この素晴らしい世界に祝福を!アナザー・ユニバース・アイアンマン   作:Tony.Stank

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第45話︎ 煽りの天才

 

「アイツが……地獄の公爵……」

「マクスウェ」

 

 

 

「『セイクリッド・ハイネス・エクソシズム』ッ!!」

 

 僕とカズマでマクスウェルへの警戒を高める中、その後ろからアクアが不意打ちをぶちかました。

 

 ……。

 

「君は頼りになるなぁ、アクア」

「いや別に良いんだけどさ……」

 

 せっかくド派手に登場したのに、極悪女神に不意打ちを食らったマクスウェルに、僕らは少し同情した。

 

 ……が。

 

「ヒュー……、ヒュー……眩しい光……! 君だったんだね。ボクを邪魔していた力の正体……」

 

 間一髪、退魔魔法をかわしていたマクスウェルが、張り付いたような薄ら笑みを浮かべ、アクアを見てグネグネと悶える。

 

 その姿は、僕ですら怖気を覚える程に気味が悪かった。

 隣にいるカズマやめぐみんも、後ずさりながら顔を青ざめさせている。

 

「邪魔だなぁ……! 消さなきゃ……消さなきゃ……!」

 

 マクスウェルがゆっくりと手を天に掲げると、その手が黒く輝き始めた。

 

「来るぞ!」

 

 処刑のサインのように手を振り落とすと、闇色の電撃が一直線に飛ぶ。

 狙いは、数分違わずアクアの頭部へ。

 

「『リフレクト』ーッ!!」

 

 眉間ギリギリのところで、アクアが反射魔法でメージャーリーガーのバッティングの如く跳ね返す。

 

「どやさ! さぁ、自分の魔法で焦げ串刺しに……ッ!?」

 

 アクアが跳ね返した魔法は、まるで蛇のようにくねり、マクスウェルを避けた。

 

 ……マクスウェルは、動いてすらいない。

 

 流石のアクアも目が点になっている。

 

「な、なによあれ!?」

「捻じ曲げる力とかいうのでしょう。しかもあの悪魔、さらっと上級魔法を無詠唱で使いましたよ……」

 

 めぐみんも驚きを通り越して呆れたような声色だ。

 

 これは想定以上だな。

 こうなったら……。

 

「アクア、プランBだ。プランBは覚えてるか?」

「は? ないわよそんなも……冗談よ! 冗談だから睨まないで! もう、トニーから振ってきたのに……」

「お、おい! ふざけてないで真面目にやってくれ!」

「わかってるってばー!」

 

 ダクネスに叱られ、アクアは僕らのさらに後ろに行く。

 

 もちろん、逃げたわけじゃない。

 ……そうだよな? 

 

「それじゃあ、ちゃんと私の事守ってよね!!」

 

 アクアはそう言うと、目をつむって静かに祈るようにして詠唱を始めた。

 輝く魔法陣がアクアの足元から周囲へと広がり、アルダープ邸の敷地を丸々と包む。

 

 僕がこんな表現をするのも馬鹿馬鹿しいが、『聖なる』としか形容できない空気が満ちてゆく。

 

「ヒューヒューヒュー! それは気に食わないなぁ! 消えてよ!」

「させるか!」

 

 マクスウェルが火炎弾を指先に作ると、アクア目掛けて投げつける。

 ダクネスが即座に間に入り、腕を交差させて防いだ。

 

「ヒュー……、つまんないの……イライラする……」

 

 苛立ち始めたマクスウェルから視線を離さず、僕は空からスーツを着陸、展開させると同時に後ろへとステップして背からスーツを纏う。

 Mk47.はまだ温存する為、纏ったのはMk45.と、その強化外骨格のMk46.だ。

 

「ブリキのオモチャ……ヒューヒュー! 僕と遊びたいの? いいよ! いいよ! 遊ぼうよ!」

「悪いがスターク託児所は閉店なんだ。問題児が多くてね」

 

 剣の装備された腕部が変形し、リパルサー・キャノンを展開した。

 

「ヒュー……僕には当たらないよ……みんな曲がっていっちゃうんだ」

「あいにく、僕は既に性根が曲がってるんだ。ちょうどいいね」

 

 即座にリパルサーを発射する。

 先程のように曲がることはなく……。

 

「!」

 

 真っ直ぐに、マクスウェルを捉えた。

 

「あ、当たった……!」

「弾かれたけどな」

 

 僕の放ったリパルサーは、マクスウェルに直撃こそしなかったものの、迎撃の選択を余儀なくさせた。

 

「ヒュー……! 腕が痺れる! 不思議な感覚! 久しぶり! 昨日ぶり!? ヒュッ……! ヒュー、ヒュー!!」

 

 自分に攻撃が当たった事が余程不思議なのか、リパルサーを弾いた手を眺めて興奮したように呼吸を荒げた。

 

「き、気味が悪い!」

 

 全くもって同意だ。

 だが、これでアクアの張った結界の効果が立証された。

 

 アクアが結界を維持する限り、中にいるマクスウェルは現実改変能力を使えない! 

 

 僕は展開したリパルサー・キャノンを剣の形に戻し、マクスウェルへと切りかかる。

 

「ヒューヒュー! 楽しいね! 君の絶望の悪感情はどんな味かなぁ!」

「あー……、メタルとココナッツ味かな?」

 

 剣で斬りかかり、マクスウェルがそれを手刀で弾く。

 

 それだけじゃない。剣の応酬の隙間を縫って、矢継ぎ早に魔法をぶち込んで来る。

 

 突如目の前に炎の壁ができたかと思いきや、その次には全身を氷漬けにされそうになり、雷で動きを止められ、手刀が光って氷塊ごと袈裟斬りにされそうになる。

 紅魔族に勝るとも劣らない質の上級魔法を無詠唱で乱れ打ちし、見たこともない魔法すら撃つ。

 

 バニルから聞いてた通りオツムは幼稚らしく、魔法の使い方は乱暴で大雑把極まりないのだが、その規模はデタラメもいい所。

 

 このままではMk46.のパーツがあっという間に底を突く……! 

 

『トニー! マクスウェルから距離を取ってくれ!』

 

 マクスウェルとの激戦のさなか、カズマがそんな声をインカム越しに飛ばしてきた。

 

 切り払いでマクスウェルを引き剥がし、足裏の推進リパルサーで離れる。

 

「ああっ! 僕のオモチャ! 行か……ヒューッ……行かないで!! バラバラにさせてよ!!」

 

 喘息発作めいた息混じりに叫び、僕目掛けて突っ込んでくるマクスウェル。

 その顔面を射抜かんと、近くの草むらから1本の矢が飛ぶ。

 

「……? なにこれ?」

 

 ……まるで置物でも取るかのように、容易く手でキャッチされたが。

 

「エクスプロージョン!」

 

 カズマがそう叫ぶと、マクスウェルが握る矢の矢尻が一瞬だけ光り……、

 

「!?」

 

 盛大に、爆発した。

 

 これは流石に予想外だったのか、マクスウェルは吹き飛んで地面を転がる。

 

「ナイスだ。やるじゃないか」

「ホークアイの資料動画見といて正解だった。あと、このあと絶対俺に怒ると思うから超守って。死ぬのはゴメンだ」

「あなたは2秒とカッコつけてられないのですか……? あと、エクスプロージョンはやめてください。私の個性を脅かさないでほしいのですが」

「え? やだよ」

「!?」

「え? やだよ」

「2回も言わないでください!」

 

 いつも通りのバカなやり取りを見ていたいが、マクスウェルが既に立ち上がってるのでそろそろやめて欲しい。

 

 優勢なんだから、油断して逆転なんて勘弁……

 

「ヒュー……ッ、ヒュー……」

「……?」

 

 カズマかアクアを殺しにかかるかと思いきや、立ち上がったマクスウェルは、ただユラユラ揺れている。

 

 目線はどこか遠くで、僕らには向いていない。

 だが、その顔は幸せそうに紅潮し、まるで初めての恋人との初デートを待つ少女のようであった。

 

「き、きもちわるいです! なんなんですかあの悪魔!?」

「油断するな、動かないなら好都合だ。めぐみん、爆裂魔法の準備をしろ」

「待ってました! 任せてください!」

 

 頭の血管が破裂してそうなほどブチ切れたドーベルマンみたいな表情で、めぐみんが爆裂魔法の詠唱を始める。

 

 大悪魔という最上級の獲物を前に、戦術破壊兵器の名に相応しいベストスマイルだ。いいね。

 

 杖の先には、見慣れた頼もしい破滅の光が灯った。

 

 そんなめぐみんを見守っていると。

 

「……トニー、何か変だ。敵感知スキルに新しい反応が出てる」

「何……?」

 

 草むらから出てきたカズマが、周囲を警戒しながらそう答えた。

 

 まさか、増援か? 

 マクスウェルに動きは無い。

 

 動きは無いが、ある方角をひたすら見つめていた。

 その目線の先には……。

 

「ヒューッ! ヒューッ! 来てくれたんだね! アルダープ! こんな……っ、こんな美味しい悪感情を放ちながら……っ……ヒューッ! ヒューッ! ヒューッ!」

「──……」

 

 顔に深い影を落とし、なにかをブツブツと呟きながら力無く立つアルダープがいた。

 

 

 ▽

 

 

 燃え盛る屋敷が、辺りを煌々と照らす。

 

 ……私の。

 私の屋敷が……燃えている。

 

「ハハ……ハハハハ……」

 

 思わず乾いた笑いが出た。

 

 ずっと。

 ずっと順調だったのに。

 

 スタークが絡んでから、悪いことばかり起こる。

 

「これで終わりなんぞ……認められるものか……!」

 

 マクスの力で都合よく隠してきた事実もバレてしまうのであれば、逃げても無駄だ。

 

 この先ずっと逃亡生活。

 貴族としての生活どころか、下賎な市民以下の生活になるかもしれない。

 

 ……駄目だ、想像するだけでも耐えられそうにない。

 なら、ならせめて……。

 

 ララティーナだけでも手篭めに出来ないだろうか。

 

「ワシの……ワシのララティーナ……」

 

 スタークがいるのだから、ヤツの仲間でもあるララティーナもきっといるはずだ。

 

 ならば、その混乱に乗じて攫い、あとは捕まるその時まで好きなだけなく嬲り尽くす……。

 絶望的状況の中で、私の中のドス黒い欲望がゆっくりと身をもたげ始めた。

 

 そうだ、そうしてやろう。

 

「待ってろララティーナ……」

 

 心を決めた私の足取りは早かった。

 大きな戦闘音がする方へと走り出す。

 

 マクスが使えない悪魔なのは私が1番よく知っている。

 魔王軍幹部を打ち破ったと言われるスタークに勝てるはずなかろう。

 

 早めに向かわねば。

 マクスが倒される前に、少しでも早く。

 

 裁判の時にいた、ララティーナの仲間の弱そうな小僧を人質に取り、ララティーナを捕まえて森の奥まで逃げる。

 

 これなら有無も言わずに従うだろう。

 

 作戦を考えながら屋敷横の森を迂回し、激しい戦闘音がする方へとひた走る。

 やがてララティーナの姿が目に映ったが……。

 

 私の足は、そこで見えた光景を前にとまってしまった。

 

「マ、マクス……!?」

 

 繰り広げられていたのは、戦争もかくやと言わんばかりの戦い。

 上級魔法を次々と放ち、スタークと互角以上の戦いを繰り広げているマクスの姿。

 

 使えなかった、あのできそこないは。

 まともに私の願いを叶えられなかった、あの壊れた悪魔は。

 

 ……ただ、笑っていた。

 

 子供のような無邪気な笑顔で、破壊の限りを尽くさんとするその姿はまさに……。

 

「バケモノ……!」

 

 だが……この際むしろ好都合だ。

 私だけが不幸になるのは、腹の虫が収まらん。

 

 どうせ終わってしまうなら……何もかも、滅茶苦茶にしてくれる。

 

 私は、マクスの後ろへと、ゆっくり。

 ゆっくりと、歩み始めた。

 

 明確な憎悪と絶望を胸に──

 

 

 ▽

 

 

 ……この状況をどう見るべきか。

 アルダープは保身が第一の男だ、この混乱に乗じて逃げると思っていたが。

 

「カズマ。巻き込まれて死なれるのも面倒だ。とりあえず気絶させて……」

 

 戦場から引き離せ。と、指示を出そうとした時だった。

 

 

 ……まるで、当たり前のように。

 カフェで店員にモーニングコーヒーでも頼むかのように。

 

 

 

「──マクス。この街の……アクセルの市民を皆殺しにしろ」

 

 アルダープは、そう口にした。

 

「うん! うん! わかったよアルダープ! 絶望の悪感情、いっぱい食べれるかな!? ヒュー、ヒューッ!」

「貴様……!」

 

 その場に響くほど、ダクネスが拳を強く握り締める。

 

 カズマ達もドン引きだ。

 

「安物仮面の霊験あらたかな予言通りか……。よし、マクスウェルをここで食い止めるぞ」

 

 Mk46.の損傷箇所をチェックし、該当パーツをパージ。新たなパーツを換装する。

 

「……」

「めぐみん、僕じゃなくて敵を見ろ」

 

 頼むから爆裂魔法の準備中に集中を切らさないで欲しい。

 

 さて、僕は……、

 

「……? えっ、なんでマスク開けてんの?」

「無駄かもしれないが、アルダープを説得してみる。対話は大事だからな」

 

 バニルは対価を支払わせる方法もあると言っていた。

 そう、無駄に争う必要は無いのだ。

 上手く口車に乗せ、アルダープ自ら対価を支払わせれば良い。

 

 アルダープを説得する為、僕は表情筋を引き締め、彼の目を見て……、

 

「キ、キサマッ……! そのふざけた顔をやめろ! この期に及んでなんのつもりだ! 絶対に許さんぞ! 絶対にだ!」

 

 …………。

 ……。

 

 僕は、今の表情のままカズマの方へ顔を向ける。

 この真面目な説得フェイスは何点だ? と。

 

「ころしてぇ」

 

 満点のようだ。

 

「あなたは1度人との会話の仕方を勉強し直した方が良いですよ……? ゆんゆんが外交官に見えるレベルです」

「ねぇ!? みんなして何ふざけてるの!? 私頑張って結界維持してるんですけどー!? 真面目なのは私だけなの!?」

「お、おい、私はずっと真面目なのだが……!?」

 

 アクアが叫び、ダクネスがしょぼくれ、最早大悪魔と戦ってる雰囲気など霧散して除湿機に吸い込まれたかのようだ。

 

 実に彼等らしい。

 いや……今回は僕から振ったんだったな。

 

「マクスっ! さっさとやらんかぁ!」

 

 アルダープの叫び声でハッと我に返る。

 

「あー……僕が4割くらい悪いのは認めるが、集中しろ。マクスウェルをアクセル市街地に一歩も近寄らせるな」

「アクアは引き続き結界の維持頼む! めぐみんは爆裂魔法を何時でも撃てるように……」

 

 僕とカズマで指揮する中。

 

「──、────」

 

 聞こえたそれは、風で揺れる草の音にすらかき消されそうな声。

 

 マクスウェルがボソボソと囁く、そんな、か細い声で唱え始めた詠唱が。

 

「……えっ」

 

 僕達の背中の肌を泡立たせる。

 

「──、────、──ー」

「お、おい! マジかよ!? アレって……! アレって……!!」

「そんな……まさか……」

 

 マクスウェルが天高く跳躍し、その手のひらに、破滅の光が灯った。

 

「──、────」

「めぐみん! 迎撃の準備をしろ!」

 

 あまりにも馴染み深い魔法の詠唱。

 ……それこそ、僕達は毎日と言っていい程聞いていたもの。

 

 そう──

 

「『エクスプロージョン』」

 

 ──爆裂魔法の、詠唱だった。

 

「絶対に街に撃たせるなぁーッ!」

「『エクスプロージョン』──ッッッ!!!」

 

 マクスウェルの放った爆裂魔法に、めぐみんが爆裂魔法を叩きつけて相殺する。

 

 闇色の夜空が、弾けた二つ紅によって塗りつぶされた。

 一瞬遅れて、轟音と共に強烈な爆風が僕ら目掛けて急降下してくる。

 

「ひ、ひいいいいーっ!?」

 

 情けない声で叫ぶカズマを抱え、Mk.46の盾とボディで爆風を防ぐ。

 

 めぐみんの方はダクネスが庇ってくれたようだ。

 

 と、言うことは……。

 

「ふわああああーっ!」

 

 僕らの背後からアクアの叫び声が聞こえた気がする。

 爆音でよく聞こえなかったので、多分気の所為だろう。

 

 気の所為であってくれ。

 

「す、すまないアクア……あまりに遠かったから……」

 

 僕の願いも虚しく、後方をちらりと見やると、そこには後頭部を抑えながら地面で不出来なブレイクダンスをするアクアがいた。

 

 僕らよりずっと後ろの方で結界の維持をしてたせいでダクネスが間に合わなかった上に、吹き飛ばされた途中で地面から出ていた木の根に頭を打ったらしい。

 

 幸運値の低さを遺憾無く発揮しているようだ。

 

「うぐぐ……」

 

 だがそれは、アルダープも同じだったようで。

 元いた位置から大分離れた場所で伸びていた。

 

「ナイス爆裂。やるなめぐみん」

「くっくっく……街を守ったオマケですよ。オマケにしては安っぽいですがね……」

 

 砂まみれで地面に転がるめぐみんが、そうカッコつけてサムズアップする。

 そんなめぐみんを守るようにして前に立つダクネスが、サムズアップを返した。

 

 だが、そのめぐみんの顔は、どこか悔しげで。

 

「しかし……敵ながら天晴れな爆裂でしたね。点数をつけるなら90点は下らないでしょう」

「確かにな。……しかも、まだまだ元気そうだ」

 

 跳躍していたマクスウェルが、鈍い音を立てて僕らの前に着地する。

 

 あのまま空の花火になってくれたら良かったんだが。

 

 至ってピンピンしてるどころか、魔力切れによる疲弊も感じられない。

 低品質なボブルヘッドみたいにユラユラ揺れてるだけだ。

 

「どうなってる……? 魔力量が無尽蔵なのか……?」

「相手は上位存在ですよ。私もかつて、爆裂魔法を撃ったのにピンピンしてる者を見たことがあります」

「補足をどうも。この世界がまた少し嫌いになったよ」

 

 しかも、アクアが吹き飛ばされたので結界が消えてしまった。

 早く結界を張り直してくれないと一気に不利になる。

 

「ヒュー……ヒューッ……あれ? 眩しい光が……消えたの……?」

「消えてないよ」

「でも……何も感じないよ……?」

「いや、消えてない」

 

 相手はアホだ。カズマと僕でなんとか誤魔化せないだろうか。

 

「じゃあ……ヒューッ……ためしてみようかな」

 

 ダメそうだ。

 マクスウェルがしゃがみこんで地面に手を置き、またボソボソと呟く。

 

 瞬く間にマクスウェルの周囲に複数の魔法陣が浮かび上がり、先程のアクアが結界を張った時とは正反対な、『呪われている』としか形容できない空気が満ちる。

 

 やがて……。

 

「マクスウェル様、ここにおいででしたか。バニル様みたく領地を放置して地上にいらしていたとは」

「この度の召喚の理由は……貴方は殺戮や暴力沙汰以外で我々を呼びませんよね」

「あの、地獄の領地がマジで忙しいので、出来ればすぐ地獄にお戻りいただきたく……」

「ヒューッ……、やだ。僕まだ欲しいものが手に入ってないよ……」

「またそんなワガママを……」

 

 コウモリの羽に、筋骨隆々の巨躯。牛や山羊の頭。

 これこそ悪魔といったビジュアルの怪物悪魔達が、辺りを埋め尽くすほど現れた。

 

 ほとんどの奴が疲れ気味の顔をしているが。

 

 にしても……。

 

 ……。

 

「「……」」

 

「何をやっているのですかあなた達は!? 矢なりリパルサーなりで止められたでしょう!!」

「「アホだから騙せるかと……」」

「アホなのはあなた達の方ですよ!!!」

 

 アクアの結界が無い今、マクスウェルを攻撃したとしても邪魔できたとは思えない。

 

 と、言い訳したい気持ちを抑えつつ、対処法を考える。

 

「なぁ、トニー」

 

 カズマには何か策でも浮かんだのか、横からスーツをノックしてきた。

 僕は召喚された悪魔の大群を注視しつつ、カズマに耳を傾ける。

 

「これはむしろチャンスなんじゃないか? 見たところ、あの手下っぽい奴らは話が通じるように見える。で、マクスウェルって騙されてこき使われてる訳だろ。それ伝えたら、アイツら怒ってアルダープとマクスウェルを引き剥がして帰ってくれるんじゃね? 地獄に戻ってきて欲しいみたいだし、俺達と利害も一致してるだろ」

「名案だ。悪魔と取引と行こうか」

「はいはい。それじゃ……」

 

 カズマは手を上げて交戦の意思が無いことを伝えつつ、悪魔たちと交渉に入ろうとする。

 僕は交渉が決裂した時に何時でもカズマを守れるよう、隣に立って盾を前に出した。

 

「人間、何のつもりだ。マクスウェル様の敵は全て排除するのが我らの勤め」

「そのマクスウェル様、今騙されてますけど」

「……何?」

 

 悪魔の割に、あっさりと交渉の席に着いた。

 いや、悪魔だからこそだろうか。

 

「なぁ、お前ら。自分達のボスは超騙されやすいって思ったことは無いか?」

「「「…………」」」

 

 数瞬の、沈黙。

 

「い、いや……そんな……」

 

 恐ろしく自信がなさげな否定が帰ってきた。

 なるほど、思い当たる節が多くて思わず聞き返したのか。

 

「マクスウェルは、そこで寝てるオッサンに良いようにこき使われてるぞ。願いを叶させられてるのに、叶えたことも忘れるせいでな」

「……」

 

 ついに配下が否定するのすら辞めた。

 

「嘘だと思うなら、バニルに聞いてみるといい」

 

 バニルという名前に、悪魔達がギョッと目を見開いてどよめき出す。

 

「魔道具店でアルバイトしてるバニルも、マクスウェルに地獄に戻って欲しくて俺たちに頼んできたんだ」

 

 段々と、悪魔が僕らに向けていた視線がアルダープの方に向いていく。

 マクスウェルも、カズマに耳を貸して動かない配下たちを不思議に思うのか、こちらに攻撃を仕掛ける気配は無く、ただキョロキョロとしていた。

 

 いいぞカズマ、その調子だ。

 

 流れを掴んだのを確信したカズマが、自信に満ちた顔で悪魔達に告げる。

 

「地獄の七大悪魔の一人が、中年のオッサンごときに奴隷扱いされて、お前らそれでいいのか? こんなの、地獄じゃ笑いもんになっちまうんじゃないのか!?」

 

 カズマの煽りにでどよめきが増した。

 

「ど、どうする……?」

「マクスウェル様絶対騙されてるでしょこれ」

「ヤバいぞ……こんなのが知れ渡ったら……」

「我々のメンツが……」

 

 一気に不安が広がり、もはやパニックになっている大悪魔の配下達。

 

 マクスウェルが勝手に動き出さないように上手く誤魔化してご機嫌取りしてるところまで含めて面白い。

 僕は今の一部始終を余すことなく録画していた。

 

 今度バニルに見せよう。

 アクアと二人で笑いながら『同胞が人間の口先ひとつで手玉に取られてるが、やっぱ悪魔って取るに足らない弱小種族だったのかな?』と盛大に煽ったら楽しいだろうな。

 

「おーい! 答えは……」

「わ、わかった! ……そちらに協力する!」

 

 急かすかのように聞くカズマに対して食い気味に、一人の悪魔が手を振ってそう叫んだ。

 思い通りに事を運べたらしい。

 

「やったなカズマ、君意外と駆け引きが上手じゃないか」

「だろ? 説得上手のカズマさんと呼んでくれ」

 

 笑顔でサムズアップしとて僕に応えるカズマ。

 

 脚が震えているのは黙っといてあげよう。

 おっと、録画してるんだった。

 

「それじゃ、まずは貴族の男をどうするか決めよう」

 

 並んでいた配下の一番先頭にいた悪魔が、手に持っていた武器の剣を腰に差してこちらに向かってくる。

 

 よし、あとは建設的に話し合い、納得してもらってマクスウェルに地獄へと帰ってもら──

 

 

 

 

「『セイクリッド・ハイネス・エクソシズム』ッ!!」

「うぎゃああああああす」

 

 僕らの方へと笑顔で寄ってきてた悪魔が、突如として光の柱に包まれた。

 

「は、図った……な……」

 

 やがて灰になると、そのまま夜風に抱かれて月明かりに照らされた草原へと溶けていった。

 

 

「……お前何してんの?」

 

 一拍の静寂の中で、カズマの声が小さく響く。

 みんなの視線は、超極悪退魔魔法を不意打ちした暗黒神アクアに集中していた。

 

「……なーに? 起き上がったらくっさい悪魔臭がしたから浄化しただけなんですけど」

「こっ……この外道!! 女神が不意打ちなんて恥ずかしくないのか!」

「し、しかもコイツ……あの忌々しい邪教の女神じゃないか!」

「油断させといてこんな狂犬女神をぶつけて来るなんて! 俺達悪魔よりお前らの方がよっぽど悪党だろ!」

 

 もっともだ。

 ここまで反論の余地がないのも珍しい。

 

 僕とカズマはアクアに詰め寄り、左右から頬をつねり上げる。

 

「ひだだだひだいっ! なんで!? 何でほっへをひっはるのっ!?」

「何考えてるんだ? 君のおかげで話がパァだ」

「こんの駄女神が!! お前馬鹿か!? 宇宙一の馬鹿か!?」

「わっ、わああああー!! ひょうがにゃいへひょ!? はなひ聞いてにゃはっらんらから!!」

 

 子供みたいに泣くアクアを懲らしめていると、悪魔達の方から武器を構える厳つい音が聞こえてきた。

 

「絶対に許さんぞ……悪魔をコケにしたことを後悔させてやる……」

 

 悪魔の名に恥じぬおぞましい表情で、戦闘態勢に入る。

 

「あの女神は厄介だ。マクスウェル様と共に固まって戦うぞ、範囲退魔魔法に注意しろ」

 

 マクスウェルを囲むようにして陣形を組み、どっしりと構える悪魔達。

 

「あれは……厄介だぞ。護衛に最も適した陣形を組まれた」

 

 騎士道に精通するダクネスが警鐘を告げた。

 

 たしかに厄介。

 なんとか配下とマクスウェルを分断する必要がある。

 

 ……一か八かだ。

 

「おいおい、宿敵の女神相手に人数差つけて随分と弱気じゃないか」

「なんとでも言え。我々は最も勝算の高い方法で戦う。悪魔は計算高いのだ」

「はぁ……。お仲間の仇が目の前でもビビるあたり、悪魔って種族は女神にも人間にも遠く及ばないんだな」

「……あ?」

 

 僕は……アクアの傲慢さと迂闊さを信じて賭けに出ることにした。

 

「なぁ、アクア。悪魔ってのはこんなのばっかなのか?」

「ここまで情けないのは久々ね。ボスが脳足りんだからかしら」

「……ッ!」

 

 ──煽りとは、真意を見透かされてはないらない。

 見透かされると、言葉の内容ではなく目的に注意が向くため、効かなくなるからだ。

 

「物理的にも脳ミソ足りてねーもんな! そりゃそーか!」

「子分に頼る時点で小物! 圧倒的小物! 経験値の足しにもならないカース!!」

「貴様ら全員、エリス様の名に誓ってぶっ殺してやる!」

「グッ……このッ……!」

 

 カズマとめぐみん、ダクネスも僕の意図に気がついたのか、持てるだけの力で盛大に煽る。

 ダクネスの煽りは三十点くらいだが。

 

 しかし、本命は……、

 

「なになに? そんなプルプル震えちゃって! もしかして怒ってるの? ウケるんですけど! 悪感情啜って生きてる害虫風情が、自分で悪感情出しちゃっててウケるんですけどー!」

 

 ──煽りに関しては、アクアは天才中の天才。

 

 煽りを手段ではなく目的で行う上に、心情を百パーセント伝える単純な表情筋とボディーランゲージによって、嘲りと侮辱の意思をダイレクトにお届けできる。

 

 伊達にカズマを毎日怒らせていない。

 

「団子になってビビってないで、さっさとかかってきなさいな! 全員まとめてその辺の雑草の肥やしにしてあげるわよ!」

 

 調子に乗りに乗りまくったアクアの煽りは……、

 

「ほぉらほら! プークスクス!」

「ざけんなよゴラァァァアアアっ!!」

 

 悪魔達の血管という血管を、ブッチブチに切った。

 アクア目掛けて悪魔の軍勢が突撃する。

 

「さぁ、トニー! アイツらまとめてぶっちめて……」

「アクア、あれ全部君が相手しろ」

「へっ?」

 

 僕はカズマとめぐみん、ダクネスを丸ごと抱えて、アクアから一気に離れる。

 

 案の定というかお決まりというか、マクスウェルの配下達はみんなアクアの方へと突っ込んでいった。

 

「いやあああああー!! なんで全員こっち来るの!? 助けて! こんな大役だなんて聞いてないわよー! カズマさーん! たすけてー!!」

「お前は悪役だろ」

 

 冷静にツッコミつつも、矢をつがえてアクアを援護する準備をするカズマ。

 

 アクアがヤバそうになったらきっと助けるだろう。

 それよりも……。

 

「やぁ、待った?」

「んーん……? ヒューッ……なんだか愉快で楽しかったから……ヒュー……」

「それは良かった。実はもうひとつ催し物があるんだ」

 

 スーツの大腿部が開き、中から六角形の形をした手のひらサイズのデバイスが現れる。

 ……丁度、アークリアクターのような見た目のソレは。

 

「ふぉおおおお……! 出し方、見た目……完璧です……!」

 

 ロマンのわかる娘っ子の眼光によって、文字通りスポットライトに照らされていた。

 

「……ヒューッ、ヒュー……嫌な……光……?」

 

 もちろん、めぐみんから出る紅い眼光を指しているのでは無い。

 

「Mk.47、 起動」

「……ッ!」

 

 六角形のデバイスの角が展開して輝き、光の粒子がその隙間から溢れ出す。

 月明かりよりも、めぐみんの眼光よりも、燃え盛る屋敷よりも強く光を放ちながら。

 

「うおおおおおおおお! 外付け強化パーツ!! 変形! 装着! 発光! 変身! ふぉぉお! カッコイイ! とてもカッコイイですよ!!」

 

 めぐみんの絶叫を背に、Mk.47を叩きつけるようにして胸に装着した。

 

「す、凄いぞトニー……まさに神器だ……!」

 

 HUDが目まぐるしく情報を更新し、無数のウィンドウが一面に展開され、あらゆるパフォーマンスの数値が跳ね上がっていくのを目で確認する。

 

 アップデートが終わり、HUDを埋め尽くしていたウィンドウが一気に消滅し……、

 

 

【神格化プロトコル:最適化完了】

 

 

 その一文だけが、大きく浮かび上がった。

 

「ヒュー……その光は……僕が嫌いな光だ……!!」

「あ! 危ないトニー!」

 

 最後のウィンドウが消え、視界がクリアになるのと同時、こちらに迫るマクスウェルが眼前に映る。

 

「ヒュッ……」

 

 ……繰り出された、僕の鉄拳と共に。

 光り輝く拳が、マクスウェルの顔面を芯でとらえた。

 

 拳を振り抜き、かっ飛んでいくマクスウェルを見送る。

 マクスウェルは燃え盛る屋敷の残骸を突き抜け……やがて、僕らの視界から消滅した。

 

 ど真ん中に大穴が空いたアルダープの屋敷が、火の勢いを増しながらガラガラと崩れていく。

 

「あ、当たった……ていうかぶっ飛んでった……」

 

 アクアと協力して作り上げた対マクスウェル用粒子。

 

 これを悪魔族に対する殺傷能力に特化させ、胸に取り付けた六角形の超小型粒子加速器によってスーツ全体の内部と表面に亜光速で循環させる。

 

 結果、エネルギー量と伝導率の底上げにより爆発的な運動能力の上昇を獲得した。

 

「……」

 

 僕は油断せず、マクスウェルが消えた方角を注視する。

 

「や、やったのか……?」

「おっと、それ禁句」

 

 ダクネスが立てたフラグを回収するかのように、すっかり瓦礫の山と化したアルダープの屋敷が爆発した。

 

「バカっ!」

「し、仕方ないだろう!」

 

 貼りつけたかのような笑みを浮かべたマクスウェルが、瓦礫を踏み砕きながらユラユラと姿を現す。

 

「痛い……痛いよ……ヒュー……」

 

 僕が殴りつけた顔面にはヒビが入り、その隙間から黒い瘴気のようなものが漏れ出ている。

 

「Wow、確かに痛そうだ。スキンケアを怠らないようにな?」

「ヒュー……絶望の悪感情が出ないのも……ヒュー……気に食わない……」

 

 マクスウェルのダラりと下がった腕が、黒く発光し始めた。

 上級魔法の準備だろう。

 

 輝きが一際強くなると、闇色の電撃が僕目掛けて放たれる。

 

「ここは私が……!」

 

 間に挟まろうとするダクネスを手で制し、一直線に迫り来るマクスウェルの魔法に対して、リパルサーで迎撃するでもなく、ミサイルを放つ訳でも無く……、

 

 

 ただ、掌を真正面に構えた。

 

 魔法が直撃したその瞬間、辺りに強烈な破壊音が響き渡る。

 

「うおおおっ!?」

 

 思わずといった具合でカズマが耳を覆う。

 

 無理もないだろう。

 

「……なに、それ……」

 

 マクスウェルの笑みも消え失せ、その顔は忌々しげだ。

 

「ただの科学実験さ。綺麗だろ?」

 

 運動能力の向上、悪魔の力の抑制……それはあくまでもオマケにすぎない。

 真髄は、全身を亜光速で動く粒子よる物理的破壊能力。

 

 僕が触れるだけで、大抵の物体は即座に削り取れるし、敵の攻撃も僕に到達する前に消滅する。

 

 さっきの轟音も、マクスウェルが放った魔法を粒子が削り取った音だ。

 

 ……当然、そんなものを纏っていたらスーツは長く持たない。

 

 だから、僕とアクアでもっと消耗させてから使いたかったが……まぁ、切らざるを得ないな。

 

 まさか大量の配下が出てくるとは。

 

 僕は、右下に表示されているタイマーを確認する。

 

【活動限界まで残り2分30秒】

 

 スーツの一部が既に削れ始め、剥がれた塗装の下から白銀の素体が見え始めていた。

 

「帰って晩飯にしたいんだ、さっさと来てくれるとありがたいね」

「ヒュー! ヒュー! ヒュー! 奇遇だね! 僕もだよ! 僕も絶望の悪感情が早く食べたいなぁ!!」

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