この素晴らしい世界に祝福を!アナザー・ユニバース・アイアンマン   作:Tony.Stank

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大変お待たせしました
色々あって執筆が遅れておりました


第38話 AGE OF V

「本日の部屋の清掃、完了しました。失礼いたしました、アレクセ……」

「やかましい! さっさとでてゆけ! ワシは今気が立っておるのだ!」

「も、申し訳ありませんでした!」

 

 私の自室の掃除を終えたメイドに怒鳴りつけ、部屋から追い出す。

 メイドの足音が遠ざかったのを確認した私は、地下室へとつながる隠し扉を開けた。

 

 そして、湿ったカビ臭い階段を、地団駄もかくやと苛立った足音をひびかせて降りる。

 

 全く忌々しい。あの時シンフォニア卿が来さえしなければ……。

 あの悪魔の役立たずっぷりに嫌気がさす。

 

「マクス! マクス!!」

 

 地下室へと続く階段を降りきり、ドアを荒々しく開け放つ。

 薄暗いその部屋の中央には、いつものようにヤツがゆらゆらと地べたに座って揺れていた。

 

「ヒュー……、ヒュー……おや? アルダープかい? 君が恋しかったよ、アルダープ!」

「ふざけるなっ! 貴様、なぜワシの命令通りに動けんのだ! スタークは有罪判決となって、このワシが()()することになるはずだっただろう!」

 

 そう。この悪魔の力によって現実を捻じ曲げ、スタークの技術力を手に入れ、さらにスタークを交渉の材料としてララティーナにも手を伸ばそうとしたのだったが……。

 

「なんだか眩しくて強い力が働いて……ヒュー……失敗……」

 

 最後まで聞くことなく、私は役立たずの出来損ないを蹴りつける。

 

「この無能めが! 言い訳などするな!!」

「ヒュー……、ヒュー……」

 

 この先どうしたものか。

 コイツは役立たずで、ララティーナもスタークも手に入る算段が立たない。

 

「これ以上失敗してみろ! 契約を破棄して、貴様を殺処分してくれる!」

「ヒュー……、ヒュー……うん、うん……アルダープ……頑張るよ……」

 

 マクスに唾を吐き捨て、踵を返して階段を登る。

 

 公衆の面前で恥をかかされ、挙句の果てに自分の目的は果たせずじまい。

 

 今迄あの忌々しい悪魔の力であらゆるものを手に入れてきたが、自分の一番欲しい物だけは全く用意できない無能の悪魔には、むかっ腹が立ってしょうがない。

 

「いつか手に入れてみせるぞ……ララティーナ……!」

 

 階段を登り切った私は、地下室から自室へとつながるドアを開けようと手を伸ばす。

 

 自分の部屋に戻ったら、はらいせにメイドの一人を難癖付けて嬲ってや──

 

 

「申し訳ありませんアレクセイ卿、掃除用具の忘れ物が……」

 

 ──私が部屋に戻るのと、メイドが自室のドアを開けたのは同時だった。

 秘密の地下室へ続く隠しドアから現れた私に驚き、丸くなった彼女の目と私の目が合う。

 

「ア……アレクセイ卿……? 今、どこから……?」

 

 忘れ物を取りに来たようだが……。

 

 おかげで……この秘密部屋がばれてしまった。

 

「ハァ……」

 

 ため息を一つつく。

 

「あの……アレクセイ卿……?」

 

 このメイドは気に入っていたのだ。

 目元がララティーナに少し似ていたから。

 

 

「ああ、レナータ……──」

 

 

 だが。

 

 もう、駄目だ。

 

 

「──なぜノックをしない?」

 

 私は、部屋の壁に飾られた剣を手に取り──

 

 

 ▽

 

 

 それは、春の到来を感じさせる、ある晴れた午後の事。

 

「天気もいいし、僕と魔王城に行かないか?」 

「こいつとうとうイカれたみたいだ」

「そうですね」

 

 僕の提案に唾を吐くカズマとめぐみん。

 

 失礼なボウズ共だな。

 

「なぁ、聞けよ」

「マッドサイエンティストの話に耳を貸してたら、命がいくつあっても足りねーよ」

 

 今のは転生ジョークだろうか。

 僕はソファでくつろぐカズマの横に座る。

 

「良いから聞け。魔王城に行くっていうのも、別に魔王をぶちのめしに行こうってわけじゃない。まぁ、それもいずれやるが……。とにかく、今回は魔王城に掛けられたバリアを調べたいだけだ」

「そんなの、ドローンとかでやれば良いだろ。もしくは、スーツだけ向かわせるとかな」

 

 僕は首を静かに横に振り。

 

「詳しく調べるために複数のデカい機材が必要なんだ。クインジェットでバリアの近くまで運んで、コードを伸ばしてバリアに接続する」

「めっちゃ無防備になるじゃん! いやだよ! 総攻撃受けたらどうするんだ!」

「そこは大丈夫だ。クインジェットから出すのはコードだけ。機体はステルスモードで隠せるし、もし気づかれたらすぐさま退散する」

 

 それを聞いたカズマは、それでも警戒しきった視線だけを僕の方へと向けてきて。

 

「……俺が必要な要素は?」

「敵感知スキルだ。それと、君のドローンの腕」

 

 横から『私もドローンは使えます』と控えめなアピールが飛んできたが、めぐみんは最初からアシスタントとして連れてくつもりだったのでひとまず置いといて。

 

「嫌だ! やりたくないもんはやりたくない! 俺はヒーローじゃないの!」

 

 そう言い残してカズマはソファから立ち上がり、喉でも乾いたのか台所へと向かう。

 遠ざかっていくその背中に、僕は一言。

 

「そう言えば、君の借金を一部肩代わりしたのは誰だったっけな?」

 

 ピタッと、カズマが動きを止めた。

 

「おや、あれはなんだ? ほら、あそこの壁に立てかけられてある弓だよ。良い弓じゃないか! 誰に用意してもらったんだ?」

 

 僕はソファから立って、プルプル震えだしたカズマの周りをほくそ笑みながらぐるぐる回る。

 

「あー……いっつも夜中まで僕のラボに居座って、ゲームばかりやってるのは誰だっけ? 例の店のサービス受けるのに屋敷じゃ無理だからって、僕のラボに夜な夜な」

「ぁぁぁあああ!! わかったよ!! やれば良いんだろやれば!! バーカ! 陰湿ヒーロー! 生えかけの髭がキモいオヤジ!」

「やる気十分で結構だ」

 

 そしてアクシデントで無くなった髭をネタにするのはやめろ。

 

 いそいそと準備を始めたカズマを見ながら、少し寂しくなった顎周りを手でなでていると。

 

「……なぁ、私も付いて行っていいだろうか?」

 

 ついさっきまでずっと黙っていた、ダクネスがおずおずと聞いてきた。

 

「ステルスで動くつもりだし、万が一敵に見つかっても交戦するつもりはない。君が活躍できる場はないから、来る意味はないと思うぞ」

「くっ……淡々と私がお荷物だと伝えてくるその毒舌っぷり……少し前の、手当たり次第に私たちを口説こうとする獣のようにギラついた眼をしたトニーも良かったが、やはりこっちだな……!」

 

 僕は単に事実をそのまま伝えただけなのだが。

 

 またおかしな世界へ旅立ち始めたダクネスは無視して、僕も魔王城へ行こうと用意を……

 

「……なんだって? 僕が君らを口説いた?」

「ああ、それはもう……暗がりで二人きりになろうものなら、すぐにでも襲われそうな……!」

 

 体をくねらせながらそう言うダクネスを見て、思わずめぐみんの方へと顔を向ける。

 マジ? と言った視線を込めて。

 

「マジですよ。私にキスを迫ろうともしました。あれはトラウマものでしたよ」

「HAHA……この僕が……君らを? HAHAHA……ダイナマイトで火遊びする趣味はないね」

 

 まさかそんなことは無いと頭を振っていると、ダクネスが僕の横でわざとらしい咳ばらいを一つした。

 

「その、私の趣味の話はさておき……今回の作戦には私を同行させてほしいのだ……」

「だから、君を連れて行くメリットが……」

「頼む……!」

 

 真剣な顔で懇願してくるダクネスに、僕は少々驚く。

 

 ここまでしつこいダクネスは初めて……でもないが、自分の性的欲求を満たそうとする時以外でこうも食い下がるのは初めてだ。

 

 ……しょうがないな。

 

「はぁ……まぁ、別にメリットがないだけで、デメリットがあるわけでもないだろうしな。ついてきてもいいが、変なことはするなよ?」

「も、もちろんだ!」

 

 ダクネスはパァっと笑顔を咲かせ、自分の部屋目掛けて装備を取りにすっとんでいく。

 カズマがブツブツ言いながら支度を始め、めぐみんも杖を取ったところで……、

 

「……なによ、皆して私を見て?」

 

 二人用のソファを占領し、ふんぞり返りながらブドウをつまむアクアに、そこにいる全員の視線が集中した。

 

「……お前は来ないのかなって」

「魔王城なんておっかないところ行くわけないでしょ。私はなんも声かけられてないんだし、別に行かなくてもいいんでしょ? だったら、私はここに残るわ」

「……とか言ってますが?」

 

 アクアの理屈にカズマはこめかみをヒクつかせ、めぐみんは呆れたようにため息、をついてアクアに指を指して僕にそう聞いてくる。

 

 僕としては別にいてもいなくてもいいのだが……。

 だがまぁ、あの言いぐさには少々むかっ腹が立たなくもない。

 

 僕はアクアにとびっきりダメな奴を見る目を向けて。

 

「あぁ、別にいいさ。いてもどうせ迷惑事を招くだけだろうしな」

「……なによ。そんな目を向けたって無駄よ。私はそんな危ないところに近づきたくないの」

「みんな、帰りにクインジェットで美味しいものでも食べようか。最近改良してね、機体の外の景色を取り込んで、機内に投影できるようにした。機内は360度僕らだけの展望台さ」

 

 本当は周囲の映像を取り込んでステルス化させるための技術だが……そこは僕の遊び心だ。

 

「チーズとワインでも持っていくか。ラボのカクテルラウンジから特別なやつをな」

 

 それを聞いたアクアの眉が、ピクっと動いた。

 カズマとめぐみんも僕の悪巧みに乗り、イヤらしい笑みを浮かべて僕に続く。

 

「じゃ、俺はシャワシャワがいいな。高級なやつ!」

「私はサンドイッチでも作りましょうかね。美味しい肉を使ったローストビーフでも挟みます」

 

 だんまりを決め込んでいたアクアだったが、段々と我慢できなくなったのかじわっと目に涙を浮かべ始めて……。

 

「ず、ずるいわよ! そうやって女神を引きずりだそうだなんて! 行くわよ! 行くから私にも宴会参加させて!」

 

 僕はアクアに小馬鹿にした笑みを向けて一言。

 

「悪いが、定員オーバーだ」

「わああああーっ!!」

 

 キレたアクアが、とうとう泣き叫びながら僕らにつかみかかってきた! 

 

 

 ▽

 

 

 カズマがドローンで索敵し、さらに追加で敵感知スキルを使って周囲の安全を確保する。

 

 ダクネスは僕の近くで、もはや装備している意味はあるのかと問いたくなる、当たらない大振りの剣を地面に突き立てて周囲を警戒。

 

 アクアは来てそうそうクインジェットの中で昼寝。

 

 そして僕とめぐみんはと言うと……、

 

「Hmm……」

「言ったでしょう。ある程度魔術に精通したとはいえ、簡単に理解出来る代物ではないと」

 

 先程からずっと、魔王城のバリアの前で唸っていた。

 前と同じようにバリアの組成を調べて解除を試みていたのだが……。

 

「結局わかったのは……全体の20%……いや、25%ってところか」

「はっきりいってそこまで理解できる時点でかなりおかしいのですが……。立ち食い感覚で寄って得たこの結果で、魔導の研究が100年は進みましたね」

 

 それでも魔王城の結界に不正アクセスして突破するには程遠い。

 なぜただの一生命体が機械も何も使わず、自分が内包するエネルギーのみでこんな強固なバリアを張れるのか……。

 

 魔法の世界だと言われても当然納得はいかない。

 むしろイラついてすら来る。

 

「さて、嫌がらせに新型爆弾でも取り付けて帰ろうか」

「良いアイディアですね。カズマ、聞こえますか? 紅魔族には、ピクニックの時に魔王城の結界に魔法を撃ちまくって退散するという恒例行事があるんです」

「僕も試作ミサイルを打ち込んだりしたんだ。あれは楽しかった」

『……お前らと関わってると魔王軍に目をつけられたりしないよな? 大丈夫だよな?』

 

 度々僕や紅魔族が魔王城に攻撃を仕掛けているという事実を知ったカズマが、インカム越しにそんな事を心配そうな声色で届けてきた。

 

「ねぇ、もう終わったー? はやくジェットのなかで美味しいものを食べたいんですけどー?」

「おっと、昼寝してた置物女神が食事をご所望だ。そろそろ戻るとしようか?」

 

 遠くで未だ敵を警戒してたダクネスを無線で呼び戻し、魔王城のバリアに取り付けていたコードを全て外す。

 

「はやくー! もうお腹ペコペコなんですけどー!」

「トニー、あいつここに置いてかないか?」

 

 いつの間にか僕らの横に戻ってきていたカズマが、クインジェットの中からわがままを垂れるアクアにこめかみをヒクつかせながらそう言った。

 

 正直賛成だが、あいつなら泣きながらも普通に歩いて帰ってきそうで怖い。

 

 だがまぁ……腹が減ってきたのは事実だ。

 せめて雑用くらいはやってもらうとするか。

 

「今行くから、せめてテーブルと配膳の」

 

 準備をしろ。と、最後まで言おうとしたその時。

 カッと、僕らの目の前が明るくなり──

 

 

 

 

 

 

 

 ──クインジェットが、盛大に爆発した。

 

 

「なっ……!?」

「ア、アクアーッ!!」

 

 一瞬にして燃え盛るスクラップと化したクインジェットに、カズマが叫ぶ。

 

 返事は帰ってこない。

 

 僕は近くに待機させてたスーツをすぐさま装着して、戦闘態勢を取った。

 

「カズマ、敵感知は!?」

「ひっかからなかった! 多分、超超遠距離からの攻撃だ!」

 

 どうなってる……! 

 敵感知外からの攻撃なんて爆裂魔法でも無理だし、そもそもステルスモードで周囲からは見えないはずだ。

 

 

「わ、私はアクアの安否を確認してくる!」

「誰だか知りませんが、100倍返しにして消し飛ばしてみせますよ!」

 

 ダクネスが未だに火柱を上げ続けるクインジェットへと突っ込み、めぐみんは眼を紅蓮にギラつかせて爆裂魔法の詠唱を始めた。

 

 僕は周囲をスキャンして索敵しようとするが……。

 

「トニー、あれ……」

 

 カズマのその言葉に振り向き、彼が睨みつけている方へと視線をやる。

 

 どうやら向こうから姿を見せに来たようだ。

 

 木々の向こうに、黒くて暗い人影が映る。

 

 

 

「フム……鬱陶しい光がチラつくから来てみれば……中々に面白い客が来ているではないか」

 

 現れたのは、背丈190はありそうなタキシード姿の大男。

 一見すると人間のようだが、顔には道化師が付けていそうな白黒の仮面が張り付いていた。

 

 僕はすかさず掌を向けて警告する。

 

「そこで止まれ。従わなわければ攻撃するぞ」

「おっと。突然攻撃して失礼した! 汝ら人間に危害を加えるつもりは無いので、そのピカピカおててを下ろすが良い、そこの缶詰頭の男よ!」

 

 ふざけた態度で手を挙げ、降参の意を示す謎の男。

 

 缶詰頭……。

 

 いや、違う。こいつは今なんて言った? 

 まるでアクアが人間では無いことを知っているかのような口ぶり……。

 

「あんたは何者だ? 吹っ飛ばしたジェットは弁償してもらうからな」

 

 仮面の男は名を聞かれるのを待ってましたと言わんばかりに、口元を怪しく歪め、仰々しく手を開いて、

 

 

「我輩は魔王軍幹部が一人。地獄の公爵にして、すべてを見通す大悪魔──」

 

 

 貴族のような一礼を完璧な所作で行い、こちらにぐにゃりと笑い掛けた。

 

 

「──バニルである」

 

 

 魔王軍幹部……! 

 

「や、やべぇ……!」

 

 幹部と聞いたカズマの顔が冷や汗にまみれる。

 

「さて、挨拶も済んだところで……汝らに聞かねばならんことがある……ここに来た目的はなんだ?」

「あぁ、いい天気なんで魔王をぶちのめしに来たんだ」

「ほうほう、魔王城の結界を調べに来たのか。教えてくれて感謝する」

 

 …………なんでわかった? 遠くから監視してたのか? 

 いや、それならわざわざ理由を尋ねる必要はないはずだが。

 

 思わずめぐみんやカズマと顔を見合わせる。

 

 バニルはそんな様子の俺達を馬鹿にするかのようにクツクツと笑って。

 

「良い狼狽えっぷりであるな、冒険者どもよ。我輩は全てを見通せるのでいちいち聞きだす必要はないのだ。ちょいと汝らをからかいたかっただけの事。まぁ、セリフだけはキザでカッコよかったぞ! フハハハハハハ!!」

 

 ……ずいぶんとイイ性格をした奴のようだ。

 

「良い苛立ちの悪感情を貰ったところで……自由気ままに生きている我輩とて、魔王軍幹部としての仕事を果たさねばならん。今すぐここから立ち去るか、つまみ出されるか選べ。なお、後者の場合は傷一つ負わせることなく優しくつまみ出してやるので安心するが──」

 

 

「『セイクリッド・エクソシズム』!!!」

 

 僕らの横から飛び出した淡い光が、バニルの体を包んだ。

 光の柱がバニルの足元から天へと突き抜け、やがて光が収まると、バニルがいた場所に彼が付けていた仮面だけが落ちていた。

 

「やってくれたわね、このクソ悪魔! 汚い不意打ちだなんて流石は悪魔だわ! ぶっちめてやるから覚悟なさいな!!」

 

 HANNYAの形相のアクアが、汚い不意打ちをバニルにかましてそう叫んだ。

 無事だろうとは思っていたが、まさかあんな顔を煤だらけにする程度ですんでいるとは。

 

 ……だが、それはアイツも同じだ。魔王軍幹部があれで終わりだとは思えない。

 

「あ、あれを見てください!」

 

 僕の予感は見事的中。既知の生物の常識を諸々超越した挙動と理屈で、地面に落ちた仮面の下からニョキニョキと体が生え始めた。

 

 見た感じ、あの仮面が本体で……体は土くれのようだな。

 

「フハハハハ!! この我輩の美しい仮面にヒビを入れてくれおって! 不意打ちとは、その貴様が忌み嫌う悪魔と変わらんではないか!」

「人の悪感情を吸って辛うじて生きてる害虫と同列にしないで貰えますぅ?」

「そこまでだ」

 

 小学生並みの罵り合いを始めそうな女神と悪魔の間に割って入る。

 

「おい、神と悪魔の戦いなんて教会の壁画に描かれそうな事始めるつもりなら、もう少し理知的に喋ったらどうだ?」

 

 ここは一つ、大人である僕が対話するとしよう。

 あいつを上手く誘導すれば、魔王やこのバリアに関する情報を手に入れられるかもしれない。

 

「理知的? 人類最高の頭脳持ちの汝のようにか? ほうほう! 約束を守れず、愛しのソバカス娘に愛想つからされかけてる汝が言うと説得力があるな?」

 

 ……。

 …………。

 

「今、なんて言った……?」

「あの、ト……トニー……落ち着いてください……」

「そ、そうだぞ……悪魔の言うことに惑わされるな……」

 

 剣呑な雰囲気を全開にして、悪魔に向けて一歩踏み出した僕を、めぐみんとダクネスの二人が恐る恐るなだめにかかる。

 

 邪魔をするな。大人が話しているんだぞ。

 

「フハハ……うん? あまりいい悪感情が沸いてこんな……? 一応汝が気にしていそうな事を見通して選んだはずだが……」

 

 間抜けな仮面の奥から訝し気な視線を向けるバニルを、僕は鼻で笑う。

 

「HAッ。あいにく自分が招いた結果はちゃんと受け止めて前に進めてるんでね」

 

 ペッパーの件に関しては、アクセルにいる優しい方の悪魔のおかげでもあるが。

 

「にしても……魔王軍の幹部なんて大物やってる奴のすることが、よりにもよって他人の人間関係への茶々入れか。ダサいのは仮面だけじゃないみたいだな。早く大人になれよ」

「やーいやーい! 怪人クソダサ仮面!」

 

 隣で僕に乗るかのようにして煽るアクア。

 バニルの口元がほんの一瞬、ピクリと動いた。

 

「たかだか百年も生きれぬご飯製造機(人間)が、四千年以上生きる我輩(大悪魔)をガキ扱いとは大きく出たものだ! ヒーローではなくコメディアンを名乗った方が将来的にも良いのでは? 殺人ロボットを作る心配もないであろうしな! フハハハハ!!」

「四千年も生きてるクセして、未だに魔王の手下やってるどころか、人類との戦争の手助けすらマトモに出来ないのか。僕はこっちに来て一年足らずで王都から魔王軍を追い出しけどな? なんだ、悪魔ってのは無駄に長く生きるだけの無能な劣等種族じゃないか! HAHAHAHAHA!!!」

「いいわよトニー! もっと言ってやりなさいな! 見なさい! あのダサ仮面悪魔、トニーにイラついてきてるわよ!」

 

 ここまで相手を煽るのは僕も久々だ。

 ヒリつく空気が、ねっとりとした毒ガスのように周囲に広がる。

 

「お、おいトニー……そろそろやめようぜ……相手は魔王軍幹部だろ……隙を見て逃げるぞ……! 俺たちを抱えて飛んでくれよ……!」

 

 楽しくなってきたところなんだ、邪魔するなよ。

 

「……我輩は今の戦争に大した興味はない。ただ、先代の魔王に今の魔王を頼まれたから、城でなんちゃって幹部を引き受けているだけである。悪感情を食えればそれでいいのだ。従って、貴様のその煽りは全くの的はずれである。大切なご飯製造機と言えど、地獄の公爵たるこの我輩にその物言いは看過できんな」

「つまり、あんたは幹部とは名ばかりの城に引きこもる四千歳のニートってことか。地獄の公爵の名が泣いてるぞ?」

「事件が起きない限り研究所に引きこもってる貴様が言うでないわ!」

「人類を守る為の研究をしてるんだ!二酸化炭素も生み出せない生産性ゼロの下等生物にはわからないか!?」

「ストーップ! ストップ! ストップ!! お前らいい加減しろよ! ヒーローと大悪魔がなんてくだらない言い争いしてんだ!」

 

 僕とバニルの間に割って入るカズマ。

 ふと後ろを見てみると、めぐみんもダクネスも若干呆れた顔をしていた。

 

「よくもまぁ、お互いあんなスラスラと馬鹿にする言葉が出てきますね。感心ですよ」

「なんという罵りあいだ……あの間に立って罵倒されたい……されたいが、流石に時と場所を考えるべきだ……と、私は思うぞ」

 

 僕は、僕をなだめようとする三人に心配いらないと手を振る。

 

 ──ゆっくりとバニルの顔面目掛けて、腕部のあらゆる武装を展開させながら。

 

「僕があんなダサい仮面被ったアホのおちょくりに本気で怒ると思うのか? 笑いしか出てこないね」

「笑ってねーじゃん。指先から腕までピカピカじゃねーか」

「そこだけは意見が合うな、コスプレ中年よ! 貴様のような自己中男のつまらぬ煽りなど、口角すら上がらぬわ! フハハハハ!!」

「笑ってんじゃん。目が光ってるじゃん」

 

 バニルは口元こそニヤつかせているが、その両目は赤黒くギラつき、邪悪なオーラを放っている。

 

「おい、やめろよ? マジでやめろよ? ここでお前らみたいなのがやり合ったら、俺達吹っ飛ぶからな?」

「HAHAHAHA! 安心しろ、安心していいが……少し下がっててくれ」

 

 それを聞いたカズマが、血相を変えて逃げだす。

 

「おい聞いたかお前ら! 今すぐここから逃げろ!! 周囲一帯吹っ飛ぶぞおおおお!!」

「援護は任せなさいトニー! その木端悪魔を一緒に粉々にして鉢植えに撒きましょう!」

「トニー! 爆裂魔法の準備は出来てますからね!」

「逃げるなんてとんでもな……」

「いいから離れるぞバカども!!!」

 

 あっという間に遠ざかる四人の背中を見て、 僕とバニルは互いに肩をすくめる。

 

 ロックオン、完了。リパルサー出力、70%。

 

「あいつら、僕らが大人気なくいきなり喧嘩を始めると思ってるらしい」

「フハハハハ! 低く見られたものであるな! フハハハハハ!」

「HAHAHAHAHA! 大人同士で世間話でもしようと思ったのにな? HAHAHAHAHA!!」

 

 ロックオン、完了。リパルサー出力、80%

 

「フハハハハ! フハハハハハハハ!!」

「HAHAHAHAHA! HAHAHAHAHAHAHAHA!!」

 

「「フハHAHAハHAハハHAハHAHAハ!!」」

 

 ロックオン、完了。リパルサー出力、99%

 

「「クックックッ……」」

 

 

 

「「く──」」

 

 

 

ロックオン、完了。リパルサー出力、120%

 

 

 

 

 

「「──くたばれぇーッ!!」」

 

 

 僕のリパルサー光線とバニルの赤黒い怪光線がぶつかり、麗らかな日差しすらかき消す光の球体が、二人を挟んだ中央で膨らむ。

 

 

 やがて、千のリアクターの核融合が如き閃光と大轟音が辺りを包んだ。

 

 




足に装着したヴィブラニウム製の蹄鉄とウマ娘の脚力を武器に、レースのためでは無く、人々を守るために走るウマ娘……。

MCU×ウマ娘とか描きたい……描きたくない?
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