この素晴らしい世界に祝福を!アナザー・ユニバース・アイアンマン   作:Tony.Stank

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前回から二か月近くあいてしまっているので、おさらいを。


トニー、アルダープの元で初仕事→アルダープが持つ謎の力の断片を味わって帰還
 


カズマが魔剣グラムを拾ってくる→トニーが改造→ミツルギ発狂



神器と神器保有者の力をテストするために、改造した魔剣グラムを元に戻して戦闘訓練



神器に頼り気味だったミツルギ、スーツ依存症を経験したトニーからの一言で考えを改める



カズマがトニーにサキュバスの存在を教える→トニー食いつく



以上です。







第29話 三流詐欺師の脱税講座

 ある日の午後近く。

 紅魔の里での授業を終えた僕が、誰もいないカズマの屋敷でコーヒー片手に寛いでいると。

 

「ただまー!」

 

 ガチャリとドアが開き、カズマたちが帰ってきた。

 

「ただいま戻りました。おや、今日の授業は午前でおしまいだったのですね。どんな授業をしてきたのですか?」

「連携を主眼においた戦闘訓練と……カッコイイ登場の仕方さ。ぷっちんと方向性でもめたが」

「ほう……面白そうですね……早めに卒業してしまったのが少々残念ですよ」

「試しに少しだけ授業してやろうか? 学年一位君?」

 

 僕がコーヒーをテーブルに置いてめぐみんにニヤリとした笑みを向けると。

 

「是非お願いします、スターク先生……と、言いたいところですが、これからクエストなのですよ」

 

 めぐみんがそう言うと、カズマが手に持ったクエストの依頼書をひらひらさせながら会話に入ってきた。

 

「雪精の討伐って依頼だ。なんでも弱くて一匹倒すたびに十万エリスの美味しいクエストだそうだ」

「……怪しくないか?」

 

 テーブルに置いたコーヒーを再び手に取って、すすりながらカズマの元へ寄り、クエストの依頼書をマジマジと見る。

 

「元大企業の社長からアドバイスだ。美味しい話を見つけたらまず疑え。いいか、物事には必ず理由があるんだ。弱くても一匹十万エリスの価値があるその理由を考えて突き止めろ」

「理由……」

 

 流石にカズマも裏があると睨んでいたのか、報告書を持ったまま顎に手を当てて唸り始めた。

 

「考えられるとしたら……雪精を取り巻く環境が危険とか、周囲に危険なモンスターがいるとか?」

「そんなところだろうな」

「おい、お前らはなんか知らないのか?」

 

 カズマが振り返って皆に尋ねると。

 

「うむ。雪精に危害を加え続けると、冬将軍という名の大精霊が出現して攻撃してくるぞ。私はそいつに嬲られ……そいつと戦いたいのだ」

「お、お前……いや、待った。冬将軍? なにそれ?」

「いい、カズマ冬将軍というのはね……」

 

 アクアがカズマに、雪精と冬将軍について、そして精霊についてこんこんと説明しだした。

 

 

 ──曰く、精霊とは出会った人間の無意識の思念を受けて実体化する存在であり、冬の精霊もその例に漏れなかったのだが、危険なので市民も冒険者も外出しない冬のシーズンの中、チート持ちの日本人たちがお構いなしにうろつき、そして冬と言えば……と勝手に連想したおかげで誕生したのが冬将軍だそうだ。

 

 酔っ払った僕の方がまだまともなジョークを思いつけると言いたいところだが……。

 問題はその冬将軍そのものにあるらしい。

 

 なんでも、国から高額な賞金を懸けられている特別指定モンスターで、その額は二億エリス。

 明確な人類の敵であって三億の賞金がかけられていたベルディアに比べ、雪精に危害を加えなければ出現しないにも関わらずに二億の賞金がかけられていることから、その強さは尋常じゃないらしい。

 

 そんな話を聞いたカズマが冷静でいられるはずもなく。

 

「おいふざけんな!! そんなのと遭遇するってんならやらねーぞ!! このクエストはキャンセルしてくる!!」

「ですが、他に受けれるクエストもないではないですか」

「確かにそれは……いや待て、トニー! お前がいるじゃん! クエスト手伝ってくれよ!!」

 

 必死に叫ぶカズマに、僕がテーブルの上に置いてあったアルダープとの契約書をヒラヒラと見せると、カズマが盛大に舌打ちをした。

 

「あぁもう! またあいつの家に行くのか?」

「まぁな。でも今日で最後だ。それに、君はもう既に優秀な仲間がいるだろ、君たちだけでもなんとかなるさ」

「お前人類随一の知力とかいう称号返上してこいよ」

「それじゃ、人類随一の知力がどんなもんか君にお見舞いしてやるとしよう」

 

 そう言って僕は立ち上がり、あるものをとってくるためにラボへと向かった。

 

 

 

「──なにこれ」

 

 僕が持ってきたのは、体にピッタリとフィットするタイプのボディスーツ。

 

 ピチピチのスーツを身にまとった仲間たちを、カズマがバレないようにチラチラと見ていた。

 特にダクネスを重点的に。

 

「ト、トニー……これは素晴らしいな……ふふ……あの男の野獣のような視線が刺さる…………くふっ…………!」

 

 残念、バレてる。

 

「あの、トニー。これは一体なんなのでしょう? やけに体のラインが出る装備ですが……なんですか? 私に対する嫌がらせですか?」

 

 フラットなボディがコンプレックスのめぐみんは、アクアやダクネスの方を見て僕に恨みがしい目を向けて来た。

 

「それは体温調節スーツだ。中に仕込まれた微細なチューブをゲルが巡回し、それを電気の力で加熱したり冷却することによって体温を保つ。まぁ、着るエアコンだとでも思ってくれ。これがあればブリザードの中だろうが、灼熱の砂漠の中だろうが、一流企業のオフィスに早変わり」

「ピチピチにする必要はあったのでしょうか……?」

「もちろん。これは特殊作戦用だ、かさばって他の装備が持てませんじゃ意味が無いだろ? それに、カズマが喜ぶ」

「っす。トニーさんマジ天才っす。マジリスペクトっす。っす、っす」

 

 リズムを刻む半ズボンのラッパーみたいな挙動で僕にゴマをするカズマ。

 めぐみんがかなりウザったそうにしている。

 

「ムカつくからそのキャラやめてくださいよ!! ダクネスばかり見続けてるのもまた腹が立ちますね……!」

「本当にいやらしいわね、このクズニートは! そうやってダクネスをなめるように見続けたら、今度は私を……」

「「それは無い」」

「ねぇ、なんでトニーまでかぶせてるの? 天罰欲しいの?」

「おっと、そうだ。カズマ、君にはこれを渡しておこう」

 

 こちらを睨みつけてくるアクアを無視して、僕は懐からサングラスを取り出してカズマに握らせた。

 

「……?」

 

 カズマは少しの間サングラスを不思議そうに眺めると、少々……いや、大分気取って片手でサングラスのツルをピッと勢いづけて開き、顔に掛ける。

 

「うわ、カズマさん絶望的にサングラス似合わないわね」

「うるせぇよ。……で、なんでサングラス? てっきりグラス部分になんか映ったりでもするのかと思ったけどそうでもなさそうだし」

「一ついいことを教えてやる。サングラスにはな、最初から完璧ともいえる機能が付いてるんだ」

 

 僕は他のみんなに聞こえないようにカズマの耳に顔を近づけて。

 

 

 

 

 

「いいか、サングラスを掛けていると、女の胸や尻を見ても目線でバレない。覚えておけ」

 

 そう言って、ポンポンとカズマの肩をたたきながら顔を戻した。

 

「…………」

 

 カズマはサングラスをずらし、尊敬の目を僕にむけて。

 

「……トニー、さっきは人類随一の知力を返上してこいとか言ってごめん。やっぱお前は究極の天才だわ」

「どういたしまして」

 

 カズマは意気揚々とサングラスを掛けなおし、再び彼女達に向き直ろうと……

 

 ……して、ピタリと止まった。

 

「いや、待った。何も解決していないぞ、寒さから身を守れるようになっただけじゃん。結局冬将軍はどうすんだよ。めぐみんの爆裂魔法で吹っ飛ばすのか?」

「相手は魔法防御力もすさまじい大精霊です。爆裂魔法の一撃で倒せるかどうかは……いえ、私のレベルは30を超えています。今の私の爆裂魔法であれば葬れる……かもしれません。が、正直賭けですのでやりたくないです」

「じゃあ無理じゃん……クソッ、どうすればいいんだ?」

「安心してちょうだいカズマ。冬将軍は寛大なの。多少雪精を倒したとしても、DOGEZAして誠心誠意謝ったら許してくれるわ」

「つまり俺達が死ぬか死なないかは相手のさじ加減って事じゃねーか。リスクが高すぎるわ!!」

「元々冒険者とはリスキーな職業です。わがままばっかり言ってられませんよ?」

「わかってるけどさぁ……」

 

 めぐみんに諭されたカズマは一度頭を抱えてから深呼吸して、作戦を練りだす。

 

 何かを思いついたらしい。

 ハッとした表情を浮かべて僕の方を顔を向ける。

 

「……トニー、クインジェット借りていいか? いざって時の逃走手段にしたい」

「ぶつけるなよ?」

「おお、サンキュー。これで何とかなりそうだな」

 

 体温調節スーツの上からいつもの装備を身に纏い、ラボの方へと向かうカズマ達。

 

 ……なんだか胸騒ぎがするな。

 杞憂であればいいが。

 

 

 ▽

 

 

 アルダープの家の改築に取り掛かってもう一週間と少し。

 ……なのだが、この派手を通り越して最早サイケデリックな屋敷は、何度見たって慣れることはなさそうだ。

 

 複数の機材を積んだ荷車を玄関先に起き、アルダープ亭のド派手な扉の前に立つ。

 門番とあいさつを交わし、要件を伝えて屋敷の中へと走らせること数分。

 

「よく来たなスターク。ほら、入るがよい」

「お言葉に甘えて」

 

 アルダープと付き人達に案内され、屋敷の中へと通る。

 

 廊下を通るさなかで、そこに飾られた一つの絵が目に留まった。

 

 ……? 

 この絵……なんだか見ていて違和感を覚えるような気が……。

 

 いつの日か来た時にもこんなことを思ったはずなのだが……。

 いや、気のせいだろう。

 

 目の端で絵をなんとなく横目にしつつ、アルダープの後ろをついていく。

 

 今日が最後の工事。

 場所はアルダープ自身の寝室だ。

 

 その寝室の前にたどり着くと、アルダープは僕の方に振り返って。

 

「今日で工事は終わりなのだろう?」

「ええ、アレクセイ卿は工事の音が聞こえないような場所で、明日はどんな手で税金を巻き上げるかについてでもでも考えといてください」

「ハッハッ、このワシにそんな後ろめたいことなどないわい……。ったく、貴様はその面白くもない皮肉さえなければ完璧なのだがな」

 

 不満げに息を吐き、ズカズカと別室へと向かっていくアルダープ。

 僕はこっそりと寝室前の花瓶にこっそりと小型のスピーカーを仕掛ける。

 

 本番はこれからだ。

 

 アルダープの部屋に入ると、そこには見張り用の兵士が一人立っていた。

 工事とはいえ、貴族が信頼のない人間を寝室に一人にするわけがない、当然だ。

 

 だが、僕はこの見張りの兵士を何とかし、寝室をくまなくスキャンして何かないか探らないといけない。

 

 もちろん手は打ってあるが。

 

「さてと、リクライニングベッドを取り付けるとしようか。これでアレクセイ卿がより出不精になって寿命が縮まらなければいいが」

「……」

 

 僕の独り言を気にも留めず、ただ黙って僕の方を見ている兵士。

 

 ものすごく視線を感じる。そんなに怪しまなくても良いだろうに。

 フルフェイスの兜なのも相まってのホラー映画に出てくる呪いの置物のようだ。

 

 ここでリクライニングベッドの骨組みを半透明な包装シートから取り出して広げつつ、小型のリモコンを取り出す。

 兵士の角度から見えないようにリモコンのボタンを押すと……。

 

 ──パリンッという花瓶の割れる音がドアの向こうから聞こえてきた。

 

「……? スターク殿、ここでお待ちを。ちょっと様子を見てきます」

 

 そう言い残し、部屋から出ていく兵士の背をほくそ笑みながら見送った僕は、空になった包装シートを正方形に広げ……。

 

「おっと、案外帰りが早いな」

 

 ガチャガチャと音を立ててこっちに来る鎧越しの足音が聞こえてきたので、リモコンの別のボタンを押す。

 今度は猫の不機嫌そうな鳴き声がドアの向こうの廊下に響いた。

 

『……なんだ? 猫が紛れ込んだのか?』

 

 さっきのガラスの破壊音も、今の猫の鳴き声も、この家に少しずつ仕掛けていた指向性のスピーカーから再生されたものだ。

 

 ちなみにこの猫の鳴き声は、屋敷にいるちょむすけとかいう変な名前をした変な猫がアクアに追いかけられてるときの声を頂いた。

 

 こちらに近づいていた足音が止み、今度は遠ざかっていく。

 

 ……よし、作業の再開だ。

 

 正方形に広げた包装シートに、リクライニングベッドの骨組みに仕込んであったフレームを抜き取ってシートの縦横四辺に通す。

 

 これで良し。

 

 完成したものを床に置き、装置を起動させる。

 電気が流れたことでシャキンッと音を立てて骨組みが伸び、それに従って包装シートの面積も広がり、横の辺が天井と床に、縦の辺が壁に接着し……。

 

 やがてベッドルームに隙間のない半透明な仕切り壁ができ、ベッドに向けて作業する僕と見張りの兵士が丁度隔てられるようにしてベッドルームを分断した。

 

 後は高性能のスピーカーをいくつか取り付け……。

 

 これで下準備は完了だ。

 

『まったく……一体どこに逃げたんだ……何かが割れた跡も無いし……』

 

 また戻ってくる足音が聞こえてくる。

 

「フライデー、CG映像完成はまだか?」

『後三十秒はかかります』

「それじゃ間に合わない!」

『我慢は美徳です、ボス』

 

 これ以上窓を割る音や猫の鳴き声で誤魔化すのは無理がある。

 

 クソッ、水滴が落ちる音とかもっと無難なものにしておけばよかったな。

 こうなったら……。

 

 僕は扉の向こうでドアノブに手を伸ばしているであろう兵士に、扉越しでも聞こえるように大声で話しかける。

 

「おい、そこの置物兵士君! ちょっと部屋を開けるのは待ってくれないか!!」

『置物兵士!? えっと……ど、どうしました?』

「猫が入ってきて部品を散らかした! ドアの前にまで転がってるから少し待ってくれ!!」

『その部屋に来ていたのですね……了解しました。片付けたら声をかけてください』

 

 部屋から遠ざけるために使用した猫の鳴き声を機転を利かせて再利用することで何とか時間を稼ぐことに成功した。

 あとでちょむすけには美味しいご飯を食べさせてやるとしよう。

 

 僕は兵士に聞こえないよう、小声でフライデーを急かす。

 

「フライデー、僕の猫の声真似が聞きたかったらゆっくりやってもいいぞ」

『それはまたの機会の楽しみとさせていただきます。CG映像作成完了、スクリーンに投影します』

 

 電子音と共に、部屋を仕切る半透明の仕切り壁が、まるでスクリーンのように映像を映し出した。

 映っているのは、今僕がいる方面の部屋の映像。先ほど兵士がいた側からだと、仕切りなんてないかのようにしか見えないだろう。

 

 だが一つ違うのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()C()G()()()()()()()()()()()

 

 つまり、スクリーンの裏で何をしていようが、向こう側にいる奴からはCGの僕が作業している姿しか見えないということ。

 スピーカーから作業音もリンクして出るようにしてあるので近づいてこない限りバレることは無い。

 

「オーケーだ、もう部屋に入ってきていいぞ」

「失礼、スターク殿。猫は何処かに行ったのですか?」

「激しい格闘の末、奴は僕に恐れをなして窓から出ていったよ」

 

 部屋に戻ってきた兵士に軽口を叩くが、どうやら何の違和感も持っていないようだ。

 先程のように僕を監視する形で壁に背を向けた立ち、再び置物のようにじっとし始めた。

 

 スクリーンの裏に立つ僕は、自分のポケットに入っていた端末を取り出して、部屋のスキャンを開始する。

 衛星からの立体スキャンでこの寝室の下に謎の空間があるのは分かっていた。

 

 後は地下に何があるのかを突き止めるのみ。

 

 スキャン結果を、フライデーがインカム越しに伝えてくる。

 

『ボス、右手側にある本棚の裏が金属で補強されており、空気の流れがあります』

 

 なるほど……。

 

 隠しドア出てこい……。

 隠しドア出てこい……。

 隠しドア出てこい……。

 

 本棚の裏に手を伸ばして引っ張ると、冷蔵庫のドアみたいに本棚が開き、その奥に錆びた鉄の扉が現れた。

 

 YEAH(イエーイ) 

 

 おそらく地下室につながる扉だろう。

 自ら地下へ降りて詳しく中を調べたいところだが……時間は有限だ。

 

 リクライニングベッドを組み立てる様を見せておいて、映像と完成度が食い違っていたんじゃそれこそ怪しまれかねない。

 

 ここはひとつドローンを送りこみ、映像を見ながら実際に組み立てを行うとしよう。

 

 胸ポケットに掛けておいたサングラスを装着し、ペンに偽装した超小型のドローンを展開して地下へと投げ込んだ。

 

 薄暗く、カビ臭そうな階段がカメラを通してサングラスに映る。

 

 掃除など一度もされてなさそうで、色や大小様々な髪の毛が散乱している。

 

 そして、血の滲む爪痕だらけの床と壁が、数多の人間が抵抗も虚しくここに引きずり込まれている事を物語っていた。

 

 床に散らばる髪の毛の長さ、壁にへばりついた小さな血の手形、乱雑に裂かれた女性物の服の切れ端……それらを通して、犠牲者が僕の脳裏に浮かんでくる。

 

「…………」

 

 泣き叫びながら壁に爪を立て、無理やり地下へと引きずられていく年端もいかない少女達の姿が。

 

 ……思っていた以上に、ロクでもない野郎のようだ。

 

 今すぐとっ捕まえて顔面に一発叩き込んでやりたい衝動に駆られるが、それはあとの楽しみに取っておこう。

 

 まずは証拠を徹底的に集めるとこからだ。

 映像は録画されている。

 

 このまま地下室まで全部カメラに収めて…………

 

 

 

 

 

 

『ヒュー、ヒュー、ヒューッ!』

 

 ──ブツリ。

 

 ……と、レコードを踏みつぶした様な音を立ててカメラの映像が途絶えた。

 

『映像途絶、記録媒体こと消滅しました』

 

 ……どうなっている。

 最後に聞こえたのは、以前どこかで聞いた喘息のような謎の異音。

 

 またもう一機送るか? 

 いや、今途中まで撮った映像も、ラボのサーバーへと衛星を通じて送られているはずだが……。

 

『コネクションエラー発生。原因不明の理由により通信が途絶しました』

 

 原因不明のエラーだと? 

 このタイミングで? 

 

 何よりも気になるのは、あの喘息のような呼吸音だ。

 最初にこの家に来た時も聞いたあの音。

 あの時の前後に何が起きたのか不明瞭なのも相まって、何かあるとしか思えない、

 

 ここで偶然だと思えるほど楽観視できる頭は持ち合わせてはいない。

 クリスを連れて詳しく調べる必要がありそうだ。

 

 と、作業を続けながら対策を練っていると。

 

『ボス、映像の復元には成功しました。再生しますか?』

 

 フライデーが喋れない環境にある僕の事を考慮し、サングラスに再生ボタンが表示される。

 僕は迷うことなくフチに手を当てて映像を再生するが……。

 

 

 

 

『──────ッ!』

 

 表示された映像には、酷い暴行の跡がある複数人の女性たちが、真顔で並び立ってこちらにゆっくりと手を振り続けている姿が映っていた。

 

 聞こえてきた音声は、ヒューヒューと喘息のような息遣いと、絶え間ない女性の絶叫。

 

 思わずサングラスを投げ捨てかける。

 

 フライデー、ホラー映画のワンシーンを流せなんて言ってないぞ。

 

『映像記録が改ざんされています。ですが……ハッキングの痕跡はありません』

 

 クソ。わからないことが多すぎる。

 映像をクリスやアクアに見せる必要がありそうだ。

 

 とりあえず、アルダープは地下に何かを秘めている事、そして完全に犯罪者であることが分かっただけでも収穫だろう。

 必要ならば、近いうちにでもクリスと襲撃をかけてやってもいい。

 

 そうと決めた僕は、急いで地下室への扉を閉め、元の状態に直して作業へと戻った。

 

 

 ▽

 

 

 作業を終えた僕はアルダープを呼んで来るように兵士に告げ、部屋を出たところでスクリーンやスピーカーを回収しておく。

 

 アルダープはと言えば、部屋に入るや否やベッドに横たわり、リモコンを弄ってリクライニングベッドの調子を確かめはじめた。

 

 スターク・インダストリーズの家具家電部門が開発した、新型のリクライニングベッド。

 人工知能を搭載し、使用者の寝相に合わせて可動部が三百か所以上ある骨組みがベッドを最適な形へと変形させ、体温も感知してベッド内部の温度まで調節する。

 

 ぬるま湯の中で浮かぶようだと評判の、スターク・インダストリーズが誇る最新型の最高級ベッドだ。

 ソファにも変形するし、サイズは特注のキングサイズ。

 

 サービス精神で垂直離陸の機能も付けておいた。

 

 幽霊騒動でメチャクチャになったラボの中、コンピューターに残っていた会社のデータからこいつの設計図を見つけ出して作るのは中々に骨だった。

 

 これだけで七百万はくだらないんだが……。

 

「ほうほう!! 悪くないではないか。やはり貴様の作るモノは実に調子がいい」

「お気に召していただけたようで何より。それじゃ、約束のものを」

 

 僕とアルダープの約束。

 それは、めぐみんが壁を破壊して発生した借金のいくばくかをアルダープが出すという約束だ。

 

 カズマ達が背負った四千万の借金のうち、一千万を出す予定になっていた。

 アルダープは、『まぁ待て』と手を突き出して。

 

「報酬ならば最高の形でお前に出してやろう。お前に出す予定だった一千万エリスを、ワシが管理して投資するのだ。そして、その金が膨れ上がったタイミングで支払ってやろうではないか」

 

 ……こいつは何を言ってるんだ? 

 

「つまり、我々の金を奪って勝手に使うことにしたと丁寧に言っているんですか?」

「ハッハッ、所詮は目先しか見れぬ下賤な市民か。新聞に載ってるワシのコーナーを見たことはあるか?」

「あー……『三流詐欺師の脱税講座』の事ですか? ファンですよ」

「貴様! 無礼も大概にしろ!! ワシがいかに資金繰りをして財を成したかについて自伝の一部が載っているのだ!! ここまでの財を築いてきたワシを信用して預けろと言っておるのだ!!!」

 

 ブチ切れて唾を飛ばして怒鳴り散らすアルダープにどうどうと手を突き出す。

 

「減額するという約束でした。守ってもらわないと困るのですが」

「実に短絡的で子供じみてるな。貴様も経営者であるならば、投資というものを理解せんか」

「投資に理解はありますとも。ですが、約束は約束……」

「ハァ…………」

 

 アルダープは僕の言葉を遮るようにわざと大きな溜息をつき。

 

「もうよい、貴様の仕事は終わったのだ。さっさとワシの家から出ていけ」

 

 アルダープがそう言うと、兵士たちが鎧の音を響かせて僕を取り囲む。

 僕は周囲の兵士たちを首を回して軽く見渡し、皮肉っぽく肩をすくめてフンッと鼻を鳴らし。

 

「……手厚いお見送りをどうも。どいてくれ、一人で帰れるさ。この無駄にデカい屋敷の帰り道もいい加減覚えてきたところだからな」

 

 悪態をついて門まで向かう僕を、アルダープはいつもの仏頂面でずっと見ていた。

 

 

 

 

 

「──ということがあったんだ」

 

 カズマの屋敷で、僕とカズマは食卓テーブルを囲んで愚痴り合っていた。

 

「マジかよ……あいつ本当にクソ野郎だな」

「だから、今からあいつの家に殴りこもうと思う」

「……は?」

 

 僕が立ち上がると同時、ダイニングルームの壁に寄りかかるようにして待機していたMk.45が威圧的な起動音を立てて僕の身を包んだ。

 

 そのまま玄関へ向かう僕を止めようと、カズマが必死に縋り付いてくる。

 

「ちょっ、待て待て待て! ストラップ! ストラーップ!!」

「それを言うならストップだ。それと、僕の邪魔をするな」

「するよ! 超するよ!! なんでお前は厄介になりそうな事をそんな平気でやろうとするんだ!!」

「あんな奴はほっといた方が厄介だ!」

「令状だの証拠だのすっ飛ばして殴り込むことよりもか!? 考え直せよ!! ここは貴族に手を出したらとんでもないことになるの!!」

 

「ちょっと、朝からうるさいですよ」

 

 揉める僕らの声を聞いてたのか、めぐみんがうるさそうな顔をしながら階段を降りてきた。

 クエストに行く準備をしてたのか、はたまた一日一爆裂の準備か。彼女はいつものローブに杖まで装備している。

 

「めぐみん、聞いてくれよ! クソ領主が屋敷のリフォームの金をケチったからって、トニーが令状も何もなしに私的制裁しようとしてんだ!! 領主を屋敷ごとぶっ飛ばす気だぞ!! 俺達まとめて犯罪者になっちまう!!」

「ええっ!?」

 

 玄関に立った僕はスーツのマスクを開け、めぐみんを指さして一言。

 

「めぐみん、やるか?」

「ええ、やりますか!」

「チクショウこいつらイカれてる!! アクアー! ダクネスー! こいつらを止めてくれ!!」

 

 騒ぎを聞きつけたアクアやダクネスがドタドタと音を立てて駆けつける。

 二人ともどうやら話を聞いていたようだ。顔を真っ青にして僕を止めにかかってきた。

 

「トニー! お願いだからこれ以上面倒を起こさないで!!」

 

 泣き叫びながらアクアが僕とめぐみんを引き留めようとするが、ダクネスは僕の前に堂々と立ちはだかり、アクアよりも深刻そうな顔をしながら手を突き出して僕を止めようとする。

 

「トニー。あの男の態度で頭に来ているのは理解できる。だが、奴は法的に葬らねばならんのだ……頼む……!」

 

 その雰囲気に、僕もめぐみんも思わず足を止めてしまった。

 僕はなんとなく察しながらも、ダクネスが貴族であることを知らないカズマとアクアの事を考慮しながら尋ねる。

 

「……奴と因縁があるのか?」

「ああ……。トニー、お前には感謝している。あいつの問題に協力してくれていることも……だからこそ、ここで短絡的な行動に出て台無しにはしないでくれ」

 

 めぐみんと顔を見合わせ、僕はため息を一つ付いてMk.45を脱いだ。

 

「なんだか深刻そうですね……わかりました、悪徳貴族の屋敷を吹っ飛ばしたかったですが、その爆裂欲は何処かで発散するとしましょう。カズマ、爆裂散歩に付き合ってください」

「はいはい……」

「まった。全員に見てほしいものがある」

 

 引き留められたカズマとめぐみんを含めた全員が僕に注目する。

 僕はポケットから取り出した端末からホログラム映像を空中に投影した。

 

 先日にアルダープの屋敷の地下室で撮ったが、改ざんされておぞましいことになっている映像だ。

 

「「ひぃっ!」」

 

 再生した途端、カズマとめぐみんが悲鳴を上げてダクネスの後ろに逃げ隠れた。

 二人はダクネスの後ろから青い顔をちらちらと覗かせながら。

 

「お、おい、なんだよその映像……ホラー映像をいきなり流すとか悪趣味だぞ!」

「そうですよ! トイレいけなくなったらどうするつもりですか!!」

 

 僕はダクネスの後ろから非難を飛ばしてくるカズマとめぐみんは無視して、ダクネスとアクアの方を見やる。

 ダクネスも臆した様子こそ見せていないものの、映像をみる顔をひどくしかめていた。

 

「これは一体何なのだ……」

「かわいそうに……」

 

 だが、そんな中アクアだけが映像を見て、胸を痛めたような、心の底から同情するかのような顔をしていて。

 

「トニー、これを何処で撮ってきたの?」

「アルダープの屋敷の地下室だ。本当は奴が少女を連れ込んで暴行を働いている証拠になりうるあらゆるものが映っていたはずだったんだが……映像機器がイカれ、それでもデータを復元できたと思ったらこれが映ってた。僕も初めて見た時は驚いたよ」

 

 アクアはただ黙って映像を眺めている。

 

「この子達、みんな地縛霊よ。ここで悲しみと恨みの中で死んでいって……成仏もできず、悪霊になって復讐しようとしても……邪悪な力で押さえつけられて、自分をこんな目に合わせた本人に指一本触れられないままここに閉じ込められて、助けを求めているわ。後ろで聞こえる気味の悪い声が関係してそうね……」

 

 その本人は果たして意図してこんなことをしているのか、はたまた地下にいる何かが原因で勝手に引き起こされているのか。

 それは分からないとだけ付け足して、アクアは映像から目を背けた。

 

 僕は映像を切り、再びダクネスに向き直る。

 

「法的にとは言うが、アルダープをどうやって倒すつもりだ? おそらく、あー……科学者として、こんなこと言うのは馬鹿らしいことこの上ないが、奴は未知の魔法か何かで自分を守っている、まっとうなやり方で倒せるとは思えない」

「……どうすればいいかわからない。だが、必ずどうにかしてみせる。アルダープの所業から人々を守るのは……私の使命なのだ」

 

 一見、必ず何とかしてみせると感じる信念を宿した瞳と顔。

 

 だが、その裏にはどこか自棄の傾向が感じられた。

 

 ダクネスの顔……この顔はよく知っている。

 ……()()()()()()()()()だ。

 

 一人で何でも抱えようとして、どうしようもないことに挑もうとする顔だ。

 

「使命……? お前何言ってるんだよ?」

 

 カズマが、ダクネスの言葉の中に混じる違和感を感じとって質問する。

 

「……私は──」

 

 ダクネスは全て話した。

 以前僕らに話したように、ダクネスではなく、ダスティネス・フォード・ララティーナとしての話を。

 

 これが僕ならノリノリで話すもんだが、彼女は何処か寂しげに語った。

 僕らは例外だったろうが、本来であればその名をすげた途端に誰もが驚き、そして無礼を詫びて距離を取ってきたのだろう。

 

 だが……、

 

「ねぇ、ダクネス」

「ッ……な、なんだ?」

 

 真面目な口調で自分を呼ぶアクアに、思わずダクネスがビクリと震える。

 

「私、ダクネスの家の子になりたいわ。だって、もしそうなったら毎日ゴロゴロしながら贅沢三昧できるって事でしょ!?」

「……はっ?」

 

 ──だが、こいつらは例外な連中ばっかりなのだ。

 

「ぶははははは!! ダクネスお前……普段から真面目ぶった口調で話す癖に、本名が可愛すぎるだろッ……か、かわいいよララティーナお嬢様!! うけるー! あひゃひゃひゃ!!」

「ラ、ララティーナと呼ぶなぁ!!」

 

 僕とめぐみんは顔を合わせてニヒルに笑い合い。

 

「わかったよララティーナ、奴をぶちのめすのはしっかりとした証拠が出た時にするとも」

「ですね。我が名に懸けて約束しますよ。その時は一発で爽快にあの醜い屋敷を木端微塵に消し飛ばしてくれますよ」

「や、やめろぉ!! 裁判が覆ってしまうようなことはやめろぉ!!」

 

 ふざけた茶番を繰り広げる裏で、僕も強く決めたことがある。

 

 正直言って、一人で背負おうとするダクネスがこの先いい結果を結ぶとは思えない。

 なぜなら僕も一人じゃ駄目だったからだ。

 

 だが、キャプテン並みに頑固そうな彼女は、そうなってしまった時に他人の助けを受け入れそうにない。

 

 だから、彼女には悟られないように、こっそりと僕がアシストするとしよう──

 




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