この素晴らしい世界に祝福を!アナザー・ユニバース・アイアンマン   作:Tony.Stank

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第40話 PAYDAY

 バニル討伐の懸賞金によって、カズマが抱えていた借金は無くなった。

 

 カズマが負ったこの借金は、アルダープがダスティネス家を破滅させるために仕組んだもの。

 そして、僕を狙った裁判騒ぎも切り抜けた。

 

 アルダープが僕らを狙った計画は全て防いだと見ていいだろう。

 守備ターンは終わりだ。

 

 次は……

 

「さて、奴をぶっ潰すとするか」

「待ってました!」

「イェェエエイ!」

「どうしてくれようかしら! あの豚ゴリラどうしてくれようかしら!!」

 

 最近ようやく復興が終わったラボの一室にて、カズマ達と共にヤツを潰すための会議を始めていた。

 もちろんダクネスは抜きで。

 

 あえて照明を落とした薄暗い部屋で行われる報復心にまみれた会議は、さながら呪いの儀式のようで。

 

「トニー。バニルとの会話からして、もう何するかは考えてあるんですよね?」

「もちろんだ。さて、みんなに質問だ。悪の組織を追い詰めるとき、まずは何から始める?」

「はい、トニーせんせー。活動資金を根こそぎ持っていくことです。マフィアを追い詰めるドキュメンタリー特番でやってたのを昔見た」

 

 僕がノリで投げかけた質問に、カズマが同じくノリで答える。

 

「正解。金がなくなれば取れる手段が限られてくるからな。ボロを出しやすくなる」

「しかし、貴族の資産を我々一般人がどうこうできるんですか?」

 

 めぐみんの意見はもっともだが、それはあくまで一般人として動いた場合。

 

「ねぇ、トニーってば顔が怖いんですけど……ヴィランの顔なんですけど……」

「おい……お前まさか……」

 

 真っ先に気が付いたカズマに皆まで言うなとアイコンタクトをし、自信満々のプロジェクトをプレゼンする新社員の気持ちでみんなに告げた。

 

 

 

 

「ああ、奴の隠し金庫を爆破する」

「はいクソー!」

 

 僕は全力でその場から逃げ出そうとしたカズマとアクアの首根っこを掴んで、再び椅子に座らせる。

 

「おい、君達の逃げ癖は何とかしろ」

「うるせー! お前こそ無茶苦茶しようとして周りを巻き込むその癖を何とかしろよ!」

「一本取られた」

「痛いところを突かれましたねトニー」

「いやよー! 絶対嫌! そんな物騒な犯罪行為に巻き込まないで!」

 

 二人に向き合い、大人として彼らと話す。

 子供二人を……アクアを子供にカウントして良いか分からないが……とにかく、こいつらを言いくるめるのくらい……。

 

「ダクネスを救うんだぞ、それでいいのか?」

「だからって大犯罪をしでかす必要はないだろ!! 変な方向に思い切りが良すぎるんだよお前は!」

「そうよ! トニーが捕まった時どれだけ大変だったと思ってるの!?」

「それはあんたのせいでもあるだろ! おい耳塞ぐな!」

 

 僕の心からの説得も虚しく。

 二人の拒否反応は強くなっていくばかりだ。

 

「トニー……いくら表情を大人っぽく取り繕っても、いちいち駄々に目くじら立てていては駄目ですよ……」

 

 後ろからボソッと聞こえた娘っ子のノイズはシャットアウトする。

 

 にしても……カズマとアクアの二人はビビりにもほどがある。

 

「魔王軍幹部、機動要塞デストロイヤーとだって戦って来たのに、今更矮小な貴族の金庫を吹っ飛ばすのにビビるのか?」

「冒険者として戦うか、犯罪者になってコソコソするかじゃちがうんだってーの!」

「そーよ! 捕まるなんて嫌よ!」

 

 付き合ってられんと立ち上がり、出口へ向かう二人の背に手を伸ばす。

 

「おい、待て……金庫はこの国にはないんだ、すこしでも人手が……」

「あー聞きたくない聞きたくない! とにかく! 俺は俺で別の手を探すからな!」

「怪我しても知らないんだからね!」

 

 カズマもアクアもあっというまに部屋から立ち去ってしまった。

 

 自動ドアの閉まる無機質な音が響く。

 

 ……取り付く島もないとはこのことか。

 

「……トニー、我々二人だけでやるんですか?」

「いいやまさか。カズマとアクアは作戦に必須だ。なんとしてでも参加してもらう」

「案はあるんですか?」

 

 僕はフッと鼻を鳴らし、めぐみんにいたずらっぽく笑い掛けて。

 

「そこで質問だ。ここに残ってる二人の特徴は?」

「どちらとも超天才」

「その通り」

 

 二人でほくそ笑み、茶番を繰り広げる。

 

「二人を舞台に引きずりだすなんて僕らにかかれば余裕だってことを証明してやろう」

「……いい案が浮かびました」

「僕もだ。意見の交換会といこう」

 

 

 ▽

 

 

 大犯罪の片棒を担がされそうになったその夕方。

 ……いや、実際過去にも泥棒の片棒を担いだのだが……。

 

「まったく、『じゃあせめて晩飯の買い出しにでもいってこい』って……そもそも今日の買い出し当番はトニーだってのにさ……あいつならスーツで飛んで帰ってくるだけだろ」

 

 買い物袋を首にかけながら飛ぶアイアンマンは中々シュールな絵面だが。

 そんな風に愚痴りながら買い物の帰路を歩いていると、付き添いのアクアが上機嫌そうに話しかけてきた。

 

「でも、『余ったお金で好きなもの買え』って、いっぱいお金くれたじゃない! おかげで良いお酒が買えたわ!」

「だな。バニル討伐のお祝いもまだだったし、今日は美味い鍋と美味いお酒でパーティーだ!」

 

 満面のアクアに毒気を抜かれ、豪勢になるであろう今日の晩飯に想いを馳せながら商店街を出ようとしたその時だった。

 

「お客さんお客さん! 忘れものですよ!」

 

 そんな声に、思わず振り返る。

 何かの店の店員だろうか。エプロン? をつけた二人組の男女が立っており……、

 

「ただいまサービス期間中でしてね! この商店街で一定額以上のお買い物をしていただいたお客様には、福引をしていただいてるんですよ!」

 

 そう言って人当たりのよさそうな笑顔で手招きしてきた。

 

「カズマさんカズマさん、福引ですって! 景品は何かしら!」

「一等賞はなんと! どどーんと豪華に海外旅行! チャレンジして損はありませんよ!」

「海外旅行!? 凄いわ! 運だけはいいカズマさん! 私の為に一等賞を引き当てて頂戴!」

 

 こいつバカにしてんのか。……にしても福引……福引かかぁ。

 

 俺はこれ以上ないドヤ顔を浮かべて。

 

「俺、福引で悪い結果出したことないから」

 

 バニル討伐で借金がなくなったことと言い、俺には今良い波が来ていると思う。

 

「一等出しても文句はいうなよ?」

「もちろん」

 

 ガラガラの取っ手を握り、逆回転させて調子を確かめる。

 なんだかいけそうな予感がしてきた。

 

 願掛けのように深呼吸をして、一気にガラガラを回す。

 

「そぉい!」

 

 受け皿の上に転がり出た玉の色は……

 

「金……色……?」

「おめでとうございます! いっとーしょーっ!!」

 

 ガランガランとベルの音がけたたましく鳴り響く。

 

 ……マジか。

 驚きの感情に、喜びの感情がなだれ込んで上書きされていく。

 

「えっ? えっ? ウソ? ウソ!? カズマさんカズマさん! 今日はツイてるわ!」

「俺SUGEEEEE!! おいおい! やっちまったよ! どーしよ!」

「やったわやったわ!! トニー達に自慢しましょう!」

 

 借金の返済、そして海外旅行を福引で引き当てる。

 

 ……間違いない、ツキが回ってきてる。

 否、今迄の俺が不幸すぎたのだ。

 

 人目もはばからず叫び散らし、アクアと狂喜乱舞しながら、俺はそんな事を想うのだった。

 

 

 ▽

 

 

 それから一週間後。

 

 旅行に向かうために指定された待合所へと向かうため、俺はアクアと共に大きな荷物を持って屋敷の玄関に立っていた。

 

「気を付けて行って来いよ」

「もっと羨ましそうにしろよな、つまらない」

「海外旅行なんて僕にとっては散歩と大して変わらないからな」

「これだからセレブは……」

 

 サラリとひけらかすトニーに、俺とアクアで悪態をつく。

 

 今回の海外旅行は二名しか行けなかったので、その場にいた俺とアクアで行くことになった。

 というか、行先を聞いたアクアが絶対行くと言って聞かなくなったのだ。

 

 なにせ……。

 

「おみやげ期待してますよ? エルロードですもんね。きっとお土産も豪華絢爛間違いなしでしょう」

「そーよそーよ! めぐみんにはドラゴンの装飾が施された剣型チェーンを買ってきてあげるわ!」

「ほんとですか!? 楽しみにしてます!」

「いやそれどこにでもあるやつ」

 

 エルロード。

 ベルゼルグの隣国にして、カジノで成り立ったという変わった国だ。

 

 国の保有資産はこの世界最高峰だが、兵士は脆弱。

 隣国であるベルゼルグがエルロードを守り、エルロードが資金繰りに疎いベルゼルグを資金面で守ると、持ちつ持たれつの関係にある友好国だ。

 

 カジノの国だけあって、観光地として極めて評価が高い。

 豪華絢爛、黄金一色、酒池肉林の極みであるカジノ街はまさにこの世の楽園だという。

 

「それじゃあ行きましょうよカズマさん! 真の天国が私たちを待ってるわ!」

 

 天国ってお前が管理してる場所じゃないのかとツッコミたくなるが、それを抑えて玄関から出る。

 

「心から楽しんでくるとするわ。ちょむすけに餌やりすぎんなよ?」

「ああ、じゃあな。HAHA……」

「行ってらっしゃい。くっくっく……」

「……?」

 

 なんでトニーとめぐみんは微妙にほくそ笑んでるんだ? 

 

 妙な気配を漂わせる二人を背に、俺たちは渡された紙に書いてる集合場所へと向かうのだった。

 

 

 

 

 ──屋敷を出て一時間くらいだろうか。

 

 

 

 

「奇遇だな待合場で知り合いに会うなんて。そう思わないか?」

「奇遇ですね」

 

「おい……」

 

 屋敷を出た時のワクワクはどこへやら。

 俺は煮えたぎるような怒りに満ちていた。

 

 心弾ませてたどり着いた集合場所にいたのは……。

 

【エルロード旅行 カズマ御一行様】とかいうふざけたプラカードを掲げて立つトニーとめぐみんだった。

 

 トニーはいつもの軽薄そうな表情を浮かべながら、俺達にウィンクして一言。

 

「ようこそ、エルロードツアーへ」

 

 ……今すぐ殴りたい衝動に駆られるが、ひとまずこらえる。

 

「トニーとめぐみんってばなんで待合所にいるの? あなた達は来れな……あ、あれ? なんか凄く嫌な予感がするんですけど……」

 

 まだ状況に気がついてないアクアが、顔に冷や汗を浮かべながらそう言った。

 

「なぁ、おい……あの時の福引の店員って……」

「ええ、変装した私とトニーですよ。二人を金庫攻撃作戦に参加してもらうため一芝居打ちました」

「そういうこと。中々いい演技だったろ?」

 

 …………。

 ……。

 

「死ねぇぇぇえ!!」

「ゴッドブロー!!」

「スーツ」

 

「「ああああああああっ!!」」

 

 怒りに任せて殴り掛かるも、トニーが呼んだスーツの超合金ボディに拳が砕かれた。

 腕まで痺れる衝撃に思わず叫び、俺もアクアも地面をのたうち回る。

 

 ちくしょう、コイツ嫌いだ。

 

「それじゃ、馬車に乗ろうか? 楽しい旅の始まりだ」

「もう好きにしろよ……」

 

 こうなったらコイツは今後もあの手この手でハメてきそうだし、俺はいっその事あきらめることにした。

 その方が多分楽だろう。

 

「あんまりよ……トニーのこと少し嫌いになったわ……」

「人間関係は嫌われることの方が多い。時には殺意を持たれる程な。……あれ? これ僕だけかな?」

「納得だよクソ野郎」

 

 悪態をつきながら、トニーが用意した馬車に乗ろうと……

 

「……おい、なんだこれ? 取っ手がつかめないぞ」

「注目されたくないからカモフラージュモードにしてたんだ」

『あなたは控えめな方ですものね』

 

 俺が乗ろうとした馬車は、まるで壁に書かれたトリックアートのように触ることができず、中からはフライデーのジョークが聞こえて来る。

 

 これは……。

 

「カモフラージュ解除」

 

 ブンッと、独特な電子音を奏でて馬車が真の姿を現す。

 

「あら? クインジェットじゃない。あのクソ悪魔に吹っ飛ばされたはずでしょ?」

「アベンジャーズが使う輸送機なんだぞ。予備の機体が無いわけないだろ? まぁ、お古で薄汚れてはいるが。じゃぁご搭乗ねがおうか。フライデー」

 

 トニーがフライデーに呼びかけると、クインジェットのドアが開いてタラップが降りてきた。

 

 階段をのぼり、機内へと……

 

 ……? 

 今、背後に敵感知スキルが反応したような……? 

 

「どうした? やっぱ行きたくなくなったか?」

「いや、なんでもないよ。行きたくはないけど」

 

 気のせいだろうと頭を振り、機内の中に入る。

 

 前に乗ったクインジェットよりも、少し無骨が増した機内を見渡すと、椅子には見覚えのある少女の姿が。

 

「やっほ。みんな元気?」

「……クリス? なんでここに?」

 

 目立つ綺麗な銀髪の髪。

 そこにいたのは、過去に盗賊スキルを教えてくれたクリスだった。

 

「餅は餅屋だ。今回は潜入任務ってことで、助けを呼んだ」

「そういうこと! ねぇ、トニー。シャンパンのお代わりある?」

「もちろんあるとも。つまみは冷蔵庫に入ってるぞ。あぁ、あとアイスクリームもある」

「トニー! 素敵な旅になりそうね!」

 

 酒とつまみで簡単に機嫌を直すアクア。あまりにも釣られやすすぎる。

 トニーもこいつを物でホイホイ釣らないでほしい。絶対引っかかるから。

 

 なんでも用意できる当たり質が悪いぞこのオッサン。

 

「全員乗ったか? シートベルト閉めとけよ」

 

 洋画チックな軽口が聞こえると、クインジェットの扉が閉まって機体が宙へと浮かび上がる。

 酒と料理にうつつを抜かして話を聞いてなかったアクアが、機体の揺れでワインを丸々一本地面に落として泣いていたが、雲を突き抜けて青空へと飛び込む、窓からの美しい眺めの前にはどうでもいい事だった。

 

「ああああー! 私の! 私のワインがー!! またワインが駄目になっちゃったあああーっ!!」

「君のじゃなくて僕のだ。あとで拭いとけよ」

 

 

 ▽

 

 

 エルロードへと向かう空路の中。

 

 僕は、機内の中央にあるホログラム発生器を兼ねたテーブルを囲み、カズマ達に作戦概要の解説をしていた。

 

「……でだ、やつの金庫なんだが……田舎町のアクセルじゃ金庫に不安があったらしい。それでセキュリティが完璧なエルロードに金を移したって事だ」

 

 相変わらず金にどん欲ですねと、めぐみんが小さく唸り。クリスが呆れたように鼻を鳴らした。

 正直僕も金は大きな銀行に預けていたので……というか、金持ちは大体そうするので奴の行動パターンは読める。

 

 今回アルダープの金庫のありかに目星をつけられたのも、自分がセレブであることが理由の一つだ。

 

「で、どんな場所にあるんだ? ドラゴンの腹の中とか言うなよ?」

「すくなくともタンスの裏ではなさそうですね」

 

 めぐみんの小粋なジョークが披露されたところで、僕は端末を操作してホログラムの映像を出す。

 ホログラムには、王都が田舎町に見えるほどの巨大な都市が映っており、そのどれもがきらびやかな装飾によって彩られていた。

 

「この町一番のカジノ兼銀行であるこの建物がターゲットだ」

「……デカくね? デカすぎね?」

「まぁ、中にあるのはカジノを始め、銀行、五つ星ホテル、ショッピングモール、etc……」

 

 街を拡大して映し出されたその建物は、ラスベガスのど真ん中に建っていても違和感のない超巨大建造物だった。

 

 それを見たアクアが、目をギラつかせる。

 

「凄い! 凄いわ! ここに泊まるの!? ここで遊ぶの!?」

「話を聞いてなかったのか? 遊びに行くわけじゃない、破壊工作しに行くんだぞ」

「……悪徳領主のお金なんだし、少しくらいくすねて、それをカジノで……な、なんでもないわよ! なんでもないからそんな目で見ないで!」

 

 鋭くなった僕の目線に気が付いたアクアがすこし小さくなって黙ったところで、話を再開する。

 

「当然、警備もエルロード最高クラスだ。クリス、どう思う?」

「警備兵の質は低いと思うけど、トラップは質も量もケタ違いだろうね。過去最高クラスだと思っといたほうがいいよ」

「貴重なご意見どうも。……とまぁ、奴の資産が眠っている金庫を吹き飛ばすのは至難の業だ。めぐみんの爆裂魔法無しじゃ無理だろう」

「……いいんですか? いいんですね!?」

 

 悪徳貴族が貯め込んだ金銀財宝の山を粉みじんに吹っ飛ばせるとわかり、めぐみんがかつてないほど目を輝かせた。

 

 全く、現金な娘っ子だ。

 

「ああ、悪徳貴族の貯め込んだ資産を一つ残らず灰にしてくれ。焼けたエリス札が降り注ぐ光景をバックに佇む君はさぞ絵になるだろうな?」

「うおおおおおお! 燃えてきました! なんという私好みのシチュエーション!! 流石トニー! 私の喜ぶ演出をよーく理解してますね!!」

 

 小躍りして妙ちくりんなポーズを取るめぐみんに温かい目を向けつつ作戦の説明に戻る。

 

「さて、作戦場所の説明が済んだところで、その内容についてだが……まずは衛星からスキャンした建物のホログラムから、構造的弱点を見つける」

「トニーがそれを見つけたら、今度はあたしとトニーとカズマ君で乗り込むよ」

「くはぁ」

「いい加減あきらめろ。いいものやるから」

 

 乗り込むとわかって露骨に嫌そうな顔をするカズマだったが、良い物という言葉に少し興味を示した。

 僕はクインジェットの後方にあるアタッシュケースを広い、ホログラムを消したテーブルの上に置いて。

 

「開けてみろ」

 

 自慢げに笑みを浮かべ、カズマへとアタッシュケースを滑らせた。

 ケースを受け取ったカズマは、ゆっくり留め具を外して中身を取り出す。

 

 どんな顔するか見ものだな。

 

「おいマジか……」

 

 機内のライトに晒されたそれは、一丁のスーツとマスク。

 ウェットスーツのように上下一体のデザインとなっており、生地のいたるところに様々な装置が取り付けられている。

 

 マスクは頭頂部以外を覆う機械的なバイザー……、バイクヘルメットとマスクの融合体といえるデザインだ。

 

 先程まで死にかけの深海魚みたいだったカズマの瞳が、年相応の少年のように爛々と輝く。

 

「ま、まさか、まさかこれは……!」

「君専用のステルススーツだ。大事にしろよ」

「FOOOOOOOOOO!!!」

 

 大喜びで跳ねまわるカズマと、それを羨ましげに見るめぐみん。

 

 君にはもうその眼帯とローブをやっただろ。

 

「すげぇぇえ! 誰もが夢見るハイテクNINJAスーツじゃん! ファンタジーは絶命したけどSFの始まりだ! 俺のコードネームは雷電な!」

「プークスクス! カズマさんがイケメンの雷電を名乗るなんて片腹痛いんですけどー! ゴブリンくらいで我慢しときなさいな!」

「ゴブリンなのはお前の脳みそだろ」

「…………」

 

 機内で取っ組み合いを始めたゴブリンJr.とゴブリン女神。

 

 互いの髪を引っ張ったりほっぺをつねり合ってるところで、クリスの手によってようやく引きはがされた。

 

 ここは託児所じゃないぞ。

 

「……ところでトニー、私にはなにかないの?」

 

 カズマと軽いにらみ合いをしつつ、アクアがそんなことを聞いてくる。

 

「君に頼む任務に特殊装備は必要ないんだよ。でも、君にしかできない超極秘最重要任務だからな続きは現地で話すよ」

「私にしか……できない……」

 

 必要とされてると感じたアクアが、カズマと同じく目を輝かせて任せろと胸を叩く。

 

 こいつら案外チョロいのかもな。

 金はかかりそうだが。

 

「潜入担当は僕、クリス、カズマだ。めぐみんはサポート、そしてフィナーレ担当だ。アクアの担当は後で話す」

「フィナーレ……終幕……うぇへへへへ……」

 

 フィナーレという言葉に瞳を輝かせ、機内の隅で奇妙な笑い声を響かせるめぐみんを尻目に、僕はホログラム映像を再び立ち上げた。

 

 衛星からのスキャンが完了した潜入先のホログラム映像を隅々まで見渡し、安全に潜入できそうなルートの割り出しにかかる。

 

 さて、丸裸にしてやるとしよう──

 

 

 ▽

 

 

 作戦会議が終わる頃には、僕らはもうエルロード上空に到達していた。

 本来なら馬車で10日はかかるそうだが、あいにくジェット機ではちょっとしたドライブ程度の体感時間だ。

 

 機体が雲の下へ降りると同時に、NYの夜景にも引けを取らない光の海が窓から見えてくる。

 

「わああ……! すごいわ! エルロード!! キラキラ……!」

 

 コックピットに顔を覗かせに来たアクアが、エルロードの夜景を見て目を輝かせた。

 

 今までアクセルの田舎町にずっといたんだもんな。

 

 変に騒がれそうになく、かつ平らな広場を見つけ、そこにゆっくりとクインジェットを降ろす。

 

「到着だ。フライデー、ドアを開けてくれ」

『了解です、ボス。足元に気をつけてください』

 

 開いたクインジェットから降り、体をほぐすように伸びをする。

 

 僕に続いて他のメンバー達も降りてくるのだが……。

 

「ね、ねぇ……本当にこれ着て行くの……?」

 

 スロープでモジモジするクリスに、僕は顔を向けて。

 

「恥ずかしがるな、似合ってるぞ。なぁ、アクア?」

「えぇ! とっても綺麗で可愛いわよ! 自信もって!」

「そんな事言われてもさ……」

 

 アクアとクリスの二人は、機内で着替えたドレスを身に纏っており、ハイヒールの音をスロープに響かせながら降りてくる。

 

「うぅ……ドレスは慣れてないよぉ……」

「ホントに綺麗だってば!」

 

 ラメの入った白銀のドレスをヒラヒラさせながら、クリスがぼやく。

 

「安心なさい ! きっとカジノに入ったらモテモテよ!」

 

 カジノに潜入するにあたって、普段の冒険者の姿では目立ってしょうがないのでドレスをこしらえたのだが……。

 

 ドレスより女神のような羽衣の方が似合うかもな? なんて、からかったらどんな反応するかな。

 

 そんな、しょうもないことを考えていると。

 

「ああ、とっても似合っているさ。まるで夜空に淡く輝く満月のようだ」

 

 僕でも言わなさそうな……いや言ったことあるかもしれないが、そんなキザなセリフに振り返る。

 

「カズマ……サトウ・カズマだ」

 

 タキシードを来たカズマが、スローブの上でジェームズ・ボンドを気取っていた。

 

「どうだ? 似合ってるか?」

「あぁ、よく似合ってるよ。まるで執事見習いのようだ。今のはそのモノマネだろ?」

「このやろう。自分が似合ってるからって……」

 

 自分の着てるタキシードに視線を落とし、カズマの妬ましげな視線を茶化すように笑った僕は、目的地の方へと歩き始める。

 

「それじゃ、茶番もここまでにしておこう。でも顔は緩みっぱなしでいいぞ。潜入先で浮かれた客を演じていたいからな。いいぞアクア、その調子だ」

「これ真顔なんですけど」

 

 

 ──それから歩くこと1時間弱

 

 ジェットを停めた外れの広場から、一気に人がいる繁華街まで来た。

 

「驚いたな……」

 

 人口が僕の世界より圧倒的に少ないこの異世界で、タイムズスクエア並の人数を見れるとは思っていなかったので少々面食らう。

 

「で、目当てのカジノは?」

「もう入っているぞ。ここはショッピングモールの一部だ」

「嘘だろ……」

 

 カズマが愕然として周囲の煌びやかな光景を見渡す。

 ますます浮かれた子供っぽいが、田舎者を馬鹿にするような目で辺りの人に笑われてるのでやめて欲しい。

 

 一緒に思われたくないのでカズマからすこし距離をとる。

 

「目当てのカジノはもうすぐだ。めぐみん、聞こえるか?」

『問題ありません。ステルスドローンも準備完了です』

 

 目当ての金庫室があるカジノに向かう道すがら、無線の調子を確認する。

 

『あっ、あっつい! ココアをこぼしてしまいました! 熱い熱い!』

 

 感度は良好。慌てふためく娘っ子の姿が目に浮かぶようだ。

 ちなみに、僕の肩には蚊を模した超小型ドローンが潜んでいる。

 

 めぐみんはこのドローンを使って金庫室侵入の手伝いをする役だ。

 

 あの子には少々退屈かもな。

 

「凄いわ!! 本当にラスベガスじゃない!」

 

 到着したカジノの入口は、まさにラスベガスそのものに近かった。

 職人の技が光る芸術的な装飾が宮殿の王室を彷彿とさせ、辺り一面が金や銀、人工的な光で輝いている。

 

 あぁ、実に見慣れた内装だ。

 

 そんなロビーを見渡し、懐かしさを感じていると。

 

「ところで、アクアさんの役目ってなに? 結局何も話してないよね。あと、トニーが持ってるアタッシュケースも気になるんだけど」

「あ、俺も気になってた」

 

 カジノの入り口に入る中、クリスがそう尋ねてきた。

 

 そろそろ良い頃合いだろう。

 僕は近くのテーブルに寄り、二人の疑問に答えるかのようにアタッシュケースをその上で開く。

 

 ──中に入ってたのは、総額5000万エリスの現金だ。

 

 それを見たアクア達が一気にざわめく。

 

「えっ!? 何その大金!? トニーってば何する気なの!?」

「うわすげぇ……」

「す、凄い大金だね……何に使うの?」

「今説明する」

 

 僕らの作戦は隠密作戦。金庫室に侵入し、アルダープの金庫を突き止めて破壊する事。

 そのためには、忍び込むチーム以外にも必要な存在があった。

 

「いいか、作戦は今からだ。僕とめぐみんは金庫を守る警備システムの妨害と無効化」

 

 その存在とは……、

 

「敵感知と潜伏スキルを持つカズマとクリスは先導と警備員の無力化。そしてアクア──」

 

 ……陽動だ。

 

 アタッシュケースをアクアの方へと滑らせ、ただ一言。

 

──ENJOY《遊びつくせ》

 

 

 浮かれ気味のアクアには、カジノで死ぬほど豪遊してもらうことにした。

 

 気分が良ければ酒を飲んで宴会芸。大声で笑い、歌い、踊り狂う。

 嫌でも人目を引くことだろう。陽動にはこれ以上ない適任者がアクアだったのだ。

 

 ドヤ顔でそう説明したが……目を輝かせて叫ぶアクア以外は、みんなかつてないほどドン引きしていた。

 

 

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