕のとある実験を手伝ってくれたら……この魔剣を返す。どうだ?」

 

 僕の出した提案に、大事な取引に寝坊したビジネスマンみたいな顔をしていたミツルギが、安堵に表情を緩ませて食いついてくる。

 

「も、もちろん!! 僕にできる事であればなんでもします!」

 

 

 

 

 ──実はこの魔剣。カズマが売り、それを僕が買うといった形で既に僕の物になっている。

 

 本当の目的は、正しい使用者が振るう魔剣のデータを取る事。

 そしてこの世の転生者たちの戦力の調査の一環。

 

 この実験の計画についてはカズマにあらかじめ話しており、合意もとってある。

 

 だが、僕が買いとったとは言え、快く思わないミツルギの元にタダで魔剣が戻るのは、カズマにとっては面白くないだろう。

 

 なので、ミツルギの戦闘データを取る際にカズマが自分なりの方法でやらせてくれと申し出てきたのだ。

 

 その内容はまぁ……はっきり言って嫌な予感しかしない。

 

「……今なんでもってするっていったよね……?」

 

 待ってましたと言わんばかりに、カズマが悪辣そうに笑った。

 

 

 ▽

 

 

「ほれほれほれ!! うはははは!! どうした魔剣の勇者!! うへへははははは!!!」

『ぐはっ! うべっ!! ちょっ……まっ……ぐえっ!!』

「ぶははははは! これ超楽しい!! ねぇ、どんな気持ち? 大事な魔剣を取られた仇敵に一方的にボコられてどんな気持ち?」

「「「う、うわぁ……」」」

 

 トレーニングルームでピンボールみたいに突き飛ばされまくるミツルギと、それを見て高笑いを上げるカズマ。

 彼の仲間もその姿を見て心の底からドン引きしているようだ。

 

 ミツルギを弾き飛ばしまくってるのは、僕が戦闘訓練用に開発したトレーニングドローン。

 全身にクッションを巻き付けた球状のドローンで、自動かもしくは手動で訓練相手にタックルをかます。

 

 浮遊型のドローンである為、あらゆる方向からの攻撃に対処するトレーニングに最適な代物だ。

 

「楽しんでるようだな?」

「最高だぜえええええ!!!」

 

 ロキもしなさそうなあくどい笑顔を浮かべ、コントローラーホログラムを手に纏わせて演奏クライマックスの指揮者のごとく振り回すカズマ。

 

 既にどうやるかは聞いていたが……これはあまりにもえげつない。

 攻撃方法がとにかく姑息でいやらしい。

 

 背後を執拗に狙うのは当たり前。膝裏を狙ってバランスを崩させたり……。

 わざと緩い攻撃を捌かせ、油断したところで顔面にドローンを叩き込んだり。

 

 挙句の果てには、相手から一機にしか見えないようにドローンを二機重ねてぶつけ、一機目を弾くとその死角に隠れた二機目がぶつかるような二段構えを用意したりと、狡猾な戦術を取ってミツルギをボコボコにしていた。

 

『いだっ! あだっ! さとっ! カズっ……! まっ……待っ!!』

「オーケーカズマ。少し手加減してくれないか。これじゃデータにならない」

「ったく……強すぎるのも考え物だぜ……」

 

 ドローンを操作する手を緩め、満足げに鼻から息を吐くカズマ。

 にしてもこの男、なぜこんなにもドローンの操作が上手いんだ? 

 

 クインジェットを以前操作した時はゲームで学んだとか言ってたが……。

 

「ミツルギ、聞こえるか?」

 

 少し高い位置にある、トレーニングルームとガラスの窓一枚で隔てた制御室からマイクを通してミツルギに尋ねる。

 

『…………ッ』

 

 床でぐったりと倒れ伏しながら、聞こえていますとミツルギは手を上げる。

 あのドローン、クッションを装備しているのでダメージはほとんどないはずなのだが……。

 

 どうやら搦手だらけで精神が疲弊してしまったようだ。

 

「すこし休憩してから、今度はもう少しまともなテストを行う」

『はい……』

 

 

 ▽

 

 

 ラボのラウンジで、ミツルギがコップの中身を一気飲みし、その空になったコップを懐かしそうに眺めて。

 

「まさかまたコーラを飲める日が来るなんて……」

「おっ、お前だってコーラは飲むのか。真面目ちゃんはてっきりお茶か水しか飲まないと思ってたぜ」

「失礼だな佐藤和真。僕はしゃわしゃわだって飲むぞ」

 

 こいつら休憩中でもいがみ合わなきゃ気が済まないんだろうか。

 

「おい、いい加減にしろ。同郷同士仲良くできないのか?」

「トニーだってこのスカしたイケメンにはムカつかないのか?」

「スカしたイケメン同士、親近感を覚えるね」

「くそったれ!」

 

 カズマは傷つき逃げ去っていった。

 きっとどこかの部屋でゲームでもするか屋敷でふて寝でもするんだろな。

 

 後で君の顔は至って普通だとフォローを入れておこう。

 

「私はカズマのフォローに行ってきます。スカしたイケメン同士仲良くしててください」

「癒しの女神に任せなさいな。普通の顔でも捨てたものではないってカズマに教えてあげるわ」

 

 自信にあふれた笑顔でドアから出ていく二人を背を、ダクネスが心配そうに見つめて。

 

「その、私は二人が心配だから見に行ってくる。逆に心をえぐりに行きそうだ……そして、その時は私が代わりにえぐられてくる!」

 

 心配しながら色欲の光を目に灯して扉から出ていくダクネス。

 

「別に僕はスカしてなんか……」

「気にするな。彼はちょっとイケメンが嫌いなだけなんだ」

「えぇ……」

 

 ミツルギはみんなが出ていった方の扉をしばらく呆然と眺めた後。

 真剣な表情で僕へと向き直り。

 

「あの……ずっと気になってたんですが……あなたは何者なんですか?」

「君と同じ転生者さ。ただ……ちょっとだけ元から色々持ってるだけだ」

 

 わざわざ一から説明するのも面倒だったので適当に答えておく。

 ミツルギはあまり納得していない様子だが。

 

「……あまりにも転生者の特徴とあってないように見えるんですが……」

「ヒゲが素敵なところとか?」

「い、いえ……確かに奇抜なヒゲですが……」

 

 しばらくそんなやり取りをしていると、はぐらかされている事に気が付いたのか、やがてあれこれ聞くのをやめる。

 

 もう休息も十分だろう。

 これからはカズマじゃなく、普通にフライデーの制御によって段階的に難易度を上げていき、ミツルギの戦闘能力と、魔剣の性能を調べるつもりだ。

 

 僕が立ち上がると、ミツルギも察したのかソファから立ち上がる。

 

「そろそろやりますか?」

「ああ。準備しろ(SUIT UP )

 

 その言葉に軽くうなずき、横に立てかけてあった魔剣グラムを腰に差した。

 先程と同じトレーニングルームに向かおうとするミツルギの背中に声をかける。

 

「ところで、一つ聞いていいか?」

「はい。なんでしょう?」

 

 彼には心配なことが一つあった。

 

「君にとって魔剣はなんだ?」

「魔剣グラムは……託された使命そのものであり、(つるぎ)の形をした僕の存在意義でもあります。なくてはならない存在なんです。あれが無かったら……僕は何もできなくなってしまう」

「……そうか」

 

 それは、真面目そうな彼の大きく慌てる姿を。それと、魔剣に対する必死さを見て僕の心に芽生えた、僕なりのおせっかい。

 

「君に一つ忠告だ」

 

 僕は、かつてそうだった自分の姿に、ミツルギの姿を重ねて。

 

 

 

 

 

「決して魔剣に依存するな。それを手に持って振るうのは、いつだって君自身であることを自覚しろ」

 

 それを聞いたミツルギは、ハッと目を見開いて止まる。

 やがて自分の腰に差した魔剣に目を落として。

 

「……貴方の言う通りです……今までずっと……この魔剣に依存して、何が重要なのかを見失っていたようです……教えてくれてありがとうございます。スタークさん」

 

 そう言ってあげた彼の顔は、憑き物が落ちたかのように、晴れやかな顔をしていた。

 

 

 ▽

 

 

 その後、ミツルギおよび魔剣のデータを回収し、そのデータを整理していた夜の事。

 

「魔力がこもった剣一つでここまで能力が上がるとはな……」

 

 はっきり言って超人血清すら上回る利便性と上がり幅だ。

 この神器をいくつかS.H.I.E.L.D.あたりに渡せば、極めて強力な部隊が出来上がるだろうな。

 

 この先王都にも何度か足を運んで、他の神器持ちのデータも取りたい。

 中には神器ではなく、才能といった形の特典もあるそうなので、もし協力的なものがいれば色々実験したいものだ。

 

 そんな感じで、夜中近くまでデータとにらめっこしている時だった。

 

「おーっす。何やってんだ?」

 

 軽い挨拶を交えて後ろのドアから現れたのは、ジャージに身を包んだカズマだった。

 もうそろそろ寝る時間なのだろう。

 

「今日のデータの管理だ。君こそ何しに来たんだ?」

「暇つぶし」

「ここは暇つぶしに来るところじゃないぞ」

「ゲーム用意しといてよく言うぜ」

「……確かにそうだな。だが、ここに入り浸ってゲームばかりやらず、たまには仲間と交流深めて来いよ」

 

 僕がそう言うと、カズマは何を言ってるんだと眉をひそめて。

 

「おいおい、屋敷に住むって話をした直後からラボに閉じこもったお前が言うなよ。めぐみんが不貞腐れてたぞ。ボードゲームでもしようかと思ってたのにってな」

「そうだったか……ま、このデータをまとめたら屋敷でちゃんと寝るさ」

「俺はここでしばらくゲームをするけどな」

「おい」

 

 元の世界ではゲーマーだったんだ、この世界でもできるならやらない理由は無い。と言い残して、勝手にモニターを適当に動かしてゲームを起動するカズマ。

 

 ……が。

 

「あ、あれ? ゲームのファイルどこだったっけ……?」

「おい、待て待て! そんなに弄りまわすな。まだデータをまとめてる最中なんだ……」

 

 これかこれかと、画面をタッチしまくるうちにファイルが一つ開かれ、その中の映像がモニターに映し出される。

 

 それは……。

 

 

 

 

『やぁ、ペッパー。そんな紙切れとにらめっこして何してるんだ?』

『今月の決算をまとめてるのよ。誰かさんがオモチャにつぎ込んじゃうから』

『あれはオモチャじゃない。世界を守るアーマーだ』

『身近な人とのディナーの約束も守れるようになってほしいわね』 

『……検討するよ』

『約束して』

 

 画面に映しだされたのは、僕が心の底から愛する唯一の女性、ペッパー。

 特に何も考えずに撮った日常から、大事な記念日などを撮った思い出の映像まで。

 

 僕の大切なファイルの映像がモニターに映っていた。

 

「この人って……」 

「ああ、僕の恋人だ」

 

 今僕はきっと、あまり人前では見せないような笑顔をしてるのだろう。

 

「綺麗な人だな」

「だろ?」

 

 そんな僕の顔を見たカズマが、茶化したりせずに素直に感想を述べた。

 しばらく流れる映像を見て懐かしんでいると、横からカズマがニヤニヤして。

 

「また会いたい?」

「ああ、もちろん」

 

 スーツの関係で彼女とはあまり上手く行かないままこっちの世界に来てしまったが……。

 それでも会いたいに決まっている。

 

 実にモチベーションアップにつながる映像だったが、あまり恋人とイチャついてるところを他人に見せるわけにもいかないだろう。

 

 映像を切って、彼お望みのゲームファイルにでもつないでやろうかと手をかざしたその時。

 

「恋人に会えないその辛さ、解消できるって言ったら?」

「……なんだって?」

 

 まるで簡単なことかのように軽く。

 カズマの口から、そんな言葉が出てきた。

 

 一体どういう意味だと尋ねると、カズマはもったいぶるように笑って。

 

「サキュバスって知ってるか?」

「……ハァ」

 

 とんだ肩透かしだと言わんばかりにため息を吐く僕。

 

「そういうのは結構だ。今の僕はペッパー一筋なんでね」

 

 だが、そう言ってもチッチッチと指を振ってカズマは笑う。

 

「俺もつい最近知ったんだが……。この街にはな、戦う力を持たないサキュバスたちがわずかなお金と精力を引き換えに、男性冒険者たちに夢を見せて共存を図る店があるんだ」

「おい、それって……」

「待て待て。カルラギみたいなことを真面目ぶったことを言ったりするなよ? 本番はここからだ。その見せる夢ってのはな……事前にサキュバスに注文しておくと、どんな夢でも見れるんだ。いいか、どんな夢でもだぞ? 犯罪的なシチュエーションだろうと、この世界には存在しない物だろうと……」

 

 …………。

 ………………。

 

 気が付けば、僕はカズマの方へと乗り出していて。

 

「もっと詳しく教えてくれ」




この先サキュバス、冬将軍、そしてデストロイヤーとつなげていきたい。
パーティー交換の話はおそらく飛ばすかも……。
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