この素晴らしい世界に祝福を!アナザー・ユニバース・アイアンマン 作:Tony.Stank
とある朝。いや、昼近くと言うべきか。
僕が座っているのはデッドリーポイズンという、飲食店に付けるべきとは到底思えない名前の喫茶店のテラス席。
柔らかな日差しが降り注ぎ、手に持っている魔導書と、テーブルの上にある果物のジュースが入ったコップを明るく照らす。
そんなうららかな陽気の中、魔導書を見ながら頼んだものを待っていると。
「ほい、おまちどう。『死の女神による永遠の炎で揚げられしカツサンド』だ!」
「どうも」
男勝りな口調をした、恰幅のいい喫茶店の女店主が料理を運んできた。
僕は妙に長くて変な名前をしたカツサンドの皿を受け取り、テーブルの上に置く。
「魔法の研究は進んでるか? 『流星の鎧に身を包みし者』トニー・スターク!」
これまた妙に長くて変な二つ名で僕を呼ぶ店主。
僕は読んでいた魔導書をパタリと閉じて。
「魔力は生体電気に酷似していた。体の中に流れる生体電気を、別の物質に変えて射出する……または物質を操作する、エトセトラ……それが今のところ僕が魔法で分かっているところだ」
「ふむふむ……」
つまり、僕の元の世界の人間も使おうと思えば魔法を使えるようだ。
そんな僕の持論に店主が興味深そうに耳を傾けてくる。
紅魔族はみんな知力が高い。多少詳しく説明してもついてこれるだろう。
「まだ理解からは程遠いが、空間に残留する生体電気のパターンからいつどんな魔法をどんな強さで使用したか位ならわかるようになったぞ。例えば君なんかは……」
僕はかけていたサングラスのフチに指を持っていき、彼女と彼女の周囲をスキャンする。
数秒でスキャンが終わり、僕の目に情報が次々と飛び込んできた。
「早朝にクリエイト・ウォーターを複数回、ティンダーも複数回。それにこれは……上級魔法のトルネードか? 洗濯に使ったってところか……さらに……」
「も、もう十分だ! なんか私生活が覗かれているみたいでいい気分がしないからやめてくれ! 一体どうなってんだ?」
この周囲で使われた魔法をあらかた挙げていると、店主がひきつった顔をして止めてくる。
どうやら魔法が使われた後に、それがどんな魔法であったかを突き止める技術はこの世界には無いようだ。
魔法を使った犯罪現場とかで役に立つだろう。もしかしたら僕はここ一週間の間に、警察界隈で革命が起きるような技術を編み出してしまったかもしれない。
「こんなのは初歩的なことだ。いずれ魔王城の結界をハッキングしてケツの形に変えてやるさ」
「もはや何を言ってるかはわからないけど、応援してるよ。トニーがここに来るおかげで客が増えたんだ。店の前に置いてるあの鎧を見るためにね」
そう言って、店主がクイッと店の入り口近くに置いてある僕のスーツを親指で指す。
すっかり客寄せパンダとなった僕のスーツ。今日も店の前には人だかりができている。全員もれなくスーツを見るためだ。
前の世界でうんざりするほど見てきた光景だが、まさか異世界でも見ることになるとは……。
そんな人だかりと、のどかな紅魔の里の街並みを見ながら、テーブルに置いてあるできたてのカツサンドに手を伸ばし──
▽
ぶっころりー達に自己紹介を終えた後。
「ようこそ外の人! よく来たね! ゆっくりしてってよ!」
僕はテレポートという魔法で紅魔の里の入り口まで瞬間移動していた。
実に便利だ。テレポート装置、本格的に作ってみてもいいかもしれない。
彼らに案内されるまま、里の入り口を通って中へと入る。
ざっと見渡した感じ、アクセルよりかなり田舎だ。
一言でいえば農村。高さ十メートルを超える建物が無い。超えているのは里の真ん中あたりにそびえている警鐘が付いた見張り台と、黒くて四角い、里の景観に全く合っていない謎の施設。あれコンクリート製じゃ……?
そのままきょろきょろと見まわしてると、前を歩いていたぶっころりー達が振り返り。
「それじゃ俺たちは、引き続き里の周辺をパトロールしてくるから。その鎧、後でじっくり見せてね!」
そう言って、バサッとマントを翻し、その場でぶっころりーを含めた四人が忽然と姿を消した。
さっきまでスーツを見て子供みたいにはしゃぎまくってた彼らだったが、あれでも魔王軍を涼しい顔してせん滅してしまうような攻撃部隊なのだ。
その鮮やかな去り方に思わず舌を巻く。
一体全体どんな魔法なのかと、思わずマスクを閉じて周囲をスキャン‥‥‥‥。
『ボス……』
「僕は何も見なかったことにする、君もそうしろ」
僕がHUDの熱探知を通して見た光景は、じりじりと足音を立てないよう、ゆっくりと歩いて解散していく四人組だった。
どうやら何かで姿を消しているだけらしい。テレポートで消えたわけじゃないみたいだ。
ここでふざけて「やぁ、ここで何してるんだ? パトロールじゃなかったのか?」と、ぶっころりーの肩を掴んでみたくなる衝動に駆られるが、スーツを見て満面の笑みで目を輝かせていた彼らを思いだし、ギリギリで踏みとどまった。
▽
こっそり解散していく四人組を見守り、里の探索を始める。
入り口のすぐ近くにたたずむ、映画やゲームで何度も見たことがあるグリフォンの像が僕の目を引いた。
まるで生きているグリフォンをそのまま石像にしたかのようなレベルの精巧な出来で、今にも動き出しそうなほどリアルだ。
ここまできれいに削る彫刻家がいるとはな。感心する。
「「「「‥‥‥‥」」」」
‥‥と、グリフォン像の鑑賞を終えたあたりで、周囲から射貫かんばかりの視線を向けられていることに気付く。
元の世界じゃ嫉妬であれ、尊敬であれ、憎悪であれ、視線には慣れているのだが‥‥。
ふと立ち止まり、周囲を見渡すと……。
赤く光る無数の眼が、いたるところから僕を覗いていた。
朝はダクネスたちの装備の実験に費やしたため、時刻は昼を少し過ぎたあたり。
今僕が歩いている外は、降り注ぐ日差しの元とても明るいのだが、そんな昼の日光の真下でも分かるほどには、彼らの目がギラギラと赤く輝いていた。
そのうち目からペタワットレーザーが出てくるんじゃないだろうかとすら思えてくる。
どこを見ても赤い眼光が見えるその光景には、いささか恐怖を覚えるのだが。
ひょっとして、さっきの四人が特別なだけで実際はよそ者を受け付けない里なんだろうか。
僕が送り込まれたのはファンタジーの世界であって、ミステリーホラーの世界に迷い込んだ覚えはない。
そこらの住民に何か話の一つでも聞く為、適当な一人に向かって足を踏み出そうと……。
「ねぇねぇおじちゃん。おじちゃんどこから来たの?」
……して。足元から聞こえて来るその声に、動きを止めた。
視線を下ろして声がした方を見ると、そこには六歳くらいの小さな女の子がいて。
「ねぇねぇおじちゃん。その鎧触っていい?」
真ん丸とした深紅の瞳をキラキラさせ、僕の顔を見上げてそんなことを言ってきた。
僕は微笑みながら膝を折って身を屈め、目線を彼女の近くまで合わせる。
「Wow、随分と可愛らしい親善大使だな。もちろんいいとも。なんならちょっとだけかぶってもいいぞ?」
「ひゃほう!」
そう言ってヘルメットを外し、期待した目をして僕を見てくるちびっこの頭にかぶせてやる。
案の定というかなんというか、僕の頭に合わせたサイズのヘルメットなので、まだちびっ子の彼女が被るとブカブカで、小さな頭身も相まってやたら頭のデカい首振り人形みたいな有様になっている。
だが、その姿のままぴょこぴょこ飛び跳ねる様はとても微笑ましい。
「かっけぇ!」
……別に子供好きというわけでもないのだが、なぜかこの少女には妙に惹かれるものがある。
決して僕にロリコンの気が芽生え始めたわけじゃない。わけじゃないのだが。
なんだか放っておけない感じがしてしまう。なんだ? 洗脳の魔法か?
そんなことを考えていると、ひとしきりヘルメットで遊んでいたちびっ子が僕の方を向いて。
「我が名はこめっこ! 家の留守を預かる者にして紅魔族随一の魔性の妹!」
急にポーズをとって、ぶっころりーの時のように名乗りを上げた。
紅魔族ってのは名乗るときにカッコつけたりする習慣があるようだ。見る分には面白い。
それにしても、魔性の妹か……。この子は将来大物になるかもな。
「気に入ってもらえたようでよかったよ、ヒーローになった感想は?」
「ピカピカしててキレイ! カッコいい! ありがとおじちゃん! でもなんか変なにおいする」
「あー‥‥ひょっとしてデオドラントスプレーの匂いか? 男のたしなみだ。君にもいつか良さがわかる時が来るさ」
スーツは大変お気に召したようだが、スプレーの匂いの方は不評なようだ。
ヘルメットをかぶったまま、鼻歌交じりにロックンローラー顔負けのヘドバンをかます魔性のちびっこを眺めていると、遠くから学生服のようなものを着た一人の少女がまっすぐ僕の方へと向かって来た。十二、三歳くらいだろうか? 心なしか、こめっこに顔がよく似ている気がする。
その少女はこめっこの近くまで来ると、こめっこの頭をヘルメット越しにコンコンとノックして、優しく諭すように話しかけた。
「こめっこ。あんまり遊んでいるとそこのお方にご迷惑をかけてしまいますよ? そろそろ返したらどうです?」
「姉ちゃんは羨ましがり屋」
「べ、別に羨ましがってるわけでは……」
どうやら姉妹だったようだ。
口では否定しつつも、こめっこが被ってるヘルメットを赤く輝く瞳でチラチラと見る姉。
こういうの、なんていうんだったか……。日本に行ったときに聞いたことがあったが思い出せない。
「姉ちゃんはツンデレ」
「誰がツンデレですか! というか、いったいどこでその言葉を覚えてきたのですか!?」
「ぶっころりー」
「あのクソニートですか! こんどとっちめてやります!」
そして突然目の前でコントを始めた二人。
聞いたことのある名前が出てきたが今はスルーし、とりあえず猛る姉を鎮める為に僕は一言。
「君もかぶってみるか?」
「姉ちゃんかぶってみる?」
「…………」
猛る姉にヘルメットをかぶせて落ち着かせる。
感動しているのか、棒立ちの状態でヘルメットの内側から『わあ……』とか『ふわあ……』とか聞こえて来るのがなんだか不気味だ。
もう少しかぶっていたかったのか、姉が被っているヘルメットから目を離さないこめっこ。
……そうだ、何かプレゼントしてあげようか。
面白いことを考え付き、腕部から武器を一つ取り出してこめっこの前に持っていく。
取り出したのは超小型のスタングレネード。強烈な閃光を発して敵の目をくらませる。
ハーレーに渡した時を思い出すな。
「こめっこ、代わりに君にいいものをやるよ。中にはお菓子が入っ」
「やったあ。久々のちゃんとおなかにたまる食べ物だあ」
「待て待て待て!! 冗談だから本当に待て!!!」
『冗談だ。これは武器だよ』と、最後まで言い切る前に僕の手からスタングレネードを取ってあちこち触りまくるこめっこを、僕は顔を真っ青にして引き留める。
というか、今聞いてて悲しくなってくるようなセリフが聞こえてきた気がするのだが……。
「おかしじゃないの?」
「残念だが違う。これは武器だ。もしいじめっことかに捕まったら、目をつぶって下のボタンを押せ。いいな? 君いじめっことかいるか?」
「んーん。いないよ? でも、私を餌付けして手なずけようとしてくるロリコンのニートはいるよ」
「よし、もっとすごい武器もあげよう」
なんだこの里は。こんな小さいのにそんな奴がいるのか。
僕が超音波発生装置を腕部から取り外そうとしたとき、自分の世界に入っていたこめっこの姉がヘルメットを外し、僕とこめっこの間に手を突き出してきた。
「あの、うちの妹にあまり物騒なものを渡さないでください」
「安心しろよ、そんな大層なものじゃない。これを食らった奴は頭が割れそうな痛みに襲われて、苦しみに耐えきれず泣き叫びながら右往左往するだけさ」
「それを聞いてどこに安心しろと言うのですか!? こめっこが言っていたロリコンのニートは私が何とかしますので、それはしまってください!」
そう怒りながら僕の方にひょいっとヘルメットを投げ渡してくるこめっこの姉。
話が逸れ過ぎてしまったな。僕がここに来たのはコントするためじゃない、魔法について勉強するためだ。
「ったく、ジョークの通じない娘っ子だな。とりあえず君にいくつか聞きたいことがあるんだが、いいか?」
「全然ジョークに聞こえなかったのですが……。それで、なんでしょう?」
若干疲れた顔をしたこめっこの姉に、僕は聞きたかったことを尋ねる。まずは一番の目的についてだ。
「魔法について知りたい。それも、初歩的なものから高度なものまで含めた全てだ。ここは魔法に最も詳しい里だと聞いた。書物でも何でもいい、なにか知識を蓄えられそうなところはないか?」
その質問を聞いて、彼女は顎に指を置いて少し考えた仕草をした後。
「ふーむ……それでしたら、族長の家に行ってみるのはどうでしょうか」
「族長の家?」
「ええ。この里の族長がいる家です。族長の名の通り、この里の管理も担っているので色々知っているはずです。自分の名を名乗る事すら恥ずかしがる変わり者の娘もいますよ」
「それはよかった。この里に来て初めて普通の子と話せるって訳か」
「私からすれば、里の外の人間の方が変わってると思うのですが……。あの、ところでですね……」
僕の皮肉を軽く流し、急にモジモジとしながらこっちを見てくるこめっこの姉。彼女もなにか武器が欲しいのだろうか。
ちなみにこめっこは僕があげたスタングレネードを手で転がしたり上に投げてキャッチしたりともてあそんでいる。うっかり暴発しなければいいが。
「‥‥‥族長のところまで私が案内しますので、良ければその鎧でなんかかっこいいポーズでも取ってくれませんか?」
何を言い出すのかと思えば、彼女は目を赤く光らせながら僕に妙な要求してきた。
彼女のその発言に、さっきから周囲で僕を見ていた他の紅魔族達も目の輝きが増す。
もしかしたら他の紅魔族もこのスーツに興奮して目を光らせているのだろうか。
「……まぁ、いいだろう。お安い御用だ」
僕はそう答えると、彼女に対して体を斜めに構え、両手の掌をその姿勢のまま正面に構えて光らせる。
リパルサーを両手から放つときの構えだ。
「おおおおっ! すごくいい! 凄くいいですよ!」
「おじちゃんカッコいい!」
「気に入ってもらえてよかった。ファンサービスは大事にしないとな」
二人とも目を赤く光らせて狂喜している。
元居た世界でもファンは大体こんな感じだったので、目が物理的に輝くという点を除けば、慣れてると言えば慣れているのだが……。
僕を知る者がいない世界に来てもこんな反応をされるというのは嬉しいやらむずがゆいやら。
少なくともゴーレム扱いされて剣を抜かれるよりはマシか。
なんて考えていると、僕のポーズを見てはしゃいでいたこめっこを見ながらその姉が。
「こめっこがこんなに楽しんでいるのを見るのは久しぶりです。里にはこの子と同い年の子が居なく家にはおもちゃもないので、いつも外に行って一人で遊んでいるのですよ。あの子を楽しませてくれて、ありがとうございます」
そんなことを、とてもうれしそうな笑顔をしながら言ってきた。
‥‥‥‥。
「……もうちょっとだけポーズ取ってあげてもいいぞ?」
「いえ、大丈夫ですよ。これ以上時間を取らせるわけにもいきません。族長の家まで案内しますね」
そう言って笑うと、彼女はくるりと後ろを振り向いて歩きだした。いい姉じゃないか。
なんて名前なのだろうか。
「なぁ、こめっこ。君の姉の名前はなんていうんだ?」
「姉ちゃんの名前? 姉ちゃんの名前は……」
僕が姉の名前を聞くと、僕に背を向けて歩き出していたはずのこめっこの姉がバッと僕の方に向き直り、こめっこが最後まで言い切る前に遮って激昂しだした。
「おい、今私の名を私に直接聞かず、妹に聞いた訳を聞こうじゃないか! 紅魔族の名乗りを聞くのがめんどくさくて妹に聞きましたね!?」
「中々鋭いな。将来は探偵志望か? 悪いがいちいち反応するのも面倒でね。時間を取らせるわけにはいかないんだろ?」
「よくもまぁ少女相手にそんな悪意に満ちた皮肉が言えますね!! さっきまでの優し気な雰囲気が台無しですよ! 名前を聞くなら名乗らせてください!」
そういってむすっとした顔で僕をにらんでくるこめっこの姉。
ったく、最後の一仕事と行くか。
「しょうがないな……。それじゃ今から世話になる君の名前を教えてくれないか?」
僕のその言葉を聞くや否や、羽織っていたマントのようなものをバサッと翻し、すがすがしいまでのドヤ顔を浮かべ、声高々と名乗りを上げた。
「我が名はめぐみん! 紅魔族随一の天才にして、爆裂魔法を愛する者!」
▽
こめっこを家に帰し、族長の元へ向かう道すがら。
僕はめぐみんの背中についていきながら、質問の続きをする。
「ところで、君らの目が赤く光るのは何なんだ? この里に来てからというものの、あの目線にさらされてばかりだ。ほら見ろ、あそこの民家の窓」
僕が指さした先にあるのは一つの民家。その窓には家族らしき男女の大人二人と子供一人の三人組がたっていた。
窓際に目を光らせる三人が立ってこちらをガン見している光景はホラーそのものだ。
「あんなの見てたら僕は里の儀式のいけにえとして明日にでも串刺しにされて焼かれるのかと錯覚してしまうんだが」
「た、確かにあれは怖いですね……ですが安心してください。紅魔族は気分が昂ると目が赤く光るのです。つまり、ただ興奮しているだけですよ」
「それって変な意味じゃないよな?」
「そんなわけないでしょう。新手のセクハラですか? 事案発生ですか?」
「いや……違うんだ。アクセルには僕の鎧を見ると、あることを期待してハァハァと性的に興奮しだすパーティーメンバーがいてね」
「な、なんですかその人は……よくそんな人とパーティーを組めますね。私には到底考えられません……」
僕のパーティーメンバーの話を聞いて、心底ドン引きした顔をするめぐみん。
気持ちは分かる。今思えばどうしてあんな女とパーティーを組んだのか自分でもよくわからない。
「その人はともかく、ここにいる里の者たちは単純にあなたのそのカッコいい鎧に興奮しているのだと思いますよ。この里には今までいろんな装備をした勇者候補が訪れましたが、あなたほどカッコいい装備を身にまとった人は初めて見ましたから」
「この鎧はそんなに君たちの琴線に触れるものなのか?」
「それはもう。紅魔族が好む真っ赤なボディ、放つ光沢、歩くたびに聞こえる謎の駆動音、胸に輝く光‥‥。特にその胸部が最高です」
そう言って、僕の胸のアークリアクター・コアを指さすめぐみん。
お目が高い。
「これはアークリアクターだ。改良に改良を重ね、今の発電量は毎秒九ギガジュール。ここまで上げるのも苦労した。心臓を人生百五十回分は動かせるエネルギーを持っている」
僕の自慢に、めぐみんは感心したような顔をして僕を見てくる。
「ほほお……ぎがじゅーるっていうのが何を示す値なのかはわかりませんが、心臓を人生百五十回分動かせる‥‥面白い表現の設定ですね。紅魔族の血が混じっていたりしませんか?」
「おい、設定じゃないぞ。本気で言ってる」
めぐみんはその言葉を聞いて『またまた』とでも言わんばかりに笑い出した。
こいつ信じてないな……。今度取り出して見せてやろう。
そういえば、めぐみんが自己紹介の時に言っていた爆裂魔法と言うのは何なのだろうか。
純粋に疑問に思い、めぐみんに質問してみる。
「なぁ、君がさっき自己紹介の時に言っていた爆裂魔法っていうのは一体な」
「よくぞ! よくぞ聞いてくれました!!」
「うおっ」
最後まで言い切る前に、僕のあごに頭突きせんばかりの勢いで顔を近づけてきためぐみん。
「ふふふ、爆裂魔法について聞きたいですか!? いいでしょう、いいでしょう!」
「あー……軽めでいいからな?」
「爆裂魔法とは、人類が持つ最大にして最強の攻撃手段と言われる究極魔法です! どんな存在にでもダメージを与え、すべてを灰燼に帰す‥‥」
そこから族長の家に着くまで彼女の熱い爆裂トークが始まった。
爆裂魔法に対する賛美を、胡散臭いテレビショッピングの司会者顔負けの剣幕でひたすら語っためぐみん。
おかげで僕が今最も詳しい魔法は爆裂魔法になってしまった。
当の本人はじんわりと顔に汗を浮かべてやり切った顔をしているが。
しかし、どんな存在にもダメージを与える究極魔法か……。
めぐみんのトークにあてられたわけじゃないが、僕は爆裂魔法に多少興味が湧いていた。
「ふう……ここが族長の家です。いやぁ、爆裂魔法について語っているとあっという間ですね。どうですか? 爆裂魔法についてよくわかったでしょう?」
「ああ。君に向いている職はアークウィザードよりもセールスレディなんじゃないかってことがな」
「せえるす……なんですか? それ?」
「言葉で戦う魔法職さ」
「初めて聞きましたね‥‥‥」
族長の家の玄関前でくだらないやり取りをする僕ら。
そんな声が家の中まで響いていたのか、玄関の扉がガチャリと開き、中からヒゲをはやした中年の男が出てきた。
「すまんが、少し静かに……うおおっ!?」
……そして、出て来るや否や僕のスーツを見て変な声を上げた。
「そこの旅のお方、ようこそ紅魔の里へ。なにか御用ですかな?」
「ああ、魔法について知りたくてね。この里の魔法に関する知識ができる限り欲しいって言ったらこの娘っ子にここを案内されたんだ」
「おい、娘っ子などではなく、私のことはちゃんと名前で呼んでもらおうか」
「なるほど、それでひょいざぶろーさん家の娘も一緒に……。ふむ……魔法の知識ですか……とりあえず家に上がってくださいな」
そう言ってドアを開けたまま家の中を指す男。おそらく彼が族長だろう。
僕はめぐみんより前に出ると、最後にめぐみんに背を向けたまま別れの挨拶をする。
「それじゃ、ここまでの案内感謝するよめぐみん。里にはしばらく滞在する予定だから、今度は爆裂魔法以外の魔法についても教えてくれ」
「むう……爆裂魔法以外についてはそんなに語りたくないのですが……」
「教えてくれたら報酬を支払おう。これは前払いだ」
「へ?」
僕の言葉にきょとんとした顔を浮かべるめぐみん。
そんな彼女を尻目に、僕は見せつけるようにスーツをゆっくりと変形させ、展開した前部から軽やかに歩いて出て見せる。
そしてポケットに手を突っ込んで、顔だけめぐみんに向けてニヒルな笑みを浮かべた。
「えっ!? ちょちょちょ! なんですか今の!? どうやって鎧を脱いだんですか!? もう一回! もう一回見せてください! お願いします!! それも後ろからではなく正面から!!」
「他の魔法についても教えてくれたら、今のを前から好きなだけ見せてやる。じゃぁな」
「‥‥‥めぐみん、今の鎧の変形はお金を出してでも見る価値があったぞ‥‥!」
「うぐぬぬぬぬぬ‥‥! 絶対に、絶対に約束ですよ!?」
めぐみんの約束にポケットから片手を出し、ひらひらと手を振って答え、目を輝かせる族長らしき男の家の玄関へと向かった。
ちょっとカッコ付けすぎたかな。
▽
「なるほど、スタークさんは魔法が普及してない国から来たと‥‥」
「そういうこと。その国から魔王討伐を命じられてここに来たんだ」
「いやー、それにしても驚いたな母さん! あの鎧みたか!? 三十数年生きててあんなものは初めてだ!」
「ええ、本当に」
意外と若い族長とその奥さんの向かいにテーブルをはさんで座り、出されたお茶を飲みながら話をしていた。
「よければどんな国か教えてもらってもいいですかな? 魔法無しでどんな生活を送っていたのか、とても興味があります」
「そうですね。それと、スタークさんがどんな敵と戦っていたのかも気になります。このベルゼルグは魔王軍と最も近く、戦いも最も苛烈な国です。ですが、そんなベルゼルグの外で、あれほどの鎧が必要になるような敵と戦ってきたんですよね? 是非知りたいです」
「もちろんだ。だがその前に奥さん、テーブルの上のコップとお菓子を下げてもらえるか?」
「え? は、はい」
言われたとおりに机の上を片付ける族長の奥さん。
僕はきれいになった机の上の真ん中に腕時計を置き、ポケットから端末を取り出した。
「それは……」
族長夫妻が不思議そうな顔をするが、説明するより見せた方が早い。
僕が端末を腕時計の上で振ると、腕時計からホログラムが飛び出して机の上に複数の映像ファイルを映し出す。
「ううむ……? 映像を映し出す魔道具は知っているが……これには魔力を全く感じないぞ……?」
「変わってますね……」
「僕の国は魔法が普及していない代わりに、こういう技術が発達した国だった」
ホログラムを前に唸る夫妻に説明しながら、腕時計から映し出される映像を手元の端末で操作していく。
映し出されたのは、NYでエイリアン相手に戦う僕を含めたアベンジャーズのメンバー。
世界の平和を守る組織として設立されたS.H.I.E.L.D.が回収した映像記録をまとめたものだ。
僕が天才的頭脳の元に開発したスーツを装着して空を飛び回り、星条旗カラーのコスチュームをした正義の男が指示を出しながら盾で敵を打ち倒し、雷の神が豪快にハンマーを振り回して敵に雷撃を浴びせ、一見普通の男が緑の巨人に豹変して大暴れする。
夫妻はその映像に大興奮だ。体を前のめりに突き出し、拳を握って映像を食い入るように見ている。
ちなみにナターシャとクリントは映像記録がほとんど残っておらず、残念ながら二人に見せることができない。
一通り映像を見せ、ホログラムの映像をオフにする。
ただ自分がどんな世界の出身だったかを適当に見せようとしただけだったのだが、夫妻の顔は何か大作映画を見たかのように満足した顔だ。
「とまぁ、こんな感じで僕は遠い場所から侵略してくるモンスターの軍団から自分たちの星……いや、国を守るチームを編成し、戦っていたって訳だ」
「いやはや驚いた! こんなすごいものが観れるなんて感謝しますよ! スタークさん!」
「ええ! 大満足です!」
「満足させるために用意した映像じゃなかったんだが……さ、簡単な自己紹介はこのくらいにして……話の本題に入ろうか」
僕の言葉に夫妻ははっとした顔を浮かべる。どうやら映像を見るのに夢中で忘れていたみたいだ。
「おっといけない。すいませんね、ついつい映像に夢中になってしまって‥‥。魔法について記された魔導書なら、学校と隣接した図書館にたくさん置いてありますよ」
「へえ、学校があるのか」
そう言えば、めぐみんは学生服のようなものを着ていたっけな。
「ええ。義務教育が受けられる教育機関があるのは、この国では紅魔の里ぐらいなものでしてね。本はいくらでもお貸しします。なんなら勝手に借り出しても大丈夫です」
そう言って胸を張る族長。だがそのあとすぐに神妙な顔付きになり、僕の目を見据えてきた。
空気が一気に張り詰め、真剣な空気になっていく。
「それだけではありません‥‥。図書館にない禁忌の魔導書もお貸ししましょう。ですが、それらと引き換えにあなたに一つ頼みたいことがあります。普通じゃ得られないような体験をしたあなたでなければ頼めないことです」
「‥‥頼みたい事?」
オウム返しに聞く僕に、族長は神妙な顔つきのまま、口を開いた。
「トニー・スタークさん。あなたに、我が里の学校で特別講師になっていただきたい」
▽ダクネス
▽性格 真面目 騎士の高潔なる精神を持つ かわいいもの好き ドM
▽アクセルの街で活動する冒険者の一人。
尋常じゃない体力、防御力を誇り、あらゆるモンスターの攻撃を受けてもビクともしない。
背に味方がいるときは決して引かずに守り抜こうとする。騎士の鏡のような人間。
根は真面目で基本的に正々堂々、まっすぐに物事に立ち向かう。
とある少年曰く“とびきり美人の女騎士”。
と、ここまで見ると美しく気高い精神を持つ完璧な美女だが、どうしようもない欠点がある。それは、ドMで妄想癖が激しいこと。
将来の夢はモンスターに拉致られて色々されたいとか、酒におぼれてて暴力的な夫に酒瓶を投げつけられて体を売ってこいと言われたいという、本当に心の底から救いようのない内容だったりする。
また、防御力はすさまじいものの剣の腕は素人以下で敵に掠らせることすら敵わない。ようするに攻撃力皆無。
剣のスキルを取ればいいのだが、これも敵に剣を振り回して当たらずに蹂躙されたいからと拒否。
敵を前にして常にハァハァと興奮している姿は誰が名付けたか狂性堕ー。
しかし辱められるのは好きでも、精神的に恥ずかしい目に合うのは好みではないらしく、その辺のネタで本人をイジると否定するしキレるというめんどくさい一面を持つ。
実はかわいいものが好きで、女の子女の子した服を着ては私には似合わないと鏡の前であそんでる。
ちなみに腹筋が割れていて、それを本人は気にしている。
細いだけのお腹なんかより筋肉質で引き締まったお腹の方がいいに決まってる。
みんな知ってるね。