この素晴らしい世界に祝福を!アナザー・ユニバース・アイアンマン   作:Tony.Stank

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めぐみん爆誕生日おめでたい。





第35話 ジャッジ 裁かれるヒーロー

最悪だ。

 

「君らの名前を教えて貰えないか?僕はトニー・スタークだ」

「め、めぐみん……です」

「めぐみん……日系?あだ名か?可愛らしい響きだな、そのハロウィンみたいな服装も含めて気に入ったよ」

 

めぐみんが思わず紅魔の名乗りを忘れる程度には最悪の事態だ。

 

そんなめぐみんが、俺の後ろに回ってグイグイ服を引っ張ってくる。

 

「カズマカズマ!今のトニーは凄く気持ちが悪いです!何とかしてください!」

「お、おう……」

 

顔の造形が整っているとはいえ、45歳のオッサンに口説かれてなびく少女は普通いない。

 

「なぁトニー、とりあえず片っ端から仲間を口説くのをやめろよ……」

「仲間?仲間ってなんのだ?この仮装同好会か?」

「このふざけた男は一体なんなのだ……で、でもカズマと同等かそれ以上にギラついた獣のような目……わ、悪くない!」

「……君もしかしてマリファナやってる?」

 

どうしよう、空間が凄まじくカオスだ。

さすがの俺も匙を投げて今すぐ逃げたい。そしてダクネスには説教してやりたい。

 

そんな時、救いの声がすぐ近くのスピーカーから聞こえてきた。

 

『ボス、私はF.R.I.D.A.Y.と申します。未来のあなたが作った人工知能です』

「……確かに僕は天才だが、スカイネットを作った覚えはないぞ?あぁ、君たちターミネーター2は見たか?ほら、四ヶ月前くらいに公開されたばかりの……」

「ターミネーター2の公開は四ヶ月前じゃなくて二十年以上前だ」

「……なんだって?」

『あの、話を戻していいですか?』

 

フライデーの声が聞こえたスピーカーの方にトニーが体を向けると、その周辺に様々な映像を映したホログラムが浮かび上がった。

 

『ボス、あなたの現状を簡単にご説明致します』

 

 

 

 

「今の僕は45歳。最強のスーパーヒーローで大勢の命を救ったのに、今は不当な裁判にかけられそうになっているだって?」

 

ものすごく胡散臭いものを見る目でトニーが俺とフライデーの説明をかいつまんで復唱する。

今迄記録してきた映像を織り交ぜて説明したので、多少は信じてるみたいだが、それより何よりトニーが食いついていたのは……。

 

「未来の僕がコミックみたいなスーパーヒーローやってるとは……信じられないね」

「俺は今でも信じられないよ」

 

さて、ここからが一番重要な話になるのだが……。

 

「単刀直入に言うぞ。お前は前の世界で死んで、この魔法の世界に転生したんだ」

「転生させたのは他でもない、女神であるこの私よ!」

「あー……そういうのはまにあって」

「変な宗教の勧誘じゃねーよ!!」

 

そう思われても仕方ないかも知れないが、事実だからとしか言えない。

 

ちなみにめぐみんとダクネスには聞かれたくなかったので、彼女らは上手く説得して部屋の外に出してある。

 

「今まで見せてきた映像見て信じられないのか?」

「百歩譲って記憶だけが若返ったのは信じよう、十分有り得る話だからな」

「なら、お前が裁判にかけられそうなのも信じられるだろ?」

「……まぁ、それも信じよう、不本意だけどな。でも剣と魔法の異世界ってなんなんだ。さっきの映像は合成だろ?これも未来ならありえる話だ」

「ほれ、『ティンダー』」

 

俺は証拠にと、初級魔法の炎を指から出してみせるが……。

 

「僕の国のマジシャンの方がもっと色々できるぞ。魔法って言うならもっと面白いもの持ってこいよ」

「……よし、分かった」

 

 

翌朝。

 

 

「――『エクスプロージョン』ッッッ!!!」

「AAAAAAAAAHHHHHHHHHHーーッ!!」

 

朝露の匂いが広がるアクセルの平原に、破滅の光が突き刺さった。

舞い上がった土の塊が空から降り注ぎ、クレーターの中が爆煙越しでもグツグツと赤く煮えたぎっているのがわかる。

 

「どうだ?信じるか?」

 

俺は、でんぐり返しに失敗した五歳児みたいな恰好で地面に転がるトニーにそう告げた。

 

「今のは……地面に核爆弾を仕込んでたんだろ?」

「誰がそんなふざけたマジックやるか」

「わかった……信じるよ」

「よし。それじゃ、時間ないからさっさとラボに戻るぞ。裁判でどうするか決めなくっちゃな」

 

そんなこんなで俺達は再びラボに戻ることに。

セナと名乗ったあの怖い検察官は、夕方にはもう屋敷のドアを叩いてくるだろう。

 

それまでに対策を練れなきゃ、裁判で難癖付けられて有罪判決されかねない。

 

 

 

 

先日の夜とは逆に、今度は俺が椅子に座ったトニーの前に、ペンを持ってホワイトボードを背に立っている。

その余白にはトニーみたいに頭の良さそうな方程式は書かれてないが……。

 

「なぁ、一つ聞いていいか?なんでホワイトボードの余白に半裸のカズマの肖像画が書かれているんだ?」

「凄いでしょ!私の力作なのよ!特に表情の感じとか最高でしょ!?」

「普通は消すところだが、引き締まった肉体と男らしい表情が気に入ったから消さないでおく。いや、マジでカッコよく描けてる。俺の特徴をよく捉えてるな」

「絵に本体が負けてるぞ」

 

トニーのいつもの嫌味は耳を塞いでスルーする。

 

アクアが俺の魅力を余すことなく描けるなんて少し感心した。

 

「トニーの言う通りよ。それ、ホワイトボードにカッコイイカズマさんを描いたら、相対的にその前に立っているカズマがダサく見えると思って描いたのであって、別にカズマのカッコよさを描こうとした訳じゃ……ああっ!?消さないでよ!!」

 

ホワイトボードをまっさらに戻してから一度咳払いし、力説を始めようと……して、

 

「それじゃ、対策会議を始めるぞ。議題は……」

「『みんなでヒーローを助けるヒーローになろう』ってのはどうだ?」

「却下。記憶と一緒にジョークのセンスも無くしたのか!?お前今の状況分かってるのかよ!国家反逆罪だぞ!平民の命が軽いこの国じゃ極刑間違いなしだ!ほら、わかってるって言えよ天才さん!!」

「あー……わかった……」

 

俺が真面目モードでお前を助ける会議を始めようとしたってのに茶々を入れてくんな。

 

突然怒鳴ってペンを地面に叩きつけた俺に軽く引くトニーの横から、アクアが呆れたような顔でびしっと手を上げて。

 

「『ドラ息子をみんなで嫌々助けよう』にしたらどうかしら」

「今は議題をテーマに大喜利やってるんじゃねーんだよ!でもその議題は気に入ったから採用する」

「やったわ!」

「この僕がいじられてるだと……?」

 

なんだかよくわからないショックを受けてるトニー。

 

俺は脱線しかけた話を元に戻すために手をパンパン叩いて。

 

「本題に戻るぞ。この国の裁判システムは知らないが、嘘を看破する魔道具のベルを鳴らさないようにすればいいんだろ?」

「それだけではないぞ。トニーの仲間である我々が弁護人を請け負い、証拠を集めてきた検察官に対して反論し、裁判官を納得させる必要がある」

「弁護なら知能の高い紅魔族であるこの私に任せてください、論破してみせますよ。トニー、あなたは私達が必ず守りますからね!」

「いざとなったら私に任せろ。お前にも非はあるが、元はと言えば責務を放棄したあのアルダープが諸悪の根源だ。この戦い、勝ってやろう」

「Wow、美人の弁護士たちに囲まれて凄く頼もしいよ……もし君たちの舌がよく回るっていうなら、先にそれを体験させ……AGH!!」

 

最低の下ネタを言おうとしたトニーの顔面に、めぐみんが思いっきりペンを投げつけた。

 

「トニー、お前マジで少し控えろよ……大事な話の途中なんだからさ……」

「ああ……ここまで女性に拒絶されたのは初めてだ……」

 

こいつ自分が後にヒーローになるってさっき知ったばかりなのに、女の子にセクハラとか恥ずかしくないのか。

そう思った事が口からそのまんま出そうになったが、なんだか冷たい視線を浴びる予感がしたのでやめた。

 

「ねぇねぇ。トニーを法廷でフォローするのは良いけど、どうするの?声であれこれやり取りしてたら怪しまれるわよ?」

「確かにその通りだ。魔道具はやり過ごせるだろうが、質問攻めされてボロが出たらまずいぞ」

「だな……何質問されるか分からない法廷でカンペなんて用意できないし……」

 

顎に指をあててうんうん唸る俺達に、バッとめぐみんが手を上げた。

 

「私にいい考えがあります」

 

上げた手を額に当てて不敵な笑みを浮かべるめぐみんは、机の上に何かを置く。

それは、トニーが愛用してるサングラス……と、小さな無線キーボード。

 

「トニーのサングラスにこのキーボードでこっそりと指示を送るのです。私達が送信したメッセージ通りに喋ればきっと上手くいくでしょう」

「グッジョブめぐみん!それで行こう!トニー、聞いてたか?」

「サングラスにメッセージを送るとか、ラリってるとしか思えないワードが出てきたが……わかった、こっちは右も左も分からないんだ。君たちに任せるよ」

 

トニーはそう投げやりに言い残すと、いつの間にか用意してたトロピカルジュースのストローに口を付けてズズっと飲み干す。

 

めぐみんは、そんなふてぶてしいトニーを心配そうに見つめていた。

 

……うん、俺も心配だ。

 

俺もトニーに半分呆れた目を向けていると、めぐみんが俺の袖をグイッと引っ張り、部屋の外の廊下まで連れ出してきた。

いきなり引っ張られた俺は若干困惑しながらめぐみんに尋ねる。

 

「おい、いきなりどうしたんだよ。まるで告白するみたいな……」

「彼、不安がってます」

「俺まだ心の準備が……なんだって?不安がってる?」

 

めぐみんの言葉をオウム返しに聞き返した後、ドアのガラス越しにトニーを見る。

二杯目のジュースを飲みながらナッツを貪り食らい、コンピューターが内蔵されたサングラスを掛けて『SF映画かよ!』と騒いでるトニーの姿を。

 

「……不安……がってる?」

「トニーとは付き合いが長いからわかります。彼は不安ごとがあると、それを悟られまいと逆にふざけるんですよ……。暴飲暴食もします。頭が若返ってもトニーはトニーですね」

「なるほど……あれは不安の裏返しって事か……」

 

ということは、さっきのめぐみんの心配そうな目は……。

 

「……カズマ、私はなんとしてでもトニーを助けたいです。恩師で、友で、仲間で……いつも彼からは貰ってばかりなんです。だから……」

「あー、あー、わかってる、わかってる。あいつには色々お世話になってるしな。絶対助けるさ」

 

俺はそう言って胸元にぶら下げてある至って普通のサングラス(女の胸や尻をガン見してもバレない傑作装置)をコツコツ叩いた。

 

サングラスの有用性を知らないめぐみんには伝わらないネタだったが、それでも彼女は嬉しそうに笑って。

 

「カズマならそう言ってくれると思ってましたよ。なんだかんだで仲間想いですよね」

「まっ、いざって時はクインジェットで遠い国まで逃げればいいしな」

「既に逃げるプランを立てている辺りなんというか……。その、もうちょっとカッコよく締められないのですか?」

「余計なお世話だ。とにかく、対抗策は見つかったんだし、なんとかなるだろ」

「そうですね。では部屋に戻……」

 

めぐみんと二人で部屋に戻ろうとして向けた視線の先では……、

 

『火災発生。火災発生。スプリンクラーを起動します』

「ねぇ!トニーってばバカなの!?なんでお酒に火をつけたのよ!?」

「やってみたいカクテルがあったんだ。まぁ、スプリンクラーの水割りウィスキーもきっと美味しいさ。飲むか?」

「ハァハァ……獣のような目をしたトニーの前で、ずぶぬれにされるだなんて……」

 

そんな様子をドアの窓越しに見た俺は、横に立つめぐみんに無表情な顔を向けて一言。

 

「前言撤回していい?」

 

めぐみんは何も言わずただ押し黙り、静かに目を伏せて盛大にため息をついた。

 

……心なしか、その姿はアクア達に呆れるトニーにちょっと似ていた。

 

 

 

 

「では、この男の身柄は拘束する」

「トニー……お務め終えたら飲み明かしましょう……」

「いや逮捕されるわけじゃねぇから」

 

約束通りの時間にやってきた黒髪の女検察官こと、セナにトニーが拘束される。

 

手枷を嵌められたトニーは皮肉げに鼻をフンと鳴らして。

 

「僕が罪深い男なのは理解してるさ。でも、まさか手枷をはめられて裁判に連れてかれるなんてな。帰ったら親父に自慢しよう。『これで僕もあんたのようにロクデナシだ。参ったか?』ってな」

「トニー……」

 

いつものように皮肉をまくし立てているが、あれは不機嫌な時の皮肉だ。

めぐみんかさっき言った通り不安なのかもしれない。

 

なにか声をかけてやろうかと思い、踏み出そうとしたその時。

 

めぐみんが俺の横を抜けてトニーのそばに寄り、その肩に優しく手を置いて……、

 

「トニー、あなたは私たちが必ず助けます。大舟に乗ったつもりでいてくださいね」

 

瞳を見据え、決意に満ちた目でそう告げた。

 

「めぐみん……」

 

トニーは驚いたように目を見開いていたが、やがてなにか安心したようにフッと笑い……、

 

「……僕は記憶を失ってるらしいが……実は、君を見た時に何となく安心感を覚えたんだ。……今その理由が解ったよ、めぐみ……Ouch!」

「なんでキスしようするんですか!」

「今のってそういう流れかと……」

 

……めぐみんにキスを迫って思いっきりビンタされた。

 

そんなトニーに冷めた視線を向けるセナがめぐみんに一言。

 

「……罪状にセクハラも追加しますか?」

「はい、お願いします」

「!?」

 

 

 

 

――そして、裁判当日。

俺達は手錠をかけられたトニーと共にホールの中央に立っていた。

距離を置いた向かい側には裁判官、検察官、告発人が座っている。

 

裁判に立ち会うのはおろか、弁護人なんてしたことが無いのでかなり緊張している……のだが。

 

そんな事よりも気になることが。

 

「……何でお前アザだらけなの?」

 

俺の隣に座るトニーには、体の至るところにアザがあった。

とりあえずアクアに目配せして回復させるように促す。

 

「あら、本当ね。一体何したの?喧嘩でもしてきたの?『ヒール』!……ほら、もう大丈夫でしょ?」

 

アクアが光る手をかざすと、みるみるとアザが消えていき、トニーは落ち着いたように息を吐く。

 

にしても、トニーが喧嘩は無いだろう。小学生じゃあるまいし。

まさか、看守に虐待を受けたとかだろうか?

 

「同部屋になった男と殴り合いの喧嘩になったんだ。女の胸がいいか尻がいいかでな。でも大丈夫だ。最終的には仲良くなった。なっ?」

 

トニーが傍聴席にサムズアップすると、見物に来た群衆の中から顔にアザをつけたダストが満面の笑みでサムズアップを返した。

 

「……お前は小学生か?」

「悪いが小学生は飛び級してるんだ」

 

相変わらずの減らず口だが、今よりも人を見下すような態度がでてて余計腹が立つ。

 

俺は呆れたようにデカいため息をつきながら。

 

「30年も前からお前は皮肉屋だったわけか……」

「皮肉屋は頭が回るって言うだろ」

「口が達者で頭も回るなら俺たちの弁護は要らなさそうだな。みんな、帰ろうぜ」

「待て待て待て!!こんな軽口くらいで腹を立てるな!」

「法廷では静粛に!」

 

大声で叫ぶ俺達に、裁判長らしき男が迷惑そうな顔をしながら木槌で机を叩いた。

 

「では、これより国家反逆罪に問われている被告人、トニー・スタークの裁判を始める!告発人はアレクセイ・バーネス・アルダープ!……では検察官。彼の起訴状を」

 

セナが立ち上がり、懐から取り出した紙を広げ始める。

その間に、俺はトニーの脇腹を肘でつついてひっそりと囁いた。

 

「おい、予め言っとくけど、あんま余計なことは言うなよ?俺達でサポートするんだからな?妙なアドリブは無しだ」

「はいはい、そんなに僕が破天荒に見え……わかったよ、そんな目で見てくるな」

 

トニーに釘を刺しているうちに、セナが起訴状を読み上げ始める。

 

「……よろしいですか?被告人はアルダープ殿の屋敷に監視装置を取り付け、プライベートを侵害しました。その証拠品もここにあります」

 

そう言ってセナが懐から何かのガラクタを取り出し、裁判の出席者全員に見えるように掲げた。

 

それは、複雑な構造をした機械の残骸。

とてもこの世界のものとは思えない、高度な技術力によって作られたものだというのが一目でわかった。

 

「この装置の先端にはレンズが取り付けてられており……詳しく調べた結果、魔道カメラとよく似た構造をしていた事が発覚。そして、これがアルダープ殿の屋敷で見つかりました。これほどの物を制作することができる技術力を有した人物は、ベルゼルグ国内にはトニー・スタークを除いて存在しないという確認も取れています。また、これが発見される前にトニー・スタークとアルダープ殿の間にはトラブルがあったこともわかりました」

 

つまり、と付け足してセナはトニーを冷ややかな目で睨む。

 

「これらの証拠からして、トニー・スタークがアルダープ殿の屋敷にこの監視装置を取り付けたことは明白。領主という立場の人間を監視するというのは、この街……延いてはこの国における秘匿性の高い重要情報を盗もうとするテロ行為に他ならない。よって私は、被告人に国家反逆罪の適用を求めます!」

 

なんだそりゃ。

状況証拠だけで犯人だと決めつけるどころか、目的まででっち上げて『はい、国家反逆罪』ってか。

 

いや、うん。犯人なんだが……なんというか、当初の目的はダクネスを助けるためだっただけに、ここまでの言いがかりはいっそ笑えてくる。

 

トニーも呆れてるのか、ポカンとした顔でセナを見ていた。

やがてハッと正気に戻り、俺にだけ聞こえるように小さな声で聞いてくる。

 

「なぁカズマ……僕にはこれが裁判のおままごとにしか見えないんだが……」

「トニー、この世界の倫理観は中世レベルだ。とりあえず指示通りにしゃべってくれ」

「ああ……頼りにして良いんだな?」

 

セナが読み終えるのを確認した裁判長は、視線を俺達に移して。

 

「続いては、弁護人と被告人に発言を許可する!では、陳述を!」

 

その言葉にめぐみんがすかさず立ち上がった。

 

「黙って聞いていればなんですか!どれもこれも証拠として不十分です!もっとマトモな根拠を持ってきてください!こんなのもはや裁判としての意味を成していませんよ!」

「弁護人はもっと口を慎むように!ここが法廷の場であることを自覚すること!」

「根拠?いいでしょう!トニー・スタークだけではありません、あなただって本来であればここに立っていてもおかしくない人物なのですよ!?」

「ほぉおお?この私が、国家反逆罪が適用されるような人間だとでも?」

「ベルディアが襲来した際、結果的に討伐したとはいえ街に多大なダメージを与えたのを忘れたとは言わせませんよ!」

 

激昂して反論するも、冷静に返されためぐみんは耳を塞いでそのまま動かなくなる。

 

こいつ何しに来たんだろう。

前日あんなにトニーを助けるって意気込んでいたのに。

 

だが、めぐみんが論破されて涙目になってる間にキーボードの用意はできている。

これでトニーの陳述は大丈夫だろう。

 

「他に陳述をする弁護人はいないようですね?では被告人、あなたは?」

 

裁判長がそう尋ねると、トニーは俺を一度見てから立ち上がった。

 

よし、ここからだ……。

俺はキーボードに身の潔白を証明する文書を打ち込み……。

 

 

「――まず第一に、私は検察官が言うような罪を犯した記憶はありません。にこちゃんマーク」

「はい?」

 

「絵文字おくってんじゃねぇ馬鹿!!」

「いだいっ!?」

 

横からトニーに絵文字を送り付けたアクアを小声で叱りながら思いっきりひっぱたく。

 

「えっと……トニー・スタークさん。今、記憶にないとおっしゃいましたか?」

「ええ。そこの装置に見覚えはなく、そしてそこの油ギッシュなオッサンの家を監視した記憶もありません」

「なんだとキサマ!?」

「被告人!告発人を煽らないように!」

 

「アドリブ無しだっつったろうがボケ!」

 

勝手に色々付け加えたトニーを横から小突く。

 

こいつらどうしてこんな状況でふざけていられるんだ。

 

俺はうんざりし始めたが、作戦自体は成功のようだ。

トニーの発言に鳴らないベルを見て、検察官は眉根を寄せて唇をかみ、アルダープもまさかといった表情で固まり、法廷がざわめきだす。

 

裁判官が、嘘を看破する魔道具のベルが鳴らないことをしっかりと確認して。

 

「……どうやら、今の本当の事のようですね。確固たる証拠がない上に、魔道具による嘘の探知にも引っ掛からないのであれば、被告人を有罪にすることはできません。被告人、トニー・スターク。あなたに一つ尋ねます。本当にアルダープ殿に対して何の罪も犯していないのですね?」

 

あっさりと俺達の勝訴に進みつつあるあることに若干戸惑いながらも、油断はせずキーボードに文字を打ち込んでいく。

 

「――その通り。私は彼に対して何一つ罪をおかしてはいません」

「……ふむ、嘘でないことはしかと確認しました。検察官、他に証拠となりえるものはありませんか?」

 

再び鳴らないベルを見た裁判官はセナにそう促すが、もう何もないらしく、ただ黙ってうつむいた。

 

よし、科学チートの勝利だ!

 

勝利を確信して俺は胸をなでおろす。

反対側の席に座っていたアルダープは俺達の方を……正確には、トニーを恨めし気に睨んで捨て台詞を吐き始めた。

 

「貴様……!これだけの事をしておいて、今夜から安心して眠れると思うなよ……?」

「……HAッ!」

 

トニーはそんなアルダープの捨て台詞を鼻で笑い、見下すような顔で……。

 

あ、なんか嫌な予感がする。

 

トニーが失言をしないよう、その口をふさぎにかかるが一歩遅かった。

 

「今夜もぐっすり眠れるさ。高級ベッドだからな。自宅は豪邸、車はアンタの頭頂部よりツヤツヤの高級車。美人の仲間のお尻はスポーツ選手並みにプリプリだ。残念だったなボストロール」

 

そう言って、ずっと黙って様子を見てた右隣りに座るダクネスの肩に手をまわして、強烈な煽りをアルダープにお見舞いした。

 

「ッ!?お、おいトニー……!」

「まぁ、そう照れるなよ。ほら、もっとくっつけ。二人であの哀れなオッサンに勝利の投げキッスしよう。イエーイ」

 

煽りまくるトニーの様子を見たアルダープはと言うと……。

 

「キッ……キサマッ……ッッ……」

 

何かが……というか、おそらく全部が癪に障ったのだろう。その顔は見る見るうちに赤黒く染まり……、

 

「今すぐッ!今すぐこの無礼な男を処刑しろおおおおッ!!!」

 

法廷内に響き渡るほどの怒号を上げて立ち上がった。

 

「被告人!今の発言は見過ごせません!貴族の、領主という立場の人間に対してあまりもの侮辱です!」

「あれが領主で貴族だって?なら僕は皇帝だな。跪け!」

「ぬあああああ!!キサマだけは絶対に殺してやる!!」

 

「やめろ馬鹿!上手く行ってたのに台無しになっちまったじゃねぇか!!」

 

駄目だこいつ。状況をわかってない、多分自分が何やっても大丈夫だと思っている。

 

「静粛に静粛に!今の発言は貴族への侮辱罪とみなす!国家反逆罪に対しては証拠不十分で無罪とするが、侮辱罪の件については有罪判決を下す!」

 

裁判官が木槌で机を叩いて法廷を静まり返らせ、トニーにそう告げた。

流石に言葉一つで有罪になるとは思ってなかったのか、トニーは驚いたような顔して冷や汗を浮かべていた。

 

クソッ、あのままだったら無罪で終わりだったのに!

 

「被告人トニー・スタークは有罪、判決は……」

 

判決が下されようとしたその時。

 

「――死刑にしろ」

 

アルダープは立ち上がったまま、怒りに満ちた表情でそんなことを言ってきた。

セナはそれに対して。

 

「その……流石に侮辱罪で死刑を求めることは……」

 

そう告げるが、アルダープはただジッとセナを見つめ。

 

「いいや、その男は死刑が妥当だ。だろう?」

「………はい、死刑が妥当です……ね?」

 

は?

 

「おい、ごっこ遊びにしては悪趣味すぎるぞ。こんなのでいちいち死刑にしてたら街から人が消えると思うんだが?」

 

トニーがそう皮肉を吐きながら講義するが、そもそも死刑に同意したセナ自身も困惑した様子だ。

……一体何が起こっているんだ?

 

と、その時。

アクアが突然立ち上がり、大声で叫び始めた。

 

「今、この法廷で邪な力が使われるのを感じたわ!何者かがあ悪しきモガッ!」

「すいません!こいつちょくちょくおかしなことをつぶやくんですよ!気にしないでください!」

「弁護人。他の弁護人の選定はしっかりするように」

「はい、超反省しています」

 

先程のトニーの事もあって神経質になっていた俺は、アクアが余計なことを喋ると判断してすぐさま口をふさぎにかかった。

間違った判断ではなかったと思う。

 

ていうかそれどころじゃない。

 

裁判長は、黙って俺達の様子を眺めたのちに咳ばらいを一つして。

 

 

「被告人。トニー・スターク。反社会的な態度、及び、言動。そして、この街を担う領主に対してのあまりにも無礼な態度から、今後さらに告発人に対して何かしらの危害を加えかねないと判断。よって――」

 

……こんなの、絶対におかしい

 

「――判決は、死刑とする」

 

「どうなってるんだ!こんなの裁判として破綻してるぞ!!」

「おお、落ち着けトニー!セカンドプランで行くぞ!」

「……セカンドプラン……?ハッ!わかりました!法廷ごと爆裂魔法で吹っ飛ばせばいいんですね!?」

「誰がセカンドインパクト起こせっつった!?クインジェットをここに呼ぶんだよ!」

 

固まっていためぐみんが正気に戻ったかと思えば、やっぱり正気じゃないことを喚きだした。

 

ヤバイヤバイ!俺ももうパニックを起こしてしまっている!

 

そんな中、ふとダクネスの方を見ると、胸元から何かを取り出そうとしていた。

おそらく自分の家の紋章が彫られたペンダントを出してこの場を収めようとしているのだろう。

 

……馬鹿野郎。

 

確かに、それを出したら自分の家の権限でこの裁判を預かることもできるのかもしれない。

だが、アルダープに貸しを作ることになってしまう。

 

 

そうなったら、俺達が今までお前の為に戦ってきたのがパアになっちまうだろうが。

 

 

ペンダントを取り出させないよう、俺はダクネスに手を伸ばす。

 

混乱状態になって騒ぎ始めた俺達を鎮める為に、警備員もにじり寄ってきた。

今すぐここにクインジェットを降下させて、さっさと逃げようと……

 

 

 

……そう思った、その時。

 

 

「――裁判長。その裁判、私の権限でなかったことにさせてもらえないだろうか?」

 

冷静さを感じる静かな声ながらも、しっかりと通ったその声は、混乱状態にあった法廷を一瞬で静まり返らせた。

 

声がした方に目を向けると、傍聴席の人の波が左右に分かれ、その中央から護衛を引き連れた白スーツの女性が現れた。

ダクネスと同じ金髪碧眼で、腰に剣を帯びた短髪の美人。

 

一体誰だろうか?

 

そんな疑問に答えるようにしてダクネスが驚きの声を上げる。

 

「あ、あなたは……シンフォニア卿!?な、なぜこのような場所に……?」

「なぁ、あの人誰?」

「こらっ、指を指すな!彼女はこの国の四大貴族の一つであるシンフォニア家のご令嬢だ!失礼の無いようにしろ!」

 

周りを見ると、裁判長もセナも、同じく貴族であるアルダープでさえも唖然としてその女性を見ていた。

 

シンフォニア卿と呼ばれた白スーツの女性は、しっかりとした足取りでホールの中央まで来ると、裁判長を見据えて口を開く。

 

「裁判長。そこの男はな、王都の防衛において多大な貢献を重ねてきた英雄なのだ。彼のおかげで何百、何千という兵士や冒険者の命が救われている。そんな小物への侮辱一つで不当な罪を着せられていいような人間ではない」

「ッ……!」

 

先程までトニーの言葉にあれだけキレ散らかしてたアルダープだったが、白スーツのその言葉には何も言い返せずに、ただ悔しそうに黙る。

白スーツはトニーに顔を向けると、フッと凛とした笑みを向けて。

 

「スターク殿、事情は把握している。たまには私に貴方を助けさせてくれ」

「……よくわからないが、それならディナーに付き合ってくれるだけで……OH!」

 

いきなりナンパを仕掛けたトニーの脇腹をダクネスが小突く。

どうやらトニーとかなり面識があるようだが、今のトニーはちょっとアレなので黙らせておいた方がいいと思う。

 

「で、どうだ?名は……アルダープだったな。貴族の特権を振りかざすのは好きではないが……まぁ、先に仕掛けたのは貴様だろう、同じことをされても文句は言うまいな?」

「ぐぐ……!くっ……」

 

アルダープは心底悔しそうな顔をして。

 

「裁判長……起訴を取り下げる……」

 

そう、忌々し気に吐き捨てた。

 




キャラ紹介 No.9

▽〘 セナ 〙

▽性格 〘 生真面目 〙〘 冷静 〙〘 行き遅れ 〙


実 は 腐 女 子 。

性格はいたって真面目で、悪党には酷薄な態度をとるが、本来はそんなに気が強いわけではない。
男っけがなく、それを気にしているのか、女性の婚期を守る会のメンバーである。

ちなみに王都で名をはせていた優秀検察官。
本来ならアルカンレティアでやらかしてこの街に左遷させられるという過去があってアクセルに来るのだが……。

最近発売されたゲームでまさかまさかのルートがあるヒロインに。
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