この素晴らしい世界に祝福を!アナザー・ユニバース・アイアンマン   作:Tony.Stank

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※ソーの性格はラグナロク以降の軽いノリな感じになっています。

ソーの時系列はソー3の前半です。


めちゃくちゃ難産で時間がかかってしまいました。
文字が三万文字を超えそうなので前編、中編、後編に分けて投稿します。



番外編2 マイティ・アルバイター 前編

 辺りは薄暗くどんよりとしている。

 ふと空を見上げると、暗雲が立ち込めていた。

 

 そして大地は不快な湿り気を帯びており、立ち並ぶ木々はそのことごとくが枯れてしまっている。

 

 そんなおどろおどろしい森の中で。

 

「ああ……。全く最低な味だ……」

 

 俺は、焼け焦げた肉を貪り食っていた。

 焦げ肉を喉の奥に押し込みながら、隣で横になっているここの住人に語りかける。

 

「こう思ってるのか……? ソーがこんなところで炭みたいな肉を食べてるって。まぁ、アスガルドの王だからって贅沢な暮らしが確約される訳じゃない」

 

 そう言っても何も言い返しては来ない。

 白骨化して頭蓋骨が半分地面に埋もれている奴がしゃべるわけがない。

 

 今のは陰鬱とした雰囲気が嫌で適当に紛らわせてるだけだ。

 ちなみに焦げ肉は仕留めた獲物を雷で焼こうとしたら少し火力を間違えた。

 

 俺は目の前の骨に……そうだな、頭蓋骨君とでも名付けようか。

 そんな頭蓋骨君相手に、俺はさらにしゃべりかける。

 

「そんな王様がここで何してるのかって? あるものを探して世界中を旅している。さぁて、何かわかるか?」

 

 当然返事は帰って…………。

 

「ハァア゛…………オォ゛……ハハハァ゛……」

 

 地面に埋もれていたハズの頭蓋骨君がカタカタと骨を鳴らしながら、地面から這い出でるようにして起き上がってきた。

 

 どうやら首から下もあったようだ。

 

「生き血ヲ゛……寄越セ……」

「無口な方が良かったんだがな……」

 

 ゆっくりと立ち上がってハンマーを構える。

 

 …………が。

 

「ウヴァ…………」

「オォ゛……輝ク……タマシイ……」

 

 森の中に瘴気が立ち込め、次々とそこら中の地面から骸骨が這い出てくる。

 よく見るとそいつらは全身に鎧やら剣やらを装備していた。

 

 どうやらこの辺りで死んで行った戦士たちの成れの果てらしい。

 

「……見た目は汚らしいが……まぁ、機械の軍団よりはマシか」

 

 俺は右手に構えたハンマーを高速回転させて空へと舞い上がる。

 

 瞬間。

 

 暗雲の中に閃光が迸り、天の唸り声が辺りに轟く。

 

 そして…………。

 

「さあ、来い!!」

 

 稲妻が闇を切り裂き、我がハンマーから電撃が弾けた! 

 

I AM MIGHTY THOR(俺はマイティ・ソーだ)!!!!」

 

 雷槌が振り下ろされ、周囲一帯が光に包まれて吹き飛ぶ。

 

「「「ボエエエエッ!」」」

 

 骸骨騎士達が宙を舞い、バラバラになって地面に転がった。

 

「ハッハッハ! そんな程度か?」

 

 その挑発に怒ったのか。

 いや、こんな連中にそんな感情があるのかは知らないが、挑発に乗るかのようにしてさっきの倍以上の数がワラワラと湧き出てくる。

 

 俺の周りを三百六十度ぐるりと囲い、朽ちた武器を向けた。

 

 いつの日かロジャースに言われた『言わなきゃいいのに』という言葉を思い出すな。

 だが、俺も血気盛んな戦士。いわせてもらおう。

 

「物足りなかったところだ、いいぞどんどんこい!」

「「「ゥヴォォォオオオオッッッ!!」」」

 

 こちらに向かってくる群れにハンマーを投げつけ、正面から雑兵を蹴散らす。

 ハンマーは速度を保ったまま、円を描くようにして俺を囲ってる敵を粉砕していく。

 

「そらどうした!」

 

 ハンマーの旋風を潜り抜けてきた骸骨どもを殴り、蹴り、時には頭突きをお見舞いする。

 

 それからしばらく迫りくる敵を薙ぎ払い続けるが、一向に減る気配がない。

 

「「「「ハァァァアア゛ッッ!!」」」」

「そんなに怒らせるようなことをしたか?」

 

 ……大した相手ではないのだが、流石に面倒になってきた。

 

 数多の軍勢が倒されたというのに、撤退するどころか数を増して襲ってくる。

 ここらで撤退すべきだろう。

 

 ……戦ったところで、インフィニティ・ストーンについて何か得られそうでもないしな。

 

 それにしてもこいつら、なんだってこんな必死に襲いかかってくるんだ? 

 

「「「「ヴォァアアアッッッ!!」」」」

「はいはい、今出てい──」

 

 ハンマーを振り、空へと飛び上がろうとしたその時。

 地面から這い出た無数の手が、行かせまいと俺の足首を掴んできた。

 

「しつこい連中だ!!」

 

 今が好機と敵が束になって襲いかかる。

 

 こうなったら辺り一帯まとめて雷で消し飛ばすしかない。

 俺はハンマーに電気を貯め、勢いよく振り上げて天へと掲げた。

 

 天から降りた雷がハンマーに直撃し、そのまま地面へと振り下ろされようと……

 

 

 

 

 

 

「『カースド・クリスタルプリズン』ッッッ!!!」

「「「「ゥア゛ァァア゛……」」」」

 

 

 ……した瞬間。ギシッと軋んだ音を立てて周囲が一瞬にして凍り付いた。

 骸骨騎士たちはまるで時が止まったかのように氷の牢獄に閉じ込められてしまっている。

 

 辺りを見回すと、汚泥だらけで不快だった大地があっというまに永久凍土となっていた。

 

 今のは……援護か? 

 

「バニルさん、さっきの見ました? あんな威力の魔法初めて見ましたよ!!」

「フハハハハハ!! 鬱陶しい神気を感じて来てみれば、とんでもないのがいたもんだ!! フハハハハハ!!」

 

 ハンマーを下げ、迸る雷を抑え込む。

 先程聞こえた声がした方に顔を向けるが、冷気で出来たモヤモヤで二つの影しか見えない。

 

 とりあえず敵かどうか確かめよう。

 

「おい、そこの二人、そこで止まって名を名乗れ。お前たちは敵か?」

 

 影はピタリと止まり。

 

「あ、あのー……。敵意は無いので、どうか警戒しないでもらえますか……?」

 

 そんな、のほほんとした声がモヤの向こうから返ってきた。

 俺はハンマーを振り回して突風を作り、モヤを吹き飛ばす。

 

 その晴れたその先に見えたのは、ぺこりとお辞儀した、綺麗な栗色の髪をした一人の女性と、軽薄そうにニヤつく白黒二色の仮面の男。

 

「初めまして、私はウィズと申します」

「お初にお目にかかろう。我輩は地獄の公爵が一人、バニルである。さて……」

 

 バニルと名乗った男は目に怪しい赤い光を宿し、剣呑な雰囲気を滲ませながらこちらを見据えてくる。

 

 ……なんだろうか。

 あの趣味の悪い仮面を着けた顔面を見てるとムカついてくるというか……どうも絶対に相容れなさそうな気がしてくる。

 

「貴様のような存在がなぜここにいる? ここは貴様の世界ではない」

「ちょっとバニルさん!! なんでそんな攻撃的なんですか!?」

「残念店主よ、貴様はこいつの正体が分かっておるのか…………?」

 

 小馬鹿にするように口元を歪め、ウィズと名乗った女性にやれやれと肩をすくめるバニル。

 

「この男は神族である。それも、とびっきり強力な超存在だ」

「えぇえええっ!?」

 

 天敵と出会ったかのように、怯えた目で俺を見てくる。

 

 ……こいつらは一体なんなんだ。

 

「俺の名はソー。ソー・オーディンソン。俺にも敵意は無い。あるものを探しているだけだ」

「汝が探すような物など、こんな所にあるとは思えぬのだが……? 念の為、聞くだけ聞かせてもらおうか」

「インフィニティ・ストー」

「そんなものがこの星にあるわけなかろうが!! 今すぐ元の星に帰るがいい!!」

 

 望みを聞いた途端に血相を変えて忌まわしそうにバニルが叫んだ。

 手がかりでもあればと来てみたと言うのに、随分歓迎されないようだ。

 

 しかし…………。

 

「お前、インフィニティ・ストーンについて知っているのか?」

「我輩とて名前と逸話程度しか知らぬわ」

 

 バニルはまるで厄介事を持ち込むなとでも言いたげな、迷惑そうな目を俺に向けて。

 

「確か……それ一つ一つが世界を滅ぼす力を持った伝説の六つの石……であったな?」

「そ、そんなものが存在するんなんて……」

「当然、それらを狙うのもこの長髪ハンマー狂のような超存在ばかりである」

「……それ俺の事か?」

 

 バニルは俺をしっしと追い払うように手を振りながら。

 

「そういったのが貴様を追ってここまで来たなんて事にでもなってみろ、この世界が滅亡しかねん。というわけで帰るが吉だ疫病神」

「その言葉を鵜呑みにしてすごすご帰るつもりはない。俺を追ってるやつなどいないし、あてずっぽうにこの世界に来たわけでもない、強い力を感じたから来たんだ。それの正体を探るまでは帰らないぞ」

「ふむ……そうか……」

 

 引く気のない俺を見たバニルは、一度小さなため息をつくと……、

 

「では力づくで追い出すとしようか。ん?」

 

 敵意が夕刻の影が如く広がり、邪悪なオーラを陽炎のように滲ませ……目の奥を赤黒く輝かせた。

 

「えええええ!? バニルさん、何言ってるんですか!? 正気ですか!? もう私を残念店主なんて呼べませんよ!?」

「やかましい!! そもそも奴は神族で我輩は悪魔である。相容れることは無いのだ!」

「なるほど、お前は悪魔だったのか。通りでさっきからそのダサい仮面に嫌悪感を覚えるワケだ」

「フハハハハ! センスのない長髪を垂らす男よ!! なんならこの我輩がボウズにカットしてやろうか! きっと短髪の方が似合うぞ?」

 

 俺はその言葉に鼻で笑いながらお手玉のようにハンマーを軽く上に投げ、空中で一回転させて再びキャッチして不敵な笑みを見せてやる。

 

 そして、そのハンマーをバニルへと突き付けて……。

 

「それじゃ、俺はお前の仮面をぶっ壊してまともな形に作り変えてやろう。ハート形なんかどうだ?」

 

 挑発されたバニルの口角が吊り上がり、地獄の公爵と名乗ったそれにふさわしい邪悪な笑みを浮かべた。

 

「よかろう、元の世界への片道切符をくれてやるわ!! 『バニル式殺人光線』ッッッ!!」

「フン!」

 

 バニルの目から放たれた怪光線をハンマーで横に弾く。

 あらぬ方向へと逸らされた光線は木々に赤い切れ目を入れ、横薙ぎに引き裂いた。

 

「仮面がダサいなら攻撃までダサいな!!」

 

 腕を振って光線を弾いたその姿勢から、力をこめてハンマーを投げつける。

 

「そんな原始的な攻撃が効くとで──」

 

 バニルは腰を深く落として腕を交差させ、防御の姿勢を取り始める。

 

 …………が、

 

「──ガハッ……!?」

 

 投げられたハンマーは、防御に構えた腕ごとバニルの体をつらぬいた。

 

「そ……そんな、馬鹿な……こ、これが……雷神の…………力……!」

 

 両腕が落ち、体に大穴を開けられたバニルはボロボロと砂となって肉体を崩し始め……、

 

「……もう終わりか?」

 

 やがて、風の吹くような静かな音を立て、小さな砂山へと成り果てる。

 山の上には、やつが着けてた悪趣味な仮面だけが墓標のように突き立っていた。

 

 ……まずいな。殺すつもりはなかったのだが…………。

 

「……おい、確か……ウィズと言ったな?」

 

 俺の呼び掛けに応じて、バニルの横にいたウィズが疑問符をうかべた顔をこちらに向けてくる。

 

 俺はバニルだった砂山の横を通り、ウィズ方へと歩み寄りながら。

 

「お前にも攻撃の意思はあるのか?」

「いえいえ、ありませんよ?」

 

 にこやかに答える彼女に、俺は若干戸惑う。

 

「……なぁ、お前の友を殺した俺に何も思わないのか?」

「あはは……み、見慣れた光景ですし……」

 

 なかなか世知辛い惑星のようだ。

 隣にいた友が死ぬのも見慣れているとは……。

 

「……そうか。だが……流石に少しくらい追悼の意を示してやらないと、死んだアイツも可哀想なんじゃないのか?」

 

 

 

 

 

「ほう、それはこの我輩に同情してくれているということか? フハハハハハ! 敵にも同情とは実に王器であるな!」

 

 後ろから聞こえた声に、ギギギとなりそうな動きで首を後ろへと向ける。

 

 そこには崩れ去って倒れたはずのバニルが、五体満足で立っていて。

 

「……どうなってるんだ。お前は確かに」

「倒したはず? 残念! なんのダメージもありませんでした!!」

 

 …………。

 ………………。

 

 唖然とする俺をおちょくるかのように、バニルはいやらしい笑みを浮かべる。

 

「フハハハハ!! 『もう終わりか?』なんてカッコつけつつ、マントを翻す貴様の姿と言ったら……ほほ、本当は……ッ…………ノーダメージだと言うのにッ……フハハハハハ!! 笑いが止まらぬわ!! フハハ! フハハハハハ!!」

「オーディンの息子をコケにした事は高くつくぞ…………!!」

 

 怒りを込めた目で睨みつけるも、バニルは歪めた笑みを崩すことなく。

 

「あんな家族問題起こしまくりの隠蔽大好き親父の息子なんぞ名乗ったところで、かえって貴様に偏見がつくだけで」

「AAAARRRRRRGGHHHHHHHH!!!」

 

 ふざけた仮面野郎の煽りは、俺が生み出した雷鳴によって掻き消された。

 

 こいつ今すぐ灰にしてくれる! 

 

「喰らえぇぇえええッッ!!」

 

 陰惨とした暗い森が昼間の如く明るくなり、バニルのムカつく仮面目掛けて極太の光の矢が射られた。

 

 瞬間、バニルの顔面から嘲笑いの笑みは消え失せ。

 

「か、華麗に脱皮!」

 

 華麗とは言えぬ必死さで遠くへと仮面をかなぐり捨てた。

 

「まったく、これだから脳筋は……!」

 

 どこから喋っているのやら、仮面だけの体からボソッと忌々しげにそう呟くバニル。

 投げられた仮面は放物線を描いて地面に落ち、そこからモリモリと土を纏って…………。

 

「おっと、これが正体か!! ハッハッハ! 捕まえたぞ!!」

「ぬあああ! 貴様やめろ!! 体が崩れるから触るでないわ!!」

 

 しばらく喋るダサい土塊とそんなやりとりをしていると。

 

「あ、あのー……そろそろやめときませんか? ソーさんも敵ではないみたいですし……」

 

 困り顔のウィズが、おそるおそるといった感じでそう言ってきた。

 

 俺はバニルの仮面をハンマーでツンツン小突きながら。

 

「俺は最初から敵意なんてない。仕掛けてきたのもこいつからだ」

「いちいちハンマーで小突くでないわ、鬱陶しい!!」

「…………ふふふ、なんだか楽しそうですね」

 

 そう見るのは勘弁して欲しいものだ。

 だが、楽しげに笑うウィズの笑顔で、なんだか毒気を奪われた。

 

「……まっ、感じた力の正体が分かれば去るさ」

 

 俺は手に持ってた仮面を捨てるように投げると、そこからバニルがニョキニョキと体を生やす。

 

「ではこうしましょう!」

 

 ウィズがパンと手を叩き、輝く目で俺を見てきた。

 

 ……なんだろうか。

 

「つまり、ソーさんは宝探しをしてるんですよね?」

「まぁ、宝といえば宝だな……」

「なら、私たちがその宝探しのお手伝いをしますよ!」

「何……?」

 

 思わずバニルの方を見るが……。

 

「ッ…………」

 

 俺以上にあっけにとられた顔でウィズの方を見ていた。

 だが、そんな事は歯牙にもかけずにウィズは話を続ける。

 

「強力な力を持った宝を探して世界中を回るなんて、なんだか私が冒険者だった時を思い出すんですよ」

 

 ウィズはどこか、昔を懐かしむような顔しながら。

 

「だから、なんだか力を貸したくなっちゃって」

「行き遅れ店主よ。貴様はまさか、リッチーという不死の存在である自分の伴侶探しに焦り、この背は高いが見た目はイマイチな神族と恋をしようなどと考え」

「バニルさん。次に行き遅れと言ったら本気で対悪魔用の呪いを使いますよ?」

 

 一体何が起きたのか。

 急に辺りの温度が低下し始め、既に最初の魔法で凍りついていた木々にヒビが入って砕け散った。

 

 ウィズと言えば笑顔のままだ。

 笑顔のままだが……恐ろしく冷たく感じる。

 

 この俺でさえ悪寒を覚えるレベルだ。

 どうやら彼女はハルクと同じように怒らせない方が良いのかもしれない。

 

 そんな凍てつく雰囲気もやがて弛緩し始め、ウィズに先程の笑みが戻り始める。

 

「もう、そんなふしだらな理由で手伝いを申し出たんじゃありませんよ? 本当に、昔のワクワクとした感じを思い出しただけなんですから」

 

 バニルはというと、先程のウィズに気圧されたのか、ずっと黙っている。

 

 いや、と言うよりは…………。

 

「ふむ……これは……見方によっては……」

 

 顎に手を置き、悪魔らしい企みの表情を浮かべていた。 

 やがてニヤリと口角を上げて。

 

「いいことを思いついた。おい、雷神」

「……なんだ?」

 

 ニヤつく悪魔には嫌な予感しか覚えないが…………。

 

「汝に全面的に協力してやろう。我輩と取引せんか?」

「……悪魔と取引するつもりは無い」

「まぁ、聞け。これでも我輩は交流が広くてな。それに、我輩はあらゆるものを見通す目を持っている。力になること間違い無しである」

 

 ヘイムダルに似た能力を持ってるだと? 

 ……こいつは思ったよりも力をもった存在のようだ。

 

 だが、そんな事よりも気になることが一つ……。

 

「で……見返りはなんだ?」

「話が早くて助かる。我輩が望むものはただ一つ。汝がこの世界で探しているものが、もし汝の望むものでなかった場合、それを我輩に譲ってほしいだけだ」

「……それだけか?」

「ああ。それだけである」

 

 悪魔がこんなにも協力的なのはどうもきな臭い。

 目的は本当にそれだけなのだろうか。

 

 俺が疑いの目を向けていると、まぁ無理もないだろうとバニルが肩をすくめた。

 

「神族である汝が我輩を信用できんのも納得できる。別にだまそうとしているわけではない。ただ単純に、我々の店に……そして、我輩の夢に益となる可能性を感じたまでだ。汝が見つけたものが、価値のあるものなら加工するなりして店の資金として売り払う。強力な魔道具であれば我輩の夢の足掛かりであるダンジョン制作にでも役立てる……目的はこれである」

「な、なんだか狡すっからくないですか? バニルさん……」

「赤字しか生み出さぬ店を我輩なりに救おうとしているだけであるわ」

 

 話を聞くに、この二人はどうやら店を経営しているようだ。

 バニルの夢とやらは知らんが、ダンジョンを作ることがその夢につながるらしい。

 

 別にインフィニティ・ストーンでなければ興味はないのでこいつらにくれてやっても別に構いはしない。

 この辺り一帯を凍土に変えてしまう魔法の使い手であるウィズも、俺と戦って五体満足でいられるバニルも、良い戦力になるだろう。

 

 それに、自分から手伝いを申し出たとはいえ、この人柄のよさそうなウィズにタダ働きさせるのも気が引ける。

 

 特に断る理由もない俺は。

 

「わかった、その提案受け入れる」

「交渉成立であるな」

 

 ただし、問題が一つ。

 

「で、あんたらはどこに住んでるんだ? 行動を共にするならば、近くに拠点を置いた方がいいと思ってな」

「ふむ……拠点か……」

「……バニルさん? どうしてこっちを見るんですか?」

 

 バニルはしばらくウィズと俺を交互に眺めたのち、妙案がひらめいたと楽し気な笑みを浮かべた。

 

「それなら我輩に任せるがいい」

 

 

 

 ▽

 

 

 

 ……なんだか、懐かしい夢を見てた気がする。

 

「──ソーさん、起きてくださーい」

 

 そんな中、まどろんだ意識の向こうでうっすら聞こえる、優しげな声。

 

「朝ごはん、出来てますよー? ソーさーん?」

 

 ドアをノックする音と、その声に、のそりと起き上がる。

 窓からは朝日がさんさんと射し込んでいた。

 

 いい朝だ。

 大きな伸びと欠伸をする。

 

 それと同時にドアが開けられ、その向こうから一人の女性が部屋に入ってきて……。

 

「朝ごはん、冷めちゃうので早…………きゃああああーっ!!」

 

 ……盛大に悲鳴を上げた。

 

「なんでいつもいつも服を脱いで寝るんですか!? まだ春になったばかりなんですよ!?」

「パンツは履いてる」

「そういう問題じゃないです!! 早く服を着てください!」

 

 俺の姿を見るやいなや大慌てで後ろを向き、綺麗な茶色の髪を振り回すウィズ。

 

 この家の家主にして、同居人である不死者の王だ。

 とりあえず言われるがままにシャツを着て、ズボンを履く。

 

「ほら、言われた通りにしたぞ」

「はぁ……もう、心臓に悪いのでやめてください…………」

「ハッハッハ! 心臓が動いていないのに悪いもなにもあるのか?」

「気持ちの問題ですよ!」

 

 そんなやり取りをしながら、食卓へと向かう。

 肉やパンの焼けたいい匂いが鼻をくすぐってきた。

 

 食卓テーブルにつこうとしたのだが、俺の嫌いな奴が視界に入り、思わず顔をしかめる。

 

「やっと起きたか、寝坊助雷神よ。とっとと朝飯を食って、仕事をするがいい」

「そういうお前は飯を食う必要など無いのに、どうしてここにいるんだ。朝飯が不味くなるからとっとと金勘定でもしてたらどうだ」

「二人とも! 朝から喧嘩しないでください!!」

 

 黒と白のダサい仮面に、タキシードにエプロンという珍妙な格好をした自称地獄の公爵ことバニル。

 バニルは仲裁に入ったウィズにバカにするような笑みを向け。

 

「文句を言いつつ、なんだかんだで筋肉雷神のはだけた姿を楽しみにするむっつり店主よ。後ろを向いたフリして鏡越しに凝視す」

「あああああああああ!!」

 

 いきなり変なことを口走ったかと思うと、ウィズが電光石火の動きでバニルの口を塞ぎに行った。

 

 早く朝飯を食べたいのだが。

 …………そういえば、俺の肉体は地球にいた頃も人気だったか。

 

「ウィズ……」

「な、なんでしょう……?」

 

 俺は真剣な眼差しでウィズを見つめて。

 

「脱いでた方が嬉しいのか?」

「!?!?!?!?!?」

「フハハハハハハ!! フワーッハッハッハ!! 流石だ天然雷神よ! 貴様がいると店主の悪感情が喰らい放題であるわ!! 汝をここに招いた甲斐があったというものよ! フハハハハハ!!」

 

 賑やかな朝食になったもんだ。

 腹を抱えて床に転がるバニルと、それをポカポカと叩くウィズを後目に、俺はパンにバターを塗って食べはじめた。

 

 

 ▽

 

 

 俺が倉庫で荷物下ろしをやってると、パタパタとスリッパで駆け寄ってくる音が聞こえてきた。

 

「ソーさん、こちらのサンプル品を見てください!!」

 

 ウィズが誇らしげな笑顔で持ってきたのは、一つの小箱。

 稲妻を模したようなマークが掘られたその商品は…………。

 

「雷の魔道具?」

「はい! しかも、とびっきり強力な魔道具ですよ!」

「ほぉ、この俺を前にして雷の魔道具か。面白い、どんなものか教えてくれ」

「ふふふ。この魔道具はですね……周囲の魔力を吸って、最大まで溜まると周囲を焼き尽くすほどの大放電を行うんです!!」

 

 なるほど。

 それはとても……

 

「カッコイイな!」

「ですよね!」

「十……いや、二十は仕入れるべきた!」

「それくらいは売れますよね!! では早速……」

「させるかたわけども!! 一体何を仕入れようとしてるのだ!」

 

 ウィズが持っていたサンプル品をふんだくったバニルは、それをしばらく眺めた後に呆れたようなため息をつく。

 

「……おい、厄災店主と居候アルバイト。貴様ら、この魔道具が本気で売れると思っているのか?」

 

 バニルは悪趣味な仮面をコツコツと指で叩きながら。

 

「よいか? この魔道具は周囲の魔力を吸い取って放電するとはいえ、それに必要な魔力は上級魔法数十発分。オマケに放電する時は使用者が手動で起動せねばならんので、使ったら周囲諸共炭になるのがオチである」

「毎日仲間を守るために貯金するかのように電気を貯めて……いざ仲間を守るため命を燃やさんとした時にこれを放つ……ロマンチックではないですか!」

「汝の脳みそは電気で焼ききれて……ッ!?」

「……バニルさん? どうしたんですか?」

 

 本日二度目のデカいため息をついていたバニルは、倉庫の棚に置かれたあるものを見て目を大きく見開いた。

 ……いや、仮面で目は見えないのだが、顔の筋肉の動き的に多分そうだろう。

 

「……雷神よ。そこの棚に置いてあるものはなんだ?」

「ん? ああ、これか? これは──」

 

 ぶっとい眉毛みたいな角をはやしたデザインの頭蓋骨。

 棚に飾ってあったそれは……。

 

「──スルトの頭蓋骨だ」

「貴様はこの世界を滅ぼしたいのか!? なぜそんなものがここにあるのだ!!」

 

 鬼気迫る勢いでバニルが怒鳴った。

 だがこいつはもう無力化してあるから大丈夫なのだが。

 

「そうビクビクするな、地獄の公爵。アスガルドにある永遠なる炎が無い限り、スルトが復活することは無い。辺境の星に置いてある方がかえって安全だ」

「我輩を臆病者扱いとは、流石は傲慢さで一度地上に堕とされただけはあるな。もしここで復活しようものなら、店の商品を倉庫ごと弁償してもらうぞ」

「……この頭蓋骨がそんなに危険なんですか? たしかに禍々しいですが……」

 

 ウィズがおっかなびっくりしながらスルトの頭蓋骨を指でつつく。

 

「ムスペルヘイムという炎に包まれた世界の王だ。もし永遠なる炎で復活することがあれば、剣の一振でこの街は灰になり、大地に剣を突き立てればこの世界は消えてなくなる」

 

 まぁ、俺が倒したが。と付け加えて笑うが、ウィズは元々悪い顔色をさらに悪くさせてゴクリと喉を鳴らした。

 

「どこかダンジョンの奥にでも捨ててきませんか……?」

「永遠なる炎でしか復活しないとはいえ、これは強力な力を持った武器にもなりうる。手元に置いておいた方が安全だ」

 

 俺はそう言いながら、スルトの頭蓋骨を手に持ってた掃除用の羽箒でペチペチと叩き始める。

 

 このスルトの頭蓋骨は、俺がこの星へと来る前に手に入れた戦利品。

 今じゃ置物になって棚に飾られてるが、下手したらスルトの手によってアスガルドが滅ぼされるというラグナロクが起きる所だった。

 

 こいつを手に入れたその後に強力な力を感じてこの世界まで来たわけだが……。

 

「でもまぁ、不気味なのは確かだな」

「あのー……いつまで羽箒で叩いてるんですか?」

「なに、このげじげじ眉毛みたいな角はこいつの王冠らしくてな。綺麗にしてやってる」

 

 ずっとスルトの頭蓋骨を羽箒でペチペチしてる俺に、ウィズが変な奴を見るような目を向けてくる。

 

 そんな目で俺を見るな。

 

 その後も三人で荷下ろしをしたり、こっそり仕入れた商品がバレて説教を食らったりのいつもの日常が過ぎていく中。

 

「おっ、客だ。珍しいな」

「い、言わないでください……」

 

 店のドアが開けられ、客の入店を知らせるベルの音が響いた。

 俺とウィズは接客の為に店のカウンターへと向かう。

 

「たのもー。ウィズー、お茶とお菓子が欲しいんですけどー」

「お前……来て早々たかるなよ……」

「ようこそ。おお、お前らか」

「よっ、ソー。相変わらずエプロン姿が似合ってないな」

 

 店に来たのはカズマの一味。

 どこにでも居そうな普通の少年と、それを取り巻く個性的な仲間達。

 

「そろそろこのバイトの服も板に着いてきたと思ってたんだが……」

「ねぇねぇソー、またこの色紙にサイン貰えないかしら?」

 

 胸筋でピチピチになった、サイズの合ってないエプロンに目をおとしていると、横からそんな声が聞こえてきた。

 その声の主は、水色の長い髪が特徴的な()()()()、アクア。

 

 こいつは何故か、俺に会うたびにサインをせがんでくる変わった俺のファンだ。

 

「前も書いたばかりじゃないか。家族の分か? まとめて俺が書いてやっても……」

「やめとけソー。こいつ、天界(故郷)にいるお前のファンにサインを高値で売りさばくつもりで貰ってるだけだから」

「…………」

 

 俺は手先から電流を流して色紙を爆散させた。

 

「あああああーっ!! 色紙がーっ!! 何するのよソー!!」

 

 黒い塵となって床にパラパラと積もる色紙だったものを、ウィズが手早く箒で掃いていく。

 

「で、今日は何しに来たんだ?」

「ちょっとソーに頼みごとがあってね」

「単刀直入に言おう。貴方には、これから行くクエストに同行してほしい」

 

 カズマの後ろにいたダクネスが、真面目そうな顔でそう告げてきた。

 それはつまり…………。

 

「お前がそんな真剣に頼み込んでくるということは、重要な案件ということだな」

「ま、待ってくれ!! 私は普段から真面目だぞ!?」

「そう見られたいならソーを見るたびにハンマーでぶっ叩いてくれとか、電流を浴びせてくれとか頼むのやめろよ」

「そのようなことを言った記憶はない」

「お、お前……」

 

 そう、このダクネスという強固な鎧を身にまとった一見美しい戦乙女、実は嬲られたり罵られると興奮するとかいうとんでもない趣味を持っている。

 

 初めて目の当たりにした時はさすがの俺も飛んで逃げた。

 

「話を戻そう」

「話だけじゃなくて敵の攻撃もそんな風に逸らせるようになってくれ」

「くっ……お、お前というやつは……まぁいい。実は……」

「貴方に依頼したいことがあるのです!!」

 

 ダクネスが最後まで言う前に、その言葉を紡ぎながら小さな影が彼女の後ろから飛び出した。

 透き通るような碧眼に、セミロングの金髪をした少女。

 

「お久しぶりですソーさん!!」

「アイリスじゃないか! 久しぶりだな!」

 

 彼女はこの国を統治する国王の第一王女、アイリス。

 

 同じく民の為に戦う者同士、何度か対談での会話に花を咲かせたものだ。

 

「アイリスが直接依頼なんて随分珍しいな」

「カズマがアイリスに入れ知恵したのですよ。『俺に会いたいなら、幹部を倒して信頼を勝ち取ってる俺達のパーティーに直々にクエストを依頼すれば会えるだろ』って」

 

 そう言いながら冷たい目線をカズマに向けているのはめぐみん。

 こいつはとてつもない威力を誇るが一日一発、しかも撃った後は必ず倒れるという爆裂魔法をあやつり、しかもそれしか使えないという何ともおかしな魔法使いだ。

 

 気概は気に入ってる。

 

 そんなめぐみんの視線などカズマは気にする様子もなく。

 

「俺のかわいい妹が会いたいって言ってるんだ。お兄ちゃんたるもの、それを叶えてあげないとな!」

「ハァ……」

 

 めぐみんが盛大に呆れたため息をついた。

 

「兄妹で仲が良いのは羨ましい事だ。それで、依頼ってのはなんだ?」

 

 アイリスはいつもの純白のドレスでは無く、装飾の施された鎧ときらびやかな宝剣を装備していた。

 依頼内容は冒険に憧れているアイリスの護衛か何かだろうか。

 

 そんな推測を立てていると、後ろの方からある声が聞こえてきた。

 

 

 

 

「バイト雷神よ、どうやらその案件は貴様にとってかなり重大なものになるやもしれぬ。最大限の準備をしていくが吉だ」

 

 先程まで空気と化していたそのバニルの声に、俺は振り向いて。

 

「……どういうことだ?」

「王族が抱える占い師が予言したのだ。世界を滅ぼしかねない何か強大な力が西の地に眠っていると」

 

 ダクネスが重めの口調で説明を始める。

 この女も王に使える貴族が一人。他の全員はともかく、その立場にいるものとして事を重大に受け止めているようだ。

 

 だが、ここで疑問が二つ。

 俺はバニルの方へと顔を向けたまま。

 

「俺にとっても重大なものというのは?」

「貴様がここに来てから、契約通りに貴様が感じ取ったという力を探してはみたものの……収穫はなかったであろう?」

「ああ」

 

 それは、俺がしばらくここで働き続けている理由。

 なんでもバニルがそれを見通そうとすると、強力な光が邪魔をして見えないのだそうだ。

 

 この悪魔は強い神聖な力を持つ存在や自分の力に匹敵するものを見通すことができない。

 だからこそ、よりインフィニティ・ストーンに関係しているのではとの疑いが強まったのだが……。

 

「プークスクス!! 見通す悪魔の名折れじゃない!! ウケるんですけどー!!」

「フハハハハハ!! 名折れどころか折れる名すら立たない残念女神がほざきよるわ!!」

「ほーん。木端悪魔がそんな口を利いて良いの? 言っとくけどね、ここにはあんたの天敵が二人もいるのよ? その気になったら残機なんて残らず消し飛ばされると思いなさいな。ねっ? ソー?」

「お前女神のプライドはどこに捨ててきたの?」

 

 あなたは私の味方でしょと言いたげな視線をチラチラと向けてくるアクア。

 後ろのカズマの目が凄い勢いで冷めていっているのには気づいていないご様子だ。

 

「この悪魔がムカつくのは俺も同じだが、今は話を進めたい。たのんだカズマ」

「合点承知の助」

「あっ! カズマ、なによこの手。女神の首筋に気安く触れるなんてあああああーっっっ!!」

 

 氷結の初級魔法を首にかけられたアクアは、床に亀のようにうずくまって震えながら恨み言をブツブツつぶやきだした。

 そんなアクアを尻目に、俺はバニルに目線で話の続きを促す。

 

「……で、今そこの小僧共の行く先を見通したところ……なんと偶然にも、以前見通そうとして失敗した時に見たのと同じ光が見えたのだ。これはひょっとするかもしれんぞ?」

「ハッハッハ! おもろくなってきた! 用意しろウィズ! 冒険に出るぞ!」

「…………」

「ウィズ……?」

 

 俺の世界や伝説の石(インフィニティ・ストーン)の話、アベンジャーズの話を聞いてた時は『そんな冒険ができたら楽しそうですね』なんて笑ってたウィズが、どこかその顔に陰りを落としている。

 

 とりあえず俺は笑いながら、手の甲で軽くウィズの肩を軽く。

 

「おい、どうしたんだ! ほら、楽しみにしてた冒険だぞ!!」

「……その、もし見つけたものがソーさんの探しているものだったら……ソーさんはもうこの世界からいなくなってしまうのですか?」

 

 そう、心配そうにウィズが尋ねてきた。

 

 ……ああ、そうだった。

 そのことについて全く考えていなかった。

 

 ここに来てそれなりに経つ。

 この世界は俺にとって第二の地球みたいなもんだ。

 

「まぁ……そうなるな。でも安心しろ、虹の橋を通じてまたいつでもここにもどって……」

 

 そこまで言ったところで、俺はふと思い出す。

 いつの日か、今とまったく同じセリフをジェーンに言ったのに、結局俺は彼女の元に戻らなかったことを。

 それが原因でジェーンとは深い溝が出来てしまったことを。

 

「あっ……私、なんだかラブコメの匂いがしてきたわ」

「何が悲しくて他人の……しかもイケメンがイチャついてる所なんて見なくちゃならないんだ。帰らせてくれ」

 

 アベンジャーズの元にだって戻ってない。

 

「こら!! 本当に帰ろうとするな!!」

「そうですよお兄様……!!」

 

 もし見つけたものがインフィニティ・ストーンだったのなら、すぐさま確保してアスガルドに厳重に保管しに行くだろう。

 

「あ、あの……カズマ。そんなに羨ましいのであれば、私が少しくらい……」

「詳しく」

 

 そして……新しいインフィニティ・ストーンを探しに行く。

 

「ああっ! ズ、ズルいです! お兄様!! クエストは少し延期してもいいので、先に王城で私と英気を養っても……」

「アイリス様!? 国家の一大事なのですよ!? しかも、その男は女と見るや否や見境なしに襲いかねない野獣です!! ここは私が引き受けますので……」

 

 違っても……結局他の惑星にストーンを探しに行く。

 

「……俺、ソーを妬む必要なんてなかったんだな……」

「うーわ。カズマさんの余裕そうな顔がすっごい気持ち悪いんですけどー……」

 

 ……それが今の俺に課せられている使命なのだから。

 

「雷神に同情してやるつもりはないが、貴様らは少し空気というものを読んだらどうなのだ?」

 

 だが、雑音だらけの周囲の中、ふと気が付く。

 

 ──()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 俺はウィズへと向き直って彼女の瞳を見据えた。

 

「ウィズ」

「は、はいっ」

 

 目を離さず、店の傘立ての方へと手を伸ばす。

 俺の想いに応え、立てられていた傘……姿を変えたムジョルニアがカタカタと震え、我が手へと……

 

「安心しろ、俺は必ず戻ってくるぞ。なぜなら……グハッ!?」

 

 ……土台の傘立てごと飛んで来て、俺の頭に直撃した。

 

「「「「…………」」」」

 

 盛大に床に叩きつけられ、ひしゃげた傘立てが床を転がるも、俺は何でもないかのように立ち上がってムジョルニアを手に不敵に笑う。

 

 そして……

 

 

 

 

「なぜなら俺は、この素晴らしい店のマイティ・アルバイターだからだ!」

 

 その言葉と同時に周囲が雷の光に覆われ、俺の身を戦士の装束が包み込んだ。

 

「だから、そう心配するな。とりあえず今は旅を……ウィズ? どこいった?」

 

 だが、光が収まってクリアになった視界にウィズの姿は見えない。

 周囲をキョロキョロと見渡していると、カズマがコンコンと俺の背中をノックしてきた。

 

「ソー……足元みてみ」

 

 彼の言葉に視線を下ろすと、そこには俺が正装を纏う際に放たれた神気にあてられ、地面に倒れて体が少し透けているウィズの姿が。

 

 

 ……しまった。

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