この素晴らしい世界に祝福を!アナザー・ユニバース・アイアンマン   作:Tony.Stank

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THE UNBREAKABLE DARKNESS
第34話 ニューラライザー


 スタークが我が屋敷のリフォームを終えたその後。

 新しいベッドの寝心地をしばらく堪能したワシは、とある後処理のために薄暗い地下室へと向かっていた。

 

 階段を下る事に、鼻をつくカビの嫌な匂いが強くなる。

 そして、あの不愉快な音も次第に増してきた。

 

「ヒュー、ヒュー……」

「起きろマクス! 起きろと言っているんだ!」

「どうしたんだい、アルダープ? 僕に用かい?」

 

 蹴りつけて起こした、この気持ちの悪い悪魔。

 恐ろしい程に整った顔立ちに、生気を感じない無表情。

 

 ワシはこいつが気に食わない。

 この先何があってもワシはこの悪魔を好きにはなれんだろう。

 

「用がなければ貴様なんぞに会いにくるものか。願いがあるから来たのだ」

「叶えて欲しい願いははなんだい? 対価をくれるなら僕は何でもするよ! ヒュー、ヒュー!」

 

 この悪魔は馬鹿だ。

 何度願いを叶えても、対価どころか願いを叶えたことすら忘れる。

 そんな馬鹿な悪魔に、ワシは叶えて欲しい願いを告げる。

 

「トニー・スタークという男がいる。このワシに何度も金をせびってくるしつこい男だ。奴の思考を適当にねじ曲げて辻褄を合わせておけ。ワシのために働けたこと自体が報酬だったなり、そのような形でな」

「それは無理だよ、アルダープ……なにか、強い光が邪魔してる……」

「なんだと……? 以前もやっただろうが。それが出来んと?」

「無理……今は、強い光が……無理だよ」

 

 こいつが出来損ないの下級悪魔なのはワシが一番わかっている。

 

 今も願い続けているララティーナを未だにワシの物に出来ないのだから。

 

 だが、こいつが無理だと拒否したのは初めての事だった。

 

 ワシは、命令を無理だと切って捨てられたことにカッと頭に血を昇らせ、思いっきり悪魔を蹴りつける。

 

「貴様に!」

 

 何度も。

 

「拒否権なんぞ!」

 

 何度も。

 

「あるとでも、思って、いるのか!!」

「ヒュー……、ヒュー……、ヒュー……」

 

 蹴られ続けたマクスは、やがてうずくまって動かなくなった。

 荒らげた息を整え、ワシは再びマクスに命令しようと……

 

「…………おいマクス、これはなんだ?」

 

 ……して、マクスの足元に転がっていた小さななにかに気がついた。

 

 それは、先端に球形のガラスがついたペンのような物体。

 見たところ、壊れているようだが……。

 

 マクスはユラユラと揺れながらそれをつまみ上げて。

 

「アルダープ! 誰かにこの部屋をこれで調べられたよ!」

「なっ……!」

 

 その言葉に一気に血の気が引く。

 

「調べられただと!? ここを撮られたとでも言うのか!? 誰にだ!?」

「安心してよアルダープ! 僕の力が干渉して何も見えていないはずだよ! でもいい悪感情だねアルダープ!」

「ふざけるな! この地下室が探られている時点でマズいのだ! なぜひとつの仕事も出来んのだこの能無しが!」

 

 あまりの無能っぷりに腸が煮えくり返りそうだ。

 今はそれどころじゃない、探りを入れてきた者の正体を突き止めて処刑せねば。

 

 いや、というより……この技術力……。

 考えてみれば、寝室に入れたのも奴だけだ。

 

「マクス……これを見つけたのはいつだ?」

「うーん、今日かな? 昨日かな? 一週間前だったかも……覚えてないよアルダープ……でも、きっと最近」

 

 ……こいつに聞いたのが間違いだった。

 だが、これで分かった。

 

 トニー・スタークだ、奴しか考えられない。

 いや、仮に奴では無かったとしても貴族であるワシにはどうとでもできる。

 

「ララティーナ……くくく……お前はもうすぐワシの物になるぞ、ララティーナ……」

 

 これは好機だ。

 

 トニー・スタークを捕え、ワシの元で強制労働させよう。

 奴の技術力を自由に使えれば、こんな出来損ないの悪魔に頼らずとも好き放題出来るだろう。

 

 そして何より、奴はララティーナのパーティー仲間だ。

 命をちらつかせれば取引のカードにだって使えるに違いない。

 

 長く険しく見えた、ララティーナを我が物にするまでの道。

 今以上の富を、権力を。

 この国において絶対的な力を手に入れるまでの道。

 

 全てが一度に手に入りそうなチャンスが転がってきた事に

 思わずくつくつと笑いが込上げる。

 

「ハハハハハ!! ララティーナ! お前はワシの物だ! 絶対に手に入れるぞ! 絶対にだ!!」

「ヒュー、ヒュー! 楽しそうだね、アルダープ!! 残虐なことを考えている時の君が好きだよアルダープ!! ヒュー、ヒュー!」

 

 

 ▽

 

 

 ああ、愛するペッパー。君はそっちで何してる? 

 僕は死んだことになっているだろうから……きっと悲しませてしまっているんだろうな。

 

 まぁ、そんなに悲しまなくていい。ちょっと異世界の危機を救ってから君の元に戻るよ。

 そして、自分の墓を見ながら冗談めかしてこう笑うんだ、『もっといい墓に出来なかったのか?』ってね。

 

 そう……できればいいんだが……。

 

 

「トニー・スターク。貴様には現在、国家反逆罪の容疑が掛けられている。私と共に来てもらおうか」

 

 その前に、僕は犯罪者になってしまうみたいだ。

 

「ちょ……ちょっとなんですかあなた達は!? その手を退けてください!」

 

 僕の腕に掛けられた手錠を見ためぐみんが、鎧に身を包んだ兵士たちに食ってかかる。

 

「おい、その男は私の仲間だ。いきなり手錠を掛けるなど、なんのつもりだ」

 

 そして、ダクネスは僕を守るようにして手錠をかけた騎士と僕との間に立った。

 

 ……なんだ君たち、随分頼もしいじゃないか。

 

「おお、おいトニー……お前何やらかしたんだよ……!? とうとうやばい実験に手をつけてしまったのか?」

「トニーってば本当に問題児なんだから! ほら、私も一緒にごめんなさいしてあげるから謝りましょう!?」

 

 君たちはもう少し僕を見る目を改めろ。

 そんなに問題ばかり起こしてるわけじゃない。

 

 そんな真面目なのやら茶番なのやら分からない空気にも負けず、僕の逮捕を宣言した黒髪の女性は。

 

「先日、この町の領主であるアセクセイ・バーネス・アルダープ卿が、屋敷を貴様に監視されたと通報してきた。とにかく、貴様は私と共にこい」

 

 ……馬鹿な。

 何故それがバレている? 

 

 地下室で破壊されたカメラからか? 

 あれには証拠隠滅のための自爆プログラムが仕込まれている。

 通信途絶と共に自爆して消えるはずだが……。

 

 魔法か何かで封じられたか……? 

 

「ト、トニー……やばいですよ…………!」

 

 さっきまでの威勢はどこへやら。

 めぐみんは顔中冷や汗まみれにしながら僕を見つめてくる。

 

 そういう反応はやめろ。

 怪しまれるだろ。

 

 ダクネスも難しそうな顔をしている。

 やばいぞ、言い逃れできない。

 

 この星で最高峰の頭脳が二人揃って冷や汗しか浮かべられないってのはどうなんだ。

 

「……どうした? そんな深刻そうな顔をして? とにかく私と来い。それとも、来れない理由でもあるのか?」

 

 来れない理由……その手があったな。

 

「……一日だけ時間をくれ 」

「逃げるつもりか? 許されるわけないだろう」

「まさか。逃げるつもりは無い。デストロイヤーの件でまだまだ僕にはやることがあるんだ。明日には警察署なり裁判所なりどこへだって顔を出してやるさ」

 

 僕のその言葉に、黒髪の女性は少しだけ唸り。

 

「……確かに。数百年間人類を苦しめ続けたデストロイヤーの討伐ともなれば……その確認の手続きには本人がいないと進まないものもあるだろう……わかった、一日だけ待ってやる」

 

 彼女が兵士に命令すると、僕の腕の手錠を懐から取り出した鍵で外した。

 

 僕は自分の手首を少し揉んで調子を確かめながら皮肉を言う。

 

「優しい女性だな。男にモテるだろ」

 

 その言葉に元々吊り上がっていた彼女の眉の角度がさらに上がる。

 ……おっと、地雷を踏んでしまったようだ。

 

「トニー・スターク。一日だけ待つとは言ったが、条件付きだ」

 

 今度は彼女から直々に、懐から先ほどの手錠とはまた違った腕輪のようなものを取りだして僕の腕に巻いた。

 

 それは、禍々しい刻印がいくつも描かれた悪趣味な腕輪。

 

「女性からプレゼントを貰うことには慣れてるが、こんな奇抜なデザインのプレゼントは初めてだ。で、これは?」

「この街から出ようとすると装備した者に強力な呪いを付与する魔道具だ」

「……へぇ」

 

 思わず乾いた返事が出る。

 

「ちなみに効果は強力な麻痺だ。街からつま先一つでも出してみろ、よだれまみれでピクピク痙攣するハメになるぞ」

「なるほどよくわかった」

「すまない、もう一つくれないだろうか」

「お前は黙ってろこの変態!」

 

 いきなり出てきたドM騎士を、優秀な飼い主君が引き下げる。

 頼むから次は出てこないようにしてくれ。

 

「ではまた明日、トニー・スターク。行動は早めに移すといい」

「「「「…………」」」」

 

 そう残して踵を返し、兵士を連れて去っていく連中の背中を、僕らはしばらく眺め。

 

「……それじゃ言われた通り、さっさと手を打つとしよう」

 

 

 ▽

 

 

「……で、結局案は浮かんでないと」

「そう言うの考えるのは君の役目だろ?」

「丸投げすんなよ。俺は関係ないんだからな!?」

「冷たいな。チームだろ」

「えっ? お前は時々手伝う臨時メンバーとか最初に自分で言ってなかったっけ?」

「Wow、一本取られた」

 

 緊張感なんて微塵も感じさせず、飄々としているトニー。

 こいつさっきのキツそうな女のところに突き出してやろうか。

 

「ねぇ、冗談言い合ってる場合じゃないでしょ!?」

「アクアの言う通りだ。アルダープの屋敷を監視したのは事実なのだから、上手く裁判をやり過ごす方法を考えよう」

「そうですよ、カズマは狡っ辛い手を考えるのは得意なのですから、なにかないですか?」

「おい、狡っ辛いは褒め言葉じゃないからな?」

 

 裁判を逃れる手なんて早々思いつくわけないだろうに。

 そもそも俺はこの世界の裁判の仕組み自体、全くといっていいほど知らない。

 

 時代が中世ヨーロッパみたいな様子を見るに、嫌な予感しかしないが……。

 

「それこそ、証拠とかはどうなんだ? 地下室をこっそりカメラに収めたとか言ってたけど、そのカメラ自体はどうなってるんだ?」

「もしもの時を考慮して自爆装置を仕込んであるはずだったんだが……なんらかの理由で防がれた可能性が高い」

「そもそも証拠などなくとも、貴族がその気になればいくらでもでっち上げられる」

「おいおい……」

 

 やっぱそんなんかよ。

 そんなの……。

 

「……そういえば、俺の国にはこういう時に使える必殺の言葉があったな」

「必殺の言葉!? なんですかそれは!? 紅魔族としてすごく気になります!」

 

 そう、俺の国でも有名なあの言葉。

 

「その名も……『記憶にございません』だ」

 

 若干勿体つけて言ってみたが、みんなの反応はと言うと……、

 

「何を言っているんですか? 裁判には嘘を看破する魔道具が使用されるんですよ? そんなの通用する訳ないじゃないですか」

「その、カズマの国の法は大分緩いのだな……」

「ねぇ、魔法があるこの世界で何言ってるの?カズマったら頭甘々なの?」

「う、うるせー! なんだよ嘘を看破する魔道具って!」

 

「いや……その手でいこう」

 

 大不評の嵐の中でただ一人、トニーだけが納得したように頷いた。

 まさかの賛同者に俺は思わず目を剥く。

 

「えっ……じゃあ何? ひたすら記憶にございませんって叫んで押し通すの?」

「そんなわけないだろ。君は馬鹿か?」

 

 このヒゲオヤジ喧嘩売ってんのか。

 

「いいか、つまりは本当に記憶が無ければいいんだ」

「……は?」

「トニー……まさかとは思いますが……」

「ああ、その通り」

 

 

 トニーはイタズラを思いついた悪ガキみたいな顔をして。

 

 

「僕の記憶を消す」

 

 

 

 ──馬小屋の前から移動した俺たちは、得体の知れない機材がゴロゴロしている研究室のような所へと来ていた。

 

 トニーがホワイトボードに複雑怪奇な方程式やら色々と書きながら、俺たちに作戦を力説し始める。

 

「それじゃ作戦を説明するぞ。いいか、脳っていうのは、新しい情報を別の形で保持してから大脳皮質に送る。つまり、それを逆転させれば一時的に記憶を消せるんだ」

「……? ……???」

「君には話してないから理解しようとしなくていいぞアクア」

「メモリーのデータを一時的にクラウドに移しとくみてーなもん?」

「ニュアンスは間違ってない」

「……理屈はわかりましたが、それをどうやるんですか?」

 

 尋ねるめぐみんに、横にいたダクネスがハッと何かに気が付き。

 

「もしかして、記憶を消すポーションを使うのか? あれはやめておいた方がいいぞ? 運が悪ければ副作用でバカになってしまう禁忌のポーションだからな」

「えっ? それやばいじゃん。トニーがバカになったら何が残るんだよ?」

「イケメン金持ちプレイボーイの博愛主義者ってところだな」

「おっと、嫌味ったらしい皮肉屋が抜けてるぞ」

「二人共この状況で何馬鹿な言い合いしてるんですか!」

「「このオヤジ(ボウズ)が……」」

「それ以上やるなら二人まとめてぶっ飛ばしますよ!」

 

 それから少しして。

 

「で、結局どうやって記憶を消すんだよ?」

「磁力の力だ。そして、これが……その装置」

 

 掛けられていシーツをバサッと取り去り、トニーが光の元に晒したそれは。

 

 頭部をスッポリ覆えそうな、半球状で傘のような物体が取り付けられた大型の椅子。

 なんというか、一言で言い表すなら……

 

「……パーマでもかける気なのか?」

「髪を巻くやつじゃない、どこのマダムだ。これで脳をいじるんだよ」

「ほう……やはりトニーの作るものは変わってる上にユニークなものばかりだな。これを使えば、鬼畜なことをしてから記憶を消し、もう一度辱めてから消し……そして最後に全てを思い出させて精神的に屈服させるなんて芸当も……! くぅ……素晴らしいな!」

「さて、早速やるぞ」

 

 変態の妄想を軽くスルーしたトニーは、記憶を消去するだとかいう怪しさ満点の椅子に座って。

 

「重要なのはここからだ。使用する磁気の強さによって消去する記憶の量を調節する。めぐみん、これを使ってくれ」

 

 トニーがめぐみんに渡したのは、長方形の薄いタブレット。

 画面にはジグザグの波形が一定のリズムで動き、その下にはダイヤルのようなものが映っていた。

 

 この椅子の制御装置のようだ。

 

「僕の記憶をノース・スター打ち上げ前まで戻す。あれも一応監視装置と言える代物だからな。裁判で不利になる記憶は全部消す」

「のーすすたー? なんだそれは?」

「……いつか説明してやるよ、ダクネス」

 

 トニーが気まずそうにダクネスから視線を逸らした。

 ダクネスが人工衛星の存在を知ったらうるさそうだもんな。

 

 気持ちは分かる。

 

「めぐみん、起動は君に任せる。記憶が無くなった僕をしっかりケアしてくれよ」

「任せてください」

「忘れっぽくなったお年寄りの介護みたいだな」

「冒険者だからって僕の皮肉まで習得しなくても良いからな? ……さあ、やってくれ」

 

 ……そういえば、トニーが人工衛星を打ち上げた時にはもう既にみんなと面識があるんだよな……。

 俺だけを知らないわけか……。

 

「では、押しますよ!」

 

 めぐみんが画面をタッチすると、トニーの頭部を覆うリングが一瞬だけ光る。

 

 薄く目をつむっていたトニーがやがて目を開け……。

 

「……大丈夫ですか?」

「あー……特になんの不調もないが……なぁ、娘っ子。ここはどこだ? なんで僕はラボにいるんだ? これから授業のはずなんだが……」

「色々あったので、順を追って説明しますね。……というか、懐かしい呼び方をしてくれますね……あの、娘っ子はやめてください、トニー」

 

 どうやら成功したようだ。

 めぐみんの故郷で教師をやってたあたりの記憶まで戻ったらしい。

 

「待て……トニー? 君こそ随分フランクに僕の名を呼んでくれるじゃないか。いつからそんな仲になった?」

「うぇっ……!? あっ、そ、そうでしたね! すいませんスターク先生!」

「なぁ、一体何がどうなっているんだ? そこにいるのはアクアか? 久しぶりじゃないか。なんでここにいるんだ?」

「ねぇ、カズマさん……なんだかボケたおじいさんとお話ししてる気分なんですけど……」

「おい、答えろよ。あの酒まだ残ってるよな? ……口笛吹くな!」

 

 いきなり空間がカオスになってしまった。

 

 ここは俺がトニーに助け舟を出してやろう。

 

「……なぁ」

「君は誰だ?」

「カズマです」

「僕とどういう関係だ?」

「お前の史上最大の命の恩人さ」

「おい」

 

 トニーに真実を教えようとした俺に、めぐみんが杖で頬をゴリゴリしてくる。

 

「騙されないでくださいト……スターク先生」

「僕をカモれるほど賢い男には見えないからな。どうせ嘘だと分かってたさ」

「やはりトニーは昔も今も変わらんな……相変わらず、いい口撃力だ」

「と言っても、一年も前じゃ無いんだけどね。ここ最近がとにかく濃かったから、なんだか凄く昔のトニーに会った気分だわ」

 

 過去のトニーを知る俺以外の全員がやいのやいのとトニーを囲んで騒ぎ出す。

 

 ……こいつら目的忘れてるんじゃないだろうか。

 

「お前らとりあえず状況を説明してやれよ」

「おっとそうでしたね。良いですかスターク先生、単刀直入に言います。今あなたは見覚えのない罪に問われて裁判に問われようとしています」

 

 いや、思いっきり故意に監視してただろ。

 というか、故意に監視してたから記憶を消そうとしてるのだが…………。

 

「なるほど……嘘が効かない法廷で不利になる発言をしないように記憶を消したのか……我ながらいいアイディアだ、未来の僕もしっかり賢いようで安心したよ」

「この異世界で人工衛星打ち上げちゃうくらいにね! トニーったらもうちょっと加減できないの?」

 

 …………。

 

「へぇ、計画はしてたがもう実行してたのか。洒落た名前も考えてたんだぞ?ノース・スターって名前なんだが……」

 

 …………。

 ……………………。

 

「おい、駄女神。お前今なんつった?」

「え? 人工衛星を打ち上げ…………」

 

 アクアの言葉が尻すぼみになっていく。自分が何を口走った気がついたようだ。

 

 俺はアクアの頬をおもいっきり引っ張って。

 

「こんのクソバカがあああああ!! せっかく記憶を消したのになんでそれ言っちゃうんだよ! 台無しじゃねーか!」

「いらい! いらい! まっへ!! ほんなふもりや……」

「うるせーっ! 少しは考えてから物言えこの駄女神があああーっ!!」

「あー…………なるほど、人工衛星の存在がバレて国の上層部に訴えられそうなんだな?」

「まぁ、ちょっと違いますがだいたいそんな感じです。なのでトニーの記憶を消して裁判で勝つつもり……でした。もう過去形です」

 

 トニーがため息をついて顔を手で覆う。

 アクアとは転生の時以来会ってないそうだが、あの反応を見るにきっと初対面から色々やらかしてたんだろうな。

 

「かひゅまはん! ほっへはのひりゃう!」

 

 

 ▽

 

 

「もう一度記憶を消す。あまり細かい調整は効かない装置だからな、僕が教師をやり始めたころまで戻そう」

「……大丈夫なのですか? 見たところ、連続して使用するのはマズそうですが……」

「確かに良くない。でも、このままじゃもっと良くない。だろ? なぁ、アクア?」

「んーん! むー! むーっ!」

 

 トニーがアクアにふざけた口調尋ねるが、ガムテープで口を塞がれ、剥がせないよう手も縛られたアクアには唸って抗議しか出来ない。

 

 何言ってるかさっぱりだ。

 

「なぁ……金を払うからあのプレイを……」

「やらないからな。なんなら君も記憶を消さないか? その馬鹿げた趣味に目覚める前まで記憶を消してから、まともな教育を……」

「教……育……!」

「よし、さっさと記憶を消してくれめぐみん。これ以上変態の姿を頭に収めたくない」

 

 トニーが再び椅子に座り、めぐみんがタブレットを操作し始める。

 と、そんな時。

 

『ボス、連続で行うと脳がダメージを負う可能性が……』

「と言っても、確率でいえば一桁だ。何事にもリスクは付き物だろ? ムショにぶち込まれるよりはいい」

「んーん! んーんー! んむーっ!!」

「おいうるさいぞ、どうしたアクア」

 

 アクアはというと、必死にアイコンタクトをしながらひょこひょこ動き回っている。

 

 どうやら言いたいことがあるようだ。

 

「仕方ないな……おい駄女神。次さっきみたいなことしたら今度は飯の時以外ずっと口塞いでやるからな」

 

 テープをアクアの口からべりっと剥がす。

 痛かったのか、涙を浮かべてしばらく自分の口元をスリスリした後。

 

「『ブレッシング』!」

 

 アクアが手をかざしてそう唱えると、トニーの体が淡く光った。

 

 今のは…………。

 

「運を上げる支援魔法……?」

「少しでも失敗する確率を下げようと思ったの! 今のトニーは運が上がってるから、きっと上手くいくわよ! 裁判に勝ったら、今度は本当に記憶が無くなるくらいお祝いのお酒を飲みましょう!」

 

 そういって、アクアが満面の笑みでトニーにサムズアップした。

 

 トニーはアクアにフッと笑い返して。

 

「もちろんだ、バーカウンターに飾ってある秘蔵のお酒を開けよう、飲み仲間君」

「それはもう飲んじゃったわ」

「は?」

「では行きますよ、スターク先生。準備は出来ましたか?」

「出来てたが、たった今気になることが……」

「それじゃトニー、また後でね!」

「おい待……」

 

 めぐみんがスイッチを入れると再びリングが光り、めぐみんに向かって手を伸ばしていたトニーの体がビクリと硬直した。

 

 やがて止まった時が動き始めたかのように、数度瞬きをして、周囲をキョロキョロと見渡す。

 

「よし、アクア。今度こそ何も言うなよ?」

「わかったからテープ持ってにじり寄らないでちょうだ……」

 

 

 

 

 

 

 

「……君らは誰だ?」

 

 ……おい。

 

「相変わらずジョークばっかだなお前は……ほら、作戦成功だろ? 俺のことは知らないだろうが、他のみんなは知ってるだろ?」

「いいや?」

 

 やめろ。

 

「トニー、私を忘れたとは言わせませんよ? 私より人の記憶に残る人はいないと自負してます」

「だろうな、僕が君みたいなかわいい女の子を忘れるはずがない。だからこそ言うよ、会った記憶は無い」

「……!?!?!?」

 

 そんなベタな展開だけはやめろ。

 

 俺の願いをあざ笑うかのように、トニーは浮ついた笑みを浮かべて。

 

「にしても凄いな。女性に囲まれるのは慣れてるが、ここまでの美人に囲まれたのは初めてだ」

「やばいぞマトモじゃない!!」

 

 トニーの異常発言に思わず後ずさる。

 だが、美女と呼ばれた三人は辺りをキョロキョロし、やがてそれが自分のことを指しているのだと気が付き、驚いたように自分を指さして目を見開いた。

 こいつら、今となっては男に声をかけられることなんてないからなぁ。

 

 ……いや違う、そうじゃない! 

 

「どうすんだよこれ! トニーの記憶どうなっちまったんだよ!!」

「こんな展開ベタすぎるわよ! トニーってばふざけてるだけなんでしょ!?」

「ふざけてるってよく言われるが……美人を口説くときはいつだって真面目さ。素敵な場所と多少の時間をくれたら……それを君に証明するよ」

「キ……キモいわ!」

「キモい!?」

 

 なんというか、椅子にドカッと座って足を組んでふてぶてしくしてるのは以前のトニーのふるまいそのものなのだが、どこかチャラついているというか……振る舞いが若者っぽい。

 

 ……凄まじく嫌な予感がよぎり、俺はそれを確かめるべくトニーに尋ねた。

 

「トニー……今が何年何月何日か言ってくれないか?」

「映画か何かのネタか? 今日は14日──」

 

 

 

 

 

 

 

 

「──1991年、12月14日。もうすぐクリスマスだ、聖夜を美女三人と共に過ごそう。両親が出かけてていないからね。おっと、キャンディスもいるんだった。ちょっと彼女に許可を取ってくるから……なぁ、ところで一つ聞いていいか? ここはどこなんだ?」

 

 最悪の予想をはるかに上回る展開に、俺は頭を抱えて叫んだ。

 

「What the F──」

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