この素晴らしい世界に祝福を!アナザー・ユニバース・アイアンマン   作:Tony.Stank

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第3話 演出は大事

 ──ラボ。

 

 僕の元の世界にあった、アベンジャーズタワーの上十階部分。

 スーツの開発はもちろん、アベンジャーズのメンバーの装備品といったアイテムもここで作られている。最近NY州北部に新しい拠点ができたが。

 この世の科学技術の全てがあると言っても過言ではない、まさに未来そのもの。

 僕がアクアに用意させた特典だ。

 まるまる持って来ようとすると、その時中にいた人間だとかにどんな影響が出るか分かったもんじゃなかったので複製してここに呼び出すという形になった。

 中を掃除してた清掃員や研究者の足場が急になくなって地面に真っ逆さまとか笑えない。

 科学の施設を魔法で用意させるという何とも皮肉な展開になったわけだが……。

 それでもこのラボは欲しかったし、この魔法の世界で現に必要になった。

 魔法的な存在の研究は初めてじゃない、そのうちここでコーヒー飲みながら突き止めるとしよう。

 

 

「フライデー、設備の全チェックだ。異常が無いか調べろ」

『了解しました』

 

 念のため、フライデーに全システムをチェックさせる。

 元々は僕が作ったものがほとんどだとはいえ、魔法で複製されてるなら何かしら本物と違いがあったりするかもしれない。

 

『チェック中‥‥少々お待ちください』

 

 フライデーはジャーヴィスのアップグレード版だ。今はまだ産まれたばかりで学習することが多いが、そのうち皮肉も言えるようになるだろう。

 とはいえ、さすがに全システムのチェックには時間がかかるため、ダクネスとクリスをラウンジまで案内して適当な飲み物を出してやる。

 

「あ、どうも……にしても、すっごいなぁここ……」

 

 緊張してるのか、若干よそよそしくなったクリス。ていうか、君も手伝っていただろうに。これは演技なのか? 

 ダクネスにいたってはずっとソワソワしてて挙動不審だ。

 クリスに質問したいことがあるし、ダクネスにはその辺をぶらぶらしててもらおう。

 

「ダクネス、気になるなら好きに回ってていいぞ。君に一時的にアクセス権限をやる。ある程度の部屋には入れるようにしといてやるから、自由に見て回れ」

「いいのか!? あ、あくせす権限というのはよくわからないが、礼を言う。ではクリス、私はちょっとその辺を回ってくる!」

「あ、うん。いってらっしゃい!」

 

 笑顔で立ち去っていくダクネス。遊園地に来た子供のように早歩きだ。

 僕の作ったスーツや武器が気になるんだろう。剣の類はないが、防具関連は色々あるのできっと満足するはずだ。

 

 ダクネスがラウンジを出て行った辺りで、クリスの方を向く。

 もう落ち着いてきた頃だろう。僕はクリスの顔を見て、いたずらっぽく首を曲げながら質問を始める。

 

「……で、君は何でここにいるんだ?」

「まぁ、そう思うよね……ついさっきまで天界にいたんだし」

 

 といって、苦笑を浮かべるクリス。

 その表情のまま、彼女は話を続けた。

 

「実は創造神様からトニーの様子を見ておくようにって命令されてたんだ」

「……創造神?」

「そっ。あたしたちの一番トップ」

「つまり椅子にふんぞり返って偉そうにしてるやつってことだな?」

「そんなことはないんじゃいかな!?」

 

 僕の皮肉に突っ込むクリス。

 上司を馬鹿にされるのは彼女にとって面白くなかったかもしれない。

 クリスは指をピッと立てて僕を諭すようにフォローを入れる。

 

「偉そうで何もしてないように見えて、実は忙しいんだよ? ほら、トニーだって会社でトップやってた頃は忙しかったでしょ?」

「飲んだくれて女をとっかえひっかえして秘書を呆れさせて大発明して会社の株を上げてたよ」

「ごめん、あたしが悪かった。今の話は忘れて」

 

 質問に答えただけなのにクリスは冷めた目で僕を見て質問を切り上げる。

 ‥‥‥もうしてないんだが。

 

「話を戻すね。アクアさんの話にも出てたと思うけど、トニーはとある計画の候補者第一号なんだ」

 

 そう言えば、アクアが計画だの候補者だの言ってた気がする。

 

「その名も英雄譚の第二幕計画(SECOND LEGEND PROJECT)

「しゃれてる」

「ねっ!」

 

 この計画名を気に入っているのか、クリスは僕の率直な感想に笑顔で同調する。

 しかし、候補者第一号か……。

 

「それで、そのしゃれた計画の候補者第一号の様子を観察するために君は僕に接触してきたのか?」

「そういうこと。まぁ、他にもあるんだけど……」

 

 だろうな。僕の観察の為だけに来てたんだったら、この世界の住人であるダクネスと交流があるはずがない。

 人間ではないエリスが、わざわざ人間のフリまでしてこの世界で何をしているのか。僕は純粋に疑問に思っていた。

 

「よかったら聞かせてくれないか?」

「‥‥‥」

 

 僕のその質問に、少し沈黙し……。

 

「仲間が欲しいって……教会で願い続けたとある女の子の願いをかなえるためかな……」

 

 クリスはそう言って少し恥ずかしそうに顔を赤らめて、顔の傷跡をポリポリと掻いた。

 ‥‥‥‥‥‥。

 

 この世界に来て、今に至るまでに分かったことの一つとして、エリスは僕の世界で言うところのイエス・キリスト以上の扱いを受けているという所がある。

 国教として崇拝され、街のいたるところに教会があり、果ては通貨にまでなっている。

 そんな彼女が、一人の信者の願いを叶えるために地上まで下りていた。

 

「‥‥ファンサービスが手厚いな、君は」

「う……うぅ……」

 

 そんな彼女を、尊敬と若干の呆れが混じった目で眺めている時だった。

 

 

 僕らから十メートル程離れたところにあった壁が、盛大に爆発した。

 

「「!?」」

 

 爆発した方角から黒い影が飛び出し、僕とクリスの間にあったガラステーブルの上に叩きつけられる。

 テーブル部分のガラスが砕け散り、残った金属フレームの枠組みに、バスタブに浸かる貴婦人がごとくすっぽり仰向けで腰からはまっていたその黒い影は……。

 

「……その女の子ってのはこいつのことか?」

「うん‥‥‥」

 

 爆発した壁から吹き飛んできた黒い影、ダクネスを見て。

 クリスはさっきとは違う意味で顔を真っ赤にして、耐えられないとばかりにその真っ赤な顔を両手で覆った。

 僕も呆れるあまり片手で顔を覆ってため息をつく。

 

 本人であるダクネスは、フレームの枠組みにもたれかかったまま喜悦の表情を浮かべて息を荒げていた。

 

 

 ▽

 

 

 フライデーのシステムチェックを終え、なんの異常もないことを確認した後。

 

「すまなかった。この壁は弁償する」

 

 女騎士モードのダクネスが、正座しながら真面目な顔でそう言ってくる。

 もうその凛とした化けの皮には騙されないぞ。

 

「大体君は何してたんだ? 何をどうしたら大事な話してる中に爆発しながら突っ込んでこれるんだ?」

「本当だよ。一体なにがあったの?」

「いや、それが……見たこともない球状の魔道具を見つけてだな……どう使うのかと触っていたら……」

 

 そう言ってダクネスが懐から出したのは……。

 

 魔性の女スパイ、ブラック・ウィドウことナターシャ・ロマノフの為に設計したグレネードだった。

 ゴルフボールほどのサイズでありながら、威力は普通のグレネードとは比較にならないくらいの高さを持つ代物だ。それこそ、このラボの壁をたやすく吹っ飛ばすほどには。

 本来なら敵の重要拠点にこっそり持ち運んで爆破する破壊工作用アイテムなのだが‥‥。

 

「……なぁ、それ君の手元で爆発させたんだよな?」

「そうだが……」

「君はバター代わりに溶かした鉄でもパンに塗りたくって食べているのか?」

「わ、私を溶岩系モンスターと一緒にするな! ただ、他人よりも防御力のステータスが秀でているだけだ!」

 

 ドン引きだ。ステータス上昇による防御力強化というのは、ここまでの力を発揮するものなのか。

 ‥‥先が思いやられるな。やはり、この世界の仕組みについて深く勉強しなくてはならないようだ。

 

「君が何系のモンスターだろうと別にどうでもいいが、僕のものを勝手にいじくりまわすな。取り返しのつかないことになったらどうするつもりだったんだ?」

「す、すまない……しかし、トニーの皮肉は気持ちいいのだが、さすがにモンスター扱いはやめてほしい‥‥」

 

 僕の説教にしゅんと縮こまるダクネス。

 それを聞いたクリスは僕にジトッとした目を向けながら。

 

「そもそも爆発物のある部屋に勝手に入れるようにするのも問題だと思うんだけど……」

「‥‥‥」

 

 一理ある。

 クリスの理路整然とした意見に舌を巻いていたが、ここでもう一つ聞きたい事を思い出す。

 情報をどこで手に入れられるかだ。

 

「まぁ、その話は置いておくとして……僕はこの国のことを全く知らない。どこかで情報収集ができそうなところはないか?」

「情報収集かぁ……何について知りたいの?」

 

 地面に散らばるガラス片を足で掃きながら、クリスが聞いてくる。

 

「魔法、この国に生息する生物、文明レベル……特に魔法関連を詳しく知りたい」

「魔法関連……ならば、紅魔の里に行ってはどうだ?」

「紅魔の里?」

 

 オウム返しにダクネスに尋ねる僕に。

 ダクネスは煤だらけの体を払いながら立ち上がり。

 

「紅魔の里とは、住民全員が高い魔力と知力を持って生まれ、魔法職の中で最強の火力を誇るアークウィザードの適性がある小さな集落だ。全員真っ赤な瞳に黒髪なのが特徴で、一人一人が尋常じゃない戦闘力を持つ」

「強力なモンスターが近くに生息してたり、魔王軍の拠点が近かったりで、危険なところにある村なんだけど、そういう理由で魔王軍が近寄れないんだよね。全員返り討ちにあってるんだ」

「魔法使いの戦闘民族……面白そうだな。興味がそそられる」

 

 クリスが懐から紙を取り出し、ササッと何かを書いて僕に渡す。

 

「……これは?」

「これは紅魔の里がある方角を書いた地図。どうせすぐ飛んでいくんでしょ?」

「あー‥‥できればそうしたいところなんだが……」

 

 言葉を詰まらせる僕に不思議そうな顔を向けてくる二人。

 もちろん、紅魔の里にはすぐにでも行きたい。きっと魔法に関する書物もたくさんある事だろう。

 里に行ったら書物を余すことなく読むつもりだ。

 だが、そうなるとその里に長い間とどまることになる。そのためには必要なものがあり。

 

「‥‥先立つものがいる」

「あー……」

 

 深刻そうな顔をする僕に、少し申し訳なさそうな顔をむけるクリス。

 だが、ダクネスはさらに不思議そうな顔をしながら。

 

「こんなすごい別荘があるというのに、金欠なのか……?」

「僕の国の金はここじゃ使えなくてね。換金所もないと来た。この国じゃ無一文なんだよ」

 

 僕のその言葉に、ダクネスが唸ると。

 

「なら、明日も明後日もクエストに行こうではないか。金ならそこで稼げばいい」

「‥‥それって君も一緒が前提で話しているのか?」

「だ……駄目だろうか……?」

 

 いやそうな僕の顔を見たダクネスが、不機嫌そうな親におもちゃをねだる子供のように、不安と期待が混じった表情で上目遣いに僕を見てくる。

 その表情は、ひどい目にあわされることを期待している顔ではなく、みんなとの旅を楽しみたいという顔で。

 少し眉をひそめながらクリスに顔を向けると、微笑みながらダクネスを顎でさした。『かける言葉は分かっているよね?』と言われてるような気がする。

 別に、ここにあるものを何か売ってもいいのだが‥‥‥。

 

 ‥‥‥。

 

「ハァ……。そうだな……壁に穴を開けた分、君には働いてもらわなきゃな」

 

 仲間が欲しいと願う少女のために地上に降りた女神を見習うとしよう。

 

 僕の言葉にダクネスは顔を輝かせ……いや、情欲にまみれた顔をしながら。

 

「つ、つまり体で支払えというのだな!? 一体私はどんな目に」

「君の仕事は、今からおうちに帰って二度と出てこないことだ」

「悪かった! 悪かったからそんなこと言わないでくれ!」

 

 そんなやり取りを見て、クリスは楽しそうに笑っていた。

 

 こうして、元の世界で話したら爆笑必須の珍妙なチーム……いや、パーティーが出来上がった。

 

 

 ▽

 

 

 パーティー結成から一週間後。

 

 ──カーンッ。

 

 ──カーンッ。

 

 それは、熱い鉄をハンマーで打つ音。

 私はトニーがラボと呼ぶ建物のとある一室で、ハンマー片手に鉄と鉄がぶつかり合う金属音を部屋にこだまさせる彼を、クリスと一緒にワクワクした目をしながら見守っていた。

 

 ──カーンッ。

 

 ──カーンッ。

 

 胸元が大きく開き、袖のない妙な黒い服と額に汗をにじませながら、トニーがハンマーを振り下ろす。

 響き渡るその音色は、騎士団の応援隊が打ち鳴らす太鼓よりも、押し寄せてくるモンスターの足音よりも、私の心を奮い立たせる。

 

 パーティー結成から一週間がたち、里に滞在するための資金を貯めるという当初の目的を果たしたトニーは、今日紅魔の里へ旅立つことになった。

 短い間と言えど、一緒にクエストを受けてギルドの酒場で飲み食いしたパーティー仲間のためにと、彼は今こうして置き土産を作ってくれていた。

 あんなすごい鎧を着ていたトニーが、私のために鎧を作ってくれる。これがワクワクせずにいられようか。

 

 ハンマーで大まかな部品を作り、その一つ一つを溶接し、デコボコした継ぎ目を、魔力も無しに高速回転する丸い石板のようなもので削って消していく。

 烈火のごとく飛び散る火花が、見ていて楽しい。

 

「おお……自分の鎧が作られていく様を見るのは、なんともワクワクするな……」

 

 思わず声が漏れる。

 

 そろそろ終盤か、トニーはもう一度鎧を熱して柔らかくし、表面に模様を、裏面に水や高温、強い電流に耐える素材をコーティングした、彼が()()()()と呼んでいた妙な装置と衝撃吸収材を、これまた奇妙な金属製の触手みたいなものを操作して組み込んでいく。

 彼曰く、見た目にも気を使ってこそ一流のプロらしい。

 

 それを板金用の大型挟でつかみ、冷却プールに沈める。

 水が瞬時に蒸発する音が響き、大量の水蒸気が部屋の中に広がって、トニーの姿が見えなくなる。

 

 やがて、水が蒸発する音が消え、さっきまであらゆる音が飛び交っていた部屋を静寂が包み込んだ。

 数秒の静寂の後、ゆっくりとした足音が蒸気の中から聞こえ、人影が浮かび上がり‥‥。

 

「完成だ」

 

 ──カーンッ。

 

 蒸気を振り払い出てきたトニーが、私の目の前にあった机の上にソレを置き、最後に一つ金属音を響かせた。

 

「これは……」

「ひゃぁ……」

 

 鎧には一家言持つ私ですら、思わず生唾を飲み込むほどの鎧。その手のものには詳しくないクリスですら、顔に驚愕の表情を浮かべていた。

 いや、果たして鎧と呼ぶべきなのだろうか……? ソレは、形こそ鎧であるものの、表面にはまるで浮かび上がる葉脈のように整った光の線が、何かを循環させているかのように走っていた。

 

「試着室に案内しようか?」

 

 ニヤリと笑いを浮かべるトニー。

 もちろん決まっている。

 

「是非頼む!」

 

 

 ▽

 

 

 試作した武器を試したり、九十代の盾を背負った年寄りがリハビリに使ったりする、上にも横にもだだっ広い部屋の真ん中に、ワクワクした顔のダクネスを立たせ。

 僕はコーヒー片手にガラス一枚隔てた向こうの彼女と、目の前のモニターに映る計測器の様子を眺める。

 

「ねぇ、いったいどんな鎧を作ったの?」

 

 隣から声をかけてきたクリスに。

 

「それは見てからのお楽しみだ。まぁ、彼女の弱点を克服した逸品とだけ言っておくよ」

「ほほぉー……」

 

 クリスのアメジスト色のきれいな瞳が輝きを増す。

 彼女にも用意したプレゼントを渡す時が楽しみだ。

 

「さてダクネス。着心地は?」

『あれだけ色々組み込んでいたのに、まるで重さを感じない。以前着ていた鎧とは大違いだ』

 

 僕がマイク越しにダクネスに尋ねると、体を軽めに動かしたダクネスからスピーカー越しに答えが返ってくる。

 

 今僕とクリスがいるのは、部屋のいろんな装置を制御するための部屋だ。

 制御室は少し高いところにあり、この試作部屋兼トレーニングルーム全体を見果たせるようになっている。

 

「それじゃテストその一。右手側面の人差し指の付け根辺りにボタンがあるのがわかるか?」

『ああ、確認した』

 

 ダクネスは自分の右手を目の前まで持ってきて、ボタンを確認する。

 

「それを押してみろ。押すときには、自分の胸の前に腕を持っていくなよ? それと、衝撃に備えて踏ん張っておけ」

『了解した。‥‥‥衝撃?』

 

 訝しみながらも、僕の指示通りに彼女が右手のボタンを押すと……。

 

『ッ!?』

 

 鎧の胸部からモニター越しでもはっきり見えるほどの衝撃波が飛び出し、床にわずかに積もっていたチリや埃が空中に舞い散る。

 

『ト、トニー! なんか出てきたぞ! なんだこれは!?』

「『ソニックバースト』だ。まともに食らえば、大型の牛も吹っ飛ぶぞ」

「……オーバー過ぎない?」

「大は小を兼ねる」

 

 クエストに行ってる途中に発覚したのだが、ダクネスはまともに攻撃が当てることができなかったのだ。

 その剣の腕たるや、クリスがバインドという縄で相手を拘束する魔法で動きを封じたモンスターにさえ、たまに攻撃を外す始末。

 ダクネスの名前の由来は、前が見えなくなって攻撃が当たらなくなるDarkness(暗闇)という、状態異常の名前からきているのだろう。

 そう解釈してしまうくらいには、彼女は剣の命中率が酷い。

 

 彼女曰く、剣の命中率が上がるスキルにポイントを振ってないからだそうだが、理由を尋ねると『必死に攻撃しても攻撃が届くことなく蹂躙されるのが気持ちいいから』という脳みそがプラズマ廃液なんかで汚染されているとしか思えない答えが返ってきたので、途中から聞くのをやめた。というかあきらめた。

 

 そんな()()()()()()()()()()の為に作った装備がこれ。

 ダクネスは、攻撃ができなくても敵を掴んで抑えることくらいはできる。

 なので、抑え込んだ状態から攻撃すれば必中させられると考え、胸から衝撃波を発生させて敵を吹き飛ばす防具を作った。

 機能はこれくらいしかないが、三日四日じゃこの程度が限界だ。

 

「感想は?」

『‥‥なんか、私が望むシチュエーションに二度と会えなくなってしまいそうな防具だ‥‥』

 

 ダクネスは、そんな嬉しさと残念そうな声色で感想を述べた。

 なんて作り甲斐のない……。

 

 

 ▽

 

 

 ダクネスの防具の試着と性能テストを終え、いよいよ僕は里へ向かう準備を整えて、ラボへとつながる小屋の外で、スーツを着てダクネスとクリスに向き合う。

 

「そろそろご退場の時間だ。僕がいないと泣いちゃう?」

「ああ、寂しくなる。わずかな間だったが、あなたとのクエストはとても楽しかったぞ。特に、攻撃を外すたびに浴びせてくる皮肉なんかが……」

「ダクネス、ストップ」

 

 クリスがダクネスにストップをかけ、ダクネスがコホンと一つ咳払いをして自分の世界から戻ってくる。

 この女は別れの場面だというのにフリーダムすぎる。

 

「あれっ、トニー、そのワイヤーは何?」

 

 僕が手に持っているワイヤーに気が付いたクリスが僕に尋ねてくる。

 ようやく気が付いたか。

 

 僕はわざとらしく、思い出したかのような顔をしながら。

 

「‥‥あっ、これの事? ダクネスだけにあげるのは不公平だと思って、君に作った置き土産だ。忘れてたよ」

「ほ、ほんと!? やった!」

 

 満面の笑みのクリスに、三本のワイヤーを軽く放り投げる。

 クリスは抱きとめるようにキャッチして。

 

「わっと。これは……バインド用のワイヤー?」

「その通り。太陽光充電式エレクトリックワイヤーだ」

「えれ……何?」

 

 初めて聞く単語に首をかしげるクリス。

 ナターシャが使っていた『ウィドウズ・バイト』という、相手に電気ショックを与えるスタングローブを応用して作った。

 

「ワイヤーの端にある留め具に付いてるボタンを押してから数秒するとワイヤーに超高圧の電流が流れる。ボタンを押してからバインドを食らわせてやれば、それだけで攻撃になるぞ」

 

 ダクネスとクリスのコンビでは、クリスがダガーで切り付けるか、クリスが縛った敵をダクネスが攻撃するなど、まともな攻撃手段が無い為、少しでも火力が上がるように作った装備だ。

 

「ありがとう! これは大事に」

「ク、クリス‥‥それ、まだ試してないだろう? どうだ? 私でため」

「さないよ?」

 

 しょんぼりと肩を下ろすダクネス。

 装備を作っておいてなんだが、よくこれでコンビ解消しないなとクリスに感心する。

 

 僕はフライトシステムをオンラインにして。

 

「それじゃ、今度こそ別れの時間だ。クエストを終えた後に君たちと談笑しながら飲む酒は……まぁ、安酒ながらも悪くなかったよ」

「まったく、お前は最後くらい素直に別れの挨拶をいえないのか?」

「そういうあんたは最後くらい発情を抑えることはできないのか?」

「んなっ……!?」

 

 性騎士を一瞬で涙目にして、へっとほくそ笑む。

 

「それじゃぁねトニー。これは大事に使うよ」

「ちょくちょく戻るから、その時に渡せばメンテナンスしてやるよ」

 

 そう、別に完全に離れるわけではないのだ。

 スーツという機動力のある足があるので、離れていてもすぐに戻ってこれる。

 だがまぁ、しばらくは里に滞在することになると思うので、お別れっちゃお別れだ。

 僕の作った装備で活躍する彼女たちがすぐに見れないのが残念だが、それはまた別の機会ということで。

 

「次会う時には‥‥仲間が増えてると良いな、ダクネス。女神エリスのご加護を!」

「ああ、トニーにも女神エリスのご加護を!」

「あ、あはは……」

 

 僕は、手を振るダクネスと、伝わる人……いや、伝わる女神にしか伝わらない僕のジョークに苦々しい顔をしたクリスを交互に見ながらマスクを閉じ。

 

 紅魔の里へ向けて空へと飛び立った。

 

 

 

 

 ▽

 

 

 飛行を始めてから十分近く。クリス曰くテレポート屋と徒歩で向かって丸一日以上かかるみたいだったが、僕のスーツならこんな程度だ。

 

『そろそろクリス様の情報にあった紅魔の里が見えてくるはずです』

「了解、住民を刺激しないように、近くで着陸してから‥‥」

 

 そこまで言った時だった。

 空の上から、地上で様々な色の光が点滅しているのが見えた。

 爆炎のような炎が吹き上げたかと思えば、稲妻が地上を駆け巡っている。

 どんな超常現象だ‥‥? 

 

 HUDのズーム機能を使って何が起きているのか確認する。

 見えたのは……。

 

「あれが魔法か……!」

 

 拡大した画面に映っていたのは、黒いライダースーツのようなツナギを着て、指ぬきグローブをはめている男や、黒いローブに身をまとった女、それぞれ変わった衣装をしながらも、全員共通で深紅の瞳をした四人の人間だった。

 ダクネスが言っていた特徴と一致する。彼らが紅魔族だろう。

 

 たった四人にも関わらず、何か鬼みたいな見た目をした百体以上の部隊相手に無双している。持っている武器に魔王軍の紋章が彫られていることから、蹴散らされているのは魔王軍だろう。この一週間で多少は調べたんだ、間違いない。

 情報にあった高い戦闘力というのも納得だ。彼らが居たら、三年前のNY決戦もだいぶ楽になっていただろうな。

 

 苦戦のくの字もしてないが、このまま無視して行くわけにもいかない。

 すでに半分近くの部隊が倒されているし撤退を始めているが、僕は敵部隊めがけて一気に急降下を始めた。

 

 音速超えて地表まで接近し、撤退する敵部隊の真正面にガンッと拳を突き立てて着地する。

 走って逃げていた鬼の部隊はその場で急ブレーキし。

 

「おっ……おわあああああああ!? な、なんだこいつ!? 空から降ってきたぞ!」

「おい! 止まるな! 後ろから紅魔族が来……ぎゃぁぁあああっ!」

 

 なにか言いかけていたが、僕が肩部から射出したミサイルでまとめて消し飛んだ。

 最後まで話を聞いて情報を集めるべきだったか。

 

「ば、爆発魔法だ! こいつ、爆発魔法を使ってくるぞ! 全員散らばれぇ!」

 

 部隊が一気にパニック状態になり、変なことをのたまいながら四方八方へと蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

 だが、今の爆撃で半分だった部隊がさらに三分の一まで減った。

 ここまでくれば後は的打ちだ。

 

「全員散らばれば、何人かは生きて帰……ぐぎゃぁっ!?」

「おいどうし……ぐはっ!?」

「何が起きてるんだ!? あいつ、爆発魔法使いじゃ‥‥ほぎゃっ!?」

「なんだよあの光線!? 一体なに……ぎゃぁああっ!?」

「俺、入隊するんじゃなかっ‥‥あぼっ!?」

 

 走って逃げる鬼の部隊を、次々と背後からリパルサーで貫いていく。

 こんな障害物もない平原で走ったとこで、逃げ切れるとでも思っているのだろうか。

 

 体に風穴を開けて倒れ伏す鬼の部隊をみて、これで全滅かと辺りを探していると、最後の一人と思わしき鬼が、泣き叫びながら遠くで走っているのが見える。

 あそこまで頑張って逃げたのか。ご苦労さまだ。

 

 背中と足から推進リパルサーを噴射して空へと上がって照準を合わせ、攻撃リパルサーを照射した。

 

 

 

 

 最後の一人のどてっぱらに風穴を開け、部隊を壊滅させたところで先ほどの紅魔族と思わしき四人組が追い付く。

 獲物を取られて怒ってなければいいが。

 

 地上にいた四人が僕を見上げる。その表情は‥‥。

 

 

 マズイ、目が真っ赤に輝いている。比喩とかではなくて本当に目が赤い光を放っている。

 どういう生理現象かは知らないが、とりあえず敵と勘違いされたら困るので、マスクを開けようと‥‥したその時。

 

 

 

「我が名はぶっころりー! 紅魔族随一の靴屋のせがれ。アークウィザードにして、上級魔法を操る者! そこの外の人! ……いや、人かどうかわからないけど、話はできるかな!?」

 

 黒いローブをバサッと翻し、突然そんな自己紹介を始めたぶっころりーとかいう、親のセンスを疑う名前をした男。

 僕が人間だと気づいていないにせよ、魔王軍を倒していた僕を見ていたためか、敵意はないようだ。

 

 さて……摩訶不思議なこの自己紹介にどう返したものか。

 本気で名乗っているのだろうか、はたまた冗談で名乗っているのだろうか。

 

 一秒未満の熟考の後、僕はどう反応するのか決めた。

 

 地上五十センチくらいのところまで下降し、スーツの前面を開いて生身で飛び降り、スタっと華麗に着地。

 そして、大仰に腕を広げて。

 

「私はトニー‥‥。トニー・スタークだ。遠くの国からやってきた、ただの戦う起業家だ」

 

 僕の出した答えは、彼よりカッコつけて名乗る事。

 本気で名乗ったのならこれで対抗。冗談だったとしても、『僕も冗談の挨拶だよ』と返せる。完璧だ。

 

 そんな僕の登場の仕方と自己紹介に、彼らは目をサーチライトのごとく光らせ。

 

「「「「うおおおおおおおおおおーっっ!! かっこいいいいいいいーっ!!」」」」

 

 自分の想像の百倍以上に興奮して絶叫しだした。

 

 

 

 ‥‥‥彼らとは仲良くやれ…そうだ。

 




▽エリス&クリス

▽性格 慈愛に満ち、あきらめない。

▽エリス教のご神体にして、トニーが転生した世界でモンスターに殺された死者の魂を導く女神。
慈愛にあふれており、死者に対して同情し、優しく接する。どこかの宴会芸の女神とは大違いである。
幸運をつかさどる女神らしいが、不幸体質でアクアの仕事を押し付けられ、よく首が回らなっているらしい。

とある任務の為、クリスという盗賊職の人間の姿で地上に降りて活動している。
いつか私の役目が無くなるような平和な世界になってほしいと、心から願いながら。

ダクネス良き親友であり、彼女の性癖を知りながらもクエストに付き合っているその姿はまさに女神様。

だが、悪魔やアンデッドに対してはアクア以上に情け容赦がなく、女神から修羅へと変貌する。
とある悪魔曰く、彼女の持っているダガーからは悪魔を絶対に殺したいという恐るべき怨念を感じるとか。

また、女神に共通することなのかはわからないが、クリスも酒の席ではテンションが高くなる。
控えめな胸を気にしているのか、クリスの姿の時はギルドで牛乳を飲み、エリスとして活動しているときは胸にパッドを入れている。

ちなみに、異性のタイプは『決してあきらめない男』



途中、トニーから視点がダクネスに切り替わりましたが、混乱させてしまったらごめんなさい。
こんな風に視点が切り替わるシーンはこの先何度かあると思います。
できる限りわかりやすく書くつもりですが、わかりにくかったら遠慮なくご指摘ください。
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