この素晴らしい世界に祝福を!アナザー・ユニバース・アイアンマン   作:Tony.Stank

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大変ながらくお待たせしました。
ガーディアンとなってシティを守ったり、頭のなかのキアヌリーヴスと共にサイバーパンクな世界を疾走したりと忙しかったのです……。


第36話 スリルに一撃

 裁判所から帰る道すがら。

 

「スターク殿は記憶を失っておられるのですね……」

 

 後ろでダクネスとあれこれ話を話をしていた白スーツの女……もとい、クレアが俺達の方へと来てそう呟いた。

 

「ええ、なので……」

「う、うむ……いきなり口説こうとしてきたことは不問にしましょう……ところで、あなたがめぐみんさん……ですよね?」

「はい。……それがどうかしたのですか?」

 

 あらかじめ知っているかのようなクレアの確認に、めぐみんが首をかしげる。

 

「いえ、スターク殿が度々話していたのですよ、王都で起こるような大規模な集団戦において、心強い最強の存在がいると」

「えっ……」

「もし行く当てが無かったら王都で雇ってやってくれと言っておりましたよ。大事に思われている生徒のようですね?」

「トニーが……?」

 

 クレアの話を聞いためぐみんが、一足先に屋敷の門前に立つトニーを驚きと感動が入り混じった表情で見つめる。

 

 良い話だなぁ。

 

 師弟物でよくある、普段弟子を滅多に褒めないのに、実は裏で認めていたことを第三者から知るみたいな展開。

 

 アクアも本物を見たのは初めてなのか、『ねぇねぇ見た?』とでも言わんばかりに俺とめぐみんを交互にチラチラ見てニコニコしてる。

 

「それと、下手に刺激すると大爆発するから扱いに気を付けてくれとも……私は最初それを聞いた時、とても人間の事について話しているとは思っていませんでしたよ」

「あの人は……」

 

 でもそこはトニー。なにか余計な一言を加えて台無しにせずにはいられないみたいだ。

 クレアが冗談っぽく笑いながら告げたその話に、めぐみんはあきらめたように顔をしかめた。

 

 そして……。

 

「改めてみるといい屋敷だな、趣があって。僕の家よりは小さいが。ところで、アイスクリームメーカーおいてない? ないなら僕が作る」

 

 屋敷の前であれこれふざけたこと言ってるあの飄々とした男が全てをぶち壊している。

 もう口にテープでも張っておこうかな。

 

 そんな様子を見ためぐみんはため息を一つ付くが、やがてフッと笑うと。

 

「まぁ、今はここで楽しくやっていますよ。当のトニーはあんな状態になってしまいましたが……まぁ、一時的なものです。記憶が戻るまでは我々で守りますとも」

 

 トニーが信じた爆裂魔法で。と、付け加えてめぐみんは小さな胸を張った。

 

 クレアはその言葉に感心したかのように微笑み。

 

「ぜひ頼みますよ。ああそうだ、何日かこの街に滞在することになったので、もし暇があればクエストの様子を見ていっても?」

「ええ、構いませんとも!」

 

 自信満々と言った様子で、俺達の同意も得ずに答えるめぐみん。

 俺の後ろでは、ダクネスがめちゃくちゃ不安そうな顔でこっちを見ていた。

 

 国の四大貴族の前でこいつらとクエストなんて本来なら絶対止める……止めるのだが。

 

 

 そうしない理由が、俺にはあった。

 

 

 ▽

 

 

 それは、俺達がまだデストロイヤーを倒す前のある日のこと。

 俺は、借金返済のための資金稼ぎであるクエストも終えて退屈だったので、夕日が差す庭でとある実験をしていた。

 

 

「──狙撃ッ!」

 

 引き絞った弓から放たれた矢が、風切り音を立てて木に突き刺さる。

 

 俺はその木に近づき、樹皮にナイフで刻んだ丸い的から少し外れた所に刺さった矢を引き抜いた。

 

「んー……練度あげなきゃもっと精度良くならないか……?」

 

 引き抜いた矢を持って再び元の位置に戻ると、俺は矢を番えて的を狙い、弓を引き絞る。

 

 俺が柄にもなくこんな練習してるのには訳がある。

 

 ──事の発端は、トニー無しで何度かクエストを経験した時の事だった。

 

 俺たちは、ダクネスという堅い壁役がいながらも、後方から遠距離攻撃できる存在が居ないのだ。

 

 一発しか打てない上にダクネスを巻き込みかねないめぐみんは論外。

 

 俺はトニーがいないとゴブリンの群れ相手に全滅しかねないこのパーティーに危機感を覚えた。

 …………今更すぎるが。

 

 そこで、なんでも覚えられる冒険者である俺の出番という訳だ。

 最近できたアーチャーの知り合いから教わり、《弓》と《狙撃》を習得した。

 

 弓が素人でも扱えるようになるスキルと、運が良いほど程飛び道具の命中率が上がるスキル。

 

 特にこの《狙撃》スキルは、幸運値の高い俺にまさにうってつけと言えるだろう。

 

 ……のだが。

 

「狙撃! ……はぁ、もうやめようかな」

 

 的には当たっているのだが、中心からは外れてしまう。

 いまいちしっくり来ない、何とも言い難いもどかしさを覚えながら一人ごちる。

 

「くそ、何がダメなんだろな……レベル上げて精度を……」

 

 

「──弓の問題だな」

「うおお!?」

 

 突然後ろから声をかけられ、思わず飛び上がって振り返る。

 

「なんだ、トニーかよ。驚かせやがって」

「驚いてるのは僕の方だ。なんで弓なんて練習してる?」

「それは……」

 

 特に隠す理由もなかったので、俺は弓を持ってる訳をトニーに説明した。

 

「なるほど……僕に頼りっきりにならないよう考えた訳か。怠け癖が改善したみたいだな?」

「ああ、今度はお前がその嫌味癖を治す番だぞ」

「努力する。……で、この弓は一体なんだ?」

 

 トニーは俺の手から弓を取ると、材質を確かめるように弦を引っ張ったり、握ったりしながら気に入らなさそうに顔をしかめる。

 

「グリップは滑る、弦にはほつれ、弓本体のバランスも酷いもんだ、これじゃ矢に速度が出ないし狙いも定めにくい。ゴミ捨て場から拾って来たのか?」

「……お金に余裕がある訳じゃないし、その辺の武器屋で安いやつを……」

「はぁ……安物買いの銭失いだな。僕についてこい」

 

 

 ──言われるがままにトニーのラボまで付いていくと、そこにあったのは分厚い鋼鉄の扉。

 扉には英語で武器庫との文字が大きく描かれており、物々しい雰囲気を醸し出していた。

 

 トニーは黙って扉の前に立つと、その横にあった指紋認証用のパネルに指を押し当て。

 

「僕だ、開けてくれ」

『トニー・スターク……認証完了。サトウ・カズマ……アクセス不許可』

「僕の権限で許可する」

『認証完了』

 

 フライデーとはまた違った、もっと機械じみた自動音声が響くと、目の前の扉が左右に分かれて開く。

 

「こっちだ」

「うわ、すげぇ……」

 

 部屋の中には、ゲームでも見ないような大量の武器。

 俺がいた世界より何世代も進んでるとしか思えない、近未来感漂う装備が所狭しと並んでいた。

 

「よし、見つけた。ほら、これを君にやる」

 

 そんな中、トニーが一つのロッカーから引っ張りだしたのは、折りたたまれた棒状の何か。

 

 それが何かと聞こうとするのと同時。

 トニーがその棒切れを力強く振ると、瞬時にアーチェリーへと変形した! 

 

 ビンッと、変形の勢いで張った弦の音が武器庫に響く。

 

「……か、かっけぇ!」

 

 俺の反応に満足そうに鼻を鳴らしたトニーは、自慢げに語り始めた。

 

「この弓は、とある男が持っていたものだ。名前はクリント・バートン、通称ホークアイ。アベンジャーズのメンバーだ」

 

 なにその中二心くすぐられるコードネーム。

 カッコいい……のだが。

 

「トニーが元居た世界で組んでたヒーローチームの事か? 空飛んでビームもミサイルも出せるお前の仲間の武器が弓と矢ってどうなんだ。役に立つのか?」

 

 それを聞いたトニーは面白そうに笑うと、腕時計からホログラムで出来たモニターを出現させ、酒場のカウンターテーブルで酒を滑らせるかのように俺の方へと飛ばしてきた。

 

 受け止めたそのモニターに映っていたのは、一人の男。

 アスレチックのような複雑で立体的な地形をした広大な部屋で、弓矢を手に駆け回っている。

 

 何かを察したのか、その男は鷹の目のような鋭い視線と共に体を反転させると…………。

 

「まじかよ」

 

 即座に背の矢筒へと手を伸ばして二本の矢を弓に番え、浮遊していた二体のドローンを同時に射抜いた。

 他にも、一本の矢を敵集団の中央に放ったかと思えば、やじりが大爆発して敵を一網打尽にしたり、矢の刺さった個所が急激に高熱になって鉄骨を溶かしたり……と。

 

 特殊なパーツが装着されたやじりを使い分けることによって、多彩で巧妙な攻撃を可能としていた。

 

 ……なるほど、弓矢ならではの攻撃だ。

 

 映像が終わり、ホログラムのモニターがフッと消える。

 トニーは弓を俺に手渡して。

 

「前に君に言ったろ? めぐみん達のパーティーリーダーを引き受ける代わりに、僕が君をサポートするって」

「……あっ、ああ……」

「……忘れてたのか?」

 

 空飛ぶキャベツ、ベルディア、冬将軍とか色々あったからなぁ……。

 この異世界に来てからというものの、すさまじく濃い生活を送ってる気がする。

 

「まぁ、別にいい。とにかく……これはもう君のものだ」

「サンクス、トニー。いいもの貰ったわ」

 

 俺は任務の前に銃を点検するクールなエージェントを気取り、弓を握りしめたり、弦を引いて調子を確かめていると……トニーがなにやらニヤニヤしながらこっちを見てきた。

 

「貰ったおもちゃで早く遊びたいって顔してるな?」

 

 せっかく気取っていたというのに、そんな俺の心を見透かしたうえで、それを楽しむとか中々イイ性格をしている。

 

「お前ってホント……」

「試そうって話をしてるんだ。早速トレーニングルームで試射してかないか?」

 

 ……こいつは本当に、イイ性格をしている。

 

 

 ──広々としたトレーニングルームの壁際で、トニーがテニスボールを三つ構えて俺の横に立つ。

 

「ボウズ、準備は?」

「いつでもこい」

 

 弓を構え、装備されたレーザーポインターを起動した俺を確認すると、トニーはテニスボールを俺と壁の中間をめがけて山なりに投げた。

 

 俺は、放物線を描いて落下するテニスボールに照準を合わせ。

 

「狙撃! 狙撃! 狙撃ッ!!」

 

 矢が空気を裂く音が三度響いたのちに、シンと部屋が静まり返る。

 

 ボールが床を跳ねる音は一切せず……、

 

「まっ……七十点ってところだな」

「どう見たって百点だろ」

「バートンなら三つ同時に射抜いていたさ」

「お前のとこの化け物集団を基準にすんな」

 

 ……壁には、三つのテニスボールが矢によって壁に縫い付けられていた。

 

 

 ▽

 

 

 裁判の翌日。

 

 トニーの記憶を元に戻す目途は……まだ立っていない。

 なんでも、連続で記憶を消去したせいで脳にはダメージが残っており、回復するかどうかまだわかっていないのだ。

 

 アクアの回復魔法でその辺はどうにかできないのかと思ったが、これは病気に似た症状らしく、回復魔法も効かないらしい。

 

 そんなトニーはと言うと……。

 

「あれがジャイアントトード……へえ、本当にモンスターが蔓延る世界なのか……」

「スターク殿、あまり近づき過ぎぬように。……しかし、雪が降っていても活動するものなのだな」

 

 ジャイアントトード討伐依頼を受けた俺達に同行し、雪の降る平原で興味深そうにジャイアントトードを眺めていた。

 今は戦えぬ身のトニーに対し、クレアが心配そうな顔をしながら側につき。

 

 ダクネスは、そんな二人を守るようにして立っている。

 俺の横では、アクアとめぐみんが不安そうにソワソワしていた。

 

「ね、ねぇ。相手はあのカエルよ? トニーはあんなんだし、私たちだけじゃ不安なんですけど。なんでカズマったらそんな自信満々な顔してるの?」

「というより、その背中に背負ってる棒みたいなのは何ですか?」

 

 俺は静かにカエルを見据え……、

 

「ふっ……まぁ見てろ」

 

 背中から取り出した棒を強く振り、弓へと変形させる。

 それを見ていためぐみんが、目を紅く輝かせて俺に迫ってきた。

 

「な、なんですかそれは!? カズマのクセに無駄にカッコいいですよ!」

「クセにってどういうことだよ。これは俺の才能に目をつけたトニーが、俺にぴったりだってくれたんだ。今からこれで無双してやるから、今日はお前の出番なしな」

「むっ……」

 

 それを聞いためぐみんは眉間に皺をよせて頬を膨らませるが、俺はお構い無しに弓に矢をつがえ……、

 

「狙撃ッ!!」

 

 特殊なやじりを装着された矢をカエルめがけて放った。

 矢は俺の狙い違わず、吸い込まれるようにカエルの頭に突き刺さった。

 

「おお……カズマさん、中々やるわね。今度からレゴラスニートってよんであげ……ちょっ! あのカエル、矢が頭に刺さったのに動いてるじゃない!」

「頭蓋骨までは貫通できなかったみたいだな」

 

 当然だ。牛よりデカいカエルの頭を大してレベルも高くない狙撃スキルで貫けるワケがない。

 だが、俺にとってそれはどっちでも関係のない事。

 

「カ、カズマさん! カエルがこっちに来てるんですけど!! 逃げましょう? ねっ? ねぇってば! いやー! 私カエルに食べられるのはもう嫌よ!!」

 

 情けなく半べそかきながら背を向けて逃げるアクアを尻目に、俺は弓についているボタンを軽く押す。

 

 その瞬間。

 こちらに向けてノソノソと近づいてきてたカエルの頭が爆発四散した。

 

 頭を吹き飛ばされたカエルは首から上を爆煙に包みながら、地面に倒れて動かなくなる。

 

 その戦果を確認した俺は、手に持っている弓に目を落として思わずつぶやく。

 

「これはすげぇな……」

「トニーが作っただけはありますね……やじりが爆発するとは……あの、それ使用を控えてもらえませんか? 私の立ち位置が危ぶまれるので」

「超断る」

 

 犬歯を覗かせて掴みかかってきためぐみんを適当にいなし、新しく手に入れた武器に関心していた時。

 

 ボコッと、近くの地面がせりあがる音がしたので目を向けると、一匹のカエルが近くの地面から湧き出していた。

 

「フッ……わざわざやられに出てきたのか……」

 

 俺はそうかっこつけて矢をつがえ…………

 

 ──ボコッ。

 ──ボコボコボコッ。

 

 それは、ギャグかなにかのような勢いで。

 

 最初に現れたカエルに続くようにして、地面からカエルが次々と沸いて出てきた。

 

「あ、あの……さっきの爆発音につられて出てきたんじゃないですか!?」

「そこら中に埋まってるなんて思うわけないだろおおおお!? め、めぐみん! 爆裂魔法だ!」

「ま、任せてください!! カエルごとき、この私の爆裂まほ」

 

 そこまで口上を述べたところで、めぐみんは横から伸びてきたカエルの舌にからめとられ、そのまま頭から丸呑みにされてしまった。

 

 …………。

 

「め、めぐみーん!! 食われてんじゃねえええええ!!」

 

 腰のショートソードを素早く抜き、めぐみんを捕食中で動けないカエルを何とか倒す。

 

 というか…………。

 

「や、やばい! カエルが矢の数より多い!」

「なにをしてるのだお前と言うやつは! シンフォニア卿! あなたはお逃げください!」

 

 みかねたダクネスが突っ込んでカエルの注意をいくらか引くが、それでも漏れたカエルがこっちに向かってくる。

 

「あー……僕らは逃げるべきか?」

「ええ、そうしましょう!」

「トニー殿のパーティーメンバーだと聞いてどんな強者達なのだろうと思っていたのだが…………ど、どうなっておるのだ……?」

 

 トニーとアクアは俺達の様子に見かねたのか逃げる準備をし、クレアも俺達を見ながら首をかしげて背を向けている。

 

 ……が。

 その退路を断つようにして、三人の目の前に三匹のカエルが地面からボコッと湧き出した。

 

「いやあーっ!! なんでこうなるのよー!! 助けて! 助けてカズマさーん!!」

「くっ……カエルはザコモンスターと聞く。こうなったら我が剣で……」

 

 立ちはだかるカエルの姿に、アクアが絶叫して泣き喚き、クレアは覚悟を決めた顔で腰に差した剣を抜く。

 横立っていたトニーはアクアと同じく取り乱す……かと思いきや。

 

「…………」

「ね、ねぇトニー? 何やってるの? 何で突っ立ってるの? あきらめたの?」

 

 トニーはカエルを前にして腕を組んで仁王立ちし、余裕そうな笑みを浮かべる。

 

 ……流石は将来ヒーローになる男と言ったところか。何か策でも思いついたにしても肝が据わっている。

 精神年齢が幼くとも、その素質は昔からあったようだ。

 

 不安そうにトニーを見つめるアクアの問いに、トニーはフッと鼻で笑いながら答える。

 

「カエルは動く生物しか獲物と認識できない。つまり、こうして動かないでいると捕食されることは無いんだ」

「な、なるほど! トニーってばスゴイわ!! 動かないだけでいいんでしょ!? 天才的な策じゃない!」

「生物にも詳しいとは……流石だ、スター」

 

 

 ──世界が違えばカエルの習性も違うのか。

 

 

「おまえらあああああ!! 食われてんじゃねええええええ!!!」

「しっ……シンフォニア卿おおおおおおお!!」

 

 天才的な策で見事カエルの口に収まった三人を救助すべく、俺は弓に矢をつがえてカエルを射抜こうとするが、湧き出た他のカエルが行く手を阻む。

 

「か、数が多すぎる!! フライデー! クインジェットをこっちに寄越してくれ! 機銃掃射でこいつらを……」

『巻き込まれる可能性が高いです。推奨できません』

「くそったれーっ!」

 

 背後から迫るカエルの足音。

 目の前には、脚やら腕やらだけカエルの口からはみ出てるトニー達。

 

 あと数秒後にはこいつらの仲間入り。

 

 そう、あきらめかけたその時。

 

 

 

「『カースド・ライトニング』ッッッ!!」

 

 ──真っ白な平原に、鈴のように澄んだ魔法の詠唱が響き渡った。

 

 複数の闇色の稲妻がまっすぐ、そして正確に。

 体内に飲まれた仲間たちに傷一つ付けることなく、カエル達の弱点のみを撃ち抜いた。

 

 倒れ伏したカエルの口の端から、飲まれた三人がデロッと流れ出てくる。

 

 汚くて触りたくないが、そうも言ってられない。

 

「『ライト・オブ・セイバー』ッ!」

 

 再び響いた魔法の詠唱。雪で白く染まった平原を蹴り抜け、小柄な影が飛び出した。

 その影は、俺が三人を助けている間に、ダクネスを取り囲んでいたカエル達を腕から伸びた光の剣によって次々と切り伏せていく。

 

 なにあれ。ジェダイ? 

 

「大丈夫ですか?」

 

 あっというまにカエルを片付けた張本人……黒のローブを身に纏い、めぐみんと同じ紅の瞳を持つその少女は、あれだけ動いて息一つ乱すことなく俺達に手を差し伸べた。

 

「ありがとう……あやうくカエルの昼飯になる所だった」

「無事でよかったです……まったくもう、めぐみんったらこんなところで死にかけてちゃだめ……」

 

 瞳の色的にめぐみんとは同じ一族なのだろうか。

 目の前の少女は、倒れ伏すめぐみんを一度見て呆れたようにため息を一つ付くが……、

 

「えっ……そこで倒れてるのって……ス、スターク先生!? スターク先生ですか!?」

 

 ……そのすぐ横で同じように粘液まみれで倒れるトニーに目を見開いた。

 

 少女はトニーのそばに駆け寄り、心配そうに声をかける。

 

「スターク先生! 私です! ゆんゆんですよ! こんなところで何やってるんですか!? あなたが逮捕されたって聞いて飛んできたんですよ!?」

 

 トニーはと言うと、雪原でぐったりとしながらけだるげに答えた。

 

「やぁ、どうやら未来の僕も立派にプレイボーイやってるようだな。知り合いがかわいい子ばかりだ」

「!?!?!?!?」

 

 一瞬で顔を真っ赤にした少女がカエルを葬ってた時以上の速度で後ろに飛びのく。

 

 俺だったら一々口にしないでバレないように見……。

 いや、違う。そうじゃない。

 

「こればっかりはゆんゆんに同情しますね……」

「あ、めぐみん……! その、スターク先生はどうしちゃったの……? ついに実験か何かに失敗しておかしくなっちゃったの!?」

 

 あながち間違ってない。

 

「お久しぶりです、ゆんゆん。その、トニーは色々事情があって……説明しますね……」

 

 

 ▽

 

 

 ゆんゆんと呼ばれた少女を連れ、ラボに戻って一時間。

 

「そんな……記憶が若返るなんて……」

「裁判で勝つには仕方のない事だったんだよ。まぁ、僕はこの経験を楽しんでいるが」

 

 そう言ってカクテルを飲んでゆんゆんとなのった少女にピースするグラサンのオッサン。

 記憶が戻った時のことも考慮してもう黙っててくんないかなこいつ。

 

「それで、治す目途は立ってるの?」

「いえ……それが、まだ何とも言えないのですよ……」

 

 それに付け加えるようにして、めぐみんはすこし難しい顔をしてぽつりとつぶやく。

 

「で、ですが……」

「……どうしたの? 他に手があるの?」

 

 ゆんゆんの問いに言い淀んだめぐみんは、トニーを一度見て不安そうにしながら答えた。

 

「荒治療ですが……あえてもう一度電流をながすことで記憶を呼び戻せるはずです……理論上は」

「それ絶対悪化するやつよね!?」

「うぐぐ……否定しきれません……」

 

 俺はトニー脳のダメージが自然回復するまで様子見すべきだと意見をしようとするが……。

 

 それを、小さな電子音が遮った。

 なんだと思って音源の方を見ると、クレアがポケットからスマホのようなものを取り出していた。

 

「レインか? 一体どうした。今少々忙しいのだが……」

 

 トニーが提供した技術なのだろうか。

 異世界ファンタジーの世界であんな現代チックなものを見せられると、なんだかやるせない気持ちになる。

 

 と、相変わらずのトニーのファンタジーブレイカーっぷりに軽く呆れていると、通話をしているクレアの顔が一気に青ざめた。

 

「な、なんだと!? それは確かな情報なのか!? ……くっ……」

 

 なにやらトラブルのようだが……。

 

 そんなクレアの様子に、ダクネスが心配そうに声をかけた。

 

「シンフォニア卿。何かトラブルですか?」

「ダスティネス卿……その、どうやら王都の近くの村を魔王軍が乗っ取ったらしく……」

「それは面倒ですね……そのまま魔王軍の拠点にされてしまえば、王都への攻撃がより激しくなる……」

「スターク殿が整えた最新鋭の防衛設備があるからその辺は怖くないのですが……問題は、その魔王軍が村民を人質にとり──」

 

 

 

 

 

「──〝トニー・スタークを呼べ〟と要求している事なのです……」

「「「!?」」」

 

 クレアのその言葉に、俺達の間に動揺が走った。

 

「は!? なんでトニーが名指しで呼ばれてるんだよ!? そんな理由なんて……いや、たくさんあるな」

「トニーは確かにロクでもない所があるけど、わざわざ人質取ってまで狙われる……人だったわね」

「否定しません」

「君達僕が何言われても傷つかないと思ってないか?」

 

 俺達のやり取りにクレアは若干引き気味だが、咳ばらいを一つして話を続ける。

 

「スターク殿は幹部であるベルディアを葬った。幹部を葬った冒険者を討ち取れば新しい幹部の席へと近づける……魔王軍はそんな連中だ。スターク殿を討って名を上げたいのだろう」

 

 それは……。

 

「トニーは、今は記憶が無くて戦えません……それとスーツも……」

 

 ここにいる全員が思った事を、めぐみんが代弁した。

 今のトニーは一般人同然。戦うことはできない。

 

 ダクネスが険しい顔でクレアに尋ねる。

 

「シンフォニア卿、期限はどれだけあるのですか?」

「一週間です……それまでにスターク殿が姿を現さなければ、村民を一日に十人ずつ処刑すると……」

「厄介ですね……討伐隊の編成は?」

「ええ、検討中のようですが……現在、敵拠点への大規模な攻撃作戦を立案中でして……オマケに、村を占領しているのは魔王軍準幹部……そこに討伐隊を派遣できるほどの余裕があるかどうか……」

「くっ……」

 

 悔し気に唇をかみしめるダクネスとクレア。

 部屋に悲壮感が漂い始める。

 

「なぁ」

 

 そんな空気の中、トニーが手に持ってた飲み物を置き、おもむろに立ち上がった。

 またなにかふざけたことを言うのかと思い、俺はトニーの発言を制そうと手をかざして。

 

「トニー、ジョークを言いたくなったなら後にしろよ。今結構大事な話を──」

 

 

 

 

「僕が戦う」

 

 シンと、その場が水を打ったように静まり返った。

 

 ……今なんて? 

 

「トニー……先ほども言っただろう。今のお前には、記憶もスーツもない。お前は戦えないんだ」

 

 ダクネスその言葉に、めぐみんがハッとした表情を浮かべる。

 

「いえ……もしかしたら、記憶が戻るかもしれません……過去の記憶を体験すれば……それが刺激になって……」

「でもスーツが……」

「ないなら作ればいい」

「どうやって!? スターク先生は今三十年分記憶が若返ってるんでしょ!? 先生からすれば、三十年も先の技術をどうこうしろって言ってるようなもので……」

 

 ゆんゆんがそこまで言ったところで、トニーがいつもの飄々とした笑みを浮かべ、鼻でフッと笑って遮った。

 

「できるさ」

「スターク先生……?」

 

 今のトニーの顔からは、さっきまでのふざけたチャラ男のような雰囲気は嘘のように消え去っていて、

 

「三十年後の未来の技術と言えども、そのおおもとにあるのは過去の技術だ。なら、理解できない理由はない」

「不可能ですよ! わずかな過去の断片から未来の技術を読み解くなんて!」

 

「できるさ、なぜなら僕はトニー・スタークだからだ。三十年後の教科書にだって、きっと僕の名前はある」

 

 そこにあるのは、いつものヒーロー(トニー)の顔だった。

 

 トニーのその言葉を聞いためぐみんは、意を決したように頷き。

 

「トニー……私が手伝います。ともに作りましょう、新しいスーツを」

 

 

 あなたと私なら必ずできます。と、そう付け加えて、めぐみんはトニーと共に研究室へと消えていった。

 

 

 




ワンダヴィジョンの面白い事面白い事。
4.5話の衝撃ったら凄すぎますよね。もう来週が待ち遠しい。
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