この素晴らしい世界に祝福を!アナザー・ユニバース・アイアンマン   作:Tony.Stank

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スパイダーマンNWHは本当に最高でしたねぇ
20年前からスパイダーマンに出会い、そして追い続けてよかった


第41話 PAYDAY2

 カジノフロアは吹き抜けとなっており、上の階からでもカジノを見下ろせる仕組みになっている。

 上階の金庫室があるフロアへと向かう道すがら、俺は階段の手すりからカジノフロアを見下ろした。

 

 千里眼スキルと盗聴スキルを使って熱気あふれるそのど真ん中を覗く。

 

 中心にいたのは、やっぱりというかなんというか……アクアだった。

 

 どうやら盛り上がってるらしい。

 

『みなさいな! 私の手札を! ロイヤルストレートフラッシュよ!』

 

 やってるのはポーカーのようだ。

 嘘だろと思わず口ににしてしまう。

 

 あのアクアが、ポーカーで最強の手札を……。

 

『僕もロイヤルストレートフラッシュ』

『僕も』

『ジョーカーのファイブカード』

『ああああああーっ! また負けたーっ!』

 

 ……??? 

 

 意味の分からない手札だらけすぎる。

 俺はこれも異世界かとこれ以上考えるのをやめた。

 

 考えるだけで無駄だこんなもん。なんだよ四人中三人がロイヤルストレートフラッシュって。

 なんだよジョーカーのファイブカードって。

 

 それよりも……

 

「トニー、ヤバいぞ。あいつ思った以上に金かけては負けまくってる。このままじゃあの金使いきっちまうかも」

「心配するな。あれ、実は五千万エリスじゃなくて一億エリス入ってるんだ」

「は?」

 

 衝撃の発言に思わず俺どころかクリスまで振り向く。

 

「あのケースは二重構造になっていて、一層目の五千万エリスを使いきったら二層目に隠された五千万エリスが一千万エリスずつ時間差でケースから排出される仕組みになってる。これなら無駄遣いしても確実に時間稼ぎができるだろ?」

「犬用自動餌やり機みたいなものか」

「そんなところだ」

「アクアさんを何だと思ってるの!?」

 

 そんなこと言っても、あのままじゃマジで五千万エリスがあっと言う間に底をつきそうだったしな。

 おとなしく高いお酒でも飲んで宴会芸でもやってくれてればいいのだが。

 

「おいおい! カジノフロアでバカみたいに金使ってカモられてるボンボンがいるみてーだぞ!」

「はははは! それは面白れぇな! 見てみようぜ!」

 

 浮かれた常連や観光客がカジノフロアの熱狂ぶりを聞きつけ、慌ただしく階段を降りていく。

 それを見た警備兵も相方と談笑しつつ、カジノの様子を上から眺めていた。

 

 よっぽどセキュリティに自信があるのか、はたまた平和ボケでもしているのか。

 

「効果アリだな。まずは関係者専用通路から侵入するぞ。警備兵の制服を拝借しよう」

「めぐみん、警備兵の制服がありそうなところって分かるか?」

『そこから右手側のドアに入って、職員用階段を登ったドアの先にロッカールームがあるようです。私がドローンで先行してロッカーの鍵を開けておくので、ドアを守ってる警備兵は頼みましたよ』

 

 トニーの肩からドローンが離れ、ドアの隙間から職員用階段へと向かっていく。

 

 俺たちはその階段へのドアの前を陣取る警備兵へと、近くの物陰から警戒されないように注意を向ける。

 

「あいつどうする?」

「考えてるところだ」

 

 大して重要性の無さそうな箇所を守っていた警備兵達は持ち場を離れて浮かれているが、さすがにこういう重要な所はしっかりと守っているようだ。

 

 トニーは何か案でも浮かんだのだろうか。

 

 何かひらめいたような顔を、クリスの方へと向けて一言。

 

「クリス、ハニートラップ仕掛けて来てくれ」

「それが人類最高峰の頭脳から出た作戦なの!?」

 

 さらっと出てきたセクハラに、クリスが食って掛かる。

 

「おい待て。単純かつ有効な作戦だぞ」

「いやいやいや! 無理だよあたしには……!」

 

 さて、トニーとクリスどっちの味方につくべきか。

 あまりクリスが恥ずかしい思いをするような作戦はやめるべきだとは……。

 

「トニーの意見に賛成だ。クリスなら絶対やれる」

「カズマくんも乗らないでよ! キミに至っては変な目で見る気マンマンでしょ!?」

「そんなことない、そんなことない。勝手に人を変態みたいにするなって」

「ぱんつ盗った人のセリフじゃないよ!」

 

 あれは不可抗力だ。

 

 クリスは自分を守るように体に腕を回し、俺達に攻めるような視線を向けてくる。

 

 ハニートラップを仕掛けるクリスを見てみたい感が少し表に出てしまったが、そこでトニーがクリスの肩を掴んで説得にかかり始めた。

 

「安心しろ。君ならできる」

「でもあたし……ダクネスみたいなスタイルとか無いし……」

「そういうのは立ち振る舞いでどうにでもなるさ。女神みたいな雰囲気を出してみるのはどうだ?」

「ちょっ……!」

 

 何か焦ったようにしてトニーに手を突き出すクリス。

 女神エリスの敬虔な信徒らしいので、今の発言はちょっと良く思わなかったか。

 

「トニー、流石にクリスに女神のオーラを出せってのは無理があるだろ。ここは酔っ払った浮かれ気味の女の子で……」

「なんだって?」

 

 ほんの少し、クリスの目が鋭くなった。

 

 ……あれ? フォローに入ろうとおもったのに……。

 

「カズマ君。これでもあたしは盗賊職なんだよ? 人から情報を聞くときにある程度演技することだってあるんだから」

 

 心なしか声まで低くなった気がする。

 女神の真似をしろってワードが彼女の信仰心に触れてしまったのかと思っていたけど違うのだろうか。

 

 それはともかく、俺だってエリス様に出会ってその美しさにやられた身。

 あんな雰囲気をクリスが出すなんて……。

 

「いやいやいや、無理だろ流石に。俺、エリス様に一度会ったことがあるけど、あんな雰囲気出せっこないって。ボーイッシュ系のクリスには特に」

「…………」

 

 あれあれ? クリスの眉がどんどん上へと吊り上がっていくぞ? 

 

 クリスは気合を入れるように、フンと鼻を強く鳴らして一歩踏み出し。

 

「よし、見ててよ。サッと釣って、人気のない場所でサッと気絶させるから」

 

 何故かトニーが俺にグッとサムズアップしてる。

 女神の雰囲気を出すとは思えない物騒なセリフを吐いたクリスが、警備兵がいる方へと向けて物陰から出る。

 

 廊下を照らす照明の下に出たクリスの顔見た俺は……、

 

「ッ……マ、マジか……」

 

 思わず息を飲んでしまう。

 そこにいたのは、あの時見た女神エリスの如き美しいオーラを出すクリスだった。

 

 ふわりとした優し気な表情、落ち着いていて品を感じさせる所作。

 

 エリス様を初めて見たあの時の気持ちを、俺は鮮明に思い出していた。

 

「あ、あれが熟練の盗賊職ってやつか……半端じゃない演技力だ……」

「アカデミー賞もとれるかもな」

 

 トニーが面白そうに笑いながら、警備兵に向かうクリスの方を見る。

 

 一層輝きが増したように見える銀色のドレスを、小さくなびかせ、クリスが警備兵の目の前を……、

 

「……あ、あれ!? おい、あいつ無反応だぞ!?」

「What the……」

 

 クリスも流石に想定外だったのか、廊下を二度ほど往復してみたものの……、

 

「お手洗いをお探しでしょうか?」

「……いえ、なんでもないです……」

 

 迷子と勘違いされて声をかけられた時点で心が折れたのか、絶望した表情で俺達のいる物陰へと戻ってきた。

 

「あはは……あはははは……スタークさん……私に女性的魅力は無いみたいです……」

「あー……落ち着け。女神の演技が抜けてないぞ」

 

 エリスっぽい立ち振る舞いのまま涙を流して突っ立っているクリスの姿に、俺はなんだかすさまじく悲しい気持ちになってくる。

 

「にしても、これはヤバいな。めぐみんは先行してるし……」

「……? いや、待て。あれは……」

 

 トニーがそう呟いて向ける視線の先では、見張りの警備兵が見回り中の兵と挨拶していたのだが……。

 

「……なるほどな。そういうことか」

 

 人類最高峰の頭脳が別のプランでも考え付いたに違いない。

 一体どんな……

 

 

「カズマ。君があいつに色仕掛けしてこい」

 

「……は?」

 

 駄目だ。凡人の俺には全く理解できない。

 

 理解不能理解不能。

 

 何かの聞き間違えかともう一度聞いてみよう。

 

「ごめん、なんて?」

「君があの門番の男を誘惑するんだ」

「??????」

 

 理解不能理解不能理解不能。

 

 俺がフリーズする横で、クリスがトニーに尋ねる。

 

「えっと……トニー? どういうこと?」

「彼は男が好きなようだ。今門番と見回りがあいさつしただろ? その時の門番の目……あれは色目だ。男にもモテてた僕にはわかる。見回りの容姿からして、カズマみたいな少年らしい顔が好みのようだ」

「なるほど」

「なるほどじゃねぇよ! じゃあ何か!? 俺は今からあいつの目の前まで行ってセクシーポーズでも取って来いって言うのか!?」

「YES」

「NOOOOO!」

 

 俺は先程のクリスのように体に腕を回してへたり込む。

 クリスの方へと視線を向けて助けを求めるが……。

 

「うーん、トニーの案に賛成かな。というわけでカズマ君、頑張って」

 

 チクショー味方がいねぇ! 

 そりゃ俺が先にクリスに同じことしたけどさぁ! 

 

「ほら、酔っ払った危うい少年になれ。もっと大胆に……クリス」

 

 そんなことを考えてるうちにトニーが目配せし、クリスが手をワキワキさせて俺の方へと向けてきた。

 

 ちょっ……。

 

「『スティール』! もういっちょ『スティール』!」

「きゃぁあああああっ!」

 

 俺の蝶ネクタイとシャツのボタンがクリスのスティールによって剥ぎ取られる。

 胸元が露になり、自分でも驚くほど情けない悲鳴を全力で上げてしまった。

 

「ん? 誰かそこにいるのか?」

 

 ヤバい。いや、もしかしたら助かったのか? 

 

 近付く警備兵の足音に緊張と安堵でパニックになりかけている中。

 

「カズマ君頑張って!」

 

 クリスが小声でそう囁き、俺を物陰から押し飛ばした。

 ドッと手を床に付き、顔を上げたその先には……例の警備兵が。

 

「大丈夫ですか? 何かトラブルですか?」

「えっ……あのっ……ちょっと酔っ払っちゃって……」

 

『いいぞ、その調子でどこか別の部屋に誘導しろ』

 

 インカム越しにトニーが無茶ぶりをぶち込んでくる。

 

 なんで俺がこんな目に……。

 

「どこか体調が悪いのですか?」

「その……」

 

『今だ! 目を少し細めて、誘うような視線で『少し横になれるところに連れてってくれ』と艶っぽく言え! 君ならできるぞ!』

 

 三流の監督気取りがうるさいったらありゃしない。

 他人事だからって好き勝手言いやがって! 

 

 チクショウ、やればいいんだろやれば! 

 

「あのっ……ちょっとっ……体が熱くってぇ……」

「ッ……そ、そうですか……ッ!」

 

 警備兵の視線が急激に熱を帯びる。

 

 わぉ、今までモテたことなんて一度もなかった俺が、ついに人を悩殺することが出来たよ。

 相手は男だけど。

 

『クク……僕よりセクシーじゃないか……! HAHAHA……!』

『カズマ君ッ……ふ、ふふふっ……それならイチコロだね……』

 

 ……俺何やってるんだろ。

 なんだか涙が出そうだ。

 

 そしてあの二人をぶっ飛ばしたい。

 

「医務室……いえ、休憩室まで……行きましょうか」

「ヒェッ……」

 

 警備兵は俺の肩に手を回し、自分の胸元へと俺を引き寄せた。

 屈強な男の厚い胸板から、肌の熱を頬で強く感じ取る。

 

 お父さん、お母さん。あなたの息子は、童貞より先に処女を失うかもしれません。

 

 

 ▽

 

 

「君の雄姿は忘れないぞ……カズマ」

 

 

 僕の横で、クリスが敬礼する。

 カズマが消えた方へと。

 

「ちょっとやりすぎたかな」

「最近ギルドでカズマのセクハラが問題になってたからな。良い薬になったんじゃないか?」

 

 クリスの解錠スキルで素早くドアを開け、階段を駆け上がってロッカールームへと侵入する。

 

 めぐみんからの情報でロッカールームに人がいないのは確認済みだ。

 

『ロッカーの鍵も解錠済みです。遅かったんで紅茶をお代わりしてまし……アッツイ! あつい!』

 

 どうやらまたこぼしたようだ。

 ジェットの中で一人だと言うのに賑やかでいいな。

 

 三人分の制服を取り、タキシードから警備兵の制服に着替えてロッカールームを出る。

 

 僕もクリスも服の下には特殊作戦用のスーツを着ていた為、同じ部屋で着替えても問題はない。

 

「まったく、制服のデザインが悪いな」

「正直ダサいね。そんなことよりも……」

 

 クリスが指さした先には、半泣きの顔で佇む服の乱れたカズマの姿が。

 

 僕はきさくに手を振って笑う。

 

「やあ。楽しんできたか?」

「隙を見て後ろから吸ってヤッたよ!」

「!?」

 

 おそらくドレインタッチですぐさま気絶させてきたと言いたいんだろうが、言い方のせいで酷い誤解を受けそうだ。

 

 現にクリスがものすごく顔を赤くして慌てふためいている。

 

「ったく、最高の作戦だったよ天才さん! 人類最強頭脳の名は伊達じゃないな!」

「わぁ……カズマくん……いざって時は大胆なんだね……」

「……?」

 

 警備員の服を受け取ったカズマが、怒りながら着替える。

 

 クリスがカズマに対して凄まじい勘違いをしてしまったが、面白いので放っておこう。

 

 なんだか微妙な空気の中、僕らは金庫室へと足を動かし始めた。

 

「よぉ、カジノのアイツみたか? バーカウンターにゲロ撒き散らしてたぞ。顔もスタイルも良いのに色々残念な女だよな 」

 

 連絡用通路ですれ違った警備兵が、今もカジノで元気に暴れてるアクアをそう言って馬鹿にした。

 

 仲間をバカにされ、うっかり怒ったりしてバレるような展開にならなきゃいいがと、カズマの方を見る。

 

「マジかよ終わってんな」

 

 だよな。そんな反応だろうと思ってた。

 知らないところで身内にすら馬鹿にされるゲロ吐き飲み仲間君の明日が僕はとても心配だ。

 

 と、すれ違った兵が遠くまで行ったことを確認したクリスが、僕に向かって。

 

「で、ここからどうするの?」

「無数の兵士に気付かれずに無数のトラップを掻い潜って金庫室へ向かう。楽勝だろ? めぐみんのドローンと君の罠感知でトラップをみつけつつ……僕が解除する。カズマは警備兵の探知と、必要なら無力化してくれ」

「え、トニーが解除? 魔法式の罠を? いつから魔法学者になったんだよ」

「昨夜から」

 

 信じられない物を見るような目を僕に向けてくるカズマ。

 

「魔法式トラップの仕組み、種類、解除方法。魔法の勉強自体は前からしてたんでね、簡単だったさ」

「お前ってマジ……ったく、チートにも程が……」

「それよりもだ」

 

 自分の天才っぷりをひけらかすことよりも大事な事がある。

 

「この先、お互いを呼び合うコードネームが必要だ。本名で呼び合うわけにはいかないだろ? で、考えた。僕がボス、クリスは助手君、君は下っ端君だ」

「ちょっとまて」

「ほんとだよ」

 

 僕が考えた最高のコードネームに、クリスもカズマが待ったをかける。

 

「そこは普通あたしがボスじゃないかなぁ? 経験者だし」

「下っ端君ってなんだよ。せめてワトソン君とかにしてくれよ」

「ヒント。この中で一番頑張ってるのは誰でしょう。一番賢いのは誰でしょう?」

『あの、作戦中に何してるんですか……? ちなみに私はクリムゾン・セプターみたいなのがいいです』

 

 めぐみんは場を沈めたいのか煽りたいのかどっちなんだ。

 

 面倒だな全く……。

 

「どうせコードネームだ、なんだっていい。ジャンケンで勝った順から適当に名乗れよ」

「お? 言ったな? 俺ジャンケン負けた事ねーからな」

「奇遇だね、あたしもジャンケン負けたことないよ!」

 

 勝手に盛り上がる子供二人。

 

 そして……。

 

 

「まさか俺が負けるなんて……」

「ふふ、言ったでしょ? 負けたことないって。私のことはお頭って呼んでね?」

「……言い出したのは僕だが、まさか下っ端君になるとはな……」

 

 僕もかなり幸運な方だが、この二人には敵わなかったらしい。

 別にどうでもいい事だが……これから二人に下っ端呼ばわりされるのは少々不満だ。

 

 終わったはずのコードネーム談議をつづけていると、真面目な声色でめぐみんから連絡が入ってきた。

 

『そこまでです。ここから先は気を引き締めてください』

「……だね」

 

 腑抜けた空気から一変、僕らの間に緊張の雰囲気がピリッと走る。

 

 歩いているうちに金庫室への通路に入ったようだ。

 めぐみんの操るドローンと、クリスの罠感知スキルがこの先にある罠を複数見つけ出したらしい。

 

 周囲には警備員の気配がない。

 罠で同士討ちしないよう、ここに巡回を置いてないのだろう。

 

 カズマも服の隅々に隠してあったパーツを組み合わせて弓矢を装備する。

 

「まずはそこの扉の前、ある程度近付くと何か作動するみたいだね」

『周囲をスキャンをします。少々お待ちを……おっと、踏むと左右から矢が飛んで来るようですね。もちろんただの矢じゃなさそうです』

 

「了解だ」

 

 僕が装着したサングラスに、クッキリと罠の位置が映る。

 そして、罠から出てくる魔術特有のシグナルも。

 

 ポケットからとある特殊装置を取り出し、罠の方へと向けた。

 三角錐の形状をした手のひらサイズで、一見アクセサリにしか見えない赤と銀のカラーリングが施されている。

 

「なにそれ?」

「ファブリケーター。ありとあらゆる物体の組成を解析することができる機械だ。本当は冷蔵庫よりデカいが、最近小型化させた。これで罠を解除できる」

「とにかくすごいってことは分かった」

 

 ファブリケーターを罠のある方へ向けると、形状を変形させてレーザースキャンを開始する。

 

 ──魔術というのは、科学の正反対に見えて紙一重だ。

 

 似通った面がいくつもあり、理解にそこまで時間はかからなかかった。

 人が直接放つ魔術はまだしも、罠はプログラミングされた自動迎撃システムとほとんど変わらない。

 

 可視化された魔術のシグナルを解析して、似たようなをシグナルをぶつけ合わせる。

 

 つまり、根底にあるものは……

 

「さて助手君、魔法より優れてるものって知ってるか? それはな──」

 

 計算によって作り出されたプログラムが魔術のプログラムを塗り替えて誤認識を起こす。

 この間に行われたのは、ただの計算。

 

 ……そう、

 

「──数学だ」

 

 ホログラムを閉じると同時に目の前の罠が解除され、壁面に隠されてた矢、床のスイッチなどが露になる。

 

「……科学チートってすげーな」

「どういたしまして」

 

 ただのナンセンスなオブジェとなり果てた罠を踏み越え、今と同じ要領で複数の罠を無力化していく。

 

 歩く速度は変わらず、ただひたすらに金庫室へ。

 

 

 

「──助手君、僕の合図に合わせてあそこの空気口に矢をぶち込め」

「『狙撃』!」

 

 解除。

 

 

「──お頭君、スティールで起動前にゴーレムのスイッチを抜き取ってくれ」

「『スティール』!」

 

 解除。

 

 

「──複雑に重なってるタイプの罠だな……僕が10秒床下の魔法陣を無効化する。クリムゾンなんとか君はドローンについてる振動カッターでワイヤーを切れ」

『任せてください。……あの、なんとかはやめてください。監視者とかで良いので』

「はいはい。切ったらトラップの機構がむき出しになる。その隙にお頭君は右の感知センサーをスキルで解除。助手君は天井にある金属製の罠をテルミットチャージが付いたトリックアロ―で部品ごと溶接させて動けなくしろ。……よし、今だ!」

「『スティール』!」

「『狙撃!』」

 

 なんなく解除。

 

 

 ハッキングの難しい罠は、構造的弱点を見つけ出したうえで物理的に解除する。

 カズマは臨機応変に対応できるガジェットの搭載された弓矢を使い、クリスは持ち前の窃盗スキルをフル活用。

 

 良いチームワークだ。

 

「この先も上手くやれると思わないか? このイケメンバンド集団」

「この先もやりたいとは思わないけどな……」

 

 この子がもう少し勇気を持ってくれると嬉しいのだが。

 

 

『おっと、皆さん止まってください』

 

 先行していためぐみんドローンから、制止指示が入る。

 

 僕らの目の前に立ちはだかるのは、床から天井まで十五メートルは優に超えそうな程の高さを誇る巨大な……。

 

「わぁ……壁かと思った……」

「これ扉……? 扉なのか?」

 

 壁と見まごう鋼鉄製の巨大扉を見上げた二人から、思わずと言った様子でそんな言葉が漏れた。

 

「重たい扉で進めないようにするトラップか……いや、トラップというよりは単なる通せんぼだな」

「罠検知に引っかからないよ?」

「言ったろ、通せんぼだって。つまり、超重たいドアって事だ」

「えぇ……」

 

 目の前にそびえたつTHE・鉄塊ドアを前に、カズマとクリスがげんなりとする。

 

「どうすんの? というか、あいつらはこれをどうやって開けてるんだよ」

『おそらく、騎士が何十人と集まって開けるのでしょう。非効率極まりないですね、アホだと思います』

 

 めぐみんもげんなりしているようだ。

 

「僕からすれば家のドアと大して変わらないさ。ほら、見てろ」

 

 僕が懐から取り出したのは以前デストロイヤーを無力化する際に使ったミニリパルサー・デプロイヤー。

 

 以前よりさらに小型化させ、さらにパワーもアップさせた。

 重量物の運搬だけじゃなく、こうして障害物の排除にも使える。

 

「Open Sesame」

 

 デプロイヤーを扉に取り付け、冗談めかしてそう呟く。

 

『トニー、トニー! 今の言葉は何ですか? 異国の言葉ですか?』

「その通り、どんな扉も開く魔法の言葉だ」

「下っ端君が言った通り、俺の国でも使われる禁断の言葉だぞ」

『ふおおおおお!』

 

 禁断の魔法の言葉というのが琴線に引っかかったらしい。

 めぐみんの目の輝きが音声越しに聞こえてきそうだ。

 

 からかわれてるとは知らないめぐみんを、僕とカズマでほくそ笑む。

 

「わぁ。なんだか男の子らしい一面って感じがするね……」

 

 クリスが呆れたような声を出すが、重量物と床がこすれ合う音……ドアの開く音にかき消される。

 

 開いたドアの隙間から堂々と中へと入った。

 中は……真っ暗で何も見えない。

 

 どうやら電気代をケチってるようだ。

 

 

「助手君、君のスーツのバイザーを起動しろ。暗視モードが付いてる」

「千里眼スキルの暗視があるから、正直いらないけどな……うおっ! こりゃカッコいい!」

 

 カズマの首元からマスクのパーツがせりあがり、変形してカズマの顔面を覆う。

 

 少年はとてもご満悦のよ……

 

「あああああああ! 髪の毛挟んだ!! ハゲる! 齢16にしてハゲる!!」

「あー……すまない、君の髪型が合わなかったな。次は挟まないように調節……」

 

 そこまで言い掛けて。

 

 ──カチカチッ

 

 そんな、固いもの小刻みにぶつけ合わせたような音に、全員が押し黙る。

 

「……敵感知に反応は?」

「……なし」

「あたしも……」

『サーチライトをつけます』

 

 めぐみんのドローンが周囲を照らす。

 そもそも、めぐみんが部屋の中を先行してクリアリングを終えているはずだが。

 

 ──カチカチカチッ

 

 再び聞こえた異音。

 カズマが、ブルリと身を震わせた。

 

「なんだ助手君、この音に嫌な思い出でもあるのか?」

「……小さい頃の話なんだけどさ、祖父母に会いに田舎の村に行った時……」

 

 明かりが周囲を照らし続ける。

 立体的に動けるドローンが、周囲を壁まで照らし尽くすが何も映らない。

 

「冒険気分で家から林に行ったんだけど、その時に影からでっかい黄色い虫が飛び出してきてさ……」

 

 ──カチカチカチッ

 

 異音。

 広い空間のせいで反響してて聞き取りづらかったが、どうやら音の出どころは天井のようだ。

 

 やたら高い天井へと、めぐみんのサーチライトが向かう。

 

「オオスズメバチって奴なんだけど、ソイツが俺に向けて大顎をカチカチと鳴らして威嚇して来たんだ……」

 

 ぽたりと、何か粘着質な液体が僕の足元に落ちた。

 

 サーチライトが、天井に巨大な影を作る。

 

「その時の音にそっく……」

 

 照らし出された強大な八つの目が、僕らを捕らえた。

 

 ──蜘蛛。

 

 天上には、人の背丈など悠々と超える毛むくじゃらの大蜘蛛が、よだれをたらしながらこちらを見ていた。

 

「キシェァアアアアアアアッ!!」

「あ、ああああああああーっ!」

『ひぎゃあああああ!』

 

「走れえぇえ!」

 

 あまりにおぞましい見た目に、カズマもクリスも絶叫しながら逃げ出す。

 二人はともかくドローン越しに見てるめぐみんすらもだ。

 

「何あれ! 何あれ!? 怖い怖い怖い!!」

「怖いよおおお!」

 

 開いてるドアの方へと全力で走るが、大蜘蛛が僕らより素早く天井を伝って回り込み。

 あろうことか、器用に前足二本を使って扉を閉ざす。

 

「はあああああ!? 冗談だろ! 蜘蛛の動きじゃねーぞ!」

 

 それはまるで、クローゼットのドアを閉める主婦の動きのようであった。

 

 部屋の構造を把握し、逃げ道を塞ぐことに慣れている知性に、あの重たい鉄ドアをいとも簡単に動かせる筋力。

 そして、よだれでぬらぬらと光る、人の腕程もある大きい牙。

 

 厄介そうな相手だ。

 

「下っ端君!」

「わかってる!」

 

 だが、扉にはミニリパルサー・デプロイヤーがついたままだ。

 

 もう一度出力を上げれば……。

 

 そんな考えを文字通り吐き捨てるかのようにして、大蜘蛛の口から大量の糸がドアに向かって放たれる。

 

「そんな……」

 

 あっという間に糸に覆われたドアを見て、クリスが愕然とした。

 ドアが完全に閉じることによって、その隙間から漏れてた光も消える。

 

 光源はめぐみんのドローンのみだ。

 

「キシェァアアアアッ!」

「避けろ!」

 

 大蜘蛛が飛ばしてくる糸の塊を、三人そろってギリギリで回避する。

 僕やクリスはともかく、カズマはアシストスーツの筋力増強が無ければ避け切れなかっただろう。

 

 そのことはカズマ自身が一番わかっているのか。

 

「あああっ! ヤバい! 死ぬ死ぬ死ぬ! 何とかしてくれ!」

「落ち着け、パニックになるな! いつもの悪知恵はどうしたんだ!?」

「あんな化け物相手に無茶言うな! お前こそお得意の話術で交渉でもしてこいよ!」

「僕がDr.ドリトルにでも見えるのか!?」

 

「ねえええ! 喧嘩してる場合!?」

『そうですよ!』

 

 クリスとめぐみんの声にハッと正気に戻る。

 

「光源を確保しろ!」

「信号弾使うよ!」

 

 クリスが懐からフレアガンを取り出す。

 通信が使えなくなった時の連絡用として持たせておいたものだ。

 

 引き金を引く音がしてすぐ、人工の眩い光が天井へと伸びて周囲を照らした。

 

「ギィィイイ!」

 

 信号弾をかすめた大蜘蛛が、金切り声とともに後ずさる。

 

「おい、見たか今の! あいつ、火とか強い光が苦手だ! ゲームみたいだな!」

 

 この世の大抵の生物は強い光と火は嫌いだ。

 世の理から外れたような見た目の怪物も例外ではないらしい。

 

「ボウズ、テルミットチャージがついた矢は残ってるか?」

「ある! あいつにぶち込めばいいんだな!?」

「その通りだ」

「あたしと下っ端君で引きつけるよ!」

 

 手首に装着していた腕時計を、機械仕掛けの指ぬきグローブへと変形させる。

 

「ほら、こっちだ害虫!」

 

 僕の放った音波攻撃が大蜘蛛の顔面に直撃し、忌々し気にこちらを見る。

 鈍く輝く八つの目が僕を捕らえた。

 

 粘着質な音を立てて、牙が持ち上がる。

 

「……とりあえず、引き付けたけど……次どうするんだ?」

 

 今の装備じゃどうしようもないので、飛び掛かられたらマズい。

 

「まかせて! 『バインド』ッ!」

 

 クリスが投げつけたワイヤーが大蜘蛛の脚に絡みつく。

 

 見覚えのあるワイヤーだなと思ったその矢先、ワイヤーが電光を放って瞬いた。

 

「ギィイイイッ!」

 

 いつの日かクリスに渡した、電撃を放つエレクトリカルワイヤーだ。

 

「今だよ!」

「『狙撃』ッ!」

 

 カズマの放った矢が、電撃で動けない大蜘蛛の側頭部に刺さる。

 いい腕してるじゃないか。

 

 ワイヤーから解放された大蜘蛛が、今度は矢を放ったカズマの方を見る。

 

 今までで一番ご立腹のようだ。

 牙を振り上げ、八本の脚をワシャワシャと動かしながら金切り声をあげてカズマの元へと突っ込む。

 

「キシェアアアアアアアアッ!!」

「ヒッ、ひぃィィあああああーっ!」

「何してるんだ! 早くテルミットを起動しろ!!」

「あわばばばば……!」

 

 あまりの恐怖体験に我を忘れてたらしい。

 

 僕の声に若干正気を取り戻したカズマが弓についてるスイッチを超連打し、大蜘蛛の首にオレンジ色の明かりが灯る。

 

「ギャギィィィイイ!?」

 

 効果アリだ。

 一瞬で鉄をも溶かす温度と化した矢尻が大蜘蛛の頭部で広がり、あっという間にグズグズにしていく。

 

「ギィィ……」

 

 胴と頭が焼き切れて転がる大蜘蛛の頭部が、壁に背を着いて尻もちを着くカズマの足元へと……。

 

「ぎゃああああ! グロいグロい!!」

 

 壁際で涙目になってるカズマを見て、ホッと一安心。

 

 死人もけが人も無し。一件落着だ。

 

「恐ろしい敵だったね。敵感知に引っかからないなんて」

『ドローンのスキャンにも引っ掛かりませんでした。耐久力が無かったのが救いですね……』

「スキャンもスキルもすり抜ける敵か……。対策を考える必要があるな」

 

 こういうタイプの敵も存在する。

 生きてそれを知れただけで良しとしよう。

 

「さっさと先に」

 

 進もう。

 

 そう、言おうとして。

 

 ブチッと、背後のドアにへばりつく糸がちぎれる音に振り向いた。

 

「やばい! 敵感知に反応アリだ! ……ん? でもこれ……」

「どうした?」

「……アクセルでジェットに乗る時に感じたのと同じ……」

 

 扉がブチブチと音を立てて開き始める。

 

 ただでさえ重い鉄の塊だというのに、強靭な蜘蛛糸でコーティングされた大扉をああも簡単に開けるとは。

 

 部屋を埋め尽くすほどの兵隊を引き連れてきたのだろうか。

 

 大勢の敵を相手にするハメになるかとうんざりしたが、扉側から指す逆光に浮かんだ影はたった一つ。

 

 そして、カズマの感じていた違和感の正体がわかった。

 

 見たことのある顔が……見たこともない表情で立っている。

 

「投降しろ、盗賊団……お前たちの正体は知っているぞ」

 

 ダクネスが、僕らの前に立ちふさがった。

 

 

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