この素晴らしい世界に祝福を!アナザー・ユニバース・アイアンマン   作:Tony.Stank

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曲のタイトルはアベンジャーズ:エイジ・オブ・ウルトロンの主題歌より
静かな曲調ながらも悲壮感を感じない、ヒーローを称えるかのような歌詞と曲調が魅力的な曲。

日本のトレイラーで使用されたものの、映画館では流れないというなんとも不遇な名曲です。
ですが、歌詞もアベンジャーズにとても合っていて非常に素晴らしい曲です。
ぜひ和訳された歌詞と共に聞いてみてください。


第37話 IN MEMORIES

 あそこに転がってるのは……何かのゴミ。

 あそこに散らかってるのは……何かの食べカス。

 あそこで山になってるのは……あれも何かのゴミ。

 

 駄目だ、頭がボーッとしている。

 ふと横を見ると、今の私以上にボーッとしていそうなトニーの姿が。

 

「トニー……ヒゲが……伸び荒れてますよ……剃ってきたらどうですか……?」

「そういう君こそ……髪が部屋の角に溜まった埃みたいだぞ……」

 

 浮浪者みたいな見た目じゃで出来ることもできなくなるとトニーに言おうとしたその矢先。

 

「二人とも今すぐ寝てください!! もう五日もここに籠って徹夜してるんですよ!?」

 

 そんな、ゆんゆんの怒号が響いた……気がする。

 

「ああ、えっと……? もう朝ごはんの時間ですね! トニー! シリアルを用意します」

 

 私はシリアルが入った箱を手に取り、ボウルにその中身を……、

 

「めぐみん! それ鉄くず入れ!! 寝ぼけてるの!?」

「なにやってるんだ君は? もう寝てろ、僕がココアでも入れてやるから」

 

 そう言ってトニーは、身近にあった手頃なカップを……

 

「スターク先生! それプラズマ廃液です! 飲んだら死にますよ!? もうっ! なにやってるの!? 今すぐ二人とも寝てよ!!」

「寝てたらスーツはできません」

「彼女と同意見だ」

「徹夜でボケててもできないわよ!! ああ、もう……!」

 

 怒った表情のゆんゆんが、なにやら詠唱しながらこっちへと向かってくる。

 この子はいざという時、妙なまでの行動力が……。

 

 トニーも何か危なっかしさを感じたのか、少し焦った様子でゆんゆんの前に手を突き出す。

 

「あー……積極的な女性は好きだが、その表情で迫られると身の危険を──」

「『スリープ』!」

 

 ゆんゆんに睡眠魔法をかけられたトニーが、その場で膝から崩れ落ちて地面に転がる。

 トニーのそんな様を見届けもせず、ゆんゆんはすぐさま視線を私に移してにじり寄ってきた。

 

「あ、あの……ちょっと待っ」

「寝なさい! 『スリープ』!」

 

 ゆんゆんの手のひらが私に向けられると同時に、強烈な睡魔に襲われ──

 

 

 ▽

 

 

「──ハッ!」

 

 あれからどれだけ立っただろうか。

 焦燥の感情から一気に脳が覚醒した私は、かけられていた毛布を蹴り飛ばして跳ね起きる。

 

「おはようニュークリアレディ。やっぱり人間は寝ないとダメなようだ」

 

 声がした方に目を向けると。

 トニーとそっくりな声をした何者かがホログラムを操作していて……。

 

「トニー、ヒゲ全部剃っちゃったんですか!? 一瞬誰かと……」

「肉体年齢はともかく、中身は年相応の若者さ。剃り方どころか、髭すら生えてないんだぞ」

「未来のあなたが怒るでしょうね……」

 

 目をこすりながら、トニーが立つ作業台へと向かうと横からずいっとコップを持った手が伸びてきた。

 中身は真っ黒な液体で満たされており、底の方からシュワシュワと音を立てて気泡が立ち上っている。

 

「はい、冷たいコーラ。これ飲んで目を覚まして」

「おお、気が利きますねゆんゆん」

 

 中身を一気に飲み干すと、喉を強烈な刺激が伝い、鼻から芳香が抜けていく。

 

「ふぅ。これで眼もバッチリさえました。ところで、私はどれだけ眠っていたのですか?」

「十時間ってところ。眠ってる間に機材の調整と片付けならしといたから」

 

 意外な言葉に、おもわず目を丸くする。

 

「おや、見たこともない機材がゴロゴロしているはずですが、大丈夫だったのですか?」

「横で様子をみていたから、ある程度は機材の使い方くらいは分かったわよ」

 

 族長の娘にして学校の成績第二位の面目躍如といったところか。

 なにも教わってないというのに、見ただけでそこまで理解できるのは高い知力がなせる業だろう。

 

「私のライバルを名乗るだけはありますね。少々お手伝いも頼んでいいですか?」

「いいけど、あんまり複雑なのはできないよ? というか……」

 

 そういってゆんゆんが向けた視線の先では、ハードな音楽をバックに黙々と作業するトニーの姿が。

 

「スターク先生は記憶を失っているから、私とほとんど変わらない状況のハズなのに……」

「まさか一日足らずで理解するとは思いませんでしたね……」

 

 以前のトニー程とはいかないながらも、私やフライデー、おじすかのアシストを得てみるみるうちに知識も技術も身に着けてしまった。

 

 ふざけた言動、行動ばかりが目立っていたけれど、流石は人類随一の知力持ち……。

 

「めぐみん、君も早くこっち来て手伝ってくれないか」

「あ、はい! 今行きます」

 

 スーツを作る私達に有利な点が二つあった。

 

 一つは、以前のスーツの設計図があった事。

 それと、アークリアクターの予備があった事。

 

 やはりスーツの大切な動力源なだけあって、予備は大量に作ってあったみたいだ。

 リアクターも含めて一から作れとなっていたら、流石に期限までに間に合わなかったかもしれない。

 

 しいて問題を上げるとすれば。

 

「しかし……未来の僕が作るこのアイアンマンスーツとやら……凄まじい()()()()だな。これが十機もあればアメリカは何一つ恐れるものはなくなる。どんなテログループだろうが怖くない」

 

 ……発想が、少々物騒だ。

 トニーがヒーローになったきっかけは知っていたけれど、なんというか……。

 

 最強の武器で敵を蹴散らせば犠牲者が減るという思想で動いている。

 理解できない訳じゃないけど、ヒーローっぽい考えかと言われると微妙だ。

 

「トニー。今作ってるのは兵器ではなくみんなを守るアーマーなんですから……そんな言い方したら未来のあなたが怒りますよ?」

「まったく……未来の僕の話ばっかりだな……ヒーローだってのは聞いたが、僕はそんなに凄い奴になるのか?」

「ふふっ……ええ、凄いですよ。見た目も強さも……ああ、あと皮肉も」

「変わらない物もあるということか」

 

 皮肉っぽく笑いながら、トニーは組み立てたパーツをアイアンマンスーツの胸部に取り付ける。

 そして、いつも見てたのとほぼ変わらない見た目までくみ上げられたスーツの全身をみて満足げに鼻から息を吐く。

 

 これでスーツはほぼ完成だ。

 昔の設計図をそのまま流用したので、トニーが以前に装着していたMk.45の劣化コピーのようなスーツではあるが、これでも十分に戦える神器級の装備だろう。

 

 五日半で完成……少々時間を()()()()()かもしれない。

 

 あとは細部の調整とテストのみ。

 五日半でこれならきっと間に合う。

 

 これからは、トニーに戦う準備をしてもらわないと。

 

「トニー、これを装着してください」

 

 そう言って私が用意したのは、骨組みだけのスーツ。

 頭部を守るヘルメットは装着されてるものの、胴体はかなりスカスカ。

 

 予備のアークリアクターと接続されており、戦闘や飛行時の姿勢制御といったものの練習用に私がスーツ開発の片手間に制作したものだ。

 

「なんの戦闘訓練も無しに戦わせるわけにはいきませんからね。これで訓練しますよ」

「まぁ……来るとは思ってたが……その、いきなりなのか? このアーマーが勝手に動いて戦ってくれるんじゃ……おい、引っ張るな!」

 

 少し前のあの勇ましい発言はどこへやら。

 私は、不安気味にたじろぐトニーの手を引っ張る。

 

「あなたが自分自身の力で戦ってこそ、あなたはヒーローなのですよ?」

 

 その言葉に、トニーがハッと目を見開いた。

 

 私はさらに話を続ける。

 

「トニー。無責任にコンピューターに任せるのではなく……あなたが立って、あなたが前を向いて、あなたが戦わなくては駄目なのです」

「……!」

 

「それが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というものなのですから。でも、恐れないでください。そのための訓練は、私達が責任を持ってします」

 

 トニーの今の思想がどんなものであろうと、心の底にあるのは人を助けたいという気持ちであることに変わりはないはずなのだ。

 それは、あの時戦うと言って立ち上がったトニーの目を見れば分かった。

 

「……なるほど、未来の僕が君を科学者としてだけでなく、戦闘面でも信頼を置いてる理由がわかったよ」

 

 そう言ってトニーは、私が渡した骨組みのスーツを起動した。

 ガチャガチャと音を立て、トニーの体をスーツが覆っていく。

 

 我ながらロマン面も追及して出来たなと、その変形を見て満足気に鼻から息を吐く。

 

「よし、バシッと服も決めたことだし……手始めにヒーローになるとするか」

 

 今度は手を引かれるでもなく、自分の意志で、自分の脚で歩き始めたトニー。

 私はそんなトニーの前を歩き、訓練室へと案内し……

 

 

「ねぇ、めぐみん……良いこと言ってるとは思うんだけど……責任云々を説くなら、毎日意味もなく爆裂魔法を撃つのやめたら……?」

 

 良いことを言ったのに茶々を入れてくるゆんゆんは無視して、私は足早に立ち去るようにして先導した。

 

「おい、もっとゆっくり……なんだかこれ歩きづらいぞ……Hey! 設計ミスだ! このままじゃ転ぶ……Ow!」

 

 

 ▽

 

 

 そしてやってきたのはトレーニングルーム。

 この超広い空間なら、多少上に飛んだって大丈夫だ。

 

 部屋全体を見通せる高い位置に組み込まれた分析室から、私はガラス一枚隔てた向こうのトニーに指示を飛ばす。

 

「さて、早速ですがまずは飛行テストです。私と同じくらいの位置まで飛んでからホバリングで制止して下さい」

「御安い御用だ」

 

 そうカッコ付けてトニーは上へと飛び立つ。

 

 アークが生み出すプラズマの軌跡。

 広い空間の真ん中に美しい一条の光の線を残し……、

 

 

 

「……次はもっと出力を抑えてください」

 

 …………そのまま、頭から天井に突きささった。

 

『指一本……動かせないんだが……』

「なるほど。どうやら脊椎を損傷したみたいですね」

『そんな軽く言うことか……? 死にかけてるんだぞ……?』

「その辺は任せてください。首と胴がSAYONARAしても治せる人がいますから。アクアー、きてくださーい!」

『任されたわ! これとっても楽しいわね!』

『イカれた世界だ……』

 

 クレーンを操作し、その先に吊られてるアクアをトニーに近づけてヒールさせる。

 ついでに頭部が天井にめり込んだトニーをアクアに引っ張りださせ、そこから仕切り直し。

 

 

「──大分いい感じですね。もう矢や軽い魔法程度なら簡単に避けれるでしょう」

『ここに来るまでに五回以上致命傷を負ったぞ! このスーツ君が作ったんだろ!? 調整がピーキーすぎる!』

「さて、ここからは戦闘訓練です」

『無視するな!』

 

 私がトニーに開始の合図を告げると同時。

 

『ハハハハハハハハ!! この時を待っていたぞ!』

 

 トニーの目の前に、頭上から降ってきた一つの人影が、金属音と共に拳を地面に突き立てて着地した。

 巨大な質量エネルギーによって地面はヒビ割れ、土埃が空を舞う。

 

 その中から出てきたのは……鎧を着こんだ、普段の冒険者としての姿をしたダクネスだ。

 

 二重の意味でインパクトのある登場をしたダクネスに、トニーは少々驚いたようなそぶりを見せるが……

 

『でかいカエルを倒しに行ったとき、君の戦いぶりを見せてもらったぞ。まるで当たらない剣で、僕の練習相手が果たしてつとま……』

 

 小馬鹿にした態度でダクネスをあざ笑うトニーだったが、最後まで言う前に、トニーの目の前に風切り音を立てて()が突き刺さり……、

 

『What the──』

 

 矢から肉眼でも目視できるほどの強力な衝撃波が周囲に広がり、トニーを吹き飛ばす。

 

『ッ!? クソ!』

 

 吹き飛ばされてもすぐさま空中で姿勢を直し、ホバリングできるのは今までの訓練のたまものか。

 

 宙に浮いたまま、トニーは矢が飛んできた方角を見る。

 そこには……。

 

 

 

 

「──ようこそ地獄の入口へ」

 

 以前見せたハイテク弓矢を装備し、決め顔で立つカズマの姿が。

 

 ……ちょっとカッコいいじゃないか。

 中々に紅魔族の琴線を撫でてくる。

 

 そんなカズマにトニーはすぐさま掌を向け。

 

『これでもくらえ!』

 

 トニーのリパルサー光線が、光の橋を架けるかのように掌からカズマへと伸びていく。

 

『『ライトニング』!』

 

 しかし、その間に割り込むようにして飛んできた電撃魔法によって、カズマに届く前に空中で爆散した。

 

 超高速で飛ぶリパルサー・レイの先端を捕らえ、魔法で叩きおとすなんて芸当ができるのは一人しかいない。

 

『スターク先生、許して下さい! 向かう先が向かう先です! 全力で鍛えますから!』

 

 トニーから貰ったB.O.T.T.I.(目標捕捉アシストアームカバー)を装備し、立ちふさがるゆんゆん。

 

 ダクネス、カズマ、ゆんゆんに囲まれたトニーは深刻そうにため息をついた。

 

『随分とスパルタな戦闘訓練だな……』

 

 そう厭味ったらしく愚痴るトニーに、私は一応声をかけてみる。

 

「どうしますか? 難易度を下げますか? まずはダクネス一人からでいきますか? 楽勝すぎるかもしれませんが」

『いいや、このままで行く』

 

 そうこなくては。

 

 引くつもりは一切なさそうな、強気な声色のトニーに私は安堵する。

 

『お、おい! めぐみん! 私をザコ敵扱いするのはやめてくれ!』 

 

 ダクネスが何か言っていたが、誰もそれに触れることは無く、トニーがまず先に動き始めた。

 

 いきなり上に飛び上がったかと思うと、距離を取りながらカズマやゆんゆんめがけてリパルサー光線の雨を降らせる。

 

『おわっ! ちょ、あぶなっ!』

『『 ファイアーボール』ッ! 『ライトニング』ッ!』

 

 紙一重で危なっかしく避けるカズマと、迎撃するゆんゆん。

 

『任せろ! 二人とも私の後ろに!』

 

 ダクネスが嬉々としてカズマとゆんゆんの前へと躍り出て盾になる。

 

 リパルサーが直撃する度に嬌声を上げてて怖い。

 

 ダクネスが盾になりはしたが、トニーはひたすらに上から光の弾幕を張り続け、反撃するチャンスを全く与えない。

 

『おい、ズルいぞクソチート!!』

『スターク先生! 飛び続けるなんて卑怯ですよ!! 降りて戦ってください!』

『悪いがお断りだ。僕は僕の強みを活かして戦う。君たちにはそれができないのか? 戦闘経験五分未満の僕相手に? こりゃ、この訓練で得られるものはなさそうだな』

『『んぎぎぎぃ!!』』

 

 トニーの強烈な煽りを受け、カズマとゆんゆんが激昂する。

 

 空から一方的に撃ち下ろして強みを活かしているとか言ってるが、あれはどうなのだろう……。

 

『カズマさん、下を向いてください。目にもの見せてやります』

 

 私には集音マイクで聞こえているが、ゆんゆんがカズマに小さな声で物騒な声色で呟く。

 

 何をするつも……

 

『『フラッシュ』』

『ッ!?』

 

 ゆんゆんの手から放たれた強烈な閃光がトニーの動きを一瞬止める。

 

「────ッ!!」

 

 ……そして、ついでに私の目も焼き、私は地面にのたうち回る。

 ゆ、油断した……。

 

 戦況はどうなっているだろうか。

 

『狙撃!』

 

 私と同じく眼がくらんだのか、トニーは硬直し、カズマはその隙を逃さず、矢をトニーに放った。

 その矢はトニーに当たるすんでのところで爆発し、我が物顔で飛び続けたトニーの体を一気に地面へと向かわせる。

 

『だーはははは!! 煽っておいてそれとか恥ずかしくないの? バーカバーカ! ざまーみろ!』

 

 子どもみたいな暴言を吐き捨てながら、無言で落下するトニーを見て爆笑するカズマ。

 勝利を確信したのか、ゆんゆんはトニーを落下の衝撃から救おうと風魔法の詠唱を始めた。

 

 

 その瞬間。

 

 

 地面に激突寸前だったトニーの手足に、突如リパルサーの光が灯った。

 トレーニングルームの床にわずかに肩をこすらせて火花を散らし、カズマ達の元へと猛烈な勢いで迫る。

 

『うわわわ!! ダ、ダクネス! 突っ込んで止めてくれ!!』

『任せ……ああっ!? なぜ無視するのだ!?』

 

 低空を飛ぶトニーを捕らえようとダクネスが立ちはだかるが、まるで道端の小石でもまたぐかのように避けてしまった。

 

 何故ダクネスは残念そうな顔をしているのか知らないし、知りたくもない。

 

 そして、防衛網を突破された二人は迎撃の体勢を取り始める。

 表情の読めないマスクをして迫りくるトニーが怖いのか、かなり焦った様子で。

 

『あわわ……ファ、『ファイアーボ──』

 

 ゆんゆんの瞳が紅く光り、網膜に幾何学模様が浮かび上がった。

 ターゲット追尾して攻撃できるよう、目に装着したコンタクトがトニーをロックオンし、人工筋肉を搭載したアームカバーが照準をアシストする。

 

 必中の火球魔法がトニーを迎撃するかと思われたその時。

 

 トニーがゆんゆんとカズマの中間に滑りこみ、すぐさま上へと急上昇した。

 

『──ル』ッッ!』

『!?』

 

 燃え盛る火球の魔法を宿したゆんゆんの手は、トニーを確実に捕らえていた。

 

 だが……トニーが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことにより……。

 

『し、しまっ──!?』

『うぎゃぁぁああああっ!?』

 

 本来、トニーめがけて飛ぶはずだった火球がカズマに直撃した。

 

 ……なるほど、狙いは二人の誤射を誘うことだったのか。

 急編成でこさえられたチームの連携力の穴を、トニーが上手く突いた形となった。

 

『ご、ごめんなさい! ごめんなさい! カズマさん! 本当にごめんなさい!』

 

 吹き飛ばされて床で転がってるカズマに、今にも土下座しそうな勢いで謝るゆんゆん。

 介抱しようと駆け寄ったゆんゆんの足元の床を、トニーのリパルサー・レイが粉砕した。

 

『きゃあっ!?』

 

 思わず足を止めるゆんゆん。

 視線を上げたその先では、トニーが掌を突きつけていて。

 

『僕がその気になっていれば、今の一撃で君を倒せていたぞ。それで、あとのノーコンクルセイダーは適当に上から打ち下ろしてチェックメイト。僕の勝ちだな』

 

 そう言って、分析室の窓から覗く私めがけ、トニーはサムズアップした。

 

 

 強味(賢さ)、活かしたなぁ……。

 

 

 ▽

 

 

「あのな、俺がその気になってたらスティール一発でこの戦いは終わってたぞ」

 

 ラウンジで反省会をする中で、カズマが唐突にそう言った。

 

 この男……。

 

 訓練にならないので、スーツに対しての即死技であるスティールは禁じていたのだが……。

 ヒールで完全に治ったはずの体をこれ見よがしにさすりながら、恨めし気にブツブツと愚痴るカズマのその姿は、最高に情けなかった。

 

「カズマったら、いくら何でもそれはダサすぎると思うんですけど」

 

 アクアにまで言われ、カズマは不貞腐れ気味にラウンジのソファに転がる。

 

「で、初戦で三人まとめてぶっ飛ばした僕は、問題なく戦えるって事でいいのかな? あぁ、それともこの三人じゃ練習相手が務まらないから、次はもっと強い奴と訓練?」

 

 こっちもこっちでロクでもない。

 ドヤ顔でさっき戦った三人を煽るトニーのその姿は、最高に憎たらしかった。

 

 ゆんゆんもダクネスも歯ぎしりしてトニーを見ている。

 

「そのくらいにしてください、トニー。今度はリパルサーの精度をあげる訓練ですので、ドローンを出しましょう。カズマ、ドローンの操作は任せました」

「おう、今度こそお前をぶちのめして、地面の味を脳裏に焼き付けさせてやるからな……!」

「まったく……大人になってくださいよ」

 

 私が再びトレーニングルームまで行くと、その後ろをトニーとカズマがついてくる。

 先程の戦闘の勝利で調子が上がったトニーは、私の後ろで得意げに語り始めた。

 

「やっぱり将来スーパーヒーローになるだけあって、僕には昔から才能があったんだな。明日でヒーローに、明後日には全員救って、それで──」

 

 

 その次の言葉で、私は。

 

 

 

 

 

 

「──()()()()()()()()()()()()()だな」

 

 ……心の奥底が、黒々としたなにかに覆われた。

 

 思わず足を止める。

 

 ああ、もしかしたらこれは……神様がくれた最後のチャンスなのかもしれない。

 

「おい、どうした? 急に立ち止まって」

 

 振り返らず、そのまま動かない私の後ろから、トニーが声をかけてくる。

 

「……トニー、先に行っててください。私には準備がありますので」

「作戦会議か? まぁ、そういうことなら先に行ってまってるよ。コーヒーでも飲みながらね」

 

 マグカップにコーヒーを注いで立ち去るトニーの背を見送った私の肩を、カズマが叩く。

 

「なにボーッとしてるんだよ? 準備ってなんだ?」

 

 私は、心の奥から湧いた感情を、そのまま口から吐き出す。

 

 それは……

 

「カズマ。私はトニーがあんな純粋に楽しそうでいる所を初めて見ました。……私が知ってるトニーは、笑っていても……いつもどこかに弱さや痛み、陰りがありましたから……トニーは今、初めてそれから解放されているのしれません」

「めぐみん……」

 

 ……それは、失うかもしれないという懸念から来る不安と恐怖。

 デストロイヤーの一件で、トニーが死んだと錯覚した時から生まれた私の心にある恐怖。

 

「……お前、トニーの記憶が戻らなければいいと思ってるのか?」

 

 私は、そう聞くカズマに背を向けたまま……小さく頷いた。

 

「……トニーは、別に今のままでもいいんじゃないですか? 命を懸けなくても、トニーなら凄い発明品を作って世界を救えます」

「毎日セクハラされるかもしれないぞ」

「うぐっ……それは……でもまぁ、カズマがいるので大して変わりませんし……」

「どういうことだコラ」

 

 慣れたいつもの空気が少しだけ流れるが、カズマは一つため息を吐くと、私の後ろから正面へと回ってきて。

 

「あのな、俺だってあいつの正義ガチ勢っぷりには引いてる、ドン引きだ。もう少し自分の事を考えて生きてもいいだろって思う。でもな、それがあいつなんだよ。俺達のトニーなんだ。トニーがどんな過去を持っているか、トニーが心の奥に何を抱えてるかなんて、俺にはさっぱりわからないよ。でも、それが無かったら俺達のトニー(アイアンマン)は消えちまう。本当にそれでいいのか?」

「……わかりません。私には、どうしたらいいのかわかりません……」 

 

 世界を救うためなら、トニー(アイアンマン)は喜んで自分の身を投げ出すだろう。

 それは、すごく美しくて、カッコよくて、気高い事だ。

 

 でも……それでも……、

 

 ……それが、誰にとっても良い事だとは限らないのだ。

 

 

 新しく芽生えた葛藤を心に抱えつつ、トニーの訓練を続けようとトレーニングルームへ足を向け……。

 

『めぐみん様! ギルドより緊急クエストが発令されました! アクセルの正門前に多数の生命反応を検知!』

 

 私の眼帯から、おじすかによる警告音声が流れた。

 

 フライデーも検知したようだ。おじすかと同じ警告をラボに響き渡らせる。

 

「クッ、こんなタイミングで……!」

「ほーん? 何? この私のテリトリーに足を踏み入れようとしてる不届きものがいるっていうの? いい度胸じゃない」

 

 ダクネスが苦々しそうに顔をしかめ、アクアは拳をベキベキと鳴らす。

 私は自分の眼帯に宿る人工知能を起動して。

 

「おじすか、フライデー。ドローンを飛ばして敵の情報を探ってきてください」

『『ドローン発進』』

 

 ラボから発信したドローンがアクセルの正門へと向かっていく。

 

 ただの野良モンスターのむれなら、そのままドローンに搭載された武装で鎮圧してしまおう。

 一つ懸念なのは、緊急クエストが発令されているところだ。

 

 本来、モンスターが多少正門に押し寄せたくらいで発令されるようなものではないはずなのだが……。

 

「ねぇ、めぐみん! こっちにも映像見せて!」

「言われなくても見せますよ!」

 

 眼帯からホログラムを照射し、今この場にいる全員に見えるように映像を投影する。

 

 ドローンに搭載されたカメラを通して、街の様子が映し出された。

 見慣れた商店街を越え、民間人の居住区を駆け抜け、敵の侵入を防ぐために閉ざされた正門を迂回して。

 

 街を囲う防壁を飛び越えたその先で、ドローンが映し出したのは……、

 

 

「……最悪です」

 

 平原には、漆黒の鎧を着こんだ百はくだらない軍勢が陣形を組んでひしめいていた。

 そして、その中には大勢の人間が紛れ込んでいて。

 

 あれは……! 

 

「み、民間人だ! 魔王軍の連中、民間人を人質に取っているぞ! なんて卑劣な……!」

 

 めずらしくダクネスが激昂し、血が出そうなほど拳を握りしめた。

 アクアもゆんゆんもゴミを見るような目を映像に向けている。

 

 ……参った。あれではドローンによる攻撃も爆裂魔法も使えない。

 そもそも、何故あれだけの数の魔王軍がこんな駆け出し冒険者ばかりの街に大挙しているのだろうか。

 

 思い当たる節は……。

 ま、まさか……。

 

「なぁ、今の緊急クエストってアナウンスはなんなんだ?」

 

 さっきのフライデーのアナウンスを聞いて、先にトレーニングルームに向かった時ハズのトニーが私たちの方へと戻ってきた。

 

 現状を説明しようとトニーの方へと視線を向けると、それに従って私の眼帯から投影される映像がトニーの方へ向けられる。

 

 それと、映像の中の魔王軍が何か巨大な布をアクセルの正門側へと見せつけるかのように広げるのは同時だった。

 広げられた布には大きな文字が書かれており、それをトニーが何気なく読み上げる。

 

 

「……トニー・スタークを出せ?」

「なっ……!?」

 

 やはりあの連中は、王都近辺の村を占領したとかいう魔王軍の攻撃部隊なのだろう。

 期限まで待ちきれず、直接出向いてきたと言ったところか。

 

「お、おい……期限は一週間後じゃないのか? 僕はまだ……」

 

 トニーが不安そうに私達を見渡す。

 気まずい沈黙がしばらく流れ……

 

「トニー……不安なのはわかる……わかるが……放っておけば民間人が……」

「わかる? わかるだって? おい、僕が習ったのは飛び方とちょっとした撃ち方程度だ! 確かに僕は将来ヒーローになるかもしれないが、それは二十年も先の話で、今の僕は先週まで家でパーティー開いて飲んで歌って踊ってた、ただの世界一賢いプレイボーイの御曹司なんだぞ! それでいきなりこんな武装したアメフト選手百人と殺し合えって? ハッ! 時代を先取りした自殺方法だな?」

「す、すまない……」

 

 怒りに身を任せたトニーの嫌味に、ダクネスが思わずたじろぐ。

 誰も言い出せずにいた事を、ダクネスがみんなの代わりにトニーに伝えた。

 

 私はダクネスに嫌な役をやらせてしまった事に自己嫌悪を感じながらも口を開く。

 

「トニー……嫌になったら逃げて構いません。我々が戦いますから……」

「少なくとも、今の僕には荷が重……」

 

 先程のまくし立てるような皮肉から一転。

 私が投影している映像の中に何かを見つけ、唐突に口を閉ざしたトニー。

 

「……トニー?」

 

 

 トニーは、ただ黙って見ていた。

 映像に映る、漆黒の鎧を身に纏った魔王軍……ではなく──

 

 

 

 

 ──そこで捕らえられている、絶望に染まった表情の民間人たちを。

 

 

 

 ▽

 

 

 

「トニー……嫌になったら逃げて構いません。我々が戦いますから……」

 

 僕がスーパーヒーローになるのは、はるか先の話だ。

 あのパワードスーツが強いのは分かる。だが、いきなり戦う覚悟を決められるかどうかは……。

 

 剣に弓矢で武装した原始人相手なら余裕だろとマシンガンを渡されたとしても、自分一人で敵は百人以上いたんじゃ、やってやると答える一般人はいない。

 

 そうだ……僕はただの一般人じゃないか。

 まぁ、天才で金持ちで女にモテモテって事を除けばだが……。

 

 スーツを作ると決めた時にはあんなにあふれていた勇気が。

 

「少なくとも、今の僕には荷が重……」

 

 崩れ……

 

 

 と、そんな時。

 

 僕の目に、捕らえられている人々の顔が飛び込んできた。

 恐怖に染まったその表情の……目の奥で助けを求めている……そんな顔。

 

 

 ──『その命……無駄にするな……』

 

 

「ぐあっ……!」

「トニー?」

 

 突如、頭に電流が走ったかのような痛みが走る。

 今脳裏によぎったのは……!? 

 

「ふぅっ……ふぅっ……」

「トニー!? 大丈夫ですか!?」

 

 ──『私が生み出したものの中で、最も素晴らしいのは……お前だ』

 

「頭が割れそうだ……!」

 

 酷い頭痛に襲われながら、脳裏にフラッシュバックする謎の光景達。

 

 ──『私にはあなたしかいない』

 

 そこに映る、名前も知らない、そばかすが特徴的な女性の姿に。

 

 思わず自然と、絞るように、小さく、僕の口からその名が出てきた。

 

「ペッパー……?」

「トニー、まさか……記憶が?」

 

 仲間たちが心配そうに僕の周りに集まってくる。

 その中で、めぐみんが僕のそばに寄って肩に手を置いてきた。

 

「トニー……あなたには言わなくてはならないことがあります」

 

 ふと見た彼女の顔は……悲し気ではあったが、その瞳の奥に強い決意の光を宿していて。

 

「私は……あなたの記憶が戻らなければいいと……そう思ってしまったんです。自分の為に生きる人生を送ってもいいんじゃないかと……」

 

 なんの話をしているんだ? 

 僕の……僕の記憶……。

 

「あなたが抱える痛みを和らげよう。幸せになってほしい。そんなのは……トニーの意思を無視した、恩師を失いたくない私のワガママの為の、ただの口実だったんです。あなたは……とっくにそれを乗り越えてきたんですよね」

 

 ──『僕のアーマー。あれは僕にとって……暇つぶしでも、趣味でもなく……僕を包む繭だった』

 

 まるで、頭の中で勝手にビデオが再生されているかのようだ……。

 見知らぬ光景ばかりが見えるのに、心のどこかで懐を感じる。

 

 ──『君はより大きな世界の一員となったのだよ』

 

「その記憶があなたの強さを作り……その心があなたをヒーローにしたんですね」

「……そうだ」

 

 

 ああ、そうだ。

 

 

 ──『やっとわかったんだ。何をすべきか』

 

 ──『真実は──』

 

 

 

 

 

 

 I AM IRON MAN(私はアイアンマンだ)

 

 

 

「──全て思い出した」

 

 今迄僕を築いてきたすべてのものが。

 頭と、心を駆け巡り、光を灯した。

 

 僕の意思に反応したスーツがラウンジの階下から飛来し、僕の身を包む。

 

 

「トニー……?」

 

 不思議そうに僕を見る全員の目を見て……。

 

「役目を果たしてくるよ」

 

 そう言って、マスクを閉じる甲高い金属音をラウンジに響かせた。

 

 

 ▽

 

 

 スーツの速度なら、ラボからアクセル正門なんて三分とかからない。

 

 正門前の平原に着地した僕は、目の前にいつ魔王軍の軍勢に正面から向き合う。

 隊列を組む兵士の一番前にいるあいつがボスだろうか。

 

 ベルディアに比べたら少々見劣りするものの、黒の鎧に身を包み、剣を腰に帯びたいるその見た目には、ボスだと瞬時にわかる程度の風格があった。

 

「……俺は魔王軍準幹部、ボリスだ。お前がトニー・スタークか?」

「そういう君は……あー……、ミニベルディア?」

「やかましい!」

 

 ベルディアの劣化コピーみたいな見た目はどうやら彼のコンプレックスだったようだ。

 僕は怒鳴り散らす彼を手でどうどうとわざとらしくなだめる。

 

「フン……噂にたがわぬ嫌味な奴らしいな……ところでトニー・スターク……この者たちが見えるか?」

 

 男が見せてきたのは、剣を突き付けられた人質達。

 

 おびえ切った顔で小さく震え、弱々しく声を漏らす。

 

「た、助けて……あいつの言う通りにしてください……」

 

 ……あいつの言う通りに? 

 

「今のが聞こえたか? こいつらの命が惜しかったら……」

 

 男はとびっきり邪悪な笑みを浮かべて続ける。

 

「俺に無抵抗で殺されろ」

 

 なるほど。

 

「……見た目に反して、ずいぶん狡すっからい奴みたいだな。僕の身内にも卑劣な手を使うやつはいるが、そいつでもやらないぞ」

「魔王軍幹部の席に着くのに、お前の首があればそれでいいんだ。その過程なんぞどうでもいい」

 

 しょうもない奴だ。

 数々の悪党と戦ってきたが、そのなかでも最低の類と言ってもいい。

 

「他人の為に、己の命を炎に投げ入れられるか? ヒーロー。精々考えろ」

「ああ、考えた。炎を吹き消す」

 

 その刹那。

 背中と脚部にエネルギーを集中させて噴射し、その場に残像を残して前へと跳ね飛ぶ。

 

 空気の壁を突破した拳が、轟音を立てて相手の顔面にめり込んだ。

 爆発ともとれるような衝撃音すら置き去りにし、空の彼方まで吹っ飛んでいく魔王軍準幹部とやら。

 

 時が止まったような沈黙がわずかに流れ……。

 

「てッ……テメェ! 今の話聞いてなかったのか!? この人質が見え……」

 

 ボスを殴り飛ばした時には、既にホーミング式小型ミサイルのロックオンが完了していた。

 肩部がせりあがり、人質に剣を向けていた手下の頭部めがけてミサイルがまっすぐに放たれる。

 

「ぐえ」

「ぶ」

「お」

 

 ミサイルは正確に手下の頭部のみを撃ち抜いて地面に転がした。

 

「は……?」

 

 なにが起きたか理解できずに固まる敵。

 チャンスはいまだ。

 

 スラスターを起動し、人質と敵との間に割って入る。

 これでもう人質作戦は使えない。

 

「今のうちに逃げろ!」

「や、やべ……」

 

 並んで構える兵士めがけて拳を向け、ペタワットレーザーを横なぎに放……、

 

 ──プシュン。

 

 ……とうとして、そんな情けない音を拳から響かせた。

 

「……記憶がさかのぼってた時の事は覚えていないが、過去の僕が作ったんじゃ不調も出るか」

「殺せーっ!!」

 

 黒い鎧の軍勢が波のようにうねる。

 剣や斧の切っ先を光らせ、まとめて僕の元へと押しかけてきた。

 

 だが……それはかえって好都合。

 なぜなら……。

 

【ユニ・ビーム チャージ完了】

 

 破滅の光が胸に灯る。

 

「喰らってくたばれ」

「ギィヤァァァアアア!?」

 

 太陽光を一本に束ねたかのような破壊光線が、まとまって来た敵をDNA一つ残さず消し飛ばす。

 

 そんな有様を目の前にしてもなお、兵士は闘志を絶やさずに叫ぶ。

 

「ひ、ひるむなーッ!」

 

 あれは……ただやけっぱちになってるだけみたいだ。

 

 数で押せばと思ったのか、さっきよりも多い兵士が今度は散開しながら襲い掛かってくる。

 

 これは少し面倒だな。

 

 アクセルの門まで走り切り、守衛の裏で守られてる人質を確認した僕は、辺り一帯ごと吹き飛ばそうかとミサイルのロックオンを始めるが……。

 

「狙撃ッ!」

「『カースド・ライトニング』ッ!」

 

 そこで、空から飛来した矢と、闇色の電撃が敵を貫いた。

 

 聞き覚えのある声と、矢に魔法。

 空を見上げると、クインジェットのハッチからカズマが弓を。

 ゆんゆんがワンドを構えて立っていた。

 

 その後ろではアクアにダクネス、そしてめぐみんの姿も。

 

「ハーッハッハッ! 大丈夫ですかトニー! 手助けに来ましたよ!」

「前衛は任せろ。敵の攻撃は私が全て引き受ける」

 

 心強い援軍が駆けつけてきた。ダクネスはクインジェットから飛び降りて僕の横に並び。

 他の全員も続くのかと思いきや……。

 

「ッ()ぇーッ! ッ()ぇーッ! 逃げる奴は魔王軍だ! 逃げない奴はよく訓練された魔王軍だ! ホンット、異世界は地獄だぜェーッ!!」

「『ライトニング』! 『ファイアーボール』! あ、あの……本当にこんな戦い方で良いんでしょうか……?」

 

 カズマとゆんゆんはというと、クインジェットから矢と魔法で一方的に敵兵士を撃ち下ろしていた。

 

 空から一方的に撃つなんて、なんてやらしい戦術なんだ。

 

「きたねーぞテメーら! 『ファイアーボール』!」

 

 極悪戦術に魔王軍の魔法使いが激昂し、クインジェットめがけて魔法を放つが……。

 

「『リフレクト』ッ!」

「はぁっ!? ……グォォアアアア!?」

 

 カズマとゆんゆんの背後にいたアクアが、飛んできた魔法を防護魔法で跳ね返して兵士たちを吹き飛ばした。

 

「あーはっはっはっはっ!! この女神アクアが来たからには、あんたら有象無象なんて軽く消し飛ぶと思いなさいな!」

 

 そういうセリフはクインジェットから降りて言え。

 だが、敵にはかなり効果アリだったようだ。

 

 地には僕とクルセイダー。

 天には戦闘機と悪辣な戦術をとる冒険者たち。

 

 ボスも失い、味方も半数以上がやられ、さらに増援が駆けつけた以上、敵にもう戦う気力は残っていなかった。

 

「くそお! 撤退だ! 撤退するぞ!!」

 

 一目散に平原の向こうの森へと向かっていく兵士たち。

 だが、それはまさに最悪の選択肢というやつで。

 

 クインジェットのハッチの奥で、紅い二つの光がギラリと光る。

 

「ふははははは!! 我らに喧嘩を売ったのが運の尽きです! ここで消えてなくなるがいい!!」

 

 地上からでも見える巨大な魔法陣が空に浮かび、逃げる敵兵士たちの背中めがけて光が放たれる。

 

 今迄あらゆる兵器があらゆる場所で効果を発揮する様を見てきたが……これは別格だ。

 

「『エクスプロージョン』ッッッ!!」

 

 爆ぜる閃光、吹き荒れる熱風。

 クインジェットもたまらず揺さぶられる。

 

 アクセルの平原が一瞬で焦土と化し、敵がいた痕跡一つ残っていない。

 

「カズマカズマ、今の爆裂魔法は何点でしたか?」

「揺られて気持ち悪かったから三十点」

「!?」

 

 ゆっくりと地上へと近づいてくるクインジェットの中では、そんないつものアホなやり取りが行われており。

 そんな彼らに、僕はどこか懐かしさを覚える。

 

 楽し気なクインジェットの中だが、僕のすぐ横では何故かダクネスが悲壮感を漂わせており。

 

「また……なんの見せ場もなかった……」

 

 肩を落として深いため息をつくダクネスに僕は一言。

 

「あぁ、君居たのか。気が付かなかった」

「!?」

 

 記憶が戻ってすぐの出撃だったため、状況がよく呑み込めていないが……どうやら戦勝ムードで良いらしい。

 笑い合うカズマ達をみて、僕は彼らにサムズアップを送る。

 

 満面の笑みで全員がサムズアップを返してきたところをみると、記憶を消す作戦は上手く行ったのかもしれない。

 

「やぁ、作戦は成功したと見ていいのかな?」

 

 そんなことを軽く聞く僕に、クインジェットにいる面々はみんな苦笑いを浮かべていた。

 

 

 

 

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