この素晴らしい世界に祝福を!アナザー・ユニバース・アイアンマン   作:Tony.Stank

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大変お待たせしました。
この章の最終回です。


第33話 KONOSUB“A”SSEMBLE

 トニーの背を追って進んだ先にあったのは、複雑そうな動力部と、その根元で檻に入れられ、厳重に保管された赤々と燃え盛る鉱石。

 おそらくこれが動力源のコロナタイトだろう。

 

「フライデー、スキャンの結果は?」

『制御装置は存在しますが、経年劣化によって機能しておらず、暴走状態に入っています。止めるには動力源を無理やり引きはがすしかないかと……』

「なんていい加減な作りだ…………」

 

 スマホのハンズフリーみたいに、フライデーの声が俺らにも聞こえるようにして響く。

 

 にしても、山ほどいるゴーレムにメンテナンスでもやらせておけばいいのに。

 トニーも言っているが、マジでいい加減だ。

 パンジャンドラムの方がまだマシだろこれ。

 

「それじゃ、動力源を外すぞ」

「おい! 待て待て待て! いきなり外そうとするな!! 急停止して機体がコケたらどーすんだ!!」

 

 なんの迷いもなくコロナタイトが設置されている鉄格子に手を突っ込もうとしたトニーを慌てて止める。

 

 こいつ躊躇無いにもほどがある! 

 

 そんなトニーはと言うと、やれやれとため息をついて。

 

「ビクつきすぎだ。ウィズのテレポートがあるだろ」

「あっ…………た、たしかに……」

「動力源が奥底に埋まってたりしたらどうしようかと思っていたが……これなら試作装置を使わなくても何とかなるかもな」

「それは困りますね……紅魔族としては、ぜひ見たいところです」

「いや気になるのはわかるけど使わないに越したことはないだろ……」

 

 マスク越しで分かりにくいが、何となくトニーに目線で急かされているように感じたのでとりあえずウィズの方に向いて。

 

「それじゃウィズ、テレポートの用意頼むわ」

「はい。では、皆さん一か所に固まっててくださいね」

 

 その言葉に従って、トニー以外のみんなが一か所に集まる。

 トニーはそれを確認すると、行くぞと一言かけてから鉄格子をねじ曲げて開らき、中からコロナタイトを引っ張り出した。

 

 

 ──バツンッ

 

「うおっ!?」

 

 ブレーカーが落ちたような音がし、明かりが消えて周囲が真っ暗になる。

 強い衝撃が頭をよぎり、思わず目をつぶって構えた。

 

 ……のだが。

 

「……あれ? 揺れたりしないな」

「変ですね……。おじすか、衛星から見てどうですか?」

 

 めぐみんが珍妙な名前の人工知能の名を呼ぶと、眼帯からホログラムの3D映像が飛び出した。

 こんな薄い眼帯のどこにスピーカーが隠されているのかは不明だが、音声による解説も始まる。

 

『デストロイヤーは依然として動きを止めていません。ですが、緩やかに速度が低下しています』

「……つまり?」

『脚の構造からして、動力源の消失によって倒れるようにはなっていないようです』

「それを聞いて安心した……」

 

 おもわず安堵のため息が出る。

 造りはいい加減だが、そこらへんはしっかりしていたようだ。

 

『ですが……』

「はぁ……でたよ。恒例の『ですが』が。で、なんなんだよ」

「カズマ、おじすかに当たらないでくださいよ」

 

 ぬか喜びしてしまった分、その人工知能の言葉に思わず悪態をついてしまった。

 そんな俺に、めぐみんが責めるような視線を向けてきた。

 

『……気にしていませんのでご心配なさらず。デストロイヤーですが、やがては動力源を失ったことによって機体が完全に停止するでしょう。問題は停止するまでの距離です』

「まさか……」

 

 嫌な予感がする。

 ダクネスもそう感じたのだろう。

 

 額に汗をにじませ、ゴクリと喉を鳴らす。

 

『機体が完全に停止する前に、街への接触は避けられません』

「マジか……」

「なるべく安全に止めたいが……居住区にデストロイヤーが侵入するまでどれくらいだ?」

『残り五分とありません』

 

 もうそんなに迫ってるのか……! 

 

 と、俺のように焦りを覚えたのか、めぐみんが。

 

「トニー、カズマ、何か策はありませんか!? もう時間が……!」

 

 トニーはというと、覗き窓のようなところからアクセルの方を少し眺めて。

 

「……この現状を打破できそうな試作装置があるんだが、今現在も調整中で完成まで間に合いそうにない。デストロイヤーの動きを遅らせて時間を稼げれば……」

 

 こんな奴相手に時間稼ぎしろってか。

 なんだその無理ゲーはとぶん投げたくなる。

 

 ……いや、待てよ……? 

 

 俺はふと、トニーがベルディアの首を宇宙まで持っていった時のことを思い出す。

 宇宙空間まで飛び立てるパワーがあるならば……。

 

「……その試作装置とやらがあれば、確実にデストロイヤーを止められるんだな?」

 

 一つ案が浮かんだ……が、名案とは言えそうにない。

 そんな俺の表情にトニーは気がついたのか。

 

「何か浮かんだのか? なんでもいい、言ってみろ」

「その……トニーにすさまじく負担をかけることになるんだけど……」

 

 それを聞いたトニーは、手に持ってたコロナタイトを一旦足元に置き、サッカーボールみたいに踏んで転がしながら飄々と答える。

 

「我が身を犠牲にスーパーヒーローしろって? まぁ、いつもの事だな。お易い御用だ」

 

 こいつホント危険を顧みないなぁ……。

 

「で、その作戦の内容は?」

「まずデストロイヤーの脚の関節に水ぶっかけてからウィズの凍結魔法で動きを鈍らせる」

「悪くない戦術だ。関節が多い機械はその隙間が弱点だからな。ゴミが詰まるだけでも致命的だ。機械工学に精通してるのか?」

「ゲームやアニメでも、機械の関節を凍らせるのは有効打だろ?」

「……まぁ、いいだろう。で、僕の役目は?」

 

 きっと、今の俺はさぞ気まずい顔をしているだろう。

 そんな俺は、デストロイヤーの頭の方を指さし。

 

「……デストロイヤーの真正面から突っ込んで勢いを食い止めて欲しい。…………その……で、できる?」

「やってみよう。待機させてあるMk.46を起動する、パワーが増すはずだ」

 

 即答だった。

 いつもの皮肉や嫌味も無しに、清々しいほど。

 

「カズマ!? さすがにその作戦はどうなんですか!? というか! トニーもなんで即答するんですか! 下手すれば地面に落ちて踏み潰されて粉々になりますよ!?」

「詳細は省くが、似たようなことを前にやったことがある。前は止めるんじゃなくて動かすことが目的だったが」

「……発案した俺が言うのもなんだけどさ、嫌なら拒否したっていいんだぞ? ほらその、生存第一の俺をちょっとくらい見習ったらどうだ?」

 

 心の奥に湧いた罪悪感から少し早口でまくし立てるが、正直俺も他に手段が浮かばない。

 もし、失敗してダクネスが借金こさえる結果になってしまうのだとしたら、最悪みんなで夜逃げしようとかまで考え始めている。

 

 …………のだが。

 

「そんなに僕を信用出来ないのか? 君たちは知らないだろうが……これくらい、僕が今までに体験してきた危機の中ではかなり軽いほうだ」

 

 トニーは何も気にしていないかのように、壁をレーザーでくり抜き、家から出勤するかのような足取りで。

 

「それじゃ行ってくる。ウィズ、ダメだった時の脱出のことも考えて、テレポート出来るだけの魔力は残しとけ」

「ええ、分かりました!」

 

 そう言い残してトニーは開けた穴から飛び出し、宙で複数のパーツをスーツの上から身に纏いながらあっという間に視界から消えてしまった。

 

 

 ▽

 

 

 僕の身を、スーツの上から更に強固な鎧が包んでいく。

 

 両腕に大型の磁気クランプを装着し、デストロイヤーの顔面に張り付く。

 

「キャプテン、今回はレバーを押さなくてもいいぞ」

 

 誰も聞いていない軽口を一人で叩き、脚部や背中を覆うロケットブースターから推進リパルサーをフルパワーで放出する。

 

 メリメリと音を立て、接地面の金属がヘコんでいく。

 

 ……だが、速度が落ちる気配は全くない。

 

「FKKNN…………クソ……質量が違いすぎる!』

『い、いや! 気のせいか、速度が落ちているように感じるぞ!!』

「本当かカズマ!」

『スマン、気のせいだったわ!』

「クソガキめ!!」

 

 僕の気持ちを返せ。

 

 もう街が目と鼻の先だ、これ以上進ませる訳にはいかない。

 

「フライデー! Mk.46の温存は考えるな! 各パーツをオーバーロードさせて限界を超えた出力をだせ! パーツが消耗したそばからパージして交換しろ!」

『了解です、ボス!』

 

 全身のブースターからバーナーが強く吹き荒れ、デストロイヤーの額にヒビが入り、全身のパーツから奇妙な音がなり始める。

 

『速度が落ちてる……おい! 今度は見間違いじゃない! マジで落ちてるぞ!』

『流石はトニーだ……この巨体を正面から……』

 

 どうやら効果アリのようだが、スーツの消耗が思ったより激しい。

 あっという間に外付けのMk.46のパーツが負荷で歪み始めた。

 

『お、おいトニー!! なんか変な音が聞こえてくるぞ! 大丈夫なのか!?』

「ただのスーツが軋む音だ、気にするな」

『それって気にしなくちゃいけない音じゃないんですか!? トニー、大丈夫ですよね!?』

 

 めぐみんの心配そうな声が聞こえてくるが、スーツが破損するなんていつもの事なのでいちいち気にしてなんていられない。

 

「こっちは気にするな。それよりもそっちはどうだ?」

『今やってる!』

 

 デストロイヤーの脚の方に目を向けると、その根元の方で水しぶきと氷の霧による反射光が見えた。

 

 頑張っているようだ。

 惜しむらくは、成果が出ていないところくらいだな。

 

 どんな様子か、こっそりめぐみんの眼帯にリンクして様子を覗き見してみる。

 

『ねぇ! これ意味ない気がするの!』

『ち、ちくしょう! 図体がデカすぎて凍らせたそばから砕かれちまう! もっと一気に凍らせないと…………!』

『もっと魔力を込めて魔法を撃つことが出来れば……でも、魔力がもう……!』

 

 アクアが水を出し、それをウィズが凍らせるという形でやっているそうだが、どうやら全然足りないようだ。

 聖水だからアンデッドの力で凍らせにくいということもあるんだろうが……。

 

 段々と全員の顔が暗くなっていく中、ザッと一歩踏み出す力強い足音が響いた。

 

 その音にめぐみんが視線を向けたのだろう。

 彼女の眼帯越しに映った映像には、覚悟を決めたかのような表情のダクネスが。

 

『ウィズ。私からドレインタッチで魔力を体力ごと吸え』

『ほ、本気ですか!?』

『皆私とこの街のために戦ってくれていると言うのに、私は先程から見ているだけだ……。どんな形であろうと、私も尽力を尽くしたい』

『ダクネス……』

 

 普段ならみんな止めにはいるだろう。

 だが、決意が宿る彼女の姿を見てそうするものは一人もいなかった。

 

『分かりました……では、いきますよ?』

『ああ、この体力だけが取り柄だ。いくらでも吸ってくれ』

 

 ウィズがダクネスの手を握り、そこからドレインタッチを始めた。

 冒険者のカズマが普段使う劣化版とは違い、吸われる魔力の流れが映像越しでもしっかり見える。

 

 どうかこれで成功して欲しい。

 先程からMk.46のパーツの消耗が激しく、このままでは底をつきそうだ。

 

『ぐっ……』

『ダクネスさん、大丈夫ですか!?』

『お、おいダクネス! 無理しすぎるなよ!?』

『ねぇウィズ! ちょっと吸いすぎじゃないの!? まだ魔法は撃てないの!?』

 

 急激に魔力も体力も吸われたダクネスが地面に片膝を着き、心配したウィズが手を離そうとするが……。

 

『構わん……続けろ……!』

 

 その手を、ダクネスが力強く握り続けた。

 

『まだ足りんだろう……?』

『で、ですが……!』

『続けろ!』

『うぅ……ご、ごめんなさいダクネスさん……!!』

 

 ウィズが泣き出しそうな顔をしながらダクネスから吸い続ける。

 もう魔力なんてとうに底を尽き、体力をずっと吸われつづけているはずなのだが……。

 

『気にするな……。私はやるべきことをしているだけに過ぎない……ウィズもそうしろ……!』

 

 流石はダクネスといった所か。

 正義の権化のような姿を見るとこちらの士気も上がってくる。

 

『そ、それにしても…………これが本場のドレインタッチか……ふふ……た、たまらん…………!』

 

 流石はダクネスといった所か。

 変態の権化のような姿を見るとこちらの士気も下がってくる。

 

『台無しだよ馬鹿野郎! 心配した気持ちを返せこのド変態が!』

『こんな時まで言葉責めだと……? カズマは本当に容赦がないな……!』

『なんというか……ダクネスで安心しました』

 

 まだまだ余裕そうなダクネスの姿にカズマが頭を抱えてうずくまる。

 めぐみんもアクアもウィズも、先程まで心配そうな顔はしていなかった。

 

 いつもは色白なウィズの血色が普段よりも良くなり、ダクネスからそっと手を放す。

 

『十分な魔力が得られました! ありがとうございますダクネスさん! これでデストロイヤーの脚を止められるはず……いえ、止めて見せます!!』

『あ、もう終わりなのか……? もう少し……い、いや……だいぶ限界のよう……だ』

『ダ、ダクネス!』

『お前も色々無茶すんなぁ……』

 

 クタッとダクネスが倒れ、アクアが駆け寄って介抱を始めた。

 意識はあるようだが、もう一歩も動けそうにない。

 

 そんなダクネスは、アクアに膝枕されながらウィズの背中を見ていた。

 

 彼女の想いを、みんなの想いを乗せたその背中を。

 

『みなさん、あとは任せてください。トニーさん、今手を貸しますね!』

「熱烈ドラマの陰で僕は忘れられてたかと。巨大要塞を真正面から抑えてる僕より目立つなよ?」

『ふふっ……確約はできませんね』

 

 ウィズはうっすらと笑みを浮かべ、彼女らしかぬ自信に満ちたジョークを放ち。

 

『──『カースド・クリスタルプリズン』』

 

 静かに、凍てつかせるかのような声色で拳を地面に叩きつけた。

 

『おわあああああ! な、何これ!!』

『さ、さすがはリッチー……』

 

 オーバーなカズマのリアクションも頷ける。

 叩きつけたウィズの拳から波紋のように氷山が地面を伝わって外へと伸びていく光景が目に飛び込んできたからだ。

 

『さ、寒い! なんか超寒いんですけど! ウィズったら本気出し過ぎじゃない!?』

『お、おじすか! どうなっているんですか!? 衛星から映像を送ってください!』

 

 状況を把握するため、映像の視点をめぐみんの眼帯から人工衛星の視点に切り替える。

 その映像には、ウィズの出現させた氷山が大木の根のようにしてデストロイヤーの脚を覆う姿がはっきりと見えた。

 

『ボス、デストロイヤーの速度が急激に低下しています。成功です!』

 

 これなら…………! 

 

「このまま抑え続けるぞ! 踏ん張れウィズ!」

『はい!』

 

 正面からは僕が、脚そのものはウィズが。

 

 速度は落とせているものの……。

 

『抑えられはしますが……長くは持ちません……!』

『ボス、予備パーツの残量が尽きました……!』

 

 氷は生成された傍から砕かれ、僕のスーツは悲鳴をあげる。

 

 そして…………。

 

『ヤバいです! 民家がもう目の前ですよ!』

『クソ! もう打つ手がない!』

「やれることはやった。後は……そうだな、女神エリスにでも祈っておくとするか」

 

 冗談めかしてはいるが、流石にマズイと内心焦りを覚える。

 

 これでも僕はヒーローだ、プライドがある。

 あと少しで全てが丸く収まりそうだというのに、ここで諦めるのは絶対にゴメンだ。

 

 そんな子供のような駄々を嘲笑うかのように、デストロイヤーの脚は前へと歩を……。

 

 

 

【──“ミニリパルサー・デプロイヤー” 作戦地域に到達】

 

 ……やっと。

 やっと来たか……。

 

「手のかかる息子だ……」

 

 僕がついたため息に応えるかのようにして、巨大な格納ポッドがデストロイヤーのそばへと飛来し、そこからつつかれた蜂の巣のように大量のドローンを吐き出した。

 

 平たい円盤の形をしたそのドローンは、次々とデストロイヤー下へと殺到しカンカンと甲高い金属音を奏でて張り付いていく。

 

 そして……

 

『あ、あれ……?』

 

 異変に気が付いたのはアクア。

 

『景色の流れる速度が緩やかに……』

『……なんだ? 止まってる……?』

 

 段々と気付き始め、動揺が全員に広がっていく。

 僕はそんなカズマ達に。

 

「これにて一見落着だ。ウィズも氷出すのやめていいぞ」

『え、えっと……一体何が……?』

『……! こ、これは……!?』

 

 スキャンが可能なめぐみんだけが全容を理解し、驚愕の声を出す。

 

『お、おい、なんだよめぐみん。どうしたんだよ?』

『……てます』

『……ん?』

 

 

 

 

 

 

『浮いてます!! 起動要塞デストロイヤーが、空に浮いています!!』

『はっ……はぁぁぁああああっ!?』

 

 

 ──ミニリパルサー・デプロイヤー。

 

 本来は紅魔の里、およびアクセルで製造している対魔王軍用防衛設備なんかを詰めたコンテナを王都に送るために開発した装置だ。

 皿ほどのサイズの推進リパルサー発生装置で、どんな物体にも張り付き、接着面の反対側から推進リパルサーを噴射することで重い物体を高速で運搬することができる。

 

 いちいちクインジェットで運ぶのが面倒だったので造ったはいいものの……まさかデストロイヤー相手に使うことになるとはな。

 

 僕はズタボロになったMk.46を全てパージしてカズマ達の元へと戻った。

 戻るや否や、カズマ達が僕の方へと駆けてきた。

 

「トニー、デストロイヤーが浮いてるってどういうことだよ!?」

「そのまんまの意味だ。デストロイヤーの腹にジェット取り付けて空に飛ばしてる。これでもう地に足がつかず、これ以上進むこともない」 

「流石……発想がぶっ飛んでるな……」

 

 適当に話を受け答えしながら、僕が入ってきた穴から街がある方へと目を向ける。

 

 もう民家や畑は目の前であと数歩でも進行を許してたら踏み潰されていただろう。

 

「とりあえず、もう安心だってことだな? はぁ……マジで焦った……」

「一時はどうなることかと……」

 

 危機が去って気が抜けたのか、カズマとめぐみんが床にへたり込む。

 

 ウィズもほっと胸を撫で下ろし、それで上下する彼女の胸をカズマが凝視していた。

 

 気待ちはわかるが、いい加減にしないと痛い目見るぞ。

 体験談だからな。

 

「機動要塞デストロイヤーもなんてこと無かったわね! さぁさぁっ、帰って乾杯しましょう! 今日は派手に祝おうじゃない!」

「バカっ! フラグになりそうなことを言うんじゃねぇ!」

「カズマ、慎重なのは良いが臆病にはなるな。というわけで、僕も帰って飲むのに賛成。異論は聞きたくない」

「私、生野菜と何かのタタキとかで強めのお酒をきゅっとやりたいわ!」

「それも悪くないが、僕ならニンニクの香りを移したバターで焼いたステーキにバーボンだな」

 

 僕とアクアで祝勝会ムードに浸りながら、飲むお酒の種類なんかをあーでもないこーでもないと語り合っている、そんな横で。

 

「……」

 

 ただダクネスが黙って、何かを警戒しているかのようにある一方を睨んでいた。

 その視線の先にあるのは……。

 

「ダクネス、どうしたのですか? コロナタイトがどうかしたのですか?」

「……まだ終わっていない。胸騒ぎがする、まだ危険な香りが残っているぞ。デストロイヤーは、まだ終わっていない!」

 

 ダクネスのそんなセリフに反応するかのようにして、地響きが起こる。

 僕らがいるデストロイヤーは現在宙に浮いてる。ということは、その震源は……。

 

「お、おい! なんかめっちゃ揺れてるぞ!」

「それだけではありません! みなさん見てください! コロナタイトが……」

 

 僕が先ほど適当に置いておいたコロナタイトの方を見ると、先ほどよりもさらに赤く、そして強い光を放っていた。

 

「……フライデー」

『先ほどよりも熱エネルギーが急激に増えています。このペースでエネルギーが増え続けると……』

「あー! 聞きたくない聞きたくない! おいコラこの駄女神!! お前ってやつは、足引っ張らないと気が済まないのか!!」

「ええっ!? 何で私なの!? 私何もしてないじゃない!! それに、フラグならトニーだって立ててたわよーっ!」

 

 コロナタイトはエネルギーを供給し続ける為に特殊な細工が施されていたようだ。

 無理に引き抜くとエネルギーが暴走するようになっていたらしい。

 

 僕のアークリアクターを見習ってほしいもんだ。

 

「全員僕に掴まれ。いったんデストロイヤーの外まで退避するぞ!」

 

 後ろ髪引かれるが、どうやらコロナタイトはあきらめるしかなさそうだ。

 

 

 ▽

 

 

 外の平原へと退避した僕らは、重たい振動音を奏でて震える宙に浮いたデストロイヤーを見上げる。

 

「おい、どうするんだあれ……このままじゃボンッていくんだろ!?」

「ですが、ここで爆発する分なら問題ないのでは? 街までは遠いですし、近くの村も窓が割れる程度で済むと思います」

 

 めぐみんがそう推察するが、ウィズがあることに気が付き冷や汗をにじませる。

 

「いえ……デストロイヤーの正面を見てください」

 

 そこは、僕が全力で押し込んだことによってできたデストロイヤーの前面の亀裂。

 

「もし内部で大爆発が起きようものなら、あの亀裂から爆風が一点集中で……!」

「あーあーあー! それも聞きたくない!!」

「ここらの農村は年配の方々多い……! ここはまだしも、まだ先の村々の住民たちの避難は完了していない可能性がある……!」

 

 カズマが喚き、ダクネスが街の方角を見て拳をギュッと握りしめる。

 

「ど、どうするのよ!?」

「コロナタイトだけなら森の方へぶん投げればいいが、デストロイヤーの脚を止め続けたせいで熱がたまって本体そのものが爆発しかけている」

「冷静に絶体絶命ですって分析してるのか!? 解決策を考えてくれよ!!」

「落ち着け。解決ならもう出来てる」

「……はい?」

 

 僕は親指でクイッとデストロイヤーを指し。

 

「デストロイヤーの下にたくさんくっ付いてるミニリパルサーを見ろ。あれでデストロイヤーをベルディアの時みたいにはるか上空まで持っていって爆発させる。僕らはここでただ座って花火を見物していればいいって訳だ」

「流石はトニーですね! では、ここでその花火とやらを見物していましょうか!!」

「なら最初からそう言ってくれよ……あー、心配して損した」

 

 爆裂魔法も撃って疲れているのか、めぐみんが地面に倒れるようにして座り、それに続いてカズマやアクアも地面に座り始める。

 それから少しの間デストロイヤーをながめていたのだが……。

 

「……ねえ、なんだかちっとも高度が上がってないように見えるんですけど……気のせいかしら?」

「気のせいじゃないですね……デストロイヤーの振動も大きくなってきていますし、これ大丈夫なんでしょうか?」

 

 さきほどから全然高度が上がらないデストロイヤーに段々不安を感じてくる。

 

「……どうやら計算違いだったようだ。あのミニリパルサーにデストロイヤーを空高くあげるほどの推進力は無いらしい」

「お、お前……! どーすんだよ! 無駄に時間を使っただけじゃねーか!」

「今どうするか考えてる……!」

 

 アクアの魔力をめぐみんに流して、爆裂魔法で吹き飛ばすか? 

 やれるかもしれないが、間に合うかどうか分からないので却下。

 

 だが……あれを上にあげるにはさらなる推進力がいる。

 もうミニリパルサー・デプロイヤーは全て使ってしまった。

 

 推進力……推進力……。

 ……あるじゃないか、飛びっきりの推進力が。

 

 

 

 

 

 ──僕だ、僕自身だ。

 

「……いいことを思いついた」

 

 僕は、一歩デストロイヤーに向けて踏み出す。

 そんな僕の背中を見ためぐみんは、その知力の高さを遺憾無く発揮し僕の意図になんとなく気がついたようだ。

 

 流石だな。

 

「……トニー、何をするつもりですか?」

「みんな笑顔のハッピーエンドさ。まぁ、いいからそこで見物してろよ。ヒーローってのがなんなのか見せてやる」

 

 そう言い残し、僕はデストロイヤー目掛けて飛び立った! 

 

『トニー! お願いですから戻ってきてください! 他に手があるはずです!』

「僕でも他に浮かばなかったんだ、君たちがもっといい策を考えつけるとは思えないね」

『トニー、お願いですから……!』

『えっ? お前何してんの? 何するつもりだよ?』

 

 焦るめぐみんと、状況が飲み込めていないカズマの声が響く。

 めぐみんは今にも泣き出しそうな声でカズマに叫んだ。

 

『トニーは自分を推進力にしてデストロイヤーを高高度まで持っていくつもりです!!』

『待て待て待て! トニー! そんなことしたら爆発に巻き込まれるぞ!』

「僕なら大丈夫だ」

『うるせーバカヤロー! いいから戻ってこい、この正義ガチ勢が!!』

「後でな」

 

 うるさいので通信音声をミュートにし、デストロイヤーの下へと潜り込む。

 

 さぁ、最後の仕上げだ。

 後のことは考えない。反動は覚悟の上で、スーツの出力ををフルパワーにして持ち上げる。

 

 グンッとデストロイヤーの機体が上へと動き、高度が上がり始めた。

 

【エネルギー量 10%以下】

 

『ボス……帰還するのに必要なエネルギーが足りません』

「構うもんか」

 

 みるみる下の景色が遠ざかっていく。

 そして、それに伴ってデストロイヤーの振動も増してきた。

 

 内部の熱エネルギーも相当なものになっている。

 もういつ爆発してもおかしくない。

 

 そんなデストロイヤーをチラリとみやり、僕は皮肉げに笑う。

 

 通った後にはアクシズ教徒しか残さないデストロイヤーか……。

 

 

 

 

 

 AND I (なら)…………

 

 

 AM(私は)……

 

 

 

 

 

 

 

 

 IRON MAN(アイアンマンだ)

 

 

 

 デストロイヤーの振動が一瞬止まったその直後。

 凄まじい轟音と共に目の前が白く染まり──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──スーツの遠隔操作が切断された。

 

「ふぅ……これで転生する前に作ったスーツ全てともお別れか。まぁ、デストロイヤーの設計図が手に入ったんだ、これくらいは安いな」

『ええ。ですが……』

「なんだ?」

『私、何かものすごく嫌な予感がします……』

「どうして? 後はギルドでパーッと宴会するだけだろ?」

 

 おかしなことを言い出したフライデーに、そう冗談めかして笑う。

 

 きっと今頃、カズマ達はテレポートでアクセルにでも戻っているだろう。

 スーツが無くなった僕はギルドの酒場まで歩いていかなきゃならない。

 アクアが我慢できずに先に飲み会を始めてなければいいが。

 

 完全勝利の余韻に浸りながら、僕は上機嫌に鼻歌交じりにギルドへと向かった。

 

 

 ▽

 

 

 あのクソ野郎。

 どうして勝手なマネばかりするんだ。

 

 カッコつけてるつもりなのか。

 映画の主役のつもりなのか。

 

「あの……大馬鹿……ヤロ゛ぉ……!!」

「グスッ……うあぁぁ……こんなの……あんまりですよ……」

 

 アクセルに指一本触れさせること無く、俺達はトニーの宣言通りにデストロイヤー相手に完全勝利を収めた。

 ……だというのに、何一つそんな実感はわかない。

 

 足取りは重く、顔は下を向いている。

 グスグスと鼻を鳴らしながら、デストロイヤー討伐の報告をするためギルドへと向かっていた。

 

「どうしてですか……どうしてトニーが死ななくちゃいけないんですか……!」

 

 先程からめぐみんはずっとあんな調子だ。

 俺だって今にも地面にうずくまって泣き出したい。

 

 ──仲間を失う。

 

 この世知辛い世界、冒険者にとってこれは珍しい話ではない。

 でも、それにしたって……こんなに辛いだなんて。

 

「エリス様……どうか、すべてを救ったかの英雄に……魂の安寧を……」

「トニー……グスッ……仲良くなったのに……もっと一緒にしゃべってお酒飲みたかったのに……」

「彼ほど世の為人の為に動いた冒険者……いえ、勇者はいませんでした……どうか、安らかに眠ってほしいですね……」

 

 ダクネス、アクア、ウィズ……。

 みんなトニーが消えていった空を一度眺め、そして涙をこぼして彼の死を嘆いた。

 

 やがてギルドに付くと、そこには大勢の冒険者たちと受付嬢が神妙な顔つきで待っていた。

 そこに現れた俺達の姿に、どうやら勝利を確信したようだ。

 

「おい……やったのか? あのデストロイヤーを?」

「……ああ」

 

「「「うおおおおーっ! すげぇええーっ!!」」」

 

 その言葉に、ギルドの中がワッと沸き立つ。

 受付嬢も胸をなでおろしていた。

 

 しかし、冒険者の一人がすぐれない顔色の俺達を見て違和感を感じとったのか……。

 

「な、なぁ……あの空飛ぶ鎧の男はどうしたんだよ?」

「…………」

 

 ギルドの中が静まり返る。

 皆気が付いたのだろう。デストロイヤーを打ち破り、街を救ったのに誰も笑わず、ただひたすら押し黙る俺達の姿を見て。

 

「う、嘘だよな……?」

「トニーは……死んだよ……自分の身を犠牲にして、デストロイヤーを……ッ……破壊したんだっ……」

「そんな‥‥……」

 

 こらえ切れずにあふれた涙を袖で拭う。

 

 クソ、とてもじゃないが祝う気分になんてなれない。

 俺の後ろにいる仲間たちもただずっと黙っていた。

 

 そんな中で、冒険者の一人が悲し気な顔を浮かべながら、俺達にコップ一杯の酒を出してきた。

 

「追悼し、乾杯しよう。あいつもそれを喜ぶぜ、きっと」

「……かもな」

 

 冒険者はお酒を俺に手渡し、それを見た他の冒険者やギルドの職員たちもお酒を用意して皆に手渡していく。

 全員にお酒が回ると、みんなが俺を見てきた。乾杯の音頭を取れと言うことなのだろう。

 

 ……トニー、お前のことは決して忘れないよ。

 あの時ヒーローとして踏み出したその背中を思い浮かべて、俺はコップを掲げ。

 

「それじゃあ……ヒーローに」

 

「「「ヒーローに」」」

 

 皆もコップを掲げ、トニーの死を偲んで。

 

「かんぱ……」

 

 その時だった。

 ギルドのドアが開く音が乾杯の音頭を遮った。

 

 一体誰だとそっちに顔を向けてみると、そこには……。

 

 

 

 

「Huh……注ぎたてのお酒と勝利の匂い……で、僕の分は?」

 

 いつもの飄々とした笑みで立つ、トニーの姿があった。

 

 ……は? 

 

「どうしたんだみんな? なんでそんな顔し」

「ゴッドブロー!!」

「ぐあああああああ」

 

 なんでと声をかけようとした俺の横をアクアが猛スピードで通り抜け、トニーのみぞおちに光る拳をねじ込んだ。

 ぶっとんでったトニーは入ってきたギルドのドアから外へと飛んで転がる。

 

「大変! トニーが、トニーがアンデッドになって出てきちゃったわ!」

 

 腹を抑えながら立ち上がったトニーは、そのままヨロヨロと俺達の方へと向かってきて。

 

「おい、状況を説明しろよ……ダクネスと趣味が同じになった覚えはないぞ……」

 

 状況に思考が全く追いつかない。

 他のみんなも同様のようだ。ただただポカンとトニーを見ている。

 

 アクアはトニーの前に立つと、目から涙をこぼしてトニーの手をギュッと握った。

 

「トニー……あなたはもう……ここにいちゃ駄目なの……行くべきところに行かなくちゃいけないの……」

「は?」

「だから……だからね゛……っ?」

 

 握りしめている手が淡く光り、アクアの顔が優し気な……まさに女神と言った表情に変わって。

 

「貴方を今ここで……天界へと送ります。トニー、ありがとね? そしてさようなら……『セイクリッド」

「おい待て」

「いだいっ!?」

 

 トニーがアクアの額にデコピン食らわせた。

 痛そうな音がギルドに響く。

 

「なぁ、感動的な雰囲気だしてるところ悪いんだが、一体君たちは何をしてるんだ? 演劇の練習か?」

「あ、あれっ!? なんで……というか、あれ? アンデッドじゃない……?」

「僕の目を見ろよ……死んだ目に見えるのか?」

「うーん、一応死んだような目をしてるけど、曇りなき眼でみた限り、ちゃんと人間みたいね……」

「そのガラス玉、あとで取り出してクリーナーで磨いとけ。ったく……」

 

 

「説明してくださいよ」

 

 低く、怒りをこらえているように唸るめぐみんの声。

 これまでずっと黙っていたが、俺も喋ってもいいだろうか。

 

 そろそろ我慢の限界だ。

 

「説明? なんの説明だ? 説明ならこっちがしてもらいたいね。勝利の宴会を開こうとここまで歩いてきたら、そこの狂犬にいきなり腹を殴られて、アンデッド扱いされたんだからな!」

「何で生きてるのか説明してくださいよ!!」

 

 そう怒鳴ってにらみつけるめぐみんを見て、トニーも訝し気に顔をしかめた。

 

「……何そんな目を真っ赤にして怒っているんだ?」

「トニー、お前はデストロイヤーを空まで運び、爆発と共に死んだはずだろう……? なぜここにいるのだ?」

 

 俺も一歩前にでて、トニーを睨む。

 どういう事情か知らないが、こっちは大変だったんだぞ。

 

 これでいつもの冗談とか抜かしたらマジでボコボコにしてパーティーから追い出してやろう。

 

 俺は煮えたぎり始めた怒りを何とか抑えながらトニーに問う。

 

「一から……十まで……きっちり話せ……」

 

 そんな俺の怒りがにじみ出た声に対し、トニーは何を言ってるんだと言った表情のまま。

 

「生きてるも何も、あそこにいたのはスーツだけだ。僕自身はラボにいて、スーツを遠隔操作してた」

「……は?」

「あの時使ったミニリパルサー・デプロイヤー。あれの調整をラボでしながら戦ってたんだよ、少しでも早く用意できるようにね」

「「「は?」」」

 

 怒りに震える俺達の顔を見て、とうとうトニーも今の状況に気が付いたようだ。

 汗をにじませ、一歩後ろに後ずさりながら。

 

「……このこと話してなかっ」

「「うおらあああああーっ!!」」

 

 俺とめぐみんのタックルを喰らい、再びトニーはギルドの外へと吹っ飛んでいった。

 

 追い打ちの為に飛び出した俺達の背中を、アクアとダクネスも追いかけてくる。

 

「てめーざけんなよ! マジでふざけんなよ! 俺の涙を返せよ! そこまでしてイカした演出とやらがしたいのか! この野郎!!」

「貴様、あんな紛らわしい言い方しておいて実は生きていただと!? どれだけ悲しんだのかわかっているのか!? ぶっ殺してやる!!」

「ねぇ返して! あの時の気持ちを返してよ! もうトニーが物作りしてる時に指切っても回復魔法かけてあげないんだからね!」

「あ、あのー……それくらいに……」

 

 ボコボコと蹴りまわされるトニーが待ったと手を突き出すが、怒れる俺達四人の猛攻は止まらない。

 ウィズの制止ももちろん聞かない。

 

「言葉をつか……うぐっ! おい! 本気で蹴ったな!? わかった、天下のアイアンマンが負けを認めてやる! だから……」

 

 

 

 ▽

 

 

 それからしばらく僕は四人から不当な暴力を受け、ようやく解放された。

 アクアから治癒の魔法を貰い、そして……。

 

「というわけで、ラボにも屋敷にも入れてもらえず、僕はここに来たって訳さ。確かに誤解を与えたのも悪かったが、だからって痛めつけて屋敷から追い出すのはやりすぎだろ……あいつら本当はゴブリンの仲間じゃないのか?」

 

 ……そして、追い出されて泊まる宿もない僕は馬小屋で管理人相手に愚痴っていた。

 

 何処かで見たことあるような、なにかただ者ではなさそうな。

 そんな雰囲気の年老いた管理人はただ黙って僕の愚痴を聞いていた。

 

「まぁ、長々と僕の愚痴を聞いてくれてありがとう。仕事引き留めて悪かったな」

「話の九割くらいは聞いとらんかったから構わんよ」

「そりゃ……正解だな。人の愚痴は聞き流してなんぼだ。ところでじいさん、どこかで会ったか? 具体的には、どこかのプレミアなんかで会った気がするよ」

「さぁのう……ワシみたいな顔の老人など、どこにでもおると思おうが……」

 

 そう言って新しい藁を馬の元へと運ぶ年老いた管理人。

 その背中からはただ者じゃない雰囲気が出ているのだが……。

 

 僕はそんな管理人にまた話しかける。

 

「なぁ、毎日こうやって冒険者の話を聞いたりするのか?」

「まぁのう。ここでしがない馬小屋の管理人をして、たまーにこうして冒険者の話を聞いておる。その話を元に漫画でも書こうかなんて思っておるよ」

「いいね、きっと売れるさ。そのうち僕の話もしてやるよ。それじゃ、僕は五度目の謝罪に行ってくる。これで駄目だったら、いよいよもって晩飯抜きの馬小屋生活が始まる。藁が食べれる君が羨ましいよ」

 

 そう冗談めかして馬の頭をなでる。

 不機嫌そうにブルルと唸った馬の声を背に、馬小屋から出ると。

 

 カズマ達四人が並んで立っていた。

 

「あー……いまからまた君達の元へと謝りに行こうと思ってたんだ。ほら、そこのパン屋に寄ってハンバーガーでも買ってからね」

「もうバカな真似しませんか?」

 

 めぐみんがジトっとした目を向けてそう言ってきた。

 前ほどの怒りはもう感じない。

 

 続いてダクネスが。

 

「流石に締め出すのも悪いと思ってな……もうこんなこと二度としないなら戻してやろうって話になったんだ」

「戻してやろうってなんだ。なんでそんな上から目線なんだ? 屋敷はまだしもラボは僕の家だし、君たちが勝手に誤解……」

「そうか、じゃぁな。みんな、屋敷に戻ろうぜ。今日は霜降り赤ガニを食べよう」

「はいはい、わかった! 悪かったよ……もう二度としない。これで良いか?」

 

 カニをちらつかせるとは味な真似してくるじゃないか。

 

「よくできました! ちゃんと謝れて偉いわね!」

 

 謝った僕の頭を、アクアが背伸びしてなでてくる。

 なんか無性にイラッと来るが、今ここで波風を立てるわけにもいかないので、黙ってなでられてやる。

 

「さっ……帰りますよ、トニー。ですが、その前に……」

 

 僕は乱れたヘアスタイルを自分の手でセットしなおしながら。

 

「なんだ? 帰る為には歌って踊れとでも言うつもりか?」

「おい、それ以上皮肉を言うなら本当に締め出しますよ。……一つだけ聞きたいのです。もしあの時、遠隔操作ではなく実際にスーツの中に入っていたとしてら……それでも、トニーは今回と同じ選択肢を取りますか?」

「……かもな」

 

 あっさりとそう言った僕だが、めぐみんはそんな答えは分かっていたとでも言わんばかりにフッとあきらめたかのように笑い。

 

「そう言うと思ってましたよ……ヒーローですもんね。ですが、これだけは忘れないでください」

 

 めぐみんは、控えめに一歩だけ僕に近づき、悲し気な顔を見せないように帽子を目深にかぶって。

 

「あなたは言いましたよね? 『みんな笑顔のハッピーエンド』って……私達、笑ってないですよ、ヒーロー……」

 

 震える声で小さくそうつぶやいた。

 

「……悪かった、ゴメンな」

「じゃぁ、今度こそ帰りましょう。今晩は美味しいものにしましょう、カニは前食べたので何か別のものを……」

 

 ペッパーにも、何度も似たようなことを言われたのを僕は思い出した。

 ヒーローとしてやるべきことを成すのも大切だが、自分の身を案じてくれる人たちのことももう少し考えるべきかもしれない。

 

 少し考え方を変えるべきかなと、心でそう思いながら。

 

 

 馬小屋の藁に寝そべって固まって体をグッと伸ばして、今日の晩御飯の想いを馳せ──

 

 

 

 

 

 

 ──ガチャリ。

 

 そんな、無機質な音と共に、僕の腕に何か冷たいものがはめられた。

 

 なんだと目を自分の腕に向けてみると、そこには手錠が鈍い輝きを放っていた。

 手錠をはめてきたのは、ガタイの良い全身を鎧に包んだ兵士。

 

 状況をよく呑み込めない。

 今日二回目だ。

 

 兵士たちの間から、黒髪の女性が出てくる。

 

 その女性の目は、まるで親の敵でも見るかのような冷たいまなざしをしていた。

 

「冒険者、トニー・スターク! 貴様には現在、国家反逆罪の容疑が掛けられている! 私と共に来てもらおうか!!」

「What the F──」

 

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