この素晴らしい世界に祝福を!アナザー・ユニバース・アイアンマン   作:Tony.Stank

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第30話 しびるうぉー

 ほのかな月明かりが照らす広大な庭を、剣呑な雰囲気が満たしていく。

 僕らの前に立ちはだかる三人の娘たちと、鋭い視線が交差した。

 

 

 ──戦いは、避けられそうにない。

 

 

「どうするダクネス?」

「……戦う」

「いい結末が待ってそうですね」

 

 ザッと踏み出した彼女達の足音が、普段のそれよりも重く庭に響く。

 一歩踏み出した彼女達に対して、こちらも一歩踏み出した。

 

「止まる気ないな」

「……こっちもだ」

 

 互いの距離が、ゆっくりと、一歩ずつ縮まってゆく。

 踏みしめるように歩いていた僕らも、ついには戦闘態勢をとって駆け出し、縮まる速度はどんどん早くなる。

 

 カズマが唸り声をあげてファインティングポーズをとり。

 アクアの拳に光が灯り、めぐみんの瞳が紅く輝き、ダクネスが肩を突き出してタックルの姿勢をとる。

 

 庭に伸びた五つの影が、やがてその中央で一つに重なり──

 

 

 ▽

 

 

 僕は期待に胸を膨らませながら目的地までの道を歩く。

 

「いやぁ、楽しみだな。サキュバスが見せる夢……どんな感じなのやら」

「……」

 

 だが、僕よりも楽しみにしていそうな思春期真っ盛りのティーン、カズマはと言うと……。

 

「おい、どうした?」

「あ、ああ? いや、なんでも……」

 

 さっきからずっとこんな調子だ。

 何処か浮かない顔でソワソワしている。僕がしゃべりかけても上の空だ。

 

「しっかりしろ。これから行く場所がわかってるのか?」

「だからこそだよ……今まで彼女すらいなかった童貞が、いきなりそういうお店に入れるわけないだろ!? ここだけの話、一人だったらここまで来てなかった……おい、なに笑いこらえてんだよ」

 

 仲間にセクハラをしまくり、女性の敵とまでギルドで噂されているカズマ。

 そんなカズマが、今ここで綺麗な女性がいる店に行くってだけでこんなにビビりまくっている姿に、思わず笑いそうになってしまった。

 

 そんな僕の様子がきにくわないのか。

 カズマは人目もはばからず大声で訴えかけてきた。

 

「お前はどうせ若い頃からモテモテで女には困らなかったんだろ? はべらかしてたんだろ!? いいよなぁ! 俺はどうか聞きたいか!? 俺はなぁ、小さい頃に結婚しようねって約束した女の子がいたけど、どうなったと思う? その子はなぁ……俺が中学生だったある日、不良の先輩のバイクの後ろに楽しそうに乗ってたよ!!」

「HAHAHAHAHAHAHA!!!」

 

 とうとう耐え切れずに膝を叩いて爆笑し始めた僕に、カズマは不機嫌そうに顔を歪めて僕を睨む。

 

 ミツルギの時もそうだったが、どうやらコンプレックスを色々抱えていたようだ。

 負の感情が爆裂している。

 

「クソッ! 笑いやがって!! これだからモテる奴は嫌いなんだ!」

「わかった。悪かったよ、君の過去を笑ったりして。でもおかしくてね、めぐみんを背負うたびに胸が大きくなったかと世間話でもするかのように聞いたり、ダクネスに胸もガチガチなのかと尋ねる君が、店に行くだけでこんなにビビッて、しかもそんな……HAHAッ……ピュアな失恋してるなんて……オーケー、今のが最後だ、もう笑わない」

 

 泣きそうな顔しながら戦闘態勢をとりはじめカズマの姿を見て、僕は手を上げてわざとらしい降参のポーズをとった。

 

「くっ……お前にこの話をしたのは間違いだったかもしれない……」

「でも感謝してるさ。僕も失恋しかけているからね」

 

 なんてやり取りをしているうちに、例の店までたどり着いた。

 

 大通りを外れた裏通り。

 そこで控えめな看板を出している小さな店。

 

「あの店で間違いないのか?」

「あ、ああ……教えてもらったとおりだ。……お、おい! そんなすぐ行くなって……!」

 

 軽い足取りで店のドアまで歩く僕に比べ、カズマはかなりぎこちなく後ろからついてくる。

 店に一歩近付くたびに、カズマはひたすら深呼吸していた。

 

「スゥー……ハァー……落ち着け俺……自然体だ……美人お姉さんの前でキョドってたらダサいぞ……」

 

 そのまま流れるようにドアに伸ばした僕の手を、カズマが横からガッとつかむ。

 

「どうしたんだ、そんなビクついた顔をして。君が紹介した店だろ? 本来なら君が先導すべきはずだってのに」

「そんな定食屋に入るようなノリで進んでくなよ……お、俺にあと十秒くれ……」

 

 ドアのすぐ横の壁にもたれかかり、胸に手を置いて何かブツブツつぶやき始めたカズマ。

 

 完全にストリップクラブに初めて入るティーンの図だ。

 入った店先のお姉さんにからかわれて『ぇあ、ハイッ!』しかしゃべれなくなるか、変な事まくし立てて笑われるタイプと言ったところか。

 

「カズマ。()()()()()()()()()()()だ。いいか? 行くぞ」

「おい、ちょっ……!」

 

 カズマの背中を押し、一緒に店の中へと突入した。

 

 

「いらっしいませー!」

 

 目の前に飛び込んできたのは、まさにSHANGRI-LA(桃源郷)

 こじんまりしたその店の中で働いている一人一人が、街を歩けば誰もが振り返るような美女ばかり。

 

 昔の僕なら全員まとめて会社で日替わり秘書として雇おうとしてたかもしれない。

 

「Wow……驚いたな……これがサキュバスか……」

「……サングラス持ってくればよかった」

 

 カズマは案内に来た煽情的な格好をしたサキュバスの肢体に目が釘付けになっている。

 かくいう僕も正直目を奪われている。

 

 モデルと付き合ったことは何度もあるが、ここにいるサキュバスたちは、そんなモデルに負けない美貌とプロポーションを持っていた。

 

 そんな僕の様子を見たカズマが、肘で僕を突きながらおいおいと言った視線を向けてきた。

 

「トニー、目的は夢で恋人に会うことだろ? 案内人のお姉さんに目を奪われてていいのか?」

「君は分かってないな。仮に既婚者であったとしても、魅力的な女性には思わず目を奪われるもんなんだ。君の親父だって、好きな女優くらいいただろ?」

「ま、まぁ……でもそれとはちょっと違」

「つまりはそういうことだ。それに、確かに僕は目を奪われたが……僕の心まで奪った女性はこの世でただ一人……ペッパーだけだ」

「そのセリフ、将来俺に恋人が出来た時に使わせてもらおうかな」

 

 と、二人で軽口を叩きあっていると。

 

「あ、あの……」

「おっと、失礼。この店について案内してくれるか?」

 

 置いてけぼりにされていた受付のお姉さんに、僕は案内を促す。

 

「はい、では改めて。こちらのお店は初めてですか?」

「えっと初めてですが……話には伺っています。淫夢であればどんな夢でも見れるって……」

「ええ、さようでございます。では、特に説明はいらなさそうですね。こちらにどうぞ」

 

 微笑を湛えたサキュバスが、メニュー表が置かれた席に僕らを案内する。

 時刻は夕方くらい。当然と言えば当然だが……店の中には男性客しかいなかった。

 

 飲食店だというのに誰も食べたり飲んだりはせず、試験終了チャイム直前まで問題を解いている必死こいた受験生みたいにペンを走らせて何かを書いている。

 

「ご注文はお好きにどうぞ。お酒もございますが、飲みすぎないようにしてくださいね? お酒で泥酔され、熟睡されると夢を見せることができませんので……」

 

 僕は机の上にあるメニュー表を手に取って。

 

「それじゃスコッチを一つ」

「お前話聞いてたのか? そんな強い酒頼むなよ」

「飲みすぎなきゃいいだけだろ? スコッチの一杯くらい、僕にとってはお茶みたいなもんだ」

「フフ……初めて来た人で、ここまで肝の座っている殿方は初めてだわ……素敵ね」

 

 そう言ってサキュバスはからかうような微笑を浮かべたまま、下から髭をなぞるようにして僕の頬を指で優しくなでると、踵を返してお尻を強調させた歩き方で厨房らしき所へと去っていった。

 

 女性からこういった挑発的なアプローチを受けるのも慣れっこだったのでとりあえず愛想笑いで返したが……サキュバスはどこか少し驚いたような表情を見せていたのが気になる。

 

 そのまま彼女が去った先を何となしに眺めていると、隣からカズマが恨めし気な視線を向けてきた。

 

「俺も酒場のお姉さんに只者ではないって見抜かれた後になんかチヤホヤされたい……」

「言っておくが、いいことは無いぞ。周囲から今の君みたいな怨念渦巻く視線を全身に浴びたり、女同士が嫌らしい戦いを始めたりするのがオチだ」

「お前が言うと説得力が違うわぁ」

「だろ?」

 

 それでも俺はチヤホヤされてみたいとカズマがつぶやく。

 

 正直言って、カズマは一人の女性と出会って末永く幸せに暮らす方が性に合ってると思うが。

 だがそれを言うと、ひねくれたカズマには『お前がモテることは無い』って皮肉ととられそうなので黙っておく。

 

「お待たせいたしました。スコッチです」

 

 お酒を持ってきたサキュバスは、先ほど案内してくれたのとはまた別なサキュバスだった。

 抜群のプロポーションなのは先ほどと同じだが、どこかより妖艶でありながらも貫禄があり、だが年増には見えない……そんなサキュバスだ。

 

 直感だが、ここのボスかもしれない。

 そんなボスっぽいサキュバスはと言うと。

 

「先程は申し訳ありませんでした、お客様」

 

 急にぺこりと綺麗なお辞儀をし、僕に謝罪をしてきた。

 いきなりどうしたのだろうか。

 

「先程、私の部下があなたを魅了しようとしました。というのも、サキュバスというのは、男から劣情の目を向けられてこそというもの。ですが、あなたからはそう言った感情をあまり感じ取れず、悪魔の本能とプライドからあなたに意識を向けてもらおうとしてついイタズラしてしまったそうです……。ここの支配人として、全てのサキュバスを代表して謝罪します……」

 

 それと。と、サキュバスは付け加えて。

 

「どうやらあなたには……強く愛する者がいるようですね?」

「あぁ、まぁな。で、さっきの娘に伝えておいてくれ。劣情を催さなかったのは単純に僕が女性慣れしていて、かつ愛する女性がいるからだと。メンタルケアは大切にな」

 

 僕がそう言うと、支配人を名乗ったサキュバスはクスりと笑って手に持ってた何かの用紙を僕らに渡してきた。

 

 見たところアンケート用紙のようだが……。

 

「そちらの用紙に自分の望むシチュエーションと住所をお書き下さい。夜に我々がお伺いして淫夢をお見せいたします。シチュエーションについてですが、女性側になってみることも可能ですよ? 中には、両性具有になって男と女のハーレムを……なんて方もいらっしゃいました」

 

 この街の冒険者共が心配になってくるな。

 さて、なんでも見れると言っていたが……一応聞いておこう。

 

「なぁ、ひとつ聞きたいんだが……この世界にいない人間と夢で会うことはできるのか?」

 

 支配人のサキュバスは何かを察したのか。

 慰めるような、包み込むかのような微笑みを浮かべながら。

 

「ええ、もちろんです。前に、亡くなった恋人に会いたいという名目で夢を見せてもらいに来た方もいらっしゃいました」

「別に死んでるわけじゃないんだが……まぁ、そういうことならいい」

 

 むしろ死んだのは僕の方なんだけどな。

 ジョークにすることもできないネタにこっそりと鼻で笑いながら、僕は貰ったアンケート用紙を眺める。

 

「じゃ、じゃぁトニー。また後で」

 

 そわそわしながら受け取った紙を持って机へと向かうカズマ。

 僕も机へと向かいながら、ペッパーのこと以外にあれこれと考える。

 

 自分が望んだままの夢を見ることができるサービス……使いようによっては、深いトラウマを持った人間に対してセラピーを行うことも可能だろう。

 異世界に来てしまったがために止まってしまっていたある計画の手助けにもなるかもしれない。

 

 Binarily Augmented Retro-Framing(過去を拡張し再構成する)略してB.A.R.F.(ゲロ)

 

 初めて見る悪魔の力とやらをなんの研究もせずに受けるのは少々不安があるが……。

 科学の追究は未知から始まるものだし、自分で試すことによってわかることもある。

 

 もちろん、夢の中とはいえペッパーと会えるというのは非常に楽しみにしているが。

 

 

 ▽

 

 

 サキュバスの店の帰り道。

 僕らは期待に胸を膨らませながら、特に寄り道することもせず屋敷へと帰った。

 

 互いに『いい夢を』なんて茶化しあいながら、屋敷のドアを開けるとそこには……。

 

「はいはーいご注目ー! 見なさいカズマ、トニー!! 今日の晩御飯はなんだと思うかしら?」

 

 上機嫌で満面の笑みを浮かべたアクアが、Ta-Da(ジャジャーン)!! とテーブルを手で指す。

 そのテーブルの上には、大量のカニ料理が所せましと並べられてあった。

 

「へぇ、カニ料理か。いいね、マイアミビーチで食べたストーン・クラブを思い出す」

「はいはいセレブセレブ」

「おい。今のは別にセレブ自慢なんかじゃないぞ」

「二人とも。この霜降り赤ガニの前で喧嘩はダメですよ」

 

 霜降り赤ガニ? 

 変わった名前だな。

 

 カズマがカニをジロジロと観察しながらしながらめぐみんに。

 

「そんなに凄いカニなのか?」

「そりゃあもう。殺人の動機になっても納得されるレベルですよ」

「なにそれこわい」

 

 麻薬かなにかか? 

 

「これはね、ダクネスの実家から引越し祝いに送られてきたの!! さすがは貴族の娘ね!! ほら、すんごい高級酒もあるわよ!」

「日頃の礼だ、遠慮せずに食べてくれ」

「ああ、日頃から僕のラボの作業アームに服をはぎ取らせようとしたり、全身にアルミホイル巻いて発電室に突っ込んだりする礼だろ? ありがたく受け取るよ」

「!?」

「お、お前そんなことしてたのか……? やべぇな……」

 

 ダクネスは恥ずかしそうにモジモジとしながら弁明を始めた。

 

「ち、違うんだ……トニーがこのパーティーで壁役と攻撃どっちの役もこなしているから……わ、私の存在意義が危ういなと感じて……クルセイダーとしての固さの証明を……」

「それはクエストで示せ」

 

 どんどん言葉が尻つぼみになっているダクネスは放っておいて、僕はアクアが嬉々として持ってきたグラスをテーブルに並べ、酒の栓を開ける。

 

「Hmm……」

 

 取り外したフタの裏をゆっくりと嗅ぐと、奥深くて重厚なふくよかな香りがし、脳裏には黄金の稲穂が浮かぶ。

 

 どうやら日本酒にかなり近いお酒のようだ。

 

 満足げに息を吐くと、横からアクアが頬を膨らませて抗議してくる。

 

「あっ! トニーったらぬけがけしてズルいわ!!」

「今からグラスに注ぐんだから、これくらいで目くじらを立てるなよ。ほら、君に一番に注いでやる」

「ト、トニー……私にももらえませんか……?」

「一口だけな。あとはジュース……」

 

 そわそわしながらお酒をせがんでくるめぐみんのコップに酒を少しだけ注いでやろうとしたところで、ある言葉が頭の中にフラッシュバックする。

 

 ──『飲みすぎないようにしてくださいね? お酒で泥酔され、熟睡されると夢を見せることができませんので……』

 

 ……こんな美味そうな酒があるというのに今日は飲めない……。

 一杯くらいなら問題ないだろうが、こんないい酒といい肴があるのに一杯だけだとかえってキツい。

 

「あの、トニー? 一口だけなんですよね? その、なみなみと注がれているんですが……あ、ちょっ……トニー!? 溢れます溢れます! ……い、いいんですか? いいってことですよね!?」

 

 さて、どうしたものか。

 いっそ用事があるといってラボに引きこもるか? 

 

 いや、流石にそれはドライすぎる。

 

 どうやらカズマも悩んでいるようだ。

 が、カズマはあまり酒に興味はないようで、僕と目があうとすぐに首を横に振った。

 サキュバスが最優先のようだ。

 

「トニー。一口ならまだしも、めぐみんにそんなに飲ませるのは流石に賛成できない。頭がパーになってしまうぞ。ほら、めぐみん。私とアクアで中身を分けるから、少しグラスを借りるぞ」

「ああっ!」

 

 ダクネスが持って行ったグラスを少し名残惜しそうに見るめぐみん。

 そんなめぐみんに何か声をかけるでもなく、ただ黙って酒瓶を持ったまま自分のグラスをぼんやりと眺める僕の肩を、アクアがゆすってきた。

 

 ……決断の時だ。

 

「ねぇ、トニーってばどうしちゃったの? 早く自分の分も注ぎなさいよ。早く乾杯して飲みましょう? もう待てないんですけどー」

「……僕もジュースを飲む」

「……へっ?」

 

 キョトンと目を丸くしたアクアを横を抜け、冷蔵庫から果物系のジュースやコーラを持ってくる。

 そんな僕を、アクアがありえない物でも見るかのように目を剥いて。

 

「ええっ!? トニーってばどうしちゃったの!? 禁酒始めたの!? いい? アクシズ教の教えにはね、『汝我慢をする事なかれ。飲みたい気分の時に飲み、食べたい気分の時に食べるがよい。明日もそれが食べられるとは限らないのだから……』ってあるのよ? 飲み仲間として、あなたが飲まないなんてつまらないわ!」

「僕を勝手に邪教徒にするな。これはただの気まぐれさ。そんな些細な問題は無視してカニを食べようじゃないか」

「ほーん? この女神アクアが宣言するわ! あんたは後で自分の愚かな判断を懺悔しながら酒を飲もうとするでしょう!」

 

 その時にお酒が残ってる保証はないけどと付け足し、こっちに向かって口元に手を当ててクスクス笑うアクア。

 少しイラッと来るが関係ない。

 

 カズマの方へと目を向けると、彼もまた酒はいらないと首を横に振った。

 

 彼も夢を追いかけることにしたようだ。

 

 配膳を終えて全員食卓につき、乾杯してから早速カニの脚をとってパキッと割る。

 中身を引っ張り出すと、殻からするりと肉厚な身が姿を現した。

 

「おお、上手く剥くもんだな。木槌持ってきて殻を砕こうとしたらどうしようかと」

「僕は世界各国を旅して来たんだぞ? 自国以外のカニの食べ方くらいわかってるさ」

 

 正直目の前やすぐ横でカニを割ったダクネスやアクアの見様見真似なのは黙っておこう。

 

 新鮮そうなピンクと色のカニの身を、小皿に垂らした酢につけて口いっぱいに頬張る。

 

「!?」

 

 ……これは驚いた。

 この世界に来てからというものの、食べ物関係には驚かされてばかりだが……。

 

 ──こいつは別格だ。

 

「おい、どうしたんだよ? なに変顔して唸ってんの? そんなに美味いのか? お、俺も……ッ!?」

 

 同じようにカズマも衝撃を受けたのか、カニを一口食べた途端に黙ってしまった。

 他の全員もカニを無言で頬張り続けている。

 

 こんなに酒が進みそうなご馳走を食べながらも、酒が飲めない間の悪さを呪う。

 

 そんな僕の横で、アクアがテーブルの小鍋に炭を入れてその上に網をおき、簡素な小型の一人用バーベキューコンロのようなものを作った。

 

 そしてカズマの魔法で火をつけさせると、金網の上にカニ味噌がわずかに残った甲羅を乗せ、その中に先ほどの日本酒のようなお酒を注ぐ。

 鼻歌交じりに甲羅にを炙って熱燗を作り、カニ味噌が溶け込んだそれをゆっくりと啜って、実に満足げに息を吐いた。

 

 それを見ていた全員が喉を鳴らす。

 

 もちろん僕もだ。

 カニ味噌を食べる文化は僕の国には無いが、ああも美味そうに飲まれると試したくなる……。

 

「ほらほら、みんなもやってみなさいな。飛ぶわよ?」

「た、確かにこれは美味いな!」

「ズ、ズルいです!! 今日くらいは一口だけと言わず、普通に飲ませてくださいよ!!」

 

 再びカズマと目を合わせるが、彼はもう今にも負けそうな顔をしていた。

 

「負けるなカズマ……今度僕が用意してやるから……」

「お前……いい奴だな……」

 

 一晩耐えればいいだけなのだ。

 アクアが憎たらしくなるほど酒は欲しいので、銘柄を覚えてまた次回買って飲むとしよう。

 

 左隣りに座るカズマと、周りに聞こえないようにそうこっそりと誓った。

 

 

 ▽

 

 

 カニ料理も満腹になるまで食べたその夜。

 僕は腹ごなしと日ごろのトレーニングとして、ラボから運んできた詠春拳の鍛錬に使う木人椿を軽く打った。

 

 もちろん、体を動かした疲れによる睡眠導入効果も兼ねている。

 

 カズマが丁度よく風呂を沸かしていたので風呂場でサッと汗を流して自室に戻り、自分の頭に脳波の測定装置を取り付けた。

 サキュバスの見せる夢にどんな効果があるのかを確かめるためだ。

 

 それからベッドで身を投げてくつろぐことしばらく。

 やってきたほどよい眠気に身を任せ、後に見るであろう夢に胸を膨らませて瞼を閉じ……

 

 

「曲者ー! 出会え出会えー!!」

 

 屋敷の庭の方から響いてきたアクアの声に僕は飛び起き、念のためにスーツを起動しておいてから階段を駆け下りる。

 この屋敷に曲者が侵入してくるなんて正直考えにくい。

 

 なぜなら、この屋敷に侵入者が来た場合には対侵入者用の警備システムが自動的に感知し、警告の後に非殺傷の攻撃を行う仕組みに……。

 

 ……Shit!! 

 

 僕としたことが、絶品のカニやら甲羅酒リベンジやら夢への期待やらで気を取られ、警備システムを切るのを忘れていた! 

 あまりの間抜けなミスに両手で頭を抱えたくなる。

 

 焦りから額に汗をにじませて庭に飛びだすと、そこには二人のサキュバスがフォースフィールドで構成されたたドーム状の檻の中に捕らえられており、その上からアクアが掌をかざしていた。

 

 アクアの手は、いつでも退魔魔法を放てるように淡い光を放っている。

 同じく飛び出して来たであろうめぐみんもまたパジャマ姿のまま杖を構えてサキュバスを威嚇している。

 

「はーっはっは! 愚かなり、サキュバスよ!! このフォースフィールドは、外側からの攻撃はキッチリ通しますよ!! 観念して経験値となるがいい!!」

 

 フォースフィールドは、ユニビームの面積を自在に操ることが可能なアーティラリーレベル・リパルサー・トランスミッターによって構成されている。

 元々Mk.17、ハートブレイカーに搭載されていた機能を僕が改良して作った防御装置だ。

 

 敷地内防衛としての運用なので、侵入者を安全に無力化できるよう、浸透圧の仕組みを利用して外側から内側へ攻撃が通るようになっている。

 

 めぐみんがサキュバスを爆裂させたり杖で叩き殺したりしなければいいが。

 

 と、その時。

 

「曲者ー! じゃねぇよ、この駄女神! 人に迷惑かけんのもいい加減にしろ!」

 

 カズマが怒号と共に庭に飛び出してきた。

 

 ……全裸にタオルで腰を覆っているだけという、ハルク以下の装備で。

 もし本当に敵対的存在が侵入していたならナメた格好で来るなと叱咤していたところだ。

 

 そんなカズマは、フォースフィールドに捕らわれているサキュバス達を見て首を傾げた。

 

「……あれ? 何でサキュバスの子がそこに?」

「ほら、トニーもカズマも見て見て! トニーの警備システムに引っかかったオマヌケサキュバスが、哀れな姿をさらして……って、大変! 曲者がさらに二人いたわ!!」

「誰が曲者だ!!」

 

 僕とカズマを指さして曲者呼ばわりするアクア。

 カズマはまだしも僕まで曲者扱いされる要素なんて……。

 

「ところでトニー、その頭につけている変な物は何ですか?」

 

 ……ああ、脳波測定装置を装着しっぱなしだった。

 

「これはナイトキャップさ。寝る時に被る帽子のことだよ。奇抜でオシャレだろ?」

「奇抜すぎますよ! ほぼ金属塊ではないですか!!」

 

 僕はそんな不評な見た目ほど重くない、脳波測定機能付きナイトキャップをとって地面に置く。

 

「で、何でサキュバスがここで捕らえられているんだよ?」

「曲者カズマさんにも説明してあげるけど、トニーの警備システムにひっかかったサキュバスたちが今何もできずに浄化待ちってワケなの! それじゃサクッと……」

 

 アクアのかざしている掌の光が増し、サキュバスたちがヒッとと小さな声を上げる。

 

 

 

 

 

 ──僕とカズマが行動を起こしたのは、同時だった。

 

「フライデー、フォースフィールドと警備システムを解除しろ。そいつらは敵じゃない」

 

 僕の指示でフォースフィールドは解除され、

 

「はっ……? ちょ、トニーってば何してるの!?」

「カ、カズマ!? 近付いちゃ駄目です! 操られますよ!?」

 

 カズマは黙ってサキュバスの手を引いて庭から出ようとする。

 まだアクアの退魔魔法、およびめぐみんの爆裂魔法の射程圏内だからだ。今普通に逃がしたとしてもいい的になるだけだ。

 

「アクア! 今のカズマはそのサキュバスに魅了されて操られている!! 夢がどうとか風呂場でのたまって……くそう! そのサキュバスを逃がすな! ぶ、ぶっ殺してやる!!」

 

 屋敷の方から僕らへと向けて、殺気立っているダクネスがズンズン足音を鳴らしてこちらへ向かってくる。

 月の光だけでもわかるほど顔が赤いのは、怒りのアドレナリンのせいだけではなさそうだ。

 

 僕はそんな彼女から距離を取るようにしてカズマの方へと走った。

 たった今来たばかりで状況をわかっていないダクネスには、僕がカズマの制止に向かったように見えたのだろう。

 

「……ッ!? トニー!? お、お前まで……!?」

 

 少し安堵の顔を見せたのもつかの間。

 

 サキュバスを守るようにしてアクア達との間に立つカズマの隣に、同じく並び立つ僕の姿を見たダクネスの目が驚愕に見開かれ、警戒の色を滲ませると共にギリッと歯を鳴らした。

 

 僕の背に、サキュバス達がアクアたちに聞こえないような小声で声をかけてきた。

 

「お、お客さん……! この状況は私たちの自己責任です……! 気が付かれないように枕元に立ってこそ一人前のサキュバス……! この状況は、私たちの落ち度なんです!」

「そうですよ……私たちはモンスターですから! 何も知らないフリを……」

 

 違う。

 様々な要因で頭がいっぱいで、彼女らを招いておきながら警備システムを切らなかった僕のせいだ。

 

 そのことを、僕は素直に打ち明ける。

 

 カズマとサキュバス達だけに聞こえるように。

 

「……こうなったのは、この屋敷を守る防衛機能を解除し忘れた僕に責任がある」

「それでも潜り抜けて枕元に立ってこそサキュバスで……!」

「君たちは何も悪くないさ。むしろ僕が作った警備システムの万全さを再確認できたって事にしよう」

「トニー、お前マジか……」

 

 やれやれと肩をすくめるカズマに僕は尋ねる。

 

「怒ってるか?」

「別に?」

 

 てっきりしばらく根に持たれるくらい怒られそうだと思っていたが、カズマはただフッと鼻で笑い。

 

「あのアホ三人のやらかしに比べたら、こんなのイタズラ以下だよ」

 

 そう言って、手のひらに拳をぶつけてパシンという音を庭に響かせた。

 

「さっさとサキュバスのお姉さんたちを逃がして、その後は何処かの宿で続きと行こうぜ」

 

 カズマがファインティングポーズをとって不敵な笑みを月明かりに浮かばせる。

 

 その行動を挑発ととったか。

 アクアは眉根を寄せ、チンピラみたいな顔をしながら拳を鳴らした。

 

「一体何のつもり? 悪魔の味方をするなんて……ほら……袋叩きにされる前にそこをどきなさい。女神の敵対者になりたいの?」

「悪いが、僕は神と敵対したことがあるし、勝ったこともある。脅しにしちゃ陳腐だな」

 

 パジャマのポケットに手を突っ込んでそう言いきった僕に、アクアの眉根がさらに寄った。

 寄りすぎて眉間に山ができてる。

 

「良い度胸してるじゃないの……!」

「どうやら完全にサキュバスに魅了されているようです。説得は不可能でしょう……となれば、解決策は一つのみ……」

「ぶっ殺してやるっ!」

「そ、それは流石に物騒ですが、とりあえずぶちのめして正気にもどしてやりましょう!!」

 

 各々が拳を、杖を構え始めた。

 完全に戦闘態勢だ。

 

 正直、今更になってなんで僕はこんなバカみたいな理由で戦おうとしているのだろうと思う気持ちはある。

 だが……この街の治安に影から貢献し……そして……。

 

「カズマ。愛する者の名前を口に出してみろ、心の決意を強くしてくれる。僕はペッパーだ」

「美人でスタイルが良くて、恥ずかしがる系の世間知らずなお姉さん……!」

「……まぁ、合格だ」

 

 ……そして、恋人と夢で逢いたい。

 

 そんな十歳のメルヘン少女が言いそうなワガママを叶え、色々大変な思春期真っ盛りのカズマを満たしてやれる、優しき悪魔を守る為に。

 

 僕らは、退かぬ想いを込めた瞳で、前を見据えた。

 

 

 

 

 ──ほのかな月明かりが照らす広大な庭を、剣呑な雰囲気が満たしていく。

 僕らの前に立ちはだかる三人の娘たちと、鋭い視線が交差した。

 

「どうするダクネス?」

「……戦う」

「いい結末が待ってそうですね」

 

 ザッと踏み出した彼女達の足音が、普段のそれよりも重く庭に響く。

 一歩踏み出した彼女達に対して、こちらも一歩踏み出した。

 

「止まる気ないな」

「……こっちもだ」

 

 互いの距離が、ゆっくりと、一歩ずつ縮まってゆく。

 踏みしめるように歩いていた僕らも、ついには戦闘態勢をとって駆け出し、縮まる速度はどんどん早くなる。

 

 カズマが唸り声をあげてファインティングポーズをとった。

 

「俺達が時間を稼ぐから逃げろお姉さん!! かかってこいやー!!」

「お、おきゃくさーん!!」

 

 アクアの拳に光が灯り、めぐみんの瞳が紅く輝き、ダクネスが肩を突き出してタックルの姿勢をとる。

 庭に伸びた五つの影が、やがてその中央で一つに重なり──

 

「ぐぉあっはぁぁぁあああああん!!!」

 

 タックルと拳を盛大に食らったカズマが猛烈な勢いで吹っ飛んで行った。

 

 せめて一秒は持ってほしかった……。

 

 ダクネスとアクアはカズマの方へと突撃したので、必然的に僕の目の前に立ちはだかるのはめぐみんだ。

 

 めぐみんとは一番付き合いが長く、背を押してノウハウも教えた、いわば愛弟子的な存在でもある。

 恩師ぶるつもりはないが、それらの経験から彼女が僕と戦うのを躊躇して尻込みしたり……。

 

「はーっはっはっは! そう、恩師とは超えるべきもの!! トニー、人生最高の瞬間にしようではありませんか!!」

 

 ……なんてことはなく、笑顔で目を紅く輝かせながら杖をブンブン振り回して僕の方へと突っ込んできた。

 

 君がたくましくて僕は鼻が高いよ。

 というか、それは僕が言うべきセリフなのでは? 

 

 ステータス差の問題で、真っ向から僕がめぐみんと組みあっても、あっという間に組み伏せられてしまうだろう。

 色々おかしいと思うが、これは認めざるを得ない。

 

 だから……。

 

「さぁ、我が(かいな)のなかで息を……あ、あれ!?」

 

 僕は真正面から向かうと見せかけて、助走をつけて杖を振り上げながらジャンプしためぐみんの真下をスライディングで通り抜ける。

 

 そして、スライディングしたその先に……。

 

 

 

 

 月の光を鈍く反射させたMk.45が、ガンッと音を立てて着陸した。

 

 

 展開したMk.45の背部に飛び込んでスーツを装着する。

 ゆっくりと振り返って対峙する僕の姿を……青色に光るスーツの目を見ためぐみんが、喉を鳴らしながら一歩下がる。

 

「い、いいでしょう……そうですね、全力のあなたを倒さねば、超えたとは言えないで……あああああああ──っ!!」

 

 目の前の土をリパルサーで吹き飛ばされたことによって目に砂が入っためぐみんは地面をゴロゴロと転がった。

 素早くめぐみんを無力化した僕は、カズマをブチのめしたアクア達が追いかけるサキュバスの元へと向かう。

 

 彼女らを直接つかみ、速度を上げて店へと返してやるつもりだ。

 

「あ、アクアー! ダクネス! 気を付けてください! そっちに行きました!!」

 

 アクアとダクネスが僕の方へ振り向くがもう遅い。

 魔法の格好の標的になるのを防ぐため、低空飛行で飛ぶサキュバス達を掴み……。

 

「こ、このっ……トニーの背教者めぇえええ!! もう知らないんだからー!!」

 

 そんな後ろで聞こえるアクアの泣き声を背に、サキュバスを抱えた僕はそのまま月夜の彼方へとスーツを飛ばした。

 

 

 ▽

 

 

 その翌日。

 ボコボコにされたが、操られていたということできちんとアクアに回復してもらっていたカズマが、庭で何かをしゃがんで磨いていた。

 

「朝から掃除とは感心するね。ケガは大丈夫か?」

「まぁな。回復魔法でしっかり治してもらったさ。しばかれた本人にだけどな」

 

 しゃがんでいたカズマが立ち上がって、額の汗をぬぐった。

 

 どうやら磨いていたのは墓石のようだ。

 墓石には、『アンナ=フィランテ=エステロイド』と彫られてあった。

 

 何処かで聞いた気がするな……。

 

「この墓石を掃除するのがこの屋敷に住む条件の一つなんだよ」

「へぇ、変わってるが……まぁ、楽でいいな」

「で、トニーは何しに来たんだ? 朝から外で日光浴と寒風摩擦するにはまだ若いだろ?」

「今日は僕の料理当番だからな。パンケーキを焼いといたんだが……君の分は僕が食べるとしよう。まだまだ若くて食欲旺盛なんでね」

「わかったわかった……今行くよ!! トニーのパンケーキかぁ……どう作ってもダマっぽくなるのは克服したのか?」

「……多少」

 

 昨日の夜から、こんなふうに悪友みたいなやり取りができる程度にはカズマと絆が深まった。

 共に秘密を共有し、共にそれを守る為に戦ったからだろう。

 

 軽口を叩きあいながら屋敷の中へと戻ろうとしたその時。

 

 

「『セイクリッド・ブレイクスペル』ッ!」

 

 どこか警戒したような顔のアクアが、僕に向けて解呪魔法をかけてきた。

 そのまま唸りつつ、僕の体をペタペタ触ってくる。

 

「おい、何してるんだ? 新手のスキンシップか? それとも君の宗教の怪しげな儀式か?」

「ちっがうわよ! ……うーん、もうチャームの影響は完全にないわね……」

 

 昨夜サキュバスを店まで送り届けて帰ってきてからずっとこんな調子だ。

 何度も僕に解呪魔法をかけてきて鬱陶しいったらありゃしない。

 

 そんなアクアはというと、安心したように一息ついてから得意げな顔を浮かべて僕に向けて。

 

「ふふーん、トニーの警備システムも、サキュバスのチャームまでは防げなかったみたいね……」

 

 そもそもかかっていないのだが、そう言うことにしといたほうが今は楽だ。

 僕の整えた警備システムがザルみたいに扱われるのは、少々不服ではあるが。

 

 アクアは僕にピッと人差し指を立てて。

 

「でも安心なさいな! この女神アクア様が、警備システムのさらに上から神聖な結界を張ってあげたわ!! これでもう呪いみたいなものもシャットアウトできるってわけよ!」

 

 そう言って、パチーンとウィンクしてきた。

 何か余計なことをしていなければいいが……。

 

 アクアのドヤ顔は一向に変わる気配を見せず。

 

「魔法防御と科学防御が二つが合わさって最強に見えるでしょう? この屋敷はもう、どんな存在も決して踏み入れない無敵の要塞──」

 

 

 

 

 

『デストロイヤー警報! デストロイヤー警報! 起動要塞デストロイヤーが、現在この街に接近中です!! 冒険者の皆様は装備を整えて至急ギルドへ!! 町の皆さんは直ちに避難してください!!』

 

 そんな大音量の警報がアクアの声を塗りつぶし、街中に轟いた。

 

 アクアはドヤ顔のままピタリと止まり、やがて顔じゅうに汗をにじませてついには青ざめ始めさせ……

 

「ぜ、前言撤回……今すぐ荷物をまとめて逃げるわよ!!!」

 

 

 

 今迄見たこともない必死な形相で、屋敷へとすっ飛んで行った。

 

 

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