この素晴らしい世界に祝福を!アナザー・ユニバース・アイアンマン   作:Tony.Stank

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明日投稿と前回いったのに申し訳ない……。
最後は五千文字くらいにするつもりが、気が付いたら一万七千文字も書いてたんだよ。


番外編2 マイティ・アルバイター 後編

 ウィズの店にて。

 

「フハハハハ! これさえあれば、世界一のダンジョンを作ることも夢ではないわ! フハハハハハ!!!」

 

 店の奥にある倉庫から、バニルの高笑いが聞こえてくる。

 コロナタイトを手に入れて上機嫌なのだろう。

 

 ちなみにアイリスは、アクセルにテレポートした瞬間に街の前で待ち構えていたクレアに心配していたと泣きつかれ、半ば泣き落としに近い形で王都へと引き戻されてしまった。

 

 側近であるクレアが泣いて心配していたのも当然だ。

 なぜなら、アイリスはクレアとレインを上手くだまして城を抜け出し、勝手に俺達の旅に同行していたのだから。

 

 王女が勝手に城を出て来るのはどうなんだとその時彼女に言おうとしたが、自分が世界を放浪するアスガルドの王子であることを思い出して飲み込んだ。

 

 そして……。

 

「ウィズ遅いわねー……木端悪魔も倉庫の奥で気味悪く笑っているし、紅茶を入れてくれる人がいなくなっちゃったじゃない」

 

 ……そして、ウィズは……店に戻るや否や、少し待ってて欲しいと言い残して自室に篭ってしまった。

 

 そんな彼女を、俺を見送るために集まった他の仲間たちとテーブルを囲んで待っていると。

 

「ソーったら本当に帰っちゃうの? もっとゆっくりしたって良いじゃない」

「そうしたいのは山々だが、あいにくそういうわけにもいかない。なんてったって……」

「インフィニティ・ストーンが悪いヤツの手にわたる……だろ? そんな切羽詰まって探し続けるほどヤバいのか?」

「何者かが同じように狙っている、悪しき目的でな。六つ揃えられたら……終わりだ」

「…………何が?」

「この星も含めた全宇宙がだ。世に存在する全ての生命が危ぶまれる」

「話がデカすぎて意味わかんねぇ」

 

 理解が追いつかないのか、はたまた現実逃避か。

 カズマは険しそうな顔をして目を伏せた。

 

 自分じゃどうしようもない破滅の危機なんて普通は直視できないだろう。

 

「ふふ……世界を滅亡に導く力……ですか。我が爆裂魔法こそが、その畏怖される名を冠するに相応しいとその悪しきものとやらに見せつけてやりたいですね」

「そんなヤバい奴がいるのか……ふふふ……きっと凄まじい鬼畜に違いない……捕らえられたら……魔王よりも酷い目に……」

「ねぇ……嫌よ? 私は絶対そんなのと戦わないからね? 二人ともお願いだから私を巻き込まないでね?」

 

 ……そう、普通は……だ。

 二人ほど嫌がる奴がいるが……なんだかんだで巻き込まれ、そして解決する力が、こいつらにはあるのだ。

 

 仮に彼らがこの世界の存亡をかけた戦いに巻き込まれようと、きっとどこかで目立った活躍をしてくれるだろう。

 

 期待の目を向ける俺に、カズマが怪訝そうな視線を返してくる。

 

「おい、その目をやめろよ……巻き込まれたらマジで恨むからな……おい! マジで言ってるぞ! そのハイハイわかってるみたいな目をやめろ!! 砂飛ばすぞオラ!!」

 

 手のひらをこちらに向け、彼の得意技である目つぶしコンボの構えをとるカズマ。

 悪かったと手を上げようとしたら、奥からパタパタとスリッパで駆けてくる来る聞き覚えのある足音が聞こえた。

 

「お待たせしちゃってすいません。これを作ってました」

「気にするな。で、何を作ってたんだ?」

 

 ウィズが手に持っていたのは、先に人差し指の腹程の大きさをした小瓶がぶら下がったペンダント。

 その小瓶の中では、小さな赤い石の欠片のようなものがうっすらと、蝋燭の火のような柔らかい光を放っていた。

 

 もしかしなくても……。

 

「ふふ、コロナタイトが入ったペンダントです。バニルさんがくすねたものから少しだけ貰っちゃいました」

 

 そう言ってウィズはいたずらっぽい笑みを浮かべる。

 座っていた椅子から立ち上がり、ウィズからペンダントを受け取る。

 

 手に盛った感触は、ほんのりと温かかった。

 

「綺麗だな……いいのか?」

「もちろんです。あ、特殊な液体に浸してあるので、爆発とかは起きませんから安心してくださいね」

 

 普段あまりアクセサリーといったものを身に着けない俺だが、これは気に入った。

 ペンダントを首からかけると、ウィズが満足そうに微笑んだ。

 

「似合ってますよ」

「嬉しいプレゼントだ。このペンダントは大事にする」

 

 後ろで聞いてたカズマが咳払いを一つして、

 

「嬉しいプレゼントだ。このペンダントは大事にする」

 

 ……俺の声真似をした。

 

「俺の真似してるのか?」

「ああ、似てなかったか?」

「まったく」

「あのな、そんな気取った貴族みたいな口調じゃなくて、もっと嬉しさがあふれる言葉を選べよ。それか、行動で表せ。抱きしめるとかさ」

「カ、カズマさん! 何言ってるんですか!?」

 

 茶化したカズマを、めぐみんとダクネスがジトッとした目つきで睨む。

 

「良い雰囲気になると三枚目になるくせに、なんでヤジだけはいっちょ前に飛ばすのでしょうねこの男は」

「お前がそんな男らしい言動や行動をとったことなど、ほとんどないではないか」

「プークスクス! ヘタれなカズマさんのアドバイスなんてなーんの役にもたたないじゃなーい!」

 

 仲間の三人から非難轟々だが、カズマは耳を抑えて聞こえないフリをしている。

 別れの寂しげな雰囲気が、だいぶ和らいだ。

 

 もしかすると、それを狙ってヤジを飛ばした……のかもしれんな。

 あいつらしょうがないなとウィズに苦笑すると、彼女も苦笑で返してきた。

 

 そして、俺はゆっくりと今迄世話になったウィズ魔道具店の出口へと向かう。

 

「さて、別れのプレゼントも貰ったことだし、そろそろ俺は行くとするよ」

「……そっか。よし、行くぞみんな……バニルは?」

「悪魔のあいつが俺を見送るはずないさ」

「なるほどな……」

 

 全員が席から立ち、俺を見送ろうと後ろに続く。

 扉を開けて路地へとでた俺に、みんなが少し寂しげな笑顔を向けてきた。

 

「ウィズ、俺の部屋とエプロン、そのまんまにしておいてくれ」

「ええ、すぐ戻ってくるんですものね」

「ああ。みんなも達者でな」

 

 カズマたちとも別れの挨拶をし、笑ってそれぞれと視線を交わしたあと、俺はハンマーを天へと掲げ。

 

「またな! 近いうちに会──」

 

 

 瞬間。

 ウィズの店の奥から夕陽も霞む真っ赤な閃光があふれ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──店が、周囲を巻き込んで大爆発した。

 

 

 叫び声を上げる暇もなく、全員がその場から吹き飛ばされる。

 体が空の紙箱のようにたやすく地面を頃張り、近くの家屋といった建造物を突き破った。

 

 ……なにが起こった!? 

 

 両手の指で数えても足りない程の衝撃を全身に受け、ようやく止まった先で体を起こす。

 俺の体を覆っていた木材やら瓦礫やらがガラガラと音を立てて落ちた。

 

「うぐ……ぐ……」

 

 となりで聞こえたうめき声に顔を向けると、そこには背中の鎧に焦げ目をつけたダクネスがうずくまっていた。

 俺はすぐさまダクネスに駆け寄る。

 

「おい、ダクネス無事か!?」

「くっ……二人しか……抱えられなかった」

 

 起き上がったダクネスの下では、顔を煤だらけにしたカズマとめぐみんが倒れていた。

 二人とも衝撃で気絶しているみたいだが、息はしているので無事のようだ。

 

 と、俺達のすぐ横で何かがガバッと瓦礫を跳ね除けて起き上がった。

 

「あああああ熱いし痛いぃぃいいーっ!!!」

 

 アクアが自分に何度もヒールをかけながら、自分の体に付いた埃を払う。

 

 よかった、元気そうだ。

 

「アクア! こっちに来てみんなをヒールしてやってくれ」

「えっ……ああっ! みんな大丈夫!? 今ヒールしてあげるわ!」

 

 俺の声に振り向いたアクアが、倒れているカズマとアクア、そして背中を焼かれたダクネスに気が付いて駆け寄る。

 

「流石はダクネスね。カズマとめぐみんは顔に煤が付いてるだけだわ。『ヒール』ッ!! ほら、これで大丈夫なはずよ、ダクネス。にしても一体なにが……」

 

 最初に気が付いたのは、アクアだった。

 

「ありがとうアクア……アクア? どうし……」

 

 次に、ダクネス。

 二人とも、爆発があった方角をみたそばから絶句していた。

 

 俺もその視線を先を追うと、そこには……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『我の前に震えろアスガルドよ……我はお前の罪……!』

 

 炎と、焼けた土が雨のように降り注ぐその中央で、俺達に向かって剣を向ける炎の巨人。

 倒したはずのムスペルヘイムの王、スルトの姿があった。

 

「バカな……!」

「ア、アクア……カズマ達を連れて逃げろ……! 早く……!」

「どこへ逃げたって同じよ、あんなの……!」

 

 ダクネスもアクアも、目の前に立つ存在がどれだけ強力な存在かわかっているようだ。

 じりじりと後ずさりして喉を鳴らしている。

 

「あれ……? 俺、なんでこんなところで寝てるんだ……?」

「んん……」

 

 カズマとめぐみんの意識が戻ったようだ。

 二人はむくりと体を起こして周囲を確認する。

 

『我こそは……アスガルドにとっての災い……!』

「「…………」」

 

 そして、周囲を火の海に変えながら剣を振り回す、燃え盛った巨人を視界にとらえて。

 

「なんだ、夢か……次はもっとエッチな夢を……」

「朝ごはんができたら起こしてください。今日の当番はアクアのはずです……」

「おい寝てる場合か! あれは現実だ!!」

 

 俺が二人を揺さぶり起こすと、今度は完全に意識が覚醒したらしく。

 カズマは揺さぶっていた俺の手を跳ね除けて。

 

「おはよう! 丁寧に起こしてくれてありがとよ!! で、なんだよあれ!! 魔王軍の企みを止めて帰ってみりゃ、こんどは辺りを火の海に変えるバケモンと戦えってか!! やってらんねーよバーカ!!」

「そうですよ! なんですかアイツは!! 出くわしていい奴と駄目な奴ってものがあるでしょうが!!」

「カズマもめぐみんも落ち着……おい、敵を見ろ! 攻撃してくるぞ!」

 

 ダクネスが気が付くがもう遅い。

 スルトがこちらに向けた剣の切っ先から、紅蓮の炎が噴き出して俺達の元へと迫る。

 

「わ、わあああーっ!! ソー! ソーさーん!! あれなんとかしてーっ!!」

 

 泣き叫びながら右往左往してダクネスの元へと転がり込むアクア。

 対抗できるのは俺とお前くらいの者なのだからしっかりしてほしい。

 

 ハンマーを回転させて竜巻を作りだして防ごうと思ったその時。

 

「『カースド・クリスタルプリズン』ッ!」

 

 ズアッと空気を裂く音を立てながら、俺達とスルトの間に巨大な氷の壁ができる。

 スルトの放った紅い炎が、俺達を守るようにして出現した氷の壁にあたって光を散らす。

 

 聞き覚えのある声に顔を向けると、ウィズがこっちに手招きをしていた。

 

 行くなら今だ! 

 

「こっちです!」

 

 その声を聞いて、俺達は一気にウィズの元へと走り抜けた。

 

 

 ▽

 

 

 正直困惑している。

 なんてったって、私達の店は粉々に吹き飛び、そして店の跡地には神話にしか出てこないような炎に包まれた巨人がいるのだから。

 

 巨人の目をかいくぐりながら、私達は物陰の裏で一息つく。

 私の横では、ソーさんが忌々しげに巨人を睨んでいた。

 

「クソッ……どうしてスルトが復活した……?」

 

 何処かで見た顔だなと思っていたけれど……。

 そうだ、以前倉庫にソーさんが飾っていたスルトだとかいう、ソーさんの世界に住まう怪物……。

 

 何故あんなのが、一体どうしてといった疑問が頭の中で渦巻く中、私達のすぐ近くで足音がした。

 音がした方へ素早く身構えると、そこには本体である仮面のあちこちを焦がしたバニルさんが。

 

「バニルさん! 無事だったんですね!」

「あんな程度でくたばるバニルさんではないわ」

 

 後ろの方でアクア様がバニルさんにも聞こえるように大きく舌打ちをするが、とりあえずそれは置いておこう。

 

「バニル、お前倉庫にいただろ? なんでスルトが復活したか分かるか?」

「それなのだが……我輩にもよくわからんのだ。コロナタイトを倉庫で整理してたらいきなりボンッ……である」

「スルトが復活する条件は一つだけだ。スルトの頭蓋骨を、アスガルドにある永遠なる炎に……永遠なる……」

 

 そこまで言って気が付いたのだろう。バニルさんもアッと言った顔をしている。

 そういう私も気づいてしまった。

 

 ついさっき手に入れたもので、永遠に燃えると言われる物体。

 

「まさか……コロナタイトで復活したのか……?」

「考えたくもないが……それしかありえぬな……」

 

 ソーさんがうつむき、クソとつぶやく。

 

「……俺のせいだ。俺が持ち込まなきゃあんなことには……」

「ソーさん、あなたのせいじゃないですよ。こんなことは誰にも予測できませんでした。今はとりあえず、あの怪物を倒す算段を立てましょう」

「ソーってばもうちょっと気楽に考えなきゃ生き辛いわよ? あのね、アクシズ教の教義にはこうあるの『汝、何かの事で悩むなら、今を楽しくいきなさい。楽な方へと流されなさい。自分を抑えず、本能のおもむくままに進みなさい』……素敵でしょ?」

「素敵だな……他には何があるんだ?」

「おいソー、目を覚ませ!!」

 

 アクシズ教の教義に同意するソーさんに、目を覚ませと駆け寄るカズマさん達。

 こんな大変な状況でもいつも通りなみんなを見て、ソーさんも落ち着いたみたいで。

 

「ハッハッハ! 冗談だ。おかげで頭がスッキリした。ウィズの言う通り、まずはあいつを何とかしないとな。まぁ安心しろ、一度倒してる」

 

 自己嫌悪でうつむいていたソーさんが笑って顔を上げ、いつもの表情に戻る。

 

 うん。その顔こそ私のお店の、誇れるアルバイトの顔。

 

「……で、あいつを倒す方法とかはあるのか?」

 

 カズマさんの言葉に、みんなの視線がソーさんへと向けられる。

 弱点があれば、そこをついて倒せるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺が以前倒した時は、普通に殴り倒した」

「お前はホントに脳筋だな……つまり、特殊な手を使わなくても、殴りまくれば勝てるってことで良いのか?」

 

 カズマさんの言葉にソーさんがああと頷く。

 そうと決まれば、早速攻撃を開始しなくては。

 

 スルトは今も剣を振り回してアクセルの街を焼いている。

 アクセル市民が危機にやたら強いのは知っているつもりだ。でも、大勢が死なないとも限らない。

 

「倒せるとは思うが……気を付けろ、ムスペルヘイムにいた(俺が倒した)時より強力になっている。だが、予言にあった復活とは程遠いようだ……奴の話によると、本来ならば山よりも高い背丈となって俺の国を滅ぼすらしい」

 

 言われてみてみれば、スルトの背丈は山ほどというわけでもなく。

 せいぜいがカズマさんの屋敷より一回り程大きい程度だ。

 

「不完全復活って訳ね……あいつっていわば炎の悪魔でしょ? 私の退魔魔法も効くかもしれないわね……」

「じゃ、取りあえずあいつをぶっ叩く。作戦はこうでいいか?」

「うむ。複雑な作戦よりずっといい。行くぞ! ソー! 私と来い!!」

 

 ダクネスさんとソーさんがスルトの元へと飛び出した。

 

 スルトと言えば、足元の蟻でも見るかのような見下した目を二人に送っている。

 

『我こそはアスガルドを滅ぼす災害……我こそは……』

「おいスルト、ちょっといいか? まず、ここは故郷(アスガルド)じゃない」

『……なに?』

 

 ソーさんの言葉に、スルトはふと我に返って周囲を見渡す。

 自分がいる場所がどこかわからないのか、どこか困惑した様子で視線を戻す。

 

「ここは──」

 

 地面に深く腰を落としてハンマーを投げる姿勢をとるソーさんへと。

 

「──第三の故郷(俺の職場)だ!!」

『ガァッ!?』

 

 彗星のような勢いでソーさんのハンマーが飛んでいき、スルトの顔面に叩き込まれる。

 巨体がグラリとゆらぎ、断続的な地震を起こしながら転んで、地面に手をつく。

 

「さ、さすがソーさん……」

 

 思わず感嘆の息が漏れる。

 

「すげえ……」

「私の信者になる予定ならそうこなくっちゃ!」

「負けてられませんね。爆裂魔法を撃ちこむにはデカくて良い的です! ぶち込んでやりましょう!! 行きますよ!!」

「あっ、おい……!」

 

 ソーさんとダクネスさんに続くようにして飛び出していっためぐみんさんの後を、カズマさんとアクア様が渋りながらも心配するようにして追いかける。

 

 私も行かないと! 

 

『グゥ……オーディンの息子よ……ここがどこであろうと関係ない! 今ここで』

「『セイクリッド・ハイネス・エクソシズム』!」

『オオオオオ゛ッ!?』

 

 スルトの足元から光の柱が天へと突き上がり、全身から湧きたつ炎を燻ぶらせる。

 

「どやさ!」

『ちっぽけな精霊ごときが、我の邪魔をするか!!』

 

 燃える剣の切っ先から、アクア様へと炎が放たれる。

 このままではマズイ。

 

「ソー! ウィズー! 跳ね返したげるから協力してー!!」

「「任せろ(てください)!!」」

 

 ソーさんがハンマーから雷を、私が手から氷の魔法を放ってスルトの炎を真っ向から迎え撃つ。

 

 ──が。

 

「ぐ……!」

「きょ、強烈ですね……!」

 

 スルトの炎はかなり強力だ。

 私とソーさんの攻撃でやっと勢いが落ちる程度。

 

 あとは……。

 

「よくやったわ二人とも!」

 

 ……水の女神の力を信じるのみ。

 

 アクア様が両の手のひらを突き出すようにして前に出すと、その前方に魔法陣が浮かび上がる。

 

「こっちの番よ、このデカ眉悪魔!! 『リフレクト』ッ!!」

『ガアアアッ!?』

 

 火炎がそっくりそのまま跳ね返り、スルトの上半身をすっぽり覆った。

 スルトは片手で払いのけるようにして自分を包んだ炎をかき消す。

 

『もう容赦はせんぞ……』

 

 そして、剣を両手に持って構えて横なぎの姿勢をとる。

 剣から炎があふれ、周囲の空気が熱気でぐにゃりと歪んでいく。

 

「ダクネス! あれ止められるか!?」

 

 ソーさんが振り返ってダクネスさんに聞くが、その表情はすぐれない。

 どうやら難しそうだ。

 

 ならばと、私は氷結魔法の準備をして前へと飛び出す。

 

『薙ぎ払ってくれる!!』

 

 構えられた剣がグオンと空気を焼き裂く音と共に振りかざされる。

 私の力で凍り付かせることができるかどうか……。

 

「『カースド・クリスタルプリズン』ッッ!!」

 

 魔力を込めて放った氷結の上級魔法。

 バキンッと軋む音を立て、迫る炎の剣と私たちの間に氷山を出現させるが……。

 

「だ、駄目です! 突破されます!!」 

 

 まるで温めた包丁でバターでも切るかのように、あっさりと氷山へと刃を滑り込ませる。

 剣はそのまま氷山を断ち切り、私達の元へと……。

 

「『バニル式殺人光線』ッ!」

『ヌゥッ!?』

 

 私の後ろから二条の光が飛び出してスルトの剣を弾く。

 振り返ると、そこにはバニルさんが目を赤黒く光らせていた。

 

「た、たすかりました……」

 

 バニルさんはと言うと、スタスタと歩き私を素通りしてスルトに向き合った。

 スルトはバニルさんに不思議なものを見るような視線を向けている。

 

『……貴様悪魔か? なぜ我の邪魔をする……!』

 

 そう問われたバニルさんスルトを指さして不敵に笑う。

 

「悪魔の世界は弱肉強食、貴様を屠るには十分な理由であろう?」

『ハハハハ!! 面白い、やってみるがいい!!』

 

 嘲笑に顔を歪めたスルトが、私達ごとバニルさんを踏みつぶさんと足をあげて振り下ろす。

 

「と、止めて見せる!」

「支援魔法してあげるわ! 信じてるからね!!」

 

 アクア様の支援魔法を受けたダクネスさんが淡く輝き、巨岩の落石のごとく迫るスルトの足に対してどっしりと構えた。

 

 轟音を立てて迫るスルトの足に、アクア様が目に涙を浮かべて。

 

「や、やっぱ逃げればよかったかしら……」

「台無しだよボケ!」

 

 お腹の底まで響く衝撃と共に、私達の目の前でスルトの足が止まる。

 ダクネスさんが、両の手でしっかりと止めたのだ。

 

「止めたぞッ……で、でも強烈だ……!! 長くはもちそうにない……っ、早く反撃を……いや、もうちょっと……」

 

 本当に台無しだ。

 でも、このチャンスは無駄にはしない。

 

「『ライトニング・ストライク』ッ!」

「ハァァアアアッ!!」

「『バニル式殺人光線』ッ!!」

「ついでにとっとけ!」

 

『グァァァアア……!!』

 

 ありったけの魔力を込めた雷の上級魔法を詠唱してスルトへ向け、隣にいるソーさん、バニルさんと共に合わせて放った! 

 雷と光線が混じった長大なエネルギーが槍状となってスルトの胸に直撃する。

 流石に効いただろう、スルトはよろけながらその巨体の背を地面に叩きつけた。

 

 カズマさんも矢を放ったようだけど、その矢はスルトの体に着弾するや否や速攻で燃え尽きて灰になってしまっている。

 。

 

「ああ、俺も頑張ったさ。礼は良いよ、どうも。チクショウ」

 

 灰になって散っていた自分の矢を眺めて肩を落とすカズマさん。

 そんなカズマさんの肩を、めぐみんさんがポンポンと叩いて慰めていた。

 

 再び目をスルトへと移す。

 そこには……。

 

「そんな……どうやったら倒せるんですか……!」

 

 大したダメージを負っていないのか、スルトはゆらりと立ち上がって剣を構えた。

 

『……少しは楽しめた。さぁ、滅びの時を受け入れるがいい……我が眷属たちよ、奴らを葬るのだ!』

 

 スルトがそう叫んで剣を掲げると、それに呼応するかのようにして地面から焼けた土で出来た人形のような敵が無数に湧き出てきた。

 

「わ、わあああーっ!! カ、カズマさーん!! あれなんとかしてーっ!!」

「俺にあんなのどうこうできるわけないだろ!! だ、だめだ、矢も効かねー!! めぐみん! 爆裂魔法で……」

「む、無理です! ああもまとまりがないと逃してしまいます!」

 

 あれこれとカズマさん達が叫んでいるのを愉快そうに眺めながら、スルトは湧き出た自分の配下に命令を下した。

 

『行くのだ、我が下僕たちよ。この街の民を皆殺しにせよ!』

 

 スルトの配下たちが、奇声を上げて周囲へと散らばる。

 爆発音とスルトを見て駆け付けた冒険者たちと、そんな彼らに誘導されて逃げていた市民が一瞬にしてパニックになる。

 

 なんて卑劣な……! 

 

 怒りで拳を握りしめるが、ソーさんがハンマーを振り回して飛び、散らばる軍勢へと飛び込んだ。

 

「卑怯だぞスルト! 俺が目的じゃないのか!!」

 

 少しでも市民に危害を加えさせないよう、スルトの配下を蹴散らしながらソーさんが怒って叫ぶ。

 ソーさんに加勢しようと、駆け出したのとソレは同時だった。

 

 溢れるようにして群がる配下の相手で手一杯なソーさんに、スルトは……。

 

 

 

『もちろん、そのつもりだとも』

 

 

 ──配下ごと、ソーさんを大剣で切り付けた。

 

 心臓を一突きにされたかのような衝撃が走る。

 火に包まれて飛んでいくソーさんを、周囲の時の流れが遅くなったような感覚を覚えながら呆然と眺める。

 

 そんな……! 

 

「ソーさんッ!!」

「待てウィズ! 一人で行くでないわ!! おいッ! 我輩についてこい残念女神! ウィズの援護と焦げ雷神の回復に向かうぞ!!」

「わ、わかったわ!!」

 

 バニルさんが叫ぶが、まるで水の中にいる時のように私の耳に入らない。気が付いたときには、私はソーさんの元へと走り出していた。

 

「「「「ヴォォォオッ!!」」」」

「邪魔をしないで!!」

 

 雄たけびを上げて迫るスルトの配下。

 無詠唱で光の上級魔法を発動させ、私の手から光の剣が出現する。

 

 無造作に光の剣を振るい、スルトの軍勢を次々と切り裂いてソーさんの元へと向かう。

 

「い、今のウィズってばちょっと怖いんですけど……」

「そのウィズのためにも早く焦げ雷神の元へと急ぐのだ!」

 

 ソーさんの元へと駆けつけた私は、怪我の具合を確認する。

 皮膚のあちこちが焼け焦げ、あまりにも痛ましい姿となってしまっていた。

 

 意識はない。息は……辛うじてしているようだ。

 

 フリーズの魔法を唱えて少しでも痛みが和らぐように処置を施す。

 

「ソーさん、これで少しでも痛みを……!」

 

 何かの偶然か、今ソーさんが倒れている場所は私達の店の跡地だった。

 どうやら、戦っているうちに戻って来たらしい。

 

 この思い出の場所を、記憶を、親友を失いたくないという思いがただただこみ上げる。

 

「ウィズ、私が回復するからそこをどいてちょうだい。その間、周囲の警戒を木端悪魔とよろしくね」

 

 うしろからかかった声に、私は冷静さを少し取り戻した。

 

「ありがとうございます、アクアさん。よろしくお願いしますね!」

「任せなさいな! こんな火傷、私からすれば日焼けと大して変わらないわよ! 『セイクリッド・ハイネスヒール』!」

 

 アクア様の詠唱と共に、柔らかな光がソーさんの体を包む。

 アクア様に任せれば大丈夫だろうと、その場を離れようとした時だった。

 

 

「……あれっ?」

 

 何故か、傷が癒えないソーさんの体を見て、アクア様がそんな気の抜けた声を漏らす。

 

「な……なんで……? 『ヒール』ッ! 『ヒール』ッ! どうして治らないの!?」

 

 なんど治癒の魔法をかけても一向に傷がふさがらないソーさんを見て、不安と絶望が水のように満ち始める。

 最悪の予感が頭をめぐりはじめた。

 

『オーディンの息子を切り付けた剣に宿っていたのは、アスガルドを滅ぼす怨念の炎。今までの物とは比べ物にならぬ災厄の炎を宿した剣。お前ごときに癒せる傷ではない』

 

 絶望を告げるスルトの声が心の底まで響く。

 ソーさんの息が、少しづつ弱まっていく。

 

 このままでは……! 

 

 

 

 

 あきらめかけたその時……、

 バチッと、何かがはじける音がした。

 

 その音がしたのは、私のすぐ足元。

 そこへ視線を向けると、どこか見覚えのある魔道具が転がっていた。

 

 稲妻を模したようなマークが彫られた小箱。

 

 私はそれを手に取り、ソーさんと交互に見る。

 

 ソーさんは、雷の神様。その身には、雷のエネルギーが駆け巡っている。

 もし、純粋な魔力によって構成された雷をその身で吸収出来たら? 

 

 このままではどのみち死んでしまうかもしれない。

 

 私は一か八かでその魔道具でソーさんの起死回生を図ろうとする。

 

 ……だが、一つ問題があった。

 この魔道具が放電を行うのに必要な魔力は、上級魔法数十発分。

 そんな魔力を生成するものなど……。

 

 どうするべきかと高速で思考を回転させるさなか。

 ソーさんの胸に灯る光が目に入った。

 

 そう、ソーさんの首から下げられた、コロナタイトの欠片が入っているペンダントだ。

 

「これなら……! アクア様、離れていてください! 何とかなるかもしれません!」

「え? えっと……いいけど、何をするつもりなの? なんだかスッゴク嫌な予感がするんですけど」

 

 危険を察知したのか、アクア様がジリジリと私から距離をとる。

 

「ごめんなさい、また新しいの作りますから……!」

 

 ソーさんの首からペンダントを引きちぎり、コロナタイトが入っている小瓶の部分を握りしめる。

 そんな様子を見ていたバニルさんが血相を変えて。

 

「正気かヤケクソ店主!? そんなことで復活するとでも!?」

「他に策もないです! これにかけるしかありません!」

 

 バニルさんの制止も一切聞かず、私は左手に魔道具を、右手にペンダントを持ち……。

 

「ソーさん……! 最後までとことん付き合いますよ!」

 

 両方を、胸の前で叩きつけるかのようにしてぶつけ合わせた! 

 

 

 ドンッと、おなかの底まで震えるような音が響く。

 辺り一帯にジグザグ模様の光があふれ、あまりのまぶしさに目をつむってしまう。

 

 空の暗雲の厚みが増し、ゴロゴロと音を轟かせる。

 

『何が……』

 

 スルトも目を向けるその刹那。空から光を束ねた柱のような雷が私の元へと飛来した。

 

「きゃぁっ!?」

 

 爆風にも似た衝撃が全身を駆け抜け、思わず飛ばされる。

 体を起こすが、周囲に土煙が舞っていて何が起こったのか把握できない。

 

「ソ、ソーさ……」

 

 

 

 ──バチッ。

 

 

 

 不安げに出た、安否を確かめる私の声を、空気の爆ぜる音がかき消した。

 

 

 

 ──バチバチバチッ。

 

 

 

 その音は次第に大きさを増し、やがて土煙の中からでもわかるほどの紫電が走り始める。

 

 

 

 

 

 

「夢のなかで、父上と話をした……俺を待つものがいると、そして俺が何者であるか名乗りを上げてやれと」

 

 聞きなれた声が土煙の向こうから聞こえ、安堵に顔がほころぶ。

 ブオンッと、空気の唸る音と共に土煙が吹き飛び、ハンマーを握りしめたソーさんが歩き出てきた。

 

I AM MIGHTY THOR(俺は、マイティ・ソーだ)

『馬鹿な……ありえぬ……!』

 

 その身には、バチバチと紫電が走っている。

 私が安心した顔で近寄ると、ソーさんは私に感謝を告げてきた。

 

「ウィズ、お前のおかげで助かった。礼を言わせてくれ」

「お気になさらず。魔道具のお代は結構ですから」

 

 遅れて駆け付けたカズマさん達が、ソーの姿を見て次々と声を上げる。

 

「ふっ……とうとう隠された力に目覚めましたか……」

「おい、覚醒イベントとかずるいぞ。俺も何か秘めた力に目覚めたい」

「カズマさんが何に目覚めるっていうの? 新しい性癖かしら? プークスクス!」

 

 頬をつねられ、涙目にされるアクア様。本当にぶれないパーティーだ。

 

 ダクネスさんも安心したようにソーさんに近づいて。

 

「おかえり、ソー。もう大丈夫か?」

「ああ、俺はもう問題ない。それより、お前はカズマ達を守ってやれ、俺は奴を止める」

「おい、それでは……」

「そして、逃げ遅れた民を避難させるんだ。ああ、俺なら大丈夫だ」

 

 自信に満ちた顔でそう告げるソーさんの背中を、手の甲で軽くノックする。

 すこしだけ、肌がピリッとした。

 

「ソーさん、私も戦いますからね?」

「もちろんだ。共に戦おうじゃないか、相棒」

 

 その言葉に笑って、ソーさんとコツンと拳を合わせる。やっぱりピリピリする。

 そんな私たちをみたバニルさんがため息をついて。

 

「まったく、脳筋アルバイトと残念店主はいざ戦いとなると武闘派にもほどがあるわ」

 

 否定はできない。

 佇むスルトと、スルト足元から湧き出してこちらに向かってくる眷属の軍勢、そして隣に立っている頼もしい戦友の姿に、私は湧き上がる高揚感と共に思い出したのだから。

 

 かつて氷の魔女と呼ばれた時のことを。

 人間として戦い、魔王軍を片っ端から狩っていた時のことを。

 

 

 

「それでは、残業といきましょうか……!」

 

 私の全身に霜が降り、周囲にダイヤモンドダストが舞い始める。

 

「行くぞ、覚悟しろ……!」

 

 ソーさんの全身に紫電が走り、周囲がバチバチと爆ぜる。

 

「フハハハハ!! 面白くなってきたな、雷神よ!! 炎の大悪魔を滅そうではないか!」

 

 バニルさんの目に赤黒い光が灯り、邪悪なオーラが滲みだす。

 

『いいだろう……今度は一片も残さず灰にしてくれる!』

「「「ハァァアアアッ!!」」」

 

 迫るスルトの軍勢のど真ん中に、三人で一斉に飛び込む。

 

 雷によって、氷によって、純粋な魔の力によって。

 

 敵は感電しながら吹き飛び、あるいは凍り付けになり、またあるいは熱線で切れ飛ぶ。

 

「……なんだよあれ」

 

 カズマさんが後ろで置き去りにされたような声でボソッとつぶやいた。

 

「まとめてかかってこい!!」

 

 ソーさんが紫電を纏い、ハンマーと共に突撃したかと思えば、あちこちで落雷が起き、敵ははじけ飛んで灰となって消える。

 

「『カースド・クリスタルプリズン』ッッ!!」

「『バニル式殺人光線』ッッ!」

 

 特大の魔力を込めて放たれた上級魔法で敵は氷山の中に閉じ込められ、バニルさんの光線が氷山を通して周囲にリフレクトし、スルトの配下がバラバラになっていく。

 

「オマケだ!」

 

 トドメにと氷山のてっぺんからソーさんがハンマーを叩きつけて粉砕した。

 パラパラと降ってくる氷の粒が周囲で燃える炎に反射し、キラキラと光を放つ。

 

『小癪な!』

 

 スルトが再び剣を横なぎに振るう。

 今迄一番強烈な魔力のうねりと、かまどを開けた瞬間のような熱波が駆け巡る。

 

 振るった剣の軌跡をたどるようにして、大きな炎の波がうねりを上げてこちらに向かって来た。

 それはさながら、明確な悪意を持ってこちらに牙を剥く山火事。天災そのものだ。

 

 それに対抗するかのようにソーさんがハンマーを振るい、巨大な竜巻を発生させる。

 

「『フリーズ・ガスト』!!」

 

 私の手から純白の霧が吹き荒れ、竜巻の外側を覆う。

 ブリザードの如き零下の暴風を纏った竜巻が荒れ狂い、スルトが生み出した炎とぶつかった。

 

「ぐっ……!!」

 

 間違いなくこの街の全てを灰にして余りある一撃。

 ここで止めないとどれだけの被害が出る事か。

 

 ハンマーを構えたソーさんが少しずつだが押され始めた。

 

「ク……『クリスタル・プリズン』!」

 

 押される私たちの背後に氷の壁を作り、支えにするが、作ったそばからバキバキと音を立てて割れてしまう。

 

『あきらめろ、オーディンの息子よ……お前を今ここで討ち取り、たとえどれだけ離れていようと、アスガルドをラグナロクで滅ぼしてみせるぞ』

 

 剣にさらに力が籠められ、いよいよ立っているのも危うくなってきた。

 私とバニルさんでソーさんの背中に肩をぶつけ、力いっぱい押して踏みとどまる。

 

「『クリスタル・プリズン』! 『クリスタル・プリズン』……ッ!」

 

 背後に氷の壁を張り続ける。

 だけれど、まるで無意味だと言わんばかりに後退を止められない。

 

「負けてたまるか……!!」

 

 ソーさんが全身に力を籠め、前のめりになって足を踏み出そうとしたそれと同時。

 

「『エクスプロージョン』ッッッ!!!」

『ッ!? ガァァアアアッ!?』

 

 突如起こった爆裂の衝撃によって、スルトの体がグラリと揺らいで膝をつく。

 今のでスルトの炎の勢いが弱まった! 

 

 さらに、私達の背後にドンッと衝撃が走る。

 

 顔だけを後ろに向けるとそこには。

 

「はーっはっはっは!! あの巨大な炎の悪魔と言えど、我が爆裂魔法にはひれ伏すほかなかったようですね!! あとは任せあふぅ」

「市民の避難はギルドと冒険者が総出で行ってくれている。私たちも加勢するぞ!!」

「あんなゲジマユ悪魔、さっさと倒して暖炉代わりにでもしちゃいましょう!!」

「オラー! お姉さんの店まで燃えたらどうしてくれんだよこのヤロー!!」

 

 カズマさん達が各々叫びながら、私達の背中に肩をつけて力いっぱい押してくれていた。

 めぐみんさんは地面に倒れ伏せているが、エールを送っている。

 

 文字通り背中を押された私たちは、そのまま最初の一歩を、反撃への一歩を踏み出した。

 

 白い竜巻が少しずつ、スルトを飲み込もうと迫り始める。

 

『この……矮小な……存在共めが……!』

 

 体勢を立て直したスルトが、再び剣先に力を込めて全てを焼き尽くそうとする。

 

 ……が。

 

『馬鹿な!? な、何故止まらん……!?』

「それはな──」

 

 

 ソーさんの体を再び紫電が覆い、私達は猛烈な勢いで前へと進む。

 

 

 

 

 

「──俺達が、ヒーローだからさ!!」

『ぐっ……ぐおおお……!!』

 

 

 

 ……前へと進んではいるのだが。

 

「ああああ!! ソーさん!! 全身がビリビリします!! それ何とかできませんか!?」

「貴様何のつもりだ!! 痺れるであろうが!!」

「いでででで!! おい! なんか肩こり取れそうだけどメッチャ痛い!!」

「いたーい!! ねぇ、すごく痛いんですけどー!?」

「も、もう少し……強くできるか……?」

 

 ソーさんからあふれる電撃が、みんなの体を通電してしまっている。

 ビリビリして痛いが、心なしか力が沸いてくる。

 

「押せえええええええええっ!!!」

 

 ソーさんの雄たけびに合わせ、全身の力を振り絞ってスルトへと前進する。

 

 ──そしてとうとう、炎を押し切って竜巻をスルトへとねじ込んだ! 

 

『グォァアアアアアアアッッッ!!!』

 

 氷の竜巻に包まれ、スルトの体が少しずつ、冷えた溶岩のように固まっていく。

 

『ありえん……こんなことが……!!』

 

 燃えるような赤みを帯びた体が、黒い岩状に変質していくスルトへと、ソーさんが一歩踏み出た。

 

 そしてハンマーを天に構えると、雷鳴が轟く暗雲が立ち込める。

 暗雲の内側から雷が爆発するかのように断続的に光り、ゴロゴロと音を立て……。

 

「これで終わりだ、スルトおおおお!!」

 

 天から雷が、闇を切り裂くジグザグの閃光が。

 強く瞬き、槍となってスルトの胸を撃ち貫いた──!! 

 

 

 ▽

 

 

 スルトによって引き起こされた大火事は、アクアが雨を降らせたことによって一晩で鎮火した。

 その雨は災害じみた被害を受けた民の傷をいやし、ウィズを浄化しかけるというおもしろい出来事を引き起こしたりもしたが。

 

 そんな、一晩が明けた朝。

 俺達はいつものように、ウィズ魔道具店の前へと集まっていた。

 

 いつも通りとはいえ、普段とは決定的に違う所が一つ。

 

「やっぱり……酷いありさまですね……」

 

 吹っ飛んだ自分の店の跡地を見て、ぼそりとつぶやくウィズ。

 当然と言えば当然だ。何せ、スルト復活の爆発の中心地だったのだから。

 

 あははと仕方なさそうに笑ってはいるが、悲しげに瓦礫の山になった自分の店の上を歩きまるウィズの姿は痛々しい。

 

 そんなウィズの肩に、ダクネスが手を置いて慰める。

 

「そう気を落とすな。ギルドが今回の件で我々に特別報酬を出してくれるそうだ。それも、街の危機を救ったということで、かなりの額が出されるそうだぞ」

「普段赤字ばかり出している分、下手したら儲かりそうであるな」

「バニルさん、酷いです……」

「そうだぞ、ウィズの出す商品はどれも優秀じゃないか」

 

 そう口々に言う俺達の姿をみて、バニルが大きなため息をついた。

 

「で、これからどうするのだ? 家でもある店がこうして瓦礫の山と化しているわけだが」

「それなんですよねぇ……どうしましょう……」

 

 悩むウィズの肩に今度はカズマが手を置く。

 決め顔なのか変顔なのか、妙に引き締めた顔をしながら。

 

「ウィズ、良かったら……しばらくウチに来ないか? なに、心配するな……お代は結構さ……」

「……この男、鼻の下が伸びてますよ。ですが、それならにぎやかになりそうで良いですね。毎日の爆裂魔法に是非ウィズを同行させたいのです」

「ウィズがいたらきっと楽しいわ! 浄化はしないから安心して!」

「うむ、私も賛成だ」

 

 それではバニルはどうするのだろうか。

 俺がバニルに向けた視線に、カズマ達が気が付く。

 

「お前は……どうしよう」

「反対反対、大反対ですー!! そもそも結界があるからこいつは入れないわ……あれ? それってウィズも同じじゃないかしら……?」

「誰が貴様のようなやかましい鶏女神がいる屋敷に住むものか!! 頼まれても御免であるわ!! まぁ、貴様のような駆け出しプリーストが作った結界など、なんでもないのだが……なっ?」

 

 バチバチと火花を散らすアクアとバニル。

 何でこうもこいつらは話を進めることができないのだろうか。

 

 やがて喧嘩を始めた二人と、そんなアクアとバニルを止めに入るカズマ達。

 ぶれない彼らを見てると、ウィズが楽しいですねと微笑みかけてくる。

 

 そんなウィズに、俺はあることを思いついて。

 

 

 

 

「……そうだ、ウィズ。アスガルドに来ないか?」

「へっ?」

 

 その言葉が聞こえたバニルとアクアがピタッと止まって。

 

「おい、冗談ではないぞ。神々の住まう国などにアンデッドを招待するとは何を考えておるのだ?」

「アスガルドは寛容だ。最初は驚かれるかもしれんが、必ず受け入れられるさ」

「ずるーい!! 私も行きたいわアスガルド!! ねぇ! ちょっとだけで良いから私も行きたいんですけど!」

「お、おいアクア、今は邪魔をするときではない、静かにしておけ!」

 

 さて、どうする? とウィズに振り返ると。

 ウィズはどこかワクワクとした表情を浮かべていて。

 

「ソーさんの故郷ですか。なんだか楽しそうですね……ふふふ、お邪魔させてもらってもいいですか?」

「結局イケメンが勝つのか……解散解散」

「お前というやつは、普段散々私たちに空気を読めとか言うくせに……」

「バニルはどうする?」

 

 俺がそう聞くと、バニルは忌々しそうに顔をしかめて首を振る。

 

「勘弁願いたい。誰が好き好んで神々が住まう国に行かねばならんのだ。人間の基準で例えるならば、腐肉で出来た宮殿に住まうようなものだ」

「だとさ、ウィズ。酷い言いようだな、俺の頼れる先輩アルバイトは行きたくないだと」

 

 俺がそういうと、ウィズは作ったような悲し気な顔を浮かべて。

 

「残念ですね……三人だったらもっと楽しいでしょうに……ウィズ出張魔道具店なんて開いたりして……」

「おお、それいいな。世界を渡り歩き、そこで見つけた面白いものをアスガルドで面白おかしく売っていくとしよう。あーあ、楽しそうなのにな!」

 

 小芝居を始めた俺達にバニルが段々とイラつきを見せ……。

 

「やかましいわ貴様ら!! 行けばいいのであろう!! 貴様の故郷にずっと留まるわけではないのなら構わんわ!! 行ってやろうではないか!!」

 

 ずかずかと俺の方へ来るバニル。

 

 よしよし、大成功だ。

 バニルを引きずり出すことに成功した俺とウィズで、コツンと拳を合わせる。

 

「というわけだ、アクアも来てもいいが、一度アスガルドに来たらしばらく戻れないぞ。それでいいのか?」

 

 そう言うと、アクアはしばらく顎に手を置いて考えて。

 

「そういうことなら、遠慮するわね。なんだかんだ、こっちの生活は楽しいし」

 

 アクアがそういうと、心なしかその後ろのカズマ達が笑った気がした。

 俺はただそうかとうなずいて、ハンマーを空に掲げる。

 

「それじゃ、そろそろ退場だ。カズマ、アクア、めぐみん、ダクネス。ここもまた俺の居場所だ。また戻ってくるから、その時はよろしく頼む」

 

 カズマ達は、ただ黙って、笑顔で手を振ってくれていた。

 

「──では、またな」

 

 その言葉と共に、俺達は虹の橋を呼び出してアスガルドへと帰郷した──。

 

 

 ▽

 

 

 辺りで魔法による轟音と、兵士たちの悲鳴が聞こえる。

 

「アイリス様! アイリス様だけでもお逃げください!! ここは我々が……グハッ!!」

 

 私にそう告げてきた兵士が、目の前で敵の剣によって無慈悲に切り捨てられる。

 

 

 王都に進行してきた魔王の娘率いる攻撃部隊。

 魔王の加護の効果により、ゴブリンでさえも凶悪な怪物と化し、私達ベルゼルグ軍は劣勢を強いられていた。

 

 聖鎧アイギスに身を包み、一族の宝剣を握って戦っていたが、そろそろ限界が迫ってきている。

 

「アイリス様……どうかお逃げください……」

「それは……できません」

 

 何故なら私はこの国を守る為に存在する、民を守るべく立ち上がる為に存在する国の上に立つ王女。

 ここで背を見せて逃げる事は許されないのだ。

 

 覚悟を決め、宝剣を握りしめてもう一度敵へ切り込もうと……。

 

 

 

 ──したその瞬間。

 

 突如、目の前に虹色に輝く光の柱が出現した。

 その柱から、ハンマーが矢の如き勢いで飛び出し、次々と魔王軍の敵を蹴散らしていく。

 

 見間違えるはずもない、あの雷を纏いし鉄槌。

 

 円を描くようにして敵を薙ぎ払ったハンマーは、空中でピタリと止まると、再び光の柱へと戻っていき……。

 

 

 

「戻ってきてみれば……ずいぶんな惨事になっているものだ」

 

 収まったその光の中に、三人の人影があった。

 

 ソーさん、ウィズさん、そしてハチベエ。

 なぜここに、どうやって、そんな思いは吹き飛ぶほどの強烈な昂ぶりを感じていた。

 

「あっはははは!! さぁ、観念すべきですよ!!」

「ア、アイリス様?」

 

 ソーさんの体から紫電が走り、敵へとハンマーを片手に駆け出す。

 ウィズさんと、バニルさんも続いて駆け出した。

 

「スルトの時を思い出しますね!」

「あの時より、もっと強烈に行くぞ!!」

 

 飛び上がったソーさんが、落雷を纏って光となる。

 その手に掲げられたハンマーから雷が迸り…………! 

 

 

 

 

 

「──魔王を、呼んで来い!!!」

「『カースド・クリスタルプリズン』ッ!」

「『バニル式殺人光線』ッ!」

 

 振り下ろされた鉄槌が、せりあがった氷山が、放たれた赤い光線が。

 

 敵の兵士を地面ごとまくり上げて吹き飛ばした──!




 スルトと呼ばれていた炎の魔人を倒したその夜。

 家がめちゃくちゃになったウィズとバニル、そしてソーが俺の屋敷に泊まりに来ていた。
 アクアが結界を解くのに非常にごねていたが、そこはまぁ、些細な問題だ。

 俺はというと、みんなが寝静まった夜中に一人でリビングに来ていた。

 目的はただ一つ。

「選ばれしものが、このハンマーを手にする……か」

 家のテーブルの上に置かれたハンマーを、俺はドキドキしながら見る。
 もし俺が、その選ばれし者だったとしたら……。

 いや、めぐみんを馬鹿にできない中二病なのはわかっている。でも、やりたくなるってもんじゃん!

「もし俺がアスガルドの王になったら……一夫多妻制を復活させる……!」

 そう呟き、意気揚々とハンマーの柄に触ったその時。

 ――メキョッ!

 そんな、破壊的な音を立てながら、ハンマーを乗せてたテーブルが音を立てて潰れた。

 ……えっ。
 握っていたハンマーの重さにつられ、俺も地面にゴッと膝をつく。

 ………。
 これはなに、持ち上げられないどころか地面にめり込むとかどういうことなの。
 あれか?ふさわしい以前にお前は人間として終わってるって言いたいのか?

「ざけんな!」

 誰もいないリビングに俺の叫び声がこだまし、近くの陰からバニルの甲高い笑い声が聞こえてきた――!
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